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浜松市・東神田川流域神久呂地区の古環境(850±30 年前)について

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(1)

浜松市・東神田川流域神久呂地区の古環境(850±30 年前)について

著者 北村 孔志, 藤木 利之

雑誌名 静岡地学

巻 96

ページ 7‑12

発行年 2007‑11‑18

出版者 静岡県地学会

URL http://doi.org/10.14945/00024794

(2)

静 岡 地 学 第 96 号 ( 2007 ) 

浜松市@東神田 J I I 流 環境 ( 8 5 0 土 30

神久呂地区の 前)について

北 村 孔 志 事 ・ 藤 木 利 之 料

し は じ め に

三方原台地(天竜Jl I の隆起蔚状地)南器部の湧水を源とする東神田Jl l 流域には,縄文時代後期から 古墳時代にかけての遺跡が点在している.三方原台地南端の海食産が続く平野部には東前遺跡や伊場 遺跡がある.東前遺跡からは使用できなくなった農具などの木製品が出土しており,弥生時代から鎌 倉時代にかけての!日砂丘堆積物の花粉分析が行なわれた(浜松市博物館編, 2 0 0 2 a ) . その結果,

時代の土器を合んでいた地層及びその下位の地層から , C a s t a n o p s i s   (シイ属)の優占以降 C a s t a n o p s i s (シイ器)の減少と P i n u s (マツ属)の増加が解明されている.

浜名湖南部の雄踏町および庄内湖の花粉分析の結果によれば,シイ林は 7 , 500 年前に成立し,カシ 林の拡大は 6 , 000 年前頃である(松下・讃岐田, 1 9 8 8 ) . 浜名湖東部の湖底堆積物の花粉分析では,約

1

,000 年前以降に P i n u s (マツ属)の急増が認められた(池谷, 1 9 9 3 ) .  

東神田川流域(神久呂地区)の佐浜累層の花粉分析を島倉(1 9 6 4 ) が,泥炭層の種実の分析を粉Jl I

( 1 9 6 4 ) が行っている.粉川(1 9 6 4 ) は埋積年代を洪積世

A

と断定し,暖帯種の存在からほぼ現在の浜 松付近と閉じぐらいか多少温暖であったと指摘した.

沖積世以降の古環境は,遺跡の花粉分析や種実の分析によるところが大きい.遺跡の年代は,土器 の形態や模様等により位置づけられるため,確実な年代は不明である. 7  ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ 1 0 世紀を中心に使用され た木簡は,主として文書や帳票に利用され,吏に再利用もされたため畠然環境についての記録は見あ たらない.浜名湖の湖底堆積物は潮汐の影響を受けるが,東神田Jl I ~可床の黒色粘土層は潮汐の影響は ほとんどないと考えられるため,流域の古環境を保持していると思われる.また,埋積年代が判明し ているため,埋積年代を中心とした古環境の変遷解明の意義は大きい.学名に関しては,奥田 ( 1 9 9 7 ) 及び沼田・吉沢編(1 9 7 5 ) を使用した.

2租調査地概説と試料

東神田Jl I の下流地域は, 3 , 000 年から 4 , 000 年前頃の海面の変動により汽水域となり,その後低湿地 へと変わっていった.この時代以降に堆積したものが今回報告する黒褐色の粘土層である.調査地 ( 図 1)より上流の河床には佐浜泥部層が散見されるが,下流には見られない.橋の付け替え工事に より現われた露頭で,佐浜泥部麗(佐浜累層)との境界面から上方に 50cm 間隔で黒褐色粘土 7 試料 を採取した(図 2). 

年代測定用資料採取地の河床には,植物遺体を含んだ黒褐色の粘土層が露出していた.この黒褐色

*静岡大学工学部

料名古屋大学大学院環境学研究科

(3)

関 1 . 東神田 J 1 1 と調査場所及び年代測定用試料採取地 点地図

a

髄査地 ⑨ ⑦i ま試料番号

O J 0 3 l   赤褐色土(舎穣)

⑦│  賛褐色縮粒砂層 灰色砂麗含

⑥ 

黒褐色シ

j

レ ト j 警

⑤ 

ヰ , )

1

←年代議,定資料採取(推定) 繊維質(含材の小片)

1m  ③ 

戸争久ポ│ 繊維質

② i  青沃色シルト層

o  I

(1)し

以下佐浜泥部層 図 2 . 露頭の柱状図舗

の粘土層は,工事現場の露頭から約 5 0 0 m (下流)ほど離れていたため蔽接対比出来なかったが,イ左浜 泥部層との関連から鴎 2 の④のやや下に該当すると推定した.

調査地東側斜面には , C a s t a n o p s i s  c u s p i d a t a  v a r .   s i e b o l d i i   (スダジイ), C a m e l l i a  j a p o n i c a  v a r .   j a p o n i c a ヤブツバキ), Cinnamonum camphora  (クスノキ), Eurya j a p o n i c a   (とサカキ), F i c u s   e r e c t a   (イヌピワ), Rhododendron macrosepalum  (モチツツジ), S m i l a x  c h i n a   (サルトリイバラ) 等が生育している.土手や河床には , Polygonum t h u n b e r g i i   (ミゾソパ), Typha l a  t i f o l i a   (ガマ), 

H  um  u l u s  j a p o n i c u s   (カナムグラ), P u e r a r i a  l o b a t a   (クズ), Artemisia p r i n c e p s   (ヨモギ), 

M i s c a n t h u s  s i n e n s i s   (ススキ), S o l i d a g o  a l t i s s i m a   (セイタカアワダチソウ)等が生育している.調 査地周辺の植生は,明治以降数度による原野の開拓や河川(東神田 ) 1 1 ・境 ) 1 1)の改修工事により大き く変化した.その結果, C a s t a n o p s i s  c u s p i d a t a   v a r .  s i e b o l d i i   (スダジイ)が往時をわずかにしのばせ ている程度である.

3 . 方法

堆積物からの化石花粉・胞子の抽出には,水酸化カリウム処理,塩化亜鉛比重分離処理,アセトリ シス処理を行った.抽出した化石花粉・胞子はエタノールシリーズ ( 3 0 , 6 0 ,  8 0 ,  9 9 . 5   %)で脱水し,

キシレンに置換した後に,オイキットで封入し永久フ。レパラートを作成した.これを検鏡用・

影用とした.

検鏡は光学顕微鏡によって, 4 ω O ∞ O倍で

になるまで行い,各層準で樹木花粉を木本数として,各分類群の出現率を計算し,花粉変遷図を作成

した(図 3 , 4). 

(4)

(  2007 )  第 9 6

静 岡 地 学

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Sample No. は図 2の試料番号と一致する. Sample No. は図 2の試料番号と一致 閤 3 . 樹木花粉の花粉変遷図.

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Sample No. は国 2の試料番号と一致する. Sample No. 誌図 2の試料番号とー 図 4 . 非額木花粉の花粉変遷図.

致する.

4 . 結果

( 1  )年代測定:東神田川河床に露出していた黒褐色の粘土層の粘土から得られた,カヤツリグサ科 (  Cyperaceae) のカンガレイ類 (Schoenoplectussec t .   Actaeogeton) の痩果を 14C 年代測定した結 果 , 850 士 30 年前であった.

( 2 )花粉分析:今回の分析で 48種類の化石花粉(図 5) ・胞子を検出した.それらを樹木花粉 (AP), 

非樹木花粉 (NAP),シダ胞子 ( F S ) に分けて以下に示す.

(5)

図 5 闘確認された化石花粉箇① Abies ( モミ属)里② γ

's

uga ツガ属)型③ Pinus ( マツ属)聖④ Fagus ( ブナ 属)望⑧ Quercus (Lepidobalanus)  ( コナラ属コナラ盟属)望⑤ Quercus ( C y c l o b a l a n o p s i s )   ( コナラ アカガシ盟属)雪⑥ Castanopsis ( シイ属)型⑦ Betula ( カバノキ属)書⑧ Ulmus ( ニレ農) ,⑩  Gramineae  (イネ科)書⑪ Cyperaceae (カヤツリグサ科)里⑫ Um  b e l l  i f e r a e   (セリ科)望⑬ Ar

emisia

(ヨモキ罷)笹黒線は叩戸間磁

(6)

9 6 号 ( 2007 ) 

AP :  Podocarpus  (マキ属), A b i e s   (モミ属), Tsug , 丘(ツガ属), P i n u s   (マツ属), Cryptomeria  (スギ思), J u g l a n s ♂ t e r o c a r y a   (クルミ属ーサワグルミ属), C a r p i n  u s   (クマシデ属), B e t u l a   ( カ ノ く ノキ属), 丘 gus (ブナ属), Q u e r c u s   ( L e p i d b a l a n u s )   (コナラ属コナラ亜属), 日 ' m u s Z e l k o v a   ( ニ レ属一ケヤキ属), C e l t i s  ‑Ahanan t h e   (エノキ属一ムクノキ属), T i l i a   (シナノキ属), F r a x i n u s   ( ト ネリコ属), A r a l i a c e a e   (ウコギ季十), l ¥ d y r i c a   (ヤマモモ属), Quercus  (Cy c 1 o b a l a n o p s i s )   (コナラ属 アカガシ亜属), C a s t a n o p s i s   (シイ属), Symplocos  (ハイノキ属), Aln 出(ハンノキ属), I 1 ex  ( モ チノキ属), L i g s t r u m   (イボタノキ属), E r i c a c e a e   (ツツジ科). 

対 AP:  Typha  (ガマ属), Gramine 乱 e (イネ科), Cyperaceae  (カヤツリグサ科), Fagopyrum  ( ソ バ属), P e r s i c a r i a   (イヌタデ属), o t h e r  P o l y g o n a c e a e   (他のタデ科), C a r y o p h y l l a c e a e   (ナデシコ 科 ) , Chenopodiaceae  (アカザ汗ヰ), T h a l i c t r u m   (カラマツソウ属), o t h e r  Rananculaceae  (他のキ ンポウゲ科), S a n g u i s o r b a   (ワレモコウ属), H a l o r a g i s   (アリノトウグサ属), U  m  b e l l i f e r a e   (セリ 科 ) , L a b i a t a e   (シソ科), A r t e m i s i a   (ヨモギ属), o t h e r  Compositae  (他のキク科). 

:  m o n o l e t e  t y p e   FS  (単条溝型胞子), t r i l e t e  t y p e   FS 

B e t u l a   (カバノキ属)は低率で、あるが,① ⑦のどの試料からも出現した . Fagus  (ブナ属)は上 {立の地層からのみの出現となった . T S l

1 9 a (ツガ属)や Cr η y ψ pt ωom

l e 臼 r 均(ス は Fagus (ブナ属)

より少なく散発的であった.これに対して , Quercus  (Cy c 1 o b a l a n o p s i s )   (コナラ属アカガシ亜属)は において優占で,最小でも 15% 台の出現率を示し,最大は 60% 以上の出現率である . C a s t a n o p s i s   (シイ属)はどの層からも出現し最大 50% 台の出現率であるが, Quercus (Cy c 1 o b a l a n o p s i s )   (コナラ

アカガシ亜属)より少ない . Alnus  (ハンノキ属)はどの}脅からも出現するが,層の上位にいくに つれて減少傾向を示す . P i n u s   (マツ属)はほほどの層からも産出し増加傾向を示す.

Gramineae  (イネ科)はどの層からも産出し,上位の層になるにつれて増加し最大 70% の出現率で ある . A r t e m i s i a   (ヨモギ属)はどの層からも 10% 以上の出現率を示す. m o n o l e t e  t y p e   FS  (単条溝 型胞子)は最大 90% の出現を示し t r i l e t et y p e   FS  (三条溝型胞子)は最大 70% の出現を示すが,

両方とも上位の層になるにつれて急、減している,

5 .  

( 1 9 6 4 ) は神久呂の佐浜累層の花粉分析を行い, 2 1 属の花粉と Sphagnum  s p .   (ミズゴケ属) の胞子を報告し , A b i e s   (モミ属)はどの層準からも 50% 以上産出し , P i n u s   (マツ属)は 10% 前後産 出している.今回の結果では , P i n u s   (マツ属)はほほどの層からも産出し増加傾向を示しているが,

Abies  (モミ属)はほとんど産出しない.種実の分析を行った粉 ) 1 1 ( 1 9 6 4 ) は,この佐浜累層を洪積 世と断定しているため,今回の花粉分析結果と異なるのは当然である.

池谷(1 9 9 3 ) の行なった浜名湖湖底の炭素年代測定の結果から,浜名湖は 1 万年前以降の堆積であ

ることが明らかとなった.また,松下・讃岐田(1 9 8 8 ) は浜名湖周辺の古植生の復元を花粉化石で行

ない,暖帯落葉樹林期,照葉樹林期,マツ林期と変遷していることを明らかにした.浜名湖東部湖底

の花粉分析の結果,約1. 0 0 0 年前以降 P i n u s (マツ属)の急増が明らかとなった.池谷(1 9 9 3 ) はこの

P i n u s   (マツ属)の急増を人工的な植林の結果と捉えているが,今回の分析の結果から , P i n u s   (マツ

(7)

属)と, G r a m i n e a e   (イネ科)の増加を重ね合わせると , Quercus ( C y c l o b a l a n o p s i s )   (コナラ属アカ ガシ亜属)や C a s t a n o p s i s (シイ属)などの照葉樹の伐採により乾燥化が進み , P i n u s   (マツ属)が侵 入したと考えたほうが妥当である.

針葉樹の Abies (モミ属), Tsuga  (ツガ属), C r y p t o m e r i a   (スギ属)は散発的に産出し , B e t u l a   (カバノキ属)や Fagus (ブナ属)などの落葉広葉樹は低い出現率を示すのに対し,常緑広葉樹の Quercus  ( C y c l o b a l a n o p s i s )   (コナラ属アカガシ亜腐)と C a s t a n o p s i s (シイ属)は高い出現率で優占 する.また,冷涼で湿潤な気候を好む Quercus ( L e p i d o b a l a n  u s )   (コナラ属コナラ亜属)が 5% 前後 と少ないことから,さ当時の植生は冷温帯雨部から中間温帯の特徴を示し,粉J1 1( 1 9 6 4 ) の指摘する気 候と大差のないことが解明できた.

m o n o l e t e  t y p e  FS  (単条溝型シダ胞子)と, t r i l e t e  t y p e  FS  (三条溝型シダ胞子)が急減するのは,

乾燥化の影響を大きく受けたためと考えられた.

Alnus  (ハンノキ馬)の減少, C y p e r a c e a e   (カヤツリグサ科)の増加 , Typha  (ガマ属)の散発的 な出現などを考え合わせると,周辺の湿地は積極的に利用されていたのであろう.伊場遺跡の古墳時 代の地層から炭化米(浜松市博物館編, 2 0 0 2 b ) が出土していることなどを考え合せると,東神田川 付近の湿地は稲作等に利用されていたと考えられる.

6 . まとめ

年前頃に堆積した東神田J1 1 底の黒褐色粘土層の花粉分析を行なった結果, C a s t a n o p s i s   (シイ属)や Quercus ( C y c l o b a l a n o p s i s )   (コナラ属アカガシ亜属)などの常緑照葉樹が減少をはじめ,これに代 わり P i n u s (マ:ツ属)と Gramineae (イネ科)植物が増加を始めたことが明らかとなった.これは森 林伐採が広範囲で行われ環境破壊と共に乾燥化が始まっていたことを示すものと思われる.当時の植

を復元してみると冷温帯南部から中間温帯の気候と間程であったと考えられた.

引用文献

浜松市博物館編 ( 2 0 0 2 a ) :東前遺跡調都土地区画整理事業に伴う埋蔵文化財範囲確認調査報告書.浜 松市文化協会, 1 3 2 p .

浜松市博物館編 ( 2 0 0 2 b ) :伊場遺跡発掘調査報告書第 1 0 冊,伊場遺跡遺物偏 8 (木製品・金属・骨角 器) .浜松市教育委員会, 1 9 0 p .

池谷伯之(1 9 9 3 ) :海跡湖の地史 ‑2 浜名湖, URBAN KUBOT  A ,  3 2 ,  4 8 ‑ 5 5 .   粉川昭平(1 9 6 4 ) :植物遺体.浜松市・小林国夫編,地質調査報告書, 2 0 3

247 ,浜松市.

松下まり子・讃岐田郡 I ( 1 9 8 8 )   :浜名湖周辺の完新世植生史.第四紀研究, 4 ,  3 9 3 ‑ 3 9 9 .   沼田 真・吉沢長人編(1 9 7 5 ) :新版・日本原色雑草留鑑全国農村教青協会, 4 1 4 p . 奥田重俊 ( 1 9 9 7 ) :生育環境別日本野生植物館小学館, 6 3 1 p .

島倉己三郎(1 9 6 4 ) :浜松町近第四系の花粉分析.浜松市・小林国夫編,地質調査報告書, 2 4 9

255 ,浜松

市.

図 5 闘確認された化石花粉箇① Abies ( モミ属)里② γ ' s uga ツガ属)型③ Pinus ( マツ属)聖④ Fagus ( ブナ 属)望⑧ Quercus (Lepidobalanus)  ( コナラ属コナラ盟属)望⑤ Quercus ( C y c l o b a l a n o p s i s )   ( コナラ アカガシ盟属)雪⑥ Castanopsis ( シイ属)型⑦ Betula ( カバノキ属)書⑧ Ulmus ( ニレ農) ,⑩  Gramineae  (イネ科)書⑪ C

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