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子宮筋腫核出術施行後に Mycoplasma hominis による 腹膜炎を認めた 1 例

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(1)

子宮筋腫核出術施行後に Mycoplasma hominis による 腹膜炎を認めた 1 例

1)

聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院臨床検査部,

2)

国立感染症研究所細菌第二部,

3)

同 細菌第一部,

4)

聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院小児科

田中 洋輔

1)

佐々木裕子

2)

和田 昭仁

3)

安西 桃子

1)

秋田 博伸

4)

(平成 22 年 10 月 5 日受付)

(平成 23 年 1 月 13 日受理)

Key words : Mycoplasma hominis, myomectomy, peritonitis

マイコプラズマ は Mollicutes 綱に分類される細 菌の一群を指し,人工培養可能な最小クラスの微生物 として知られている. Mollicutes 綱には,5 つの目 My- coplasmatales, Entomoplasmatales, Acholeplasmatales, An- aeroplasmatales ならびに Haloplasmatales が存在し,培 養可能な種だけでも 6 科,9 属,180 を超える種が分 類されているが,この内,ヒトに感染する種は Myco- plasmatales 目,Mycoplasmataceae 科 の Mycoplasma 属 と Ureaplasma 属に属している

1)

.ヒトから分離される マ イ コ プ ラ ズ マ で 病 原 性 が 確 認 さ れ て い る Myco- plasma pneumoniae に加え, M. hominis, M. genitalium,

M. fermentans,M. penetrans ならびにウレアプラズマ の Ureaplasma urealyticum など疾患との関連性が疑わ れる臨床的に重要なマイコプラズマは数多く存在す る

1)2)

.M. hominis はヒトの泌尿生殖器材料から検出さ れ,女性ではその保菌と早産あるいは低出生体重児の 出生に関連があるとする報告と否定的な報告があ

3)〜5)

.一方で,母体がマイコプラズマを保菌してい

る場合,新生児にしばしば髄膜炎,敗血症などの感染 症を起こすことも報告されている

6)7)

M. hominis は一般細菌培養に用いる寒天平板培地に

遅発育性の微小集落を形成するが,グラム染色にて菌 の形態が確認できないため,知識を有さなければ同定 困難となる.近年,遺伝子学的手法による同定の進歩 により,産科領域の術後感染を含め,本菌による感染

症の報告例が散見

6)8)9)

されるようになったが,一般細 菌培養で検出されにくいこともあり,臨床医が日常診 療でその存在を意識する機会は少なく,産婦人科,外 科領域の現場においてもあまり重要視されていないの が現状である.今回,子宮筋腫核出術施行後に M.

hominis による腹腔内感染を認めた 1 例を経験し,産

褥期以外の術後感染の一典型として把握しておくこと は重要と考え,ここに報告する.

患者は 36 歳の女性で,既往歴には特記事項はなく,

喫煙ならびに飲酒もなく,妊娠出産歴は無い.現病歴 は X 年 10 月,クリニックの検診にて巨大骨盤内腫瘍 指摘され,X 年 10 月 20 日精査目的にて当院紹介と なった.経腟超音波検査ならびに MRI にて子宮体部 前壁に 14×10×19cm の筋腫を認めたため,X 年 11 月 24 日より GnRH(gonadotrpin-releasing hormone)

アナログ製剤によるホルモン療法を計 3 回施行し,子 宮筋腫核出術目的にて X+1 年 1 月 31 日入院した.術 後 経 過(Fig. 1)は,X+1 年 2 月 1 日 子 宮 筋 腫 核 出 術(開腹)施行し,術中の抗菌薬予防投与は cefazolin

(CEZ)1g×2! day を,術後 1 日目まで使用した.ド レーン留置を行い,術後 3 日目には抜去した.術後 7 日目,経腟超音波検査にて血腫(3×4cm)と腹水の 貯留を認め,術後 8 日目,白血球 8,000! μL,CRP 8.53 mg ! dL と上昇,38.5℃ の発熱および腹痛があり,CEZ 1g×2! day を投与開始した.術後 9 日目に白血球,CRP ともにさらに上昇,CT にて腹水貯留が著明であり,

腹膜肥厚も認めたため,エコーガイド下にダグラス窩 穿刺によるドレナージ(450mL)を実施するとともに flomoxef(FMOX)1g×3! day に抗菌薬を変更した.

別 刷 請 求 先:(〒241―0811)神 奈 川 県 横 浜 市 旭 区 矢 指 町 1197―1

聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院臨床検査

部 田中 洋輔

(2)

Fig. 1 post-operative course

Fig. 2 M. hominis  colonies  incubated  after  three  days on chocolate agar 35℃ with 5%CO

2

その結果,一時的に解熱,炎症反応はやや改善傾向を 示したが,術後 14 日目,FMOX の投与にても CRP は改善せず,再度 38℃ 以上の発熱,白血球数の軽度 上昇を認めたため,clindamycin(CLDM)600mg×2

! day を追加投与した.追加後 2 日目より解熱し,経 過良好にて術後 17 日目に退院し,外来にて経過観察 となったが,以後も再燃は認められていない.

微生物学的検査においてはダグラス窩穿刺にて採取 された腹水にて行った.グラム染色では白血球多数

(3+)認めたが,菌は認められなかった.培養はヒツ ジ血液寒天平板培地(日水製薬),チョコレート寒天 平板培地(日本ベクトンディッキンソン)にて 35℃,

5%CO

2

培養,ABHK ! BBE 寒天平板培地(日水製薬)

にて 37℃,嫌気培養を行った.培養 1 日目,2 日目で は菌の発育は認めなかったが,5%CO

2

培養 3 日目,血 液寒天平板培地,チョコレート寒天平板培地ともに直 径 0.1mm 程のピンポイントコロニーを認め(Fig. 2),

嫌気培養にて ABHK 寒天平板培地上にも同様のコロ

ニーを認めた.しかし,コロニーを塗抹してグラム染 色を行ったが菌体は確認できず,グラム陰性に染まる 大小の顆粒を認めるのみであった.以上の所見からマ イコプラズマを疑い寒天培地上の微小コロニーより DNA を抽出し,16S rRNA 遺伝子解析を行い,得ら れた配列結果を BLAST データベースにて検索した結 果,Mycoplasma hominis ATCC23114 と 100% 一致し た.また,微小コロニーを移植し,Hayflick(ヘイフ リック)変法液体培地(PPLO broth w ! o CV ; Beckton Dickinson Microbiology System,MD,USA,0.5%

アルギニンまたは 0.5% グルコース,0.002% フェノー ルレッド,15% 非動化馬血清,10% 自家製新鮮酵母 抽出液,1,000 単位! mL ペニシリン G)

10)

での栄養要求 性ならびにヘイフリック変法寒天平板培地(PPLO agar ; Beckton Dickinson Microbiology System,MD,

USA,15% 非動化馬血清,10% 自家製新鮮酵母抽出 液,1,000 単位! mL ペニシリン G)上のコロニー形態 の鏡検を行い以下の結果を得た.

1.ヘイフリック変法液体培地での増殖:アルギニ ン添加およびグルコース添加ヘイフリック変法液体培 地に血液寒天平板培地上の微小コロニーを寒天ごと切 り取った小片を入れて培養した.アルギニン添加液体 培地の菌増殖に伴う液体培地の色調変化は,培養開始 後 24〜27 時間で濃ピンク色を呈した.グルコース添 加液体培地は,培養後 1 週間を経ても色調変化を認め ず,M. hominis の栄養要求性と一致した.

2.ヘイフリック変法寒天平板培地での増殖:血液 寒天平板培地上の微小コロニーをヘイフリック変法寒 天平板培地に経代し,5%CO

2

存在下,37℃ にて培養 した.培養 3 日後に実体顕微鏡下でマイコプラズマ特 有の目玉焼き状のコロニー形態が観察された(Fig.

3).ヘイフリック変法寒天平板培地上の M. hominis

のコロニーは,培養 5 日目をすぎると肉眼観察でも確

(3)

Fig. 3 Mycoplasma hominis  on  Hayflick  agar  plate  isolated in stereomicroscopy (×200)

Table 1 Mycoplasma hominis susceptibility  testing

Antibiotics Group MIC (μg/mL)

EM 14 macrolide >128

TEL ketolide 4

CLDM lincomycin 0.0625

MINO tetracycline 0.25

TC tetracycline 1

GFLX fluoroquinolone 0.5

LVFX fluoroquinolone 2

EM:erythromycin,  TEL:  telithromycin,  CLDM: 

clindamycin,  MINO:  minocycline,  TC:  tetracycline,  GFLX: gatifloxacin, LVFX: levofloxacin

認可能な大きさに発育した.

3.薬剤感受性試験:薬剤感受性試験は,Pereyre ら

11)12)

の方法を参考に微量液体希釈法により行ったが,

標準化されていないため参考値とした.試験抗菌薬は erythromycin(EM),telithromycin(TEL),clindamy- cin ( CLDM ), minocycline ( MINO ), tetracycline

(TC),levofloxacin(LVFX),gatifloxacin(GFLX)

とし,アルギニン添加ヘイフリック変法液体培地にて 調整した薬剤希釈系列液 100μL を分注したマイクロ プレートの各ウェルに同培地を用いて 10

4

〜10

5

CFU ! mL に調整した M. hominis 分離株の菌液を 100μL ず つ分注し湿潤箱に入れ,37℃ で好気条件下にて 4 日 間培養した.液体培地の色調ならびに顕微鏡下にて ウェル底のマイコプラズマの発育を毎日観察し,判定 は抗菌薬無添加のウェルが濃ピンク色に変色した時 に,陰性対象ウェルと変わらない色調(橙色)を呈す るウェルの最小抗菌薬濃度を MIC 値(μg! mL)とし た(Table 1).

M. hominis は泌尿器生殖器に関連した材料から無症

候性に検出されることが多く,その定着自体は必ずし も病的とはいえない.産婦人科領域の感染症として骨 盤内炎症性疾患

13)

,産褥熱

14)

,早産

4)

などに関与し,さ らに泌尿器生殖器以外の感染症として敗血症

15)

,化膿 性関節炎

16)

,脳膿瘍

17)

,感染性心内膜炎

18)

などの報告 もある.M. hominis 感染症の多くは日和見感染であ り

19)20)

,手術などの侵襲性の高い処置が発症の誘因と なることがある.また,移植後や低 γ グロブリン血症 などの易感染宿主には血行播種を伴う侵襲的病態を引 き起こすことがあり,適切な抗菌薬治療とドレナージ などの外科的治療が必要と思われる.

本邦における妊婦(n=877)を対象にした腟にお ける検出頻度では M. hominis を 11.2% が保菌してお り,特に 19 歳以下の低年齢層で高い傾向が認められ ている

21)

.本症例では腟の検査は実施されていないが,

その検出頻度を考えると M. hominis を腟に無症候性 に保菌,さらには子宮内感染していた可能性も疑われ,

子宮内に存在した M. hominis が筋腫核出術を期に腹

腔内に混入し腹膜炎を起こしたものと考えられた.本 症例は術後 8 日目に発熱,CRP の上昇が認められ,本 邦の surgical site infection(SSI)発生日の中間値が 7 日(大腸手術)であること,SSI のほとんどは術後 2 週間以内に発生する

22)

ことを考えても手術部位感染 が示唆される.M. hominis の術後感染症例としては帝 王切開術後の腹腔感染

8)

や帝王切開術施行時に行った 硬膜外麻酔穿刺部位に発生した硬膜下膿瘍

23)

,腎移植 後の膿瘍形成

9)

などの報告があり,手術部位の感染に 限らず,侵襲性の高い処置により起こる菌血症やそれ に伴う他臓器への移行,さらに宿主の免疫抑制状態な どを留意しなければならないと考えられる.一般的に 術中,術後の抗菌薬予防投与には第 1 世代,第 2 世代 セフェム系薬が使用されることが多く,本症例も CEZ が使用されていた.マイコプラズマは細胞壁を持たな いため,細胞壁合成阻害薬である β ―ラクタム系抗菌 薬は無効であり,M. hominis が術後感染症を引き起こ すひとつの要因となっていると思われる.マイコプラ ズマは Gram 染色で菌体を確認することができず,さ

らに M. hominis は一般細菌に比較し発育が遅く,培

養での検出には,血液寒天平板培地上での目視可能な 微小コロニーの出現に最低でも 72 時間を要する.し たがって,菌種を特定するまで時間を要し,さらに培 養検査を 42 時間で打ち切っている場合には見逃しが 生じる可能性があり,治療の遅れや重症化を招く危険 性がある.

本症例は腹水のドレナージにより一時的に改善傾向 がみられたが,FMOX の投与中に再燃した.産婦人 科領域の術後感染症起因菌としては Escherichia coli,

Klebsiella pneumoniae,Proteus 属などのグラム陰性桿 菌 や Streptococcus 属,Enterococcus 属,Staphylococcus

aureus などが挙げられるが,本症例では FMOX にて

改善が認められかったため,嫌気性菌や一般細菌以外

の微生物の可能性を考慮し,CLDM を追加した.薬

剤感受性試験において,CLDM は検討した抗菌薬の

(4)

中で最小の MIC 値を示しており,ドレナージと共に 本感染症に有効であったと考えられた.一般的に M.

hominis は 14 員環,15 員環マクロライド系,ケトラ

イド抗菌薬に耐性を示し,16 員環マクロライド系,

CLDM,テトラサイクリン系,第 3 世代フルオロキノ ロン系薬(respiratory quinolon)に感受性を示すこ とが知られている

12)24)〜27)

本菌はアルギニン 5% 添加ヘイフリック変法液体培 地ならびにヘイフリック変法寒天平板培地にて発育良 好であり,液体培地の色調変化には 1 日を要したのみ であった.マイコプラズマ特有の目玉焼き状のコロ ニー形態を呈し,アルギニン分解性のマイコプラズマ 種であることが示唆され,遺伝子解析から予想された M. hominis と 同 じ 特 徴 を 有 し て お り,最 終 的 に M.

hominis と同定した.

マイコプラズマの検査には A7 マイコプラズマ寒天 培地(シスメックス・ビオメリュー)なども市販され ているが,操作の煩雑性や所要時間の長さ,検出感度 などの問題から実際に菌の分離を実施している微生物 検査室がほとんど無いのが現状であり,M. hominis の 関与が疑われる症例である場合には,臨床医から微生 物検査室にその情報を与えることが重要である.検査 室では一般的に長期培養にて M. hominis の分離を試 みるが,長期培養は無菌的な検体から純培養状に M.

hominis を検出可能な場合に有用であり,腟分泌物な

ど正常細菌叢の混入する検体でのマイコプラズマ属の 疫学調査などには遺伝子学的検査を用いることが望ま しい.長期培養にて遅発育性の微小コロニーを検出し,

Gram 染色にて菌体が確認できない場合であればマイ コプラズマの可能性が極めて高いと考えている.

実際に M. hominis を検出できた症例は氷山の一角

と思われ,培養検査にて陰性として報告された例や,

嫌気性菌感染などを疑い CLDM の投与にて改善した 例など,水面下ではかなりの症例が存在しているもの と推察される.M. hominis を検出するには,72 時間 以上の長期培養を実施することが必要不可欠であり,

特に産婦人科領域で β―ラクタム系抗菌薬に反応しな い術後感染症が起こった場合は M. hominis の可能性 を念頭にいれるべきである.

文 献

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Peritonitis Due to Post-myomectomy Mycoplasma hominis Infection

Yosuke TANAKA

1)

, Yuko SASAKI

2)

, Akihito WADA

3)

, Momoko ANZAI

1)

& Hironobu AKITA

4)

1)

Department of Clinical Laboratory, St. Marianna University School of Medicine Yokohama City Seibu Hospital,

2)

Department of Bacteriology II and

3)

Department of Bacteriology I, National Institute of Infectious Diseases,

4)

Department of Pediatrics, St. Marianna University School of Medicine Yokohama City Seibu Hospital

A 36-year-old woman undergoing a myomectomy developed postoperative surgical-saite peritonitis and hematoma. Eight days postoperatively, she developed a 38℃-plus fever and accumulated ascites, with fever unchanged despite antimicrobial β-lactams therapy. Following transvaginal ascitic drainage, her fever disap- peared. Recurrent 38℃ fever and inflammation were cured by clindamycin of 1.2g! day. M. hominis detected from ascites drainage was considered the primary causative organism. Nongenito-urinary M. hominis infec- tion is often difficult to detect, as in our case. Gram staining, for example, is not useful in ascertaining small organisms such as Mycoplasma spp. having no cell walls to stain. M. hominis grows slowly, requiring over three days to form colonies on blood agar plates, requiring time to identify pathogens. We report case show- ing the importance of suspecting M. hominis of causing gynecological surgical-site infection. When common bacterial pathogen cultures remain negative and when empiric β-lactam antibiotic treatment is ineffective, M. hominis should be suspected. In conclusion, M. hominis should be considered a causative following myomectomy resection.

〔J.J.A. Inf. D. 85:275〜279, 2011〕

Fig. 1 post-operative course
Fig. 3 Mycoplasma hominis  on  Hayflick  agar  plate  isolated in stereomicroscopy (×200)

参照

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