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ま え が き

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Academic year: 2021

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ま え が き

著者が大学院に進学し,物性物理学研究の門をたたいたころは,日本でも液 体ヘリウム利用の環境が整い極低温域までの測定が容易になった時期で,学部 学生時代に学んだ量子現象の観測がかなり自由になっていました.それだけ に,超伝導体や磁性体等に見られる多くの現象を目のあたりにしながら理解し ていけることが確かな喜びでした.しかし,研究の進展速度が増し,超伝導現 象の微視的記述に続いて,日本発のテーマである近藤効果の理解や金属‑絶縁 体転移に関する電子局在理論が進むに至って,物性物理学はもう解決してし まったという声がどこからか聞こえましたが,それは全くの早とちりでした.

それからも次々に重要な課題が出てきたからです.本書で取り上げる,銅酸化 物高温超伝導体発見によってあからさまになった超伝導がらみの課題,いわゆ る強相関電子系の問題が,重い電子系や有機物(超)伝導体といった他の多くの 物質系をも含めて, 学問体系を構築すべき重要な研究対象 として広がりを 見せたことがその顕著な例ですが,これだけを見ても,新物質科学と呼ぶべき 新しい分野が成長したことについては誰にも異論がないことです.そこでは,

対象物質も複雑になっていますが,今日のコンピューターの発達や測定装置の 高度化によって研究速度が増し,物性の理解進展をさらに加速させていけるの で,研究者が自らの研究成果を純粋物理学として深化させたり,情報処理能力 の進展をテコにして実社会へ還元させたりといった未来が限りなく明るくなり ました.

もとより,新物質科学は物質に根差したものですから,新たな物質の発掘に 裏打ちされていなければなりませんが,さらに,それらが提供する科学的課題 のありか(興味)の認識や,それを解決するための実験手法の開発および理論の 提案等が,相互にフィードバックを行いながら共通概念の形成へと昇華される べきものです.そこでは特に概念の高度化と簡単化が進んだ新しいものになっ

iii

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ていくことが理想です.

しかしここでは,それらのプロセスの全体を眺めることは膨大にすぎるの で,特に高温超伝導物質や,それに関連した系(それだけでも膨大に見出され ている)の代表例をとりあげて,重要な物性現象がいかに抽出されたか,従来 からの知識がどのように生かされて新しい物理概念形成に役立ってきたかの記 述に主眼をおいています.本書は,これから新物質科学研究に携わろうとする 方々が,目のまえに存在する物質系の深い森に臨んで,そこにどのような現象 が潜んでいるか,どのような進展が見込まれるかの洞察力を涵養し,さらに は,ゴールへと接近する術を見出すための一助となることを目指しています.

ただ,上記のように記述範囲を制限しても, 葦の髄から天井を覗く とい うたとえが当てはまるほど多くの研究がなされていますので,書かれているこ とは必ずしも学術的軽重が正しく反映されていないかも知れません.特に話を 複雑化しないために省いていることもありますので,そのことをご容赦いただ きたいと思います.

本書の執筆を薦めていただき,さらに原稿に対する適切なご批判等をいただ きました東京大学理学研究科大学院教授の藤森淳氏に篤く感謝申し上げます.

2016 年 11 月

佐藤 正俊 iv ま え が き

参照

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