腕の動作が視空間注意のラテラリティへ及ぼす影響
16001PAM
杉浦 あすか
1.
問 題 と 目 的
接近動機づけと回避動機づけは,生物全般に 備えられた動機づけとされている
(Elliot, 2008)。 接近動機づけは,ポジティブな刺激(快刺激・
報酬)へ接近する動機づけ,回避動機づけは,
ネガティブな刺激(不快刺激・罰)を回避する 動機づけである(村山,
2012)。これらの動機 づけは,腕の動作との関連について指摘されて いる。
Cacioppo et al. (1993)は,腕の動作が刺 激に対する好ましさの評定に影響を与えること を明らかにした。彼らは,刺激が呈示されてい る間,実験参加者に腕を屈曲または伸展するよ う要求し,その後,呈示された刺激に対し,好 ましさの評定を求めた。その結果,屈曲条件で は伸展条件よりも刺激を好ましく評定したこと が示された。この結果は,腕の動作が接近・回 避動機づけに関連する動作であるため,もたら されたと考えられている。腕の動作において,
屈曲動作は,ポジティブな刺激を自分へ向かっ て引き寄せる際に行われる動作であり,接近動 機づけを引き起こすとされている。一方で,伸 展動作はネガティブなものを押しのけ,自分か ら遠ざける際に行われる動作であるため,回避 動機づけを引き起こすとされている。これらの ことから,
Cacioppo et al. (1993)は,伸展条件 よりも屈曲条件で呈示された刺激を好ましく判 断したと示唆した。
接近・回避動機づけは,ラテラリティとの関 連も指摘されている。接近動機づけは左半球が 優位に関与し,回避動機づけは右半球が優位に 関与している
(Spielberg et al., 2011)。接近・
回避動機づけを引き起こす動作とラテラリティ の関係性について検討した知見は報告されてい るが,腕の屈曲・伸展動作とラテラリティにつ いて,直接検討した研究はみられない。また,
生理指標からの知見に比べて,行動指標レベル
の知見は少ない。そこで本研究は,腕の動作と 視空間注意のラテラリティの関連について,行 動指標レベルで検討することを目的とする。
本研究では,視空間注意のラテラリティを測 定 す る 行 動 指 標 と し て ラ ン ド マ ー ク 課 題
(Milner et al., 1992)を用いた。ランドマーク 課題では,あらかじめ二分された水平線分が呈 示され,参加者は,水平線分の左右どちらが長 いか(短いか)の判断を要求される。一般的に 右手利きの健常者では,視空間注意における右 半球優位性から,線分の左側が過大視される。
したがって,分割位置が真の中心,もしくは真 の中心に近い線分の場合,左側が長い(右側が 短い)と知覚されることによって,主観的等価
点
(PSE)は線分の真の中心よりわずかに左側へ
ずれる
(Benwell et al., 2014)。
本研究では,
PSEと線分の分割位置(左側ま たは右側)ごとの誤答率から,動作による視空 間注意のラテラリティへの影響を確認した。接 近動機づけと関連する腕の屈曲動作によって,
左半球が活性化されるのであれば,
PSEは線分 の真の中心に近づく,もしくは真の中心より右 側へずれることが予想された。回避動機づけと 関連する伸展動作で,右半球が活性化されるな ら,
PSEはより左側へずれることが予想された。
加えて,線長が
PSEに影響を与えるという知 見
(Benwell et al., 2014)から,長い線分は短い 線分に比べ,
PSEの真の中心からのずれが大き くなることが予想された。したがって,屈曲条 件では, 短線より長線の方が
PSEは右にずれ,
伸展条件では短線より長線の方が左にずれるこ
とが考えられた。誤答率において,伸展条件で
は右半球が活発になるのであれば,線分左側の
過大視がより顕著になり,分割位置が左側にあ
る方が誤答率は高くなることが予想された。反
対に,屈曲条件で左半球が活発になるのであれ
-0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 伸展 屈曲
長線 短線
(%)
ば,分割位置が左側にある線分において伸展条 件よりも誤答率は低くなる,または,分割位置 が右側にある方が誤答率は高くなることが予想 された。
2.
方 法
実験参加者 右手利き大学生並びに大学院生
20名(女性
16名,平均年齢
23.3歳)。 実験 計画
PSE:動作(屈曲,伸展)×線長(長線,
短線)の
2要因参加者内計画。誤答率:動作×
線長×分割位置(左側,右側)の
3要因参加者 内 計 画 。 刺 激
Michelsonコ ン ト ラ ス ト
100 %
の水平線分。線長は
2種類。長線は縦
0.4
°横
20.0°,短線は縦0.4°横
10.0°。各線分には
1か所分割点があり,位置は真の中心を 除き左右それぞれ
6か所。 その間隔は長線
0.3°,
短線
0.1°。 手続き 画面に「ボタンを押し 続けてください」と呈示され,その間実験参加 者は両手で机の裏(屈曲条件),または机上(伸 展条件)に設置された外部スイッチを押し続け た。スイッチを押し始めてから
3000 ms後,画 面は次の画面へ切り替わり,参加者はスイッチ から手を離した。その後,チャイム音とともに 凝視点
(“+”)が
800 ms呈示され,続いて水平
線分が
150 ms呈示された。水平線分消失後,
参加者の反応があるまでブランク画面が呈示さ れた。参加者の反応後,次試行が開始された。
参加者は,呈示された水平線分の左右どちらが 長いかを判断し,できるだけ正確に反応するこ とが求められた。 試行数は, 計
480試行だった。
分析
Benwell et al. (2014)に倣って
PSEを算 出した。算出された
PSE値は,値が負の場合 左へのずれを意味した。また,各条件の線分の 分割位置ごとに誤答率を算出した。真の中心に 最も近い分割位置から順に,左右それぞれ
4か 所の誤答率から分割位置が左側の平均値と右側 の平均値を個別に算出した。分析は外れ値を抜 いた
19名のデータで行われた。
3.
結 果
真の中心からの
PSEのずれを調べるため,
条件ごとに
1標本の
t検定を行ったところ,い ずれの条件においても真の中心と
PSEの間に 有意な差は認められなかった。
PSEを用いて,
要因計画に沿った分散分析を実施した。その結 果,いずれの主効果,交互作用もみられなかっ た(図
1) 。誤答率を用いて,要因計画に沿った 分散分析を実施した。その結果,線長の主効果 がみられ,長線
(11.4 %)よりも短線
(18.4 %)の誤 答率が高いことが示された。
3要因交互作用が 有意だった。この
3要因交互作用について,線 長,分割位置別に単純・単純主効果検定を行っ たところ,分割位置が左側にある短線の屈曲条 件
(17.8 %)よりも伸展条件
(21.6 %)の誤答率が 高いことが示された。長線においては,この傾 向は見られなかった。
図
1各条件における
PSE(バーは標準誤差)。4.