• 検索結果がありません。

異議制度(3)

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "異議制度(3)"

Copied!
18
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

行政事件訴訟法における内閣総理大臣の  

異議制度(3)  

緒 方 真 澄  

(一っ 問題の所在  

(二)内閣総理大臣の異議制度の沿革  

(三)内閣総理大臣の異議制度に関する学説  

(1)合意説  

(2)達意説  

(3)折衷説(以上算43巻第1・2・3号)  

(4)その他の学説  

(a)廃止・削除説 (b)欠略説  

(C)不要説 (d)濫用説(以上第43憩4号)  

(四)内閣総理大臣の異議制度に関する判例  

(五)結  語  

(四)内閣総理大臣の異議制度に関する判例   

内閣姶理大臣の兵議制度紅関する判例と,これに附随レてこの制度がいかな   る事例等に申述されたかを行政事件訴訟特例法(以下行特法と略す)下と行政   事件訴訟法(以下行訴法と略す)下の時期に分けて考察する。   

行特法下の内閣総理大臣の異議中速を具体的事例について年次別にみると昭   和24年(1949年)4件,昭和25年(1950年)3件,昭和27年(1952年)3件,  

昭和28年(1953年)2件,昭和29年(1954年)2件,昭和30年(1955年)4件   で合計18件である。その内容をみると地方公共団体等の議員,職員,教職員の   免職懲戒処分7件,土地ならびに水利関係の利用,収用処分6件,大学学生の   退学処分3件,特殊なものとして朝連学園の閉鎖処分と鯖江市の町村合併処分  

(79)  

の2件がある。   

しかし昭和29年(1954年)の偏向教育問題として京都市旭ヶ丘中学校の教貞   の転補・懲戒免職処分事件,昭和30年(1955年)の駐留米軍基地紅よる土地収  

(79)最高裁判所事務総局・「行政事件訴訟10年史」35貢〜37頁。   

(2)

寛50巻 算2号  

− 3β・−   224  

用認定の砂川事件及び土地使用裁決の横浜根岸地区事件,その他,昭和24年  

(1949年)の朝連学園閉鎖事件,昭和27年(1952年)の只見川発電ダムのため   の水利使用許可事件について内閣総理大臣の異議が政治問題化した重要事件紅  

(80)  

申述されたのである。しかしながら,地方議会の議員の除名処分や大学生の退   学処分のごとく内閣総理大臣とその内閣の命運を賭するにほ,およそはど遠い  

ものにまで申述されていたのである。   

まず最初の判例は,内閣総理大臣の異議制度を問題としたものでほなかっ   た。すなわち,昭和27年(1952年)10月15日の農地買収処分執行停止特別抗告   事件の最高裁判所の決定が,内閣総理大臣の異議制度の合憲性を前提としたも   のであった。決定は「行特法10条2頓により,裁判所が処分の執行を停止すべ   きことを命ずるのは,行政庁の違法な処分の取消又は変更を求める本案の訴訟   に.附随する手続に過ぎないのであって,裁判所は,同項に.よる処分の執行停止   を命じたと否とにかかわらず,本案訴訟においては請求の当否につき審判する  

ことはいうまでもないところである。そして審判の結果,行政庁の処分の違法   であったことが明らかとなって判決により取消し又は変更されて確定すれほ,  

その判決はその事件について関係の行政庁を拘束し,行政庁の違法処分に対す   る救済ほ全うされるのである。要するに・裁判所は,行特法10条2項軋よる処分   甲執行停止の有撫紅かかわらず行政庁の違法な処分の取消又ほ変更を求める訴   の当否を審判するのであるから,前記行特法の規定が意法に.よって裁判所に.与  

(81) えられた行政事件審判権を侵犯する達意の法律であるとの論旨は理由がない」  

(82) とした。次いで昭和28年(1953年)1月16日,最高裁判所は,米内山事件(青森  

県議会議員除名処分の執行停止事件)で,前記した最高裁判所昭和27年(1952   年)10月15日の決定にそったものであった。以下そ・の事件について考察する。  

〔J事実の概要〕青森県議会議員Yは,昭和27年3月13日の定例県議会の緊急質   問中,弥次がとび,これに.激発せられ「私は自由党の諸君紅申上げているので  

(80)光子 仁イ行政争訟法」233畏。  

(81)最高裁判所・「最高裁判所民事判例集6巻9号」828真。中村沿朗「執行停止」(「行   政判例百選(増補版)」215貰)。  

(82)最高裁判所・「最高裁判所民事判例集7巻1号」12貴。   

(3)

225  

行政事件訴訟法における内閣経理大臣の異議制度(3)  

−β9−  

はなくて,知事さん紅.申上げている。私は諸君のように利権が欲しくて県会議    員になってきているのでほない。土建業者でもなければ馬喰でもない。私はも   

う少し真面目に.県政というものを考えて行きたいために心魂を砕いて申上げて    いる次第であります」と応酬したのである。同人ほ自己の発言に妥当でないも    のがあったことを感じて−,同日取消−の発言を行ったけれども懲罰動議が提出さ    れ,同月15日の本会議で同人の除名が可決された。同人は同月24日青森地裁に    除名処分取消請求の訴を提起するとともに,処分の執行停止の申請をした。青    森地裁ほ,4月28日執行停止決定をした。その後,内閣総理大臣は,5月16日    に.行特法10条2項但書の規定に.基づく異議陳述書を青森地裁に提出した。その    理由としてほ「議員に.たいする懲罰の議決ほ,−・般の行政庁による処分とは異   

り,全く議会内部の紀律を維持するための自律作用として一地方自治法上認めら    れているものであるから懲罰の議決の執行が裁判所の最終判決紅基づかない    で,決定をもって,停止されるということに・なれば,地方議会の自主的な運営   咋・,著しく且つ不当に阻害される結果となり,延いては,地方自治の本旨を害    するに至る戯れなしとしないからである」としたのである。これに.たいして,  

青森地裁は,5月27日,右異議ほ理由の明示を欠く不適法なもので当然無効で    あるとして,さきに.なした執行停止決定を取消さない旨の決定を行った。そこ  

、で,青森県議会は,6月1日,最高裁判所にたいし,青森地裁のなした籍−・の   決定および第二の決定の取消を求めるため,特別抗告をなした。抗告の理由は  

「右・決定は行特法10条4項の規定に.より不服の申立をするを得ざる決定であ    り,かつ該決定ほ三権分立の理を素し憲法算65条及び第76条の規定紅違反する    ものであり,叉木来裁判すべからざるものを裁判したものであって,患法に.適   合しない決定である。又地方議会の自律梅紅ついて,国会は,意法に.よって議   院内部の事項紅関し,各種の自律作用紅倹っているのであるが,地方読会につ   いても,その理は全く同断であって,議会自治の原則,議会の自′律的権能は議   会政治の本質に・縁由するものであって,外部からこれが容易に左右せられるこ   

とに.なれば,議会政治の発展と生命は断たれ,その民主的運営は崩壊する虞が   

ある」として,その取消を求めたのである。   

(4)

簿50巻 第2弓  

ー ■J∂ −   226  

〔涙声理由〕最高裁判所ほこれを棄却した。即ち,「行特法10条2項但書の内閣   総理大臣の異議は,同項本文の裁判所の執行停止決定のなされる以前であるこ  

とを要するものと解するを相当とする。けだし右10条2項は『…・裁判は申立に   より又は職権で,決定を以て,処分の執行を停止すべきことを命ずることがで   きる。但し舶‥川内閥総理大臣が異議を述べたときはこの限りではない』と規定   するところであって,右ほ内閣総理大臣の異議が述べられたときは,裁判所は   執行停止の決定をすべきでないという趣旨の規定であって,停止決定後に.異議   が述べられた場合をも含んだ規定とほ.解せられないからである。さて記録によ   れば,原審が執行停止の決定をしたのほ.,昭和27年3月15日であり,内閣総理   大臣の異議が述べられたのは,右の後である同年5月16日であることが明らか   であるから,本件異議ほ不適法なものであり,したがって,この異議を前提と   する本件抗望もまた不適法なものといわなければならない。そして本件抗告の   対象である原審決定のうち,執行停止の決定ほ何等違法のかどはなく,また執   行停止の決定を取り消さない旨の決定ほ,結局原審ほ本件異議を排斥し,もっ  

I  

て先紅.した停止決定を維持したものであるから,以上当裁判所の判断の結果と   同一・軋帰するものである」と判示した。なお懲罰に.関する裁判権紅ついて,/多   数意見ほ.これを前提としている。   

小数意見(イ)(田中裁判官)本件の除名処分は,議会の内部規律の問題と   して,議会自体の決定に委ねるぺきものであり,司法権の介入の範囲外紅ある  

ものと考える。すなわち,国家内にも種々の社会があり,それぞれの法秩序を  

有している点で,法秩序ほ多元的であり,特殊法秩序に・は仙般法秩序が浸透し   ないで,そ・の社会の自主的決定に.任せられ,裁判所が介入できない部分がある   が,国会や地方議会の懲罰ほこれ紅属する。また議会の決議は外部に.効力を有   しないから,行特法の行政庁の処分といいえず,議会を行政庁といいえない。  

(ロ)(栗山裁判官)地方議会ほ国会の両院と同じく議事機関として内部規則   を定め, 

いる。この点では,国会と地方議会とは差異がなく,窓法58条の懲罰と,忍法  

92条の授権紅基づく地方自治法135条の懲罰とは,裁判所紅.対する関係で異な   

(5)

227   行政事件訴訟法における内閣総理大臣の異議制度(3)  

−−4ユー   

ると・ころがない。ただ,この処分ほ行政庁の処分でなく,これら紅ついては他   の機関の介入ほ許されない。   

補足意見(イ)(呉野裁判官)多数意見を補足するため,正面から前記両裁   判官の意見に反対し,行政処分の取消請求のあった場合に,判決前にこの執行   停止を命じることも当然司法権の範囲に鳳するから,行特法の内閣総理大臣か   異議を述べたときは執行停止を命ずることができない旨の規定は,意法の三権   分立の原則紅反し司法権の独立を害し無効である。したがって,本権異議ほ不   適法であり,抗告ほ棄却さるべきである。なお,自己の争訟の裁定を求めるた   め裁判所へ出訴できることほ,憲法の保障する国民の権利であり,法律上の争   訟はすぺて裁判所の裁定町服する。ゆえに,地方議会の懲罰についても裁判所   が審査できるのほ当然である。  

(:ロ)(斉藤裁判官)執行停止決定に対する本件抗告は抗告期間経過後のもので   ある。執行停止決定を取消さない旨の決定は,その裁判で法律などが憲法紅適   合するか否かの判断を 

いうが,実質は行特法10条3項所定の前項但書の訴訟条件の存否に.関する原決   定の判断を非難するだけであって,民訴419条の2の特別抗告適法の要件を欠  

く。したがって,いずれも不適法として却下すべきである。  

(ハ)(小林裁判官)地方議会の議決中懲罰のようなものは政治作用粧属する   ものであり,また議会の自由裁鼠に属する事項であるといってもよい。したが   って本来裁判の対象とならない。しかし本件でほ,執行停止決定紅対する部分   ほ,抗告期間経過後のものであり,適法な特別抗告ということはできない。執   行停止決定を取消させなかったこと紅関する不服に.ついては,内閣総理大臣が   異議を述べることのできる時期紅ついて違法があるから,適法な特別抗告とい  

うことはてきないから,抗告を棄却すべきである。  

〔検討〕判旨は,行特法10条2項但書の内閣総理大臣.の異議は,裁判所の執行  

停止決定前であることを要し,停止決定後の異議ほ,裁判所を拘束しないと解  

する。これほ憲法73条1項の問題である。判旨は,その理論的根拠とし七,遵  

法の行政処分に.よって権利を侵害されたものが,その救済のために.,処分の取   

(6)

籍50巻 第2号  

− 42 −   228  

消またほ.変更の訴を裁判所に提起し,裁判所がこれに対し裁判をすることは司   法権紅属するとともに,この訴訟紅.関連して,仮の処置として違法と認められる   行政処分の法律効果を判決まで−・時的紅停止することほ,司怯権紅固有な司法   的措置であって,それ以外の何物でもない。行政訴訟だからといって,裁判所   ほ行政府に代行して行政処置をするものではない。すなわち,行政処分の執行   停止を命ずる権限は司法権固有の権能であり,司法作用であって,裁判所の執   行停止の決定があった後紅内閣総理大臣の異議を認めることほ,司法権紅対す  

る不当な干渉を認めることになるとするのである。これに対して,伝統的な行政  

(83) 法学派で内閣総理大臣の異議制度を合意とする学説ほ,内閣総理大臣が理由を  

明示して異議を述べたときは.,それが執行停止前であれば,裁判所ほ執行停止を  

(弘) 命ずることをえず,停止決定後の異議も裁判所を拘束すると解する。すなわち  

行政権の判断と司法権償よる行政的判断との対比において行政権の判断紅優越   性を認めたものといわなくてほならない。そこで,行特法10条2項の規定する   行政処分の執行停止の決定と,これ紅対する同条2項侶書の内閣総理大臣の異   議申立との関係を,どのように解するかが問題である。すなわち,行政処分の   執行停止の決定の性質は∴司法権的作用であって,事実紅法律を適用して暫定   的紅判決を下すことに・よって,仮の処置として違法を認められる行政処分の法   律効果を判決まで−・時的紅停止することば,司法権の作用である,と解すべき   である。行特法10条把規定するがごとく,行政庁の違法処分の取消または変更  

(83)杉村敏正教授は「右の決定要旨の示す行政事件訴訟特例法第10条算2項の解釈が正   当なものであることほ,同条同項の文言上,疑いない」とされている。杉村敏正・「県   

議会議員除名処分とその取消」(「法学論叢59巻3号」110賞〜114貫)。高根義三郎教    授も「特例法10条2項但薔の規定は違億であって無効と考えられるが,有効として  

も,内閣総理大臣の異議闇停止決定のなされる前でなけれは裁判所を拘束しない」と   している。高根義三種・「行政訴訟の研究」108貫。  

(84)田中二郎元最高裁判事ほ「内閣総理大臣は・,執行停止を命ずる決定がなされる前で  

あると,それがなされた後であると問わず,行政茸任者としての立場から見て,行政    処分の執行を停止すべからざる理由を明示して,異議を述べることができると解すぺ   

きである」。田中二郎・「行政処分の執行停止と内閣総理大臣の異議」(「行政争訟の法   

理」202貫〜203貫)。兼子 −・「司法権の本質と限界一青森県議会除 名処分事件紅関   

する最高裁切決定を中心として」(「民事法研究2巻」164賞〜166真)。鯉川一郎・「行   

政争訟法」200頁,205貢〜206京。   

(7)

229   行政事件訴訟法における内閣総理大臣の異議制度(3)   

−4∂−   

を求める訴えがすでに.提起されて,裁判所に係属しているのであれば,それほ   司法関係匹、入っているからである。したがって,暫定的に判断を下して,仮の   処置として違法と認められる行政処分の法律効果を,判決まで−−・時的に停止す  

るところの執行停止の決定も,訴えを提起して,法律を適用して判断するまで   の暫定 

ある。しかりとすれ媒,本来行政庁の権限に属する作用であるが,この訴が裁   判所に係属している場合に.おいて.ほ,その処分の執行を停止する権限をも裁判   所に/認めるのが適当であるとして−,法律が特に・この権限を裁判所に与えてV、る  

とか,あるいは行政処分の執行停止を命ずる権限ほ,司法権固有の権限でほな   く,司法裁判所に認められた−・種の行政的権限に外ならないということはあや   まりである。すなわち判決ほ,事実に対して法を宣言する作用であり,決定ほ   裁判所のなす判決同様の法宣言作用であって,ともに/司法作用である,▲ と考え   なければならない。決定をもって司法作用でないということほできない。さら   に.また但書の規定は内閣総理大臣の異議申立という法律事実がある場合紅.は.,  

執行停止の決定の権限ほ排除されるという法的効果が生ずることを規定したも   のではない。執行停止の決定が,司法権の作用として−・旦有効紅成立した以上,  

この裁判上の効果を行政権に・よって排除し,これを消滅させることは/できない  

のである。但書の異議の申立紅かんする規定は,執行停止の決定との時間的順  

序に.重きを置いている規定である,といわねばならない。内閣総理大臣が−・般  

行政権の最高責任者として,その行政執行の責任を果しうるため紅.は,これ恕  

自己の責任に.おいて,排除する途を開く必要があるとの考慮から,行政権の判  

断と,司法権に.よる判断との対比に‥おいて,行政権の判断に優越性を認めた滝  

のであるという主張は,行特法1d条の解釈をあやまっているものである。すな  

わち,この規定は.,司法権と行政権との二つの権力の競合,調節を計ろうとす 

るに.ある。すなわち執行停止の権限を司法権の中た入れると同時に.,行政権に 

も関与させ,二つの権力の競合,均衝を考慮して:いるものである。以上の諸点  

からみて,行特法10条2項但書の内閣総理大臣の異議は,同項本文に.よる裁判  

所の執行停止決定前に述べられることを要し,その後に.述べられた異議申立は   

(8)

第50巻 第2号  

・−− 44 −   230  

不適法である,とする最高裁の決定要旨の示す解釈が正当であることば.,同条   同項の文言上,疑いなきところである。しかしながら,この理由をもって抗告   を棄却しえる甲は,県議会の除名処分に対する取消の訴を裁判所が審理しえる   こ.と,したがって,右の処分に対して裁判所が執行停止を命ずる決定をなしえ   ることを前提とするものである。右の前提を肯定する多数意見紅対して,田   中,栗山,小林裁判官はこれを否定する小数意見を出している。すなわち田中   裁判官などほ,国会と地方公共団体の議会とは議事機関たる点で同嶋−・の性格を   有するものとして,行特法にいうところの行政庁でほなく,したがってその除   名処分も行政処分でほないというのであるが,その前半ほ正しく,後半は正し   くない。また少数意見は,すべて,議会の除名処分は,議会の内部秩序,ある   いは,内部規律の問題,あるいは政治問題であって,速攻の画題は生じない。  

したがって裁判所の裁判権紅服さないというのであるが,これまた議会活動に   立法以外の作用のあることを着却し,かついわゆる「統治行為説」をとるもの   であって,日本国窟法を正しく理解した所論とはいえない。かつまた本件除名   処分は地方自治法134条,135粂などの礪来す卑ところであ1・つて,裁判権の対象   でないとすることはできないのである。すなわち違法の除名処分は当然,裁判   権の対象となるものと解すぺきである。裁判権の対象とならざる国務行為あり   とする見解は,意壊の規定(別条,32条等)に反するものといわなければなら   ないであろう。   

行訴法下の内閣総理大臣の異議申述を具体的事例について年次別紅.みると,  

昭和42年(1967年)3件,昭和43年(1968年)1件,昭和44年(1969年)4件,  

昭和46年(1971年)2件の合計10件の異議申立が申述され,執行停止が取消さ   れている。次に.処分の内容をみると,いずれも束京都公安条例に.基づく集団示   威運動のデモ行進の進路変更ないし不許可処分に.関する事件が9件であり,飽   の1件は天皇,皇后の広島訪問をめぐる前記と同様に.集団示威遊動紅閲す事案  

(85)  

に射し,内閣総理大臣の異議湛.より決定が取消された事例である。かくのごと  

(85)内閣総理大臣の異議申述によって執行停止め決定が取消された事例としては,   

0 東京地裁・昭和42年6月9日決定(「行裁例東18巻5・6号」737貢),取消決定昭   

(9)

231  

行政事件訴訟法における内閣総理大臣の異議制度(3)  

−−4β−   

く行訴法制定当時に,内閣総理大臣の異議制度ほ「実際にはとんど用ひられなく   しさ6l て終るであろう」とか「実際上は不行使によって陳腐化の道をたどること紅な  

(87)  \  

ろうとも,それは致しかたがないのである」と予想していた伝統的行政法学派   である合意説及び,折衷説の立場に.立つ行政法学者の期待ほ完全紅裏切られた   のである。しかし,他方,行訴法施行当時から考えれば,内閣総理大臣の異議   の中速が当然予想される事例紅ついて,異議申述がなされず,国家的政治に・と   っても相当な重大な事件であつても,新た紅制定された即時抗告の制度償よっ   て行なわれた事例もある。例えば厚生省告示の健康保険医診療報酬引上げの職   権告示の効力停止をした東京地裁の決定紅対する即時抗告紅よる東京高裁の決  

(g8)  

定,デモ行進許可に.付した条件の効力停止をした大阪地裁の決定に対する大阪  

(89) 高裁の決定及び長沼自衛隊ナイキ基地訴訟紅閲する保安林指定解除処分の効力  

く90)(91) の効力停止をした札幌地裁の決定に対する即時抗告による札幌高裁の決定にこ  

和42年6月10日。  

0 東京地裁・昭和42年7月10日決定(「行裁例集18巻7号855真)取消決定昭和42年   7月11日。  

◇ 寮束地裁・昭和42年7月10日決定,取消決定昭和42年7月11日。  

0 束京地裁・昭和43年2月2日決定(「行裁例集19巻1・2号」141貢)取消決定昭   和43年2月2日。   

。東京地裁・昭和44年2月26日決定(「判例時事防53号」32真)取消決虐昭和44年2   月26日。  

0 凍京地裁・昭和44年2月28日決定,取消決定昭和幽年2月28日。  

0 東京地裁・昭和44年11月15日決定(「判例時報578号」22賞)取消決定昭和44年11  

月1(;日。  

0 東京地裁・昭和44年11月16日決定(「判例時報578号」22貰)取消敗走昭和44年11   月16日。  

0 広島地裁・昭和46年4月15日決定(「行裁例集22巻4号516貴)取消決定昭和云6年  

4月16日  

0 東京地裁・昭和46年11月10日決定(「判例時報648号」42貢)取消決恵昭和46年11   月1d日 の10件がある。  

(86)田中二郎イ行政争訟制度の改正」(「法律時報34巻10号」13黄)。  

(87)須貝備一・・「内閣総理大臣の異議」(「法学論叢80巻4号」22京)。  

(88)東京高裁・昭和40年5月31日決定(「行裁例集16巻6号」1099貰)。  

(89)大阪高裁・昭和43年6月15日決定・「行裁例集19巻6号」1089貰)。  

(90)札幌地裁・昭和44年8月22日決定(「行裁例集20巻8・9号」1貢)。  

(91)札幌高裁昭和45年1月23日決定(「判例時報581号」5買)。  

/   

(10)

第50巻 算2号  

−・J6 −  

232  

れをみることができる  。以上みたように,−・般的に.は,内閣総理大臣の異議制   度は集団行動の自由を規制する恒常的な制度の観を呈した。すなはち,異議制   度はデモを禁止するために機能するかのごとくであった。行訴法下では,最高   裁判所の判例は現在までのところでておらない。たださきの昭和42年(1967年)  

6月9日の東京地裁の執行停止決定に対してなされた翌10日の内閣総理大臣の  

異議申述を違憲,違法として,国家賠償を請求した事案紅対して,東京地裁が   昭和44年(1969年)9月26日伝統的行政法学派の合憲説の立場から,内閣総理   大臣の異議ほ違憲ではなく,またその異議理由の適否紅ついて裁判所紅判断権  

(92)  

ほないとして,請求を棄却した。以下その事件について考察する。  

〔事実の概要〕憲法擁護東京都民連合(以下東京護憲連合と略す)が,昭和   42年、(1967年)6月5日,同連合に加盟している各団体の所属員を中心として   昭和42年6月10日,憲法施行20周年を記念し,憲法擁護の趣旨を広く国民紅   訴.え.るため,杉並区役所前から赤坂見附一永田町小学校−国会袈−・特許庁横を   経て日比谷公園まで集団示威運動(以下「デモ行進」と略す)をする許可申請   をした。ところが,東京都公安委員会(以下「都公安委員会」と略す)は,6   月8日付をもって,公共の秩序を保持するためと称して右許可申請の行進順路   のうち赤坂見付交差点一山王下−溜池交差点−特許庁前妃変更するという条件   を付し七許可した。これ紅対し,6月8日,東京護意連合は、,「右条件は忍法21   条が保障する表現の自由を侵害するものであることを理由として,右条件の取   消しを求める訴訟を提起するとともに.,右条件の効力の停止の申立をした。東   京地裁は,¢月9日付をもって,右申立を理由ありとして「本件許可紅つき,  

進路変更に.閲し申立人主張のような条件を付したことは,′被申立人匡おいて前   記規定(都公安条例)の運用を誤ったもので違法といわざるをえない」と判断  

し,右条件の効力を停止する旨の決定をした。6月9日,内閣総理大臣は,東   京地裁の執行停止決定に・対し,本件示威運動は,進路の国会周辺コ」−スに.は,  

国会議事堂,総理大臣官邸などがあり,右コ−スのデモ行進を許可すると,開  

(92)東京地裁・昭和44年9月26日決定′(「行裁例集20巻8・9号」213頁)。   

(11)

233   行政事件訴訟法にやける内閣総理大臣の異議制度(3)   

−47一   

会中の審議が阻害されるおそ・れがあること,デモ行進を行なう集団は,潜在的   に・暴徒となりえ.る危険性を有して:いることなどを理由に,公共の福祉に重大な   影響をおよばすおそれがあるとして,行訴法27条1項に.基づく異議の申述をし  

た。同日,東京地裁は,前記の効力停止決定を取消した。そのため東京護憲連   合ほ,  前記のいわゆる国会周辺コースを通って集団示威運動を行うことができ  

なくなった。そこで,東京謹意連合の代表委員Hは,① 行訴法が内閣総理大   臣の異議を認めているのほ(27条),憲法76条1項,3項が保障している三権   分立,司法権の独立を侵害し達意である。したがって,行訴法27条に基づいて  なされ・た本件異議申述ほ違憲である。④ 内閣総理大臣の異議で執行停止の決   定がくつがえされた場合には,救済の遺がないの咋,裁判を受ける権利を奪う  

ことに.なる。したがって,本件異議申述は,憲法32条が保障している国民の権   利を侵害するものであり,達意である。⑧ たとえ,本件異議申述が違窓でな   いとしても,異議の理由に・は,具体性がなく異議嘩の濫用である。したがって,  

本件異議申述ほ,行訴法27条3項,6項前段に虐められた要件を具備しない違   法なものである等を理由に・,国会周辺コ」−スのデモ行進を行なえなかったこと   は,忍法21条1項紅・よって保障された権利を侵害されたこと紅対する精神的損   害として,国家賠償法に基づき国に対して100万円の賠償考求める訴を提起し   たのである。  

〔判決理由の要旨〕(−・)行訴法27条1項,4項は憲法76条1項に・違反しない。  

意法76条1項ほ憲法41条,65粂とあいまって,三権分立の制度をとることを定   めるとともに.,司法権が裁判所に.専属することを定めたものである。しかし,  

意法に∴は司法権の意義,範囲紅ついて,直接具体的に・定めた規定はなく,司法   権の意義について−は,従来の観念に′従ったものと解される。すなわち,具体的   な法律上の争訟について法を適用して,ある事項の適法,違法を確定し,また   ほ具体的な権利義務の関係を確定する作用を行う権限であると解されるのであ   るが,その対象となる争訟の範囲についてほ,意法32条,76条2項,81条の各   規定が存すること,他方現行窓法には明治憲法61条のような規定卵ないことな  

どを考えると,右にいう争訟軋は民執刑事事件のはか,行政事件を含むもの   

(12)

貨50巻 第2号  

ー ▲ノざ −   234  

となったと解するのが正しいと考える。したがって,憲法76廉1項によって直   接に.裁判所の権限とされる司法権のうち紅ほ,固有の司法作用に・よる確定的法   律判断の結果を有名無実のものとしないために,暫定的法律状態を形成する処   分を行う権限,すなわち,民事上の保全処分を行う権限を含むと解すべきであ   る。ところで行政処分の効力または.執行の停止は,当該行政処分の適法,違法   の確定的法律判断紅.基くものでほないから,行政処分の効力または執行を停止   する権限ほ固有の司法作用を行う権限に・は含まれないのであるが,確定的法律   判断に.至るまでの当事者間の法的状態の暫定的安定を保持し,確定的法律判断   の結果を有名無実のもの忙しないための処分であるという点で,民事事件紅お   ける保全処分の−・つである仮の地位を定める仮処分に・類似するものがある。し   かし,\行政処分は.,いわゆる公定カ,自力執行性を有するものであるから,行   政処分の効力または執行の停止は行政処分たる性質を有するものである。した   がって,行政処分の効力または.執行を停止する権限については,憲法76条1項   に・よって直接に裁判所甲権限とされる司法権に含まれると解すぺきであるとは   断定できない。二っまり,行政処分の効力または執行を停止する権限は,本来固   有の意味における司法権の範囲に属せず,いわば行政的作用であるが,いわ   ば,本来的な行政作用の司法権への移譲紅・はかならない。そ・の権限移譲にあた  

りどのような態様で移譲し,どのように∴司法機関に行わしめるかも,一つに立   法政策の問題であって−,合意逮患の問題は起らない。′したがって,行訴法27条  

1項,4項紅ついて立法政策上の当,不当を論ずる余地は十分に.あるが,憲法   76条1項に.違反するものであるとはいえない。  

(ニ)行訴法27条1項,4項は,憲法76条3項に適反しない。行訴法25粂,27  

琴を綜合して考えると,行政処分の効力または執行の停止紅ついては,司法権  

の機関である裁判所の判断に.対し,行政権の機関の首長である総理大臣の判断  

に優越性を認め,行訴法27条1項,2項,5項の要件を具えた内閣総理大臣の  

異議申述をいわば解除条件として,行政処分の効力またほ執行を停止する権限  

を裁判所に.与えたものと解される。したがって,行訴法27条の要件を具えた内  

閣総理大臣の異議申述は,行政権から移譲され,裁判所の権醸とされる匿至っ   

(13)

235  

行政事件訴訟法における内閣繚理大臣の異議制度(3)   −49−   

た行政処分の効力または執行の停止権限自体を消滅させるものとV、うことがで   きる。このようなことは,裁判所の極限行使の面においては,きわめて異例の   こと軋属するものといえる。そうだからと云って,右行訴法27条に.よって,裁   判官が,行政処分の効力またほ執行の停止を求める事件において,心証を形   成し,決定を下す∴作業をなすに当って,他の行政機関なかんずく内閣総理大臣   から干渉をうけたことに・はならない。また行訴法27条があるが故に・行政権にお   それを抱き,あるいはこれに迎合する裁判官はおそらく皆無であろう。以上の   次発で,行訴法27条1項,4項の規定が,憲法76条3項紅違反するものである  

とはいえない。  

(三)本件異議申述ほ.,窓法32条私達反しない。原告は,内閣総理大臣.の異議   申述は司法的な唯一・の救済方法を閉したこと紅なるから,意法32粂紅違反す早   と主隠するが,行訴法27条の規定が,達恵でない以上,右規定紅準拠して,総   理大臣がその異議権を行使し,その結果,原告が期待した司法的救済の買効を   収めえなくなったとしても,その故に・,異議梅の行使が恵法32条に違反するも   のということはできない。ちなみに,執行停止の権限は㌧,仮処分と同様,本案   訴訟の提起をその前提とし,異議によって失われるのは,停止決定の効力だけ   である。.そして停止決定をなす権限ほ,行政作用ないしは行政的権限であるに   かかわらず,国会の立法に・よって特紀行政機固から司法機関に移譲されたもの   であって,固有の意味払おける司法権紅は属しないものである。′したがっ′て,  

内閣総理大臣が本件の異議を述べたことは,憲怯32粂に.は違反しない。  

(四)内閣総理大臣の異議中速の理由の適否紅.ついては,裁判所紅判断権はな   い。行訴法27条3項,6項前段ほ,いずれも,こと裁判所紅対する関係紅おい   ては,いわゆる訓示規定で奉り,これに・対する適合性の有無ほ,政治責任の問  

題として,国会において検討さるペきことがらであり,適法,1違法の問題とし  

てし,裁判所で審判の対象となる問題でほない。また・,原告損害賠償請求訴訟な  

ら審理できるとの主張に対して−,裁判所に.判断権がないのは,司法権の機関で  

ある裁判所の判断よりも,行政的政治的資任を負う行政機関の首長である内閣  

繚理大臣の判断紅優越性を認めたこと紅.よるのであって,行政処分執行の必要   

(14)

籍50巻 第2葛  

−− 50 −   236  

の緊急性に基づくものではないと解されるから,原告のこ.の主張は採用できな   いとした。  

〔検討〕判決は,現行行訴法の下で,内閣総理大臣の異議制度の合意違憲,異   議理由の適否を問題とした最初の現在において唯一・の判決である。この点に.関   する最高裁の判決は未だ存在しない。本件判決蛛,そのような点でほ.,注目に  価するが,伝統的な行政法学派である合憲説の立場で論旨を展開している。   

まず第一に,判決は,憲法ほ司法権の意儀,範囲について,直接具体的紅定   めた規定はないとして,憲法76条1項の司法権の規定紅偲,民事上の保全処分   を行なう権限を含むと解すぺきであるが,行政処分の執行停止は行政処分たる   性質を有するものであるから司法権に.含まれると解すぺきであるとは断定でき  

ないとし,それほ.本来的な行政作用の司法権への移譲で立法政策の問題であっ   て,憲法76条1項に違反する達意のものではない,と述べている。ところで,  

意法76粂1項に.規定する司法権は,凡そ・国が具体的事実について法を宣言し維  

持することに.よって国民の権利を保障するための作用である。すなわら,司法  

の概念に包摂されるのは,民事,刑事,行政事及び達患事の裁判を含むのであ  

る。行政事の裁判は,行政庁の公権力の行使に・関する不服の訴訟を裁判所にト提  

起し,裁判所がこれ紅対し裁判することは.,司法権に属する。この訴訟紅・関連  

して−,仮の拠置として違法と認められる行政処分の法律効果を判決まで−・時的  

に停止すること紅より,国民の権利を保障することは,同様に民事訴訟に‥おけ  

る確定的法律判断の結果を有名無実のもの紅しないため紅.,暫定的法律状態を  

形成する処分を行なうことに.より権利を保障する,民事上の保全処分と区別す  

る根拠はない。判旨も両者の類似する点は認めながらも,その区別の理由とし  

て,行政処分の公定カ,自力執行カを有している点に.その根拠をおいている  

が,公定カ,自力執行カがあればこそら 裁判所に.おいて執行停止を行う必要も  

でてくるのであって,それは行政庁が自らの権限として行政処分を執行したり  

停止したりすることとは,全く性質の異る作用である。行政訴訟の執行停止も  

民事訴訟の保全処分もともに司法権紅固有の司法作用である。すなわち,行政  

処分の執行を停止する権限は憲法76条1項に.よって直接に.裁判所の権限とされ   

(15)

237  

行政事件訴訟法に.おける内閣総理大臣の異議制度(3)   −5ノー   

る司法権に.含まれると解する。これを否定する判旨ほ,まさ紅.明治憲法下の司   法の観念に・ネ.っているといわねばならない。したがって−,行政処分の執行停止   を裁判所の権限とすることほ,本来的な行改作用の司法権への移譲浸はかなら   ないから,立法政策上の問題であって合意違憲の問題ほ起らなV、ということで   はなく,まさに,行訴法27条の規定ほ,憲法73条1項の司法権に包括された行   政事件に.おける国民の権利を保障する権限を侵害する違窓の規定であるといわ   ねばならない。   

算こに,判決札 内閣総理大臣の異議申述をいわば解除条件として行政処分   の効力または執行を停止する権限を裁判所に与えたものと解される。内閣総鹿   大臣の異議中速私 行政権から移譲され,裁判所の権限となった行政処分の執   行停止権限自体を消滅させる。他方,この制度のために裁判官の判断を左右さ   れることもない。したがって内閣総理大臣が異議権を行使することは,憲法76   条3頓に違反しないと述べている。しかも行訴法ほ,従来の行特法を改悪して   内閣総理大臣の異議中速を裁判所の執行停止決定の前後を問わず題めること紅  なった。その結果,内閣総理大臣の異議申述があった場合,執行停止決定の権   限が排除される法的効果が生ずることを認め,執行停止の決定が,司法権の作   用として一旦有効軋成立した裁判上の効果を行政権紅よって排除し,消滅させ  

ることを規定した。判旨ほ,この点に.つき,裁判所の権蔽行使の面から,きわ   めて異例のことた属すると指摘しながらも,これを是姦し,且つ内閣総理大   臣から干渉を受けたことにならないのである。しかしながら,憲法76条3項   は,裁判官の職権行使の独立義務の趣旨を定めた規定であって,裁判官ほ,特   に.,そ・の良心に従い,独立してその職権を行ない,恵法および法律に.のみ拘束  

されるのである。しかる紅.内閣総理大臣の異議制度は,裁判官の判断を妨げ,  

あるいは,その判断を無紅.してしまうものである。すなわち,執行停止を認め  

るか否かの最終的な判断権が行政権に.留保され,内閣総理大臣の異議申述があ  

れば,裁判所はみずからの認容した執行停止の決定を無条件に取り消さなけれ  

ばならないということ紅.なる。したがって,内閣総理大臣の異議制度は,裁判  

官を絶対的に.拘束し,一方的紅無に.帰せしめるものであるから,憲法76条3項   

(16)

算50巻 第2号  

238  

一 52−  

が裁判官の職権の独立を保障する司法権限紅鳳するから内閣総理大臣という行  

(98) 政権がこれを支配抑制することほ,まさに裁判官の独立軋反する,達意の制度  

であるといまっねばならないのである。  

第三に.,判決は,内閣総理大臣の異議権を認めた行訴法27条の規定が,違憲で   ない以上,右規定紅準拠して,内閣総理大臣がそ・の異議権を行使し,その結果,原   告の司法的救済の実効性を奪うこと紅なっても異議権の行使が憲法32条に∴違反  

しない,と述べている。さて,憲法32粂の裁判を受ける権利を保障する限り,権  

(9塵) 利保護の有効性が保障されていなければならない。すなわち,この保障は行政  

事件に.おける権利保護の有効性を包括するものである。又,行政処分の執行停   止は属事訴訟払おける仮処分と比較し執行不停止と仮処分を排除しているだけ  

でなく,その例外措置としての執行停止紅.厳しい制限の規定(行訴法25条2   項,3項)と共紅,裁判所に.よる公益判断が含まれているのである。そ・れだけす   でに,権利を保全する機会は狭められている。しかもこの制度は,内閣の政治   的・行政的貴任を重視する行政優位と司法不信の思想濫基き,その権利さえも   鉄潤することを許すものであるから,窓法32粂に定める,国民の裁判所に・おい   て裁判を受ける権利を侵害するものである。判決ほ,,この点,単に・行訴法27条   の規定ほ,憲法76条に.違反しない以上異議権の行使が恕法32粂に・違反するもの   ではない,というのほ,窓法32条の問題として論証の必要性を無視した,きわ   めて根拠の弱いものである。要する紅√,窓法32条の裁判を受ける権利に・は,行   政事件に.おける執行停止を求める権利までを含んだ裁判救済梅を保障するもの   であると解する。したがって,内閣総理大臣の異議制度の規定は,′患法32条に  違反するものといわねばならない。   

第四紅.,判決は,行訴法27粂3項,6項前段ほ.,裁判所に・対する関係に・おい   て1訓示規定であり,裁判所は,異議申述の理由の適否に.ついての判断権ほな   い,と述べている。  

(93)今村成和」「国会周辺デモ禁止と内閣総理大臣の異議」(「判例時報587号」108貢)o 

(94)束条武治・「行政事件紅おける執行不停止原則¢再検討(六完)」(「民商法雑誌63   

巻1号」13貢)。東条武治「処分の執行停止と内閣経理大臣の異議」(「法学論叢85巻  

5号」99真)。   

(17)

239   行政事件訴訟法紅おける内閣総理大臣の異議制度(3)    −5β−  

ところで,判決のごとく法律中に訓示規定という曖昧なカテゴリを勝手紅且   つ無反省紅.規定して,国家機関の遵法行為を脱法化しようとする−・般的な傾向   は,明治憲法下において∴辛じて認められたのである。訓示規定を理由に.審査権  

(95)  

を否認することは日本国憲法下に‥おいては到底認められるぺきではない。しか   も今日でほ国民主権の時代であって,国会ほ主権者たる国民を算−・紅代表する   国権の最高機関である。立法機関としても唯一−・のものであって,国会を外紅し  

てほ,当、然紅立法をなしえる機関は他に.ないのである。かかる国会が憲法紅基   いて制定する法律は国民をも拘束することができるのであるから,そ・れが内閣  

(98)  

や裁判所を拘束することは勿論である。   

要する紅,判決がいっているがごとく,訓示規定であるから,異議理由につ   いて裁判所紅判断権がないという制度は,現行患法下でほ訓示規定を否認する   が故私達窓であるということ紅.なる。本件判決は,伝統的な行政法学派の合意   説の立場紅立って論述したものであるが,いずれの理由も患法に.違反するもの  

であるから,賛成することができないのである。  

(五)結  

語   

上述したどとく,内閣総理大臣の異議制度は,行特法立法過程で起きた「平   野事件」紅端を発し,当時の連合軍総司令部の要請によって立法化された。し   かも,次の行訴法の立法過程で廃止する絶好の機会を逸して,行特法よりも更   隼華悪された制度に・なったのである。   

もちろん,それが伝統的な行政法学派で行政権強化主義の立場紅立つ合憲説   に.そ・の理論的基盤をおいていると.とは言うまでもない。しかしト最近の批判的   行政法学派で国民の権利保障主義の立場に・立つ違憲説,違憲の疑いがあると   する説,廃止・削除説,欠陥説,不要説,濫用説等が多数説,一有力説となって   きていることは意を強ぐする。判例の動向紅ついても,行特法下の最高裁の昭  

(95)田畑忍「法規について−の−試論」(「同志社法学74弓」107貢)。杉村敏正・「行政法   講義総論(上)42頁十′43貫。  

(96)磯崎辰五郎・「いわゆる訓示規定について」(「統治行為説批判」210貫)。有倉遮音・   

「行政法における訓示的規定」(「公法紅おける理念と現実」117頁〜119貰)。   

(18)

罪50巻 第2号  

− 54 −   240  

和28年(1953年)1月16日決定は正当である。しかし行訴法下の東京地裁の昭和   44年(1968年)9月26日判決は違憲の判決であって賛成できない。   

要するに,行訴法27条の内閣総理大臣の異議制度は,憲法に二違反する制度で   ある。しかも実際の運用に‥おいても,合憲説の立場紅・立つ学者等に・よっですら  

(97) 「やむを得ない場合」であったかどうか疑わしい事例がみられる。   

それというのも,この制度には,行政権強化主義に基づき,行政優位の官僚国  

(98)  

家思想と公権力優越性の理論が根強く支配しているのである。したがって国民   の権利保障主義に基づき,実質的法治主義の原則をとる日本国窓法どおりに・早   急に改正必要がある。しかし現実の問題として,行訴法27条の達意判決を求め  

(99)  

たり,の改正によることが不可能であるならば,濫用防止に.重点がおかれるこ  

(100) とに.なる。とりわけ裁判所が実質的審査権を行使すること紅.より,運用上濫用  

を防止せしめる方法で,違憲性を少なぐする途をえらぶぺきではなかろうか。  

(97)行政法研究会「行政事件訴訟法の5年をふりかえって」(「ジ′ユリスト383号」50貰)。  

(98)今村成和・「「行政訴訟」(「日本国憲法体系6巻」93貰)。  

(99)図部逸夫・「行訴法27条と公安条例」(「法律時報臨増公安条例」56貢)。  

(100)有倉達吉教授ほ,「行政事件訴訟法第27条の解釈として,総理大臣の異議理由の審    査権が裁判所に認められるぺきである。立法に適意の疑いがある場合,少なくとも立   

法が不当である場合には,解釈に.よって立法を合意化,正当化するようにつとめるこ  

とが当然であらねばならない。…審査棒を否定してはっきり達意なりと割り切る途を   えらぶか,審査権を肯定すること紅よって違憲性の消失に.つとめるべき途をえらぶ   

か,のいずれかであるペきであって,批判的立場を維持しつつ審査権を否定梅を否定す   

やのはすじが通らないとおもう」と言われる0有倉遮音・「裁判所の執行停止と総理大   

臣の異議」(「法学セミナ−137号」43貫〜4碩二)。高田敏教授ほ「同条(行訴法27条)が    合意的なものとして効力を有し得るために」は,内閣総理大臣の異議に.関して裁判所が   

実質的審査権を有すると解すぺきである」と言われる。高田敏・「現代における法治行    政の構造」(「行政救済の諸問題」49真)。尚,米内山事件の算⊥審であ青森地裁(昭和    27年5月㌘日)は「行特法10条2項但沓紅よる内閣総理大臣の異議ほ形式的に理由が付  

せられていてもその理由とするところが異議と揉何ら関連性がない場合,理由が抽象   的で具体性のない場合等は,同条3項紅いう理由が明示されたものということはでき    ない。内閣総理大臣が行特法10条2項紅基き異議を述べるには,必ず係争の当該行政    処分の執行停止によってこいかなる行政上の阻害が発生するかを具体的に.説示し,執行   を停止すべきでない理由を明示すべきであってその理由を欠く異議は不適法であって   同項の異議としての効力を認めることはできない」(「行裁例集3巻4号」799真)と    判示した。この判例は,内閣総理大臣の異議理由につき,裁判所が実質的審査嘩を有   

することを前提にしている,点で敬意を表したい。けたし,本来,法律の解釈として   

は,裁判所ほ異議理由の当否紅ついて判断できないものと解されているからである。   

参照

関連したドキュメント

〔注〕

る、関与していることに伴う、または関与することとなる重大なリスクがある、と合理的に 判断される者を特定したリストを指します 51 。Entity

第四章では、APNP による OATP2B1 発現抑制における、高分子の関与を示す事を目 的とした。APNP による OATP2B1 発現抑制は OATP2B1 遺伝子の 3’UTR

断面が変化する個所には伸縮継目を設けるとともに、斜面部においては、継目部受け台とすべり止め

しかし何かを不思議だと思うことは勉強をする最も良い動機だと思うので,興味を 持たれた方は以下の文献リストなどを参考に各自理解を深められたい.少しだけ案

 条約292条を使って救済を得る場合に ITLOS

 

枚方市キャラクターひこぼしくんの使用に関する要綱 制定 最終改正.. に関し、必要な事項を定めるものとする。