ヨー ロッパ史卒業研究指導の方法 と実践 T
〜 「 卒業研究指導ゼ ミ」 と 「 卒業研究ゼ ミ」を通 して〜
斎藤
泰*
秋田大学教育文化学部
小論の目的は,大学生活の総決算 ともいうべ き卒業研究の指導 について, その方法 と実 践を具体的に報告 しなが ら,大学教育 における卒業研究の重要性 を提 唱 した もので あ る.
国際言語文化課程では,卒業研究 に必要 な科 目として , 「 卒業研究指導 ゼ ミ」 と 「卒業研 究ゼ ミ」を開設す ることによって,効果的な指導を行 うことになった. ヨーロッパ史の分 野では, さらに 「ヨーロッパ史演習」 も開設 し, 2 年間にわたる卒業研究の入念な指導体 制を始めた.特 に 4 年次の 「 卒業研究ゼ ミ」では,卒業研究の完成を目指 して,長期的な 取 り組みを実施 している. まず, レジュメ付 きの報告 と討論を重ねて,卒業研究の地道 な 準備を進め,次 に,添削指導 ゼ ミを通 して,卒業研究の作成 と完成のための懇切丁寧な指 導を続 けている.今や , 「 学部教育」の改善の一環 として, こうした卒業研究 の実質 的 な 指導体制が求め らているのではないか, と結論づける.
キーワー ド:卒業研究, ヨーロッパ史,卒業研究ゼ ミ,学部教育 の向上
Ⅰ. は じめに
本学学部が, 「教育学部」 か ら 「教育文化学部」
へ学部改組 になってか ら 5 年 目にな り, 2 回 目の卒 業生 を,本年 3 月送 り出す.新たにスター トした国 際言語文化課程では,国際化時代 に相応 しい専門科 目や学際的な科 目が数多 く開設 されたのが特色であ るが, 大学生活 の総決算 で あ る卒業研究 ( 以 下 ,
「 卒業論文」 を指す) の指導体制 が よ り一層整 え ら れたの も,注 目すべ き特色であろう.すなわち, 3 年次後期の 「 卒業研究指導 ゼ ミ 」(2 単位) と, 4 年次学生 に履修を義務づけている 「卒業研究 ゼ ミ」
(4 単位)がそれである. 3 年次後期 か らゼ ミ形式 で始 まり, 4 年次,年間を通 して, しっか りと卒業 研究の指導 に当たれば, これ程望ましいことはない.
何 らかの形で改組 ・改革を進 めている全国の諸大学
2 0 0 3
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のカ リキュラムを見て も, あまり見あた らない本学 部のユニークな体制ではないだろ うか. もっとも, 卒業研究 6 単位を加え ると,卒業研究のための単位 数 1 2 とな り,多す ぎないか, という意見 もある. し か しなが ら,在学中の後半,最低 1年半 に亘 る指導 体制をとって,学生が地道 に卒業研究が完成す るよ
うに指導す ることが肝心であろう.
昨今 , 「 学部教育の向上 」( Fac ul t yDe ve l opme nt ) が指摘 され,諸大学で,様 々なワークショップが開 催 されている.その中で,卒業研究指導の方法や実 践がいかに議論 されているか,寡聞に して知 らない が,本来,講義,演習 と並んで, あるいはそれ ら以 上 に,大学教育 において卒業研究がます ます大 きい な比重を占めるのは言 うまで もない.そのためには, 教養教育科 目,専門教育科 目を幅広 く,かつ少 しで
も体系的に履修す る機会を与え,学生の関心を引 き 出 しなが ら,卒業研究 に集約出来 るよう,長期 にわ た って, きめ細やかに指導す ることが不可欠である.
かって見 られたように, シラバ ス上 の建前 に終わ っ
た り,なかんず く自主性 の もとに,学生 に任せ切 り
にす るのは,放任以外の何 もので もな く,今や許 さ
れない.「 学部教育」 の改善を声高 に誼 う限 り, 教
師 自ら, 1 年 あるいは 1 年半 に及ぶ,稔 りある, し か も綿密 な卒業研究の指導がなされて しか るべ きで あろう.
私 は,すでに旧教育学部時代か ら, 4 年次の 「 西 洋史演習」で,卒業論文の指導を実施 して きた. し か し, 4 年次では, どうして も就職活動の ことを考 量せざるを得ず,前期 は隔週の個別ゼ ミに止め,後 期 に入 って,初めて毎週のゼ ミを個別 に行 い,卒論 の準備作業 に着実 に取 りかか るように指導 した. こ れで もかな りまとまった成果が上が ったが,やはり 3 年次か らの準備不足 は否めない. しか も,効率 よ く進めるために, 4 年次当初か ら個別演習の入 るか ら,同 じゼ ミ生のチームワークがあまりな く,何 よ りも相互 に意見を交わす機会がなか った.学年を下 げるの と, ゼ ミ生全員でのゼ ミが望 ま しい, といっ
も思 っていた.
それが,改組で , 「 卒業研究指導 ゼ ミ」 を 3 年次 後期 に新 たに開設す ることによって,長年の願望が 適えた.だが,私 としては, さらに半年早めて, 3 年次前期 に 「ヨーロッパ史演習 」 (2 単位)を設 け,
3 年次初めか ら, ヨーロッパ史 またはヨーロッパ文 化史 に関す るテーマをゼ ミ形式で討論 し合え るよう
に した. こうして,「ヨーロッパ史演習」 か ら 「 卒 業研究指導 ゼ ミ」を経て , 「 卒業研究 ゼ ミ」 へ と段 階的に関連づけて, しか も, 2 年間に亘 って, じっ くりと指導出来 るようにな った. 3 年次の演習 とゼ ミで,学生が 自己の関心、 を自由に選 び,あるいは何 度かテーマを変更す ることも出来たのせ,何 よりメ リッ トなのは, 3 年次の うちか ら,他の学生の報告 を聞 き,様 々な意見や感想を述べ, 自由に討論す る 機会が生 まれたことである. そこか ら自ず とゼ ミ生 のチームワークも生 まれた. これは互 いを知 る好機 で もあ り,願 って もないことである.
もちろん,少 なか らず問題点を残 しているのが現 状だが,旧教育学部時代 も振 り返 りなが ら, 以下,
これまでの卒業研究指導の拙 い実践例を報告 しよう.
「 学部教育」の改善 の一環 として も, 卒業研究指導 の方法 と実践の報告が各方面か ら,様々の形で提示 されて しか るべ きであろう.小稿がその 1つの事例 になれば,幸 いである.
Ⅱ.卒業研究指導の方法
旧教育学部では,講義,講読 と演習 という定型で, 専門教育を行 うのが,一般的であった. この内,演
1 2 4
習が,本来の卒論演習 になるか,講読 と同 じように 文献講読 になるか, は分野で様々であった.私の担 当す るヨーロッパ史では,常 に卒業論文を重視す る とい う教育方針で,演習を 2 つに分 け,文献講読 と しての演習を自由選択 に し, ヨーロッパ史で論文を 書 く 4 年次学生 に限 って,卒論演習を別 に必修 とし て義務づけた.それは,学生の就職活動の ことを考 えて,前期 は隔週か, 3 過 ごとに個別 ゼ ミを行 い, 後期 に入 って,毎週のゼ ミで本腰を入れて卒論の準 備作業 に着実 に取 りかか るように指導 した.そ して, 1 2 月か ら 1 月の卒論提出まで, これまた個別の草稿 添削ゼ ミを行 った. そ して,清書の後, 1 月下旬の 提出で,演習 は終了す る.
ただ, これでは 3 年次向けの対応 は明 らかに十分 でない.それで も,卒論演習 に先立 ち, 3 年次の後 期か ら,学生が抱 く問題関心を何度か聞 く機会を設 け,学年末 までに仮題 と構想を作成 させように強引 に持 っていった.そ して , 「これか らの卒業論文 の ために」 として,『 西洋史 』 ( 研究室論集) に掲載 し た. しか し,演習の開設でないので,定期的に実施 出来なか ったのと,何 よりも同 じ分野の関心を もつ 学生が相互 に意見の交換や議論す る機会 はな く,数 回,個別で検討 したに過 ぎない.
1 9 9 8 年 4 月 スター トした 「 教育文化学部」への改 租では, ヨーロッパ史部門 は,社会教科か ら,国際 言語文化課程欧米文化選修 に移行 した.改組 は,多 様な科 目の開設 による選択の幅を大 きくす ると同時 に,外国語教育の改善 と卒業研究指導の充実化が計 られた. その方針 に沿 って, ヨーロッパ史の分野で は, まず 「ヨーロッパ文化史 」( 「ブ リテ ン文化史入 門 」 ) と 「ヨーロッパ史 Ⅰ 」( 「スイス連邦 の成立 と 発展」 ) を講義 とし,近代史 ・現代史 は集 中講義 で 補 うことに した. さらに,国際化,異文化理解のた めには,外国語文献の講読が不可欠である, という 考えか ら,「ヨーロッパ史文献講読」 を 6 種類 も増 設 し,英語 はもちろん, フランス語 と ドイツ語 によ る原書講読の機会を大幅 に設 けた. しか も,専門科 目は 2 年次か らの自由選択であるが,特 に文献講読 は次年度 も継続 して履修 し,単位取得 で きるよ う,
「 読 も替え」等の措置で柔軟 に対応 している.
卒業研究 に入 る前 の科 目としては, こうした講義 と文献講読の外 に,教養教育科 目に 「ヨーロッパ史」
( 「スイス学のススメ 」 ) と 「イギ リス史文献講読 」
を開設 したが,原則 として,卒業研究の前提 となる
秋 田大学教育文化学部教育実践研究紀要
科 目とは位置づ けていない.履修 に越 した ことはな いが,何 ら縛 る科 目で はない.私 と して は, 講義, 文献講読 そ してゼ ミとい う順序で教育体系 を立てた が,幅広 く,かっ 自由に学ぶ機会 を与え る, とい う 原則 の下 に,卒業研究以外 の科 目には何 ら縛 りを付
けないよ うに している.
このよ うに,専門科 目を段階的 に組 み立 て,同時 に過年度 に亘 って履修す るよ うに工夫 したが, これ で学生 を縛 る意図 はない. ヨーロッパ史関連科 目を 履修す るのは望 ま しいが,全 く強制 は しない. それ で も,文献講読 の履修 は,可能 な限 り学生 に勧 めて いる.英語 もそ うだが, フランス語や ドイツ語で歴 史書 に接す る機会 はあまりない.何 もヨーロッパ史 の卒業研究を考えていな くて も,大学で しか得 られ ない好機 を逃 さないよう, ドイツ語, フランス語 に 少 しで も興味を持っ学生 には, その国の歴史を, そ の国の言語で読 み解 く,またとない機会だ,とアピー ルす る. しか も,半年や 1 年で は短 いので, 3 年次 や 4 年次 にな って も,継続 して履修す るよ うに, や や強引に働 き掛 ける.実際, 3,4 年次生 には, フ ランス語か ドイツ語 の歴史書 を読 む能力をかな り身 につけた学生 もいる し,中には, ドイツ語 とフラン ス語両方 の文献講読 を履修 して,読解力を養 ってい る学生 も数人 いる.
3,4 年次 にな って も, たゆ まず文献講読 を履修 す る学生が, そのまま ヨーロッパ史で卒業研究 を書 くことになるのは, 自然 の流 れであ るが,外国語 に よる文献講読 と並行 して, 出来 るだけ早 くか ら卒業 研究への準備 を考 えていた. そ こで,改組 に当た っ て, 3 年次後期 に 「 卒業研究指導 ゼ ミ」 を開設す る ことには,全面的に賛成であ った. これはいわゆる プ レゼ ミであるが,同時 に,私 は, このプ レゼ ミに 先立っ演習の必要性 を考 えていた. そ こで, 「ヨー ロッパ史演習 」(2 単位) 杏,半期 だが, 3 年次前 期 に開設 した. ただ, この演習 は 自由選択 と して,
ヨーロッパ史 の卒業研究 に不可欠な科 目にはしない.
この演習の狙 いは,少 しで も関心 のある学生が, 自 由にテーマを選 び, その問題関心 をいろいろ模索す ることである.報告者 は, レジュメを自ら作成 して, 履修学生 に配布 し,報告す ること,報告 を聞いた学 生 はその レジュメに基づ いて質疑応答す ること, こ
うした初歩的な発表 の要領 も身 につ ける科 目と して ち, この演習 は役立っ ように した.
幸 い,「ヨーロッパ史演習」履修者 のほとん どは,
そのまま後期の 「 卒業研究指導 ゼ ミ」に流れるので, テーマはだんだん と絞 り込 こまれ るよ うにな り, ま た,報告手順 に も慣れ, ゼ ミ運営 はとて もスムーズ に進む. だか ら, 4 年次 にな って も, これを引 き継 ぐゼ ミが望 ま しい. それが,「 卒業研究 ゼ ミ」 に他 な らない. やや もす ると,本来 の演習が文献講読 と か,演習 ・実習の名で現地視察や調査 にな りがちだ が, そ うな らないよ うに,卒業研究の名を銘打 った ゼ ミを開設す ることは, 当然 の ことなが ら,卒業研 究 の重要性か ら考えて極 めて有益 で あ る. しか も,
4 年次, 1 年間通 して行 うことは,大学教育 に占め る卒業研究 の役割か ら,当然 の ことと言 えよ う. そ して, その方法 は多様であ って も,「 卒業研究 ゼ ミ」
の実施 は,学生 の卒業研究 に直接 に役立っ もの とし て行 われ るべ きである. その進 め方 は, 「卒業研究 指導 の実践」 として,次 の章で具体的 に述べ ること に して, 3 年 目を迎 えた卒業研究の準備段階 として,
3 年次 のゼ ミの改善点 を, ここで述べてお きたい.
先述 のよ うに, 3 年次前期 に, 「ヨー ロ ッパ史演 習」が スター トす る. 自由選択で,誰で も履修 出来 るよ うにな っているが,前 もって,すでに 2 年次学 生 に , 「ヨーロ ッパ文化史」 や 「ヨー ロ ッパ史 Ⅰ」
の講義, または 「ヨーロッパ史文献講読」を通 して, 可能 な限 りヨーロッパ史や文化史 に興味を抱 いてい
る学生 を積極的に勧誘 してお く. ここ 3 年間で, 4 名, 9 名 そ して 1 1 名 の履修学生で, ゼ ミ人数 として
ほぼ手頃だ. オ リエ ンテーシ ョンか ら 2 回 目まで, 演習の進 め方を説明 した後,学生 の問題関心 の調査 を数回繰 り返す. こうして確認 出来 たテーマを一覧 に し,報告 の ローテーシ ョンを決 め,次回か らいよ いよ報告 に入 る. 1 回のゼ ミで, 2 人が報告 し, そ れぞれ 2 人 の質問者 を順番 に指定 す る. 報告 2 0 分, 質疑応答 1 0 分で,必ず レジュメ作成 を義務づ ける.
報告 に先立 ち,必ず事前 に学生 と個別 に打 ち合わ せをす る.選んだテーマに関す る相談 には積極的に 応 じ,文献 も紹介す るし,率先 して学生に貸 し出す.
また, レジュメの作成 も図表を盛 り込んだ分か り易 い ものになるよ うに指導 し,両面 コピーの印刷 を研 究室 コピーカー ドで行わせ る.毎回, こうした細か いア ドバイスを与 えなが ら,内容 はもちろん,報告 の仕方 も自然 に修得 させ るよ うに指導す る.
準備 や報告 の手順 が それ な りに慣 れ て きた 頃,
「 卒業研究指導 ゼ ミ」が 3 年次後期 に始 ま る. この
ゼ ミか ら, 4 年次 の卒業研究指導教師が決 まる.演
習履修者全員がそのままゼ ミに流れる訳ではないが, 既習者 は必ず入 っているので, ゼ ミの要領を改めて 説明す る手間が省 ける. この 3 年間で,指導 ゼ ミの 参加者 は, 3 名, 9 名そ して 6 名である. 3 年 目を 迎えた,本年度の指導 ゼ ミで目立 ったのは,予想外 に盛況だ った, ということだ.何 より履修者全員が これまで以上 に報告 に興味を示 し始 めた. たぶん, 演習 とは異な り,毎回の報告を 1 人 に絞 り,時間に 追われないで, じっくりと報告出来 るようにな った のと, 6 名 という人数が幸 い して,必ず質問す るの を全員 に義務づけたことによるのであろう.工夫を 凝 らした レジュメに惹かれ るだけでな く,報告 に全 員が揃 って耳を傾 けるよ うにな った. もちろん,報 告 には,常 に私 もかな り細部 に亘 って質問責めを怠 らないが,感想で も意見で も, 自由に発言す るよう 全員 に促す と,的を得た適切な質問や鋭 い問題点が 出 くるか ら,お もしろい.教師である私の方が感心 す る時 もある. ゼ ミの進 め方 としては,今年度の指 導 ゼ ミは,予想外 に成功 した, と内心 はっとしてい る. これまでの 3 年間の試行錯誤か ら生 まれた改善 点 といってよい. これが,必ずや, いろんな形で 4
年次の卒業研究 に結実す るのはまず間違 いない.
Ⅲ. 卒業研究指導の実践
卒業研究指導の実践 については ,「 『 卒業研究ゼ ミ』
の実践」 と,「 卒業研究の具体的な指導」 に分 けて, 述べ ることにす る. その前 に,過去 1 5 年間,私が直 接指導 して きた卒業論文 ・卒業研究 について,概観
してお こう.
私が本学 に赴任 した 1 9 8 8 年度か ら今年度 まで,全 部で 6 9 の論文を指導 した. この うち,教育学部社会 科西洋史 の卒業論文 は 5 9 で,残 り 1 0 は,教育文化学 部国際言語文化課程欧米文化選修 としての卒業研究 である.平均 して,毎年 4 名 とな り, 1 人の教師が 指導す る卒業研究の人数 としては,はさ 罰望想的といっ てよい. その年度別の題 目一覧 は,表 3の通 りで あ る.各年度 の題 目か ら明 らかなように,古代か ら現 代 まで,実 に多岐に亘 っている.原則 として,すで に扱 ったテーマを取 り上 げないように指導 して来た ので,内容が重複す る題 目は全 くない.
テーマの確定 に当た っては,前章で述べた 3 年次 の演習 とゼ ミで, まず学生が様 々な関心 を持 って, 自由にテーマを選択す るように促す.学生の関心が 優先す るとはいえ,学生 に任せ きりではいけないし,
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といって,教師の押 しつけで もいけない. テーマ確 定 は,卒業研究指導の最初の要 なので,細心 の注意 を払 う.学生の多様な興味を引 き出 しなが ら,同時 に,出来 るだけ新 しい ヨーロッパ史や文化史の研究 動向を反映す るように指導す る. こうした動向につ いては,学生が十分 に熟知 してないのが普通なので, 私の方か らそ うした新 しい視点や,注 目されている 傾向を示 し, ヒン トを与える. そ して,数回に亘 る 学生 との意見交換を経て, テーマ決定 となる.学生 が抱 く素朴な問題関心 と新 しい傾向が どの程度折 り 合 うか,が卒業研究指導の難 しいところである.
こうしたテーマ確定の努力の効果が,表 3 の題 目 一覧 に鮮明に現れているであろう.各題 目名それ自 体がその証拠である.全 く決 まり切 った題 目にな っ ていない.題 目やサブタイ トルの斬新なネー ミング に,新 しい傾向が盛 り込 まれているよう工夫を凝 ら しているが,何 よりも学生 と教師のせめぎ合 いの成 果なのである.
時代別 に分 けたのが,表 1 である. ほは全時代 に 及ぶが,中世か ら近代 に集中 しているのは,学生 の 自然な感情であろうし,奇 しくも歴史学界の姿を再 現 しているか もしれない.たぶん,文献検索や入手 にもよるのであろう.それは,次の表 2 の,取 り上 げた対象の国別分布 にも表れている. イギ リス, フ ランス, ドイツそ してアメ リカが多いのは, このこ とを裏付 けている.私 としては, こうした大国だけ でな く,ベネルクスやスイスといった小国,北欧や 南欧諸国へ も関心を向けさせ るが,少 し興味を抱 い て も,先行研究の不足か ら, どうして も消極的にな
らざるを得ないようである.
同様 に,東欧諸国 も少ない.実 は,東欧について は , 「 東西冷戦」 以前 に遡 って, 歴史 に限定 せず, 文学,政治,経済や民俗的視点 を織 り交ぜた学際的 研究が出来 るのと,長 い間,我が国の学界では未踏 の分野であるか ら,面白い卒業論文 になるし,何 よ
りパイオニア的研究が出来 る, とかな り誇張 して学
表1 時代別題 目数 時代 題 目数
古代
4
中世
1 8
近世1 5
近代
21
現代
l l
秋 田大学教育文化学部教育実践研究紀要
表2 国別題 目数
国 題 目数
イギ リス 1 3 フランス 1 0
ドイツ 9
アメリカ
5イタリア 3
オース トリア 3 ロシア ( 旧ソ連) 3 アイルランド
2オランダ
2スイス
2ポーランド
2ベルギー
1スペイン
1ハンガリー 1
ノ レ‑マニア 1
トルコ 1
エジプ ト 1
イスラエル 1
イラン 1
オース トラリア
1カナダ
1その他 5
生 に吹聴す るが, これ また乗 って こない.文献 が揃 わないのが決定的なのであろ うが, それ よ り, たぶ ん,教師が率先 してその範 を垂 れねば, と内心 自省
してい る.
さ らに, E U の最新 の動 きか ら,国 に超 え た, い わゆ る 「ユーロ リー ジ ョン」的視点 が注 目されてい るが, アルザ スやオ ランダの題 目は, そ うした傾 向 の表 れ といえ よ う.
私 の講義 や文献講読 で は,「国家 と宗 教 の相 互 関 係」 と 「 歴史 と文学 の交錯」 を, ヨーロ ッパ史や文 化史 を読 み解 く重要 な論点 と して繰 り返 し強調 して 来 てい る.十字軍 や アル ビジ ョア十字軍 か ら 1 2 世紀 イ ングラン ドの王権 と教会, イギ リス国教会 や ネー デル ラン ドの反乱, そ して, フラ ンス革命 の 「 最高 存在」 とい ったテーマは, こうした事例 であ る. ロ ビン ・フ ッ ド論 や中世 ウェールズ論 は, サ ブタイ ト ルの通 り,「 歴史 と文学 の交錯」 で あ り, ア ーサ ー 王 もその一例 で ある.『レ ・ミゼ ラブル』 を手掛 か りに 「 民衆蜂起 とカーニヴ ァル」 を論 じたの も, そ の好例 だが, これは,最新の社会史研究が背景 となっ てい る.社会史 や国制史 の影響 を受 けなが ら,民衆
意識,社会 ・国家意識 や,宮廷 と国王 の儀礼,帝国 クライスあ るいは民衆学校 とギムナ ジウムの関係 な どのテーマが選定 され ることに もな った.
こうした新 しい歴史学 の潮流 をあ る程度先取 りし ている, と言 え るのが,昨年度 の ローマ時代 の 「 社 会基盤」 の整備 や,今年度 の 「 宗教改革 における都 市 と農村」,「バ イエル ン地方 の地域巡礼」であろう.
いずれ も斬新 なテーマだが,「ナ シ ョナル ・トラス ト」 の国民統合 と しての役割 や, 「オ ランダ的特質」
(ワー クシェア リングはその 1 つ) とな る と, 今現 荏,学界や世間で話題 にな っている問題が,十分 に 卒業研究 の対象 にな り得 ることを表 してい る.
なお,技術的な ことだが,表題のネー ミングには, 特 に簡潔かっ 目新 しさを求 めている. 1 冊 の本 を作
る気概 で取 り組 むのが,卒業研究 なのだか ら,表題 もそ うした読者 の 目を引 くネー ミングが望 ま しい, と常 に学生 に促す.だか ら , 「 ‑‑の考察」とか 「 ‑・ ・ ・ につ いて」 とい った月並 みな表題 や,長 った らしい のは避 ける. かな り工夫 された表題 であ るのが, こ れ また表 3 の題 目一覧か ら明 らかで はないだあろ う か.
(1)
「 卒業研究ゼ ミ」 の実践
このゼ ミは,昨年度 の 4 年次 か らスター トしたが, その進 め方 は, それ まで長年,卒業論文 のために開 講 して きた 「 西洋史演習」 と全 く同 じであ る.私 と して は,先述 のよ うに,すで に 3 年 次 末 に, 「卒 業 研究指導 ゼ ミ」 で題 目を確定 し,構想 を提 出 させて いるので, 4 年次早 々の卒業研究 の指導 には入 りや す い. シラバ スには,「ヨー ロ ッパ の古 代 か ら現代 までの中か ら, テーマを設定 して, レジュメ作成 の 上,報告 し,議論す る. その積 み上 げで,卒業研究 を完成す る」 と 「 授業 の 目標」 に誼 て い る. 「授 業 の進 め方」 は, 「レジュメに基 づ いて, 徹底 的 に議 論す る」仕方 で行 うこととし, シラバスの 「メッセー ジ」 に,「 最新 の ヨー ロ ッパ史 の研 究成 果 を的確 に 継承 しなが ら,論文 を完成す る」 とい う留意点 を明 記す ることも忘れない. そ して, 口頭 で, 1 年間 に 亘 る長丁場 の課題が卒業研究 なのであ る, とい う心 構 えを諭 す.
通年 で, 4 単位 を認定す る 「 卒 業 研 究 ゼ ミ」 は, 大 き く 3 つ に分 けて実施 され る.先ず,夏休 み まで
の前期で は,週 3 人 の ローテーシ ョンで,個別 ゼ ミ を行 う. 日時 は,毎回学生 との打 ち合わせで決める.
1年間全体でいえ ることだが,無断欠席 は許 さない
し,時間厳守 は当然である.止むを得ない事情で日 時変更の際には,必ず事前 に連絡す ることを義務づ ける. これには,学生 とのメール交換が とて も便利 だ.「ゼ ミ連絡」の件名で,出欠 だ けでな く, 卒業 研究の進捗状況などで も頻繁 にメールを交わす.
ゼ ミは,学生が作成 した レジュメに基づいて行わ れる.必ず 1 部をコピーさせ, それを見なが ら,学 生の報告を聞 く. 1 度 に報告 されると,論点が拡散 す るので, 2 , 3 に区切 って報告 させ, それぞれ事 実関係の確認か ら始 まって,細部 に亘 る疑問を情 け 容赦な く投 げかける. こうした議論を重ねることで, 理解が深 まり,論点がより明確 になるのは言 うまで
もない.そ して,次回取 り上 げる課題を聞 き出 して 終わる. 1 人 につ き正味 4 0 分前後のゼ ミである.
夏休み明け前後か らは,今度 は,曜 日と時間を固 定 して,毎週 1 回の個別ゼ ミに切 り替える. その初 回に, 3 年次のゼ ミか らの全ての レジュメを揃えて, それを見なが ら,卒業研究の骨格を作 らせ る.私の 意向をかな り押 しつけるようになるが,指導上止む を得 ない. というのは, これまでの報告 だ けで は, 学生 はまだ漠然 した輪郭 しか浮 かんでないよ うだ.
それを軌道修正す ることによ って,全体像が見えて くる. こうす ると,夏休み以降の個別ゼ ミの中身が 一段 と濃 くな り,学生の研究心をか き立てることに なるのは間違 いない.
こうして,およそ 9 月下旬か ら, レギュラーのゼ ミが本格化す る. 1 2 月上旬 まで,学生 は毎週必ず研 究室 に来 ることになる. もちろん,祝祭 日や,会議 で出来 ない時には,必ず振 り替える日を決め, 過 1 回の報告義務を負わせ る. レジュメ も分量 も厚 く, 中身の濃い報告 となるのは, 自然であろ う. とい う のは, この時期 になると,概説書や「般書ではなく, 本格的な研究書や研究論文を読むようになるか らで
ある.難易 に拘わ らず,その問題提起 と論 旨および 論点を的確 に把握 させ, それが卒業研究 に直接役立 つように指導す る. こうした進め方を繰 り返 しなが ら,同時に ,1 0 月下旬か ら 1 1 月にかけて,編別構成 を作 らせ る.学生の素案をたたき台 に,議論 を重ね て, その原案の完成 に至 る.編別構成 は,表題 と並 んで,その論文の完成度 に関わることなので,特 に 熟慮す るように固 く戒める.差 し替えが数回に及ぶ のが普通である.
編別構成が固 まると,ゼ ミ報告は,その構成に沿 っ て行われるようになる.つまり,章 ・節で,手薄な
1 2 8
部分を重点的に埋め合わせ る仕方で,報告を準備 さ せ る.丁度 この時期,欧米文化選修全体の卒業研究 中間報告会があるが,ゼ ミにはほとんど影響 しない.
3 年次以来の着実な積み重ねた成果が, レジュメや 発表それ自体 にあっきりと現れてるので,私が指導
している学生が頼 もしく見えるか ら不思議だ.
1 2 月上旬 まで少 な くとも 1 5 回を数えた 「 卒業研究 ゼ ミ」 は, いよいよ草稿添削ゼ ミに入 る.本学の卒 業研究の提出 日は, 1 月 3 1 日なので ,1 2 月中旬か ら 始めて,およそ 1 ケ月半,草稿作成 と清書の時期で ある. もちろん, これまで も卒業研究の指導である が, これ以降は,卒業研究の完成のための具体的な 指導 となる.
( 2 ) 卒業研究の具体的な指導
何度 も強調 して来ているように,卒業研究 は, 1 年か ら 2 年 に及ぶ長期の課題であ る. 「ヨー ロ ッパ 史演習」か ら 「 卒業研究指導 ゼ ミ」 を経 て, 「卒業 研究 ゼ ミ」を履修 して,継続 して取 り組んで きた学 生 は,今や自ら原稿を書 くことにな る. もっとも, 今 日,誰で もパ ソコン入力で原稿を作 るので,パ ソ
コンに打 ち込むといった方がよいだろう.草稿では, パ ソコンに入力 し,必ずデスク トップとフロッピー 保存を義務づける.草稿を添削 した後,修正 したの をプ リン ト・アウ トしたのが,清書 となる.
草稿の作成 にあたっては,学生 にい くつかの指示 を与える.先ず,編別構成を見なが ら,章 ・節 ごと の予定枚数を聞 き出す. ゼ ミ報告や自主的な勉強か ら, どの ぐらいの分量を考えているか,編別構成 に 書 き込 ませ る. 1 枚 8 0 0 字 として,各章 ・節 ごとに, およその枚数を書 き込 ませ る. ア ンバ ランスな構成 を避 けるためである.私の方針 としては,卒業研究 の枚数 には,特別 に制限を設 けていない.思 う存分 書 くことが何 よりも大事だ, といっ も促 して いる.
目棟 は大 きく ,8 0 0 字で 1 5 0 枚.最初, この枚数 に戸 惑 いを感 じるようだが,完成 してみると,その前後
になっているのに,学生 自身驚いている.
「は じめに」 ( 「 序 」 ) と,「おわ りに」 ( 「むすび 」 )
に各 7 枚前後を割 り当て,計 1 4 枚を引いた 1 3 6 枚を, 章 ・節 に割 り振 る. これは目安であ り,あ くまで も 努力 目標である. この後,「は じめに」 に書 くべ き 最小限の ことを指示す る.取 り上 げた素朴な動機や 問題関心か ら, そのテーマの意義 さらには先行研究 や研究史 あるいは最新の研究傾向 ・視点 に言及す る ことか ら始めて,論文の課題設定 と方法視点を明確
秋 田大学教育文化学部教育実践研究紀要
に打 ち出す. そ して,論述 の手順 を要領 よ くまとめ てか ら,本論 に入 ることになる.
こうしたやや細かい指示 を与 えた後, ただ書 き進 ませ るだけである.明快 に分か り易 く,論理が一貫 した叙述 スタイルを心掛 けなが ら,節 ごとに書 く続 ける. ただ,説明不足 にな らな いよ うに注意 して, 書 くこと,余分 なのは,私 の方でいっで もそ り落 と
してや るか ら, と言 い含 めて,草稿作成 に取 りかか らせ る.
学生 の草稿 を丹念 に読 み,添削す るのは,煩 わ し いが,卒業研究 の指導 に残 された最後 の大事 な仕事 である.「 卒業研究 ゼ ミ」 は, これ まで の レジュメ に基づ く報告 と質疑応答か ら,草稿提 出 と添削 に移 る. まず,「 卒業研究添削 日程表」 を作 り, 学生 が 草稿 を提 出す る日時を決 めさせ る.節 ごとに提出さ せて,添削 したのを持 ち帰 る時,次の草稿を持 って くる, とい う繰 り返 しである. ただ し,添削後 の草 稿をそのまま持 ち帰 るので はな く,私が加筆修正 し た箇所 を学生 に確認 させた り,疑問点や説明不足 な どを指摘す る機会 をその都度設 ける. いっ も数分で 済むが, そ うす ることで,学生 も私 も納得 出来 るも のが仕上が る訳だ.何 もそれまでする必要があるか, と思 われ るが,独 りよが りの文章 にな らないために も,面倒で も目を通すのは欠かせない.投稿論文で い う査読 ほどで はないが,全員 の草稿 を満遍 な く読 み,論理的 に明快 にな っているか, さ らには句読点 の打 ち方 までチェックす る. これで,誤字や打 ち間 違 い, さ らには意味不明の個所 も修正 で きるので, やは り添削 は必要 のよ うだ.
草稿添削 は, 過 1回 とい うよ りは,学生 の努力次 第 なので,週 1 回の時 もあれば, 2 回 になる時 もあ る.学生が草稿 を提出 しない ことには,始 まらない.
草稿提 出 と添削の繰 り返 しがおよそ 1 月 2 5 日の頃 ま で,休みな く続 く.冬休み返上で, いっ も 1 2 月 3 0 日 まで学生 は研究室 に来 る し,正月 は 4 日か ら再開す る. その間で も,添付 ファイルか ファクスで草稿 を 送信 させ る時 もある.
1 月下旬 まで草稿添削ゼ ミが続 き, お よそ 1 4,5 回に及ぶ.添削の後,修正 したのが,パ ソコンに保 存 されて,完成稿 となる. もちろん, その文書管理 は自己責任だ.草稿 は, 4 0 字 ×4 0 行 の 1 , 6 0 0 字 で構 わないが,清書 は, A4 型 の横書 きで, 4 0 字 ×2 0 行 の書式 に転換 させ る. この作業が清書 だが, 当然, 図版,地図や統計表等が貼 り付 ける箇所 を指定 しな
が ら,書式 に転換 しなければな らない.図 ・表 ・写 真 を豊富 に掲載す るのが,論 旨をよ り一層説得的に す る, とい う理 由で,可能 な限 り勧 めている. だか ら,手順 として,所定書式 に転換 し, プ リン ト・ア ウ トした後,貼 り付 けることにな り,最後 に,予想 外 に煩墳 な仕事が待 ちかまえていることになる.頼 もしいパ ソコンで も,仕上が るの に少 な くと も 3 , 4 日はかか るだろ う.
実 は仕上が りに入 る前 に, もう 2 つ面倒 なのがあ る.卒業研究 は学術論文 のスタイルを取 るので,刺 注を適宜挿入す るのが不可欠 だ. 引用 ・参照文献, 説明補充や関連事項,時 には解釈や考 えを 「 註 」 に 書 き加え る.特 に文献掲載 の記述法, とりわけ 「 前 掲書」や 「 前掲稿」扱 いなども, こまめに指導す る 必要がある.かな り技術的だが,面倒 な ことには変 わ りはない. そ して,巻末 の 「 参考文献一覧」の掲 載 も忘れない.
もう 1 つ は, 口絵 の選定である. これは面倒 とい うよ り,楽 しい方 に入 るか もしれない. そ もそ も卒 業研究 は 「1 冊 の本」である, といっ も学生 に言 っ ているので, 口絵 を貼 り付 けるよ うに強 く勧 め る.
幸 い,学生 も好んで掲載す るよ うにな った. ただ, 選定が難 しい らしい. いわば卒業研究 の 「 顔」 にな
る,すぼ らしいカ ラー写真が望 まれ る.学生 によっ て は,数枚貼 り付 けるとか, あるいは自 らの海外旅 行 のスナ ップをち ゃっか り貼 り付 けた卒業研究 もあ
る.
こうした一切 の作業が完了 して, 出来上が りとな る.後 は,製本 して,提 出す るだけである.簡便 な 製本機があるので,何 ら問題 にな らない. 3 年次 の
「ヨーロッパ史演習」 と 「 卒業研究指導 ゼ ミ」, それ か ら 4 年次 に 1 年間 に亘 る 「 卒業研究ゼ ミ」を経て, ここに大学生活 の総決算である卒業研究が完成する.
繰 り返 しになるが,実 に長丁場 の課題であ って, し か も大学で しか経験で きない貴重 な ものと言 ってい いだろう.
なお, こうした地道 な努力の成果 を活字 に残 す, とい う目的で, ヨーロッパ史分野 で は, 毎年 2 月,
『 西洋史』 ( 研究室論集) を編集,発行 している.題
冒, 目次付 きで, およそ 4 , 0 0 0 字前後 の概要 を, 「卒
業研究 の報告 と展望」 として掲載 し, また, 「卒業
研究 を終 えて」で,率直な感想 を自由に書かせてい
る.今年で 1 4 号 になる. これまた大学生活が残 した
貴重 な財産 といえよ う.
Ⅳ. 今後の課題
大学教育 における卒業研究 の重要性 に鑑 み,長年 自ら実践 して来 た, ささやかな実例 に基づいて, そ の指導 の方法 と実践を述べて きた.かな り些細 な事 柄 まで言及 した嫌 いがあるが,今や ます ます きめ細 かな指導が求 め られている, と考えて,敢えて詳述 した. まだまだ試行錯誤 の連続で あ り, もちろん, これか らも一層改善 していかなければな らないので あるが,今後 の課題 として, さ し当た り,次の 3 点 を挙 げてお きたい.
まず第 1 に, ヨーロッパ史や ヨーロッパ文化史 に 関す る邦文文献 の購入である.最近 の研究 は極 めて 多岐 に亘 ってお り,最新 の研究書 か ら一般書 まで, 移 しい数 になる.検索 にはそれ ほど苦労 しな いが, 研究室予算が決定的に不足 しているのが,何 とも悩 みの種だ.卒業研究 に関係す る書籍 は,惜 しみな く 購入す るよ うに しているが,予算 の不足 には勝てな い.卒業研究 とい う種 目の特別予算が望 めない もの であろうか.
第 2 に,欧文文献 を卒業研究 にいかに有効 に活用 させ るか,である. ヨーロッパ史である限 り,外国 文献を読 まないことには始 まらない,というのはもっ ともだ.「ヨーロッパ史文献講読」 を複数 開設 して いるの も, その目的の 1 つ は,卒業研究のためであ る. だが,実際 は,文献講読で身につけた語学力が, なかなか卒業研究 のための文献講読 に活か されてい ない. なぜな ら,外国文献 の選定 と購入 に手が回 ら ない, とい うのが正直な理 由だ. ここで も予算 の問 題が浮上す るが,同時 に,英語 のみな らず, ドイツ 語, フランス語 の書籍 を揃え るのが,今後果たさな
ければな らない課題である, と痛感 している.
そ して,第 3 に,最近 の学生 の関心が ます ます多 様化 してお り,卒業研究 のテーマ も,明 らかに ヨー ロッパ史か ら文化史,比較文化史や民俗学 といった 分野 に も及んでいるので, これ らに も積極的に対応 せざるを得 な くな って きた ことである. この傾向は, 欧米文化選修 にな って顕著であ り,指導す る教師の 力量が問われ る.卒業研究 の指導 においては, 自分 の専門に しがみつ くことは許 されない.表 3 の題 目 一覧か ら明 らかなよ うに,私 は, 自分 の専門の ヨー ロッパ中世史やスイス史にこだわ らず,全時代に亘 っ て幅広 く指導 して来 た. しか し,学生の関心りまそれ 以上 にバ ラエテ ィーに富んでお り, これか らはそ う
した学生 のニーズに応えねばな らないであろう.
1 3 0
こうした課題 を残 しなが らも, 自ら実践 して思 う ことは,今 こそ卒業研究の実質を伴 った指導 それ 自 体が求 め られている, とい うことである.全 く拙 い 実践例を述べて きたが,要 は文字通 りの指導 を教師 自ら率先 して実践す ることである. いかに大学教育 の見直 しとか,「 学部教育」 の改善 とか, を声高 に 唱えて も,実 のある教育 を汗水垂 らして, 自 ら行わ ない限 り,絵 に描 いた餅 に しかな らず, また, それ は何 より大学教師の怠惰 の誹 りを免 れ ないだ ろ う.
今や, 自主性 とか,学生 の判断 に委ね るとか, とい う大儀名文で は済 まされない. 大学 改革 の中で も, 今, 目の前 にいる 4 年次 の学生が少 しで も達成感 を 感 じる卒業研究 を完成す ることが出来 るか ど うか,
は専 ら教師の肩 に掛か っている, と言 ってよいであ ろう.
表
3
卒業論文 ・卒業研究題 目一覧( 1 9 8 8
年度〜2 0 0 2
年度)1 9 8
各年度南北戦争の原因について
イラン立憲革命の研究‑ ウラマ‑を中心 として‑
1 9 8 9
年度フ リー ドリヒ大王の思想 と現実
初期 アイルラン ド民族運動の展開 と意義 ネ ップ研究
1 9 9 0
年度十字軍をめ ぐる中世人の意識 と動向 アル ビジョア十字軍
一中世 ヨーロッパにおける宗教 と政治‑
ドイツ中世都市 の成立 と発展 にみ る ミニステ リアー レン の役割
百年戦争考
アメ リカ ン ・デモクラシーのかげに
‑ ジャクソン時代のイ ンデ ィアン政策一 伝統 を担 う人々
‑1 9
世紀 イギ リスにおけるジェン トルマ ンー ロシアにおける1 9 0 5
年革命の研究ドイツ革命 とは何か‑ ドイツ11月革命の研究‑
ポーラン ド第
2
共和国研究 ヴァイマル共和国 とその矛盾1 9 91
年度マ リア‑テ レジア論考
‑1 8
世紀 オース トリア研究‑ルーマニア民族の国家統一
秋 田大学教育文化学部教育実践研究紀要
現代‑ ンガ リーの 「第
3
の道」1 9 9 2
年度東部属州 における
「3
世紀 の危機」モーツァル トの時代 リンカー ンの実像
1 9
世紀社会 と科学技術‑Br i t ai ni nt heageof St e am‑
1 9 9 3
年度ナイルに生 きる人 々一古代 エジプ トと現代‑
アーサー王伝説 の研究
中世 ドイツの都市 と農村一中世考古学か らのアプローチー レコンキスタのスペイ ン
ひとっの ジャンヌ ・ダル ク像 独立革命前夜 のアメ リカ植民地
‑ マサチューセ ッツを中心 として‑
ナポ レオ ン試論‑ その人物像 と近代化への貢献‑
オース トラ リア多民族社会 の形成 と発展
1 9 9 4
年度ゲルマ ンとラテ ンのはぎまで‑ ベルギー史研究序説一 中世 ウェールズ史論‑歴史 と文学 の交錯‑
「ネーデル ラン ドの反乱」論
‑1 6
世紀 オランダの宗教 と政治‑スイス中立 の起源 とその発展 近世 イ ングラン ドとアイル ラン ド
ー アルスタ‑反乱 を中心 と して‑
1 9 9 5
年度1 2
世紀 イ ングラン ドの王権 と教会 ミケランジェロー その時代 と芸術 イ ングラン ド国教会 とは何か ポー ラン ド人 の民族意識 の芽生え‑分割,蜂起 と挫折 の時代‑
アメ リカ新移民 の夢 と現実
1 9 9 6
年度アル フレッ ド大王の世界
一 ア ングロ ・デーニ ッシュ体制研究試論‑
ロビン ・フッ ド考一歴史 と伝説 の交錯‑
ヴェネツィアの盛衰
‑1 3 ‑1 6
世紀地中海世界を舞台 と して‑宗教,家族 そ して識字化‑ もうひとつの ヨーロッパ近代一 都市 サ ンク ト・ペテル ブル クの実像
ケベ ックに咲 いた "白ゆ り"
一北 アメ リカにおけるもう
1
つの フランスー1 9 9 7
年度表象 と しての最高存在
1 9 9 8
年度ローマ時代 のアフ リカ社会
隔離 された世界 の中へ‑ ドイツ中世都市 とユ ダヤ人‑
1 8 ,9
世紀 イギ リスの都市文化 と民衆意識1 9 9 9
年度宮廷 と国王の儀礼‑一つの フランス絶対王政論‑
民衆学校 とギムナ ジウム
‑近代 ドイツの国家 と社会 との関連 において‑
ラグ ビー .社会 .国家意識
‑1 9
世紀 イギ リスの一断面‑2 0 0 0
年度ア ングロ .ノルマ ン‑海峡を挟んでの統治 市壁か ら中世パ リを探 る
コンスタンテ ィノープルか らイスタンプルへ
民衆蜂起 とカーニヴアルー 『レ .ミゼ ラブル』 を読む‑
現代 イエルサ レム考
2 0 0 1
年度古代 ローマにおける 「社会基盤」 の整備 帝国 クライスの国制的発展
‑近世 フランケ ン, シユヴア‑ベ ンを中心 と して‑
アルザスとは何か一言語,教育 そ して国家‑
2 0 0 2
年度動物か ら妖怪へ‑ ひとつの ヨーロッパ民俗学的試論‑
宗教改革 における都市 と農村
‑ ドイツ語圏 スイスを中心 と して‑
近世バイエル ン地方 における地域巡礼
‑ もう
1
つの対抗宗教改革‑カフェ文化 の世界一近代パ リの社会 と芸術‑
ナシ ョナル .トラス トを読み解 く‑ ブリテン史への試み‑
「オ ランダ的特質」 とは何か