は じ め に 一
鹿 児 島 県 馬 毛 島 訴 訟
( 1
) 本 件 の 概 要
( 2
) 差 戻 審 の 推 移 二
山 口 県 上 関 町 神 社 名 義 地 訴 訟
( 1
) 原 発 立 地 予 定 地 を め ぐ る 訴 訟 の 経 過
( 2
) 差 戻 第 一 審 判 決 と そ の 問 題 点 三
和 歌 山 県 岩 出 市 溜 池 訴 訟
( 1
) 本 件 の 概 要
( 2
) 溜 池 の 所 有 権 を い か に 把 握 す る か
( 3
) 差 戻 第 一 審 判 決 の 検 討
( 4
) 本 件 溜 池 は な ぜ
「 根 来 村
」 に 払 い 下 げ ら れ た か む す び
(
)
─ ─
53
入 会 権 確 認 訴 訟 に お け る 最 近 の 動 向
─
─「 固 有 必 要 的 共 同 訴 訟 論
」 見 直 し 最 高 裁 判 決 後 に お け る
─
─ 矢
野 達
雄
四 五 二 四 五 二
は じ
め
に 平成 二〇
(二
〇〇 八) 年七 月一 七日 に言 い渡 され た最 高裁 第一 小法 廷判 決は
、画 期的 な判 決で あっ た。 入会 権の 確認 訴訟 にお いて
、そ れま で判 例の 採用 して きた
「固 有必 要的 共同 訴訟 論」 は、 実質 的審 理に 入る のを 阻止 す る 役割 を演 じて きた
。リ ーデ ィン グ・ ケー スと され てき たの は、 昭和 四一
(一 九六 六) 年一 一月 二五 日最 高裁 第二 小法 廷 判 決 であ った
。 同 判決 は、
「入 会 権は 権利 者 であ る一 定 の部 落 民に 総有 的 に帰 属す る もの であ る から
、 入 会権 の確 認 を求 める 訴え は、 権利 者全 員が 共同 して のみ 提起 しう る固 有必 要的 共同 訴訟 とい うべ きで ある
」と して
、そ の一 部の 者に よっ て提 起さ れて いる 請求 は当 事者 適格 を欠 く不 適法 なも ので ある とし て却 下し た。 し かし この 理論 を徹 底す ると
、部 落民 の間 に利 害の 対立 その 他の 事情 から 原告 に名 を連 ねた くな い者 がい る場 合、 確認 訴訟 の提 起そ のも のが 不可 能に なる
。こ のよ うな 隘路 を打 開す るた め、 入会 権の 確認 を求 め る原 告は
、訴 訟に 参加 した く な い権 利者 の一 部を 被告 に加 え、 権利 者全 員が 訴訟 に参 加し てい る体 裁を 整え
、実 質的 審理 に入 る道 を追 求し てき た。 し か しな がら 裁判 所は
、こ れら の訴 訟提 起も 前記 固有 必要 的共 同訴 訟の 要請 を満 たし てい ない とし て、 却下 し続 けて きた の で あ この よう な状 態が 継続 して きた とこ ろ、 前記 平成 二〇
(二
〇〇 八) 年七 月一 七日 の最 高裁 第一 小法 廷判 決は
、入 会権 確 認 訴訟 が固 有必 要的 共同 訴訟 であ るこ とは 維持 しつ つ、 権利 者全 員が 原告 とし て名 を連 ねる 必要 はな く、 原告 もし くは 被 告 のど ちら かに はい って いれ ば、 要件 を満 たし てい ると して
、従 来の 判例 理論 を変 更し た。 判決 はい う。
( 1
る)
。
<
論 説
>
修 道 法 学 三 六 巻 一 号
(
) 四 五 一 四 五 一
特定 の土 地が 入会 地で ある のか 第三 者の 所有 地で ある のか につ いて 争い があ り、 入会 集団 の一 部の 構成 員が
、当 該 第 三者 を被 告と して
、訴 訟に よっ て当 該土 地が 入会 地で ある こと の確 認を 求め たい と考 えた 場合 にお いて
、訴 えの 提 起 に同 調し ない 構成 員が いる ため に構 成員 全員 で訴 えを 提起 する こと がで きな いと きは
、上 記一 部の 構成 員は
、訴 え の 提起 に同 調し ない 構成 員も 被告 に加 え、 構成 員全 員が 訴訟 当事 者と なる 形式 で当 該土 地が 入会 地で ある こと
、す な わ ち、 入会 集団 の構 成員 全員 が当 該土 地に つい て入 会権 を有 する こと の確 認を 求め る訴 えを 提起 する こと が許 され
、 構 成員 全員 によ る訴 えの 提起 では ない こと を理 由に 当事 者適 格を 否定 され るこ とは ない とい うべ きで ある
。 本判 決は
、鹿 児島 県西 之表 市馬 毛島 を舞 台と する 入会 権確 認事 件で あっ た。 本判 決に よっ て、 事件 は鹿 児島 地裁 に差 し 戻 され
、改 めて 審理 がや り直 され るこ とと なっ た。 本判 決の 効果 は、 それ だけ にと どま らな い。 本件 と同 じく
「固 有必 要 的 共同 訴訟 論」 に基 づき 門前 払い され てい た他 の訴 訟も それ ぞれ 差し 戻さ れ、 審理 がや り直 され るこ とに なっ た。 全国 的な 動向 は知 悉し ない が、 西日 本の 入会 訴訟 にお いて
、私 の知 りえ たか ぎり でも
、山 口県 熊毛 郡上 関町 四代 地区 の 神 社名 義地 を舞 台と する 訴訟 と、 和歌 山県 岩出 市の 大門 池と いう 溜池 をめ ぐる 訴訟 が同 様に 差し 戻さ れた
。 言う まで もな く、 訴訟 を提 起し た当 事者 たち が裁 判所 に求 めた のは
、審 理が 開始 され るこ とで はな く( もち ろん 審理 が 開 始 され な けれ ばそ れ 以後 の 展開 は望 む べく もな い ので あ るが
)、 入会 権 が存 在す る か否 かの 審 理を 通 じて 自分 た ちの 権 利 の確 認を 求め 併せ て開 発を スト ッ プさ せ るこ とな どを 求め たも ので ある
。そ れ ゆえ
、入 会 権の 動向 に関 心を もつ 者に とっ ては
、こ れら の訴 訟に おい て今 日裁 判所 が入 会権 をど のよ うに 捉え 判断 して いる かこ そが
、注 視さ れな けれ ばな らな い。 本稿 は、
「固 有必 要 的共 同訴 訟 論」 に よっ て 門前 払い さ れて き たこ れら 三 件の 入会 権 確認 訴訟 事 件に つい て
、 差戻 し 後今 入 会 権 確 認 訴 訟 に お け る 最 近 の 動 向
( 矢 野
)
(
)
─ ─
55
四五
〇 四 五
〇
日 まで どの よう に審 理が 展開 して きた か、 検討 しよ うと する もの であ る。 一 鹿 児 島 県 馬 毛 島 訴 訟 本件 は、 平成 二〇
(二
〇〇 八) 年の 最高 裁第 一小 法廷 判決
「固 有必 要的 共同 訴訟 論」 の適 用見 直し を引 き出 した 当該 事 件 であ る。 この 事件 につ いて は、 牧洋 一郎 氏が 訴訟 の提 起か ら今 日ま で詳 しい 報告 と検 討を 適時 発表 して いる
。本 章の 記 述 は、 牧氏 の研
多く を依 拠し てい るこ とを お断 りし てお く。
( 1 ) 本 件 の 概 要
本件 の係 争地 は、 鹿児 島県 西之 表市 馬毛 島( 面積 約八・五 平方 キロ メー トル
)の 葉山 港周 辺の 漁港 とし て利 用さ れて き た 漁 業用 地
(三 字四 筆総 面 積約 二・ 二 ヘク ター ル) であ る。 原 告は
、 こ の土 地は
、 塰 泊 浦
(西 之表 市 塰泊 集落
) の集 落
あ ま どま り
住 民六
〇余 名が 管理
・利 用し てい る共 有入 会地 であ ると 主張 して いる
。登 記簿 上で は三 字四 筆の 土地 であ り、 代表 者四 名 の 共有 名義 とな って いた
。 この 土地 に目 をつ けた 開発 業者 旧馬 毛島 開発 株式 会社
(の ちに タス トン
・エ アポ ート と名 称変 更、 以下
「業 者」 と称 す る
)が
、採 石の 運搬 基地 とす るこ とを 目的 とし てこ の土 地の 買収 を図 った こと が事 件の 発端 とな った
。開 発業 者は
、本 件 開 発目 的は あく まで も採 石運 搬の 便を 図る ため であ ると 述べ てい るが
、軍 事基 地利 用地 への 転用 の影 がち らつ いて いる
。 す なわ ち馬 毛島 は、 在日 米軍 空母 艦載 機の 陸上 離着 陸訓 練( FC LP
)の 移転 候補 地と して 名が あげ られ たこ とが 一再 な ら ずあ った
。ま た鳩 山内 閣時 には
、普 天間 基地 の移 転候 補地 とし て一 時名 前が 浮上 した こと もあ った
。そ の意 味で
、国 家
( 2
究)
に
<
論 説
>
修 道 法 学 三 六 巻 一 号
(
) 四 四 九 四 四 九
の 軍事
・防 衛政 策の 如何 と密 接な 関連 を有 して いる 係争 地な ので ある
。 事件 の経 過は
、以 下の ごと くで ある
。平 成一 三( 二〇
〇一
)年 五月
、登 記名 義人 四人 は、 権利 者約 四〇 人の 同意 を取 り 付 け、 地盤 総面 積の 約六 四% を総 額二 一六 万円 で馬 毛島 開発 株式 会社 へ譲 渡し た。 そし て、 登記 名義 人四 人か ら業 者へ 持 ち 分の 三分 二の 所有 権移 転登 記が なさ れた
。 これ に対 して 住民 等二
〇余 名は
、本 件譲 渡は 島の 自然 環境 破壊 につ なが ると して 採石 工事 に反 対し
、次 々に 訴訟 を提 起 し た。
〔 甲事 件〕 平 成 一三
( 二〇
〇一
) 年 一一 月提 起、 売買 無効 確認
・ 妨害 排 除請 求事 件、 対 象
─字 葉山
、 原告
─ 住民 二二 名
(漁 民一 二名
、非 漁民 一〇 名)
、被 告─ 業者
、登 記名 義人 二名
(A
、B
)
〔 乙事 件
〕平 成 一四
(二
〇〇 二) 年四 月提 起、 土地 所有 権移 転 登記 抹消 手 続請 求事 件、 対象
─字 蜑泊 小 屋お よび 字八 重 石、 原 告─ 住民 二三 名( 漁民 一二 名、 非漁 民一 一名
)、 被 告─ 業者
、登 記名 義人 二名
(C
、D
)
〔 丙事 件〕 平成 一四
(二
〇〇 二) 年九 月二 日提 起、 入会 権確 認請 求事 件、 対象
─三 字、 原告
─住 民二 六名
(漁 民一 二名
、 非 漁民 一四 名)
、 被告
─業 者、 登記 名義 人四 名を 含む 住民 三六 名( 売却 賛成 派) 原告 が、 係争 地は 原告 住民 らの 入会 地で ある
、登 記名 義人 四名 によ る本 件土 地の 売却 は、 各入 会権 者が 有す る処 分権
・ 議 決権 への 侵害 であ り、 入会 地の 処分 は権 利者 全員 の同 意が ない ので 無効 であ ると 主張 した のに 対し
、被 告等 は「 当該 各 土 地は 民法 上の 共有 地で あり
、権 利の 譲渡 は各 権利 者の 意思 のみ で可 能で ある
」と 抗弁 した
。
① 第一 審判 決 鹿児 島地 裁は
、平 成一 七( 二〇
〇五
)年 四月 一二 日、 判決 を言 い渡 した
。甲 事件 およ び乙 事件 が棄 却、 丙事 件は 却下 で 入 会 権 確 認 訴 訟 に お け る 最 近 の 動 向
( 矢 野
)
(
)
─ ─
57
四四 八 四 四 八
あ った
。 甲事 件で は、 入会 権の 存在 を認 めた が、 侵害 が受 忍限 度内 にと どま って いる とし て差 し止 めを 認め なか った
。乙 事件 で は
、使 用収 益権 を根 拠と して は移 転登 記の 抹消 を請 求す るこ とは でき ない とし た。 そし て丙 事件 は、 最高 裁昭 和四 一( 一 九 六六
)年 一一 月二 五日 判決 を引 用し て、 固有 必要 的共 同訴 訟の 要件 を満 たし てい ない とす るも ので あっ た。
② 控訴 審判 決 原告 らは
、乙 事件 につ いて は控 訴を 見送 り、 甲事 件に つい ては 一旦 控訴 した もの の「 第一 審以 上の 妨害 事実 の立 証が 困 難 であ る」 とし て、 控訴 を取 り下 げた
。か くし て控 訴さ れ裁 判所 の審 理を あお ぐこ とに なっ たの は丙 事件 のみ とな った
。 そし て丙 事件 につ いて
、控 訴審 の福 岡高 裁宮 﨑支 部も
、平 成一 八( 二〇
〇六
)年 六月 三〇 日、 一審 判決 と同 旨の 却下 判 決 を言 い渡 した
。
③ 上告 審判 決 これ に対 し原 告ら が上 告し
、平 成二
〇( 二〇
〇八
)年 七月 一七 日、 最高 裁に おい て原 判決 が破 棄さ れ、 第一 審に 差し 戻 す 旨の 判決 があ った こと はさ きに 記し た。
( 2 ) 差 戻 審 の 推 移
丙事 件は 第一 審に 差し 戻さ れた が、 その 後審 理は 進ん だの であ ろう か。 牧氏 の報 告に よる と、 実質 的審 理は 全く 進ま な か った ので ある。 差 戻し を受 け た鹿 児島 地 裁の 審理 の 模様 は、 つぎ のご と くで あっ た
。 裁判 官 は、
「 原 告の 二六 名 と被 告の 三 六名 が入 会
<
論 説
>
修 道 法 学 三 六 巻 一 号
(
) 四 四 七 四 四 七