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大学生に及ぽす動作法の効果についての一考察

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(1)

大学生に及ぽす動作法の効果についての一考察

吉 岡  伸*・高畑千秋**

(1996年11月1日受理)

On the Effects of Dousa method on College Students.

Shin YosH10KA*and Chiaki TAKAHATA**

(Received November 1,1996)

1.目   的

成瀬(1973)の脳性まひ児・者の動作不自由改善のために開発された動作訓練は,その後の経過のな かでこの訓練を適用する対象が精神遅滞児,自閉児,精神障害者,健常児やスポーツ選手などにま で拡大されてきている。それに伴い,動作訓練よりも動作法という呼称が使われるようになってき

た。

動作法は,動作を通したコミュニケーションをもとに自分の身体をあらためてとらえなおすととも に,自分が自分の身体に能動的に向かい合い,自分の身体を意図的に緩めたり緊張させたり,動か したりするという主動感を確実に体験することを通して,主体的な自己活動能力を高めるものであ るといわれている。

ところで,動作法的観点から身近の大学生を観察すると,肩すぼあ,前屈み,猫背あるいは歩行の 流暢さの乏しさ等の「からだの使い方の拙さ」を示している事例が,あまり目立たないほど存在す ることに気付く。試みに両肩をすぼめている事例に尋ねてみると,その多くから「日常的に肩がこ り易い」という答えが返ってきた。その中の一,二の事例に,試みに一,二回程度の「両肩の開き」

の訓練を行なうと,肩すぽめの程度が弱まり,「肩が軽くなった」などの感想を聞くことができた。

そこで,子どもよりも体験過程を的確に言語化することができる大学生の対象者に動作法を適用し,

①訓練による姿勢の変化,②身体の不当な緊張や弛緩に気がついていく過程,③身体的・心理的体験 についての内省報告,の諸点から,動作法が適用されるることにより,トレーニー(train−ee,対象者)

自身はどのような体験をもつのか,ということについて明らかにすることを本研究の目的とする。

*茨城大学教育学部教育保健講座(〒310−8512水戸市文京2丁目1番地;Laboratory of Educational Health,Faculty

of Education,Ibaraki Univelsity,Mlto,lbaraki 310−8512 Japan).

**

㍾ェ県立石見養護学校

(2)

76       茨城大学教育学部教育研究所紀要第29号(1998)

2.方   法

(1) トレーニー

一肩こりなどの身体の不快感または姿勢の悪さを感じたり,人から指摘されたことのある大学生20 名(男子4名,女子16名,合計20名)を対象とした。なお,これらのトレーニーの中には,特別体調 の悪い者は含まれていなかった。

② 実施期間および場所

平成7年8月から11月までの間に,茨城大学教育学部の2つの教室で,1人につき2セッションを 原則として訓練を実施した。なお,身体の慢性緊張の強さため訓練課題を達成出来なかった対象者 には,都合のつく範囲で4セッションまで訓練を継続した。

(3)実験手続き

訓練開始前,本実験は,動作法を行うことによりからだやこころにどのような変化が生じるかを調 べるためのものであり,トレーナー(trainer:訓練者)の援助に合わせて緊張を緩める努力をするとと

もに,訓練中および訓練前後における身体的並びに心理的体験を報告してもらうことを対象者に説

明した。

1セッションの訓練時間は約40分程度とした。訓練前後に立位・あぐら座の姿勢を前後左右から8 ミリビデオカメラ(SONY CCD−V8AF)に記録し,今野(1990)による自己像に関する質問紙の各項 目を「全くそう思う」から「全くそうは思わない」の5段階に評定した結果を記入してもらった。な お,質問項目は因子ごとのまとまりがないように配列した。主な訓練として,仰臥位における腕の 腕あげ動作コントロール訓練(両側),あぐら座位における肩の開き,側臥位における躯幹のひねり を用いた。訓練中または訓練後に,身体的並びに心理的体験,さらに弛緩感覚のそれぞれについて 内省報告をしてもらった。

(4)動作法の訓練

トレーナーは,訓練を進めていくなかで,トレーニーが肩や腕,背中などの緊張を弛緩できたとき には「そうそう。今の感じだよ。」と告げ,逆に,慢性緊張を出してきたときには「それは違うよ。」

と知らせるなど,トレーニーの身体に起こっていることを言葉によってフィードバックし,身体感 覚をはっきり感じとれるよう援助した。また,トレーニーが弛緩できたり,慢性緊張を出してきた ときに,「今,どんな感じがしますか。⊥「どういう努力をしましたか。」ということを報告するよう に促した。

(5)自己像に関する質問紙

緊張の弛緩による自己像の変容を把握するために,今野(1990)の用いた28項目からなる質問紙の うちの26項目を用いた。これらの質問項目は,「身体的なレベルの自己像」と「精神的なレベルの自 己像」によって構成された(表1参照,第4因子に属する2項目を除外)。

⑥ 動作法による姿勢の変化の分析

動作法の適用により,訓練前後で姿勢がどのように変化したか,さらに訓練によって身体にどのよ うな効果を及ぼしたかを明らかにすることをねらいとして分析を行った。

訓練前後に記録した8ミリビデオカメラによる録画を再生し,その再生画像から,立位姿勢の正面

図の輪郭をトレーシングペーパーに写し取り,訓練前後を比較した。その際トレーシングペーパー

に写し取ったものは,平面的なものであるため,前後左右から記録した8リビデオ画像及びトレーナー

(3)

の直接観察の記録を合わせて,姿勢の変化を検討した。

姿勢の比較は,以下の組合せのとおりに行った。

・第1セッション訓練前後

・第1セッション訓練前一最終セッション訓練後

ここでいう最終セッションとは各トレーニーの最後のセッションを指さしている。トレーニーによ って,その最終セッションは第2セッションや第3セッションとなる。

(7)自己像に関する質問紙の訓練前後の変化の分析

動作法の適用により,三つの因子(「他者の目を通した自己評価」,「自己の充実感と肯定的自己評 価⊥「身体の広がりと力動感」)からなる自己像の変化を検討するため,質問紙の項目を因子別に配 列し直し,各項目に対する「全くそう思う」から「全くそうは思わない」までの5段階の回答に,1−5 点を配置した。その配点をもとに,項目別に,第1セッション訓練前後および第1セッション訓練前 一最終セッション訓練後のそれぞれの時点における平均得点を算出し,比較した。さらに,3因子間 の相関関係をピアスンの相関係数によって検討した。

(8)身体的・心理的な体験および弛緩感覚についての内省報告の分析

訓練中及び訓練前後において,トレーニーがどのような体験をするのかを明らかにすることをねら いとして分析を行った。

訓練中,「今どんな感じがするか(しているか)」「どういうふうに弛緩したか」ということを説明 するよう促し,さらに訓練後に,遡って訓練中・訓練前のことも含めて,現在,身体的に感じている こと,心理的に感じていることなどを報告してもらった。その記録をもとに,動作法が身体的・心理 的にどのような影響を及ぽすかについて,共通点を検討した。

3.結果と考察

(1)動作法による姿勢の変化

姿勢の悪さや身体の不快感を感じているトレーニーの姿勢をみると,訓練前では,右肩を前に突き 出し,左肩を後ろに引いた状態,左右の肩の高さの違い等の,左右の肩のバランスの悪さや肩が前 屈みの(従って背中が丸まった)状態がみられた。これらの姿勢は,肩や背中または腰に固さがみら れたことから,身体の筋緊張一弛緩の不均衡のために引き起こされたと考えられる。訓練後,ほと んどのトレーニーにおいて,肩が下がったり,背筋が伸びたことから,姿勢改善とまではいかない までも,姿勢が改善されつつあることはいえるだろう。例えば,図1に示す第20トレーニーの身体 像をみると,訓練前は右肩を前に突き出し,左肩を後ろに引いた状態だったのが,第1セッションの 訓練後には,左肩の引いた状態が解消し,最終的には右肩の突き出しもみられなくなった。さらに,

背筋も伸び,肩や頭の位置に変化がみられるようになっている。このことは,動作法が提示する重

要な課題の一つである「身体の不当な緊張を弛緩させること」ができたためと考えられるだろう。第

2及び10トレーニーの場合には,身体像の変化がみられなかったことから,一見,動作法で身体の

筋緊張一弛緩の均衡化を図ることができなかったかのように思われる。しかしながら,身体像には

現れていないが,トレーナーとトレーニーとの訓練中のやり取りのなかでは,不当な緊張を弛緩さ

せることができていた。また,訓練後に身体が軽く感じられるという内省報告を得ることができた。

(4)

78      茨城大学教育学部教育研究所紀要第29号(1998)

訓練前

訓練後       、

ヒ   一  層   一

@      、

@      、

、 亀噛

       隔              、      6り

@口唖       、      一       ●軸

h       、

x       、              、

、              、 A              、

f、  !      、 、              1

       、      1      、     

@       、     

A       1       

、、

@、 @ 、

㍉㍉         r

@       t       

①第1セッション 訓練前   ②第1セッション 訓練前 第1セッション 訓練後    最終セッション 訓練後

図1第20被験者の身体像(正面)

(5)

つまり,姿勢改善,姿勢変化まではいかなくとも,その前段階として,自分のからだに対する受け 止め方の変化は現れている,といえるのではなかろうか。

② 弛緩感覚に関する報告

姿勢の変化において,トレーニーは様々な弛緩感覚を味わっていることが,トレーニーの内省報告 から知ることができた。

ほぼ全員にみられたのは,「痛い」という感覚であった。しかし,その程度はトレーニーによって まちまちであった。痛みを強く感じたトレーニーは,「痛い」という感覚が強すぎるため,トレーナー が「緩んだ」と感じ取っても,トレーニー自身は「緩んだ」という弛緩感覚を味わうことができな

かった。

痛みだけを感じ,弛緩感覚を味わうことのできなかったトレーニーは,トレーナーが与えている訓 練課題を,実際には達成していても,からだに起こっている変化を感じ取ることができなかったと 思われる。つまり,トレーニー自身が弛緩していても,それに気づくことができなかったといえる だろう。しかし,訓練を重ねていくうちに,痛みが軽減し,訓練課題をスムーズにこなすことがで きるようになった,という内省報告を受けた。それは,自分のからだに主体的に関わることができ るようになったため訓練課題が明確化し,それに取り組みやすくなってきたためと考えられる。

痛い箇所に訓練課題をみいだしたトレーニーは,痛みをある程度受け止め,「肩が開いていく感じ がする」,「スーッと動いた」,「ふっと軽くなった」などの「緩んでいく」感覚が分かったという内 省報告をした。それは,痛いところに集中して緩めようとする,という弛緩の方法が分かり始めて

きたからだと思われる。実際に,弛緩感覚が分かったトレーニーは,「痛いところに集中した」,「力 を抜いた」,「感覚的に緩めた」という方法で弛緩していた,という内省報告をした。また,弛緩感 覚が分かっていても,弛緩の仕方を報告することができないトレーニーがいたが,それは,自分の 身体の変化に気づきはじめたところであり,訓練を繰り返していけば,その気づきが鋭敏化され,弛 緩の方法が分かり,報告することができるようになるのではないかと思われる。

これらの内省報告から,自分のからだの変化を感じ取り,自分のからだに主体的に関わったことに より,動作や自分のからだへの気づきが鋭敏化されていったと考えられる。同時に,訓練のなかで,

不当な緊張を緩めるための努力が適切に実行できるようになったことから,意図と身体運動が結び つき,からだを適切に動かすことができ,弛緩感覚や身体感覚としてそれをとらえることができる ようになったたためと思われる。

㈲ 身体的・心理的体験に関する内省報告

多くのトレーニーが,「肩が軽い」,「解放感がある」,「自由に動く感じがする」などと身体の状態 の良さを感じ,次いで,「気分爽快な感じがする」,「ゆったりとした感じがする」,「気分が明るくな ったようだ」といった気分の良さを示す内省報告が多くみられた。身体の変化は,自分のものとし て最もとらえやすいものなので,身体の状態が良ければ,それに伴って,気分の良さを感じること ができるのであろう。

まず,身体の状態に関わる内省報告についてみてみよう。「腕を回したとき,思ったように回らな

い」,「自由に動かない」,「自分の身体に対するイメージが崩れた」といった身体に対する気づきの

内省報告があった。これは,自分の身体と訓練のなかで主体的に関わり,動作や自分の身体への気

づきが鋭敏化されていったことから,改めて自分の身体をとらえ直すことができ,訓練前には感じ

ていなかった身体の違和感や不自由さというものを感じ取ることができるようになったためと思わ

(6)

80       茨城大学教育学部教育研究所紀要第29号(1998)

れる。さらに,訓練後の後日談として,「姿勢を気にする」ようになったとの報告が得られた。この ことは,自分の身体をとらえ直そうとする,こころの働きが高まってきているということを示すと 考えられる。また,「血行がよくなった感じがする」,「肩が温かい感じがする」といった身体に対す る温かみを感じたという内省報告があった。このことは,身体の不当な緊張が,訓練により弛緩さ れ,適切にその部分を動かせるようになったためと思われる。さらに,視界の変化を報告するトレー ニーがいた。それは,訓練により背筋が伸びたり,肩が開いたこと,つまり,身体(上半身)の歪み や不調が改善されたことによって,目線の高さがより高くなったなどの結果であろう。

それらの積極的なものとは逆に消極的な内省報告もあった。トレーニーの中には,訓練前と比べて,

身体にあまり変化がないという報告をしたものがいた。これは,固さが大きすぎ,そのため,緩ん だことに気づけなかったためと思われる。トレーナー側からすると,実際には弛緩することができ ていたので,トレーニー自身がそれを感じ取ることができなかったと思われる。さらに,身体に対 して不快を感じたトレーニーもいた。このことは,トレーニーが訓練に積極的に取り組めておらず,

トレーナーから与えられた訓練課題に対して受動的であったためだと考えられる。

一方,気分の良さを報告したトレーニーもいた。「気分が明るくなった感じがする」,「世界が明る く見えるようだ」といった具体的な内省報告がみられたことから,訓練により身体の不当緊張が弛 緩されてその動きが円滑化したのに伴い,こころの動きも活性化され,自分に対してのみならず外 界にも意識を向けられるようになったためではないだろうか。その度合いがより進んだトレーニー からと考えられるが,「身体を動かしたい」,「どこかへ出かけたい」という活動的な気分に関する内 省報告も得られた。

以上のことから,こころとからだの結びつきを妨げる要因であった身体の不当緊張を弛緩させるこ とにより,姿勢が改善されていく傾向がみられた,と言うことができよう。身体の不当な緊張を弛 緩させていく過程において,トレーニー自身が自分の身体に向かい合い,能動的に自分の身体に関 わっていくことによって,こころとからだに対する主体的な活動を体験できるようになったのでは ないだろうか。その結果,トレーニーは,訓練中や訓練後に弛緩感覚,身体的・心理的体験について 様々な内省報告をすることが可能になったと考えられる。

すでに述べたように,自閉症児や多動児の多くは,腕や肩を弛緩したあとに,自分の腕を不思議そ うにじっと見つめたり,腕をさすったり,つねったり,動かしたりする行動を示し,さらに,多動 行動や固執行動などに顕著な改善が生じ,対人関係においても著しい改善が生じることがみいださ れている。この場合,彼ら自身が感じたことを報告することが困難であるため,どのような仕組み で行動変容が起こっているのか明らかにできないないが,彼らも本研究で得られた体験過程を同じ ように感じているのではなかろうか,と推測される。訓練課題を通して,自分自身のからだに注意 を向け,能動的に働きかける活動を通して,身体の不当な緊張に対する意図的な制御能力を高める ことができるようになり,さらに,自分自身や外界を受け止める態度がより柔軟なものとなり,主 体的な自己活動能力が高まっていると考えられる。

(4)自己像に関する質問紙の回答における訓練前後の変化

第1セッション訓練前と最終セッション訓練後に実施した質問紙(26項目)に対するトレーニーの 回答から,回答時点及び項目別に20人の平均得点を算出した。それらと両者間の差を三つの因子ご とに整理して表1に示す。

表1より,まず,第1因子「他者の目を通した自己評価」に関しては,10項目中6項目において,

(7)

表1訓練前後における質問紙に対する平均得点(N=20)の変化

因子 質問項 目(番号) 訓練前 訓練後 後一前

1)自分が他人にどう思われているか気になる

2.1

2.5

04

2)人に会うときどんなふうにすれば良いか気になる 2.1 2.4 0.3 3)自分の発言を他人がどう受け取ったか気になる 2.2 2.4 0.2

第 4)人に見られているとつい格好をつけてしまう 2.9 2.9 ±0

1

5)自分の容姿を気にする 2.4 2.5 0.1

6)自分の噂に関心がある 2.5 2.6 0.1

子 7)人前で何かするとき自分の姿や仕草が気になる 2.6 2.5 一〇.1 8)他人からの評価を考えながら行動する 2.8 2.7 一〇.1 9)初対面の人に印象を悪くしないように気を使う

2.1

2.2

0ユ

10)他人の目に映る自分の姿に心を配る 2.7 2.9 0.2

11)自分の性格が変わった感じがする

3.1 34

0.3

12)自分から進んで嫌なことに取り組める 3.2 2.8 一〇.4 第 13)心が他人に対して開いている感じがする 3.0 2.7 一〇.3

2

14)心が広くなった感じがする 3.0

24

一〇.6*

15)物事を素直に認められる気がする 2.8 2.6 一〇.2 子 16)自分の考えをはっきりと主張できる気がする 3.2 2.8 一〇.4 17)今なら何でも受け入れられる気がする 3.4 2.8 一〇.6*

18)悩みがあるとすればそれが減少した気がする 3.3 3.0 一〇.3

19)身体が軽い感じがする 3.8 2.0 一1.8**

20)肩が広がった感じがする 3.7 2.0 一1.7零*

第 21)肩が自由な感じがする 4.0 2.0

一2.0林

3 22)気分が良好な感じがする

3ユ

2.3

一〇.8**

23)腹部が広がった感じがする 3.2 2.6

一〇.6**

子 24)身体が自由に動く感じがする 3.4 2.3 一1。1**

25)身体に緊張を感じない 3.6 2.3 一1.3**

26)身体のバランスの状態が良い感じがする 3.8 2.8 一1.0**

* サインテストによる検定結果を「前一後」欄の差の数値の右肩に付けた。

*は5%,**は1%水準で有意差が認められたことを示す。

(8)

82       茨城大学教育学部教育研究所紀要第29号(1998)

表23因子間の相関係数

因     子 第1×第2因子 第2×第3因子 第1×第3因子

第1セッション訓練前

一〇.00 0.28 一〇.02

〃  訓練後

一〇.22 0.36 0.00

最終セッション訓練前

一〇.17 0.36 0.13

〃  訓練後

一〇.40

0.57***

一〇.14

第1セッション訓練前と

最終セッション訓練後

一〇.42

0.71***

一〇.02

注)有意差の見られたr=0.57のt=2.94(df=18, p<.Ol),及びr=0.71のt;4.28(df=18,

P<.01)。

訓練後にごく僅かの得点の上昇がみられた。サインテストによる検定の結果は,全項目において有 意差は認められなかった。次に,第2因子「自己の充実感と肯定的自己評価」に関しては,8項目中 7項目において,訓練後に得点の低下がみられた。検定の結果は,訓練後の得点が低下した「14)心 が広くなった感じがする」,「17)今なら何でも受け入れられる気がする」の2項目において15%水 準で有意差が認められた。さらに,第3因子「身体の広がりと力動感」については,19)から26)ま での全8項目において,1%水準で有意の訓練後の得点の低下が認められた。以上より,動作法を適 用したところ,第3因子「身体の広がりと力動感」が最も顕著に変化したのに対し,第2因子「自己 の充実感と肯定的自己評価」の変化は僅かの程度の止まり,第1因子「他者の目を通した自己評価」

にいたってはほとんど変化は見られなかったといえる。

質問項目別に,第1セッションの訓練前後間及び最終セッションの訓練前後間,さらに第1セッシ ヨンの訓練前(訓練開始前)と最終セッションの訓練後(訓練終了後)間それぞれの得点変化に対し,

サインテストにより有意差検定を行なったところ,1%または5%水準で有意差の認められた得点変 化は,全てが「訓練後」において得点の低下するものであった。なお,第1因子の各項目については,

有意差は認められなかった。

項目ごとにみると,第1因子「他者の目を通した自己評価」に関しては,三つの比較の全てにおい て有意の得点変化は見られなかった。まず,第1セッション前後の比較の場合,有意差は,第2因子 の2項目(「14),17)」),及び第3因子の7項目(「19),20),21),22),24),25),26)」)において,

有意な変化が認められた。次に,最終セッション前後の比較においては,第2因子の6項目(第1セ ッション前後における「14),17)」に加えて「12),13),15),18)」),及び第3因子の全8項目(第 1セッション前後の場合の7項目と「23)」)において,有意差を伴う変化が認められた。さらに,第 1セッション訓練前と最終セッション訓練後の比較においては,第2因子の2項目(「14),17)」),及 び第3因子の全項目において有意な得点変化が認められた。

有意差検定の結果から,次のように言えよう。先ず,第3因子に関しては三つの比較時点の全てに

おいて有意差を伴う得点の低下が見られた。これは,訓練の効果が,訓練初期から迅速に,そして

セッションの進行に伴って持続的に現れることを示すと考えられる。それに対し,第2因子において

は,第3因子よりももっとゆっくりと訓練効果が現れると言えるのであろう。しかし,第1因子に関

しては,3比較時点の全てにおいて有意差が見られないが,ここに属する項目の中には有意差を窺わ

せるものもあるので,この因子にまで訓練効果が及んでいるのか否かについては即断できないよう

(9)

に考えられる。結果として,訓練を重ねていくことにより,まず「身体の広がりと力動感」(第3因 子)の変容が先行し,次に「自己の充実感と肯定的自己評価」(第2因子)が遅れながらも続くという ように,自己像の変容がある順序性をもって生ずるといえるのではなかろうか。「他者の目を通した 自己評価」(第1因子)における変化を必ずしも否定しきれない点を加味すると,本因子における変 化は時間を必要とすることを予測させるところから,三つの因子の中では変容が最も緩慢に進行す

ると予想できそうに思われるが,この点については今後の課題である。

表2は,三つの因子間の関係について,ピアソンの相関係数により検討した。第1セッション及び 最終セッションのそれぞれにおける訓練前と訓練後の,及び第1セッション訓練前と最終セッション 訓練後の五つの事象について,それぞれ,第1因子と第2因子,第2因子と第3因子,第1因子と第 3因子の各相関係数と,それらの相関係数のt検定による有意差検定の結果を示す。

表2より,まず,全体的に,第1セッション訓練前から最終セッション訓練後へかけて,数値の増 大傾向がみられた。次に,第2因子と第3因子の間には,すべての事象について正の相関関係が認め

られたが,その内の最終セッションの訓練後において+0.57という最大で有意差を伴った数値が得ら れた。一方,第1因子と第2因子の間においては全て負の相関係数が示された。この内,最終セッシ ヨン後における数値が最大の一〇.40であったが,有意差は認められなかった。また,第1因子と第3 因子の間には,ほとんど相関関係は示されなかった。最後に,第1セッション訓練前と最終セッショ

ン訓練後間においては,第2因子と第3因子間では+0.71という有意差を伴う高い正の相関関係が認 められたのに対し,第1因子と第2因子間では一〇.42,第1因子と第3因子間では一〇.02という負の数 値であったが,いずれも有意差は認められなかった。

この結果から,訓練に伴う変容は,第2因子と第3因子の間においては類似しているのに対し,第 1因子は両者とは関連性が乏しいといえる。

質問紙に対する回答を分析した結果から,訓練を重ねていくことにより,「身体の広がりと力動感」

(第3因子)の明確な変容が先行し,次いで「自己の充実感と肯定的自己評価」(第2因子)がやや不 鮮明ながらも遅れながらも続くというように,自己像の変容が,ある順序性をもって,生ずるとい えよう。これに対し,動作法の考え方からすると,「他者の目を通した自己評価」(第1因子)におけ る変容を必ずしも否定しきれない点を加味すると,本因子の変容は時間を必要とすることを予測さ せるところから,三つの因子の中では変容が最も緩慢に進行すると予想できそうに思われる。他方 では,本因子を構成する質問項目の適切性妥当性についての再検討が要請されることになるのかも

しれない。この点については今後の課題である。

いずれにせよ,動作法により,身体的なレベルでの自己像の変容を基盤に自分のからだを自分のも のとしてとらえ直すようになり,その上に立って自分自身をもとらえ直していくのではないかと考 えられる。

4。ま と め

本研究においては大学生を対象者に,原則として2回,動作法を適用した。そこではトレーニーの 姿勢の変化,弛緩感覚に関する内省報告や身体的・心理的体験に関する内省報告を得た。

動作法の適用は,ただ単に姿勢の改善をもたらすだではなく,そこには,「緩んでいく」「緩めて

(10)

84       茨城大学教育学部教育研究所紀要第29号(1998)

いく」という弛緩感覚があり,身体の不当緊張を自分の努力で緩めることによって,様々な身体的

・心理的体験がもたらされることが示された。また,自己像に関する質問紙に対する回答から,「身 体の広がりと力動感」として表現される身体的な自己像の変容が大きくみられ,これに追随するよ うに,心理的な自己像のうちの「自己の充実感と肯定的自己評価」という側面にも多少の変容がみ られた。内省報告も,これらに関わるものがたいへん多かった。

しかしながら,心理的な自己像のうちの「他者の目を通した自己評価」という側面には変容はみら れなかった。これは訓練回数の少なかったためなのか,あるいは測定時期が早すぎたのか,それと

も質問項目の再検討が必要なのか等については今後の課題である。

それにしても,大学生のトレーニーを得ることがとても容易であったことから,動作法の観点から 見たときに,訓練を必要とする事例,つまり,姿勢の悪い事例が大学生のなかにも多数存在してい ることが分かったことを付記しておく。

引 用 文献

今野義孝.1990.r障害児の発達を促す動作法』学苑社

成瀬悟策.1973.『心理リハビリテイション』誠信書房

参照

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