小学校における国語科教育の課題と実践
一豊かで確かな文章を書く子を育てる一
井 戸 紀 子
一、
@生きて働く国語力
ω 国語科⁝教育の現況
旧学習指導要領の中心的目標に﹁生活に必要な国語
を正確に表現する能力を養い︑国語を尊重する態度を
育てる︒﹂﹁国語で思考し創造する能力と態度を育てる︒﹂
と示されていたが︑国語科で指導したこれらの能力︒
態度が生活の中で十分生きて働かなかった︒
生活の中で生きて働かなかった原因には.様々な要
因があげられるがその中心的なひとつに︑言語の教育
が︑機能を形式的に指導することに重点が置かれ︑児
童の心を育てることと一体となって歩まなかったこと
があるのではないだろうか︒
② 国語科教育の重点
国語科の教育は︑国語の能力を養うための指導をす
るために設けられている教科の教育である︒しかし︑
国語は児童が生まれ育った時から︑ 一生を通じて日常 生活の中で使われている母国語であるから︑国語の能 力は国語科の学習を通して養われることのほかに︑児 童の日常生活における言語活動によって大きな影響を 受けることが多い︒ そこで︑今回の指導要領改訂に至る経過をさぐり︑ 国語科教育の現況をどのようにとらえて改訂がなされ たかを注目してみると︑昭和五十年十月の﹁中綿まと め﹂小学校国語科に特に関係が深いと思われる部分の ひとつに次のようなことがある︒ ○ 小学校・申学校及び高等学校を通じて︑児童生徒 の国語を正しく使う能力に必ずしも十分といえない 点があり︑とりわけ読み書きの能力が劣っていると いう指摘があるので.言葉の教育としての立場を﹁ 層重視し︑表現力特に作文力を高めることに留意し て内容の改善を図る︒その際︑現行の﹁聞くこと︑ 話すこと﹂ ﹁読むこと﹂ ﹁書くこと﹂等の領域区分 について検討を加えるなどして︑内容を精選する︒
一 15 一
今までも国語科の教育はなされ︑毎日児童は国語を
使って生活しているが︑国語科で学んだ能力が︑生き
て働かないという現状がここに指摘された︒これらを
受けて国語科の新指導要領が改訂され︑特に︑言語の
教育としての国語科の指導が表現力を高めることに力
を注いでいることがうかがえる︒
㈲ 国語科教育の課題
現行指導要領が生きて働く言語の教育としての国語
科の指導を一層明確にしていくことを主眼としている
ことに着目すると︑これらの指導は︑国語科教育の目
標の変遷からも考えられるように︑技能や能力を強調
しすぎたり︑言語についての知識の詰めこみや形式的
な練習学習を多くしたりせず︑豊かな人間形成をめざ
して行わなければならない︒人間性豊かな児童の育成
を根底におき︑それを育てるために︑言語の機能を通
して︑表現力︑理解力を養い︑美しい日本語で日本人
らしく生活できる人間を育成する基礎を小学校で培わ
ねばならない︒
また︑国語科の能力を構造化してみると︑ ﹁言語事
黒しを基礎におき︑その上に﹁理解しがあり︑更にそ
の上位に﹁表現﹂があるという重層的なものになると
考えられる︒別の視点から言い換えれば︑国語の能力 の構造は︑表現力を頂点として︑理解力がそれを支え︑ 更にその両者を言語事項が支えていると考えていくべ きであろう︒ そこで︑小学校における国語科教育の課題を究明す るならば︑児童一人一人の人聞性の育成をめざして︑ 豊かで確かな表現力を身につけさせる営みが要求され
てくる︒以上の考え方から次のような三つのステップによっ て実践を試みた︒それは断続的な指導ではなく︑前ス チップで指導したことが次のステップで生かされるら
ゆせん的な指導の営みである︒ ①表現内容を豊かにすること︒︿主として低学年﹀ ②表現意欲や関心を高あること︒︿主として中学年V ③目的に応じた表現方法を指導すること︒︿主とし て高学年﹀
二、
@豊かで確かな表現力を身につけさせる実践
ω 豊かな表現力を培う低学年の指導
小学校に入学した児童は︑それまでの生活の申で︑
動作による表現︑音声言語による表現︑絵画その他の
造形的な表現等により︑心を表現してきたが︑ここで
文字言語による表現という極めて︑抽象的な表現方法
一 16 一
を学習していくことになる︒これは︑小学校に入学す
ると同時に当然のこととして教師は実施するが︑児童
にとってこれらは︑非常なる飛躍である︒ただ機械的
に言葉を記号化して教えこむだけではなく︑今までの
生活の中から︑抵抗なく心をそう生していかなければ
ならない︒またそれと同時に生がいに花ひらく︑文字
言語表現への豊かな土壌作りをしていく時期であると
考え次のような実践を試みた︒
④ 表現することの抵抗を除去する入門期の指導
入門期には︑幼稚園その他の生活で得た表現活動
を手がかりにして︑生活のあらゆる機会を生かして
意図的な実践をした︒
︿口頭作文による指導﹀
﹁いいもの見つけた︒﹂ーー屋上や運動場で
︿総合的指導﹀
﹁三の丸根たんけん﹂i五感を通して校舎内外で
とらえる︒
︿合科的な指導V
﹁山びこさん﹂!一音楽と国語一自己紹介
﹁ウサギさんよろしく﹂i理科と国語
﹁動物にのって﹂!図工と国語iねん土を使って
② 小さなことにも感動する心を育てる指導
日常生活の中で無意識に見逃してしまう︑小さな でき事を︑できるだけ取り上げ︑それに心を動かし 感動する子供にしたいと次の実践をした︒ ︿図工の指導をする前にV一絵の具を使って
﹁混色の指導﹂を通してひゆ的表現技能の指導
o青の絵の具に白の絵の具を入れて︑そのひろがり
の動きをとらえさせる︒
︿理科の指導を終えて﹀
﹁影の指導﹂を通して︑その動きや形をとらえさせる︒
︿休み時間の後で﹀一お話つくり
を を を ゆ
﹁ありさんどこへ行くの﹂iありの世界を想像させ
る︒
③空想の世界で遊べる子供を育てる指導
作文の嫌いな児童の追跡調査の中のその原因究明
の一つに︑物事に対して無感動であること︑二つめ
に︑想像の世界で自由に遊べない︑等の事柄があげ
られている︒そこで低学年の時期に思い切り空想さ
せ︑想像させる訓練を意図的にさせてみた︒
︿テレビ番組﹁おとぎのへや﹂の利用V
o﹁おもしろいところ﹂ ﹁つづき話﹂ ﹁主人公への手
紙を書く﹂等︒
︿読解を主とした教材での関連指導V
﹁くじらぐもさんになって﹂ ﹁ひとりぼっちのたぬ
き﹂ ﹁わた毛のタンポポのたび﹂等︒
一17一
︿身のまわりの物を生かして﹀
○﹁たった一匹の金魚さんへ﹂ ﹁石で作った人形さ
んへ﹂ ﹁サンタクロ⁝スになって﹂
② 書く喜び︑書く必要感を味わわせる中学年の指導
小さなことにも感動し︑空想の世界で遊ぶ楽しさを
味わった児童は︑書くことの抵抗も少くなり︑そこに
書く喜びをも味わっているが.それは日常生活に生き
て働く表現活動ではない︒現実の世界に興味関心を示
す中学年の児童に︑実生活に結びつけ︑自分の表現し
たことが︑直接日常生活に生きて働いているという認
識を持たせることが必要であると考え次のような実践
をした︒
①書くことの喜びを持たせる指導
中学年の児童は︑活動的で冒険心・探求心が強い︒
また︑学校生活にもなれ︑学校行事等にも︑広く参
加したがる時期であるので︑次の様な題材を選び︑
担任・家族・その他自分をとりまく人々とのかかわ
り合いを重視して書く喜びを持たせる実践を試みた︒
︿家庭訪問を利用してV一場所・位置関係を正確に
表現させる指導
○﹁私の家の案内図﹂図と文章で担任を案内できる
ように書かせる︒ ︿ゲームを利用してVI冒険心を利用して正確に書 かせる指導 ︒﹁宝さがし﹂と題して運動場に隠した宝を説明文で あてさせる︒ ︿交換日記︵鉛筆対談︶の利用V 教師→←児童 児童→←児童 父母→←児童 く学校行事の案内文つくりを通してV 運動会や学芸会・集団活動等の案内文を作り︑転校 生︑父母︑教生の先生︑前担任等へ ︿家庭新聞づくりを通して﹀一文種を広げ︑知らせ る喜びを味わう指導 ②書く必要感を持たせる指導 前述の如く日常生活の中で書くことの大切さ︑必 要感を持たせ︑それが生活の中に息づいていること を意識させることが必要であると次の逆な指導を試 みた︒ ︿理科の実験記録文コンクールの実施V ︿見学記録集つくりV o水戸市内案内つくり一絵と文で o工場見学集つくり く学級日記コンクールの実施V
㈹ 広く深く表現する力をみがく高学年の指導
一18一
低・中学年で得た表現能力を駆使し︑それを日常生
活の場で︑主体的に表現活動をさせるためには︑でき
るだけ多くの表現の場を経験させることが必要であり︑
日常生活の中で無関心に見すごしていることを︑じっ
くり考え︑深めさせていく手だてが必要であると︑考
え︑高学年では︑次の様な実践を試みた︒
①目的に応じた文章を書かせる指導︵広める︶
日常生活に生きて働く表現力を身につけさせるた
めには︑日常生活のあらゆる場面をとらえ︑意図的
にその場面を利用し︑その饅的にあった的確な文章
を書かせることに努力した︒
︿学校行事を利用してV
O﹁宿泊学習文集づくりし1目次 はじめに 記録文
感想文 紀行文 おわりに一 ○﹁筑波登山﹂i紀行文一
○﹁ゴミのない運動会﹂一参観者にお願いする文一
︒﹁愛校日にちなんで﹂i−意見文
︿児童会活動を利用して﹀
○﹁委員会活勤に役立つ縁づくり﹂1﹁図書館案内﹂
﹁図書館のしおり﹂
︿研究発表の原稿づくりを通してV
O﹁夏休みの研究発表﹂i図・グラフの利用
○﹁クラブ発表会︵クラブ案内︶﹂の原稿づくり ②内容を見つめて文章を書かせる指導︵深める︶ 図書・新聞・雑誌を利用し︑問題を投げかけてや ることによって︑高学年の児童は︑物事を見つめる 目が深まり︑文章の内容にも思考の深まりが生じて くる︒以下それらについての事例である︒ ︿新聞記事を利用して﹀ ○﹁母のβによせて﹂一新聞コラムの読解の後︑﹁お 母さんを書こう︒﹂ o﹁四国と本州のかけ橋しi読書後︑解説文を書く︒ ︿読解指導後︑同一作家の作品を読んでV o﹁宮沢賢治の人と作品﹂一紹介文・感想文1 ︿読解指導後︑発展的に書くV o﹁田中正造になって﹂国会での演説文を書く︒ ︿一枚の写真を使って﹀ ○﹁記念すべき写真﹂を使って思い出を綴る︒ 特に高学年で表現力を身につけさせるためには︑児童自 身が資料を収集し︑利用して書かせる機会を多く取った︒
三、
@有機的指導と児童の変容
以上の実践的な試みは︑表現指導の中の書く領域を中
心にまとあたものであり.特に豊かで確かな文章を書か
せ︑豊かな心を培うために取り上げた素材のみを掲げた
ものである︒これらは︑二年間という断片的な指導によ
一 19 一
る結果で︑六か年という継続的な追跡調査は得られてい
ない︒
なおこのほかに毎日の日記指導︑言語事項の練習及び
取り上げ指導︑理解領域との関連的な指導︑教科書の作
文教材による補足指導料も有機的に作用しているが︑こ
れらの指導内容は児童の実態に合わせて精選・重点化を
図ってきた︒それについては省略する︒
ω 児童の変容
︿低学年﹀
①小さなことに目をむけることができ︑作文の題
や日記の題がないと訴える児童が少ない︒
②作文の題が具体的になり︑一つの物をいろいろ
な角度から見つめている︒
③作文の内容が同じ素材でもそれぞれ独自性があ
り︑観念的な表現が少ない︒
︿中学年V
①書くことをいやがる児童が少ない︒
②書く工夫をし︑書くことを楽しむ児童が多くな
つた︒
③文章を書く相手意識が明確になり︑相手によっ
て文章を書きわけられるようになった︒
︿高学年V ①生活の中で記録することの意義をとらえ︑書く ことを日常生活の中で役立てるようになった︒ ② 書いて話す︑読んで書く︑書きなおす等の活動 を主体的に行うようになった︒ ③書くために必要な資料を収集したり︑それを生 かして書こうとする意欲が生まれてきた︒
② 今後の課題
国語科の表現指導が︑表現技能の向上と︑豊かな人
間性の育成を目指すためには︑その表現素材を児童の
目の高さで求めていかねばならない︒また児童の心を
とらえる素材でなければ︑児童が楽しく主体的に取り
組まず︑生きて働く確かな表現力にはなっていかない︒
今後は︑児童の心理学的な状況をとらえたり︑生活の
実態・現在の言語能力の実態をとらえ︑取り上げた素
材が︑児童の中でどのように受け止あられ︑どのよう
な力を身につける素材となるかを構造的に究明してい
きた.いと考える︒
また豊かで確かな文章を書かせるためには︑それを
ささえる言語事項の能力及び理解領域での能力が︑表
現行動の中で十分生きて働いていくように︑基礎・基
本をおさえた指導にあたっていきたいと考える︒
一 20 一