福岡大学の中国語教育をめぐる諸問題
−共通教育中国語の質の保証について
王 毓
!
*甲 斐 勝 二**
間 ふ さ 子**
はじめに
福岡大学における共通教育第二外国語の中国語の履修者は、他の言語に比べ て格段に多くなっている。それは、大局的に見れば、アメリカとならぶ大国と しての中国が政治的にも経済的にも今後の世界情勢に大きな影響を与え得るこ とが推測され、多くの学生が中国語を習得する意義を認めるようになってきた こと、局所的に見れば、近年の所謂「爆買い」に象徴的に示されるように、ア ジア諸地域に最も近い日本の中核都市・福岡が、古来よりアジアの人びととの 交流の場であり、今後も中国語のニーズが高まることが予測されるためである。
平成20年度、24年度の中央教育審議会の答申では、大学での教学内容の質 の保証やルーブリックの導入、生涯学び続ける力の育成などが求められた。ま た、近年学部における教学は学生の研究能力の育成よりも基礎知識や教養育成 が重要視され、教育方針(カリキュラム・ポリシー)や、教育内容の質の保証
(ディプロマ・ポリシー)を明確に示すことが教員側に求められ始めている。
これは共通教育の語学教育といえど例外ではない。
これらの問題に対して、本学で共通教育中国語に携わる教員は、早くから本
* 福岡大学言語教育研究センター外国語講師
**福岡大学人文学部教授
1
学における中国語学習の重要性や語学教育が抱える構造的な問題について認識 し、それらの改良に取り組んできた。本学の共通教育中国語の語学教育は、目 標は提示したものの、結局のところ初級程度で終わるのが精一杯の情況であっ たからである。現在の周囲の情況を見渡すに、福岡市に所在する本学では、グ ローバル社会のニーズに応えることのできる語学力を持った学生を育てるよう にすべきとの認識のもと、我々はこれまで質的な向上に取り組み、また中国語 教育の制度的な改善を訴えている。すなわち、教育内容の均質化、成績評価の 統一、卒業まで続く教育、教育環境の整備などである。本稿は、これまでの本 学の中国語教育の現状を振り返り、今後の課題について紹介し検討を加えたも のである。内容が多岐にわたるため、分担して執筆することにした。各節の構 成及び主たる担当執筆者は以下の通りである。
まずは、本学における共通教育中国語の問題について改めて確認し(甲斐勝 二)、つぎに本学の中国語教育の概況を述べ、履修希望者が多い状況に比して 専任教員が少ないなか、質が保証された教育環境を整えていくことの重要性と そのステップについて述べた(間ふさ子)。つぎに教学内容の均質化や成績評 価の統一などへの取り組みについて紹介した(王毓!)。続いて中国語教育に 対する客観的な評価方法としてのルーブリックの利用について検討を行った
(間ふさ子)。最後に中国語教育の組織環境の問題について、本学の共通教育の 中国語教育を取り巻く環境と今後の課題を検討した(甲斐勝二)。
もとより不十分な所の多い検討ではあるが、共通教育中国語を履修する学生 の学習環境が少しでもよいものとなり、さらには本学の語学教育の発展に資す るところがあればと祈念する次第である。
(王毓!)
2
一、問題の所在
福岡大学の共通教育における中国語科目は、主に第二外国語として中国語
ⅠA・ⅠB(一年次科目。A・Bとも通年2単位、学生はA・Bセットで受講 する)、ⅡA・ⅡB(二年次科目。A・Bとも通年2単位)として全学に開講さ れている。基本となる中国語ⅠA・ⅠBの受講生は、以下の表に示すように第 二外国語の中でも最も多数の受講生を集めてきた。開講クラス数もまたクラス 当たりの受講生も他の外国語と比べて多くなっている。
ドイツ語(7)
登録者数
フランス語(4)
登録者数
中国語(0)
登録者数
スペイン語(2)
登録者数
朝鮮語(0)
登録者数 平成12年度 2727 2207 2932 1710 499 平成13年度 2412 1997 2639 1384 478 平成14年度 1573 1435 3805 914 732 平成15年度 2110 1901 2302 1126 438 平成16年度 1565 1797 2180 1134 466 平成17年度 1764 1578 2268 1074 451 平成18年度 1545 1292 2027 960 565 平成19年度 1824 1604 2162 969 617 平成20年度 1671 1449 1907 1074 518 平成21年度 1648 1314 2137 970 614 平成22年度 1708 1293 2480 938 735 平成23年度 1322 860 2935 686 1496 平成24年度 1111 771 2875 615 1274 平成25年度 1384 929 2318 716 1325 平成26年度 1360 915 2243 838 1050 平成27年度 1171 777 2847 584 833 表1 第二外国語各言語の共通教育教員割当数と一年生履修科目ⅠA・ⅠB登録者数
(単位:人)1
1各言語( )内の数字は甲斐の知る大学が割り振っているその語学の共通教育教員枠
3
数年前までは、それぞれの授業内容および評価は担当の各先生方に一任し、
大学側からの管理としては時間割の作成やA・Bそれぞれの授業で教科書が重 ならないような調整をするに留まっていた。大学は研究が主体であって、教育 は教員の個性と見識でなされるという古き良き伝統が信じられて来たからであ ろう。しかしながら、現在の大学、特に学部は学生への研究能力の育成よりも 基礎知識や教養の育成が主となってきており、何を教えるかという目標も求め られ、さらにその教育内容の質の保証を如何に示すかも要求されるようになっ てきた。とりわけ本学の共通教育の語学のように、登録学生に教員選択の余地 はなく、指定されたクラスで学ばねばならない情況では、同一の科目である以 上、教員によって到達度や教学内容の差異が出て来ないようにせねばならない。
学生が教員を選択できるなら、到達度も学生の責任にできるかもしれないが、
選択できないのだから、次の段階に到達するまでの力がつかなかった場合、そ れは学生の責任もさることながら、そのクラスに教員を当てた大学及びそこで 教えた教員にも責任が生じるからである。
以前は、本学での共通教育のいわゆる第二外国語の語学教育は、初級とその 延長を学び、当該言語がどのような言語であるかを知るという程度の語学教育 で済んできたようだ。そこには第一外国語が英語であり英語ができさえすれば、
第二外国語は輪郭を知る程度でよいという認識があったと思う。その証拠とし ては、言語教育研究センターに所属して教育企画に参加できる専任教員は英語 しかおらず、他の外国語講師は企画運営に携わる必要がないことが挙げられよ う。企画運営に携わるのは人文学部の英語学科・フランス語学科・ドイツ語学 科の外語系3学科と、東アジア地域言語学科(地域言語とは地域事情言語文化 の略称で、言語系の学科を標榜してできた学科ではない)に属す中国語・朝鮮 韓国語・スペイン語の教員なのである。センターで開かれる第二外国語担当者
の人数。実際には欠員の時もある。登録者数はⅠA・ⅠBクラス登録学生数の合算。資 料は言語教育研究センターの歴代の資料をこちらで再整理したもの。
4
会議もこれらの学科の教員が参加し、そこでは行政上の問題が話されるだけで、
第二外語の教育水準であるとか到達度の共有などについては議論されたことは ほぼない。
しかしながら、現在センター内では、大学における多様な外国語学習の必要 性から、第二外国語を4年間学び、社会でも通用する一定の実力を学生が持て るようにしようという動きが始まっている。せっかく学ぶのなら、4年間のカ リキュラムマップとそれぞれの段階のルーブリックを作成し、階梯的な教育を 卒業まで準備しようというのである。本学の中国語共通教育は、この動きに呼 応して数年前より各クラスの教育内容の平準化を行い、教員や使用される各種 教科書による達成度を一定にするための試行を続け、平成27年度より一年次 の統一教科書を導入することができた。これにより、二年次の統一教科書作成 が可能になり、現在試行準備中である。
以下の検討は、現状の改善に止まるものではなく本学において4年間にわた る共通教育の中国語教育を階梯的に実現するための構想とそのために必要な事 柄について考えるためにも有用なものと信じる。
(文責・甲斐)
二、本学共通教育中国語の現況
本学の共通教育中国語の教学環境は、端的にいうと、①履修希望者が多い、
②専任教員が少ない、の二つにまとめられる。以下、もう少し細かく見ていこ う。
共通教育中国語は、平成26年度までは履修希望者が多数であるという理由 で、履修登録の前日に事前申し込みを行う「登録制限」が行われていた。平成 22年度までは抽選であったがその後先着順となり、当初は1クラス75名上限
5
であったものがやがて50名に達したところで締め切られるようになった。登 録制限がなされたのは、その当時非常勤講師をお願いしても必要な教員数の確 保が難しく、希望者にすべて受講を許すとすれば、巨大クラスになるのが免れ がたかったからである。近年では、非常勤で授業を担当できる人材も増え、履 修希望者の多いクラスを分割したり、逆に少ないクラスを統合する調整も適宜 行うようになり、さらに第二外国語の登録者数が全体的に減少傾向にあるため に、平成27年度より中国語の登録制限は撤廃され、希望者は全員受講できる ようになった。
登録制限を行わなかった平成27年度の中国語登録者総数(Ⅰ・Ⅱを含む)
は、前年比588名増で、のべ3367名となり、第二外国語登録者総数(のべ7801 名)の43.2% を占めた。また開講クラスは、平成27年度は91クラス2で、1 クラスの平均学生数は37名である。37名というのは語学のクラスとしては、
他の第二外国語に比べてもかなり多いと言わざるを得ない(表2参照)3。 ドイツ語 フランス語 中国語 スペイン語 朝鮮語 1 クラス平均人数 26 24 37 21 25 表2 平成27年度各第二外国語1クラスあたりの登録者数(単位:人)
次に、中国語を履修する3367名の内訳を学部別に見ると以下のようになる。
学部 履修要件 受講者数(のべ) 第二外国語に占める割合 人文学部 選択必修ⅠABⅡAB 1094 37.6%
法学部 自由履修 313 42.9%
経済学部 自由履修 103 38.3%
商学部 自由履修 542 52.8%
商学部二部 自由履修 62 44.9%
2平成28年度は登録者数の増加に伴い8クラス増設される。
3第二外国語のクラスサイズに関しては、本学では35名を上限とするのがセンターの 認識のようである。本学における第二外国語のクラス人数の適正数がどれくらいなのか、
今後の検討課題である。ちなみに、以前英語教員の着任の挨拶で、当時50名上限の英 語クラスの開講を知り「25名が語学クラスの限度」と言う発言がでたことがある。35
6
理学部 選択必修ⅠAB 247 40.3%
工学部 選択必修ⅠAB 919 56.2%
医学部(医学科) 選択必修ⅠAB 5 2.2%
医学部(看護学科) 選択必修Ⅰ 54 48.2%
薬学部 自由履修 22 19.3%
スポーツ科学部 自由履修 6 21.2%
合 計 3367 43.2%
表3 中国語履修者の学部別人数と第二外国語に占める割合(平成27年度、単位:人、%)
第二外国語が選択必修の学部は、人文学部以外はすべて理系の学部であるが、
医学部医学科を除いて中国語の履修率が高い。さらに、自由履修の学部も文系 学部はおしなべて中国語の履修率が高い。つまり、中国語は文系学部から理系 学部まで幅広い学生が受講しているということだ。
この3367名の学生を30名の教員が教えている。そのうち専任は7名(言語 教育研究センター所属外国語講師3名4、人文学部東アジア地域言語学科所属4 名5)で、残りの23名は非常勤講師である。クラス数で言うと、91クラスのう ち、専任が担当しているのは28クラス(30.8%)、非常勤講師が担当している のが63クラス(69.2%)、学生数で言うと、専任が965名(28.7%)の学生、
非常勤講師が2402名(71.3%)の学生を担当している。つまり中国語履修者 の約7割が非常勤講師の授業を受けている6。
また、教員が中国語母語話者か否かという点からみると、27年度の講師陣 のうち中国語母語話者でない者は12名、中国語母語話者は18名となり、中国
名でもおそらく多すぎるであろう。
4実際には4名だが、27年度は1名欠員であった。
5東アジア地域言語学科の教員定員はすべて専門科目だが、共通教育に協力するという 見地からそれぞれが最低1コマ共通教育を担当している。従って厳密な意味での共通教 育担当教員ではない(本論3頁表1、201頁参照)。
6平成28年度の開講クラスは98、非常勤講師担当の比率は71.4% である。
7
語母語話者が6割を占める。
このように、本学の共通教育中国語は、さまざまな学部に在籍する多数の学 生を、非常勤講師が多数を占める教員が教えているのである。こういった状況 のもと各教員が各自選択した教科書を使い、到達基準もばらばらで教える、と いうのが本学の中国語共通教育の数年前までの姿であった。もちろん各教員が 担当の授業を熱心かつ誠実に行っていることを疑うものではない。しかしなが ら、その状況では本学の中国語教育の「質の保証」、特に「到達度」が客観的 に示しづらい。この問題を解決して、本学の特徴に合った中国語教育を提供し、
共通教育中国語を履修する学生にきちんと「質の保証」を示すべきことは論を 待たない。そのために私たちは、以下のような段階を踏んでその実現を図りは じめた。
(1)教学方針の統一:統一シラバスを提示
(2)教学内容の統一:統一教科書の導入
この二つは、ⅠA・ⅠBに限ってはすでに導入が行われている。ただし、具 体的な到達目標・達成度の共有はまだきちんと行われていない。
(1)、(2)に続いて求められるのが、
(3)「評価の客観化とその明示」である。
現在、これの一環として、ⅠA・ⅠBの統一試験を一部の教員(非常勤含 む)の協力を得て試験的に実施しているが、全体の成績評価については、現時 点では全クラス共通で利用する客観的基準を整えるまでには至っていない。さ らに、以上の三つを整えるために必要不可欠なのが、教学環境の充実である。
以下、各節において(1)から順に検討していく。
(文責・間)
8
三、教学方針の統一〜統一シラバスについて
前節で述べたように、本学の共通教育中国語には、クラスを自由に選べない 学生に、いかに同じ内容の授業を提供するかという問題が存在している。これ を解決するための第一歩としては、到達度の統一と評価方法の共有が何よりな のだが、そのためには各担当教員のシラバスがその部分で共通になることが望 ましい。このシラバスの統一は、学生に対して一定の授業内容が提供される保 証を示すと同時に、教員に対しては教学内容及び事項の保証を求めるものにな るからだ7。もちろんこれは、各教員の教学上の個性にまで踏み込むものでは なく、統一するのは教学内容やその事項に関わるものに限っている。
本学の語学教育のシラバスは各教員に制作が任されている。各言語それぞれ その授業方針を記したものが別にあるので、各教員はその説明を参考にしなが ら担当授業のシラバスを制作することになる。そのシラバスは(1)科目の概 要、(2)到達目標、(3)授業時間外の学習(予習・復習)、(4)成績評価基 準及び方法、(5)テキスト、(6)参考書、(7)履修上の注意点、(8)授業 計画、(9)関連URLから構成されている。中国語ⅠA・ⅠBでは、そのう ち(1)(2)(5)をこちら側で準備し、その他は担当教員の裁量に委ねる形 式に統一している。また(8)の授業計画の項目は、こちらでモデルを提供し、
前期・後期にそれぞれどの課までは進んでほしいという要望を伝えて各教員に 調整してもらっている。これは後述のように受講生の人数や中国語に対する意 欲などがそれぞれのクラスで異なるからである。
中国語ⅠA・ⅠBでは同じテキストを用いているので到達目標も基本的に 同じだが、最終的には(4)に挙げられる評価方法も共有されねばならないだ
7この中国語の統一シラバスは、全面的にⅠA・ⅠBの統一教科書を導入した平成27 年度から導入し、共通教育中国語を担当する本学の専任教員によって構成される「中国 語教育検討班」が共同で文言を定めた。
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ろう。さもなければ、割り当てられたクラスの運不運をうんぬんする学生が現 れることになる。しかしこの評価方法は教員の教学方法とも密接に関係するの で、各教員に納得して共有してもらう必要がある。それがうまくいけば「質の 保証」は更に向上するはずだ。
本節では、このシラバス構成のうち、(1)科目の概要および(2)到達目 標の項を用いて、どのような方針のもとで本学の中国語ⅠA・ⅠBの教学を 行おうとしているのかを説明する。
(1)科目の概要 i)ⅠA
中国語ⅠAでは主に発話を中心とした中国語の学習を行う。
中国語の会話の基本となる発音を正確にマスターするように、会話文を 使って繰り返し練習し、単語や例文が「スムーズに発音できる」「聞いて 理解できる」レベルを目指す。また、発話による基礎的な中国語コミュニ ケーション能力を身につけ、中国語で自己紹介ができるような練習を行う。
ii)ⅠB
中国語ⅠBでは主に中国語の語法的なしくみを理解する。
中国語講読・作文の基本が身につくように、自己紹介文を使って基礎的 な語法を身につけ、初歩的な文章の講読や作文ができるレベルを目指す。
講読文の理解を通して、文章による基礎的なコミュニケーション能力を身 につける。
(2)到達目標 i)ⅠA
①簡単な中国語会話の発音を聞き分けられ、かつ正確な発音ができる。
②中国語表記法の一つ「ピンイン」を使って概ね正確に発音でき、かつ 発音を記せる。
③基本的な語法事項を習得し,基礎的な会話文が発話できる。
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④挨拶、日常の簡単な会話、自己紹介ができる。
ii)ⅠB
①中国語の基礎的な語法を理解する。
②語法に従って初歩的な文章の解釈ができる。
③簡体字を用い語法に従って簡単な文が作れる。
④自己紹介文や日常生活に関する簡単な文章が書ける。
中国語を学ぶ上で、発音とそれを表記するいわゆるピンイン・ローマ字(! 音字母)をマスターすることは非常に重要である。学生のなかには、中国語は 日本語と同様漢字を使うから簡単だという先入観から履修を希望するむきもあ るようで、その誤解を改めてもらうためにも、ⅠA・ⅠBの両方でまず発音 とその表記法を学ぶ。双方で学ぶことでトレーニング量が増えることも狙って いる。
発音を学んだ後は、上記からも分かるように、ⅠAでは主として「聴く・
話す」の技能を、ⅠBでは主として「読む・書く」の技能を中心に学ぶよう になっている。昨今はいわゆる「コミュニケーション」を中心に外国語を学ぶ ことを重視する傾向があるが、本学では「聴く」「話す」「読む」「書く」の四 技能をバランスよく修得してもらうよう考えている。そうすることで入門の段 階から中級、上級へと進んでいく基礎ができる。
ⅠA・ⅠB修了後の到達目標はそれぞれ4つ挙がっているが、これを外部 試験の基準に当てはめると、日本中国語検定協会が行っている中国語検定の準 4級〜4級、あ る い は 中 国 政 府 が 行 っ て い るHSK(漢 語 水 平 考 試)の1級
(CEFR A1 に相当)〜2級(CEFR A2 に相当)に合格が可能なレベルという ことになる。この外部試験のレベルと到達目標の関係については次節で詳述す る。
なお、理想を言えば、中国語母語話者と日本語母語話者がペアを組み、「聴 く・話す」を中心に学ぶⅠAは中国語母語話者、「読む・書く」を中心に学ぶ
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ⅠBは日本語母語話者が担当するというのが望ましいが、週の前半にⅠAが、
後半にⅠBが開講されているため、非常勤講師の多い本学では、すべてのク ラスにそのような配置を行うのは現状ではほぼ不可能である。この問題もここ で指摘しておきたい。
前述したように、現在のところ中国語ⅠA・ⅠBは統一シラバスによって、
科目の概要と修了時の到達目標は明示されているが、各課における具体的な到 達度についてはまだ基準を明示する段階には至っていない。そこで私たちは、
異なった教員が同じ質の授業を学生に提供することができるよう、ルーブリッ クを導入し、日々の授業内容の学ぶべきポイントおよび到達基準を明示して全 教員が共有できるべく準備中である。
(文責・間)
四、教学内容の統一〜統一教科書
本学の共通教育中国語では、前述のようにⅠA・ⅠBの授業を通して四つ の技法をバランスよく無理なく習得するため、数年前より統一教科書として本 学の外国語講師が中心となって編んだ『漢語課本』を使用している。
統一教科書『漢語課本』は、平成19年度前後からその構想が始まり、内部 発行のテキスト試用の時期を経て、平成24年度以降、出版社から試用本テキ ストを刊行して内容の修正を重ね、平成27年度から入門・初級の中国語教育 を担当する教員のすべてに同意を得、正式に一年次の統一教材として使用する ようになった8。統一教科書を使用する目的及び必要性は以下の通りである9。
8正式導入まで三年かけたのは、教材の調整と同時に、より多くの非常勤の先生方に使 用の理解を得るためにはそれだけの時間が必要だと考えたからである。
9詳細については王毓!「初級中国語教育で必要とされる語彙とその特徴―福岡大学の 統一教材『漢語課本』を素材に―」『福岡大学研究部論集A:人文科学編』Vol.15No.2、
12
(1)統一教科書を使用するまでは、ⅠA・ⅠBの担当教員がそれぞれ選定 した教科書を使用していた。そのため、学ぶ語法事項の内容は、割り当てられ た授業時間や授業回数に制限されてきた。統一教材を使用することで、初級の 語法事項や単語など全般的な内容の習得がより充実していくことが期待され る。
(2)ⅠA・ⅠB同じ教材を使用するため2人の教授者が学習者の中国語の 習得状況を確認することができ、相互に情報を交換することで適切な学習指導 を行うことができる。また、学習レベルを維持するために、同じ課で会話・文 法・語法・作文など多角的な学習を提供するので、学生の理解度の深化が期待 される。また、学生の学習の到達目標が明確になり、一定の教育水準を保つこ とができる。
(3)教科書は学習者のニーズに合わせ、初級レベルの自己紹介以外に、福岡 大学での学生生活や福岡・九州の観光地の話題などを盛り込んで本学の学生に 特化した内容で構成しており、中国語に対する興味関心や学習意欲を高めるこ とが期待できる。
(4)学習者は統一教科書一冊でⅠAの会話体とⅠBの文章体というそれぞ れ相違する形式の学習を行うことができ、反復練習により中国語に慣れていく ことができる。また学生は教科書を2冊購入する必要がなく、彼らの経済的な 負担も軽減できる。
『漢語課本』は全16課からなり、以下のような構成で、最終的には自己紹介 を中国語でできるようになっている。
1.発音編 第1課〜第5課 2.本 編 第6課〜第16課
3.付 録 単語索引(中国語→日本語/日本語→中国語)
4.練習帳 第6課〜第16課の練習問題 2016年1月を参照のこと。
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第1課〜第5課は発音編であり、語法事項はない。この部分ではⅠA・ⅠB の授業を相互乗り入れ方式で行い、合計約10回の授業で基本の発音の仕方、な らびにピンイン・ローマ字の綴り方法などの基本ルールを勉強する10。
第6課からそれぞれのテーマと語法のポイントに合わせ、ⅠAは「聴く・
話す」、ⅠBは「読む・書く」を中心に授業が進められる工夫をしている。会 話、語法、文章、練習で構成されており、一つの語法項目について、それぞれ 会話体、文章体で反復練習を行うことができ、徐々に中国語の文法や表現方法 に慣れていくことができる。
本編第6課〜第16課で学ぶ語法事項は38項目あり、この教科書で使用する 語彙数は582語である11。
外国語の学習に限らず教授者は、学生に対して学習の到達目標を明確に示し、
一定の教育水準を保つことが最も重要である。そのため統一教科書においても、
一定の学習基準を明確に提示しておく必要があるのはいうまでもない。しかし ながら、現実的には、クラスによって学習状況は一様ではない。例えば東アジ ア諸言語を熱心に習得しようとする学生が多数いるクラスなのか、あるいは単 位取得の必要上やむなく中国語を選択した学生が多いクラスなのかによって、
クラスの雰囲気が異なり、学生の学習意欲に大きな差が生じる。そうした場合、
教員はそれぞれ相違するクラスの学習状況に配慮しつつ、学習者が一定の学習 レベルに到達できるよう柔軟に対応することが求められる。『漢語課本』では、
こうした状況を想定して、会話内容と練習でさまざまな学習状況に対応できる よう構成を工夫した。会話文の場合を例にすれば、会話文はA・B・Cに分か れていて、A・Bは各課で学ぶ基本的かつ必須の内容であり、Cはその応用編 としてより複雑な表現内容で作られている。あるクラスではA・Bの基本的な
10
ⅠA・ⅠB共に同一箇所のピンインを学ぶ事になるが、練習問題はA・Bそれぞれ別 にしているので、学生は全く同じ内容の授業を受けるわけではない。
11
語法については、趙葵欣「初級中国語の文法項目について―福大の『漢語課本』を例 として―」『福岡大学研究部論集A:人文科学編』Vol.15No.2、2016年1月を参照のこと。
14
内容の習得を中心とし、あるクラスではさらにレベルアップを目指して会話文 Cまで学ぶこともできる。また、会話体のテキストと文章体のテキストにそれ ぞれ付随する練習問題や巻末の練習帳を、学習状況によって臨機応変に使い分 け、学習状況に配慮しつつ、基礎レベルからより高いレベルの中国語の学習が できるようになっている。
『漢語課本』の取り扱う内容がどのくらいの水準にあるのかについて、表現 内容と語彙に絞って考察しておこう。周知のように、外部検定試験は、語学力 を客観的に評価する基準の一つである。日本における主な中国語検定試験には、
日本の一般財団法人日本中国語検定協会が行っている中国語検定試験と中国政 府の国家漢!が提供するHSK(漢語水平考試)がある。HSKは中国語検定試 験に比べてより明確に到達基準を示しているため、以下でHSKの到達基準と 統一教科書『漢語課本』の到達基準を比較して、統一教科書『漢語課本』の教 材としてのレベルを確認する12。
第二節でも触れたように、本学の中国語ⅠはHSK1級〜2級程度のレベル である。HSK1級〜2級の語法項目に合わせて見てみると、『漢語課本』で扱 われている内容は、その7割〜8割ほどをカバーできているといえよう。HSK 1級〜2級が求める表現内容について、統一教科書と比較して示したのが下の
表である13。
表現内容 HSK1級〜2級 『漢語課本』
1.挨拶する、別れ を 告げる
第5課に相当
2.簡単な自己紹介 名前、年齢、住所、家族、趣味、能 力
第6,7,8,9,11,15課に 相当
3.感謝、謝る H2:歓迎を表す表現 感謝:第5課など
12
『新漢語水平考試大綱HSK1級』『新漢語水平考試大綱HSK2級』(国家漢!/孔子学 院編著・商務印書館出版、2009年10月)。
13
同注3前掲書。
15
4.数量の表現 H2:数字で数量、順番を表現する 第10,16課に相当
5.時間の表現
〜分 間、〜時 間、〜日 間、曜 日、年 月日
H2:〜日、今、過去、未来など
第8,11,12,13,14課
6.簡単な描写をする 天気、方位、大きさ、どれくらいなど H2:正しい、間違い、気持ち、色
方位:第9,11課に相当 そのほかは扱われていない 7.質問、受け答え 買い物、交通に関する内容など
H2:受診する、スポーツ、娯楽
交通:第12課に相当 そのほかは扱われていない 8.簡単な要求、依頼
の理解と表現 第16課に相当
9.簡単な感情の表現 第7,14課に相当
10.他 人 の 意 見 を 尋
ねる 第14課に相当
11.提案をする 扱われていない
12.比較をする 第10課に相当
13.理由を説明する 扱われていない
表4 『漢語課本』とHSK1〜2級との比較対照。
なお、HSK1級〜2級の表現内容の3、6、7の一部ならびに、11、13の内 容は『漢語課本』では、テーマの設定の関係で扱われていない。一方で、『漢 語課本』には、HSK1級〜2級には提示されていない学生生活に関する叙述な ど学習者のニーズに合うような内容を割合に多く取り入れている。これは『漢 語課本』が本学の学習者のニーズに合うように編集されているという特徴から くるものであるが、今後は例えばHSK1級〜2級の6に提示された生活に緊 密したよく使われる内容などをそれに組み入れ、会話内容や語法を変更するな ど教科書の改訂の検討も視野に入れるべきであろう。
語彙については、中国語の初級レベルで必要とされる語彙数はおよそ600前 後が妥当と言われている14。当然ながら、各教科書で設定するテーマによって、
14
輿水優『中国語の教え方・学び方―中国語科教育方概説―』(日本大学文理学部叢書、
2007年1月)第8章「語彙の学習内容」p126〜127を参照のこと。
16
そこで使用される語彙も変わってくる。教学においてどの語彙を選ぶべきかと いう判断基準として、拙稿では主に『漢語課本』の語彙を中国と日本の入門・
初級中国語語彙に関する6種類の参考資料を比較し検討した15。その結果、『漢 語課本』はHSK1級〜2級と中国語検定準4級の語彙をほぼ9割カバーする ことができており、初級レベルの基準に達していると判断していいだろう。
とはいえ、表現力をより高めることに繋げられる学習内容にするため、例え ば助詞、副詞、前置詞などのような「虚詞」を追加する必要性はある。また、6 種類すべての教材資料が載せる語彙のいくつかは、なるべく教材への追加を検 討したほうがよいのではないかと思う16。各課の内容に織り込むことができな かった語彙は、たとえば教科書の付録に掲載するか、あるいは参考資料として 本学が提供するICT教材ムードルを利用し、学習者の需要に応え、随時見ら れるよう配慮するのもよいのではないかと思う。
一方、教授者側からは、教科書の内容や単語などが豊富すぎて充分に教えき れないという意見もある。意見を真摯に受け止めるのは当然だが、掲載教材の 豊富さはクラス差に配慮したもので、本来すべて教える必要はない。その旨お 伝えしてはいるが、なおこのような意見が続くようなら「使用法の手引き」のよ うなものを作成するのが良いかもしれない。さらに本学が目指す中国語教学の 目標やレベルなどを判断の基礎に置き、さらなる統一教科書の充実を期したい。
(文責・王)
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六種類の資料は以下の通りである。中国側と日本側の初級資料は①『漢語水平詞匯与 漢字大綱(修訂本)』(国家漢語水平考試委員会!公室考試中心制訂、経済科学出版社、
2001年6月)、②『外国留学生漢語教学大綱(長期進修)詞匯表』初等階段詞匯(最常 用)(国家対外漢語教学領導小組!公室編著、2002年1月)、③『新漢語水平考試大綱 HSK1〜3級』(国家漢!/孔子学院編著・商務印書館出版、2009年10月)、④『高校中 国語教育めやす』(全国高等学校中国語教育研究会、1999年)、⑤『中国語初級段階学習 指導ガイドライン』(日本中国語教育学会・学力基準プロジェクト委員会、2007年)、⑥
『キクタン(中国語)初級編・中検準4級レベル』(関西大学中国語教材研究会編アル ク、2008年5月)
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語彙に関する詳細は前掲注9王論文を参照のこと。
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五、成績評価の客観化について
(1)個別評価と統一試験
本学の共通教育中国語は基本的に通年で評価が行われる。評価方法は各教員 がそのシラバスに記した内容に基づく。通常は授業中にそれぞれの判断で課す テストや課題の提出、授業参加態度ならびに前期・後期に必ず実施される筆記 試験の成績の総合点で成績が判定される。
現在のところ発音や聞き取りに関わる能力判定については、統一試験はなく、
実施の有無についても含め、基本的には担当教員の判断に任せている。実施す る場合は、教員の指導するクラスごと授業期間中に行うことになる。判定方法 については、各授業それぞれで、例えば日頃習得した内容の聞き取りテストや 暗唱、自己紹介を発表したり、日常的な会話や挨拶の受け答えなどといった口 頭試問で中国語の発音を聞き分け、自分で発音ができるようになることを基準 として学習の到達レベルを確認するのが主である。このような評価は個別の授 業で行うのが指導も兼ねて効率的であろう。
期末筆記試験は、教員が共同してやりやすい部分である。統一教科書を導入 して以来、定期試験では共同の試験問題の作成を担当者に呼びかけ、統一試験 の実施を試みているが、これは強制ではなく、すべての教員が参加しているわ けではない。学生の評価は、教員にとって重要な仕事の一つだが、それだけに 教員それぞれの方針があって、無理に統一はできないからだ。しかしながら、
登録する学生に教員によって極端な評価法の差があると感じさせるわけにはい かないので、評価方法をある程度整える必要もある。そう考えてまず実行しや すいところからと始めたのが統一試験参加の呼びかけであった。
ここでは、平成27年度に行った前期・後期の中国語ⅠAとⅠBの筆記試験 について、到達目標、到達度を確認する方法、試験の方針について紹介したい。
まずは通年で「聴く」「話す」を学習する中国語ⅠAについてである。
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(i)中国語Ⅰ A
中国語ⅠA前期・後期の到達目標と問題構成案は下表5の通りである。
前期 後期
到 達 目 標
①中国語の発音を聞き分け、自分で発音する ことができるようになる。
①前期に引き続き、中国語の発音を聞き分け、
自分で発音することができるようになる。
②中国語の表記法であるピンイン・ローマ字 を正確に書けるようになる。
ピンイン・ローマ字の綴り方に関する問題 で声調符号・母音省略などの習得状況を確 認する。
②前期に引き続き、中国語の表記法であるピ ンイン・ローマ字、簡体字を正確に書ける ようになる。
③基本的な文法事項を習得し、簡単な文章が 作成できるようになる。
ピンイン、簡体字による中文日訳の問題・
日文和訳の問題で確認する。簡体字の書き 方、文章の作成、ピンインと簡体字の認識 が一致しているかどうかを確認する。
③基本的な文法事項を習得し、簡単な文章が 作成できるようになる。
後期には、特に語順の確認が重要なため、並 べ替え問題、ピンイン、簡体字による翻訳 問題で到達度を確認する。
④自己紹介など日常的な会話や挨拶ができる ようになる。簡単な日常的によく使われる 挨拶、対話への理解度を確認する
④前期より少し複雑な自己紹介など日常的な 会話や挨拶ができるようになる。
少し複雑な対話への理解度を確認する。
問 題 の 構 成
(1)ピンイン声調符号の付け方の確認(到達 目標①②)
(1)単語のピンイン・ローマ字の綴り方の確 認と簡体字の書き方の確認(到達目標①②)
(2)ピンイン・ローマ字の綴り方の確認(到 達目標②)
①子音+iou/uei/uenの表記法
②j/q/x+ü/üe/ün/üanの表記法
③i/u/üの書き換え
(2)並べ変え問題(到達目標③)
ピンインと簡体字の認識が一致しているか どうかを確認
(3)★単語の発音(到達目標①②)
①そり舌音・舌歯音・舌面音の区別,② 有気音・無気音,③鼻母音の区別,④簡 体字の読み方は日本語読みに混同してい ないか,⑤f・hの区別
★単語の声調を正確に把握しているかを確 認する
(3)正確にピンインが読める、簡体字の書き 間違いがあるか、語順を正確に認識し定着 しているかどうかを確認する。(到達目標②
③)
(4)正確にピンイン、簡体字が読め、書ける かを確認する。(到達目標③)
ピンイン・ローマ字、簡体字の書き間違い があるか、また習得した文法事項を使って 簡単な文が作成できるかどうかを確認する。
(4)習得した文法事項を使って自己紹介、日 常的な会話や挨拶が発話また返答、簡単な 文が作成できるかどうかを確認する。(到達 目標④)
(5)習得した自己紹介、日常的な会話や挨拶 が発話また返答ができるかどうかを確認す る。(到達目標④)
表5 中国語ⅠAの到達目標と問題構成案(平成27年度前後期)
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ⅠAはピンイン綴り、声調符号の付け方や簡体字の書き方、会話内容への 理解度、日常的な挨拶や会話への受け答えなどのコミュニケーション力に重点 を置いて学習者の到達度を判定する。
(ii)中国語Ⅰ B
次に、「読む」「書く」を通年で学習するⅠBであるが、平成27年度は試み として前期のみ専任教員3名が参加する統一試験を実施した。その内容は以下 の通りである。
到 達 目 標
①中国語の基礎的な語法を理解する。
基本文型の肯定文、否定文書き換え・疑問文作成ができるかどうかを確認する。
②語法に従って初歩的な文章の解釈ができる。
中文の日訳・単語などの問題で確認する。
③簡体字を用い語法に従って簡単な文が作れる。
日文和訳・単語・並べ替え・穴埋めなどの問題で文を作成することへの理解度を確認 する。
④自己紹介文や日常生活に関する簡単な文章が書ける。
単語・短い文の作り方・作文などの問題で「書く」力を確認する。
ただし、①は②③④すべてに係わる要素を含む。
問 題 の 構 成
(1)単語の確認(ピンイン・簡体字・日本語訳)
(2)肯定、否定、疑問文などの作成+日本語訳(到達目標①②)
①否定文に書き換える。
②疑問詞疑問文を作る。
③量詞の確認。
④日本語訳
(3)語順確認:(到達目標③)
語順の確認、文の組み立てが定着しているかどうかを確認する。
(4)文を作る、あるいは作文:(到達目標③④)
各教員が自由に作問する。
表6 中国語ⅠBの到達目標と問題構成案(平成27年度前期)
ⅠBでは、中国語の文が正確に解釈できるかどうか、語法に従って正しく 短文や作文を組み立てられるかという能力の到達度を確認するものである。
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以上、述べてきたように、ⅠAでは「聴く・話す」、ⅠBでは「読む・書く」
という明確な基準を示すことで、より具体的、正確、客観的に学習者の各技法 の到達度を評価できるであろう。当然ながら、この統一試験はまだ始まったば かりであり、まだ改善点が多々あるが、これからより詳しく、細かく評価項目 を立て、客観的に評価できるよう内容の充実を図っていく。またその評価結果 を授業の改善、質の維持にフィードバックさせていくことも肝心であろう。一 方、学習者も、授業の評価内容を把握することで、授業内容への理解を深め、
自分の理解、不理解な箇所を具体的に把握できる。それにより学習意欲を高め、
能動的な学習態度を促すことを目指したい。 (文責・王)
(2)ルーブリックの作成
繰り返しになるが、異なった教員が同じ質の授業を学生に提供するためには、
「統一された」教材を使った日々の授業内容について、学ぶべきポイントおよ び到達目標を明示することが不可欠である。また、この到達目標は評価方法と も関係し、その評価方法の公開が学生の学習意欲とも関係するであろうことは 先述したとおりである。
ここではこの問題について、近年注目されている「ルーブリック評価」の考 え方を援用しながら考えてみたい。
ルーブリックとは、「米国で開発された学修評価の基準の作成方法であり、評 価水準である『尺度』と、尺度を満たした場合の『特徴の記述』で構成される。
記述により達成水準等が明確化されることにより、他の手段では困難な、パ フォーマンス等の定性的な評価に向くとされ、評価者・被評価者の認識の共有、
複数の評価者による評価の標準化等のメリットがある」(中央教育審議会「新 たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」「用語集」、2012年)と される。
これを我々の中国語教育に当てはめれば、統一教科書の各課の内容がどのよ 21
うな語学の能力を学生に提供するのか(尺度)を明らかにし、学生のそれぞれ の達成水準の特徴を記述(完全に修得できた/基本は理解した/もう少し努力 が必要である、など)して、それをチェックすることで、教育の質が保証され ているかどうか、客観的に確認できる方法ということになるだろう。
こういったルーブリックは、一人の教員が使うのみならず、複数の教員が同 時に導入することでさらに効果が期待される。また、学生に示すことで、客観 的な評価が行われていうることを確認できるうえ、自分の到達度を知り、さら にどのような学習が必要か気づくこともできる17。
前述のとおり、統一教科書『漢語課本』は、発音編・本編・付録・練習帳と で構成されている。そのうち発音編と本編の最初の課の内容について、どのよ うなルーブリックが作れるか例を挙げて考えてみる。
(i)発音編(第1課)
この課では、中国語の最も基本的な母音である「単母音」と、中国語の大き な特徴である「声調」について学ぶ。
中国語の単母音は日本語に比べて口をはっきりと開ける必要がある。また日 本語にはない口の形で発音するものもある。これらの発音はピンイン・ローマ 字(!音字母)と呼ばれるアルファベットを用いた符号で表記される。また中 国語は基本的に一字一音節で、それに声調が加わる。声調は声調記号を用いて 表記される。そのため、この課では、受講している学生が以下のような内容に ついて理解し、発音できるようになることを目指している。
①単母音:a/o/e/u/i/üが聞き分けられ、それぞれが区別可能な近似的な発 音ができる。実際の音とピンイン表記が関連づけられる。
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念のために述べておくが、このルーブリックは授業での達成度を測る定規にすぎず、
学生の個人的な思想信条や教員の教育方針などを縛るものではない。例えば、自動車学 校での運転免許教学において各段階で求められる技能習得の項目が明快にされているよ うなもので、受講者がその技能をどのように使うかは、受講者の目的と関わりまた教員 の教育方針と関わってくる。ルーブリックはその部分に踏み込むものではない。
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