判例研究
建物賃料減額確認請求訴訟(前訴)の口頭 弁論終結前に行使した同建物賃料増額請求権
に基づく建物賃料増額確認請求訴訟(後訴)
での賃料増額主張は前訴確定判決の既判力に 抵触するか
(最判平成 年 月 日民集 巻 号 頁)
雨 宮 啓
*
事案の概要
⑴ L(承継前被上告人)は、昭和 年 月 日、本件建物を、所有者A から、期間は昭和 年 月 日から 年間で賃料は月額 万円として賃 借する契約をAと結び、その頃、同建物の引渡しをAから受けた。その 後、本件賃貸借契約について、賃貸人の地位の移転や賃料の改定が繰り 返されるなどした。
⑵ 本件賃貸借契約における平成 年 月 日以降の賃料は月額 万円 となっていた。Lは、平成 年 月 日、当時の賃貸人であるBに対し、
賃料を同年 月 日(以下「基準時 」という。)から月額 万円に減
*福岡大学法科大学院教授、弁護士
額する旨の意思表示をした。平成 年 月 日、X (上告人)が賃貸 人の地位を承継した。Lは、同年 月 日、X を被告として「本件賃 料が平成 年 月 日から月額 万円であること」の確認等を求める 訴訟(以下「前訴」という。)を提起した。これに対し、X は、平成 年 月 日、Lに対し、本件賃料を同年 月 日(以下「基準時 」と いう。)から月額 万 , 円に増額する旨の意思表示をし、同年 月 日、前訴に対し「本件賃料が平成 年 月 日から月額 万 , 円 であること」の確認等を求める反訴を提起した。
⑶ X は、前訴及び反訴が第 審に係属中の平成 年 月 日、Lに対 し、本件賃料を同年 月 日(以下「基準時 」という。)から月額 万円に再度の増額をする旨の意思表示をした。これに対し、Lは「再度 の増額についての確認までも前訴及び既存反訴手続内で審判することは 著しい遅滞を招く」旨を主張し、裁判所に対し、X の別訴提起を促す ことを求めた処、X は、再度の増額についての追加を見送った。
⑷ 前訴及び反訴の第 審は、平成 年 月 日、前訴につき「本件賃料 が平成 年 月 日から月額 万 , 円であること」を確認するなど の限度でLの請求を認容し反訴についてはX の請求を全部棄却する旨 の判決をした。この判決に対しX が控訴したが、控訴審は、平成 年 月 日に口頭弁論を終結し、同年 月 日、X の控訴を棄却し、前 訴第 審各判決(以下「前訴判決」という。)は、同年 月 日に確定 した。
⑸ その後、X が、Lに対し、平成 年 月 日にした基準時 からの 本件賃料増額請求の意思表示により増額された本件賃料の額の確認等を 求める訴え(以下「後訴」という。)を提起した。
⑹ 第 審である東京地方裁判所の平成 年 月 日判決(民集 ・ ・
)は、前訴判決の既判力が、基準時 で適正賃料が 万 , 円で
あること及び基準時 で増額が生じていないことを確定せしめたものと 解し、本件における従前賃料の最終合意時点は基準時 であるとした上 で、基準時 における適正賃料につき、差額配分法・スライド法・利回 り法・賃貸事例比較法を駆使するなどした鑑定結果などをもとに、基準 時 における適正賃料は月額 万 , 円となったと認定し「原告が被 告に賃貸している別紙 物件目録記載の建物の賃料は、平成 年 月 日から月額 万 , 円であることを確認する。」などの判決を下した。
⑺ これに対し、Lが控訴し、後訴は、前訴判決の既判力が「本件建物賃 料が平成 年 月 日(基準時 )から平成 年 月 日(前訴控訴審 の口頭弁論終結時)まで月額 万 , 円である。」との判断に生じて いることに抵触し許されない、との主張をした。ここにおいて、後訴に おける争点が、平成 年 月 日になされた基準時 から増額するとの 意思表示は前訴控訴審における口頭弁論終結時たる平成 年 月 日以 前であることから、後訴において基準時 から増額したことを主張する ことは、前訴判決の既判力に抵触し許されないかどうか、というもので あることが明確となった。なお、第 審判決の口頭弁論終結日である平 成 年 月 日より後の平成 年 月 日に、本件賃貸借契約における 賃貸人の地位を、X からX が承継したため、Lの申立てにより、本件 のうち、賃料(増額)確認請求に関する部分について、X が訴訟引受 けをし、控訴棄却を求める控訴答弁書を提出し、同部分についてのX の請求を維持する旨を明らかにした。
⑻ 控訴審かつ原審である東京高等裁判所の平成 年 月 日判決(民集
・ ・ )は、本争点に関し、X 及びX が基準時 から増額したこ とを主張することは、前訴判決の既判力に抵触し許されない、と判断し た。その理由は、賃料増減請求により増減された賃料額の確認を求める 訴訟の訴訟物は、当事者が請求の趣旨において特に期間を限定しない限
り、形成権である賃料増減請求権の行使により賃料の増額又は減額がさ れた日から事実審の口頭弁論終結時までの期間の賃料額であると解され、
前訴及び反訴では、Lが基準時 から控訴審口頭弁終結時までの賃料額 の確認を求め、X は、基準時 から同終結時まで(ないし基準時 ま で)の賃料額の確認を求めたものと解されるから、というものであった。
この判断に基づき、第 審におけるLの敗訴部分は取り消され、X 及 びX の請求は、すべて棄却された。なお、原審口頭弁論終結日である 平成 年 月 日より後の平成 年 月 日、LはY(被上告人)に吸 収合併され、Yが訴訟手続を承継した。
⑼ 全面敗訴となったX 及びX が上告受理の申立てをしたところ、最高 裁判所は、賃料増減額確認請求訴訟の判決の既判力に関し、上告を受理 し判決を下した。
最高裁判所の判断
⑴ 後訴における上告審判決である最高裁判所平成 年 月 日判決(民 集 ・ ・ 、以下「本判決」という。)は、原判決を破棄し、本件を 東京高等裁判所に差し戻すものであった 。その理由の中心は、賃料増 減額確認請求訴訟の確定判決の既判力は、原告が特定の期間の賃料額に ついて確認を求めていると認められる特段の事情のない限り、前提であ る賃料増減請求の効果が生じた時点の賃料額に係る判断について生ずる
本判決の評釈等として、加藤新太郎・法教 号 頁、川嶋四朗・法セミ 号 頁、上田 竹志・判例セレクト Ⅱ 頁、勅使川原和彦・平成 年度重要判例解説(ジュリ 号)
頁、山本克己・金法 号 頁、林紘司・金判 号 頁、越山和広・新・判例解説 Watch 法学セミナー増刊速報判例解説 巻(日本評論社・ 年) 頁、田中壯太・NBL 号 頁、中村肇・判例評論 号 頁、堀清史・私法判例リマークス 号 頁、池田愛・熊本法学
号 頁、越山和広・龍谷法学 巻 号 頁、伊藤正晴「借地借家法 条 項の規定に基 づく賃料増減請求により増減された賃料額の確認を求める訴訟の確定判決の既判力」法曹時報
巻 号 頁などがある。
と解するのが相当である、という点にある。そして、本件においては、
原告が特定の期間の賃料額について確認を求めていると認められる特段 の事情はないといえるので、前訴判決の既判力は、基準時 及び基準時
の各賃料額に係る判断について生じているだけだから、後訴において、
本件賃料が基準時 から増額したことを主張することは、前訴判決の既 判力に抵触するものではなく、原審の判断には法令違反があり破棄を免 れず、本件賃料増額請求の当否等を審理させるため、原審に差し戻す、
としたのである。
⑵ 本判決が、確定判決の既判力が生じる対象を、原則として、特定時点 における賃料額とした根拠として示すのは、賃料増減額確認請求訴訟の 請求の趣旨において、通常、特定の時点からの賃料額の確認を求めるも のとされているのは、その前提である賃料増減請求の効果が生じたとす る時点を特定する趣旨に止まると解されるという点であり、その理由と して示すのが、賃貸借契約は継続的な法律関係であり、賃料増減請求に より増減された時点の賃料が法的に確定されれば、その後新たな賃料増 減請求がなされるなどの特段の事情がない限り、当該賃料の支払につき 任意の履行が期待されるのが通常であるといえるから、上記の確定によ り、当事者間における賃料に係る紛争の直接かつ抜本的解決が図られる ものといえる、ということである。
⑶ 本判決には、金築誠志裁判官の補足意見(以下「補足意見」という。)
が付されている。その内容の要点は、賃料増減額確認請求訴訟の訴訟物 に関し、原審の見解を「期間説」と称し、それと対立する見解を「時点 説」と称し、各説の考え方を紹介すると共に、裁判所実務では、常に意 識的ではないかもしれないとしつつ、時点説の下に運用されていること が多かったのではないかという推察や、その裏付け、また、理論的に、
期間説を採るべき必然性はない一方で時点説をとることに支障はないこ
と、そして、期間説の難点の指摘と時点説の利点を述べた上で、時点説 が、実務の運用上、簡明、便宜であり、理論的にも問題はなく、これを 採用することが相当と考えるとの結論、ということになる。
研究
⑴ 本判決の意義
賃料増減額確認請求訴訟の訴訟物につき時点説を採用したことにあ る 。訴訟物をどのように把握するかによって、既判力の対象が定まり 、 ひいては、後訴における遮断効の有無にまでつながってくることからす ると、当事者からすれば、極めて影響のある点について重要な判断が示 されたこととなる。現に、本事案におけるX は、基準時 からの賃料 増額を期待して訴えを提起し、第 審では、基準時 からの月額 万
, 円から 万 , 円増額した月額 万 , 円を基準時 から肯定 されるに至ったにもかかわらず、控訴審に至り、基準時 からの増額を 全面的に否定されるに至ったのであり、そうと分かっていれば、前訴に おいて、Lが「再度の増額についての確認までも前訴及び既存反訴手続 内で審判することは著しい遅滞を招く」旨を主張し、裁判所に対し、X の別訴提起を促すことを求めたからといえども、X は、何ら遠慮する ことなく、再度の増額についての請求追加を見送ることはなかったであ ろうと思われるから、訴訟物の把握において、期間説を採るか時点説を 採るかは、極めて深刻な影響を当事者にもたらすものといえよう。
そうであるにもかかわらず、本最高裁判決が出されるまでは、従来、
時点説か期間説かについて特段に明確かつ意識的な議論はなされてこな かったように感じられるのであり 、その意味で、本最高裁判決の最大
前掲注 加藤 頁、同上田 頁、同勅使川原 頁、同山本 頁、同林 頁 前掲注 川嶋 頁
の意義は、これまで特段に明確かつ意識的に議論されていなかった点に 関し意識を向けさせる役割、即ち、いわゆる「コロンブスの卵」的な役 割なのではなかろうか。
もちろん、訴訟物の決定は、処分権主義からすれば、原告が訴えの段 階で訴状を用いてすることになるわけであるから、裁判所といえども、
原告の明示の決断に反する訴訟物の決定はできず、そのことは、本判決 でも「原告が特定の期間の賃料額について確認を求め」ること自体は肯 定していることや、より明確には、補足意見が正面から示すとおりであ り、最高裁が時点説を採用した、というのは、あくまでも「通常の意思 解釈の本則として」 であり、「合理的意思解釈基準にとどまり、期間説 的な請求の特定を排除しない」 といえる。
⑵ 本判決が投げかける検討課題 ア はじめに
本判決は、賃料増減額確認請求訴訟における訴訟物の捉え方につき、
これまでの実務が暗に前提としていたところとして時点説による内容
例えば、秋山ほか『コンメンタール民事訴訟法Ⅲ』(日本評論社・ 年) 頁は、「当事者 の意思としては、単に口頭弁終結時の賃料額の確認を求めるにとどまらず、増額請求時以降の 賃料額の確認を求める…ため、これが過去の法律関係を含む請求として問題となる。」とし、
加藤ほか『要件事実の考え方と実務〔第 版〕』(民事法研究会・平成 年) 頁は、「賃料増 額確認請求の訴訟物は、賃料増額請求権が行使されたことにより賃料が増額されたとする日か ら事実審の口頭弁論終結日までの間の賃料債権である」とし、今般の最高裁が指摘する時点説 的な発想は、ことさらには意識されていないように感じられる。但し、水本ほか『基本法コン メンタール新借地借家法』(日本評論社・ 年) 頁(借地法 条解説部分・伊東秀郎)に よれば「従来、増額請求権が実体法上の形成権だと説かれたのは、それが裁判になった場合、
裁判所としては、貸主が増額請求の意思表示をした時点(正確にいえば、意思表示で明らかに された増額すべき時点)での相当地代を認定すべきであり、訴提起のときや口頭弁論終結時が 地代認定の基準点ではないとされたためである」とあり、既に、時点説的な解決方向も示され てはいたことは興味深い。
前掲注 加藤 頁 前掲注 上田 頁
を明確に示し、いわばコロンブスの卵的役割を果たしたものと考えら れるが、そうした説による解決を原則的なものとしつつ請求の趣旨や 判断資料等につき従来の実務の在り方を維持できることを導いた過程 における表現や内容に関しても、各種の検討課題を投げかけているも のと思われる。そこで、そうした検討課題のうち、特に当職が気になっ たいくつかの点につき、当職なりの検討を試みたい。
イ 期間説を前提とした場合の審判における問題点について
(ア) 本判決における法廷意見において、時点説で訴訟物を捉える前 提として「原告が特定の期間の賃料額について確認を求めていると 認められる特段の事情のない限り」との限定を付し、本件における 特段の事情の有無を判断するに際し、「請求の趣旨において賃料額 の確認を求める期間の特定はなく」ということを根拠としているこ とからすれば、仮に、原告が賃料の増減がされた日から事実審の口 頭弁論終結時までの期間における賃料額の確認を求める旨を請求の 趣旨で明示した訴状により訴えを提起したならば、裁判所としても、
期間説を前提として審判をせざるを得ないのであろう。
そのような場合、補足意見によれば、当該訴訟の係属中に新たな 増減請求がされた場合に手続上煩わしい問題が生じる可能性が指摘 されている。そして、その可能性が生じるパターンとして、減額確 認請求訴訟中に増額請求がされた場合を例示する。これに対し、増 額訴訟中の増額請求や減額訴訟中の減額請求という、いわば同一方 向の請求がされた場合には、前の請求について後の請求による増減 時までに期間を限定することになるであろうから、審理の状況次第 で、更なる請求に係る賃料額確認を、同一訴訟内で処理するか別訴 にしてもらうか、いずれの方法も困難ではなかろう、としている。
(イ) まず、同一方向の請求がされた場合には、特段に困難が生じな
いとする理由であるが、同一方向の請求の場合には、原告としては、
更なる請求による増減までの時点に期間を限定しなければ、期間が 重なる同一期間において、不利な金額(訴え提起段階)と有利な金 額(更なる請求段階)の複数の金額確認を求めていることとなって しまい、更なる請求に係る賃料額確認について、同一訴訟内で処理 しようとすれば、予備的併合ないし選択的併合と扱われるにせよ、
不利な金額による判決の可能性を生じるし、別訴で処理しようとす れば、重複訴訟の禁止に触れ却下される可能性を生じるのであるか ら、そうした結果を回避しようと、原告は、自発的に最初の訴えに おける賃料の確認期間を限定するに至るであろう、ということであ ろう。
(ウ) 次に、手続上煩わしい問題が生じる可能性が生じる場合として 例示されている減額確認請求訴訟中に増額請求がされた場合につい てであるが、これは、反対方向の請求が反対当事者たる被告からさ れた場合、というように一般化することができるであろう。そうし た場合、補足意見では、原告の意思に反して終期を付すように求め ることはできないであろう、とした上で、その結果、遮断効を避け るための反訴の提起を許さざるを得ないことになれば、審理の長期 化要因となることは不可避だと論ずる。
この論じ方に関しては、次の諸点が気になるところである。
a 原告の意思に反して終期を付すように求めることの意味 これは、原告が自発的に賃料額の確認期間を、反対方向の請求 による増減時までに限定してくれるならば、予想される不都合は 生じない、ということであろう。そして、不都合に至る過程に「遮 断効」という言葉が出ているのであるから、期間の限定があれば、
遮断効は生じないということであろう。反対に、原告が終期を付
さず期間の限定がなければ、遮断効が生じてしまう、ということ になろう。期間説によれば、既判力の基準時は事実審の口頭弁論 終結時ということになるから、その時までに反対方向の請求によ る賃料増減が生じたというのであれば、その主張をしておかなけ れば、遮断効が生じ、後訴で当該増減を主張しても排斥されてし まう、ということになるので、被告のために遮断効を回避しよう とするならば、原告に終期を付してもらう方法がある、というこ とになる。だが、これは、原告にしてみれば、合理的意思に反す る要求である。終期を付さず訴訟を追行し、確定判決を得れば、
遮断効を享受でき自らに有利となる以上、終期を付すということ は原告に不利になることを要求することになるからである。
b 遮断効を避けるための反訴の提起ということの意味
被告が、反対方向の請求による賃料増減による賃料額の確認を 反訴で求めるとなれば、同一訴訟内で判断されるから、裁判所と しては、自ずと、原告の請求について終期を付し、同一期間内に おいて確認金額複数が重複することのない判決をすることになる から、被告としても、自己の請求による増減後の賃料についての 主張自体の排斥を受けることはない、ということになる。
c 期間説では遮断効を避けるために反訴提起は不可避か
この点に関しては、しかりとするように思われる見解も見受け られる 。しかし、期間説を採用したならば、賃料増減請求権が 形成権であることと相俟って、増減請求による賃料増減を主張し
例えば、勅使川原和彦「賃料増減額確認請求訴訟に関する若干の訴訟法的検討」『民事手続 法制の展開と手続原則―松本博之先生古稀祝賀論文集』(弘文堂・ (平成 )年) 頁は
「反訴を提起せざるを得ず」とし、前掲注 伊藤 頁は「賃料増額の確認請求に対し減額さ れた賃料額を,賃料減額の確認請求に対し増額された賃料額を確認することは,反訴の提起が ない限り許されず,反訴の提起がなければ単に請求を棄却すべきものと解されている」とする。
さえすれば、判決の基礎となる のではなかろうか。つまり、被 告として遮断効を受けたくなければ、反訴までする必要はなく、
主張するだけで足りる場合もある(もちろん、その主張が判決理 由中で肯定されることが前提であり、否定された場合には遮断効 が生じることは如何ともし難かろう)とはいえないだろうか。
先ずは、形式的な検討をしてみたい。例えば、次のような立論 は可能であろうか。
例えば、月額賃料 万円を 万円に減額したことの確認を求 めている訴訟係属中(以下、 万円に減額する時点を「基準時 点A」という。)、被告が、 万円に増額したことを主張しよう とする場合、期間説をとると、口頭弁終結前までの賃料に影響を 与える事情は攻撃防御資格があるから、主張されれば、被告の 万円への増額請求も考慮はされるものの、原告が求めているのは
万円に減額したことの確認であるから、被告の増額請求が肯 定されたとしても、出すことのできる判決は、原告の請求を、増 額請求がなされ増額が生じる時点までの期間範囲に減縮する(そ の時点以降は、賃料額の減額はゼロ円である)との請求の一部認 容判決となり、賃料月額 万円を増額に至らしめることはでき ない。期間説からすれば、事実審の口頭弁論終結時までの期間全 体の賃料判断に既判力が生じるから、被告は、口頭弁終結時前に した増額請求による増額を後訴において主張することはできず、
前提賃料超過額分につき遮断効を生じる。よって、被告としては、
そうした遮断効を回避し賃料月額の増大を図るには、審判対象の 拡張を図るべく反訴をせざるを得ない、と。
前掲注 勅使川原 頁注 )に「期間説では増額請求の意思表示が訴訟上示されただけで 判決の基礎となる。」とある。
しかし、例えば、先の例で、被告としては、 万円までの減 額は下げ過ぎで 万円までの減額が妥当と考え防御しつつ、か つ、今般、 万円への増額請求をした、という場合(以下、
万円に増額する時点を「基準時点B」という。)に、被告の主張 が肯定されると、原告の請求の一部認容(基準時点Aから基準時 点Bまで 万円の確認、基準時点から口頭弁論終結時まで 万 円の確認)という形で、被告の主張は全て織り込まれることとな り、必ずしも反訴は不可欠ではない、と。
賃料増減額請求権は形成権であり賃料増減額確認訴訟は文字通 り確認の訴えであるとの見解 からすれば、期間説を前提とする ならば、形式的には、以上のような立論となるであろうと思われ るが、この点に関しては、「期間説に立ったとすると、前件本訴 では基準時点 での相当賃料額、基準時点 での相当賃料額、基 準時点 での相当賃料額が各々確定されないと、正確な差額分の 給付請求(借地借家法 条 項・ 項)ができないと考えるとい うより(この場合、前件本訴は請求の減縮や拡張を繰り返してい ると見ることになろうが、それらの要件を当然に充足していると 見られるかは難しそうである)、澤野説のように、口頭弁論終結 時に確定された相当賃料額が、前件訴訟の本訴提起前の基準時点 から一定で引き続く相当賃料額と見て、それとの差額を考える ことになろう(本件原審はこのように解している)。」 との指摘 が気になるところである。この指摘は、基準時点別に金額を認定 しようとするならば、請求の減縮や拡張を繰り返していることを
最判昭和 年 月 日民集 ・ ・ や最判昭和 年 月 日民集 ・ ・ など実務 が前提としている見解である。
前掲注 勅使川原 頁注 )
前提として、訴訟物を把握しようとするものであると思われる。
この把握の背景には、次のような発想による構成があるのかも知 れない。「賃貸人が賃料増額請求を行うとともに増額後の賃料額 の確認を求め、これと並行して賃借人が賃料減額請求を行うとと もに減額後の賃料額の確認を求める」場合に「…確認の対象がい ずれも同一期間の賃料額であるにせよ、賃貸人による賃料増額請 求と賃借人による賃料増(ママ。おそらく減)額請求とは別個の 形成権であって確認を求める賃料額の裏付けとなる実体法上の請 求権が異なること」 を強調し、賃料増減額確認請求訴訟の期間 説による訴訟物は、賃料増減請求権という形成権の行使による賃 料増減の結果たる賃料額が口頭弁論終結時まで同一金額のままで あることと構成するのである(以下、かかる構成を「単一構成」
という。)。この単一構成によれば、別異の形成権たる賃料増減請 求権の行使がある都度、訴訟物は別異のものとなり、別異の訴訟 物での金額確認を求めるならば、反訴なり別訴は不可欠となるの であろう 。
しかし、先に述べた後者の例に限定するならば、必ずしも、そ のように把握せず、別異の解決の仕方もあり得ないであろうか。
万円につき、 万円となり 万円となった後者の例につい て当てはめてみると、原告が求めているところ を実質的に解釈 し、基準時点A前は 万円であり、基準時点Aから事実審の口 頭弁論終結時までの相当賃料額は 万円であることの確認を求
森鍵一「第 章賃料増額・減額確認請求訴訟」『借地借家訴訟の実務』(新日本法規出版・平 成 年) 頁
前掲注 伊藤の論拠もここに求めるようである。同所に、前掲注 森 頁を参照としてい る。
後掲エも参照
めるものの、そこまでの減額が認められない場合には、全期間を 通じて、可能な範囲で 万円まで、かつ 万円よりは低額な正 当な金額の認定を求める、という審判対象で構成するのである。
この構成は、賃料増減請求権という形成権の行使による賃料増減 の結果たる賃料額と、通常の賃料額の期間的な確認とを複合的に 審判対象としていることとなるのであるが、処分権主義からする ならば、許される構成なのではなかろうか(以下、かかる構成を
「複合構成」という。)。すると、その範囲内で、基準時点Aから 同Bまでは 万円、基準時点Bから事実審の口頭弁論終結時ま では 万円と判断することは、あくまでも原告が当初設定した 訴訟物の範囲内における一部認容をしたに過ぎないので請求の減 縮や拡張とまで見なくてもよい、と理解できないであろうか。
但し、後者の例に関しては、先の単一構成でも、反訴の提起を しなくても遮断効を避けることができることを説明することも可 能とも思われる。先の単一構成を前提とするならば、基準時点A 前は 万円であり、基準時点Aから口頭弁論終結時までの相当 賃料額は減額請求による結果たる 万円単一金額であることの 確認を求めている以上、別異の形成権行使により、その金額に基 準時点Bにて変動が生じた以上、確認を認容できるのは、基準時 点B寸前までである、として、基準時点Aから同B寸前までは 万円であることを確認し、その余の請求は棄却する、とするので ある。すると、基準時点B以降については、特段に特定の相当賃 料額の確認がなされていない以上、後訴において、基準時B以降 の増額後金額の主張をすることは遮断されない、と理解できない であろうか。
d cの議論と借地借家法 条 項、 項との関連
ここで、今の議論と借地借家法 条 項、 項との関連も検討 しておきたい。というのも、借地借家法 条 項、 項は、建物 の借賃の増減額について当事者間に協議が調わないときは、その 請求を受けた者は、増減額を正当とする裁判が確定するまでは、
相当と認める額の建物の借賃の支払で足りるか請求できる、とい うシステムを採用しており、「増」「減」「額を正当とする裁判が 確定する」という部分が、その確認等を求める訴えでなければな らない、とすると、別の根拠から、被告の反訴の不可欠性が導か れる可能性があろうからである。
先ず、増減金額それ自体を正当とする裁判が確定したといえる 最も明確な場合とは、増減金額それ自体が判決主文に明示される 場合であろう。しかし、これは、通常の請求の趣旨・判決主文と 乖離があり過ぎる。実務上の請求の趣旨・判決主文は、例えば「原 告が被告に賃貸している別紙目録記載の建物の賃料は、平成×年
×月×日以降 か月○○円であることを確認する。」 といったも のになる。ここでは、単に、増減後の金額それ自体のみが主文に 示されているにすぎず、従前の賃料金額からいくら「増」「減」
したのか、という増額ないし減額の差額自体を正当とする内容は、
判決理由中で示される増減前の直近の確定賃料金額と照合しない 限り判然としない。そこで、増減後の相当賃料額自体 を判決主 文で明示すれば足りる、あるいは、判決理由中の判断でも、別の
裁判所職員総合研修所『民事実務講義案Ⅰ(四訂補訂版)』(司法協会・平成 年) 頁 前掲注 勅使川原 頁注 )に「未払賃料請求訴訟の係属中に、被告(賃借人)から「抗 弁」として賃料減額請求をするという例…の場合、…未払賃料額の確定の中に賃料減額請求に よる相当賃料額の判断が織り込まれているものと見られるが、相当賃料額自体は判決理由中の 判断に過ぎず、厳密には借地借家法 条の裁判上の「確定」に含まれないであろう」とある。
但し、本稿後掲注 参照
部分に既判力が生じたことからの帰結として「相当賃料額」も争 えなくなる場合もこれに準じて考えてよい 、とするのが常識的 であろう。
すると、どういうことになるか。はっきりしているのは、借地 借家法 条自体は、賃料増減請求権の行使を必ず訴えを以てしな ければならないとまで定めているわけではないから、賃料増減額 確認の訴えを形成の訴えであると性質判断することはできない、
ということである。したがって、遮断効を回避すべく、被告が反 対方向の請求による増減を主張しようとする場合、必ずしも、訴 えたる反訴提起をせずとも意思表示をしたことなどの主張をする だけでもよい、となりそうではある。但し、賃料増減請求権を裁 判外で行使したとしても、あるいは、それは形成権の行使である から実体法的には相当賃料額に金額が変容したと主張したとして も、それを、相手が自発的に認めてくれない限り、相手が相当と 認める額の賃料しか支払われないか、または、相手が相当と認め る額の請求を受けてしまう、という法律関係に留め置かれること になる(借地借家法 条 項、 項。この関係は、借地でも同様 であろう、借地借家法 条 項、 項)。こうした法律関係から 脱却しようと欲するならば、早晩、増減額を正当とする裁判の確 定を求めてアクションを起こさなければならない。
とすれば、この増減額を正当とする裁判が、賃料増減額確認請
前掲注 勅使川原 頁注 )に「差額分の給付請求訴訟では、相当賃料額は判決理由中で 判断されるに過ぎず、厳密には借地借家法 条の「裁判上の確定」に該当しないとも思われる。
もっともこの点は、現状賃料額と判決で判断された相当賃料額との「差額分(の給付請求権)」
に既判力が生じれば、その差額分が争えなくなる以上、当該「相当賃料額」も争えなくなろう から、裁判上の確定に準じて考えてよいのであろう(…、未払賃料請求において賃料減額請求 の抗弁が提出されたケースについても、同様に考えられる)。」とある。
求訴訟等の訴えでなければならないのであれば、被告としては、
反訴の提起をせざるを得ない、ということが借地借家法からの事 実上の要請、という形で作用することとなろう。つまり、遮断効 を回避するためだけであれば、請求の拡張を必要としない限りは、
反訴提起までは必要ではなく、意思表示等の主張で足りるところ、
増減後の賃料の請求・支払を実現するためには、借地借家法の規 律により、反訴提起をせざるを得ない、ということとなるわけで ある。
しかし、先に見た通り、「正当とする裁判が確定する」とでき る場合には、相当賃料額自体が主文で明示されるか、明示されず とも他の部分の既判力から争えなければ、それに含まれる。ここ で、先の「月額賃料 万円を 万円に減額したことの確認を求 めている訴訟係属中、被告としては、 万円の減額は下げ過ぎ で 万円までの減額が妥当と考え防御しつつ、かつ、今般、
万円への増額請求をした、という場合に、被告の主張が肯定され 原告の請求の一部認容(基準時点Aから同Bまで 万円の確認、
同Bから終結時まで 万円の確認)という形で被告の主張は全 て織り込まれ」た、という場合を検討してみたい。この場合、原 告の主張する相当賃料額は一部認容的な形で、即ち、金額的に、
万円までの減額ではなく 万円までの減額と 万円までの 減額で認容され、被告の主張する相当賃料額も全部認容的な形で、
それぞれ主文で明示する形で判断されたことになるから、借地借 家法の 条ないし 条の 項、 項の「正当とする裁判が確定す る」場合に当たると言えよう。
e 以上の解決の公平性
素朴に考えると、原告は訴え提起という負担をしているのに対
して、被告は、原告が起こした訴訟手続に乗っかっているだけに 過ぎず、反訴提起の負担をしていないのであるから、不公平な扱 いであり、手続の負担の公平化という見地からは、被告も反訴提 起の負担をすべきである、という立論も可能かも知れない。もち ろん、反訴提起ともなれば、調停前置の制約も働くのであるから、
被告は調停前置の負担も回避できるから、より不公平感は増すと も言えよう。
確かに、個別的に眺めた場合は、そのようにも言えるであろう。
しかし、長期間の継続が予定されていて、相当賃料額が上下方向 どちらにも変動し得る一般的抽象的な法律関係であると全体的に 眺めた場合は、原告となるか被告となるかに関しては地位の互換 性を見出すことができるのであるから、一概に不公平と決めつけ ることも出来まい。
以上からすれば、補足意見が述べた反訴提起による審理長期化 は、反訴提起がなされた場合の不都合を指摘しているものと解さ れ、そうだとすれば、事態をより一般的に表現するならば、遮断 効を回避するために反対方向の請求による賃料増減が被告から主 張された場合に審理長期化要因となることは不可避である、とい うこととなろう。
ウ 特段の事情の例示の適切さについて
本判決の法廷意見では「賃料増減額確認請求訴訟においては、その 前提である賃料増減請求の効果が生ずる時点より後の事情は、新たな 賃料増減請求がされるといった特段の事情のない限り、直接的には結 論に影響する余地はないものといえる。」と述べられており、この点 に関しては、「後行の賃料増減請求が遡って、先行する賃料増減請求 に基づく賃料額の相当性を判断する考慮事情となる特段の事情である
かのように読めるが、期間説を採れば格別、なぜそのようにいえるの か理解に苦しむ」 との批判が存在する。
確かに、評釈者のように読む余地もあるかも知れないが、ここで法 廷意見が述べたかったことは、仮に後行の賃料増減請求がないような 事案であるならば、法廷意見よりも後の補足意見で出てくる期間説か 時点説かの対立にも左右されずに、増減請求の効果が生ずる時点より 後の事情は直接的には結論に影響する余地はない、よって、審理対象 とはならない、ということだったのではなかろうか 。そうであれば、
この部分は理解できるし賛成もできる。なぜ、新たな賃料増減請求が 特段の事情の例示となるかといえば、もし、新たな賃料増減請求がな されたならば、原告が期間説での審理を求めている場合には(これが 許されることにつき、本稿 ⑵イ(ア)参照)、その主張がなされる と判決の基礎となるのであるから(本稿 ⑵イ(ウ)c 参照)、増減 請求の効果が生ずる時点より後の事情も、新たな賃料増減請求による 増減が生ずる時点までの事情である限りは、当然に、直接的に結論に 影響する余地のあるものとなってくるからであろう。この点は、正に、
評釈者が「期間説を採れば格別」と指摘したことが正鵠を射ているこ ととなろう。
エ 本件判決の判決主文について
本件判決に対する評釈の中には、「前訴反訴判決(単純な請求棄却)
の既判力は基準時②時点での賃料額がゼロであることにつき拘束力を 生じる」 とするものや、「原判決を破棄して、事件を原審に差し戻し
前掲注 林 頁
前掲注 伊藤 頁にも「…新たな賃料増減請求といった事情がない限り、時点説であろう と期間説であろうと、賃料増減請求時点後の事情は直接的には結論に影響する余地はないとい える。」とある。
前掲注 上田 頁
た、主文での判断には疑問が残されている。というのも、前訴確定判 決は前件反訴請求を全部棄却しているので、本判決の立場を前提とす ると、前訴判決の既判力は基準時 …において賃料額がゼロであるこ とに生じていることになる…。しかし、基準時 において賃料額がゼ ロであることを前提として、基準時 における賃料額を判断すると、
それはゼロにしかなり得ないので、上告を棄却すべきであったのでは ないかと思われるからである。」 とするものがある。
そこで、先ずは、賃料額確認請求訴訟において全部棄却確定判決が 有する既判力の内容を確定する必要があろう。
時点説を前提とした場合の賃料増減額確認請求訴訟における訴訟物 は何か。この点につき、本件判決の補足意見は「賃料増減請求が効果 を生じた時点の賃料額」である、と明示する。すると、増減効果発生 時における(相当)賃料額が特定の金額であることが訴訟物となるの であるが、原告の合理的意思を加味して、より実質的に審判対象を解 釈すれば、増減効果発生時前の合意等による確定賃料額を前提に、賃 料増減請求権を行使したことにより増減した結果の相当賃料額は、最 低でも確定賃料額超・最高は主張金額(増額請求の場合)、最高でも 確定賃料額未満・最低は主張金額(減額請求の場合)であり、その範 囲内での相当賃料額の確認として、相対的に、最高額の金額での(増 額請求の場合)、または最低額の金額での(減額請求の場合)確認を 求める、ということになろう。当該範囲内では裁判所の総合的な判断 に従わざるを得ないという意味では、法規に事実を当てはめて三段論 法的に一定の結論を得ることとは相当の径庭があるという意味では、
非訟的ないし形式的形成訴訟の色彩を帯びる、ともいえる 。
前掲注 山本 頁
前掲注 水本ほか 頁、星野『借地・借家法』(有斐閣・昭和 年) 頁
とするならば、かかる求めに対して全く認容をしないということは、
原告が設定した審判対象内で原告に対して最も不利な内容すら否定す る判断を示した、ということになるのではないだろうか。つまり、増 額請求を理由とする場合においては、最低であるところの従前の確定 金額超を否定したこととなり、減額請求を理由とする場合においては、
最高であるところの従前の確定金額未満を否定したこととなるのでは あるまいか。要すれば、従前の確定金額について何ら増減を認めるこ とはできない、との判断を示したことになるのではあるまいか。
この点に関しては、「当該時点において賃貸借契約が有効に存続し ている場合には、何らかの賃料額があるはずであるから、一部認容一 部棄却をすべきことになる。このような場合に全部棄却判決をすると、
当該時点において賃料額がゼロになってしまうからである。」 との指 摘もある。
しかし、判決は訴訟物の範囲を超えて下すことができない以上(民 事訴訟法 条)、原告の請求を全部否定したからといって、突如、原 告が設定した金額範囲を突き抜けてゼロとなると判断した、というの は言い過ぎなのではないだろうか。確かに、同指摘が示すように、当 事者に分かり易い判決主文としては、具体的な金額を示した方が親切 であったかも知れないが、だからと言って、不当とまで断じなくても よいのではなかろうか。
この議論は、例えば「原告(債務者)が一定額の債務があることを 留保して、たとえば、三〇〇万円を超えては債務を負っていないこと の確認を求めるという形で訴えを提起することがある…。…。この場 合、裁判所としては、原告主張とは異なり三〇〇万円以上の債務があ
前掲注 山本 頁
ると判明したとき、それでもって直ちに請求棄却の判決をしてよいか。
最判昭和四〇・九・一七民集一九巻六号一五三三頁…は、してはなら ないとする。」 といった議論を想起させる。この昭和 年最判の論法 を、賃料増減額確認請求訴訟にあてはめるとどうなるであろうか。あ てはめやすいのは、債務不存在構成とリンクさせやすい賃料減額請求 の方なので、そちらの例で検討してみたい。
例えば、前提賃料月額 万円を 万円に減額する意思表示をした ので、一定時点から賃料は月額 万円であることの確認を求めた場 合、債務不存在構成にリンクさせるならば、 万円のうち、 万円 を超えては債務が存在しないことの確認を求めている、ということに なろう。昭和 年最判では、対象債務の全体が仮に , 万円であっ たなら、 万円との差額の 万円について債務不存在かどうかを審 理した上で、残存額があるならばそれを明らかにしなければならず、
残存額を明らかにすることなく直ちに請求棄却としたことは審理不尽 だ、と判示した 。すると、賃料減額請求の場合、減額が全く正当化 できないのであれば、 万円と 万円の差額の 万円の債務不存在 かどうかの審理において、残存額は 万円であるとの帰結に至ったこ とになるのであるから、直ちに請求棄却とすることは審理不尽と判断 されてしまう判決の下し方であり、それを回避するには、端的に、一 定時点から賃料は月額 万円である、との判決を下すべきであった、
ということになるのかも知れない。
この点に関しては「判例はこうだとして、さてどう考えるべきか。
…三〇〇万円を超えては債務は存在しないことの確認請求を単純に請 求棄却とする場合、この判決は三〇〇万円を超える債務があることを
高橋『重点講義民事訴訟法 下〔第 版補訂版〕』(有斐閣・ 年) 頁 前掲注 高橋 頁
既判力で確定する。…しかし、この処理は原告(債務者)に有利すぎ る。被告の応訴の負担、何度も審理しなければならない裁判所の負担 も考えなければならない。…」 との指摘が示唆的であろう。そこで、
賃料減額請求の例でも、請求棄却ともなれば、同様の不都合が生じる かを検討してみたい。仮に、 万円を 万円に減額請求した事案で 裁判所が減額は 円たりとも正当化できないと判断し、単純に請求棄 却判決を下したとする。これを先の示唆に当てはめると、賃料月額は 万円を超えて存在することを既判力で確定することとなる。する と、原告からの、 万円を超えては存在しないとの請求、それも棄 却されると、 万円を超えては存在しないとの請求、それも棄却さ れると、 万円を超えては存在しないとの請求、といった際限のな さを阻止できない、という意味では、昭和 年最判の扱いに従い、や はり、請求棄却は許されないとの方向が支持される余地もあるのかも 知れない。
では、先の賃料減額請求の例では、端的に、一定時点から賃料は月 額 万円である、との判決とすべきなのであろうか。この判決は、
外見上は、一部認容のように感じられるが、これにも違和感がある。
原告としては、前提賃料がそのまま維持されることは全く念頭になく、
いくらかの減額は正当化されるとの大前提にて訴えているのであるか ら、前提賃料額そのものの確認がなされるということは、全部棄却に 外ならず、一部たりとも認容とはいえないはずである。全部棄却の判 断をしたにもかかわらず、外見上は、一部認容の如き判決となってし まう。違和感があるゆえんである。
とすれば、ここはシンプルに考え、減額結果としての 万円であ
前掲注 高橋 頁以下
ることの確認請求に対し、裁判所が 円の減額も正当化できないとの 心証だったのであれば、端的に請求棄却判決で構わず、その確定判決 の有する拘束力の内容は、その時点での金額は 万円であるとはい えないというだけのことである、とするのも一つの手であろう。
以上からすると、この問題は、一筋縄では解決し難く、出された判 決を総合的かつ合理的に解釈し、既判力が生じた内容を個別事案ごと に確定させていくほかないともいえる面を含んでいるのではなかろう か。その意味で、本判決が「前訴判決の既判力は、基準時 及び基準 時 の各賃料額に係る判断について生じている」としているところ、
その基準時 の賃料額に係る判断と言うのは、今後、本件差戻審にお いて、その内容を総合的かつ合理的に判断していくべき問題というこ ととなろう。
この問題に関する最高裁判所判例解説の問題提起によれば「賃料自 動改定特約による賃料の改定があっても、賃料額の相当性を判断する には当事者間で現実に合意した直近賃料を基準とすべきであるとする 最二小判平成 年 月 日・集民 号 頁の趣旨は、相当賃料額算 定に当たり、経済事情の変動等が考慮されることのない期間が生じて しまうことを回避しようとするものとされていること…も考慮すれば、
本件では、基準時 につき認定判断された相当賃料額を基にして基準 時 の賃料額の相当性ないし相当賃料額を審理判断するという考え方 も十分あり得ると思われる」 とされている。この問題提起の示すあ り得る考え方を前提とするならば、基準時 の賃料額に係る判断とい うのは、基準時 での増額請求による増額という金額変動は一切生じ ていない、ということだけにとどまるものとなろう 。
前掲注 伊藤 頁
前掲注 伊藤 頁に「基準時 において賃料増額請求権が存在しないとされた」とある。
他法で、基準時 における一定額が示されると同時に反訴請求棄却 という形で裁判所の賃料額判断が示されていることや、賃料額に関す る鑑定コストの可及的な節約という観点などからすれば、基準時 の 金額に反訴請求で主張された増額は生じておらず基準時 と同一金額 が基準時 での賃料額であるとの判断こそが、本判決が基準時 の賃 料額に係る判断としているところのものである、とする考え方も成り 立ち得る余地があるようにも思われる。
いずれにせよ、差戻審において、鑑定を活用する場合には、いずれ が前提となるのかについての取捨選択を鑑定人に丸投げすることは望 ましくあるまい 。
オ 補足意見に関して気になるその余の点
法廷意見の帰結に至る根拠づけに関し、期間説と時点説との対立を 明確に指摘し、法廷意見は時点説に基づくものであることを丁寧に説 明している点で、本判決における補足意見は、今後の実務運営などに 関し、極めて参考になるものといえよう。内容に関しても、賛同でき る点が多く、特段の問題はないと思料されるが、細かい点ではあるも のの、以下の 点については、若干気になることがあるので、それに ついて、少し検討してみたい。
(ア) 気になる点の第 点目と言うのは、補足意見にある「賃料増減 額確認請求の理由の有無は、現行賃料が合意等により定まった時か ら、増減請求時までの事情に基づいて判断され、請求後の事情は考 慮されないのであるから、請求後の期間が、争いの対象として当事 者に意識されることは、少ないのではなかろうか。」という説示部 分である。
前掲注 森鍵 頁
これは、本判決理由の の⑴で引用されている最判平成 年 月 日集民 ・ を前提としていると解される。当該判決を読むと、
賃料自動改定特約による増額を基にすることなく、という当該事案 固有の指摘もあるものの、確かに、直近合意賃料を基にして、同合 意の日から減額請求の日までの間の経済事情の変動等を考慮して判 断されなければならない、とあり、一見、補足意見のとおりである ようにも思われる。しかし、この点は、ロジックとしては、逆にす べきなのではなかろうか。つまり、アプリオリに、判断資料は減額 請求時までの事情とされているのではなく、むしろ、当該判決には、
補足意見も指摘している「意識的ではないかもしれないが、賃料増 減請求が効果を生じた時点の賃料額が訴訟物という考え」(時点 説)あるいは期間説のうちにおける単一構成(前述イ(ウ)c参照)
が前提となっているがゆえに、その訴訟物の判断のために必要な資 料の内容的な時的限界は、当然に、増減請求時点まで、ということ になり、だからこそ、当該判決が考慮対象を減額請求の日までの経 済変動等と示したのではないだろうか。
要するに、先ほどの補足意見の説示は、ロジックを逆にして、む しろ「増減請求後口頭弁論終結時までの期間における増減請求が訴 訟物の判断資料とされず争いの対象とならないような訴訟物設定の 訴訟である場合には、つまり、当事者が請求後の期間を争いの対象 として意識していないような場合には、賃料増減額確認請求の理由 の有無は、現行賃料が合意等により定まった時から増減請求時まで の事情に基づいて判断され請求後の事情は考慮されるべきではな い。」などとする方が適切だったのではなかろうか。審判対象の方 が先に定まってこそ、その判断に適切な資料の範囲が決まって来る 筈なのであるから、審判対象を離れて、アプリオリに判断資料の範
囲が既に決定しているかのようなロジックには違和感を禁じ得ない ところである。
(イ) 気になる点の第 点目と言うのは、補足意見における文脈から すれば、期間説を採るべき必然性はなく時点説を採ることに支障は ないとした上で、期間説の有する難点の付加的内容として、調停前 置が機能しないおそれについて述べられたものと解されるが、しか し、補足意見が設定した状況であれば、時点説を採用したとしても、
同様のおそれはあり、これは、特に、期間説プロパーの難点とは言 い難いのではなかろうか、と思われる点である。
つまり、補足意見では、最初の増減請求の結果の賃料額が決まら ない限り、新たな増減請求について調停を進めることは困難、とい う状況を想定しているわけであるが、このことは、補足意見が述べ る「時点説は、新たな増減請求がされても、特段の措置を講ずるこ となく別訴にまわすことができ、審理の複雑化を避けることができ る。」との指摘に従い、新たな増減請求がされ、別訴提起がなされ たとしても、やはり、調停前置主義に従い、別訴について調停がな されることとなろうが、そこでも、本訴における増減判断の結果が 出されるまで足踏みを強いられる 点で、紛争全体を総合的に眺め てみるならば、別訴において調停前置が機能しないおそれが生じ得 る点では、結局、時点説でも期間説と同様のことを指摘し得るもの と思われるのである。
カ 紛争解決サイズについて
本判決に対する評釈 の中には、「本判決は、…、賃料増減確認請求
前掲注 上田 頁に「当該訴訟を別訴に回しても完全な並行訴訟とはならず、実体法上後行 する賃料増減につき、先行訴訟の確定まで事実上手続を中止するなどの運用を要しよう。」と ある指摘が参考となろう。
訴訟の機能を、…、著しく限定的に理解している。…、このような考 え方を原則とすることの当否が、まさに問題なのではなかろうか。…
本判決及び補足意見は、…裁判所が確定した賃料額につきその後の任 意履行が期待できる点に、このタイプの確認訴訟の存在意義を求めて いる(…)。しかし、そのような機能を十分に発揮させるためには、
過去の一時点での賃料額をばらばらに確定するのではなく、実際上は、
最も新しい段階(口頭弁論の終結時)を基準時点とした確認判決を行 い、それを当事者間での紛争解決基準としなければならない…。その ためには、…期間内の増減請求によって成立した新しい賃料をすべて 主張、立証の対象とさせたほうが、望ましい解決になる…。あるいは、
…賃料増減請求の意思表示の継続可能性を肯定する見解に、…より合 理性がある」との指摘もあり、ここで、意思表示の継続可能性を肯定 する見解とは「増減請求訴訟の係属中は当事者の相当な賃料決定に向 けての黙示的な意思表示が継続していると解する立場」のことである。
確かに、将来的には、最も新しい段階での賃料額が、今後支払われ ていくべき金額であることに関しては、何の問題もなく、これが、一 度の訴訟手続で決着が着くと言うのであれば、それ相応の手間暇がか かったとしても、それなりのメリットがあること自体に、当職として 特段の異論を唱えるつもりまではない。
しかし、直近の相当賃料額が決まったからと言って、これまでの支 払賃料自体に関する両当事者の不満不平が全て解消すると言えるので あろうか。かたや、多く払い過ぎた時期があるから払い戻してもらい たいと思う賃借人がいて、かたや、まだ払ってもらい足りない時期の 分があるから追加で払ってもらいたいと思う賃貸人がいるのであれば、
前掲注 越山・新・判例 Watch 頁