第三者による訴訟費用負担
─ドイツにおける法的紛争の第三者金融の仕組み─
Die Übernahme von Prozesskostenrisiken durch Dritte:
Konzepte der Drittfinanzierung von Rechtsstreitigkeiten in Deutschland
†マティアス・キリアン*
監訳 森 勇**
訳 應 本 昌 樹***
目 次 訳者はしがき
Ⅰ は じ め に
Ⅱ 裁判所を利用することに伴う費用リスク 1 自分の弁護士の費用
2 裁判所の費用
3 費用償還の原則の結果としての相手方の弁護士費用 4 諸 結 論
5 小 括
Ⅲ 第三者による費用リスクの負担
1 営業としての提供者によるリスク負担:権利保護保険
†
Schriftliche Fassung eines Vortrags des Verfassers vor der Law School der
ChDaigaku (Chuo University) am 25. 3. 2014 in Tokio. Der Verfasser dankt Herrn Prof. Isamu Mori und Herrn Rechtsanwalt Masaki Omoto für die Übersetzung des Vortrags ins Japanische.
*
ケルン大学准教授 Matthias K
ILIANAssist. Prof. Universität Köln
**
所員・中央大学法科大学院教授
***
嘱託研究所員・弁護士
2 営業としての提供者によるリスク負担:訴訟ファイナンス 3 弁護士によるリスク負担:弁護士の成功報酬
4 弁護士によるリスク負担:プロ・ボノ活動 5 国家によるリスク負担:訴訟救助及び手続費用救助
Ⅳ 要約:様々なリスク負担手段の比較 1 は じ め に
2 利用の際の法律上の要件 3 人的な適用領域 4 対象となる法紛争 5 勝訴見込みの要件 6 リスク転嫁の範囲 7 費 用 8 人 気
訳者はしがき
本稿は,2014年 3 月25日,中央大学市ヶ谷キャンパス2511教室において 行われたケルン大学マティアス・キリアン助教授による講演における解説 資料の翻訳である。同助教授には,これまでに権利保護保険をはじめとし て訴訟費用のファイナンス手段に関する多くの著作があり,この分野にお けるもっとも有力な識者の一人である。講演では,まずドイツの訴訟費用 負担の仕組みを概観したうえで,続いて権利保護保険や訴訟ファイナンス などの主なファイナンス手段の特徴の解説がなされ,最後に各種ファイナ ンス手段相互の比較検討が行われた。講演には,学術研究者や法曹実務家 のほか,保険業界関係者など約30人の参加者があり,関心の高さがうかが われた。ドイツは権利保護保険において世界をリードしてきた先進国であ るが,本稿は,権利保護保険のみならずドイツにおける主要なファイナン ス手段を比較検討し,それぞれの位置付けを明らかにしようとする貴重な 試みであり,今後のわが国における権利保護保険を含めた訴訟費用のファ イナンスの在り方を検討するうえで,大いに参考となるものと思われる。
I は じ め に
消費者又は事業者が,彼らが実際に有している或いはそう考えている法 的な地位の追求を思いとどまる理由は,多様である。法律の素人にとっ て,権利へのアクセスは,わけても権利追求の手続きとそのメカニズムが 複雑かつ不透明であり,法律及び法律専門用語がわかりにくく,加えてま た法律家の世界が不安を助長していることで,困難となっている可能性が ある。もちろん,権利へのアクセスにおける主要な障害は,法律の専門家 及び司法機関の利用に伴う費用リスクにあるということは,広く衆目の一 致するところである。権利保護を求める市民(Rechtsuchender)にとっ て,裁判所の利用が必要となる場合,自分の弁護士費用だけでなく,それ 以外の費用も負わされるおそれがあるため,費用がもたらす障壁は特に著 しい。それゆえ,事業者又は消費者が,費用リスクを,これを引き受ける 用意のある第三者に転嫁することにより,いかにして当該費用リスクを軽 減できるかということに思いをめぐらすのは当然である。
本稿は,上記前提のもと,まず,ドイツにおいて権利保護を求める市民 が裁判所を利用しようとする際にさらされている費用リスクを検討したう えで ,第三者による訴訟費用リスクの全部又は少なくとも一部の負担を 許容する様々な仕組みについて解説する。これらの様々な仕組みにつき,
その作用の仕方,適用される法的な要件及び実務上の意義の点から,検討 する 。最後に ,様々な仕組みを相互に比較して,長所及び短所を明ら かにすることとしよう。
II 裁判所を利用することに伴う費用リスク
消費者又は事業者が,ドイツにある裁判所を利用する際,さらされてい ると認識している費用リスクは,自分の弁護士の費用,裁判所費用及び相 手方の弁護士費用の 3 つに大別される。
1 自分の弁護士の費用
自分の弁護士の費用を負担する義務自体は,詳述の必要のない自明の理 である。この弁護士費用は,本来の弁護士「報酬」(„Honorar“)及び委任 事務の処理の際に弁護士に生じる経費(
Auslage
)に細分される1)。弁護 士を利用する者は,結果として生じる費用を負担しなければならないこと は当然であって,連邦通常裁判所は,弁護士は依頼者にそのことを特に知 らせる必要はないと判示している2)。報酬の支払義務及び出費(Aufwen- dung)の償還義務は,弁護士と委任者との間に締結されたいわゆる弁護
士契約から生じる。それは,私法上は委任契約にあたるとされる(民法 675条,611条,612条)3)。民法612条によれば,委任者は弁護士に対し報 酬債務を負い,同法670条によれば出費の償還義務を負う。費用が個別契 約の対象とされていない場合には,民法612条 2 項 2 文により,弁護士報 酬法(RVG)4)において問題となる活動につき定められている報酬及び同 法における出費償還に関する規定が基準となる5)。主な費用の点は,ここでは,通常,出費ではなく,弁護士の報酬であ る。すなわち,この法律上の規律によれば,例えば,時間制報酬(
Zeitho-
norar
)又は総額報酬(Pauschalvergütung
)の形での報酬の個別の約定が,ドイツにおいては原則であるべきだとはいっても,弁護士は,平均的 にみて,その売上の31%を,個別契約に基づいてではなく,弁護士報酬法 上の法定報酬の基準に準拠して,得ている6)。小規模法律事務所において は,弁護士報酬法に準拠した報酬の請求による売上の割合は,実に,平均 で71%に達している7)。弁護士が,委任者に対してそうまで頻繁に法定報
1) Legaldefiniert in§1 Abs. 1 RVG.
2) Koch/Kilian, Anwaltliches Berufsrecht, 2007, Rn. 378.
3) Vgl. nur BGH NJW 1955, 1921, 1922; NJW 1978, 1807, 1808.
4) Rechtsanwaltsvergütungsgesetz vom 5.5.2004, BGBl. I 718, 788.
5) Näher zur Systematik des§612 Abs. 2 BGB Koch/Kilian, a.a.O., Rn. 484.
6) Hommerich/Kilian, Vergütungsvereinbarungen deutscher Rechtsanwälte, 2006, S. 33.
7) Hommerich/Kilian, Vergütungsvereinbarungen, a.a.O., S. 34.
酬に基づいて請求する理由は,本講演を進めていくなかで明らかとなる。
ここでは,権利保護保険の利用の普及及びドイツ法が採っている費用償還 の原則によるものであることを示唆することで十分であろう。
圧倒的多数の場合がそうであるが,弁護士報酬は,弁護士報酬法に基づ き,したがって法定報酬をもって清算されているが,ほとんどすべての種 類の手続きにあって,同一の弁護士活動に対する報酬は,いつも同じだと いうわけではない。むしろ,民事事件,労働事件及び行政事件における弁 護士報酬額は,訴訟物の価額を基準となる(弁護士報酬法 2 条 1 項)。或 いは別の形でいうと,内容的・時間的にみて全く同じ活動─例えば,依 頼者への助言,訴状の起案及び裁判所の期日の維持であっても─10,000 ユーロの訴額が問題となっている場合には,弁護士は1,000ユーロの訴額 が懸案となっている場合よりも高い報酬を受け取る8)。すなわち,弁護士 報酬は,訴額に従って上昇するものの,比例ではなく,逓減する。弁護士 報酬(及び裁判所手数料も)の訴額従属性(Wertabhängigkeit)は,立法 者の観点からは,権利保護を求める市民が,少額の事件についても,受け 入れることができる費用支出をもって弁護士に処理を委ねて,裁判所に持 ち 込 む こ と を 可 能 に す る 社 会 の 構 成 要 素 で あ る( 横 断 的 補 助 の 原 則
(
Prinzip der Quersubventionerung
))。これは,弁護士にとってみると,訴額が50ユーロという極端な場合,すべての裁判手続きがなされると(つ まり判決まで行ったとき─訳者),弁護士が受け取るのは,141.75ユーロ の報酬及び31.70ユーロの経費だということを意味している。このような 場合,弁護士活動に対する全報酬は,依頼者との個別的な報酬の場合にお いて弁護士が受け取る平均的なタイム・チャージの単価(Stundensatz)
にも足りない9)。
8) Bei einem Wert von 1.000 € stellt der Rechtsanwalt für die außergerichtliche und gerichtliche Betreuung in einem Gerichtsverfahren über eine Instanz, das mit einem Urteil endet, 347,98 € in Rechnung, bei einem Wert von 10.000 € hinge- gen 2.139,27 € .
9) Dieser betrugt zum Zeitpunkt der letzten umfassenden bundesweiten Erhe-
2 裁判所の費用
弁護士の活動が単に依頼者との相談や裁判外の代理にとどまらず,裁判 上の代理に至った場合,弁護士費用に加え,裁判所費用が発生する。裁判 所はその活動のために裁判所費用を請求するが,これは,特に,裁判所費 用法(
GKG
)10),家事事件における裁判所費用に関する法律(FamGKG
)11)並びに裁判所及び公証人費用法(
GNotKG
)12)といった様々な費用法に基 づいて生じる。訴えなどの申立てを受けた裁判所は,訴訟(又はその他の 手続き)のために,原告によって,発生する裁判所費用が予納金(Vor-schuss)として裁判所の会計課に支払われた場合に限り,活動する(裁判
所費用法12条)13)。裁判所費用が支払われない限り,訴え又は申立ては,原則として本案について審理されること,つまり,相手方に送達されるこ とはない14)。
少なからざる国が,少なくとも特定の種類の手続きにあって,市民にと り裁判所へのアクセスが不必要に困難とならないようにするために,裁判 所費用の徴収を放棄しているが,だからといって,裁判所に手数料等を支
bung zu dieser Frage im Jahr 2008 im statistischen Mittel 182 EUR, vgl. Homme- rich/Kilian, Vergütungsbarometer 2009, 2009, S. 71.
10) Gerichtskostengesetz vom 27.1.2014, BGBl. I 2014, 154.
11) Gesetz über Gerichtskosten in Familiensachen vom 17.12.2008, BGBl. I 2008, 2586, 2666.
12) Gesetz über Kosten der freiwilligen Gerichtsbarkeit für Gerichte und Notare vom 23.7.2013, BGBl. I 2013, 2586.
13) Die Fälligkeit er Gerichtskosten ist in§6 GKG geregelt. Durch die Vorschuss- pflicht muss die Zahlung vor Fälligkeit erbracht werden, Zimmermann, in: Binz/
Dörndorfer, Gerichtskostengesetz, 2. Aufl. 2009,§12 GKG Rn. 1.
14) §12 GKG ist gesetzlich als Soll─Vorschrift ausgestaltet, so dass das Gericht
nach seinem Ermessen eine zustellung einer Klage auch vor Eingang eines Ge-
richtskostenvorschusses anordnen kann. Regelmäßig bleibt es aber bei der Vor-
schusspflicht, Binz/Dörndörfer─Zimmermann, a.a.O.,§12 GKG Rn. 2.§12 GKG
ist nicht anwendbar auf die Klage in arbeitsgerichtlichen, verwaltungsgerichtli-
chen, sozialgerichtlichen und finanzgerichtlichen Streitigkeiten.
払うべしとしていることは,比較法的にみて異例なことではない15)。比 較法的にみてより異例であるのは,該当の手数料等が,その額の点で,象 徴的な性質のものに止まらず,実質的であることである。その結果,ドイ ツの司法は,その費用を44%まで裁判所費用の利用者による支払いで占め ている16)。そもそも,この費用占有水準は,欧州において─セルビア 及びマルタに続き─3番目に高い17)。2013年 8 月 1 日に発効した費用法 の改革により裁判所費用が上がるため,将来はさらに高くなるであろ う18)。
裁判所費用は,裁判所の利用のための本来の費用,いわゆる裁判所手数 料と手続きの遂行のために裁判所に発生する経費とに分かれる(裁判所費 用法 1 条 1 項 1 文)。
手続きにおいては,─手続きの進行次第によるが─通常,複数の裁 判所手数料が発生するのであって,単に全手続きのための総額手数料が発 生するのではない。このような手数料体系は,当事者が,さらなる裁判所 費用の発生を避けるために,手続きの継続を断念する契機となるものとさ れている19)。とは言っても,裁判所における訴え提起又は申立てととも に,あらかじめ,すべての,すなわち,通常の手続きの進行において発生 する裁判所費用を予納しなくてはならない。これは,裁判所費用法付表
(
KVGKG
)1210番により,原則として 3 つの裁判所費用の全額となる20)。15) Vgl. Kilian, AnwBl. 2014, 314, 316.
16) Vgl. Kilian, AnwBl. 2014, 314, 315.
17) Vgl. Kilian, AnwBl. 2014, 314, 317.
18) Zur Reform mit Blick auf das Justizkostenrecht näher BT─Drucks. 17/11471, S.
135f., 243ff.
19) Vgl. die Erläuterungen bei Binz/Dörndorfer─Zimmermann, a.a.O., Nr. 1211 KVGKG Rn. 3ff.
20) Nach früherem Recht wurde eine Gebühr für das Verfahren, eine Gebühr für
die Beweisaufnahme und eine Gebühr für das Urteil berechnet, also maximal
drei Gebühren. De lege lata fallen drei Gebühren auch dann an, wenn keine Be-
weisaufnahme erfolgt, auch das Urteil als solches löst keine zusätzliche Gebühr
然るべき減額の要件は,例えば,未だ報酬減額につながる裁判所費用法付 表1211番に詳しく特に規定された時点に訴えを取り下げることや,請求認 諾(Anerkenntnis)がなされたことや,裁判所による費用裁判がなく,終
結(
Erledigung
)したことである。そこで,手続きの展開に応じ,裁判所費用予納金が使い果たされたか否かが決まっていく(使われなかった裁判 所費用は手続きの終了の際に償還される)。裁判所費用の額は,個別に各 手続きに関して,その活動により裁判所に実際に生じた費用によるのでは なく,訴額に応じて,手数料表による(裁判所費用法 3 条 1 項,34条 1 項)。この裁判所費用法に付属文書(Anlage) 2 として添付された表は,
訴額に従って構築されている。すなわち,訴額が低ければ低いほど,裁判 所費用も低くなる。すなわち,裁判所手数料は, 3 つの訴額の例で明らか なように,弁護士報酬と同じく,訴訟物の価額に従って逓減しながら上昇 する21)。
裁判所手数料に加えて,経費が発生する。これについて,例えば,文書 作成料(Schreibauslage),一定の郵便料金及び通信のための費用のよう な,すべての償還義務のある裁判所の出費を挙げることができる(裁判所 費用法付表9000番以下)。裁判所費用法付表9005番により,裁判所会計課 によりなされた証人の決定のための出費(司法手数料及び補償法19条)及 び鑑定人のための費用(司法手数料及び補償法 8 条以下)も経費とな る22)。証人は,司法手数料及び補償法19条以下により,収入損失の補償 を受け,また,旅費が支払われる。鑑定人のための費用は,司法手数料及 び補償法 9 条 1 項 1 文により定められ,特定の報酬グループに分類された その時間単価による。2013年の費用法の改正により,司法手数料及び補償
mehr aus.
21) Binz/Dörndörfer─Zimmermann, a.a.O.,§36 GKG Rn. 4. Erst ab einem Streit- wert von 30 Mio. EUR, für den Gerichtskosten in Höhe von 307.608 € anfallen, steigen die Gerichtskosten nach§39 Abs. 2 GKG nicht weiter.
22) Weitere Anwendungsfälle zu Nr. 9005 KVGKG bei Binz/Dörndörfer─Zimmer-
mann, a.a.O., Nr. 9005 KVGKG Rn. 6ff.
法(JVEG)23)によって計算される鑑定費用は著しく引き上げられた24)。
3 費用償還の原則の結果としての相手方の弁護士費用
その基礎及び額の点において,自分の弁護士の費用(上述)と同様の原 則により計算される相手方の弁護士費用は,ドイツにおいては訴訟のリス クの評価にあたり考慮されなければならない。それは,ドイツの訴訟法 が,─若干の例外を除き─すべての裁判所及び当事者に発生した費用 の敗訴した相手方による負担義務を規定しているからである25)。対応す る費用負担の規律は,例えば,民事訴訟法91条,行政裁判所法154条又は 社会裁判所法193条に含まれている。他の手続法は,民訴法上の費用法を
(少なくとも部分的には),準用され得ることを明らかにしている。つま り,例えば,刑事訴訟法は,考え方としては,敗訴者責任を原因主義
(Veranlasserprinzip)によっている。すなわち,敗訴者に対しては,敗訴 者が根拠なく紛争の契機をもたらしたとの推定がなされる26)。敗訴当事 者は,原則として弁護士報酬法が問題の活動について規定している弁護士 報酬のみを償還すればよいとされている限度で,保護されている27)。こ の原則は,勝訴者に発生した費用は,目的に応じた権利追求又は権利防衛 に必要であった限りにおいてのみ償還を求めることができるという民事訴 訟法91条 1 項 1 文が命じるところから生じている。弁護士による代理は,
23) Gesetz über die Vergütung von Sachverständigen, Dolmetscherinnen, Dolmet- schern, Übersetzerinnen und Übersetzern sowie die Entschädigung von ehren- amtlichen Richterinnen, ehrenamtlichen Richtern, Zeuginnen, Zeugen und Drit- ten vom 5.5.2004, BGBl. I 2004, 718, 776.
24) Zur Bedeutung des 2. Kostenrechtsmodernisierungsgesetzes für die Sachver- ständigenentschädigung etwa Bleutge, DS 2013, 356; ders., GewArch 2012, 294.
25) Zu der Verschränkung dieses kostenrechtlichen Grundsatzes mit dem verfas- sungsrechtlichen Justizgewährungsanspruch etwa Schulz, in: MünchKommZPO, Band 1 (§§1─354 ZPO), 4. Aufl. 2012, vor §§91 Rn. 1.
26) BGHZ 168, 57, 61.
27) MünchKommZPO─Schulz, a.a.O., vor §§ 91 Rn. 26.
その訴訟を促進する役割から,常に目的に応じているとされる28)。ただ し,これに伴う費用は,弁護士報酬法に定められた報酬を超えない場合に 限り,必要と認められる29)。勝訴当事者は,弁護士との内部関係におい て,弁護士報酬法が規定するよりも高い報酬,すなわち,例えば,結果的 には弁護士報酬法の水準よりも高くなる時間制報酬を約定したような場 合,法定報酬を上回る金額の償還を求めることはできない30)。
それゆえ,訴えを起こそうとする者は,その請求権を裁判所の助力を得 て確保するべきかどうかの決定にあたり,裁判所手続きの結果次第で,非 常に多様な費用を負担させられることがあり得るというジレンマにさらさ れている。すなわち,勝訴の場合には,弁護士及び裁判所の利用は,全く 費用がかからない31)のに対し,敗訴の場合は,自分の弁護士だけでなく,
裁判所において発生した費用及び敗訴した相手方の費用をも償還しなけれ ばならないのである。
4 諸 結 論
上記の原則は, 2 つの主な検討結果をもたらす。第一に,原告として裁 判所に訴え出ることを考えている権利保護を求める市民にとって,訴訟費 用は,弁護士報酬や裁判所費用の料金表化により,大変透明性がある
(
a
))。他方,幅広い費用償還の原則は,その金額の点では透明性のある費 用を,だれが裁判所手続きの終了時に経済的に負担するのかという不確実28) Vgl. OLG Düsseldorf Rpfleger 1971, 442; OLG München JurBüro 1973, 63, 64.
29) BGH NJW─RR 2005, 499; MünchKommZPO─Schulz, a.a.O., §91 Rn. 61 m.w.N.
Die Festsetzung eines erstatttungsfähigen Betrags, der über den gesetzlichen Gebühren liegt, wäre mit dem Transparenzgebot unvereinbar (zu diesem Grund- satz etwa BGH NJW 2005, 1373, 1375; VG Köln NJW 2005, 3513).
30) MünchKommZPO─Schulz, a.a.O.,§91 Rn. 61.
31) Wenn er seinem Rechtsanwalt nicht im Innenverhältnis eine Vergütung über
den Sätzen des RVG zugebilligt hat, die sein unterlegener Gegner im Außenver-
hältnis dann nach den gesetzlichen Bestimmungen nicht vollständig erstatten
muss.
性をもたらしている(b))。これに加え,費用の償還を請求することがで きる者の請求権は,実際に価値があるのかどうかが不確かだということが ある(c))。
a
)発生費用の予測可能性弁護士報酬法及び裁判所費用法のおかげで,依頼者が,弁護士に,時間 制報酬のような弁護士報酬法とは異なる報酬を約束しない限り,弁護士の 活動に先立って,発生する費用を容易に計算することができる。唯一残る 不確実性は,証拠調べにあたり,裁判所がある一定の費用のかかる証拠方 法を採用した場合にはあり得ると考えられる裁判所の経費である。その他 の点では,どの費用を勝訴の場合に敗訴した相手方が償還しなければなら ないかとか,どの費用を敗訴の場合に原告が負担しなければならないかに ついてははっきりとしている。費用確定にあっては,裁判所は,費用法が 規定する報酬に絶対的に拘束される32)。それゆえ,権利保護を求める市 民にとって,訴えに先立って,生じ得る費用を問題なく見積もることがで きる。インターネット上で,多数の訴訟費用計算機能が自由に使え,権利 保護を求める市民法は,訴額を入力して,訴訟追行の費用が,紛争が一 審,二審又は三審まで続いたらどうなるか,そしてまた,判決又は和解に より訴訟が終結したらどの程度になる可能性があるのかを計算できる33)。 次の例をみると,このことがよく分かる。すなわち,訴額20
,
000ユーロ の請求権につき訴えを提起する場合,弁護士報酬法によれば,弁護士に対 しては,裁判外の活動につき,まず,1,171.67ユーロの債務を負う。同請 求権を地方裁判所において行使するための裁判上の活動について,弁護士 は1,657.31ユーロを受け取る。これを受けて裁判所が活動することになる と,1,035ユーロの予納金を裁判所に納めなくてはならない。相手方のた めに活動する弁護士は,合計2,231.25ユーロを請求することができる。そ こで,20,000ユーロの訴額が問題となる訴訟につき,専門家鑑定又は費用32) MünchKommZPO─Schulz, a.a.O.,§91 Rn. 56.
33) Vgl. etwa http://anwaltverein.de/leistungen/prozesskostenrechner.
の生じる証人尋問に至らなかった場合,合計6,095.23ユーロの費用が発生 する。裁判所手続きが一審級で終わらず,何年も続いて合計で三審かかっ た場合,合計費用は,20,950ユーロに達する(そして,これは訴訟物の価 額を超える)。
b
)費用負担の不確実性訴えを提起することを考えている権利保護を求める市民にとって,上述 の費用の透明性は,裁判所の手続きにおいて勝訴するのみならず,それが 全面勝訴であり,それゆえ生じた費用のすべてにつき,償還を受けること ができることが確実である場合においてのみ,訴えを提起するかどうかの 判断する際,全面的に役立つ。そのような確実性は,通常,現実には決し て存在しない。確かに,有利な法的地位を的確に探知しておくことによ り,全面的な敗訴を避けることができることはよくある。前もって有利で あると評価された法的地位であっても,実際には,手続きの終結時に,請 求権を100%貫徹し,裁判所及び弁護士を一切の費用負担ないままで利用 できるとまで確実に予測できるということは,まれでしかない。証拠調べ が不利に展開すること,専門家鑑定が望んだ結果をもたらさないこと又は 裁判所が自分の法理解に与しないことはあり得る。しばしば,ドイツでは 裁判所手続きは和解で終結するが,その場合,原告側は,訴えをもって要 求したものの一部を勝ち獲り得るに過ぎない。裁判所が判決を下す場合で あっても,自身の自分に有利な法律上の地位が完全には貫徹されないこと はあり得る。そのような場合においては,生じた費用の償還請求権は,常 に,原告が訴えを持って要求したもののうち認容された程度に比例して認 められるだけである。例えば,裁判上の和解又は裁判所の判決に基づい て,訴求した請求権の50%を認められた者は,生じた費用の半分を負担す ることになる。結果として,このことは,自分の弁護士の費用はすべて,
そして裁判所費用は半分まで負担しなければならないことを意味する。75
%の勝利を収めた場合,つまり圧倒的優勢であっても,自分の弁護士費用 の半分及び裁判所費用の 4 分の 1 を負担しなければならない。それゆえ,
およそ裁判所手続きに及ぶ者は,だれであれ著しい金銭的リスクを負う。
c)費用償還請求権の価値の不確実性
訴えを提起する当事者が,まず,大部分を前払いしなければならないと いう事実から,さらなるリスクが生じる。すなわち,まずは,法律上徴収 すべき費用のかなりの部分が手続き開始時に支払われた場合に限り,裁判 所は活動する。裁判所は,それにより,発生する費用が担保されない限 り,証拠調べを行わない。他方,原告の弁護士は,通常,手続きの終結ま で各報酬の支払いを求めないわけではなく,委任事務が進行するなかで,
その展開に従い,法律上の規定にそって前渡し金として報酬債権の履行を 求める。確かに,勝訴当事者は,訴訟が勝訴に終われば,その費用の償還 を相手側に求めることができるものの,それまでは,資金を負担しなけれ ばならない。民事訴訟は,特に地方裁判所においては多年にわたって係属 する可能性を否定できないため,法律上裁判手続きの終結時に受け取るこ とが約束されているとはいえ,これは,まず,当事者にとって著しい経済 的負担となり得る。加えて,裁判手続きで勝訴したとしても,勝訴当事者 が敗訴当事者に補償させることが確実にできるわけではない。すなわち,
敗訴した相手方に,裁判所費用及び勝訴当事者に生じた弁護士費用を償還 するのに必要な資力がない場合,勝訴当事者は当該費用を負担したままで あり,せいぜいのところ相手方が遠い将来資力を回復し,償還義務を履行 できる状態になることを期待するほかない。
5 小 括
ドイツにおいて実際に有している或いはそうだと思っている権利を,弁 護士及び裁判所の助力を得て貫徹しようとする者は,確かに,一方では,
弁護士費用及び裁判所費用が料金表化されていることで,これに伴って生 じる費用をかなり確実に予測できる。しかし,他方では,料金表に基づく 弁護士費用及び裁判所費用は,これを前もって資金負担しなければなら ず,そして又,訴訟の終結時に,この負担した費用の全額について償還請 求権を取得できるか,さらには,この請求権を,償還義務を負う相手方に 対し貫徹できるかどうかにつき不確実性にさらされている。
III 第三者による費用リスクの負担
そこで,ドイツにおける権利保護を求める市民にとっての主要な問題 は,訴訟費用リスクを第三者に転嫁するかどうか,さらには,どのような 前提条件及びどの程度の自己資金で,これが可能となるのかである。本稿 の第 2 部において検討を加えるのがこの問題である。ここでは,考えられ る 3 つのリスク負担者により違ってくる。すなわち,国家が,その市民 に,法紛争の事前の資金調達及び費用負担義務のリスクを負わせないこと が考えられる。また,弁護士が,訴訟追行に伴う経済的リスクを負担する 依頼者を支援することも考えられる。最後に,企業が,他人の訴訟の資金 調達及びそれに伴うリスクの負担を,事業活動の対象とすることも考えら れる。
1 営業としての提供者によるリスク負担:権利保護保険
a
)はじめに8000万人のドイツ人は,年に30億ユーロを超える権利保護保険の保険料 を支払っている─これは, 6 億人を超えるドイツ以外の全欧州市民の合 計とほぼ同じ水準である34)。「権利保護」という保険商品が非常に大きな 意義を持っている理由は,ドイツの保険市場を取り巻いているその前提と なる法律上及び事実上の枠組み─つまりは,弁護士の報酬規則が存在す ること,それゆえ,これと連動した費用償還が,多くの法体系(つまりは 国々─訳者)と異なり,その名が期待させるところのものを維持している こと,さらには,逆選択のような保険に典型的にみられる問題がもはや生 じないほどに保険加入者の数が多いこと─にある。これらの有利な前提 となる枠組みにより,保険業者は,権利保護保険商品を比較的低い費用で
34) Hommerich/Kilian, Rechtsschutzversicherungen und Anwaltschaft, 2010, S.
13; Kilian/Dreske (Hrsg.), Statistisches Jahrbuch der Anwaltschaft 2013/2014
2014, S. 175f.
提供することができる。権利保護保険契約の契約件数は2000万件を超え,
保険者の収入保険料は30億ユーロを超えている35)ことから計算して,権 利保護保険契約当たりの年間保険料の平均値は,約160ユーロとなる。
b
)資金調達手段としての権利保護保険の特徴及び適用領域権利保護保険は,モジュール型の保険商品として構成されている。すな わち,保険契約者は個別の生活領域─例えば,交通,労働,住居─ご とに保険をかける必要があり,保険業者は典型的な標準的パッケージを提 供している。すべての生活領域をカバーする包括的な保険保護は,存在し ない。そのため,例えば,家族法や会社法について保険をかけることはで きない。故意犯のための権利保護も除外されている。同じく,市場におい て,事業者のための保険保護も,事業者の事業活動の中心部分について は,実際には提供されていないに等しい。事業者は,事業目的の実現に関 連する補助的取引(Hilfsgeschäft)の一部についてのみ,保険保護の対象 とすることができるに過ぎない36)。
権利保護保険を請求できるようになるまでには, 3 か月の待機期間が経 過していなければならない。これは,法律問題が発生した後になって,駆 け込みで権利保護保険に加入することを防止するものである。さらに,権 利保護保険では,保険契約者の自己負担額が定められているのが通例であ る。これは,些細な紛争により保険が請求されることを防ぐものである。
普通保険法に基づくこれ以外の制限は,一定期間に保険利用が繰り返され た場合,保険者は保険契約を解約できるというものである。1990年代に行 われた連邦司法省の調査によれば,これらのメカニズムの作用により,権
35) Kilian/Dreske (Hrsg.), Statistisches Jahrbuch, a.a.O., S. 172.
36) So existiert Unternehmensrechtschutz etwa für verkehrsrechtliche Streitigkei-
ten, die aus dem Betrieb von Firmenfahrzeugen resultieren, für mietrechtliche
Streitgkeiten, die Folge der Anmietung von Geschäftsräumen sind, oder Arbeits-
rechtsrechtsschutz als Folge der Beschäftigung von Arbeitnehmern. Nicht versi-
chert werden können hingegen Streitigkeiten mit Kunden eines Unternehmens,
da diese so häufig und regelmäßig auftreten, dass entsprechender Versiche-
rungsschutz für Versicherungsunternehmen wirtschaftlich nicht sinnvoll ist.
利保護保険は,人口に膾炙していたところとは反対に,人々を保険がなけ れば関わることのなかった法的紛争へと誘導してはいないということであ った。
権利保護保険は,保険契約者の求めがあれば自動的に保険保護を与える の で は な く, こ れ を 与 え る の は, 十 分 な 勝 訴 の 見 込 み(
hinreichende
Erfolgsaussicht
)がある場合に限られている。権利保護保険は,その点の判断を,委任事務を担当する弁護士に委ねるのが通例ではあるが,勝訴見 込みの判断に必要なすべての関連情報を権利保護保険に提出しなければな らない。保険が,その見解によると勝訴見込みが不十分であることを理由 に,てん補保護(Deckungsschutz)を拒絶した場合,保険契約者が,見 込みがあると主張するときは,保険保護が認められるかどうかは,裁判上 の手続き,いわゆるてん補訴訟(Deckungsprozess)において明らかにさ れる。
ドイツにおける権利保護保険の特徴は,権利保護契約の履行は弁護士に よってなされなければならないことである。権利保護保険は,リーガル・
サービス法 4 条の定めるところに従い,保険契約上の給付債務を自ら履行 することは禁止されている。それゆえ,権利保護保険者は,主には,保険 契約者の権利の行使のための費用を負担することに限定されている37)。 保険契約者は,弁護士選択自由の原則(保険契約法127条参照)により,
自らどの弁護士が自分のために活動することとなるかを決定することがで き,そして権利保護保険はそこから生じる費用を負担しなければならな い。
c)権利保護保険によるリスク負担の範囲
2000年版の権利保護保険普通約款(ARB2000) 1 条及び保険契約法125 条によれば,保険契約者の義務は「利益擁護のために必要な費用」(„für
die Interessenwahrnehmung erforderlichen Kosten“)の負担,すなわち,
37) BGH, NJW─RR 1999, 1037; Harbauer─Bauer, Kommentar zur Rechtsschutzver-
sicherung, 2010, Teil B,§1 ARB 2000, Rn. 4.
訴訟の場合には,すべての訴訟追行のために必要な費用の調達に及ぶ。す なわち,権利保護保険は,報酬前渡し金(Vergütungsvorschüss)を保険 契約者の弁護士に支払い,裁判所費用予納金及び裁判所が手続きの進行中 その償還を求める経費(例えば,鑑定人費用や証人の費用)を用意する。
てん補保護を与えた際には十分な勝訴の見込みが確認されたにもかかわら ず,敗訴したときは,権利保護保険は,さらに相手方が権利保護保険に加 入している訴訟当事者に要求できる相手方の弁護士費用をも負担する。
保険者が負担しなければならないのは,すべての費用ではなく,必要な 費用だけであるという制限は,内部的関係においても負担しなければなら ないのは客観的に必要な費用だけであることを権利保護保険にとり確実な ものとする38)。保険業界の保険約款によれば,通常これは,弁護士報酬 法に基づいて生じる費用のみである。権利保護保険に加入している依頼者 が,弁護士との間で,高い報酬を約定した場合,保険契約者は弁護士報酬 法の報酬を超える金額を,自分の財布から支払わなければならない。
d)弁護士,依頼者及び権利保護保険の間の関係
弁護士と権利保護保険者との法律上の関係は,通常,権利保護保険の対 象となる委任を引受けることで発生するものではない39)。それゆえ,受 任した弁護士は,依頼者すなわち保険契約者に対してのみ,弁護士契約の 履行につき責任を負い,権利保護保険者に対して責任を負うことはな い40)。保険契約者も,委任した弁護士が適切に委任事務を処理しない場 合に,権利保護保険者に請求することはできない41)。ここから,権利保
38) Näher van Bühren, NJW 2007, 3606, 3609.
39) BGH NJW 1978, 1003; Borgmann/Jungk/Grams, Anwaltshaftung , 4.Aufl. 2005, Kapitel III Rn. 68; van Bühren/Plote─van Bühren, ARB Kommentar 3.Aufl. 2013, Anh I Rn. 1; Fahrendorf/Mennemeyer/Terbille─Mennemayer, Die Haftung des Rechtsanwalts 8.Aufl. 2010, Rn. 112; Harbauer─Bauer, a.a.O., Teil B,§17 ARB 2000, Rn. 13; Plote, Rechtsschutzversicherung 2.Aufl. 2010, Rn. 418.
40) Buschbell/Hering─Buschbell, Handbuch Rechtsschutzversicherung, 5.Aufl.
2011,§3 Rn. 18; Plote, a.a.O., Rn. 418; van Bühren, NJW 2007, 3606, 3608.
41) Vgl. van Bühren, NJW 2007, 3606, 3608. Allerdings hat der vom Versicherungs-
護保険者,保険契約者及び弁護士の間の三角関係が生じる。この関係に関 しては,依頼者としての保険契約者と弁護士との間の弁護士契約及び保険 契約者と保険者との間の保険契約の二つの契約関係が基準となる42)。そ れとは逆に,弁護士と保険企業との間には,直接的な法律上の関係は存し ない─もっとも,
Soldan Institute
の調査によれば,87%の弁護士が,帰 属すべき報酬を放棄したうえで,依頼者のために無償で,保険者との保険 法上の清算の交渉を引き受けている,つまり,みずから権利保護保険と交 渉しているのではあるが43)。弁護士の視点からすると,委任事務において外部の費用負担者を巻き込 むことは,─もとより利点も伴うものの─,余計な経費の支出につな がる。すなわち,てん補保護や費用を生じる諸措置の問題に関して権利保 護保険との余計な書面のやりとりをすることに加え,弁護士にとっては,
報酬法に関する交渉がしばしば懸案となる。権利保護保険の査定担当者 は,当然ながら,弁護士の費用の問題に精通しており,─一部は正当 に,一部は不当に─弁護士が請求する報酬が,その根拠並びに金額の点 からみて発生しているかどうかを手際よく調査する。ほぼすべてが弁護士 と権利保護保険との紛争に起因している定額枠報酬(
Rahmengebühren
) を超えることになるのかどうかという点についての判決が鳥瞰のきかない までに多数に上っていることが,この証左である。弁護士が,権利保護保 険との交渉経験について報告しているインターネットプラットフォームか らも,権利保護保険の対象となる委任においては,しばしば,弁護士が依nehmer beauftragte Rechtsanwalt gewisse Auskunftspflichten gegenüber dem Versicherer, wenn er von diesem Vorschusszahlungen entgegen nimmt. Sie fol- gen aus§86 VVG i.V.m. §§ 675, 666, 667 BGB, vgl. näher OLG Köln NJW─RR 1997, 91; OLG Köln NJW─RR 2004, 181. Auskunfts─ und etwaige Rückzahlungs- ansprüche gehen auf den Versicherer über, soweit er Zahlungen zur Erfüllung seiner Pflichten aus dem Versicherungsvertrag getätigt hat.
42) Ausführlich hierzu Bergmann, VersR 1981, 512ff.; sowie Plote, a.a.O., Rn. 418;
van Bühren, NJW 2007, 3606, 3608; Ennemann, NZA 1999, 628.
43) Hommerich/Kilian, Vergütungsvereinbarungen, a.a.O., S. 131.
頼者とのみ協議しなければならない委任よりも多くの書面のやりとりがな されるということが明らかになっている。もちろん,そもそも委任の大多 数は,権利保護保険の形をとった資金提供者がその背後にいるからこそ初 めて,法律事務所にたどり着くということは,常に考えておく必要があ る。報酬債権を全く回収できないリスクも,非常に低い。
Soldan Institut
の研究「ドイツの弁護士の報酬約定」(„Vergütungsvereinbarungen deut-
scher Rechtsanwälte
“)によれば,小規模の法律事務所では,報酬債権の9 %まで回収ができない。つまり,こうした委任では,弁護士は,その役 務給付を無償で提供したことになる44)。これとは反対に,権利保護保険 は,通常,時に好戦的ではあるにしても,支払い能力がある債務者であ る。この裏付けとなるのが,権利保護保険の対象となる委任の割合を考慮 した債権未回収の分析である。債権の未回収が最も少ないとする弁護士 は,最も高い割合で権利保護保険の対象となる委任を受けている45)。
e)権利保護保険の実務上の意義
全ドイツ人のおよそ44%が,何らかの形で権利保護保険に加入してい る。それゆえ,弁護士界にとって,権利保護保険の持つ意義は重大であ る。数年前に行われた
Soldan Institut
の調査において,回答者の述べたと ころによれば,委任の31%は権利保護保険によりまかなわれている。とも かくも,調査の時点では,弁護士の16%が,50%を超える委任を,権利保 護保険に加入している依頼者のために処理していた46)。この数値を法律 事務所の規模別にみると,権利保護保険の対象となる委任は,小さい法律44) Hommerich/Kilian, Vergütungsvereinbarungen deutscher Rechtsanwälte 2006, S. 139.
45) Zwar sind Forderungsausfälle auch bei Rechtsanwälten besonders niedrig, die keine oder nur sehr wenige rechtsschutzversicherte Mandanten betreuen. Bei ih- nen handelt es sich aber fast immer um Rechtsanwälte, die in einem bestimmten Marktsegment primär gewerbliche Mandantschaft betreuen, in dem es aufgrund der Mandantenstruktur nur selten Forderungsausfälle zu beklagen gibt und Rechtsschutzversicherungen keine bedeutende Rolle spielen.
46) Hommerich/Kilian, Rechtsschutzversicherungen, S. 87.
事務所において平均を超える高い割合になるという,これまで言われては きたものの経験的調査によっては確認されてはいなかった推測が,違いは 推測されたほどではないものの,認められる。すなわち,統計的見地から は,権利保護保険の対象となる委任の割合は,個人事務所及び 5 人の弁護 士までの共同事務所では, 6 人から10人までの弁護士の共同事務所の値よ りも 8 %高く,これは10人を超える常勤の弁護士の共同事務所よりも14%
高く─従って,倍近く高い─,10人を超える弁護士の事務所よりも23
%高い47)。
権利保護保険の意義を評価するために重要なその他の指標は,弁護士 が,平均的にみてどの程度の報酬を権利保護保険の対象となる委任により 得ているかである。数年前,弁護士への権利保護保険の支払いは年間で19 億ユーロ48)にのぼったとされた。保険業界によれば,この数値を背景に,
すでに10年前から,弁護士の全報酬収入の約20%を占めているとしてい る49)。この価額を,調査時点で登録されている弁護士の数に割り当てる と,各弁護士は,統計的にみて,権利保護保険の保険給付として支払われ る報酬を年間12
,
000ユーロ受け取っている50)。もとより連邦統計局の売上 税及び所得税統計をみると,名目弁護士(Titularanwalt
),企業内弁護士(
Syndikusanwalt
)及びその他の真剣な事業活動をしていない弁護士を除くと,市場に参加している弁護士は明らかに100
,
000人を下回ることから すれば,少なくとも一定範囲で権利保護保険と接触がある弁護士が受け取 る金額が,これよりも高いことは明白である。f)権利保護保険者と弁護士との間の清算約定(Abrechnungsvereinbarung)
権利保護保険は,弁護士報酬法に規定されたその保険契約者の弁護士費
47) Hommerich/Kilian, Rechtsschutzversicherungen, S. 87.
48) Hommerich/Kilian, Rechtsschutzversicherungen, S. 89; Richter, VW 2007, 1310.
49) Hommerich/Kilian, Rechtsschutzversicherungen, S. 155; Heinsen, VW 2003, 1801, 1802.
50) Hommerich/Kilian, Rechtsschutzversicherungen, S. 155.
用を補償することを強制されないとすれば,その出費を減少させることが できる。権利保護保険普通約款によれば,規定上,その額の費用を補償す る債務があるとしても,権利保護保険者が,弁護士に,弁護士報酬法に規 定されているよりも低い報酬で,保険契約者との法律相談にあたらせるこ とは妨げられない。保険側が,ときに「合理化協定」(
„Rationalisierungs-
abkommen
“)とも呼んでいるこうした約定において,弁護士は,当該権利保護保険に加入している依頼者に対し,特定の活動につき,原則とし て,─少しく簡略にいえば─,法定報酬を下回る固定された額又は報 酬料率枠(Satzrahmen)のうちの低額領域の報酬だけを請求することが 義務付けられている51)。権利保護保険者により提供される対価は,典型 的には,「取引関係の強化」(„Intensivierung der Geschäftsbeziehungen“)
である52)。このような対価は,しばしば,権利保護保険が保険契約にお いて,保険契約者が原則として有する弁護士選択の自由を放棄し,その代 わりに保険の契約弁護士(Vertragsanwalt)に委任するような誘因を提供 することによりもたらされる。保険契約者にとって誘因となるのは,例え ば,このようにすれば,権利保護保険契約は無事故であるとして取り扱わ れ,保険の解約権が生じないことにある。他の試みとしては,保険契約者 が保険の契約弁護士に委任する義務を負う場合に,保険料が有利となると いうこともあり得る。
このような合理化協定がどのくらい広まっているかにつき,Soldan
Institut
が2009年に調査を行った。権利保護保険の対象となる委任を取り扱っている弁護士(当時の全弁護士の79%)のうち,47%が合理化協定の オファーを受けていた53)。職務経験によって区分してみると,すでに20
51) Hommerich/Kilian, Rechtsschutzversicherungen, S. 112; Schons, AnwBl. 2010, 861; van Bühren, Anwaltsreport 2010, 16.
52) Hommerich/Kilian, Rechtsschutzversicherungen, S. 112; Schons, AnwBl. 2010, 861. Zu den berufsrechtlichen Problemen solcher Vereinbarungen siehe Kilian, AnwBl. 2012, 209ff.
53) Hommerich/Kilian, Rechtsschutzversicherungen, S. 117.
年を超えて登録している弁護士は,平均を上回る割合で,合理化協定の締 結のオファーを受けていた。専門弁護士は,専門タイトルのない弁護士よ りも,明らかにより多く,合理化協定のオファーを提出されていた(56%
対45%)54)。さらに,特筆すべきことは,ジェネラリストである割合が平 均を超えて高い個人弁護士(
Einzelanwalt
)が,協定パートナーとなるよ う保険事業者から声をかけられることは,特にまれであったことである。3 分の 2 を超える小規模共同事務所は,すでに合理化協定をオファーされ ていた。10人を超える職務担当弁護士を抱える共同事務所では,その割合 は,小規模共同事務所を下回るものの,全平均をわずかに超えていた55)。 どのくらいの数の弁護士が協定をオファーされたかよりも興味深い問題 は,どのくらいの数の弁護士が協定を締結したかである。諸弁護士会の理 事会は,ときとして,弁護士は一切清算約定(Abrechungsvereinbarung)
とは掛かり合いを持っておらず,弁護士報酬法の料金─裁判外の領域に 関しては自由に定められる─を下回る価格では活動していないと述べて きた。保険業界(Versicherungswirtsschaft)というタイトルの雑誌に掲 載されたある記事では,ある弁護士は,行事に出席していた50人の弁護士
(
Berufstraeger
)のうち,唯一,協定の締結を認めたため,「裏切り者」(
„Judas
“)と呼ばれねばならなかったと報告している56)。この点について,2009年における
Soldan Institut
のアンケートによれば,オファーを受けた回答者合計の42%は,合理化協定を締結したとされる。
これによれば,弁護士界全体に換算すると,合理化協定を約定した者の割 合は,16%に達する57)。およそ権利保護保険の対象となる委任を担当した 者では,その割合は20%となる。職務経験によって分けたデータを考察し てわかったことは,登録のもっとも古い弁護士が合理化協定を締結するこ とは,若い同僚よりも,明らかにまれだということである。合理化協定の
54) Hommerich/Kilian, Rechtsschutzversicherungen, S. 122.
55) Hommerich/Kilian, Rechtsschutzversicherungen, S. 123.
56) Richter, VW 2007, 1310.
57) Hommerich/Kilian, Rechtsschutzversicherungen, S. 125.
成約率は,登録のもっとも古い弁護士では,オファーを受ける頻度は登録 の若い弁護士が受けるよりも高いにもかかわらず,平均を下回った。
g)権利保護保険の満足度
逸話的な所見を信じるのであれば,弁護士を弁護士報酬法の水準を下回 る報酬で活動させようとする権利保護保険の努力により,弁護士界の権利 保護保険に対する満足度は,もはやよくない状態にある。
Soldan Institut
は,こうした背景のもと,弁護士界の視点から,権利保護保険についての 満足度はどの程度の状態にあるのかを調査した。弁護士に対し,権利保護 保険の対象となる委任に関して,権利保護保険との協力について一般的な 評価を依頼した。平均成績としては,かろうじて「満足」(„befriedigend“)であった58)。もちろん特に刺激的なのは,弁護士が権利保護保険との間 で合理化協定を結んでいたか否かにより区分した,「ポイントの与え方」
(„Notenvergabe“)の分析である。権利保護保険に集中的に協力する弁護 士が,清算約定の締結を拒否した弁護士よりも,積極的な評価をしている のであれば,わかりやすかった。実際は,権利保護保険と協定を結んだ弁 護士は,権利保護保険との協力を(学校成績で)2
.
8と評価しており,こ れは協定を結んでいない同業者─権利保護保険との協力を平均で3.
3と 評価していた─よりも著しく積極的な評価であった59)。2 営業としての提供者によるリスク負担:訴訟ファイナンス
a)はじめに
権利保護保険と比肩し得る,営業として他人の訴訟リスクを負担する代 替的な提供者は,ドイツの法制度においては,訴訟ファイナンス会社であ る。訴訟ファイナンスの仕組みが権利保護保険と異なる点は,権利保護保 険は,抽象的な生活リスク,すなわち,将来いつか,法的追求の費用の資 金調達が必要になる法紛争に巻き込まれるというリスクを保険に付すとこ
58) Hommerich/Kilian, Rechtsschutzversicherungen, S. 134.
59) Hommerich/Kilian, Rechtsschutzversicherungen, S. 135.
ろにある。これとは逆に,訴訟ファイナンスでは,抽象的リスク─その カバーが典型的な保険事業である─ではなく,すでに具体化されている リスクが問題となる。すなわち,訴訟ファイナンスでは,訴訟には至って いないものの,すでに法紛争は発生しているのである。その時点で,訴訟 ファイナンス業者は,給付,すなわち,追行すべき訴訟のファイナンスを 提供する。このような商品は,ドイツでは,1990年代末より存在してい る。当時,訴訟ファイナンスの仕組みをアングロサクソンの国から取り入 れた独立の提供者が市場に登場した。比較的早くに,保険業界は,訴訟フ ァイナンスが権利保護保険の代替として発展し得ると認識した。そこで,
非常に多くの権利保護保険が,すばやく,それ以後訴訟ファイナンスを提 供する子会社を設立した。
b)資金調達手段としての訴訟ファイナンスの特徴及び適用領域
訴訟ファイナンスは,訴訟ファイナンス業者と弁護士に依頼した者との 間のファイナンス契約に基づいている。これは,法解釈学上,匿名内部組 合(stille Innengeselschaft)の形式での組合契約であるとされる。この訴 訟ファイナンス業者と依頼者との間に成立した組合の目的は,請求権の裁 判上の行使及びこれに続く収益の分配である。権利保護を求める市民は,行使すべき請求権を組合に出資し,訴訟ファイナンス業者は,敗訴の場合 に生じ得る費用リスクの保障を含め,この請求権の行使に必要な資金を出 資する。
訴訟ファイナンス契約は,権利保護を求める市民及び訴訟ファイナンス 会社が,勝訴の場合に得られた収益を約定された基準によって分配するこ とに向けられているため,訴訟ファイナンスはわずかな数の裁判上の手続 きにおいてのみ,すなわち,担保となり得る分配すべき収益金又はその他 の財産価値がある場合においてのみ考えられる。そのほかの制約は,経済 的観点からみると訴訟ファイナンス会社にとってはわずかな割合の訴訟の みが資金を提供する魅力が十分にあるという事実から生じてくる。すなわ ち,通常,訴訟ファイナンス業者は,500
,
000ユーロまでの訴訟収益から 30%,それを超える金額からは20%の成功分配金を受け取る。このパーセンテージの勝訴分配をみれば,「たかだか」5,000ユーロや20,000ユーロが 問題となるようなわずかな額の法紛争の資金提供をすることに,訴訟ファ イナンス業者は興味がない理由は明らかである。そのような紛争からで は,最大の割合でも1
,
500ユーロや6,
000ユーロの勝訴分配金が得られるに 過ぎない。訴訟ファイナンスに伴う出費からみると,このようなわずかな 収益では割に合わない。こうした理由から,多くの提供者は,最低でも訴 額100,
000ユーロ以上の紛争に対してのみ資金を提供するが,その他の提 供者には,50,000ユーロの訴額の場合にも審査をするものもある。この最 低限の要求からすでに明らかなのは,訴訟ファイナンスはドイツでは仕組 みのうえで大衆商品にはなり得ないのであって,そもそものところ年間で も比較的わずかな数の裁判所手続きだけが,訴訟ファイナンスの考慮対象 になるということである。このような訴額要件が満たされる場合でも,提供者が訴訟ファイナンス に乗り出すには,さらに高いハードルを越えなければならない。すなわ ち,必要とされるのは高い勝訴の蓋然性(Erfolgswahrscheinlichkeit)で あって,訴訟ファイナンス業者はこれを専門家─例えば,退職した裁判 官─に非常に批判的に審査させる。大まかな基準として広く言われてい るところによれば,訴訟ファイナンス業者は,訴訟に資金を提供するにあ たっては,勝訴の蓋然性が75%に達していることを求めている。このよう な高い勝訴蓋然性があっても,それではまだ十分ではない。すなわち,訴 訟ファイナンス業者は,潜在的な訴訟相手方に資力があるかどうかも審査 する。資金提供先の勝訴蓋然性が通常最低で75%に達する場合,訴訟相手 方が原告に生じた費用(自分の弁護士の費用)及び前もって資金提供され た費用(裁判所費用)を前述の費用償還の原則により償還しなければなら ない高い蓋然性が認められることになる。訴訟ファイナンス業者はまた,
原告に対して,事前ないしは訴訟が経過中に,これら費用の支払い資金を 提供する。訴訟ファイナンス業者が支払いをするのは,供給した資金及び 裁判所において貫徹された請求権を,訴訟の相手方から取り立てられる場 合のみである。それゆえ,訴訟ファイナンス業者は,勝訴した後に,訴訟