男 女 同 一 賃 金 法 論
高橋保
男女同一賃金法論
は一︑
二︑
三︑
四︑
む 五、
しがき
男女同一賃金法の生成背景
男女同一賃金法の制定過程男女同一賃金の法理
男女同一賃金問題の背景と対策
i﹁就業における男女平等について﹂
男女同一賃金法の今日的課題すび の報告を中心にー
はしがき
いわゆる男女同一賃金問題は︑労働時間の短縮と同じ程度に︑労働運動史上古くて長い伝統的な課題であった︒し
かし︑この問題についての前進は遅々として進まず︑そのため婦人労働者はもちろんのこと︑それによって甚大な影
響をこうむる男子労働者まで苦難を強いられてきたのである︒ところが︑一九六〇年代の第一次合理化ともいうべき
強力な技術革新の登場にともなって︑この問題は大きくクローズ・アップされるようになってきた︒そしてさらに第
二次合理化時代ともいうべき一九七〇年代になると︑この男女同一賃金問題は世界的な一般的傾向として大きく前進
してきたのである︒
今日︑この男女同一賃金問題は︑一方において︑ILO第一〇〇号条約として国際的にも条約化され︑他方におい
てその影響下でほとんどの世界の国々がそれについての法体制を整備している︒とくに最近に至っては︑イギリス︑
アメリカ︑イタリアのように︑男女同一賃金法という独自の国内法を設けるところもでてきている︒
こうしたなかで︑わが国の男女同一賃金法については︑比較的はやい時期に憲法および労基法のなかに規定されて
きた︒しかし︑わが国の場合には︑男女同一賃金法についての歴史性が乏しく︑それがため労使双方にこれについて
の十分な認識を欠いている︒それのみか︑こうした男女同一賃金法のもとで︑使用者による脱法的悪用さえ数おおく
見られるのである︒
本稿は︑こうした国内外の情勢のなかで︑男女同一賃金法についての全般的な考察を試みたものである︒そして︑
そのための方法として︑まず第一に男女同一賃金法の基礎的な考察を試み︑その背景︑制定過程︑およびその具体的
な法理について検討している︒第二に︑いわゆる男女同一賃金問題についての実情︑その背景︑対策などについて検
討している︒最後に第三として︑この男女同一賃金問題についての今日的な対策的課題について︑個人的な見解を述
べている︒
一︑男女同一賃金法の生成背景
一︑最近の労働分野における世界的な傾向として︑﹁男女同一賃金法﹂(以下同一賃金法という)が大きくクローズ・ア
男女同一賃金法論
ップされてきた︒このような同一賃金法をめぐって︑それがいかなる背景に基づいて生成してきたかについては︑各
国の国情によって若干の差異があろう︒しかし︑その場合でも︑少なくともつぎの点では共通している︒第一は︑婦
人労働者の数が急激に増加してきたことである︒第二は︑そのことと深く関連して︑同一賃金の要求が単に婦人労働
者のみならず男子労働者を含む労働組合運動の一般的統一的な要求として発展してきたことである︒第三として︑同
一賃金法をめぐる国際的なとり組み︑とくにその国際的条約化の影響があげられる︒
そこで︑第一の婦人労働者数の急激な増大についてであるが︑これについては一九六〇年代あたりからの大幅な技
術革新が重要な原因をなしている︒従来から世界的な一般的な傾向として︑婦人労働者についてはさほど重きがおか
れていなかった︒例えば︑婦人労働者については︑家事・育児の専業者として︑あるいは男子労働者に準ずる補助的
労働者としてみる向きが強かった︒ところが︑六〇年代の大幅な技術革新の進展は︑この伝統的固定的な考え方を根
底から覆し︑婦人労働者を家庭内における単なる私役労働者から社会的な労働者として登場せしめるに至った︒すな
わち︑六〇年代の大幅な技術革新は︑それまでの手工業的生産方式に対して︑近代的な機械の導入など工揚設備の合
理化を強力に推進することとなった︒そして︑このような近代的な機械の導入により︑従来の工場生産が男性の熟練
労働者のみに依存して行われていたものを︑不熟練労働者で十分間に合うようになってきた︒当然企業側は︑この不
熟練労働者に代わるものとして︑婦人労働者の積極的な雇用を考えるようになってきた︒もとより︑この場合婦人労
働者は不熟練労働者として雇用されるわけであるから︑最初から低賃金労働者として使用されることになる︒他方︑
婦人労働者は一般に男子労働者と比較して従順な性格を有し︑それがため企業の恣意的な利用も可能である︒例え
ば︑このような婦人労働者については︑企業の不況時にはいつでも首を切れるという景気の調節弁としても自由に利
用することができるわけである︒かくして︑こ︾に婦人労働者が企業にとって二重にも三重にも利用価値があること
が再認識されるに至った︒その結果︑企業の積極的な要請に基づいて︑婦人労働者の雇用が急激に増大するに至った
のである︒例えぼ︑アメリカでは︑一九五〇年代後半から婦人労働者が急激に増大し︑ついに一九五入年には︑婦人
(1)労働力が総労働力の三三パーセント(二︑二二五万四︑○○○人)にも達した︒そして︑このような婦人労働者の急激
な増大は︑なによりも後の同一賃金法制定への主体的条件を確立するものであった︒
二︑つぎの第二の同一賃金法が労働組合運動の一般的統一的な要求として発展してきたことについては︑同一賃金法
実現に向けての重要な背景をなすものである︒ところで︑六〇年代の大幅な技術革新の推進と︑企業側の積極的な要
請に基づく婦人労働者の雇用の増大は︑いくつかの結果を招来することとなった︒まず︑婦人労働者の増大は︑必然的
に婦人の就業分野を拡大することになったことである︒従来︑婦人労働者は︑どちらかというと中小雫細規模の製造
業などに集中する傾向にあった︒しかし︑企業側の婦人労働者の積極的な雇用により︑製造業から卸・販売・サービス
へと次第にその就業分野を拡大するようになってきた︒つぎに︑このような婦人の就業分野の拡大は︑婦人労働力相
互の過当競争を生じさせ︑結果として大多数の低賃金婦人労働者を発生させることになったことである︒すなわち︑婦
人労働者の就業分野の拡大は︑ますます婦人労働者の職場への進出を可能にし︑それは同時にまた婦人労働者相互の
競争を促すこととなった︒そして︑このような傾向は企業側にとって︑ますます婦人労働者の低賃金を容易に実現せ
しめるようになったのである︒いわんや婦人労働者は︑最初から低賃金・単純労働者として雇用されているのである︒
かくして︑企業側の積極的な要請に基づく婦人労働者の雇用の増大は︑一方において婦人労働者の就業分野を拡大
し︑他方において大多数の低賃金婦人労働者を発生させることになった︒このことは︑さらに同一賃金法実現に向け
て重要な影響を与えないではおかなかった︒すなわち︑大多数の婦人労働者の発生と︑その低賃金化は︑必然的に婦
人労働者相互の連帯意識を高め︑その組織化を促しあるいは労働組合への加入を増加させていった︒その結果︑同一
賃金法は労働組合運動の一般的統一的要求としてとりあつかわれるようになり︑同時にそれは︑団結活動を背景にい
きおい現実化されるようになってきたのである︒例えば︑イギリスにおいては︑一九六八年六月フオード自動車工場
男女同一賃金法論
の婦人ミシン工一九〇人が一ヵ月近いストライキを実施することにより︑イギリス自動車業界に重大な影響を与え︑
(2)その結果男女同一賃金法を獲得している︒また︑アメリカにおいてもかの黒人の公民権運動に刺激されて発生してき
た一九六〇年代のウーマンリブ運動が︑同一賃金法制定への重要な背景となったのである︒
他方︑こうした低賃金婦人労働者の増大は︑実際上男子労働者にも重大な影響を及ぼした︒むしろ︑同一賃金法実
現との関連からみれば︑この点こそが重要な要素となっているのである︒すなわち︑まず大多数の低賃金婦人労働者
の発生は︑結果として男子労働者の賃金その他の労働条件を引き下げることになったことである︒さらに︑低賃金婦
人労働者の就業分野の拡大は︑それまで男子労働者の仕事とされていたものへの婦人労働者の進出を許すことにな
り︑その結果男子労働者を失業へと追いやることになった︒こΣにおいて︑男子労働者の側からその仕事を確保し︑
(3)さらにその低賃金化を防止するために︑同一賃金法の要求がとりあげられるようになってきたのである︒こうして同
一賃金法の要求は︑婦人労働者よりむしろ男子労働者の側から提起されてきた︒例えば︑後に述べるように同一賃金
法の要求が労働運動史上︑はじめて国際的なレベルで提起されてきたのは︑一八八九年七月の第ニインターナショナ
ルの結成大会の席上である︒同大会は﹁国際的労働立法に関する決議﹂を採択したが︑その決議の第一四条には﹁同
一の労働に対しては男子にも女子にも同一の賃金と同一の労働の便宜を提供すること﹂と規定している︒そしてこの
同一賃金法の要求については︑﹁男の仕事﹂への﹁婦人の侵入﹂を阻止するための要求として支持されたものである
(4)とされている︒
いずれにせよ︑同一賃金法制定の重要な背景として︑婦人労働者自らの組織的な要求や︑男子労働者からの統一的
な要求の発展をあげることができる︒そして︑これらの同一賃金法制定への要求が︑やがて労働組合運動によって裏
うちされながら実現へと向けられるようになるのにはそんなに時間を要しなかった︑といえるであろう︒
三︑最後に︑同一賃金法制定の背景として重視しなければならないことは︑それについての国際的条約化の影響であ