多面体による造形制作(5)
Ⅲ‑ⅱ. ソル・ルウィットの立体作品 織 田 芳 人*
Artistic works on Polyhedra (5)
Ⅲ‑ⅱ, Three‑Dimensional Works of Sol LeWitt
Michito ODA
1一はじめに
「皿1.現代彫刻における多面体を用いた作品」では現代彫刻と呼ばれる分野に多面体か ら成る形態を探し求めてみた。と言っても,現代彫刻という言葉で表される形式は多岐に わたるため,スタティックな作品,しかもマッシヴな作品に限定した。従って,主に立方 体を基本としているものの,線材からなる形態が多いソル・ルウィットの作品は,そのよ うな範疇では捉えにくく除外していた。そのソル・ルウィットをここに取り上げてみよう
と思う。
ソル・ルウィットは一般的にプライマリー・ストラクチャーズ, あるいはミニマル・
アートの作家として知られているけれども,彼自身は自らをコンセプチュアル・アーティ ストとして位置付けている。従って,ルウィットの作品はコソセプチュアル・アート(概 念芸術)という範疇に入ることになるが,その形態上の特徴として,基本に正方形や立方 体を用い,また,ヴァリエイションのすべてを1個の作品として提示する形式を多く用い ていることが挙げられる。
ヴァリエイションとは変種,変化の意味だが,造形の分野では,主として形態(表面を 覆う色彩,テクスチャーなども含めて)上に何らかの類似性が認められる関係にあるもの を指して言う,そのように考えてよいと思う。「主として形態上」というのは,形態から ではなくてその名称によってヴァリエイショソとして認められる場合もあり得ると考える からである。しかし,形態上認められる類似性もその起因を考えれば,個々の形態におけ る表現内容の同一性,あるいは類似性から生じたものである。言い換えれば,主題の同一 性によって個々の形態にも類似性が生じるということである。そして,それらの形態がす なわちヴァリエイションと呼ばれることになる。
一般には,ヴァリエイション全体が1つの作品として提示されることは極めて少なく,
従って,ヴァリエイションそれ自体を考察の対象とすることも容易ではない。それゆえソ ル・ルウィットの作品は,造形におけるヴァリエイショソを考察する上で1つの手がかり を与えてくれるだろう。また,それに関わって,立方体のもつ造形上の意味についても些 か触れてみたい。
*長崎大学教育学部美術科教室
40 多面体による造形制作(5)(織田)
2一ソル・ルウィットの作品例
(1)不完全な開いた立方体のヴァリエイショソズ
ルウィットにおいて 「開いた(open)」立方体とは,その稜を線材に置き換えるだけ で,面材は一切用いない形を意味している。ルウィットは次のように記している。
「そのシリーズは部材3個によってできる形から始まるが,それは立方体が3次元を暗 に示しているからである。そして,当然,部材11個によってできる形(1個の線材を取
り除いた形)で終わる。」D
先ず,立方体という3次元の形態を最低限保証する3本の線材を用いて3次元に組み立 てる(同一平面に3本とも属してしまうと3次元とはならない)とき,そのヴァリエイシ
ョンにはどのような形があるのかを求めることになる。その結果,3個のヴァリエイショ ンが見つけられた。その1つを図皿・22に示す。同様に,線材の数を4,5〜6,と順次 に増やして,それぞれのヴァリエイションを求めてゆく。そして,その線材め数が12にな ってしまうと完全な立方体を形づくることになるので,この作品の題名でもある「不完全 な立方体」という条件に反する。従って,最後のヴァリエイションは線材の数が11の場合 であって,1つだけ存在する(図皿・23)。結局,この作品におけるヴァリエイショソの 総数は122であった。そのドローイング(Schematic Drawing)を弾弓・24に示す。
このようにヴァリエイションを明確に数:えることができるのは,無論そうなるようにヴ ァリエイションを規定しているからであるが,その規定条件,すなわちヴァリエイション の前提,について考えてみたい。
前提の第一としては,言うまでもなく,立方体を用いるということが挙げられる。次 に,その立方体の稜に限定するという第二の前提がある。立方体の稜は12であり,この稜 を1,2,3,と用いてゆくことができるのだから,前提はそのような数で表される可能 性を持つことになる。実際,第三の前提は稜の数で示されている。すなわち,3次元の稜 の組合せという条件である。この前提に至って,ヴァリエイションは明確に数えられるこ
とになり,その結果が122という数である。
図皿.22不完全な開いた立方体の ヴァリエイショソズ:3/1
図皿・23不完全な開いた立方体の ヴァリエイションズ:11/1
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図皿・24不完全な開いた立方体のヴァリエイショソズ (スキマティック・ドローイソグ).1974.
(2)シリアル・プロジェクトNo.1(ABCD)
ルウィット自ら記すように,「このシリーズを律する前提は,1つの形をもう1つの形 の内側に配置し,その2次元と3次元における主要なヴァリエイションのすべてを包含す ることである」2)。先ず,外側の形の基準に1つの正方形を定めて,その正方形を3×3 に9等分して生じる小さな正方形を,内側に配置する形の基準とする(図皿・25)。次 に,その内外の基準面である大小2つの正方形に対して,それぞれその高さを,0,内側 の基準となる小さな正方形の1辺の長さ,外側の基準となる大きな正方形の1辺の長さ,
の3段階に変化させる。そして,それらを組み合わせれば図H・26のように9つのヴァリ エイションを得る。
ルウィットは,更に,その9つのヴァリエイションにおける内側の形と外側の形とに 対して,それぞれの形が閉じている場合(closed form)と開いている場合(open form)
の2つの状態を設定した(図皿・27)。「閉じた形」とは,その形を成している面がすべ て面材で覆われている形であり,「開いた形」とはその形の稜(あるいは辺)がすべて線
42 多面体による造形制作⑤(織田)
材に置き換えられている形である◎そのような前提の下に生じる組み合わせば36あって
(図皿・28),それが「シリアル・プロジェクトNo.1(ABCD)」を形づくる(図皿・
29)。
この作品におけるヴァリエイショソの前提としては,1つの正方形を基本にすることで あり,次には,その正方形を等分割することによってもう一つの基準とすることである。
このことによって内側の形も外側の形も,単位長さの倍数で決定され,たとえば,高さは 3つの段階に分かれている。更に,立体の表面の状態は「開いた形」と「閉じた形」の2 つに分かれるといったように,計数可能な非連続的状態が設定されているので,そのヴァ
リエイションが明確な数として現れることになる。
図皿・25
シリアル・プロジェクト No.1(ABCD):基本形
open form Closed fo『m
図皿・27
開いた形/閉じた形
1 2 3
仰
掘
/
4 5 6
/既 旧
7 8 9
図皿・26 シリアル・プロジェクトNo.1(ABCD):
基本ヴァリエイショソズ
closed inside ope皿inside c聖osedl outside closed outsi e
D C
1
4 7
7 4
1
2 5 8 8 5 2
3 6 9 9 6 3
3 6 9 9 6 3
2 5 8 8 5 2
1
4
7 7 4
1
A B
olpen iEsi e closed insi己e open o阻tsi4e ope壺outside 図皿・28
シリアル・プロジェクト No.1(ABCD):配置
馨
麟
図皿・29
も◇
シリアル・プロジェクトNo.1(ABCD).
1966,スティール.
(3)3種類の立方体3個から成る47のヴァリエイションズ
3種類の立方体とは,図皿・30に示されるように,6面すべてを閉じた立方体(1),
向かい合う2面1組だけを開いた立方体(2), 1面だけを開いた立方体(3)である。
この3種類の立方体を垂直に3個積み重ねる,その重ね方が幾通りあるのかを求めたもの が,この作品であって,具体的には図皿・31のような形態をとっている。それには47個の ヴァリエイショソが提示されているけれども,更に9個のヴァリエイションが認められ追 加された。3)
1SOLID CUBE 2CUBE WI 「H 3CUBE WITH OPPOSITE SIDES ONE SIDE REMOVED REMOVED
壷皿・30 3種類の立方体 図皿・31 3種類の立方体3個から成る 47のヴァリエイショソズ.
1967,アルミニウム.
この作品における前提は「3種類の立方体 を3個積み重ねる」ということであるが,こ れは「3種類の立方体」という前提と「3個 積み重ねる」という前提とに分けられるし,
更には,「3種類の立方体」には他の形態で なく「立方体」を用いるということ,その 種類は「3種類」であること,が前提として 存在している。また,「3個積み重ねる」こ とも,「3個」用いることと「積み重ねる」
ことに分けられる。従って,どのような経過 でヴァリエイション群の枠,すなわち前提,
が考えられてゆくかは様々に推測することが できるが,先ず,大きな枠組みとして立方体 を用いるということが挙げられる。立方体を 基本単位として用いることが決定されれば,
次の段階としてその単位をどのように用いる か,あるいは,その用いる数を幾つにする か,更に,どのように配置するか,を決める
ことが必要になってくる。 図皿・32前提の段階的推移 そのような状況を図示すれば図皿・32のようになるだろう。基本的な単位としてどのよ
うな形を選択するかという問題に対して,単位となる形態のヴァリエイション群Aが考え られる。そこで立方体(a)が選択される。次に,その立方体をどのように用いるかに対
〃
氓=q釜Oa…
ヴァリエイション群A
b b b9一・
θ囎(i動
ヴァリエイション群B
C c c …
ヴァリエィション群C
d d, d …
レ田〔翻
ウ ヴァリエイション群D
44 多面体による造形制作(5)(織田)
してヴァリエイショソ群Bが存在する。たとえば,3種類の立方体をつくる(b)ことに する。更に,そのような立方体を幾つ用いるかに対するヴァリエイション群Cがあり,3 個を用いる(c)ことが決定される。そして,その3個をどのように配置するかに対する ヴァリエイション群Dがあって,積み重ねる(d)という状態が決定される。このように 幾つかの限定を経て,「3種類の立方体3個から成るヴァリエイション」が現れることに なる。無論,これらは推測であって,ルウィットにおける実際の経過はわからない。しか
し,ここにおいても,ヴァリエイション群の最終的な前提は3個の立方体が互いの正方形 面を合一させて重なるという,非連続的,有限的な状況を生じさせるものであって,その 結果,ヴァリエイションの総数は多少にかかわらず計数が可能となるのである。
3一立方体の造形特性
ルウィットにおいては,前述したようにヴァリエイション群をつくることを目的として おり,そのヴァリエイション群は明確に限定されて計数できた。そして,それらヴァリエ イションを求める作業は極めて単純であり,また,明確なものであって,ことさら作家の 特質を必要とするものではない。ルウィットに倣えば,「前提から生じる結果の目録を作 る事務員を演じるだけである」4)。しかしながら,ルウィットのその言葉にもあるように,
ヴァリエイションを明確に薮え上げることができるのは,それを可能にする「前提」があ るためである。すなわち,ヴァリエイションを生じさせる前提として,計数可能な状態が 設定されていることによる◎そして,それを裏付けているものが,作品を形づくっている 基本単位としての立方体なのである。立方体は正方形6面から成る明確な形であって,基 本として考え易い。この立方体という形が計数できる前提を可能にしているのであり,も
し作家の特質が要求されるとすれば,正に,この前提を如何に明確に設定するかという点 であろう。
ソル・ルウィットは立方体について次のように記している。
「立方体の最も興味を引く性格は,それが相対的に興昧を引かない形だということであ る。他の立体のどれと比べてみても,立方体は何か積極的な力を欠き,何の動きも暗示せ ず,感情に訴えてくるものが最:も少ない。それゆえ立方体は,どのように精巧な機能を目 論むにしても基準単位として用いるには最適の形であって,作品を生み出す,正用法に適 つた装置である。何故なら,立方体は標準であり,普遍的に認められたものであって,観 者に何の概念も要求しない。立方体は立方体を表し,それ自体議論するまでもない幾何学 的形態であることが直ちにわかる。立方体を用いることは,別の形を新たに考え出す必要 を無くし,また,新しい形の創出のために立方体を残して置くことにもなる。」5)
4一ヴァリエイション
(1)ヴァリエイショソとその前提
ヴァリエイションという存在をより明確にするためには,ソル・ルウィットと他の作家 とを比較してみることも有効な方法の1つであろう。
ブラソクーシ(図皿・13参照)はルウィットとは異なる造形傾向の作家である。中原佑 介はブランクーシに関する評論の中で次のように記している。
「ブランクーシの仕事に見られる際だった特徴のひとつとして,同一主題による連作 の挙げられることはこれまでにも何度か指摘してきたが,〈マイアストラ〉からく空間 の鳥〉へとわたる一連の作品は,そのなかでも作品数の多いことで特筆される。」6)
「形態的にはくマイアストラ〉を極度に単純化したのがく空間の鳥〉であり,プラソ クーシ自身,(〈空間の鳥〉の)「最初のアイディアは1910年に胚胎した」と,<マイ アストラ〉をその始まりとしているからである。〈マイアストラ〉の連作をつづけてゆ くうちに,次第に「飛翔」という観念が明確になっていったと見るのが,多分もっとも 妥当にちがいない。」7) 一
「7点のくマイアストラ〉,4点のく金の鳥〉,16点のく空間の鳥〉が,前後30年置 及ぶ「空間の鳥」の連作の内容である。」8)
図皿・33−35はその「マイアストラ」,「金の鳥」,「空間の鳥」の1例である。これら を含む一連の作品群は,ブラソクーシの主題が「飛翔」という観念を実在の形として示す ことにあったということを考えれば,そのような1つの主題に基づくヴァリエイション群 であるとも言える。
いま,ブランクーシにおけるそのヴァリエイション群とソル・ルウィットにおけるヴァ リエイション群とを比較してみよう。ルウィットにおいては前述したように,ヴァリエイ ション群をつくることを目的としており,前提が計数可能な形式で明確に設定されている ために,それによって生じるヴァリエイションもまた明確に限定されて計数できた。しか し,プラソクーシにおいてのヴァリエイション群は,結果的に形成されていったというも のであって,ヴァリエイションの総数が提示されているとは言えない。それは,ヴァリエ イショソ群としての形態上の類似性が明らかにあるものの,その類似性を規定する前提が
図皿・33ブラソクーシ: 図皿・34プランクーシ:
マイアストラ. 金の鳥.1919(?),
1915(P),灰色大理石. ブロンズ・
図皿・35プラソクーシ:
空間の鳥.1926,
ブロンズ.
46 多面体による造形制作(5)(織田)
計数可能な形式で明確に設定されてはいないためである。素材に関わって,ブラソクーシ は「マイアストラ」でブロンズ,白大理石,灰色大理石を,「金の鳥」でプロソズ,黄大 理石,縁灰色大理石を,「空間の鳥」でブロンズ,白大理石,灰色大理石,黒大理石を用 いている。9)このように素材を変えてみることは,一一般に前提条件として捉えてよいけれ ども,ブランクーシがその素材の種類を予め限定していたとは読み取れず,従って,素材 の種類がこのヴァリエイショソ全体を律しているわけではない。
では,このヴァリエイション群を律しているのは何かと言えば主題そのものであって,
その主題の下に何らかの前提が計数可能な形式で明確に設定されることはなかったと考え られる。主題は広義の前提とも言えるが,一般に観念的であって,形態に関しては非常に 曖昧なものである。ブランクーシの「飛翔」も正にそのような主題であり,そして,それ が前提でもあった。従って,その結果としてのヴァリエイション群も曖昧なままに措かれ ていると言ってよい。それは具体的に,そのヴァリエイションが計数できないということ であり,それ故,ブランクーシにおけるヴァリエイション群は拡散的であるという言い方 もできるだろう。それに対してルウィットのヴァリエイション群は,逆に,輝輝的と言え
る。
更に,そのようなルウィットとブランクーシにおけるヴァリエイションの異なり方は,
そのまま,いわゆる「ディザイン」的な傾向と「芸術」的な傾向という,造形に対する一一 般的な捉え方にあてはまるように思われる。すなわち,ルウィットのように前提をできる 限り明確に設定してヴァリエイションを求めてゆく方向が「ディザイン」的であり,ブラ ンクーシのように前提を明確に設定することなく(あるいは前提の明確な設定を意識的に 避けて)ヴァリエイショソを求めてゆく方向が「芸術」的である,一般にそのように捉え
られているのではないかと思う。そして,そのヴァリエイション群の在り方を決定するの はその前提の明確さであって,ここに作家の特質が反映されるものと考える。
(2)造形過程とヴァリエイション
ルウィットは制作の基調としてヴァリエイションの総体を提示することから,ヴァリエ イション群を求めた。ブランクーシは「飛翔」という主題を追い求めてゆく過程で,結果 として1つのヴァリエイション群を形成させることになった。そのヴァリエイションは造 形過程の上でどのような意味をもっているのだろうか。
ブランクーシを引用してそのヴァリエイションを想定した対象は完成された作品そのも のである。しかし,先にルウィットの「3種類の立方体3個からなる47のヴァリエイショ ンズ」を考察した際に想定したヴァリエイション群は,有形化される前の段階,すなわ ち,イメージの段階における存在である。ルウィット自身,次のように述べている。
「有形になる芸術作品の夫々に対して,有形にならない多くのヴァリエイションが存
在する。」10)
そうすると,有形の段階においてもイメージの段階においてもヴァリエイショソ群が存 在することから推して,ヴァリエイション群は造形を進めてゆく過程の様々な段階で存在 することが考えられるだろう。
ヴァリエイションは,何か1つのイメージが存在するとき,必然的にそれに相対して存 在すると考える。そして,そのイメージが幾らかでも具体的な方向に進んだとき,すなわ ち1つのヴァリエイションが選択されたとき,また新たにヴァリエイション群が生じてく る。この新しいヴァリエイション群は常に,核になるイメージから1段階具体化された状 態にある。このことを,原型段階における原型とイメージの連関(「亜一ii.原型の有効 性」参照),すなわち原型とイメーージの間を意識が反復して流れてゆく過程の中で捉えて みよう(図皿・36)。
ある1つのイメージα1が存在するとき,同時にそのヴァリエイションとしてのイメー ジα2,α3,……も存在しており,それらが1つのヴァリエイション群を形成する。そし て,そのヴァリエイション群がら,たとえばイメージα1が選択されれば,更に1段階進 んだイメージαノ1,α,2,αノ3,……というヴァリエイション群が生じてくるQそこで再び 選択が行われて,たとえばイメージα 1に決定される。そのような経過が繰り返されてい く。ここまでは想像の世界においての経過である。しかし,現実の問題どして,想像の世 界に沈潜したままで何らかの形態を発展させてゆく作業は,かなり困難なことであろう。
実際には,イメージを定着させるために,いわゆるアイディア・スケッチとかデッサンと いう形式が用いられることが多いと思われる。これは平面に描かれた形態とはいえ,原型 に近い存在である。その原型の段階へ考察を進めよう。
選択されたイメージα,1が実在の形として具体化されれば原型a1となる。無論,この とき更に原型a2, a3,……が制作されることがあれば,1つのヴァリエイション群を形 成することになる。 ここで,たとえば原型a1が唯一存在するとすれば,あるいは原型 a1がヴァリエイション群がら選択されたとすれば,次の段階としてやはり想像の世界に
原型 イメージ
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図皿・36造形過程におけるヴァリエイション群
48 多面体による造形制作(5)(織田)
ヴァリエイショソ群α 1,α 2,α 8,……が生じてくる。そして再び選択が行われ,原型 として具体化されるなり,最終的に作品として具体化されるなりの過程を経てゆくだろ
う。
このようにヴァリエイション群の存在に留意しながら造形の過程を眺めてくると,造形 過程はヴァリエイショソ群の形成とそれに続くヴァリエイションの選択という定式的な流 れの発展的反復であると捉えることもできる。では,ヴァリエイションを選択するとは何 を意味するのだろうか。
選択とは「2つ以上のものからよいと判断したものを取ること」11)である。そうであれ ば,ヴァリエイションを選択するとは,ヴァリエイションが複数個生じた後,すなわちヴ
ァリエイション群が形成された後にその中から最良のもの,あるいは最適のものを選択す るということになる。何に対して最良,あるいは最適なのかといえば,その対象とするイ メージに対してである。このことは言い換えれば,ヴァリエイション群には最良のものが 含まれる,と同時に最悪のものも含まれると考えていることを示すものである。勿論,良 いとか悪いとかはヴァリエイション群の中で相対的に決定されてくるものであって,絶対 的な評価ではない。
しかし,前述に見るようにソル・ルウィットにおいては,1つのヴァリエイション群が 1個の作品を形成することから,言い換えればその時点でヴァリエイションの選択が行わ れていない以上,その個々のヴァリエイションはいずれも同等の価値を有するものと考え てよい。あるいは,ヴァリエイション相互に優劣がないということになる。それではルウ ィットのシリアル・アートにおいてヴァリエイショソの選択がなかったかと言えば,そう ではない。というのは,ヴァリエイション群を提示しているにしても,そのヴァリエイシ ョン群はやはり,より広いヴァリエイショソ群の中から選択されてきているからである。
すなわち,最終的に作品として提示されるまでは,常にヴァリエイションの選択が繰り返 されてゆくものと考える。この「選択」という行為は,しかし,何も造形過程に限ったこ とではない。私たちは常に何らかの「選択」を経て生きている。「選択し,決断すること は,私たちが惰性に流されるのではなく,自覚的に生きようとすれば,いつまでも伴って
くる。」12)
翻って,作品の一般的な形式としては1個の形態が示されるだけで,そこにヴァリエイ ション群という存在は全くない。しかし,その1個の形態はヴァリエイション群がら選択 されてきたものである。では,どこにヴァリエイショソ群が存在するのかと言えば,ある 1つの形態が作品として提示される前の段階にである。制作者が絶対にこの形態しかない と言う場合,実際には,この前段階として他の形態と必ず比較しているのである。その,
他の形態というものが,取りも直さずヴァリエイションである。すなわちヴァリエイショ ンは,それをヴァリエイションとして制作者が意識するかどうかとは関わりなく,あらゆ る造形過程に存在すると考える。
いま,ヴァリエイションは制作者の意識に関わりなく存在すると記したが,では制作者 がヴァリエイショソの存在を意識しているとき,造形過程はどのような様相を呈するだろ うか。一一般に造形過程全体を支配するのは主題である。主題は先にも記したように,一般 に観念的であって,形態に関して非常に曖昧なものである。その主題を有形化しようとす
るとき,ヴァリエイショソの存在に対する意識の有無によって造形過程の様相が異なって くる。主題によって先ず最初に規定されるヴァリエイション群は,主題の観念性を受けて 曖昧にならざるを得ないQここで,もしヴァリエイションの存在を制作者が意識している のであれば,ヴァリエイション群の曖昧さをできるだけ無くすように前提を明確に設定し てゆくことを考えるだろう。ヴァリエイション群の曖昧さが解消されてゆけばヴァリエイ ションの選択も明瞭になり,有形化される主題のイメージが鮮明になってくる。無論,ヴ ァリエイション群が明確に示された段階で主題が大きく転換してしまうこともあり得る が,そうなれば初めの段階に戻って再び過程を繰り返すことになるだろう。しかし一方 で,制作者がヴァリエイショソを意識すれば主題の有形化を論理的な思考で進めることに なり,有形化されてゆく形態が論理的な性格を帯びてくることも避けられないことであ る。逆に制作者がヴァリエイションの存在を意識していなければ,有形化される主題のイ メージの曖昧さを打開するために,直感的な判断で不定数のイメージ(群)をわずかな数 に制限してヴァリエイション群とし,その中から選択を行うことになるだろう。そのよう な過程は全体が直感に支配されている過程と言ってもよい。
また,私たちは何かを制作するとき必ずと言ってよいほど試行錯誤を経験するはずであ る。その試行錯誤を1つの段階として意識的に設定すれぽ,それは試作という作業であっ て,正に制作者の意識が原型とイメージの間を発展的に反復してゆく過程そのものであろ
う。従って,試作の過程をより有効なものにしようとすれば,発展してゆく各段階におい てヴァリエイションを積極的に出してゆくことが求められる。そのような過程を経ること で,私たちは主題のもつ曖昧なイメージをより明確にしてゆくのである。このように試作 を捉えてゆけば,試作とはヴァリエイションを積極的に出す行為という言い方もできるの ではないだろうか。
6一結 語
ソル・ルウィットは概念芸術について次のように記す。
「概念芸術においては観念(アイディア)とか概念がその作品の最も重要な様相であ る。芸術家が概念的な芸術の形式を用いるとき,そのことは,すべての計画と決定が 予め行われ,その実行が単に機械的な仕事であることを意味している。」13)
ルウィットの立体作品では基本的な形として立方体が用いられ,また,その名称にも現 れているようにヴァリエイションのすべてを1個の作品として提示する形式が多い。その ようにヴァリエイションをすべて求めることができるのは「すべての計画と決定が予め行 われ」ている,言い換えればヴァリエイションの前提が明確に設定されているからであっ て,実際にヴァリエイション群を求める作業は「機械的な仕事である」。更に,その「す べての計画と決定が予め行われ」ることを裏付けているものが立方体である。
私たちが何らかの造形に携われば,ヴァリエイション群の曖昧さを無くすためにその前 提をできる限り明確に設定してゆき,有形化されてゆくイメージをより鮮明にしょうと試 みるだろう。しかし実際には,ヴァリエイションの前提として幾何学的形態の適用と数理 的条件の設定がなされない限り,ヴァリエイション群は平戸さを免れることがなかなかで
50 多面体による造形制作(5)(織田)
きず,その.ため造形作業が直感に支配され易いことも止むを得ない。そのような状況にあ ってもヴァリエイショソをより明確に出そうと努めることが,造形の効率を高めてゆくこ とになる。 .
引用文献
1)Alicia Leg9(ed.):Sol LeWitt. The Museum of Modern Art,1978. P.81.
2)ibid. P.170. Reprinted from Aspen Magazine, nos.5and 6,1966.
3) ibid. P.75.
4)ibid. P.170. Reprinted from Aspen Magazine, nos.5and 6,1966.
5)ibid. P.172. Reprinted from Art in America(New York), Summer 1966.
6)中原佑介:終わりなき始まり=ブランクーシ(7):美術手帖 1977−11,p.212.
7)同上.p.215.
8)同上.p.218.
9)同上.pp.216−218.
10)Alicia Leg9(ed.)lSol LeWitt. The Museum of Modern Art,1978. P・.168. First pub−
1ished in O−9(New York),1969, and Art Language(England), May 1969.
11)国語大辞典。小学館,1981.p.1447.
12)中村雄二郎:哲学の現在.岩波書店,1977.p.8.
13)Alicia Leg9(ed.):Sol LeWitt. The Museum of Modern Art,1978. P.166. Reprinted from Artforum(New York), June 1967。
(昭和59年10月31目受理)