「2次計画としてのマクロ経済モデル」
「2次計画としての
マクロ経済モデル」
田中謙一郎
目 次
はじめに 記号表
1.QPモデルの定式化とその経済的前提 2.QPの最適条件とその経済的解釈 むすび
31
は じ め に
本稿の目的は,カリフォルニア大学のLawrence Berkley Laboratory とOperations Research Centerが,ElectoricPowerResearchInstitute をスポンサーとして開発した,1)計量モデルの理論的骨組みを明らかにする
ことにある。このモデルは,1972年の米国経済において,仮設的な2)石油不 足を設定し,これに対するFEA(Federal Energy Agency連邦エネルギ ー局)の価格統制政策が,短期的に効果を発揮したことを,実証するために 開発された。実際,この政策はGNPの減少と生計費の上昇を紋和したが,
国際収支に悪影響を及ぼした。この「短期的」という意味は,燃料の代替可 能性がエネルギー変換設備の既存ストックによりきびしく制限されている,
という仮設をこよる。すなわち,このモデルは,静的均衡を計算するので,価 格統制政策の長粕の影響の分析は含まない。また,このモデルのもう1つの 簡単化は,国際価格と比較した国内価格ではなくて,国内価格のみに依存し た海外取引フローの描出にある。
32
経 営 と 経 済(注)
1 )
参考文献の(1)
およびを(5
)指す。2 )
次の4
つのシナリオが書かれた。② 原油の海外市場価格が
2
倍にされた。④ 電気公益事業の生産能力が.
1 0 9 6
だけ削減された。@
国内石油粕製業者の生産能力が.10%
だけ削減された。@ 同内原油および天然ガスの生産能力が.
10%
だけ削減された。表ロ ヴ
記
x=
部門産出額ベクトノレXj=
部門jの産出額。A =
生産技術係数のnXn
行列;a l J =
部門jの産出物(もしくは財貨j) l単位を生産するのに,部門 iに要求される投入物の額。I=nxn
恒等行列。m =
輸入ベクトノレm
j=
輸入財jの輸入額。z=
輸出ベクトJ
レ;ZJ=
輸出財jの輸出額。B=
輸入技術係数のnXn
行列;b
1j=
財貨jの1
単位を輸入するのに,部 門iに要求される投入物の額ロc=
消費ベクトノレ,Cj=
財貨jの佃人消費額。g=
政府購入,資本形成および純在庫変動のベクトノレ。支=部門生産能力ベクトノレ;ぷ=部門 jの生産能力額。
Vj
=
付加価値係数;部門jによって支払われる産出物l単位当りの賃金,賃 貸料,資本投資の収益,税金および部門jの単位利潤。p=
価格ベクトノレ;pj=
財 貨 ( サ ー ビ ス の 市 場 価 格 。π =
賃貸料ベクトノレ7ij=部門jの生産能力に対して支払われる賃貸料。1 . QP
モデルの定式化とその経済的前提本稿で取扱う
2
次計画モデ、ノレ(以下Q P
モデノレと略記する)は,次の式に よって表記されるo
r 2
次計画としてのマクロ経済モデル」33
n i n( 1 ) (1)
n (2)Max H =戸 │αljCj‑~ skj Ck Cj ーを βjjC川町jZj-~βkjkZZj j=l ‑ k=l
kチ kチj
( 2 )
n( 3 ) (3) i
ーき βjjZ/ーα3jmj一戸 βkjmk mjーを βjjm/‑XjVj
I
k=l
k
チj
s u b .
to.(1 ‑
A)x十 (1‑
B)m‑z‑c=g…
pX
三二文・・・π
(1.1)
( 1 . 2 ) ( 1 . 3 ) x
,m
,z
,c
孟o
(1.4 )
目的関数の日は, 1) 純社会的利得とよばれるものであるD 制約式(1. 2 )
を変形すると,m+x=Bm+Ax+c+z+g
となるD この式の左辺は,全供給であり,右辺は全需要である。すなわち,
( 1 . 2 )
の 式 は , 全 供 給 と 全 需 要 が 等 し い こ と を 表 わ し て い るo
また,p
は, この制約式の双対変数ベクトノレであり,財貨やサービスの市場価格を表 わす。制約式(1.3 )
は,生産がその生産能力をこえないことを表わす。制 約式(1.3 )
の双対変数ベクトノレπ
は,生産能力に対して支払われる賃貸料 を表わすO また,制約式(1. 4 )
は,主変数ベクトノレx,m, z, cがすべて 非負であることを示す。各産業部門は,単一産出財を生産する
o
また,生産について,規模に関す る収穫一定性が成立するo
そ れ か ら , 各 財 貨 の 市 場 価 格 pjと国際価格dj は,その財貨の需要量(または供給量)と線形関係にあるo
この関係は,そ れぞれ以下の式によって表わされるの。n
( 1 )
pj=αlj-~βωk ( j =
1
,…, n)( 1 . 5 )
k=l
pj=α2J‑2n1βGkJ〉ZK (j =
1
, ロ)( 1 . 6 )
k=l n (3)
dj= α
叫内
3ωj一
k2戸=ユl β kj川
I口m ( j =1
, n)( 1 . 7 )
3 4
経 営 と 経 済 また,各企業家の利潤は,均衡時にゼロであることが前提されている的。これは, (1.1)の付加価値係数
VJ
が定数(正数)であるという前提と関連 して重要であるO なぜなら,付加価値は,賃金,賃貸料,資本支出,税金お よび利潤により成るD ここで,利潤をゼロと前提することは,付加価値を全 本源的投入物(労働,土地,資本および政府サービス)の賀用と等しいとみ なすことであるO その結果,本源的投入物の価格は,需要量から独立して一 定であると仮定されていることになる。この前提は i本源的投入物の需要 が供給より小さい場合,価格はゼロに下落する」という伝統的な経済学の前 提と相反している。(注)
1) サムエノレソン
[3J
を参照せよ。(q)
2 )
これらの曲線の傾き凡J(q= 1, 2 , 3) と pj=l( または d~=1)
における(q)
需要の価格弾力性九』との関係は,以下のとおりである。
d C
kε ( 1 ) = dPJ
一 一 = ー ̲ 1 ̲ (k.j=l
, n)k J
c~SI)
一二喜一
βkJ
pi c f
( 1 )
司・
.βkJ
一( 1 )
ム n(k. j=
l,…. n)εkJ C
長3 )
たとえば,へンダーソン・クオント(6)の p.211を参照せよ。ただし,前掲
書(6)でも,この前提は長期均衡条件として言及されている。隼者には,乙の仮定
が,本来静的均衡分析をめざす当モデルにおいて,モデノレ全体の斉合J性を損っていると 思われる。2 . Q P
の最適条件とその経済的解釈2
次計画(以下QP
と 略 記 す る )(1.1 ) " " ' (
1.4 )
のキューン=タッカ一 条件。は,最適主変数をX J
,C , j ζJ
,Z J
によって,最適双対変数をP J
,7 t J
によって表わすと,それぞれ以下のようになる
o
r 2
次計画としてのマクロ経済モデノレJ 3 5
ハ
Unu
'/ 与一
円
Z
v
a
n 恥
Z
戸
⑦ 日
7tj:::::::
0 ; = 0
b A ﹂ み 己
ル
} L
﹂
の の
0
一 向
>
>
引
'Z
一〆
t k
︐ ︐
︑
( 2 .
1) n( 3 ) ~
n~
④ ー α3j-~βkJ
mk+pj‑ 2 : p , b ' J
三三o; = 0
k=l i=l
(mJ> 0
のとき)( 2 . 2 ) n ω
⑨ ー α2j-.~βkJ
Zk‑P J
三三o; = 0
k=l
(ZJ>O
のとき)( 2 . 3 )
n C D , . . . . . . ,
③
α'J‑ 2 : β k J Ck‑P
ぷo; = 0 k=l
(CJ> 0
のとき)( 2 . 4 ) n
まず,⑦の場合の経済的解釈から始めよう。それには,
PJ‑ 2 : p
,a l J ‑VJ
を国内生産者の部門jにおける単位利潤として定義する必要がある。こうし ておいて,( 2 . 1 )
の式を書き直すと,次の4
つの式が出てくるo
ζ 内町
一= v v
凶 m
z z
日目
︒ ︒
ハ U ハ U
=
>
市 内勾
rBEEf
︑
EE'tハ
Un u
﹀一 一=
円列
︒ ︒
= 一向一向 /
¥ 同 中 川 r I I J E l
‑ ‑ ︑
さらに,この
4
つの式を左の条件を基準にまとめると,以下のようになるo
i ) XJ>XJ= 0 c : : : : > PJ‑S
,p
,a'J‑vJ
三三0(=πJ)
~ 2)
i i ) XJ=XJ>O
C::::>PJ‑S
,p
,alj‑vJ (=町)ニミ O i i i ) X J > 勾 > O
C::::>PJ‑S
,p
,a'J‑vJ(=πJ)= 0
また,右の条件を基準にまとめると,以下のようになる。i) 単位利潤
> 0
ゅ粗産出高=生産能力i i )
単 位 利 潤 =O c : : : : > 0
豆粗産出高三三生産能力 iii) 単位利潤< O
C::::>粗産出高= 0
乙れらの条件
i )i i ) i i i )
は,図l
の(a)に描出されるo
結局,②の条件を経 済的に解釈すると,国内生産者の利潤最大化行動ということになろうD3 6
経 営 と 経 済n
次に,④の場合の経済的解釈に移ろう。この場合も,
PJ ‑ ~ P I b lJ ‑d J
を輸入業者の部門 jにおける単位利潤と規定することから始める。⑦と同様 に,(2 . 2 )
の式を書き改めると以下のようになる。ハU
く 一 一
m
n GA
一k
Z
ペα
LU 引
n Z
同
ハ U ︒ 目
m
ハ
Um
oβ
n z
b
α
10
n
‑
n 2 . F
t
目
︒ ハυ>
m
これらの条件
i ) i i )
は,図l
の(b )
に描出されるo
結局,(1)の条件を経済的 に解釈すると,輸入業者の利潤最大化行動ということになるDそれでは,@の場合は,経済的にどう解釈したらよいのであろうか
0
( 2 . 3 )
の式は,次のように書き直すことができる。n
( 2 ) ~
i )
ZJ=OÒα2J-~βkJZk豆PJk=l
( j = 1,…,
n)
n ( 2 ) ~
r‑.Ji i ) ZJ> 0 o α2J‑ 2 : βkJZk=Pj k=l
これらの式は,図lの
( c )
に示されるように,最終需要が需要曲線によって価 格と線形関係にある,と解釈することが出来る。( j = 1,…, n)
@のケースも,⑨と同様の結論に到達する。
( 2
.4)の式を詳しく書くと,以下のようになる。
n ( 1 )
戸i ) Cj= 0 o α I J 一 予 丁 βωk
三三PJ k=l
( j
= 1
,…, n)n ( 1 ) ~
i i ) CJ> 0 o α1J‑ 2 : skjCk=PJ k=l
これらの式も,最終需要が需要曲線によって価格と線形関係、にある,乙とを ( j =
1
,…, n)示しており,図
l
の( d )
によって描出されるo
(注)
1) 数理計画問題が,等号f!j!J約式と不等号制約式をともに含む場合のキューン=タッ
1 2
次計画としてのマクロ経済モデル」37
カ一条件は,以下のとおりである。
x
が,数理計画問題Max f ( x )
,x=
乞(1,...,x
n)',s u b . t o .
gl( x )
豆b
i> i= 1
,…,u g J ( x )
二三bJ
,j=li+l
, …,V
,gk(x)=bk
,k=V+l
,…,m
,and x
ミ0
に対する局所的最大値であり,かつ制約想定が満足されるならば,そのとき
y'f (;)
-:E~
y'gl(;)亘o
二
{ZJQ‑ 土 ζ 芸ぁ } = o j = 1
,…, n,A
J { b
i‑g j G ; ' ) } = 0
, i= 1
, ・・・,m
,入 t
三三(), i= 1 ,
・・・, u,^ ' J
壬0
,j=U+l
・・・,V
,しな件条号
符 す る
h
立成
よ 川
N
k=V+
l, ・・・,m
,図
1
( a )
E︐ ︐ ・ ︑h u
︑ . ︐ ︐部 門 ] の単位 利潤
輸入業者の部門 jにおける 単位利潤
。 。
ml
x . x .
38
経 営 と 経 済 図1
( c ) ( d )
z
jc
j2 )
この結果は,1.で行なった経済的前提(ゼロ利潤条件)と矛盾している。Glasseyは
,r
乙の前提は,正の単位利潤を,稀少生産能力に対し産業によって支払 われる賃貸料と解釈することで,満足される。J(参考文献(5
)のp . 3 5 )
と言ってい るが,私lとは,その説明が上記の状況を説明しているとは,考えられない。1.の注の3)でも述べた乙とであるが,私は,むしろゼロ利潤条件を除くことによって, r
本源 的投入物の需要が供給より小さい場合,価格はゼロに下落する」という伝統的な理論と 矛盾する乙ともなく,かつまた図lの(a)の状況も説明できると考える。む す び
本稿は,エネノレギー,モデノレとしての
QP
の有用性を確認する上で書き始 めた論文であったが,結果的には,双対変数ないしはラグランジュ乗数π
に 対する独特の解釈を与える,というにとどまった。π
が,生産能力に対して 支払われる賃貸料を与える一方で,国内生産者の各部門における単位利潤を 表わし,それが,図 lの( a )
にみられるような利潤最大化行動として解釈でき るという議論は,経済学的な理論的枠構造としては,興味深い。しかし,長 期均衡条件であるゼロρ単位利潤という仮定をモデノレ内に導入したことで,モデル全体の斉合性については疑問が残った。筆者としては,今後
1)
政策変r 2
次計画としてのマクロ経済モデノレ」39
数
S
とt
の内生変数化による2)
スカーフ流の均衡計算問題として, 乙の研究 を展開してゆきたいと思うO(注)
1 )
いま,第i。部門の財1i(たとえば石油)の海外価格di O
と国内価格Pio
が,極 端に垂雌している状態があるとする(dio>PiO)
。政府は,Plo
がdi O
まで上昇するこ とを防止しようとするが,単なる価格統制は,同じ第i。財を,国内部門から調達する 第 j。部門(たとえば石油精製部門)の企業休と海外から輸入する第 j。部門の企業体と の間に不平等を生じさせることになる。そとで,政府は,資格付与計画を政策としてと り入れることにする。すなわち,第 j。財を国内価格Pi
。で購入する資格を,政府が,第j。部門の企業体
l
乙販売し,海外価格d l O
で購入する同部門の企業体l
乙補助金として 支払うというものである。この政府介入政策を前の
QP
モデル!ととり入れるために,次の2
つの変数s . t
がモ デノレ!と迫加される。s
輸入された第i。財・への補助率t
国内の第 i。財への課税率補助金の財源、が,他から調達できないとすれば,以下の条件が,成立しなければならな
し 、 。
tXlo=Smlo ( a . 1 )
前の
QP
モデノレの図1
の( a )
で示されたように,介入がないとすれば,向。=示>0
のと き, 7l'l o (=Plo‑ki PI al
,io‑ViO)
ミ0
である。しかし,政策当日は,次の条件が満た されるように,市場に介入するものとする。7l'
lo= 0 ( a . 2)
条件式
( a .1)
と( a .2)
をこのままにしては,政策変数S
お よ びt
を経済的に解 釈することは,不可能である。そこで,( a . 1)
と( a .2)
の代りに,以下の条件式( a . 3)
と( a .4)が,モデノレ V
'3!と導入されることになる。Plo=α3io + . L :
sk,i O m
k+ . L : P1bi
,10‑S ( a . 3)
n
Plo= . L : Plal
,I O 十 Vio
什10+ t ( a . 4
J4 0
経 営 と 経 済 すなわち,条件( a .3)
および( a .4)
をモデノレの中にくみこみ,2 .
で示したような 最適条件の中に( a .1)
と( a .2)
を見出そうとしたが,乙の試みは,今日にいたる も成功していない。そこで,本稿では,今後の研究の方向を示すにとどめておくことと する。2 ) Glassey (1
)のp . 8 8 3の
1.4
'"'‑'1.5
を参照せよ。参 考 文 献