経済英語の文法的特質
−受動態の多用について−・
藤田剛正
I
経済学・経済評論・経済記事といった経済関係の英文を読んでいると英文 学の作品例えば小説とか戯曲とか物語などの文章と著しく異なるいくつかの 点に気がつく。それには例えば文のピリオドからピリオドまでの問が相当長 いというようなことがある。小説や戯曲における語数の少ない文、主語や述 部など文の主要素を省略した文、蝉情を露骨に表わした文、などは経済関係 の英文にはめったに姿をみせない。このような経済英語の文章の構成的特性 についてわれわれは既に先の論文−『経済英語の文章構成・文体につい て』(「経営と経済」122号)−においてその実態を分析調査した0その 結果、経済英語の文(SentenCe)が、文学英語の文の2〜3倍も長いとい
うようなことが判明した。
それらの理由は結局両者の文体範疇の相違に基くものであった。すなわ ち、文学英語の文章がEmotive Prose(情緒的散文)やDescriptiveProse
(描写的散文)として含蓄のある多義性の象徴に富むことばを用いて読者の 想像力に訴えようとするものであるとすれば、経済英語はExplanatory Prose(解説的散文)として意義内包を十分に規定した語を用いて論理を構
(註)
築展開し読者の知的理解に訴えようとするものである0
(註)拙稿『経済英語の文章構成・文体について』においては、「経済英語」に対立す
るものとして「文学英語」だけをあげたがそれは先の論文のひとつの限界であっ た。これについて静岡大学の鳥居次好教授から筆者に次のようなコメントが寄せ られた。「「経済英語」に対立するものは必ずしも「文学英語」だけではないと思い ます。たとえば「(自然)科学英語」というようなものも、また別にあると恩わ
れます。自然科学をやる人の論文は戦後ほとんど英語に統一されてしまったよう ですから、こういう人の古く英語と、経済学、あるいは経済評論家、経済通信文 などを書く人の英語がどう追うか?などということも研究の対象になると思いま す。」これは恨拠の確かな評三.である。
最近「機械英語JI電気英語JI化学英語JI建築英語JI工業英語JI技術 英語」などの表題の本をみかけるが、乙れらを総称して「科学英語」とし、 「文 学英語」や「経済英語」と対立させて考えることができる。ただし先の「機械英 語」等の本をめくってみると、そこに苦かれているのは、基礎的英訟の文法とそ れら専門分野の英語用語の併説に過ぎない。 I経済英語」の場合と同様に「科学 英語Jについても、その文体的・語学的検討や研究はあまり行なわれていないの が現状である。
われわれが先の論文で得た結論を要約すると次のようになるC
(1) 文学英語の平均文長が10,.....,15語であるのに対し、経済英語の平均文長は 20,.....,30語であるD
(2) 文学英語は話しことば (spokenEnglish)を 多 く 用 い る が 、 経 済 英 語 は書きことば (writtenEnglish)である。
(3) 文学英語は短かい文を用いて、ことばのニューアンスや象徴性を利用す ることが多いが、経済英語は定義されたことばを用い、筆者の;意図しない志 味を排除する口
(4) 文学英語は自然や人物の内外の性状を描写したり、人物の感情の起伏や 思想の推移を伝えて読者の感受性に訴えると乙ろが多いが、経済英語は論述
・解説・論究・説得・主張・論議・解明を意図し、もっぱら読者の知性・理 性に訴えようとするO
(5) 文学英語においては描写対象や場面展開のリズムによって長文と短文の 交差混合がみられるが、経済英語にお.いては対象のリズムよりは筆者の思想 のリズムに合わせて書かれるので、文の長さはかなり怒ったものとなる。
(6) 文の構造からみると、文学英語では単文や童文が多く、経済英語では複 文や重複文が多い。すなわち、文学英語は単純な構造の文が多く、経済英語 は複雑な構造の文が多いO
(7) 文学英語では文全体の8096が平叙文、 2096が疑問文・命令文・感嘆文で ある。これに対し経済英語では前者98必、後者2 %であるoすなわち、経済 英語において疑問文・命令文・感嘆文の現われる比率は文学英語の場合の10 分のlであるo
(8) 文学英語では散列文が多く文理解の負担は軽い。経済英語では神尾文が 多く文理解の負担が重くなるD
(9) パラグラフのの平均的長さを調査してみると、文学英語ではほ~'3つ文 より成り 40語である D これに対し経済英語ではほ~'5つの文より成り 120語 であるo
(10) パラグラフの長さの平均からの逸脱状況をしらベみると、文学英語では 70,...., 120%、経済英語では20,.....,6096であるD このように経済英語のパラグラ フがより整っている理由は、 (5)と同様で、経済英語が対象のリズムよりは思 考のリズムに合わせて書かれるからであるo
(11) パラグラフの型を調査してみると、文学英語では対話型や情景描写型が 目立ち、経済英語では定義型・分類型・数量型が目立つ。
(12) 文学英語と対照してみると、経済英語の文体は論理的・数学的・非感情 的・主知的である。
以上の結論ほ文とパラグラフという観点から文学英語と経済英語を分析調 査し、その結果を比較・対照することによって得られたものであるD 文やパ ラグラフは文法上かなり大きな単位区分であるo本稿は先の分析の結果をふ まえ、さらに進んでより狭い文法施時の観点から経済英語の特質を追求しよ うとするものであるo たとえてみれば、先の論文が巨視的に経済英語の顔貌 の輪郭をたどったものとすれば、本論文はより接近してその顔の造作の一つ について特徴をのべるものであるD
E
先ずケーンズの『一般理論』から次の引用文をみてみようD
Most treatises on the theory of Value and Production
areprimarily concerned with the distribution of a given volume of employed resources between different uses and with the conditions which, assuming the employment of this quantity of resources, determine their relative rewards and the relative values of their products. The question, also, of the volume of the available resources, in the sense of size of the employable population, the extent of natural wea1th and the accumulated capital equipment, has often been treated descriptively. But the pure theory of what determines the actual employment of the available resources has seldom been examined in great detai1. To say that it has not been examined at al1 would, of course be absurd. For every discussion concerning fluctuations of employment, of which there have been many,has been concerned wi th i t . 1 mean, not that the topic has been overlooked , but that the fundamental theory underlying it単2beendeemed so simple and obvious that it has received, at the most, a bare menti.on. ‑ John Maynard Keynes: Tþ~_Gen~ral J'heory oCEmployment, Jntere~t ̲ and~oneぇ
(London: Macmi11an & Co. 1936) p. 4・5(I talics mine)
(価格および生産の理論に関する大部分の論者は主として次の問題を取扱 っているoすなわち、一定量の使用されている諸資源の各種用途への配分 と、この量の諸資源の使用を想定して、それらの相対的報酬ならびにそれ らの生産物の相対的価値を決定する諸条件とがそれであるo また、使用可 能な諸資源の量に関する問題も、麗傭可能な人口数とか、天然宮源の大さ
さとか、蓄積された資本設備とかいう意味では、これまでしばしば記述的 に取扱われては来た。しかし、何が使用可能な諸資源の現実の使用を規定 するかについての純粋理論が、とくに詳細に吟味されたことはほとんどな い。もちろん、それが全然吟味されなかったといっては誤りであろうoな ぜなれば、これまで多く存在していた雇傭の変動に関する議論は、すべて その問題にかかわっていたからであるO 私のいおうとする乙とは、乙の論
経済英語の文法的特質
題が全然看過されていたということではなく、その基礎をなす基本理論が きわめて単純かつ明白なものであると考えられ、したがってそれについて は、せいぜい、申訳ばかりの言及がなされたに過ぎないという乙とであ るo)一一塩野谷九十九氏訳(東洋経済新報社)による
上に引用した英文中、イタリックにしたところは受動態を示す。受動態が たいへん多いことが一目でわかるo
これを具体的に分析してみると、次のような数字となる。文数6、そのう ち述部動詞が他動詞であるもの5、それが受勤態 (Passive Voice)となっ ているもの4、従属節数7、そのうち述部動詞が他動詞のもの 6、 そ れ が Passiveとなっているもの30準動詞については、文中勤名詞00不定詞1 でそれは他動詞だが Passiveではない。分詞は5つあり、すべて他動詞で Passiveは 30 乙れをまとめると、定形動詞の他動詞11中 Passiveは7、 非定形動詞の他動詞6中 Passiveは3、計他動詞17中10まで Passiveの形 態となっていることがわかるoケーンズの文章の一節だけから結論を引き出 す乙とは性急に過ぎるが、経済英語について受動態の多用がひとつの大きな 特色となっているのではないかということが予想されるo本稿においてはこ のことを仮説に立てて英文法における Voice(態)という観点ら経済英語を
(註) 分析し論考するo
(註)Vioce (態)とは動詞の形態箱陪であって、動詞のあらわす動作が、主語の但肋〉
ら目標(被行為者)へ向っているか、それとも主語が他のものからその動作を受 ける立場にあるかの区別を言う。行為者・行為・目標の語順が能動態 (Active Voice)であり、目標・行為(行為者)の語j唄が受動態 (Passive Voice)で ある。 Wespeak Eng1ish はActiveであり、 Eng1ish is spokenは Passiveである。このような定形動詞 (FiniteVerb)ばかりでなく、非定形 動詞 (Non‑finite Verb)にも態 (Voice)がある。不定詞 There in no time 己ととfThereis no time to be rost. (猶予すべき時間はない〉
¥動名詞 He deserved punishing = He deserved being punished.
(彼は処罰されるだけのことをした。)/分詞:a professin旦(=professed) Christian (公然と名乗っているキリスト者)
E
経済英語において受動態が特に好んで用いられ、その多用がひとつの特質 となっているのではないかという仮説が真であるかどうかを調査するD その 方法は先の論文におけると同様に統計学の samplingmethodによるD この 方法によって、まず経済英語の態 (Voice) に関し、外面的・数量的に実態 を把握することにするoそののちに、それがもっ意義・理由を考察するo
分析調査の具体的な方法はとうである。先ず経済英語の文章を無差別にtUI 出するo次にその章節のはじめから能動・受動いずれの態にも用いうる他動
(註)
詞と他動詞のような意味をもっ群動詞を順次拾い上げ丁度100になったら やめるoそれからそれらを Finite(定動詞)/Imfinitive(不定詞)/Gerund
(動名詞) / Participle (分詞)に分類するO 次 に そ の お の お の に つ い て Active (能動)と Passive(受動)の形態別に分類し、最後に Activeの計 とPassiveの計を求めるD 丁度100まで拾うのは計算が楽でパーセントがす ぐ出せるからであるo
(註)群動詞 (Group‑Verb)は「自動詞+前置詞」の結合がl伺の他動詞と等価であ るような場合である。例えば He thought 0L (= considered) going abroad./she was r~ughed a! (=derided) by al1./Don't speak un‑ less you are ~poken to (= addressed) . 群動詞は自動詞と前置詞との 聞に副詞小辞が入る形態も含む。例えば [ cannot put U P with (=tole‑ rate) him. (彼には我慢がならない)/Heis !ooked up t~ (=respected) by everybody. (だれにも尊敬されている)詳動詞はこのように受動構文が可 能であるから、態(Voice)の実態を調査する際には他動詞と同様に拾い上け.ね ばならない。
経済英語のVoice(態)の実態を調べたら、乙れと比較対照するため、文 学英語に関しても同様の方法で抽出した分析対象について経済英語の場合と 同じ手順を繰り返すことにするO 無差別に選び出された分析対象は次に示す ように経済英語10点(その内訳は経済学単行本4点、学界誌2点、時事経済英 語4点)、文学英語10点(内訳:小説5点、戯曲2点、物語3点)であるo
(註〉
便宜上、経済英語、文学英語のそれぞれの分析対象に年代の古い方から新 しい方へと順に通し番号をつけるO さ ら に 、 そ の 番 号 の 前 に 経 済 学 単 行 本 (Book)はB、経済学界誌、 (Periodical)はP、時事経済英語(Journalism) はJ;小説 (Novel)はN、戯曲 (Drama)はD、 物 語 (Story)はSをつ けるD そしてさらに通し番号の後には筆者 (author,reporter)がアメリカ 人 (American)の場合はA、 イ ギ リ ス 人 (British)の 場 合 はB、日本人 (Japanese)の場合はJ、をつけて示すことにするo 以上のやり方で対象区 分を明示し、分析対象を列挙すると次のようになるO
(註)分析対象に示した年代は必ずしもその著書が出版社から出版された年を示すもの ではなく、当該著書が最初に世に出た年を示す。
経済英語の分析対象
B 1 A: F.W.Taussig, 1nternational Trad~ (New York : Augustus M. Kelley Pub. 1927) pp .197ー202.
B 2 B : John Maynard Keynes, Ihe General Theory̲̲()J̲:gmploy‑
ment, fn~rest and Mon̲ey̲ (London: Macmillan & Co.
1936) pp.292・297.
B 3 A : John Kenneth Galbraith, rhe Affluen t SocietJ.: (New York: The American Library, 1958) pp.167‑172.
B 4 A : Paul A. Samulson, Economics An [J1troductory Analysis (New York: Mcgraw‑Hill, 1967) pp.107‑112
P5B:The Economic Journal LXX[X (March 1969) (London:
Macmillan Ltd) pp.109‑112 Jan Warren Duggar:もfnternati・
tional Comparisons of Income Levelsク.
P6A:California_Manag~me_n~ReyJ~\Y_Y() I. XIlLli~"---L(Fall 197Q) (Berkeley: Graduate Schools of Business Administation of the University of California) pp. 13 ‑15. A.C. Filley:
キCommitteeManagement: Guidelines from Social Science Researchク
]7B:J'he Economist 3‑9 Apri1 1971 (London: Thc Economist Bu i1d.) pp .13‑14. ~ A Tory Budget/,.. .
J 8 J : Asahi Evening News Tuesday Apri1 27,197lp.ll.
J9A:T!IJle May 3,1971 pp.49‑50もTryingto Change an Unfair Tax"'.
JlOA:Newsweek May 3,1971 pp.44‑47 ~Japan' s Big Drive in Autos""
文学英語の分析対象
S 1 A : Thomas Bulfinch. The Age of Fabl~ (London:Dent & Sons Ltd.1855) pp.165‑167 Chapt. XXI ~Bacchus'"
N 2 B : George E1iot. Ihe Mi1l on the Floss (London: Dent & Sons Ltd. 1860) pp.5‑8.
N 3 A : Wi1liam Faulkner. Soldier' s PaL(New York: The New American Library.1926) pp.67‑69.
N 4 B : W. Somerset Maugham,Cakes and Ale (London: Wyman &
Sons Ltd.1930) pp.11‑14.
N 5 A : Ernest Hemingway. Io Have and Have Not (New York:
Permabooks.1937) pp.3‑6.
N 6 A : John Steinbeck. The Pearl . (London: Pan Books Ltd,1948) pp.7‑11.
D 7 A : Arthur Mi1ler. Death of a Salesman (New York: The Viking Press.1949) pp.12‑18.
D 8 A : Tennessee Wi1liams. feriod of Adjustment (New York:
The New American Library. 1960) pp.12‑20.
S9B:The New ̲Ejl.glish Bibl~ (Oxford University Press,1970) pp.12‑15♀丘公益 Chapt.12‑14 ~The Story of Abraham'"
SSIOB: James Kirkup. Eolktales an_d__1-eg~!!dsof Englan~ (Tokyo:
Seibido,1971) pp.36‑41 ~The Leprechaun'"
次にこれらの分析対象について得た調査結果を表示する。
経済英語の態(Voice)に関する実態調査
吋lzZllzAjiLPA与~I~ム
B1A B2B B3A B4A P5B P 6 A J7B J 8 J J9A J lOA
0 9 4 8 9 4 4 2 7 7 4 2 3 4 1 3 4 4 5 5
n u q L q叫 只
uつ
J M ワ4 1
晶
nu
司d﹄TquqJ
山 内 ベ
M 1 4
司4 1 4
可 よ 円
4 1 i 1
ム
12 I 0 I 0 12 I 1 I 15 16 I 0 I 4
6 I 0 I 3 4 I 0 I 16 13 I 0 I 12 24 I 2 I 4 12 I 0 I 6 9 I 0 I 4 11 I 0 I 5
nU 噌 ム n u n u n u n u n u n u n U
1ょ 内41‑nHU内U円4
司ムハ o n A
円hdEJ
RV
内O R U
向 ︒
AH・
RU
門 ︐
a
向︒ 門
J可i
n o nヨ 司 4 n u n o n U
瓜9 n O
円O R J
4・
q u A・λせ
R u q u n 4 q u
司4
q A
平均 II~2 I 38
文学英語の態 (Voice)に関する実態調査
一 矧 一
計丁
一 勤 一 一
7 1 2 2 3 3 2 5 2 1 一 能 一
8 9 9 9 9 9 9 9 9 9 一 抱 一 勤 一 2 0 1 2 1 1 0 1 0 4 一 ﹂受 一
詞一詞一川寸1111lili‑‑Il‑‑
一 一 頭 一 9 2 3 4 2 4 0 1 0 1 一 分 一 能 一
1動寸寸T1111111111111‑‑
一 詞 一 勤 一 1 1 0 0 0 0 0 0 0 0 一 一受 一 形一 名l il ll i‑
‑I ll i‑
‑‑
一 一動 一 3 6 2 6 0 3 1 3 0 4
E直
1 1 1 1 1 1 l
ー
一 詞 一 動 一 1 0 0 G I G o
‑
‑ o 一ド 一一 受一
一3一定一17l1111411111
ー ー ー
一 一動 一 5 2 3 8 6 7 0 6 2 0 一 不 一 能 一
1 2 1 1 1 詞一 劫一
9 8 7 6 5 6 8 3 7 5
動一三
形一 勤一 0 1 4 6 5 9 1 5 0 6 定一 能一
6 6 6 6 8 7 8 8 9 6 扮 一 A B A B A A A A B B
枝
1 2 3 4 5 6 7 8 9 m
鋭
S N N N N N D D S S
3 9 8 8 7 7 8 5 8 9
句 ︐ム
平均 II_~2 I 8
上の分析結果からわれわれは経済英語の領域における Voice(態)の実態 について次のように結論することができる。
(1) 経済英語において他動詞(他動詞のように使われる群動詞を含む、以下 同様)が受動態で用いられる比率は全体の士からをであるo平均では約4
割である白
(2) 文学英語の場合のそれは占以下、平均で8 %であるo
(3) 両学の比較から、次のように言うことができる:経済英語において他動 詞が受動態で用いられる割合は文学英語の場合の2倍から10倍、平均で約 5倍であるO すなわち、経済英語の領域においては受動態が文学英語の場 合の2倍から10倍の濃度で分布しているo
経済英語において受動態が多用されるという仮説はここに証明されたので あるD 経済英語において受動態が文学英語の場合に比べ平均で5倍も多用さ れるということは明らかに経済英語の特質の一つを成すものであるD それは Voice (態) という英文法の範時から外面的、数量的に観察される特質であ
る。
百
経済英語において受勤構文が多用されるのは何故か、またその意義は何か。
乙れに答えるには先ず受動態の程々相を検討し、その本質を明らかにするこ とが必要である。それにはこんにち、言語学・英語学が到達しているものを 援用しなければならない。
文生成の法則性を追求する変形文法 (TransformationalGrammar)は 受動態を表面構造 (surfacestructure)と し て 把 え るO そ の 深 層 構 造 (deep structure)が能動態であるO す な わ ち 受 動 態 は 能 動 態 に 受 動 変 形 (Passive transformation)を適用したものであるoそ し て そ れ に 動 作 主
(註) 削除 (agentdeletion)変形が加わることもあると考えるのであるD
(註)変形文法の方式を用いれば受動態の生成椛造は次のように図示される。
NP1+AUX十V(十PR T) (+Prep) + N P2=二:>NP2+A U X ‑be+ Ven (+PRT) (+Prep) (+by+NP1)
(N P =Noun Phrase名 詞 句 /AUX=AUXi1iary動詞補助話旬、これに は必須要素として Tense(時制)を合む/ V= Verb/ P R T = Particle副詞 小辞/Prep=Preposition前 町ID/'y'enニ仇司の過去分詞/ Cコ深!日出立に 変形が適用されて表面構造が生じる乙とをjJ¥す〉
なお、変形文法の理論については NoamChomsky: A~p_e_çts~fJþeThe-=
ory of Syntax (Cambridge, Mass: M 1 T Press, 1965) (安井稔訳:
「文法理論の諸相J、研究社1970)、その英語教育への応用については
長谷川克哉・石k守男・大野三郎共著「変形文法と英語教育J(明治図書、 1970) を参照した。
このように変形文法の観点より見れば、各種各様の受動態はすべてひと つの法則に還元されるo そして表面構造(受動態)は深層構造(能動態)に よって理解されるのである。このような一般化はいろいろな具体的事例に統 一性を与えてくれるという美点があるO しかし、変形文法は個々の実例にお いて何故能動態ではなくて受動態が選び用いられるかという好み (prefer‑ ence)の問題には答えてくれないように思われるo しかも、経済英語に何故 受動態が多用されるかという問題はまさにそのような好みの問題と考えられ
るのであるo
一般に口語体英語 (spokenEnglish)は文語体英語 (writtenEnglish) よりも能動態を好むということがいわれる(註)o 確かにこの乙とは先の Voice
(態)における実態調査が証明するD すなわちここで分析の対象とした文学 英語、なかでも特に戯曲 (Drama)の英語は spokenEnglishであり、経 済英語は writtenEnglishであるO 従って態 (Voice)に 関 す る 調 査 結 果 が示す「経済英語では文学英語よりも受動態を5倍多用する」ということは そのまま rwritten Englishでは spoken Eng 1ishよりも受動態を5倍多 用する」と言い換えても過度な一般化とならないと思われるo しかし、何故 written Eng1ishで受動態が好まれるかという好みの問題はそのままであ
るD
(註)
原沢正在 r文語体と口語休J(現代英語教育講座第八巻、研究社、昭39.p.
141)は口語体英語における態(Voice)の選択について次のように述べている:
rV+oの構造を合むものは原則として受動化することができるが、それはあく まで原則論であって、実際は受動態はごく特殊な場合にしか用いられない。..
…要する!と原力能動態を用いること、なるべく受動文をさけることが口語的なの であろの」
また、英語を母国語とする人々を対象とする英作文の教科書や修辞学者(Rhet‑ oric)の類でも受動態を使うのは避け、なるべく能動態を使う乙とがょいと教え ている。
例えば次のように "Writersare urged to use the active voice whenever possible: i.e. whenever no good reason exists for shift‑ ing into the passive."
(ものを書くときはできる限りいつでもーということは別に受動態にしなければ ならない理由がないときはいつでも一能動態を用いることがす〉められる。)
‑Robert W. Daniel: A ContemPi>rary ̲ Rhetorjc (Boston: Little,
Brown & Co., 1967) p.95.
態 (Voice)のもうひとつの相 (aspect) は口語体でも文語体でも慣用 と し て 受 動 態 を 常 用 す る 動 詞 群 が あ る と い う こ と で あ るo例 え ば 1am
且盟sedto meet. you. (お会いしてうれしい)とか Yourmother wil1包
五丘evedto learn of your conduct (あなたの行状を聞いたらお母さんは 悲しむでしょう)のような感情動詞 (Verbs of Emotion)がそうであるD
この程の慣用受動構文となる動詞は限りがあって次のように分類すること ができるo (註〉
「従事J : employ, engage. occupy, busy, etc.
「服装J : clothe, dress, disguise, etc.
「定着J : sea t, esta blish, settle, moun t, sca tter, etc,
「確信J : assure, convince, persuade, etc.
「満足J : content, satisfy,etc.
「報知J : acquaint, inform, etc.
「準備練習J : prepare, practise, etc.
「専心J : a bandon, devote, a bsor b, bend, dispose, etc.
「関心J : concern, interest, trouble, etc.
「喜怒J : please, deligh t, rejoice, amuse, anger, grieve, vex, provoke, afflic ,toff end, irri ta te, enrage, etc.
「驚きJ : astonish, amaze, surprise, frighten, alarm, startle, shock, horrify, etc.