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原著論文
幼稚園における歌唱指導に関する一考察
─ 幼小連携も視野に入れて ─
斎藤 恵
大妻女子大学家政学部児童学科
Consideration About Song Teaching In The Kindergarten
Megumi Saito
Key Words:こども(Children),歌(Song),ピアノ(Piano),季節(Season)
要旨
本稿では幼稚園においてしばしば歌われる童謡や 唱歌、即ち本学の学生が実習のために準備しておく 必要のある曲目について検討し、さらに歌唱指導に 関して考察すると共に、大学における限られた時間 内での音楽の授業において、受講生たちが実際の現 場に出た際に、より良い活動や指導ができるような 講義方法についてあらためて追究することである。
はじめに 1) 動機
本論の筆者が上記のタイトルで執筆する直接の動 機となったものはつぎの二点である。第一の動機は 筆者が本学で担当している後期授業科目、1年次の
『音楽表現II』と『児童音楽II』、2年次の『児童学 ワークショップ』に加えて、3年次『幼稚園実習特 講(児童教育専攻)』の一環として、《季節の童謡》
に関する本実習直前指導を行なったことである(注 1)。第二の動機は昨年度から今年度にかけて実習訪 問以外に、担当授業『卒業研究ゼミナールI・II』
と『卒業研究』の受講生たちと共に、あるいは単独 で神奈川県や千葉県等の東京近郊の幼稚園、そして 東京都内の児童館や保育所等を訪れた際に、幼稚園 や保育園における歌唱指導について、現場の教諭や 保育士たちから様々な意見や実情を聞いたことであ る(注2)。
2) 目的
本論の筆者は本学児童学科において3年次の『児
童学専門演習I・II』と4年次の『卒業研究ゼミナー
ルI・II』を担当しているが、これら授業の受講生
のみならず、3年次児童学科の学生たちの問題意識 の中に「『幼稚園本実習』に備えて、どのような童 謡や唱歌を練習しておいたらよいか」という問いが ある。そして4年次児童学科の学生たちの疑問の中 に「幼稚園やこども園に就職は決まったものの、果 たして就職先において、園児たちに対して歌唱指導 がうまく出来るかどうか」という問いがある。
そこで本論の目的は二つある。第一の目的は、上 記の学生たちの問いに答えるべく、幼稚園において しばしば歌われる童謡は何か、即ち本学の幼稚園免 許取得希望者が実習に備えて練習しておくべき曲目 を検討した上で選択し、免許取得後に就職した際の 歌唱指導について考察することである。本論第二の 目的は、大学における限られた音楽関連の授業にお いて、受講生たちが実際に現場に臨んだ際に、より 良い活動と指導ができるような講義方法について追 究することである。
I 研究方法
本論の筆者は以前執筆した児童学・音楽関連の論 考において「表」を三つ作成し、その中で「子ども たちが音楽に触れる機会」と「生活・行事に関する 曲」について、二つの表にまとめたことがあった
(注3)。今回、筆者はこれら二つの「表」を基にし
て、先行研究や童謡・唱歌集等を参照した上に(注 4)、今年度の『幼稚園本実習』を終えた学生たちが 持ち帰った感想や反省の声も参考にして、次年度以
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降の『幼稚園本実習』に備えて学生たちが練習する のに相応しいと思われる童謡・唱歌の一覧を作成す る。
つぎに幼稚園における歌唱指導に関する先行研究 を参照した上(注5)、実際の幼稚園における歌唱 指導について、現場の教諭たちからの聞き取り結果 を基に考察し、さらに大学の担当授業における新た な取りくみについて検討する。
II 幼稚園で歌われる童謡・唱歌について(注 6)
実際に幼稚園や保育園等で用いられている童謡曲 集を中心に(注7)、とくにこどもたちが歌いやす いもの、親しみやすいものを取り出したうえ、今年 度、『幼稚園本実習』に行った学生たちの感想等も 参考にして、おもに次年度以降の『幼稚園本実習』
に向けて学生たちが事前に練習しておいた方がよい と思われる曲目を六項目に分けて挙げてみる(注 8)。
これらの曲目の中でもとくに注目すべき項目は
(1)『毎日の歌・生活の歌』であり、つぎに(2)
『季節の歌・四季の歌』であるが、これは実習時期 に合わせて、夏に行くのであれば「夏の歌」、秋に 行くのであれば「秋の歌」を集中的に練習するとよ いだろう(注9)。さらに(4)『アニメソング』や
(5)『こどもの好きな歌』も重要で、中でもその年 に流行している曲はあらかじめ練習してから行く方 が得策と思われる(注10)。
(1) 毎日の歌・生活の歌
登園時: あさのうた、おはようのうた、ごあい さつ、よいこのあいさつ 等
昼食時: おててを洗いましょう、おなかのへる 歌、お弁当の歌、はをみがきましょう 等
昼食後: おひるね、おひるねしましょう、ふし ぎなポケット 等(注11)
降園時: おかえりのうた、おかたづけ、さよな らのうた、バスごっこ 等
*幼稚園では登園時によく歌われる<おはようの 歌>に始まり、閉園時によく歌われる<さよならの 歌>まで、おそらく童謡を歌わない一日はないと 言ってもよいだろう。とくに一日の中で欠かせない 童謡が『毎日の歌』あるいは『生活の歌』と呼ばれ ている一連の歌である。一般的に幼稚園と比べる と、童謡や唱歌を歌う機会はそれほど多くないと思 われている保育園においても、これらの歌を歌って
いるところは少なくないだろう(注12)。
(2) 季節の歌・四季の歌
春: さくらさくら、チューリップ、ちょうちょ う、はるがきた、はるのおがわ 等
夏: アイスクリームのうた、おばけなんてない さ、きらきら星、しゃぼん玉、水あそび 等
(梅雨時)アメフリ、かたつむり、てるてるぼう ず、にじ、にじのむこうに 等
秋: 赤とんぼ、きくのはな、きのこ、こおろぎ、
こぎつね、どんぐりころころ、とんぼのめがね、ま つぼっくり、まっかなあき、むしのこえ、もみじ 等(注13)
冬: 北風小僧の寒太郎、コンコンクシャンの歌、
たきび、冬景色、雪、雪の小坊主 等
*幼稚園は園庭が広く、自然、すなわち樹木や草花 や昆虫等が豊富で、たとえば春は桜や桃、夏は朝顔 や紫陽花、秋は彼岸花や菊、冬は山茶花や椿が咲く というように、四季を実際に感じられるところが理 想的である。しかしそうでなければ、近隣の公園等 に園児たちを連れて行って、少しでも四季の風物を こどもたちに実感させるとよいだろう(注14)。
(3) 行事の歌・つどいの歌
入園式: あなたのおなまえは、きょうからおと もだち、せんせいとおともだち
八十八夜+ : 茶つみ 端午の節句: こいのぼり+ 母の日: おかあさん+ 父の日: おとうさんのうた 七夕: たなばたさま
海の日: うみ、海+、われは海の子
月見: じゅうごや
体育の日: うんどうかい、はしるのだいすき 収穫祭: いもほり、いもほりのうた、やきいも グーチーパー
ハロウィン: おばけのカボチャ
クリスマス:あかはなのトナカイ、あわてんぼ うのサンタクロース、きよしこのよる、サンタがま ちにやってくる、サンタクロースがやってくる、ジ ングルベル
正月: おしょうがつ、もちつき
節分: まめまき+(注15)、鬼のパンツ
桃の節句: うれしいひなまつり
卒園式: ありがとう・さようなら 一年生になっ たら、思い出のアルバム、さよならぼくたちの幼稚 園(保育園)、たいせつなたからもの、みんなとも だち 等
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*『行事の歌』については運動や造形等、他領域と 関連付けて歌を歌ってもよい(注16)。
(4) アニメソングなど
ジブリ: いつも何度でも、崖の上のポニョ、君 をのせて、さんぽ、となりのトトロ 等
ディズニー: 小さな世界(注17)、ハイホー、ビ ビディバビディブー、ほしにねがいを、ミッキーマ ウスマーチ、ゆきだるまつくろう、レットイット ゴー 等
テレビ: アンパンマンのマーチ、アンパンマン 体操、ウルトラマンのうた、サザエさん、鉄腕アト ム、ドラえもんのうた、勇気りんりん、夢をかなえ てドラえもん 等
*アニメーションソングについては、実習園等にお いて、実際にシリアスな質問や希望を出す園児がい ないこともないが、その一方で園児たちがフォロー してくれることもあるという。尚、マーチや体操の 歌等は運動会や体育祭等でも使われる曲である。
(5) こどもの好きな歌(人気のある歌)(注 18)
動作を伴う歌: あくしゅでこんにちは、大きな くりの木の下で、じゃんけん列車、手をたたきま しょう、パンダうさぎコアラ(注19)、むすんでひ らいて、ロンドン橋 等
動物の歌(人間も含む): アイアイ、あめふりく まのこ、いぬのおまわりさん、かえるのがっしょ う、ことりのうた、世界中のこどもたちが、ぞうさ ん、にんげんていいな、ねこふんじゃった、めだか の学校、もりのくまさん、やぎさんゆうびん、山の 音楽家 等
ストーリー性のある歌: 大きな古時計、おもちゃ のチャチャチャ、そうだったらいいのにな、とん でったバナナ、南の島のハメハメハ大王 等
流行ソング: 団子三兄弟(1999)、世界に一つだ けの花(2003)、ゲラゲラポーの歌(2014)、エビ カニクス(2016) 等
*<団子三兄弟>は前世紀末に流行した曲である が、現在の大学生たちもその流行を知っているので、
ここにあげておいた。<世界に一つだけの花>は世 界的に広まった曲である。<ゲラゲラポーの歌>と
<エビカニクス>はダンスと共に人気を集めた(注 20)。
(6) 英語の歌(注 21)
Do-Re-Mi, Edelweiss, Happy Birthday To You, Puff The Magic Dragon, Ten Little Indians, The A-B-C Song, We Wish You A Merry Christmas, etc.
*第二次世界大戦終了後、70年を経て日本ではよ
うやく小学校から英語の授業が始まることになった が、当然それより前、低年齢から英語に親しむこと が必要であると思われる。
III 幼稚園における歌唱指導に関する問題につ いて
幼稚園に就職する予定の4年次の学生たちがしば しば心配事としてあげる「歌唱指導」について、今 回は複数の先行研究で示されている二つの問題点を 採り上げる。
(1) 新しい歌をこどもたちに教える場合の対応に ついて
〇問題提起: 先行研究より
「新しい歌を教える場合、子どもたちに速くうた えるようになってもらいたいという気持ちから、ど うしても教え込んでしまいがちとなります。(中略)
どのようにすれば子どもたちが新しい歌に関心をも つようになるのでしょうか」(石田、2009、p. 67)。
「幼児は、保育者の楽しそうな歌唱を模唱するこ とによって歌えるようになる。そのために、保育者 は、まず模範唱によって歌全体のイメージを描か せ、時には必要に応じて把握させやすくするため に、部分唱によって援助することも効果的である」
(斉藤、1997、p. 78)。
〇対処方法: 先行研究より
「初めての歌は、保育者範唱や歌詞模唱による指 導が必要である。美しい口の動かし方や声の出し方 は、保育者の正確な表情によって伝える」(高橋、
1997、p. 69)。
「何事も学ぶことの第一歩は、真似をするところ から入る、とよくいわれる。幼児の歌唱も周囲の歌 声を聞いて模倣するところから出発する。したがっ て、当然のことながら保育者の歌は常に、自然で、
正しく、音楽的にうたわれることがのぞまれる」
(木村・相澤、1996、p. 9)。
(2) 一斉に歌わせている時に「どなる・さけぶ」
こどもへの対応について
〇問題提起: 先行研究より
「集団で歌唱指導を行なった場合、(中略)どなっ て歌ったり、叫んだり、歌詞だけを唱えるように 黙ってしまうなど様々な反応が見られる。(中略)
『大きな声で歌いましょう。』『元気よく歌いましょ う。』などと(注22)指示することばがけは、どな り声や叫び声をさそう原因になると思われる」(畑 中、1992、p. 92)。
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「たとえ表現方法が『どなる』という形であって も、これは子どもなりの主体的な表現であるといえ ます。しかし、保育者はこのままその状態を放任し ておいてもよいのでしょうか」(石井、2009、p. 59)。
〇対処方法: 先行研究より
「保育者の歌声は美しくて魅力的なものでなけれ ばいけません。保育者は、歌が上達するように常に 努力をして、表現力を身につけ、子どもたちにすば らしい歌声を聞かせる必要があります」(石井、
2009、p. 59)。
「音楽的にみても、聴き手の立場としても、どな らないほうがよい。だからどならないように指導す る」(志民・今川、2016、p. 20)(注23)。
◎(1)と(2)の先行研究について
上記の先行研究において、(1)についての対処法 を要約すると「保育者がよい手本を示すことであ り、保育者の歌は常に自然で正しく音楽的に歌われ ることが望まれる」であり、(2)についての対処法 を要約すると「保育者の歌声は美しくて魅力的なも のでなければならない。子どもたちに素晴らしい歌 声を聞かせる必要がある」という。これでは結局、
「新しい歌を教える場合」と「どなる・さけぶ」こ どもへの対処法とでは、あまり差がないのではない だろうか。そこで上記の二点について、現場の幼稚 園教諭等に質問してみると、もっとも効果的な方法 として、以下のような回答があった(注24)。
(1) 新しい歌をこどもたちに教える場合の対応 について
〇幼稚園教諭の回答(要約)
「新しい歌を教える時には、まずその歌のタイトル や歌詞に出て来る物の実体をこどもたちに示すよう にします。たとえば<どんぐりころころ>の歌であ れば、団栗が取れる頃に団栗を、<まつぼっくり>
の歌であれば松ぼっくりが落ちた頃に松ぼっくりを 実際に教諭が拾って来て、あるいはこどもたちと一 緒に拾いに行って実物を見せた上、じかに触れさせ て体感させ、それから歌を歌うことにとりかかりま す。このようにすると、こどもたちはその歌に心の 底から興味を持って、すんなり新しい歌に入ってゆ くことが出来るのです」
(2) 一斉に歌わせている時に「どなる・さけぶ」
こどもへの対応について
〇幼稚園教諭の回答(要約)
「皆で一斉に歌を歌っている際に、叫んだり、ど なったりしているこどもがいた時には、皆が歌い終 わってから、そのこどもにだけ何となく、この歌好
き? 先生と一緒に歌ってみる? などと初めは遠 まわしに、しかも柔らかく声を掛けてピアノの前に 連れて来て、メロディーだけ弾いて、そのこどもと 一緒に歌うようにします。このように毎日少しずつ でも個人的に教えてゆくと、そのこどもは徐々に叫 んだり、どなったりしなくなります。さらに私たち は、そのこどもが小学校に入ってから、困らないよ うにしておきたいのです」
◎(1)と(2)の幼稚園教諭の回答について 今回、新しい歌を教える方法として教諭があげた ものは「新しい歌のタイトルや歌詞に出て来る事象 や物体の実物を園児たちに示す」という方法であっ た。またもし実物が手に入らなければ「写真を拡大 して見せる」「大きく絵に描いて見せる」のように、
まず教諭が目から情報を与えて、歌に登場する事物 のイメージを園児たちにつかませて、それから音に 入ってゆくという方法であった。一方、「叫ぶ・ど なる」園児がいた場合には、その園児だけと、毎日 少しずつ教諭が一緒に歌いながら教えるという方法 であった。この方法に関しては、その園児の小学校 入学後の状況も見通して、行なわれているというこ とが分かった。
さらに歌うことに対しては積極的なこども(歌や 楽器に対して教諭に質問するなど)と消極的なこど も(皆で歌っている時に歌わないなど)がいるが、
そもそも保育者は園児たちに対して公平に接しなく てはならないため、消極的なこどもに対しては、教 諭が声を掛けるなどして、歌や歌うことに関心を持 たせるようにするということであった。
幼稚園における歌唱指導への導入として、「興味 づけ、動機づけ」(注25)や保育内容全体における 表現活動の「関連性」(注26)等については、これ までにたびたび指摘されていたが(注27)、とくに 視覚的、触覚的な指導が効果的であるということ と、「どなる・さけぶ」こどもについても「否定は しない」(注28)、「言葉がけがポイントになる」等 とこれまでに言われていたが(注29)、これには
「個別指導」が効果的であるということが、今回、
現場の幼稚園教諭等からの聞き取りによって、あら ためて理解することができた。
IV 考察
(1) 幼稚園実習に際して
幼稚園本実習に備えて、学生が『生活の歌』や
『季節の歌』を中心に練習して行っても、「ピアノを
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弾いたり、歌を歌ったりする機会は一回もなかっ た」という実習園もまれにある一方、「一日の内に 何回もピアノを弾いたり、歌を歌ったりする機会が あった」というところもある。「外遊び」を重視し ている幼稚園では、当然ピアノを弾く機会は少ない し、「お歌やお遊戯」に重きを置いているところで は、ピアノを弾く機会が多くなることは言うまでも ないことである。しかしこれまでに学生たちから本 実習直前に見せられた楽譜の数からはかると、キリ スト教と仏教系の幼稚園では他の園よりピアノを弾 く機会が多いと言えるだろう。たしかにキリスト教 や仏教系の幼稚園では毎朝のように礼拝を行なうの で、その幼稚園独自の「お祈りの曲」や「感謝の 歌」等が数曲あることがあり、実習生はオリエン テーション時に楽譜を受け取って、実習が始まるま での短い間に練習しなければならなくなる。また宗 教はとくになくても、その幼稚園に固有の「園歌」
があるところでは、ほとんど毎日この「園歌」を歌 うため、学生はオリエンテーション時に楽譜を入手 してから、よく練習しておく必要がある。さらに小 中高大と一貫しているような付属幼稚園の場合に は、小学校との合同音楽会等が開かれることもある ため、小学校唱歌(とくに小学校共通歌唱教材)も 練習しておいた方がよいだろう。いずれにせよ読譜 能力、初見能力、弾き出したら最後まで止まらない 心構え等、常日頃から心がけたり、鍛えたりしてお くことが必要であることは言うまでもない。
実習生が実習校においてピアノをうまく弾いて歌 を上手に歌えることはもちろん良いことであるが、
何よりもまず実習生が真摯で一生懸命な姿勢でいる ことが大切なのではないだろうか。ピアノや歌はそ れ程うまくなくても、実習生が音楽を通してこども たちと少しでも信頼関係を築くことが出来るなら ば、それは何よりも素晴らしいことであると思われ る。さらに本実習を終えてから、学生間で個々の実 習の様子について話し合ったり、振り返ったりする 場を設けることは、音楽に関してのみならず、様々 な幼稚園における教育方針や指導法の違い等を知る ことになり、学生たちが就職を考える上でも役に立 つだろう。
(2) 就職後の幼稚園において
上記の結果から、学生が幼稚園に就職した後、園 児に対する音楽の個別指導が必要になる時が来るも のと予想されるが、その時は自信をもって教えてほ しいものである。そのためには音楽の基礎的な理 論、ピアノ奏法、歌唱法等をマスターすることがま
ず求められるが、それに加えて、常に広い視野のも とに想像力や発想力を存分に働かせて指導すること が望まれる。今回、本論の筆者が実感したことは、
幼児を対象に音楽を指導する際に、指導者は視野を 狭めず、広い視点に立って導くことが大切であると いうことであった。殊にこどもに対しては一点を指 摘せず、回りから徐々に核心に触れてゆくことや、
時には気の利いたアイディアや創造力が必要になる ものと思われる。さらに現場で何かに行き詰まった 時に他領域(運動・言葉・造形等)の方に目を向け てみると、その中に解決の糸口が見出せるのではな いだろうか。
まとめ(結論・展望)
(1) 結論
幼稚園の歌唱指導に当たって、音楽担当の教諭に 必要な力量についてはピアノをはじめ、キーボード 等の楽器が弾きこなせること、音程・リズム等を正 確にとって歌が歌えること、こどもたちと一緒に楽 しく歌えることは当然のことながら、今回、実際の 幼稚園教諭から現場の声を聞いた結果、まず園児た ちに新しい歌を教える際には、聴覚だけに頼らず、
視覚的、触覚的な要素を盛り込んで指導することが 効果的であるということが分かった。
さらに周囲についてゆけず、叫んだりどなったり する園児の声や表情をよく聴き分けて、あるいは見 分けて個別対応を行なうことが指導上、効果的であ るということも理解できた。一般的に学校では集団 行動が重要視されているが、幼稚園の歌唱指導に関 しては、全体指導はもとより個別指導が大切である ということがよく分かった。
(2) 展望
1) 大学の授業における新たな取りくみについて 上記のことから、幼稚園における歌唱指導におい て、園児に対する個別指導の必要性が浮上した。と いうことは大学の音楽関係の授業においても、将来 的に幼稚園教諭を目指している受講生に対して個別 指導は必要なことと思われる。
本論の筆者はこれまでに本校で『児童音楽I・II』
と『音楽表現I・II』ではグループを組ませたうえ で、『児童学ワークショップ』や『児童学専門演習 I・II』においても、弾き歌いを含むピアノの基礎的 な奏法についての個別指導を行なって来た。
今後、受講生たちに対してピアノ奏法や弾き歌い の指導を行なう際には、その受講生が将来的に担う
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であろう園児に対する個別対応について考えさせな がら、授業を実施する予定である。大学での音楽の 授業が学生たちの目前の幼稚園・保育園実習のみな らず、卒業後の教育関係の職場においても反映され るような授業になることを目指したい。
2) 今後の具体的な授業計画について
今回、本論を執筆するに当たり、これまでの幼稚 園や保育園における聞き取りや教育実習を体験した 学生たちの感想等を聞いた結果、これまで以上に授 業内で『毎日の歌・生活の歌』を採り上げた上、学 生たちの本実習の期間が決まったら、その「季節の 歌」の指導を集中的に行なう(注30)。さらに講義 の中に「幼稚園における歌唱指導に関する問題点」
を組み込み、意見を出し合って討論させ、時間が不 足するような場合にはミニ・レポートを書かせる。
また「動きを伴う歌」も授業内で少しずつ採り上げ ているが、これに関しては、他の教員の授業でも行 なう可能性のある運動遊びや手遊びより、音楽に ウェイトを置くリズム遊びやダンスの方を中心に行 なうつもりである(注31)。本来、数多くの曲目を 弾きこなしてゆくと「このメロディーの伴奏に対し ては、どの和音を付けたらよいか」ということは自 然に判断できるようになるはずであるが、限られた 音楽の授業時間と最近の学生の多様化に伴い、効率 的な「コード伴奏」の指導も取り入れる予定である
(注32)。
注
1)本稿の筆者はこれまでにも実習前に学生からの 依頼によってピアノ等の指導を行なっていたが 今年度は後期授業『幼稚園実習特講』の一環と して本実習直前に指導を行なった。
2) 東京郊外のA幼稚園において「幼稚園における
音楽指導」に関する共同研究を行なっているが、
この研究はこれからも続ける予定である。
3) 斎 藤 恵「 音 楽 的 な 環 境 の 構 成: 表10-2、 表
10-3」、石井玲子: 編著『実践しながら学ぶ子ど
もの音楽表現』保育出版社、2009年、pp. 139- 140参照。
4) 本稿の「参考資料一覧・楽譜」参照。
5) 先行研究:
石井玲子・石田久大・水上和子「うたうことを 中心とした表現活動②─子どもの歌唱─、石井 玲子: 編著『実践しながら学ぶ子どもの音楽表 現』保育出版社、2009年、pp. 58-59、65-67参 照。
鍛冶礼子 他 「幼児への歌唱指導についての一
考察 ─自分から歌う時の声域─」、『千葉大学 教 育 学 部 研 究 紀 要 』 第54巻、2006年、
pp. 63-68参照。
畑中雅英「幼児の歌唱指導に関する一考察」、
『和歌山信愛女子短期大学紀要』第32巻、1992- 03、pp. 89-93参照。
水崎誠「幼児の歌唱行動研究の動向 ─音高の 正確さに着目して─」、『音楽教育学』第44巻第 1号、日本音楽教育学会、2014年、pp. 26-32参 照。
6) 唱歌の中には小学校歌唱共通教材の唱歌も含ま れる。
7) 幼稚園・保育園等でしばしば用いられている楽 譜。
小林美実: 編『こどものうた200』保育実用書 シリーズ、チャイルド本社、1975年。
小林美実: 監修『こどものうた100』保育実用 書シリーズ、チャイルド本社、1982年。
坂東貴余子: 編著『簡易伴奏によるこどもの歌 ベストテン〈改訂版〉』ドレミ楽譜出版社、2001 年。
澤崎真彦 他: 執筆『新・音楽の授業づくり』
教育芸術社、2009年、「資料編」参照。
8) 下記曲目の作詞・作曲・編曲者等については本 稿の「参考資料一覧・楽譜」にあげた楽譜に記 されている作詞・作曲・編曲者等を参照。尚、
今回は長調の曲を中心に選んだ。
9) 幼稚園の採用試験を秋に実施するところでは
「秋の歌」、冬に実施するところでは「冬の歌」
を試験曲にしているところがしばしば見られる。
10) 実習に行った学生に対して、園児が「この曲を 弾いて」とリクエストすることがある。
11) <おひるね>や<おひるねしましょう>はお昼 寝をする園、<ふしぎなポケット>はおやつを 出す園、<バスごっこ>は通園バスを出してい る幼稚園で歌われることがある。
12) たとえば東京都内のB保育園(1〜3歳児クラス)
では『毎日の歌・生活の歌』は必ずと言ってよ い程、その他に『季節の歌』(月替わり)、「流行 ソング」も毎日歌っている。
13) <赤とんぼ>と<とんぼのめがね>は「夏の歌」
に分類されることもあるし、<こぎつね>は第 2番の歌詞から、「冬の歌」に分類される可能性 もある。今回これらの曲は「動物の歌」には入 れず、「秋の歌」に入れた。
14) 寺田清美・瀧川光治「子どもの発達と自然環境」、
横山文樹: 編著『保育内容・環境』保育・教育 ネオシリーズ18、同文書院、2006年、pp. 48-57 参照。
15)「八十八夜」は立春から数えて88日目で、5月1 日、2日頃を指す。<こいのぼり><おかあさ
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ん><海><まめまき>等は同じタイトルの曲 が複数存在するが、ここでとりあげた曲は<海>
(文部省唱歌)、<こいのぼり>(作詞: 近藤宮 子・作曲: 不詳)、<おかあさん>(作詞:田中 ナナ・作曲: 中田喜直、<まめまき>(絵本唱 歌)である。
16)「子どもの文化とあそびは、切り離して考えるこ とはできません。また、日本がすばらしい四季 に富んでいることを、年中行事や記念日を通し て、子どもが見たり感じたりする経験は、日本 の文化を伝えていくという意味でも、とても大 切なことだと考えます」(高橋、2014、p. 33)と 言われている。
飯塚朝子・高橋司「保育所・幼稚園の一年」、松 本峰雄: 編著『保育における子ども文化』わか ば社、2014年、pp. 33-58参照。
17)<小さな世界>はディズニーソングの一曲であ るが、本来はアニメソングではなく、ディズ ニーパーク内のアトラクション・テーマソング である。
18)おもに以下の楽譜の目次を参考にしたが、『こど もの好きな歌』(人気のある歌)については、繰 り返し同じフレーズが出て来るもの、歌詞にオ ノマトペが用いられているものについても、こ の項目に入れられていることがある。
坂東貴余子: 編著『簡易伴奏によるこどもの歌 ベストテン〈改訂版〉』ドレミ楽譜出版社、2001 年、pp. 6-9参照。
鈴木恵津子・富田英也: 編著『改訂: ポケット いっぱいのうた。実践 子どものうた 簡単に 弾ける144選』教育芸術社、2011年、pp. 6-7参 照。
19)<パンダうさぎコアラ>は「児童学ワークショッ プ発表会」(2016年10月)に参加した千代田区 内の園児からアンコールされた曲である。
20)都内のB保育園を夕方に訪れると、園児たちが 楽しそうに全員で<エビカニクス>を歌いなが ら踊っていた(2016年11月)。
21)園児たちが歌うことを考えて、歌詞が比較的に 簡単なものを選んだ。
22)原文では「などど」となっている。
23)以上、先行研究の引用文献については、本稿の
「引用文献一覧」参照。
24)主として東京郊外のA幼稚園教諭等からの聞き 取りによる。
25)吉良武志「お話と音楽」、桶谷弘美 他: 著『[音 楽表現]の理論と実際』音楽之友社、1997年、
p. 32参照。
26)河本洋一「他の領域との関係」、谷田貝公昭: 監 修『音楽表現』一藝社、2014年、p. 9参照。
27)小林満 他: 編著『保育学生・保育者のための
子どもの音楽』教育芸術社、2006年p. 16参照。
28)「①即座の否定はしない、②きれいにうたう表現 の楽しさを共有することが大切です」(石田、
2009、p. 66)。
29)「幼児の歌声がしょんぼりしている時、あるいは 大変ながなり声で歌っている時には、保育者の 言 葉 が け が ポ イ ン ト に な る 」( 木 村・ 相 澤、
1996、p. 9)。
30) 幼稚園の都合等によって実習時期がやや異なる ことがある。
31) 同学年対象の他教員による関連科目では内容が 重複しないで相互に連携しているか、異なる学 年の関連科目とも一貫性があるか、即ち授業間 における横と縦の繋がりが必要であると思われ る。
32) 本稿は2014年以降の本大学家政学部児童学科研 究調査の成果の一つである。
引用文献一覧
飯塚朝子・高橋司「保育所・幼稚園の一年」、松本峰 雄: 編著『保育における子ども文化』わかば社、
2014年、p. 33。
石井玲子・石田久大・水上和子「うたうことを中心と した表現活動②─子どもの歌唱─」、石井玲子: 編著『実践しながら学ぶ子どもの音楽表現』保 育出版社、2009年、pp. 58-59、66-67。
大南匠「『音楽表現』の立場から」、小林満 他: 編著
『保育学生・保育者のための子どもの音楽』教育 芸術社、2006年、p. 16。
河本洋一「他の領域との関係」、谷田貝公昭: 監修
『音楽表現』一藝社、2014年、p. 98。
木村博子・相澤保正「歌おう」、吉野幸男『あたらし い音楽表現。幼児音楽教育の基礎』音楽之友社、
1996年、p. 9。
斉藤正義「子どもの音遊び」、桶谷弘美 他: 著『[音 楽表現]の理論と実際』音楽之友社、1997年、
p. 78。
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CD
『 う た い つ が れ る 童 謡100』COLUMBIA、COCX-
35864→67
『たのしい英語のうた ベスト・コレクション』Vic- tor、VICG-41253〜54
『どうぶつのうた ベスト』Victor、VICG-41291〜92
『 幼 稚 園・ 保 育 園 き せ つ の う た・ う た あ そ び 』 CROWN、CRCD-2463/64
『ゲラゲラポーのうた キングクリームソーダ(DVD 付)』Avex、AVCD 55070/B
『 ケ ロ ポ ン ズBEST(DVD付 )』UNIVERSAL、
UMCK-1544