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自己生成語の偶発記憶に及ぼす意味的限定の効果

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

自己生成語の偶発記憶に及ぼす意味的限定の効果

著者 豊田 弘司

雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学

巻 40

号 1

ページ 181‑187

発行年 1991‑11‑25

その他のタイトル Effects of Semantic Constraints on Incidental Memory of Self‑Generated Words

URL http://hdl.handle.net/10105/1798

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奈良教育大学紀要 第40巻第1号(人文・社会)平成3年 Ml. Nara Univ. Educ. Vol. 40. No. 1 (Cult. & Soc.),1991

自己生成語の偶発記憶に及ぼす意味的限定の効果

豊 川 」'. ‑J (奈良教育大学心理学教室)

(平成3年4月4日受理)

Craik & Lockhart (1972)は、記銘語に対する深い処理(意味処理)をすればするほど、偶発 学習の成績が良くなるという処理水準説を提唱した。従来から、丸暗記した場合よりも、しっか

り理解した場合の方が忘れにくいと言われ、教授場面でも理解を重視してきたことからしても、

上記の説は、経験的に理解できることといえよう。しかし、適合性の効果(Schulman、 1974;

Goldman & Pellegrino、 1977)に代表されるように、同じ意味処理をした場合にも記憶成績の差 が生じるという実験の結果が兄いだされてきた。このことから、処理の水準を補う精微化(Craik

& Tulving、 1975)という概念が登場したのである(豊田、 1984; 1987)。

Jacoby &Craik (1979)によれば、精微化は、記憶痕跡に情報を付加することであるとされて いるが、その精微化の有効性は、呈示される文脈によって異なり、それが記憶成績に反映すると 考えられる(北尾、 1982;豊田、 1984)。それ故、教授場面でどのような文脈を里示すれば良い

のかという問題に関する理論的な枠組みが得られるといえる。

例えば、 Craik & Tulving (1975)は、記銘語が枠組み文に適合するか否かの判断を求めた後 の偶発記憶量を調べた。その結果、枠組み文の長い方が、短い場合よりもその記憶量は多かった のである。これは、付加させる情報が多いほど、精微化の有効性が増すことを意味するもので、

教授場面において、教師が学習すべき概念について多様な説明をすることの大切さがうかがえる。

また、豊田(1984 は、記銘語に対する意味的限走性の強い枠組み文によって記銘語を里示され た場合の方が、限走性の弱い文の場合よりも、記銘語の偶発記憶量の多いことを示している。こ れは、単に多様な説明を与えるだけでなく、その説明の内容すなわち学習者に呈示する情報を吟 味することの大切さを示唆しているのである。

上述したように、従来の精微化研究は、教授場面に対する理論的な示唆に富むものであるが、

残念なことに、学習者が自発的な活動の中で学習した概念については、理論的な示唆の得られる 研究がほとんどない。ただし、そのような状況の中で、 Roenker, Wenger, Thompson, & Watkins (1978)は、自発的な活動を伴う学習場面に対する示唆を与えてくれる数少ない研究の一つである。

彼らの研究では、枠組み文が呈示された際に、その文中の空欄に適合する語もしくは適合しない 語を被験者自身に生成させ、その後、被験者自身の生成した語の再生を求めた。その結果、適合 しない語の再生率の方が、適合する語のそれよりも高かったのである。この結果は、枠組み文に 適合する語の再生率が、適合しない語のそれよりも高いという適合性の効果とは、全く逆の結果 である。それ故、学習者自身の活動を伴う場面においては、その活動の伴わない場面とは異なる 精微化の行われている可能性が示唆されたといえよう。

Craik&Tulving (1975)は、適合性の効果について、次のように述べている。すなわち、適 合文の場合には記銘語は枠組み文のもつ文脈にうまく当てはまることにより被験者のもつ知識 (認知)構造へうまく統合される。一方、不適合文の場合には統合されない。統合された場合に は被験者の知識構造に関連づけた豊富な符号化すなわち精般化がなされることになるというので

181

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182 豊 EE]弘 司

ある。この考えからすれば、 Roenkeretal, (1978 の研究では、むしろ、不適合文での精微化が より効果的であるとみることができよう。しかし、不適合文において知識構造に関連づけた符号 化が生じると考えるのは、無理がある。すなわち、記憶成績の上昇に結びついた別の要因が不適 合文に働いていると考えた方がよいであろう。適合しない語を生成する場合、被験者は適合する 語を生成する場合よりも一般的な常識とは離れた奇異な語の生成を要求されることになる。その ために、差異的(distinctive)な符号化が生じると考えられる。 Jacoby&Craik (1979)は、こ の差異的な情報の重要性を強調したが、一般に差異的な符号化がなされていることは、検索にお いて有効に作用するといわれている。したがって、 Roenkeretal. (1978)の研究において適合し ない語の正再生率が高かったのは、この差異的な符号化によるものと考えられよう。

適合文においては、不適合文においてよりも差異的な符号化が生じにくいとするならば、適合 文の中でも記銘語に対する意味的限定性が強くなればなるほど差異的な符号化は生じにくくなる

と考えられる。意味的限定性が強い文に当てはまる語は、いわゆる常識的な語であり、弱い文に 当てはまる語は、個人の知識構造を反映した差異的な語であると考えられる。豊田(1984 では、

意味的限定性の強い文を枠組み文にした場合の方が、弱い文の場合よりも偶発記憶成績が良いと いう意味的適合性の効果を兄いだした。しかし、記銘語を被験者に生成させる場合では、上述し た差異的符号化の違いから意味的限定性の効果が逆転すると予想されよう。この予想を実験仮説 とし、この仮説を検討するのが本研究の目的である。すなわち、被験者自身が記銘語を生成する 際には、実験者によって記銘語が呈示される場合と比較して、意味的限定性の効果に違いが見ら れるか否かを調べようとしたのである。

方  法

実験計画 枠組み文の型を被験者内要因とする1要因の要因計画であり、意味的限走性の強い 文および弱い文を含んでいた。

被験者 専門学校の学生58名(男子6名、女子52名)が実験に参加した。これらの学生の平均 年齢は、 18歳8か月(18歳0か月〜20歳0か月)であった。

材料 被験者が呈示される枠組み文の空欄に自分で生成した語を記入するという方向づけ課題 (適合語生成課題)を行うのであるが、そのための枠組み文が作成された。これらの文は、先の

Table 1本研究で用いられた限定文と非限定文の例

予 想 さ れ る

t‑ bS.請 限 定 文 非 限 定 文

た ば こ お と う さ ん す い ま す 0 み せ う つ て い ま す 。

と け い は り う ご い て い る 0 は し ら か か っ て い る 0

か み な り ゆ う だ ち な っ て い る 0 ね え さ ん き ら い で す 。

さ '.> .い ご み ば こ な か と て も と も だ ち ヘ ヤ と て も

な が い き り ん く び も の で す 0 こ の く き り と て も

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自己生成語の偶発記憶に及ぼす意味的限定の効果 183

研究(豊田、 1984)を参考にして、意味的限定性の強い文を10文及び弱い文20文を作成した。前 者の文は、被験者の生成する語がかなり限定できる文であり、後者の文は、あまり限定できない 文である。これらの両文型の例は、 Tablelに示してある。これら30の文は、 B6判の大きさの 用紙に1文ずつ印刷され、小冊子にされた。この小冊子は、上述した両文型の配列によって2種 類つくられた。どちらの小冊子も、意味的限定性の強い文が続かないという制限以外は、その配 列はランダムにされ、最初と最後にバッファー文を印刷した用紙が付け加えられ、さらに表紙を 付けた32ページの小冊子にされた。

自由再生テストで用いられた用紙は、 B6判で、上部に氏名を記入する欄が設けてあり、その 下に再生した語を筆答できるようになっていた。また、方向づけ課題と自由再生テストの間に挿 入課題を行うが、そのための用紙も用意された。この用紙は、 B6判の大きさで、有意味な文字 列及び無意味な文字列が縦方向に印刷されているものであった。

手続 実験は、偶発学習の手続きを用いて、被験者の所属する学校の一室で集団的に実施され た。 1)方向づけ課題 まず、黒板に空欄のある文の例を示し、文中の空欄に適合する語を記入 するように指示した。被験者が十分に理解したことを確認して、上述した方向づけ(適合語生成) 課題のための小冊子を配布し、 1ページに10秒で、実験者の合図に従って、適合する語を記入さ せた。 2 )挿入課題 方向づけ課題終了後、すぐに上述した挿入課題のための用紙が配布されたO 被験者は、印刷された、ひらがな文字列の中から、 3文字以上からなる名詞を見つけ、それを丸 で囲むように指示された。この課題は、 3分間実施された。 3)自由再生テスト 上述した自由 再生テストのための用紙が配布され、被験者自身が生成した語を書記再生させた。再生時間は、

10分であった。 4)評定課題 黒板に1から5までの数字及びその数字に対応する意味を示し、

方向づけ課題において用いた小冊子の各ページについて、生成した語が文に適合する程度及びそ の語を生成する際の困難度を5段階で評定させた。評定時間は、 1ページにつき20秒であった。

結果と考察

限定文と非限定文の比較

あらかじめ、実験者が意図した限定文について、被験者の生成した語をチェックしたところ、

実験者の意図した語が生成された割合は、平均92.3%

(範囲  ‑100%;であったoこのことから、実験者 %10㌔

が意図した限定文が確かに被験者にとって意味的限定   6 0 性を持っていたことが確認された。

この限定文で被験者が生成した語と非限定文で生成 した語の正再生率を比較した。両文型における正再生 率は、 Fig. 1に示してある。この正再生率を角変換し て、 t検定を行ったところ、非限定文で生成した語の 正再生率の方が、限定文のそれよりも高かった(t‑

2.16、 df‑57、 P <.05 c これは、記銘語が実験者よ り呈示された先の研究(豊田、 1984 と逆の結果であ る。語を被験者自身が生成する事態においては、意味 的限定性の効果はないことがわかる。 Roenkeretal

Fig.1限定文と非限定文における 闇恕urn

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184 母Iti 、 .り

(1979)においても被験者に適合する語もしくは適 合しない語を生成させる場合には、適合性の効果が 認められなかった。このように、被験者の自発的な 活動を伴う事態における精微化は、そのような活動

を伴わない事態のそれとは異なるものであるといえ よう。

被験者の評定による分析

a)適合性の評定 被験者が評定した、語が文に 適合する程度における各段階ごとに正再生率を算出 した。但し、最も適合する段階(5の段階)の評定 数が多かったので(平均20.5)、分析は、この段階 の正再生率とその他の4つの段階 1‑4 をまと

Fig.2 被験者の評定(適合性、生成困 難性)段階ごとの正再生率 めた正再生率の比較を行った。この両者の平均は、

Fig. 2の左欄に示されている。この正再生率を角変換して、t検定を行ったところ、両者の間には、

有意な差は認められなかった(t‑.i 、df‑57)cすなわち、被験者が評定した適合性の程度によっ て正再生率の違いは認められなかったのである。

b)生成困難度の評定 被験者が評定した、語を生成する際の困難度の段階ごとに正再生率を 算出した。但し、最も容易であるとする段階(1の段階)の評定数が多かったので(平均18.7)、

分析はこの段階の正再生率とその他の4つの段階 2‑5 をまとめた正再生率の比較を行った。

この両者の平均は、 Fig.2の右欄に示されている。この正再生率を角変換して、 t検定を行った ところ、最も容易に生成したと評定された段階の語の正再生率がその他の段階に評定された語の それよりも高かった(t‑2.36、が‑57、 P<.05 。

実験者によって記銘語が呈示される事態においては、方向づけ課題で要求される判断が難しい 語の正再生率が容易な語のそれよりも高いことが示されている(jacoby, Craik, & Begg, 1979;

Ellis,Thomas, & Rodriguez, 1984)。これは、決定困難性の効果として知られており、北尾・金子 (1981)によれば、次のような解釈がなされている。すなわち、決定困難な処理を求められると、

記銘語に関連するあらゆる知識が総動員され、その中から決定に役立つ手がかりが探索される。

そして、その結果、決定容易な処理に比べ、記銘語により多くの情報(手がかり)が付加され、

そのような情報の付加(精微化)によって決定困難性の効果が生じるというのである。

しかし、本研究の結果は、その効果を兄いださなかったのである。これは、以下のように考え ることができる。すなわち、語を生成する事態においては、その語を生成するためにその被験者 の持つ知識が総動員され、その生成された語に対する豊かな符号化(精練化)がなされる。した がって、語を生成する際の困難度に関わりなく、知識に基づいた精微化が行われていると考えら れる。このような事態において、文のもつ文脈に適合する語を生成するのが困難である場合は、

その語と文脈の統合に関する知識が不足しており、そのために、文脈に適合する語が生成しにく い状態であるといえる。一方、語の生成が容易な場合は、その語と文脈に関する知識が豊富であ ると考えられる。知識の量が増せば増すほど、それに基づく精微化の程度も増すのであるから、

容易な場合の方が、その生成された語に関する知識量は多く、それに伴う精微化の程度も大きい といえる。このように、生成容易な語と困難な語の知識量の差が精微化の程度に反映し、それが 記憶成績の差に現れたと考えられる。

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自己生成語の偶発記憶に及ぼす意味的限定の効果 185

なお、本研究においては、評定課題を自由再生の後で行ったために、その影響もあると考えら れる。この点については、今後、自由再生の前の方向づけ課題中に評定させるような手続きを用 いて検討する必要があろう。

従来の精線化研究では、実験者が記銘語を里示し、その語に対して方向づけ課題によって何ら かの処理をさせるというものが多かった。これらの研究は、教授者の説明を理解する中で、偶発 的に学習が行われる、学校での教授場面に対する示唆を与えるものであった。しかし、実際の教 授場面においては、学習者の自発的な活動を伴う事態も存在する。このような事態では、ただ教 授者の説明を聞いている事態とは異なる学習が成立する。このことは、教授者が経験的に知って いることであるが、本研究やRoenkeretal. (1978)においてそれが例証されたといえよう。す なわち、意味的限定性の効果や適合性の効果が、自発的な反応をする場合には認められないので ある。今後、被験者が語を生成する事態の精微化研究を進めることにより、学習者の自発的な活 動を伴う教授事態への示唆が得られるであろう。

m^KSi

本研究の目的は、被験者自身が生成した語の偶発記憶に及ぼす文脈の意味的限定性の効果を検 討することであった。被験者は、専門学校の学生58名であり、呈示された枠組み文の空欄に適合 する語を記入させるという方向づけ課題(適合語生成課題)を行い、その後、偶発の自由再生テ ストを実施した。呈示させる枠組み文として2つの型の文が設けられた。一つは、被験者自身が 生成する語がかなり限定できるような意味的限定性が強いものであり(限定文)、もう一つの文は、

その限定の程度が強くないものであった(非限定文)。

限定文において生成された語の再生率と非限定文の場合のそれとを比較したところ、後者が前 者よりも高かった。この結果は、実験者によって記銘語が呈示されている場合には、限定文を枠 組み文にする場合の方が、非限定文の場合よりも再生率が高いという先の研究(豊田、 1984 と は一致しなかった。したがって、被験者自身が記銘語を生成する事態においては、意味的限定性 の効果は生じないことが明らかになった。この不一致については、被験者自身が記銘語を生成す る事態で生じる精微化と実験者が記銘語を呈示する事態で生じる精微化の違いによって考察され た。

引 用 文 献

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186 告in 蝣;.'.、司

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豊田弘司1984 子どもの精練的学習に及ぼす文脈による意味的限定性の効果 教育心理学研究 32、

134‑142.

豊田弘司1987 偶発学習に及ぼすイメージ喚起性及び意味的適合性の効果 教育心理学研究 35、

300‑308.

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Effects of Semantic Constraints on Incidental Memory of SelトGenerated Words

Hiroshi TOYOTA

(Department of Psychology, Nara University of Education, Nara 630, Japan ) (Received April 4, 1991)

The present study was carried out to investigate the effects of semantic constraints of sent‑

ence contexts on incedental memory of subjecトgenerated words. The experiment involved orient‑

ing task in incidental memory paradigms. Fifty‑eight subjects were asked to generate the target word which would fit into sentence frame followed by an unexpected free recall test. Two‑types of sentence frame were used: Constrained and Non‑constrained. Few targets words fitted into each Constrained sentence, but many ones did into each Non‑constanned one.

The main result showed that Non‑constrained sentence frames led to a better recall than Con‑

strained ones. The above result was inconsistent with the prior study (Toyota, 1984) which showed the effects of semantic constrains (Constrained > Non‑constrained) on recall of ex‑

perimenter‑provided target words. This inconsistency was discussed in terms of the difference be‑

tween the types of elaboration which occurred to subject‑generated and experimenter‑provided target words.

参照

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