奈良教育大学学術リポジトリNEAR
平編地の圧縮変形特性の理論的計算法
著者 柳川 良樹, 小椋 務, 熨斗 秀夫
雑誌名 奈良教育大学紀要. 自然科学
巻 36
号 2
ページ 55‑62
発行年 1987‑11‑25
その他のタイトル A Theoretical Calculation of Compressional Property of Plain‑Knitted Fabrics
URL http://hdl.handle.net/10105/2061
奈良教育大学紀要第36巷 第2号(自然)昭和62年
Bull. Nara Univ. Educ., Vol.36, No.2 (Nat.), 1987
平編地の圧縮変形特性の理論的計算法
柳 川 良 樹・小 椋 務*・慰 斗 秀 夫紬
(奈良教育大学家政学教室) (京都工芸繊維大学繊維学部) (昭和62年4月27日受理)
A Theoretical Calculation of Compressional Property of Plain‑Knitted Fabrics
Yoshiki Yanagawa
{Department of Home Economics, Nara University of Education, Nara 630, fa♪an) and
Tsutomu Ogura and Hideo Noshi
(Faculty of Textile Science, Kyoto University of Industrial Arts and Textile Fibers, Kyoto 606, Japan)
(Recieved April 27, 1987)
Abstract
The compressional property of plain‑knitted fabrics is theoretically calculated from its structure and yarn properties on the basis of the experimental facts reported in the previous paper.
A structural model of plain‑knitted fabric is presented to perform the calcula‑
tion. The compressional deformation is divided into two parts, that is, the deforma‑
tion of circular arc to be in a plane normal to the plane of fabric and the deforma‑
tion of yans in the crossover region, in the same manner as Kawabatas method de‑
veloped to analyze theoretically the tensile properties of knitted fabric. An equation to calculate the compressional property of circular arc is derived as an elastica prob‑
lem. Then, the compressional properties of arcs and yams are composed.
This calculation is shown to be in good agreement with experimental value for a hand‑knitted fabric with low stitch density. However, the theoretical problem for compression of yams in crossover region is left unsolved in this paper.
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* 現在.林テレンプ株式会社(Present address: Hayashi Telempu Co.Ltd., Toyota, Aichi 470‑
Oa Japan)
* * 現在.夙川学院短期大学(Present address: Syukugawa Gakuin Junior College, Nishinomiya,
Hyogo 662, Japan)
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1 緒 言
前報1)においては,各種編地の厚さ‑圧縮荷重曲線について検討を加え,編地の圧縮において みられる変形のメカニズムを明らかにした.本報では,前報の結果にもとづいて平編組織をもつ 編地の圧縮変形と圧縮荷重の関係を理論的に計算する方法を示し,曲がった糸の圧縮変形の理論 式を誘導する.ついで,この理論計算値と実測値との比較より,本計算法の妥当性や問題点につ いて検討する.
2 理 論 2.'1 編目モデル
平編地の圧縮変形特性の計算のために, 1単位構造の長さl,コース間隔yoi.ウェール間隔 3>02.糸の太さDが与えられたときの編目モデルを,川端ら2.3.4)の引張特性計算のためのモデル
を参考にして,次のように設定する.
図1に交差部分以外に糸は直線形状をとったと仮定した場合の編目構造を示す.斜線部分が単 位構造である.このとき,各直線部の長さa, b及び交差部での糸の巻きつき長さC,は
b‑y^/2 ‑nD/2 /2 Cr‑ nD//2
であるので,この糸のたるみのない状態での単位構造の長さIは l‑2(a+b) +2/InD
, n l 1
1 へ ソ
︼ 3
′
̲
\ (
′ t ヽ
(4)
実際の編目ではJよりZは長いので図1の直線部分では糸は湾曲するが,その形状を円弧とし, 編目構造より考えて,布平面に対して円弧の面はa部で垂直, b部で水平と仮定する.この円弧 状のa部の垂直断面を図2に示す a, b各部の円弧の長さをそれぞれL., Lbとし,その両端 の角βOは等しいとすると
l‑2(La+Lb)+2J2nD
L,/a‑Wb‑ (La+Lb)/(a+b) ‑0,/sin 6>o
La ‑a (l‑2JTnD)/2(a+b)
また,円弧Laの初期の曲線Koは次式で与えられる.
/co‑ 2 &(/La
) ヽ . ノ
\ ノ 5 ハ h U 7
′ し ( (
(8)
したがって,構造定数f. you yoz及びDより(1) ‑ (3), (6) ‑ (8)式を用いて円弧 Laの形状を定めることができる.また,円弧の高さtolは
hi‑La (1 ‑cos#o) /280
であるので,無荷重時の編地の厚さToは,交差部の厚さto2‑2Dを加えて,
(9)
平編地の圧縮変形特性の理論的計算法
図1 ・糸のたるみのない編目形状
TO‑tol+to2‑La (l‑cos eo)/2eo+ id (10)
57
2. 2 理論計算法
前報1)で明らかにしたように,平編地の圧縮変形の大部分は構成糸の検圧による太さの減少と 布厚さ方向にある糸曲がり形状の変化によるもので, (10)式のJolとJ02が同時に減少し,また 円弧Laの荷重点において糸の太さも変化する.ここで,解析のはん雑さをさけ,計算の簡単化 のため,川端5)によって提案された引張特性の理論的誘導法と同様に,円弧形状の変化と糸の太 さの減少をそれぞれ別個に計算し,ついで両者を複合する方法をとる.したがって,圧縮荷重P における編地の厚さT(P)は次式で与えられることになる.
T(P)‑ tx (P)+ t2 (P)
ここで tAP):圧縮荷重Pにおける円弧部の高さ t2 (p):圧縮荷重Pにおける交差部の厚さ.
cm
2. 3 弾性円弧棒の圧縮変形理論
図2の円弧部の変形,すなわち(ll)式のtAP)の理論計算式を誘導する.なお,真直ぐな 糸が構圧を受けた時の糸の太さについては,圧縮荷重に対して指数函数的に減少することが実験
的に示され,その計算のための近似式も提案されている4,6)が,編目内においては交差部での糸 のつぶれ状態に関してより複雑な解析を要し,理論的取扱いが困難な点が多い.このため, h (p)については今後の研究にゆだねる.
円弧部分の変化について,図3に示すような,両端部の角βo一定のままの弾性円弧細棒の変 形を適用する.荷重♪の増加にともなって円弧棒の両端目隔は広くなっていくが,編構造は比 較的ルーズであるため.端部の移動抵抗は小さいものとして無視する.そして,計算の簡単化の
58 柳川良樹・小椋 務・髭斗秀夫
一一
↓ 3
C) i
..‑ ... *
^9 H= N i
、 、 .
a
図2 糸のたるみのある場合の図1, a部分の垂直断面
図3 円弧状に曲った糸の圧縮変形
図4 弾性円弧棒の変形
ため, MM′間の挙動を無視する.変形は左 右対称であるので2つに分け,それぞれにつ
いて,図4に示すように,曲率Koの弾性円 弧棒の一端は角∂Oで固定,他端に荷重♪が かかる場合の変形挙動でもって置きかえる.
ここで,荷重点での接線とγ軸となす角は常 にn/2であるとする.したがって,荷重p の増加にともなって,円弧の高さJlが減少 するとともに円弧棒の長さLも減少してい
くことになる.
図4のように座標軸をとり,棒上の任意の点の接線とγ軸とのなす角をα,弧にそった棒の長 さをSとすると,曲げモーメントのつり合いより次式が得られる.
B窓‑B K。+px‑0
ここで, β:棒の曲げ剛性, 〝o:棒の初期の曲率.
p/B‑uとおき,両辺をSで微分し, dx/ds‑sinaの関係を用いると, (12)式は
富+usina‑0
ここでda/ds‑Zとおき,
Z雷ニー〟sina
両辺を積分すると
Z ‑2ucosa+c
a‑n/2のときda/ds‑KQの条件を用いれば
(12)
(13)
(14)
平編地の圧縮変形特性の確論的計算法
IBS型
Z2‑2ucosa十K呂
da/dsは減少函数であるので
da/ds‑‑, 2u cosa十K呂
as‑
‑da、′2mcosa+it呂‑頂
da
,′cos a +K
ここでK‑kV2u.
したがって,荷重pのときの棒の長さいま
J Ja/2
da
yl玩vcos a+K
L,‑ ‑雷1
また,円弧棒の高さJlは
ll‑J蝣ds‑S cosaas‑.*/2元
tl‑去/: 、′COS α+〟cosa da
cosa da
cosa+K
(15)
(16)
(W
(18)
(19)
i2(P
(2D
59
ここでa0‑7r/2 ‑00.
Kをパラメーターとした(19)式および(21)式の積分値より/CO, #o' Bか与えられると, pとL, pとtlの関係を求めることができる.しかし,これらの積分はパラメータKのとりうる 範囲が広いので,楕円積分のような級数展開は行わず,コンピュータによって数値解を求めた.
その計算例を図5に示す.
単位構造内には図2の円弧が2っあるので,単位構造当りの圧縮荷重Pと上記の荷重pとはP
‑P/4の関係がある.そこで(21)式を書き直すと
t¥‑.掌In/1
*/2
cosada V p J,一0言cosa+K
が得られる.ここで K‑2BkVP.
(22)
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0.5
(LO‑U/Lq , (to,‑t,)/to,
図5 tlのLの計算例(J'i‑1mm‑ はp‑0のh,Lを示す.) 3 理論計算値と実測値の比較
上述の圧縮変形特性計算のための編目モデル及び解析法,曲った糸の圧縮変形理論の妥当性, 精度などを調べるために,次のように理論計算値と実測値の比較を行った.
表1 手 編 試 料
コ ー ス 間 隔 ウ エ ー ル 間 隔 編 目 長 構 成 糸
繊 維 番 手 曲 げ 剛 性
y m (m m ) y m ( mm ) ∫ (m m ) (g
2 .94 1 3 .5 7 1 1 4 .2 7 羊 毛 2 .3 S 0 .7 5 0
測定が容易で,精度の高い測定値を得るために,表1に示す編構造の粗い手編の平編地を試料 とした.この試料に関して(22)式を用いて糸曲り部分の圧縮変形と圧縮荷重の関係を計算した.
糸の太さの変形については,前述のように理論的解析が未解決であるので,糸を交差させ,その 圧縮荷重一厚さ曲線を前報1)の実験方法により実測し,それをh (p)として直接代入した.両者 を合成したものを理論計算値として図6に示す.叉,図の点線は前報の方法で測定した実測値で ある.計算値と実測値はかなりよい一致を示しており,交差部の糸のつぶれ状態を理論的に解明
平編地の圧縮変形特性の理論的計算法
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Pressure ( g!cm2) 図6 手編試料の実測値と理論計算値
in
ん
( ∈ ト こ
M
^
^ K SS OU ヱD IU ト
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できれば,本報で示した理論により精度の高い圧縮変形特性の予測計算が可能であるといえる.
さらに,実用されている一般の機械編の平編地についても,上記と同じ方法により理論計算値 と実測値の比較を試みた.しかし,大部分の編地において円弧長Laを求める段階でコース間隔 yolあるいはウェール間隔y02よりnD/、..丁が大となり, (1), (2)式のa又はbが決定できず, 計算が不可能であった.これは明らかに糸の太さとして用いたβの値に問題がある.一般に実 用されている平編地は編目密度が大きく,目の語った編構造をもっている.交差部において糸は 圧縮以前にすでにかなりの変形が生じ,無荷重時の糸の太さβより小さくなっているためと考 えられる.このため,本理論を一般の編地にまで適用範囲を広げるには,糸交差部の圧縮変形の 理論的解明と同時に,交差状態での糸相互間の拘束の影響についても明らかにしていく必要があ
る.
4 結 讐五PP
初めに,前報の実験結果にもとづいて,平編地の圧縮変形特性を理論的に求めるための計算式 の誘導を試みた.このために,まず,この計算のための簡単化した編目モデルを設定し,ついで 編地の厚さを布面に垂直方向にある円弧状ループの高さとそれを両端で支える糸交差部の厚さの 2つに分離し,それぞれを別個に解析する方法を採用した.そして,円弧状ループの圧縮変形を, 円弧状の弾性綿棒が一端固定,他端に荷重を受けたときの変形で置き換え,その変形と荷重の関 係を理論的に誘導した.
さらに,本計算法の妥当性,計算の精度などを確めるために,実際の編地について実験し,実 測値と理論計算値を比較,検討した.その結果,糸交差部の圧縮変形に関する理論的取扱いは未 解決であるが,本計算法により編目の担い手編試料については,その予測計算が可能であること
6LJ 柳川良樹・小椋 務・輿斗秀夫
を明らかにした.しかし,本方法の適用範囲を一般の編地に広げるには,圧縮前の交差部の糸つ ぶれ状態に関する究明が必要である.
引 用文献
1)柳川良樹・小椋務・慰斗秀夫:奈良教育大学紀要, 35 (2), 123, 2)川端季雄・廿1胡佳[‑・七島陽(・・河合弘辿:繊維機械学会論文集, 3)川端季雄・丹羽雅子・七島陽子・河合弘辿:繊維機械学会論文集, 4)川端季雄・丹羽雅(・・七島陽f‑・河合弘辿:繊維機械学会論文集,
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5)川端季雄:繊維機械学会論文集, 23, T30, 1970.
6)川端季雄・I、月:l雅子・河合芳子:繊維機械学会論文集, 31. T74, 1978.