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本邦新生代層の花粉層序学的研究? 先志摩および 渥美半島の洪積世堆積物
著者 島倉 巳三郎
雑誌名 奈良学芸大学紀要. 自然科学
巻 10
号 2
ページ 113‑119
発行年 1962‑03‑26
その他のタイトル Pollenstratigraphic Studies of Japanese Cenozoic Formations. VI The Pleistocene deposits in Sakishima and the Atsumi Peninsula.
URL http://hdl.handle.net/10105/4775
Journ. Nara Gakugei Univ., Nat.Sci., Vol. 10, No.2, Mar., 1962
本邦新生代層の花粉層序学的研究Ⅶ 先志摩および渥美半島の洪積世堆積物
島 倉 巳 三 郎 (奈良学芸大学地学教室) (昭和36年11月14日受理)
Polleiistrat】graphic Studies of Japanese Cenozoic Formations. VI The Pleistocene deposits in Sakisliima and the Atsumi Peninsula.
By Misaburo SHIMAKURA
(Department of Earth Science)
Abstract
21 samples of claystone, siltstone and humic clay collected from the Sakishima bed at Isobe‑ch6, Mie prefecture and the Atsumi formation in the Atsumi Peninsula, Aichi pre lecture were studied.
In 3 samples from the Sakishima bed, the pollen diagrams resemble one another tò some extent, and characterized by the dominance of Pinus, Fagus and Sapium,
In 18 samples from the Atsumi formation, 4 types of pollen diagrams are recognized:
(1) Pinus is dominant, but Fagus is very scare (Akabane and Wakami), (2} both Pinus and Fagus are predominate, (Isshiki and Shiroshita), (3) Pinus is very scarce, but Fagus and Car♪inus are dominat (Higashihamada), (4) Pinus is also very scarce, but Fagus and Abies‑Picea are very dominant. These four types somewhat correspond to stratigraphic subdivision and climatic changes of the formation.
伊勢湾周辺から東海地方に亘って、段丘および低い丘陵を構成する洪積層が広く分布してお
り、これらの地形・地質・古生物等についてはすでに多くの研究があるが、なおいろいろ解決さ
れていない問題も残されている。花粉分析も1 ・ 2の断片的な報告をみるが層序学的に研究されて
いない。筆者は東海地方の第四系の花粉分析を行っているが広汎なので、ここにその予報として
先志摩と渥美半島の洪積層についてしらべた結果を報告する。
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上 中 下 上 中 下 1 2 3 上 下
Abies Pt cea Pt nus Tsuga
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先志摩磯部の'洪積層
三重県の先志摩には裸・砂・粘土等から成る洪積層が海成段丘をつくって広く分布している。
志摩郡磯部町迫問の県道のわきの崖には海倭動物化石や植物遺体を多く含む先志摩層が露われて
いる。松下(1932)は堆積状況や且化石について報告し、大炊御門、(1933)は45種の且化右を同
定し、その結果大部分は現生種で黒潮式のものを産するが親潮式め種は殆ど混じ七いない、また
フォーナは和歌山県安久川の洪積層および渥美半島の洪積層に極めて類似し、ほぼそれらに対比
できるとした。槙山・中川(1941)は80種の有孔虫を同定し「‑‑・以上の材料に就いて見るに此
のフォ‑ナは要するに日本の南西部にある黒潮区の代表である」とのべているo三木(1948)は
初め8種の双子菓植物を記録し、同氏の̀Sapium bed'に属するものとしたが、後(1956) 4種
の悪果植物をあげて̀Ruppia bed'に属するものとした。
木屑の時代について池辺はレターノミネ‑ションのJ,に、鹿間(1952)はJlにあたるとされ、
中川(1961)は先志摩段丘を同氏のⅢ段丘面(高師原面)に対比し、ほぼRiss‑W屯rm問氷期に あたるものとした。
迫問の崖では約2mの磯層を爽んで2枚の粘土質層があり、上層は植物の枝葉化石にとみ、下層 は且化石と植物遺体を含む。試料は上層の青色粘土および褐色シルト、下層の含貝化石粘土の3 点を用いた。見出された花粉の種類は第1表に、主要樹種のAP百分率は第1図に示してある。
何れもvesculate‑pollenにとみ、とくにPinusが圧倒的に多く、物SとSapiumも優勢 であるO三木のあげた植物遺体はAbies firma, Tsuga Sieboldi, Pinus Thunbergi, Pinus densiflora , Fagus crenata , Sapium sebiform var.カIeistoceaca , Stewartia ♪seudoca‑
mellia, Berchemia racemosa, Cornus controversa, Styγax japonica, Ruppia marti‑
ma, Vitis Thunbergi等でいくつかの属は花粉にも見出されている。
この花粉化石群集はPicea, Fagus等が高率に現われているものの、 Sapiumが卓越し、
Cryptomeγia, Alnus, Queγcus, Ilex, Styγax等温帯林に普通の種類を含んでおり、関東地 方第四系の一部の地層や岩手県の花泉層に見られるようなLaγix‑Scabiosaフロラを含んセい ない。それで当時の気候は現在より寒かったとは思われない Picea, FagusをはじめCorylus,
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116 島 倉 巳 三 郎
Carpinus, Tilia等山地性のものは西側に饗いる紀伊山脈が当時既に高かったと考えれば解釈 できるであろう。
本層をほぼ同じ層位と考えられている渥美半島の洪積層の花粉分析値と比較すると、相馬(19 57)の結果とはSapium, Alnus等の呈において異るも、かなり類似した傾向を示し、筆者の 分析値では高豊村城下の且化石層および赤羽根町一色附近の粘土層に最も似る。
渥美半島の洪積層
愛知県の渥美半島には、渥美累層とよばれる洪積層が広く分布しており、その地形・地質・古 生物等については、辻村C1919)、今村C1925)、横山(1926)、石井(1927)、大塚(1932)、浅井(19 33)、大炊御門(1933)、槙山・中川(1940)、三木(1957)、黒田(1958)、土(1960,1961)、中川(19 61)等多くの研究がある。これらのうち層序に関する見解を示すと次のようになる。
第 三 表
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大炊御門(1933)は田原層の豊島Sandから91種の且化石を同定し、その大部分は日本要素の 現生種であり、フォーナ全体は黒潮式であるとした。槙山・中川(1940)は高校の海崖に露出す る̀砂質海泥層'を上部Tonna bad、中間Mya bed、下部Dosinia bedに分け、その各々か ら有孔虫化石97、 39、 44種を同定し、環境による変化が貝化石程著しくないことを見出した。三 木(1957)は赤羽根村東若兄の巌からCephalotaxus drupacea, Abies firma, Pinus Thun‑
bergi, Juniperus rigida, Melia, S上砂ium, Ruppia等の植物遺体を報告し、この含有層 を同氏の̀Ruppia bed に当るものとした。相馬(1957)は̀豊南'の崖の̀peat の花粉分析 結果を発表し、当時の気候を̀cool temperature であるとし、 Wisconsin期のものとの説を引 用した。その後豊橋市高師本郷の̀渥美累層'の試料を分析し、その結果は中川(1961)によっ て示されている。同氏は太平洋沿岸地方の段丘を、海岸平野も含めて5つの面に分けたが、この 累層をⅢに編入しているO Ⅲは東海地方では牧ノ原、高師原、三方原、先志摩の段丘が該当し、
Riss‑Wiirm問氷期に対比され、温暖高海水準期のものであるという。一方渥美半島の、いわゆ
る渥美累層の分布しているところは古期の̀山地及び丘陵'として図示してある。土(1960,1961) は大塚(1931)の渥美累層を再定義し、その時代を洪積世前期とし、 83種の且化石を同定し、大 部分は現生種で西南太平洋岸にふつうに棲むものから成るが外洋性群集は見られないとのべ、更 に生育環境に基き化石群集と岩相変化ならびに古地理を考察した。黒田(1958)はこの洪積層を 細分し、 5植物化石帯を認め、その̀フロデの特徴と指示する気候環境を論じた。
今回の分析試料は高豊村城下(5万分1地形図では豊南とされている)から赤羽根村若見に亘 る海岸の崖の7地点から採集した18個で、主なる露出地は附図に示してある。試料の中に含まれ ている花粉の種類は第1表に、主要樹種のpollen diagramは第1図に示した通りである。これ でみると樹木花粉が多く、わが国の洪積層中に普通みる種類から構成されている。シダ植物の胞 子および単子葉植物の花粉、おもにGraminaeの花粉も豊富であって、黒田が「・‑‑草木類や 単子葉植物並びにシダ植物が非常に少いことは、本邦においてほぼ同じ時代的位置に置かれる他 の洪積世化石植物群のフロラともよく一致し、当時は潤葉樹並びに針葉樹の旺盛な時であったこ とが、ここにおいても、はっきりと裏付けられている」と述べてあることは、花粉胞子化石の示 す限りにおいて裏付けられない。この誤認は高等植物化石においては、枝葉・種子果実.鑑果・
花椿・材・花粉胞子等の̀部分'として別々に産出することが多く、その個体でない̀部分'によ って示された植物化石群集は、生越(1952)によって指摘された如く化石フロラでないのに拘ら ず、この限られた化石種によって結論したためと思われる。これは個体又は個体に近い状態で産 出することの多い動物化石と著しく異る点で、同じように考えることはできないo種子花粉胞子 クチクラ等を考慮に入れると、わが国の洪積世フロラはほぼ今日の山野でみるようにシダ植物も 単子葉植物も草木類も豊富であったことを示している。
大炊御門は渥美半島の洪積層を不整合を境として一色層と田原層に分けたが、土はこれらを一 括して渥美累層とし、 「大きな不整合なしに連続生成した地層で、ほぼ水平にかさなる海成の泥
・砂・磯からなる」とのべており、筆者も同じようにみているが、所々に数10cmの泥炭質粘土 層を爽在する。大炊御門は全部が海成層であるか疑っているが、このことについては珪質微化石 によって検討中である。花粉分析の結果によれば、西部の若見・赤羽根の5試料は殆ど一致し、
Pinusが圧倒的多く、 Fagusが極端に少ない、これに対し東部の久美原・豊南の6試料では Pinusが激減し、 Abies‑PiceaおよびFag〟Sが甚だ優勢である。一色の試料は赤羽根のもの に似るがFagusが増加しており、東浜田の試料はAbies‑Piceaの少い点で一色以西の試料 に、 Fagusに富みPinusの乏しい点で久美原のものに似るが、豊富なCarpinusが目立つ。
AbiesとPiceaの花粉は変形またはこわれているものが多く識別のむづかしい場合もあったの でいくらか混同した数である。正確ではないがおおよそその傾向は分ると思う。相馬によれば
̀豊南'の試料はAbiesを全く含まずPiceaのみ20%以上あり、高師本郷の試料はPiceaが 僅かでAbiesが18%に達することになって運の傾向を示している。
さて大炊御門によれば赤羽根・一色附近の炭化物を含む地層は杉山Sand‑であり、豊南・城下 の含貝化石層は豊島Sandであるから、両層の間には花粉種構成上の大きな変化があったこと呼 なるo黒田の層序による植物化石層と筆者の試料とを比較すると、ほぼ次のようになるらしい。
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亀 倉 巳 三 郎
黒 田(1958)の 区 分 J 黒田による推定古気候 を、
Ⅴ植物化石層(大草針葉樹植物群) ‑‑杉山砂層
Ⅳ 〝 ・‑・‑寺沢砂質粘土層 血 〝 ・・・‑豊島砂層
Ⅱ 〝 (久美原化石植物群) ‑‑高豊泥層 I 〝 ・‑・・七根砂泥層
低地は温暖、
寒冷、
今日とはゞ同じ、その疲頁に 温暖 、
寒冷
やゝ乾生的で温和
筆 者 の 試 料
赤羽根′・若見 I(東浜田?) 一色? ・城下
久美原・豊南・東浜田?
東浜田・一色等の試料の層準に疑問があり、層序区分にも釈然としないところがあるものの、
一応この区分によって第1図のpollen diagramをみるとまことによく一致する。偶然であろう か。花粉分析も分析である以上定性と定量が必要であり、対象が不均質な地層であるからには、
近接する同一地層から数個の試料を採集し、少なくとも2例以上分析して同じ結果が得られるか を吟味する必要があるo今回の試料もこの点を考えて採集し分析したものであるから上述の一致 も偶然とは患われない。更に大草・伊古部・高塚・高師本郷等の地域をしらべて確める必要があ
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渥美洪積世植物群の示す古気候の特色として、黒田は第一に暖帯北部の気候を指示するものが あること、第二に上表に示したように寒暖のくり返しが認められることを挙げている,花粉化石 に於てほ生態を考えるとき必要な̀種'の決定がむづかしく、また飛散距離や流動距離も関係す るので、分析の結果からは寒冷又は温暖気候を確実に証明できない。しかしpollen diagramと 植物化石からの結論とあわせてみると、寒冷とされているEの久美原・豊南の試料ではPicea と Fagusが甚だ多く、 II或はⅣらしい東浜田の試料ではPiceaは少いがFagusはやはり甚 だ多い。これに反し、今日とほぼ同じ位暖かいとされているⅢの城下・一色の試料ではPinus と Tsnga, Cryptomeriaが多く、 Fagusがやや少くなっており、 Ⅴの赤羽根・若兄の試料は Fagusを殆ど含まずPinusが甚だ多くなっている PinusはDiploxylon‑typeであり、同 じ層からPinus Thunber紗の名栗を採集している。 Fagusは黒田によればF. Crenataの ほかF. Hayatae, F, microcarpa, F. jerrvgianaがあり、花粉では何れの種か決定でき ないけれどもその増減は気候変化に一致している。
黒田によって発見された暖帯性植物化石群集は興味深いものであるが、同氏の云う如く本邦最 初のものでなく、すでに三木ら(1957)によって西宮市上ケ原の洪積層産のものについてくわ し く研究されており、現在よりも温暖な問氷期の気候を指示するものと推定されている。渥美累層 のものは上ケ原のものより試料も不足であり、暖帯林要素も著しくないが、とにかく貴重な資料 であるから将来の精査が望まれる。
結 請
三重県先志摩と愛知県渥美半島の洪積世堆積物の花粉分析を行った結果、
1)先志摩層はPinus, Fagusが優勢で、 Sapium, Styraxで特徴づけられ、 NAPも多く、
花粉構成は渥美累層の一部のものに類似する0
2)渥美累層はだいたい4型に分けられる。 1はPinusにとみFagusの少いもので赤羽根お
よび若兄の試料、 2はPinus もFag〟Sもやや多いもので一色の試料、城下の員化石層もこれ
に近い、 3はPinusおよびAbies‑Piceaが少く Fagusが圧倒的に多いもので東浜田の試料、
4はPinusのみ少く Abies‑PiceaおよびFagusが甚だ多いもので久美原、豊南の試料。この 区分は黒田による層序区分並びに古気候の推定とかなりよく一致する0
終りにのぞみ試料の採集に御援助を賜った横浜国大の長谷川善和氏に感謝する。
引 用 文 献
1)黒田 啓介、 1958 :渥美半島の洪積統より産出する化石植物群、地学しずはた、第'5号、 17‑32.
2)松下 進、 1932 :志摩磯部村木場の洪積層について、地球18.7.
3)横山次郎・中川保、 1940 :渥美半島洪積銃の有孔虫類、地質学雑誌47.376.
4) ‑ 、 1941 :志摩木場、洪積銃の有孔虫類、地質学誌雑3.572.
5)三木 茂、 1948 :鮮新世以来の近畿並に近接地域の遺体フロラについて
6) Miki, S., 1957 : Pinaceae of Japan, with Special Reference to Its Remains. J. Inst.
Folytech. , Osaka City Uniw. ,D.8.
7) Miki, S‑, Huzita, K. and Kokawa, S.1907 : On the occurrence of many broad‑leafed Evergren Tree Remains in the Pleistocene Bed of Uegahara, Nishinomiya City, Japan. Proc. Jap. Acad,23.1.
8)中川 久夫、 1961 :本邦太平洋沿岸地方における海水準静的変化と第四紀偏年、東北大学理学部地 質学古生物学教室研究邦文報告、第54号
9)大炊御門経輝、 1933 :志摩木場の洪積世介化石に就いて 地球19,4.
10) ‑ 1933 :渥美半島の洪積層、地球20・
ll)生越 忠1952 :盲動(檀)物群・化石動(檀)物群および動(檀)物化石群等の諸用語につい て、地学研究V
12)島倉巳三郎、 1961 :本邦新生代層の花粉層序学的研究V、東京購浜附近の第四系、奈良学芸大学紀要 13)鹿間 時夫、 1952:第四紀、地学叢書3
14) Sohma, K. , (1957) '・Palynological Studies on Pleistocene Deposits in Japan I. Peat from the