埼玉大学紀要 教育学部 (教育科学)
,5 4( 1 )ニ2 4 9 ‑2 5 7 ( 2 0 0 5 )
柔道の国際化 と日本柔道の今後の課題 ( 第四報)
‑ 国際柔道連盟試合審判規定 と講道館柔道試合審判規定の
比較 を中心 に‑
野瀬 清書*・明先俊太郎 **・野瀬 英 豪***
三宅 仁 ****・鈴木 若葉*****
キー ワー ド:柔道 、講 道館 、 国際柔道連 盟 、試合審 判規 定 、 ブル ー柔道衣 、 ゴール デ ンス コア
はじめに
柔道が五輪正式種 目に採用 されて
4 0
年、10
回目の大会 となったアテネ五輪 において、 日本 柔道 は圧倒 的な強 さを世界 にみせつ け、8
個 の 金 メダル と2
個の銀 メダル を獲得 した。アテネ 大会 は、延長戦 の導入やい くつかのルール変更 が行われるな ど、様々な変化がみ られた大会で もあった。柔道の国際化 は1 9 5 6
年 に第 1回世界 選手権大会が東京で開催 された ことに もよる。この大会 には
21
カ国か ら31名 の選手が参加 し たのみであった。 それか ら47
年後 の2 3
回大阪 大会( 2 0 0 3)
で は、97の国 と地域か ら約60 0
名 の選手が参加 し、アテネ五輪の代表権 をかけた 熱戦が展開 された。これ らの大会 を運営す るのは、国際柔道連盟 (以下、IJFと略す)のスポーツ委員会が主体 で あ り、審判委員会 において審判規定の改訂が行
*埼玉大学教育学部保健体育講座
*書学校法人了徳寺学園
***筑波大学大学院体育研究科
****平成国際大学スポーツ科学研究所
*書*H 淑徳文化専門学校
われ試合 の進行がなされ る。IJFは
1 9 51
年 に欧 州 を中心 に1 7
カ国で結成 されたが、現在 で は1 8 7
の国 と地域 が加盟 し、全 スポーツの中で世 界第3
位 の加盟国数 を誇 っている。 このように 柔道 は短期 間 に世界 に普及 した スポーツで あ り、 日本の伝統的な武道で もあるが、創始者の 嘉納治五郎師範 の存在 を抜 きにして柔道 の国際 化 は語れない。嘉納師範 は柔道の原理 を、精力 善用 ・自他共栄で表 している。 その理念 は、「互 いに助 け合い共同の目的 を達成 し、 自己の持つ エネルギーを効率良 く発揮 し世 を補益す る」 と い うもので、現代 の国際社会 にも適応す る思想 である。 また、嘉納師範 は、我が国初の国際オ リンピック委員会 (以下、I O
C と略す)委員で もあ り、1 91
1年 に大 日本体育協会 を設立 し、国 内にスポーツ活動 を取 り入れ るとともに、海外 で柔道の普及 に もつ とめている。このように柔道 は、約
5 0
年間で国際化、競技 化が図 られて きたのであるが、その発祥国であ る我が国のみが、講道館柔道試合審判規定 (以 下、国内規定 と略す) と国際柔道連盟試合審判 規定 (以下、国際規定 と略す) を併用 して大会 を運営 し、審判 を行 っている。国内規定 は1 9 0 0
年 に嘉納師範 を中心 に検討 され、明文化 された ものであ り
、1 9 51
年 に今 日の規定 の基 となる規 定が制定 された.一方、国際規定 は1 9 67
年 の パーマーI J F
会長時代 に制定 されている。それ 以前の第1
回( 1 95 6
・東京)、第2
回( 1 9 58
・東 戻)、第3
回( 1 9 61
・パ リ)、第4
回( 1 9 6 5
・リ オデジャネイロ)の世界選手権 お よび東京五輪( 1 9 6 4)
は、国内規定 を用いて大会 を行 っていた。また
、1 9 67
年 に制定 された国際規定 も全 日本柔 道連盟 (以下、全柔連 と略す)か らの原案 を川 村 禎 三I JF
ス ポーツ理事 がI JF
理事会 案 とし て まとめた ものである。その後、I JF
は1 0
回に わた る規定の改訂 を行 い、現在 に至 っている。こ れに対 し国内規定 は、国際規定改訂の影響 を受 け、取 り入れて も良い と判断 された ものは取 り 入れ、取 り入れ るべ きでない と判断 された項 目については採用 を見送 ってきた。
両規定の違 いは長 い間、「技 の判定規準 の種 類」「罰則 ・禁止事項 の基準 と種類」「少年規定」
な どであったが
、1 9 9 0
年代 の後半か ら大 き く乗 離 してい くこととなる。この背景 には1 9 8 4
年 ロ ス五輪 にお けるピーター ・ユベ ロスの五輪 の商 業化がある。ユベ ロスはスポンサーの協賛金 ・ テレビの放映料 ・観客収入 ・五輪 グッズの販売 な どで五輪 を再生 した。 これに同調 し当時のサ マランチI OC
会長 は、「マスメデ ィア受 けしな いスポーツの将来 は厳 しい」
「将来、重大な決断 をす る時期が来 るか もしれない」な どと発言 し、メディア受 けしないスポーツに対 し、五輪種 目 か ら排除す るとの警鐘 を鳴 らしている。
二十一世紀 を迎 え、スポーツの多様化 はさら に進み、五輪参加 を目指すスポーツも増 えて き ている。 また、世界 にはスポーツ用品が月収 よ り高額 となる発展途上国 も多い。 これ らの加盟 国 を支援 す るの も
I OC
や各 国際 スポーツ連盟 の重要な任務である。今後 のスポーツの発展 は、マスメディアの影響や観客動員 を抜 きにして語 ることは出来ない
。I JF
は20 01
年の総会で改革 派の朴会長、ペ ソンスポーツ理事が再選 され、パ ル コス審判理事が新任 された。 これ らの新執行部 は「柔道 をよりダイナ ミックに、 より面 白 く、
安全な ものにす る」とい うスローガ ンの もと、マ スメデ ィアに受 け入れ られ、観客 にアピールす る柔道 を標樺 している. その内容 は 「ブルー柔 道衣
」
「ゴールデンスコアの延長戦」
「罰則 ・禁 止事項 の二分化」「医師の診察の制限」「審判員 の評価 の厳格化」「審判 のジャッジを監視 す る ジュ リー制度」な どである。 これ らの項 目は全 て、初 めて柔道試合 を観戦す る人達 にも分か り やす く、 目で見て勝敗がわかるようにす るため の努力である。 これに対 して全柔連審判委員会 は小委員会 を設置 し、国内規定で これ らの項 目 を受 け入れ るか否か を検討中である。そこで本研究では、国際規定 ・国内規定が ど のような意図で改訂 されて きたか、改訂が試合 にどのような影響 を及ぼ したか、両規定の相違 や矛盾点 は何か、な どの問題点 を比較 ・検討 し、
日本 の伝統文化 としての柔道が世界 にはたす役 割 と競技柔道 のさらなる発展のための方策 を考 究す るものである。
1 技の評価基準
国際規定 と国内規定の技の評価基準で最 も異 なるのは、「効果」の宣告が行われ るか否かであ る。国際規定が採択 された
1 9 67
年当時、両規定 に 「有効」
「効果」のポイン トはな く、「一本」と「技 あ り」のみが宣告 されていた。ただ し、優勢 勝 ちを決定す る場合の基準 として、「技有 に近 い 技があった時」、とい う項 目があ り、当時 はすで に、宣告 はしないが技有 に近 い技 とい う概念 は 周知 されていた
。1 9 7 3
年 スイス ・ローザ ンヌに おいて第8
回世界選手権大会が開催 されたが、そのお りの
I J F
総会で規定の改訂 が審議 され、優勢勝 ちの うち、技 あ りに近い技 を 「有効」 と 宣告 し、有効 にはいた らないが技の効果 を認 め る技 を 「効果」 と宣告 して、その数が多かった 試合者 を優勢勝 ち とす るとい う改訂が承認 され た (これ らのポイン トがなかった場合 は従来 ど お りの判定 とな り、効果 はい くつ取 って も有効
には及 ばない
) 。I J F
総会の模様 を松本 は、「日本 か らは、松本芳三 日本代表、広瀬祐一副会長、川村禎三スポーツ理事、安部一郎が出席 した。審 判員 は、試合中考慮 に上 った優劣判定の資料 (技 あ りに近い技、僅少の差) を全て公表す る とい う提案が出たが、 日本 の意見 は、現在の一般的 な国際審判技術 の水準では、 これ以上の負担 を かけることはきわめて困難であ り、試合の進行 を渋滞 させ る。一本、技 あ りは判定基準 として 定義 されているが、技 あ りに近い技、僅少の差 は明確ではな く、判定 に個人差がで よう。優劣 判定の資料全部 といって も、試合態度や技の よ しあしまでは公表で きないであろう。 とい う理 由か ら全面的 に反対 した。 この優劣判定の資料 を全て公表す るとうい案 は、二度投票 を行 った が 同数、三度 日の投票 で一票差 で可決 となっ た」1)と述べている。この時点か ら姿勢 よ く堂々 と技で勝負 したか否か、勝負にこだわ り見苦 し い態度 をとらなかったか、な どの試合態度や、相 手 を倒す ことはで きなかったが鋭 い技 を何度掛 けたかな どの武道的な評価 は、効果のポイン ト よ り低 い判 定 の資料 となった。競 技 柔道 が ス ポーツ化の大 きな第一歩 を踏 み出 した規定の改 訂 といえる。 しか し、現在 の国際試合では効果 のポイン トは一本 と同様 に判定基準の概念化が 進 み、世界的な統一 を見せ深 く浸透 している。ま た
、I J F
は約1 0
年後 の1 9 8 5
年の改訂で体 の前 面か ら倒れ腹部 をつ くことをポイン トと認 めることは柔道の技の発展 を阻害す るとして効果の 条件か ら削除 している。
これ に対 して国内規定 はいかなる対応 を示 し て きたか
。1 9 7 6
年の国内規定の改訂で技 あ りに 近い技 は従来か ら存在す るとい う理 由で有効 は 採用 された。 しか し、効果 については 「国際柔 連規定第2 1
条 に示す、効果 (技 あ りに近い技 に 近 い技)の判定結果 を、その都度、宣告 し、ジェ スチャーで示す ことは、効果程度の技の効果 は、複雑 な総合判定 を行わなければな らない試合 に おいては、その一要素 にしか過 ぎない とい う場 合 もあるので、明示す ることは弊害が多い との
結 論 に達 し、国 内 で は採 用 しな い こ とに し た。」2)との審判規定研究委員会 の議事録が残 さ れている。国際規定が効果 のポイン トを導入 し て30年以上 の歳月が流れた。全柔連審判委員会 は、現在で もこの議事録 にある姿勢 を貫 いてい るのであろうか。 これ以外 に効果のポイン トが 柔道 の発展 を阻害 す る要因が あ る とした な ら ば、講道館 の有段者や全柔連 の傘下団体 に広 く 通達 を出 し、理解 を求 めてい く努力が必要であ
る。 また、国際化が進む社会 において国際理解 を深 め る上 で も、全 柔連 の姿勢 を
I J F
に通知 し、効果 の弊害 を理解 して もらう必要が ある。I J F
が効果 を採用 した根拠 のひ とつはホームタ ウンデシジ ョンによる勝敗 の決定 を少 な くし、公平 な勝敗 の決定が行われ る狙 いがあった と推 察す る。 ゴールデンスコアによる延長戦が導入 され、技や反則 によって勝敗が決定 され るよう になった現在、 日本柔道 は、効果の見直 しに一 石 を投 じる好機 を迎 えた とも言 えよう。
2
禁止事項 と罰則国際規定 と国内規定では、禁止事項や罰則 に も大 きな見解 の相違や取扱 いの違 いがある。国 際規定で技の評価が
4
種類 に統一 されたのを機 に、罰則 も軽微 な違反 を「指導」、少々重 い違反 を「注意」、重大 な違反 を「警告」、かな り重大 な 違反 を「反則負 け」に整理 した。「国内規定で も国 際大会での不利益 を避 け、国際規定 との整合性 を図るため国際規定 に近づ くかたちで同様 の罰 則 を設 けている。」3)しか し、国内規定 には、積極 的戦意 に欠 けるときに教育的な指導 を行 い罰則 の猶予 を与 えている。 この武道的で教育的な罰 則 の猶予が、経験 の少 ない競技者 に大 きな混乱 と不公平 をもた らしている。例 えば、相手 を投 げようとして掛 けた背負い投 げが掛 け逃 げの指 導 を取 られ、30秒近 く攻撃 をしない選手 には指 導が猶予 され る とい う大 きな矛盾が生 じている のである。「注意」では、相手 を寝技 に引 き込 む ことや場外 に出ることが残 っている。 これ らは寝技専門の高専柔道 に対す る対応や試合場が十 分 に とれず、場 外 に出 る ことが危険 な行為 で あった時代の罰則である。 ある面では歴史的な 意味 を終 えた罰則 と考 えることもで きる。また。
歴史的な意味で罰則 を残す ことは、諸外国には 理解 されがたい ことと考 える。「警告
」
「反則負 け」に関 しては、警告 または反則負 けと表記 して いる項 目が多 く、同 じ禁止事項 を犯 して も審判 員の裁量で罰則が決定 され ることに疑問 を感 じる。 また、蟹 ばさみについては、大会 ごとに禁 止す るか否か を審判会議で決定 しているが、過
去 5
年間、一度 も解禁 された ことがない。国際規定 で は
20 0 3
年 の改訂 で罰則が「指導」と「反則負 け」に整理 された。すなわち「注意」の 項 目は指導 に、「警告」の項 目は反則負 けに統合 され、罰則 の二分化 が図 られた。 この改訂 は、
2 00 2
年9
月の世界 ジュニ ア選手権 大会 におい て試行 され、「指導 を3
回宣告す るのは違和感が あったが、指導か どうかの判断のみ となるので 反則 を取 りやすい とい う面 もあった。」4)とい う 報告があるように、おおむね参加者 には好評 で あった。 この改訂 の狙 いは、罰則 を重い もの と 軽 い ものに二分化 し、審判 ・選手 ・観客 に分か りやす くす ることと従来の反則の累積 に矛盾が あ り、例 えば指導の後、警告 を受 けた ときには 警告のみが残 るが、警告の後、指導 を受 けると 反則負 けとなるな どの不合理があったため と思 われ る。I J F
はダイナ ミックで一本 を目指す柔 道 を推奨 しているが、僅かに4
回の指導で勝敗 が決 して しまう規定 は必ず しも一本 を目指す柔 道 とは言 えない。今後、技の評価 と罰則の重 み が整合性 を持つ規定の改訂 を期待 したい。3 ブルー柔道衣の採用
柔道衣 のカラー化 とブルー柔道衣 の問題 は、
混 同 して論議 してはな らない。1
9 8 6
年1 0
月オ ランダのマース トリヒ トで国際柔道連盟総会が 開催 されたお り、I OC委員のアン トン ・ヘ‑シ
ンクが柔道衣のカラー化 について述べてい る。その内容 は 「要 は単純 な事です。髪 も背丈 も同 じ人が二人 とも同 じ格好 をしていた ら、 どち ら が誰か見分 けるのが非常 に難 しいのです。」5)当 時、へ‑ シンクは赤や青、黄色 な ど様々な柔道 衣 を着用 して雑誌 に出ている。柔道衣 メーカー の販売促進 に協力 しているのではないか との説 もあった。柔道衣のカラー化 に関 しては大 きな 問題が含 まれてお り、ここでの議論 は避 けるが、
原則 は柔道衣がスポーツウエアではな く、野球 でいうな らバ ッ トやボール と同 じ意味 を持つ も ので、材質や色、重 さ、硬 さ、大 きさな どは競 技の勝敗 に大 き く影響 を及ぼす ものである。 し か し、別の観点か ら見 ると、陸上競技 の
1 0 0
メー トル走で全員が同 じウエアでゴールに駆 け込ん だ り、 レス リングの選手が同 じ服装で試合場 に 現れた ら、観戦 している人達 はどう思 うであろ うか。見やす さ、分か りやす さを考慮すればス ポーツウエアのカラー化 は当然の ことであ り議 論 の余地 はない。上記のヘ‑ シンクの提案 は、欧州柔道連盟の みが反応 を示 し、他の大陸連盟 は全 く審議の対 象 としなかった。欧州柔道連盟 はカラー柔道衣 を導入す る検討 を始 め、青、赤、緑 な ど様々な 柔道衣 を実験的に選手 に着用 させ以下の ように 報告 している。審判 の立場か ら見 ると赤色の柔 道衣の選手 は挑発的に見 え、緑色 は白色 の柔道 衣 との対比が不明確である。欧州 の放送会社か ら青色 が最 もテ レ ビ映 りが良 い との報告 もあ り、青色 と白色 の柔道衣が最 も対比 され る適切 な色であるとの結論 をえた。こうして
1 98 8
年の 欧州選手権 において、青対 白の柔道衣が用い ら れて試合が行われたのである。 これ を機 に欧州 柔道連盟 はブルー柔道衣の採用 を世界 に広 める 動 きを展開 し始 めた。19 88、1 9 8 9、1 9 9 3
年のI JF
総会 においてブルー柔道衣 の採用が欧州 よ り提 案 され、19 8 8
年 は賛成33
・反対51 、1 9 8 9
年 は 賛成50
・反対8 7、1 9 9 3
年 は賛成5 2
・反対92
で3
回 とも否決 されている。 3
回の票決の票差 は大 きい ものの投票数 が大 き く増加 してい る こと が、 この間題 に対する世界各国の関心の大 きさを表 している といえよう。 また、 この時点で欧 州柔道連盟が将来、柔道衣 のカラー化 を目指 し ているのか、それ ともブルーの柔道衣 を採用す ることによって、選手 の半帽gす ることを狙 った のみ提案であるのか を判断す る資料 はない。
この間題 が大 き く進 展 した の は
、1 9 9 5
年9
月、I J F
会長 に韓国の朴が就任 してか らである。朴会長 は
、1 9 9 7
年パ リ開催 の世界選手権 にブ ルー柔道衣 を導入 す る ことに強 い意欲 を示 し た。I OC
サマランチ会長 も 「カラー化 を図 らな ければ、将来テレビやスポンサーの関係で難問 に突 き当た る可能性がある」 6 )
と、I J F
がカラー 柔道衣 を導入す ることが望 ましい旨の声名 を出 し、「柔道 を魅力的な ものにし、近代的武道 とし て発展 させ るためには、テレビの役菩掴ま重要で ある。 」「次のオ リンピックか らI OC
は収益配分
をテレビの視聴率 に応 じて行 う。」
「柔道だけが
オ リンピックスポーツの中でユニ フォームに色
がない。 」 6 )
な どと補足 し、朴会長 の姿勢 を支持
している。
これに対 して全柔連 は、「日本 に伝統があるの と同 じ様 に、各国地域 にはそれぞれ固有の伝統 文化があ り、人々 はそれに誇 りを持 っている。そ して、お互 いの文化、伝統 を理解す る気持 ちが 大切である。
」
「嘉納治五郎師範 によって創始 さ れた柔道であるが、その世界的な普及の原動力 は、競技面での技の妙味 とともに、精神的、教 育的、体育的面 な要素 を持つ特質 に対す る関心 と魅力であった。 しか し、昨今の柔道 は競技面 偏重 とな り、柔道の本質が損 なわれつつある。こ れか らは、 この ような ことではな く本来の柔道 に戻 す ことが柔道人 の責務 で ある」7)との文書 をI J F
に送 り、 白い柔道衣 に黒 帯 は柔道 の伝 統 ・選手の識別 を困難 にする審判上 の トラブル もない ・柔道の伝統 に対す る配慮 ・選手の財政 的負担 ・カラー化 は欧州諸国のみのメ リッ トな どの理由を付記 し、ブルー柔道衣の導入 に反対 の表明 を行 った。 しか し、IOCがブルー柔道衣 採用 を支持す ると、 日本の見解 として柔道衣研 究委員会が1 9 9 6
年1
1月嘉納杯 国際大会で、次の ような譲歩案 を提 出 してい る。 その内容 は、
「 ( 1
)上衣 と黒帯 はその ままで、それぞれ青のラ イ ン、赤 のライ ンの入 った下穿 きをは く。 ( 2)
従来 の白の柔道衣 と黒帯 に赤 と白の帯 を しめ る。 ( 3)
青のライン、赤のラインの入 った下穿 きのか わ りに下 穿 き と同 じ色 の帯 を締 め る。( 4)一 方 だ けが カ ラーの 入 った 下 穿 きつ け
る。」8)とい う漠然 とした ものである。また、畳 の 色 について も「 ( 1
)場 内が青、危険地帯が薄緑、場外が紫の畳。 (
2)場 内 と場外がグレー、危険
地帯が ピンクの畳。 」 9 )
の案 を出 したが、いずれも国内の柔道関係者 に も不評であった。
このような経緯 を経て欧州柔道連盟 は
、1 9 9 7
年欧州で行 われ る国際A
トーナメ ン ト大会 は カラー柔道衣で行 うことを発表 した。全柔連 は 一度 ボイコッ トの姿勢 を見せたが、 「 ( 1
)テス ト 大会でのボイ コッ トは国際的 に孤立す る。 ( 2)
日本 はあ くまでカラー柔道衣 に反対 の立場で参 加 し、カラー柔道衣 の欠点 を裏付 ける.」10)とし て 日本選手がブルー柔道衣 を着用す ることを容 認 した。実際、欧州のA
トーナメン トに参加 し た監督 ・コーチ ・選手 の帰国後 の報告及 び談話 には、ブルー柔道衣着用 による問題点 は指摘 さ れていない。ブルー柔道衣 は
1 9 9 7
年1 0
月パ リで行われたI J F
総会で賛成1 2 7
・反対3 8
で採用が決定 され た。ブルー柔道衣 を使用す る大会 は、オ リンピッ ク ・世界選手権 ・世界 ジュニア選手権 ・ワールドカ ップ国別対抗の
4
大会 に限定 し、その他の 大会 に関 しては、主催者 の裁量 によるとした提 案であった。全柔連 は リサイクル柔道衣 として 高校 の授業で使用 した白の柔道衣 を発展途上国 に送 るな どの努力 を続 け、 白の柔道衣 に理解 を 求 めたが、賛成票の半数 も取れない とい う惨敗 を喫 したのである。 しか し、全柔連 は評議会 に おいて、 日本が原点 を失わなければいい と判断 し、ブルー柔道衣 は採用せず、国内では、伝統、文化 を守 りつづ けるとい う観点か ら、従前の通 り、白の柔道衣 に赤 と白の紐 を締 めて試合 を 行 っている。
ブルー柔道衣が採用 されて
7
年の歳月が流れ たが、国内の柔道関係者や全柔連か らブルー柔 道衣 に反対す る声 は聞かれな くなった。 この案 件 も「効果」のポイン トと同様 に何十年 も黙殺 し てい くのであろうか。序論で述べたが、嘉納師 範 は精力善用 ・自他共栄 を説 き、互 いに助 け合 い共同の 目的 を達せ よと述べている。全柔連が 柔道の其 の国際化 を図 るには、 日本柔道が高い 立場か ら世界 に指導的な役割 を果たすのではな く、同 じ目線 に立 って譲 るべ きは譲 り、伝統文 化 として譲れない部分 は堂々 と主張 を続 けると い う時代が迎 えたのではなか ろうか。実際 に最 近の国際大会 において、外国選手 は白の柔道衣 同士で試合 をした経験がな く、 日本開催での国 際大会 で赤 白の紐 を締 め る こ とに戸惑 って い る。 また、ブルー柔道衣着用の試合では、服装 が乱れた時、立位姿勢で短時間で帯 を締 めなお す ことがで きるが、帯のほかに赤 白の紐 を締 め なおすのに1
回 につ き1 0
秒以上 の時間がかか り、I JF
的発想で言 えば、観客 は服装 を直すのを 見 に来ているのではない といわれて もいた しか たない。国内規定 (国内における国際規定の場 合 も同 じ) における女子選手 の帯 の白線 に関 し て も、全柔連 は厳 しく規定 しているが、女子柔 道 は、嘉納師範が当初、女子 には試合 を禁止 し ていたため、試合 をして昇段す る とい うケース はなかった。現在では、世界選手権 ・オ リンピッ クの優勝者 は、男女 を問わず優先的に昇段 させ る配慮か取 られている。 この規定 と同様 に女子 の黒帯 に白線 をいれ るか否か は、女子選手の意 見 を聞 き、再検討 をすべ き事項である と考 える。現在、全柔連傘下の各団体 では、大会 に応 じ て様々なルール を用いて競技 を行 っている。全 日本実業団連盟 ・全 日本学生柔道連盟 は、主要 な大会 は、全て国際規定 を採用 している。高体 連柔道部 に関 して も、選手権 のかか る大会 は全 て国際規定である。 中学生以下 は国際規定 に少 年規定がないため、国内規定で大会 を実施 して いる。全柔連主催 の大会では、国内主用大会の うち、全 日本選手権 (男女)お よび国民体育大会
柔道競技のみが国内規定である。 この両大会の み審判員 は、全柔連 の投票で選出され る一部の 審判員が審判 を行 う.一部の選 ばれた審判 のみ が全国大会で国内規定の審判 を行 うの は不 自然 な慣習である。 このような慣習が柔道 の発展 に つなが る とは考 えがたい。 また、全柔連審判委 員会 は、常 に国際規定 と国内規定の改訂 に関す る審議 を行わなければな らない。 これ らの努力 を審判規定 の統一 に向けることが、真の国際化 に対す る貢献 になるのではなか ろうか。
4
ゴールデンスコアの延長戦20 0 3
年4
月1 4
日に韓国で行 われたI JF
理事 会でゴールデ ンスコア方式の延長戦が提議 され た.これに対 して 日本の中村教育理事 は、「ルー ルの改正 は4
年 に一回、オ リンピックの後 にす べ きだ。 いま決 めて約5
ケ月に開催 され る世界 選手権 で実施、 とい うや り方では選手、 コーチ な どにとまどいが生 じる。」11)と反対 したが、審 判関係の審議 は理事会で行 い、即 日導入 という 決定がなされた。 日本国内では国際規定 と国内 規定 を併用 して大会 を運営 しているため、国際 規定の運用 に対応が遅れるケースが多い。 ゴー ル デ ンス コア方 式 の延 長 戦 も約 半 年 遅 れ で2 0 0 3
年 全 日本 ジュニ ア選 手 権 か らの 実 施 と なった。ゴールデンスコア方式の延長戦 とは、試合者 が同スコアの場合 に行 う延長戦 の ことであ る。
試合が終了 した時点で、効果 または指導以上の ポイ ン トに差がない場合 に行われ、 その試合 と 同 じ時間で行われ る。 また、得点版の表示 は全 て リセ ッ トされ、 どち らかの試合者が先 に効果 または指導以上 のポイン トを取 った時点で勝敗 が決定 され る。延長戦 は
1
回のみで、それで も 勝敗が決定 しない場合 は、旗 による判定 を行 う (抑 え込 み に関 して は一本 の特例 を設 け る). ゴールデンスコア方式 の導入 は、パル コスI JF
審判理事の強い意思 によって行われた。パル コ スは欧州の審判理事であった時代 に、旗判定の問題点 を
「 ( 1
)僅差の旗判定 を評価す る審判員 の基準が分か りに くく、難 しい。 (2)選手 ・コー
チ、審判員、観客 にも受 け入れがたい結果が起 こりやすい。」12)と指摘 している。その後、パル コスは中国を訪問 し、女子の合宿で行われた「ど ち らかがポイ ン トを取 るまで終 わ らない試合」をヒン トに、 この方式 を考案 した。欧州柔道連 盟 は、 この提案 を受 けて
2 0 0 0
年1 2
月か ら約半 年間 にわた り欧州の各種大会で試行 し、 その結 果 をもとに、パル コスがI J F
理事会 に提案 した ものである. ブルー柔道衣 と同様 に欧州柔道連 盟の提案 は、試行期間 と詳細 なデータを基 にし た提案が多 く、 この件 に関 して も全柔連 は後手 を踏 む ことになる。中村理事 は、一本 の重 みを 損な う可能性がある、延長戦 を行 うとして も‑本勝負 にすべ きであると反論 したが認 め られな かった。国内で も全国体育系大会等で試行が行 われ、選手 の負担 は大 きいが、試合 の運営 には 大 きな影響 はな く、試合結果が判定 よ り客観的 で分か りやすい とい う意見 もあ り、全柔連 もこ の件 に関 しては大 きな反対 をしなかった
。2 0 0 3
年9
月の世界選手権 (大阪)では、ゴールデンスコアによる延長戦が行われたが、選手、役員、観 客の評価 はおおむね良好であった。
ここで指摘 したい問題 は、欧州か ら新 しい提 案があった とき、 日本がそれ に対す るデータを 準備 していない こと、欧州の提案の意図や内容 が広 く国内の柔道家 に伝わ らない ことであ る。
ゴールデンスコア方式の延長戦 は、 日本の柔道 専門家では、なかなかで きない発想である
。 1 9 7 2
年 の場 内外 に赤 い畳 を設置 す るI J F
提案 で は、驚 きとともに怒 りさえも覚 えた。 しか し、 もと をただせ ば、現在普及 している緑色の ビニール 畳 は、い ぐさの畳の消耗が激 しす ぎる経済的知 恵か ら生 まれた もので規定がで きてか ら畳の色 を決定 した ものではない。 このように日本の柔 道家が 自分達 の伝統文化 ととらえてい る もの が、欧米 の文化の逆輸入であった り、歴史的経 緯が本質 を変 えて しまった もの も、多 く存在す るはずである。全柔連 は
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に加盟す る1 8 7
の国 と地域 の一カ国であるとい うのは、国際社会 の中で まざれ もない事実である。 これ らの国 と 地域 の一員 として、同 じ目線 に立 って柔道 を改 革、発展 させてい く姿勢 も全柔連 に課せ られた 課題 のひ とつ といえよう。
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審判 規定 か ら見 た今後 の課題前章 まで は、国際規定 と国内規定の相違 と問 題点 を比較検討 しなが ら
、I J F
の方向性 と全柔 連の対応 を中心 に論 を進 めてきた。両審判規定 か ら見た 日本柔道の今後の課題 は、次のようなものである。
技の評価基準 については、「効果」のポイン ト が
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で採用 され3 0
年が経過 し、判定基準 も 明確 とな り世界各国に定着 している。将来、ゴー ルデンスコアの延長戦 を導入す るために も国内 規定 に 「効果」の採用 を検討すべ きである。禁止事項 と罰則の適用 については、国内規定 で 「指導」 を採用 しているが、 これ に相 当する 技の判定基準がない。 また、積極的戦意 に欠 け る場合 にのみ「教育的指導」が与 えられ るが、 自 己の意思で攻撃 しない場合 にも罰則が与 えられ ないのは不合理である。「場外注意
」
「寝技への 引 き込み注意」な ど歴史的な意味 を持つ反則 は、その理念 を再検討 し、他の罰則 との整合性 を図 る必要がある。審判の裁量で決定 され る 「警告 また は反則負 け」の項 目は、警告 と反則負 けに 整理 し基準 の一定化 を図 るべ きである。
ブルー柔道衣 は選手の半順fJの しやす さ、観衆、
テレビ等への分か りやす さを狙 った ものである が、国内規定での赤 白の紐 は、服装が乱れた と きに選手 の羊腸摘号困難で、正座 して服装 をなお すため試合が停滞 して しまう。 白同士の柔道衣 の試合 を守 るな ら、早急な工夫 ・改善が望 まれ る。 また、女子の黒帯 の白線 は、女子が試合 を 禁 じられていた時代 の ものであ り、着用 を強制 するな らば、歴史的意味のみでな く、女子選手 への理解 を求 める必要がある。
ゴールデンス コア方式の延長戦 は、 ボクシン
グ ・レス リングな どの競技で勝敗が決 しなかっ た時の判定、新体操や シンクロナイズ ドスイ ミ ングな どの採点での勝敗の決定でお こる選手 ・ コーチ ・観客の受 け入れがたい裁定 を排除す る ための ものである。国内規定で も初 めて柔道 を 観戦す る人たちに分か りやすい勝敗 の決定 に配 慮 したルールの改善がのぞまれ る。
この他 に、国際規定では、「抑 え込 み時間の
5
秒短縮」
「赤畳上の5
秒ルール」
「罰則 の二分化による注意 ・警告の廃止
」
「医師の診察の制限」「反則負 けや棄権負 けの取扱 い
」
「蟹 ばきみの禁 止」な ど国内規定 と異 なる項 目がい くつ もある。全柔連で は、国内
A
級 ライセ ンス講習会の他 に も、各都道府県柔道連盟 に対 して、毎年、中央 か ら講師 を送 り審判講習会 を開催 している。 ま た、国内A
級・B
級 ライセ ンス試験では、実技 試験 のほか筆記試験 も課 している。 しか し、全 国大会 や定期 的 に実施 され る審判 試験 を見 ると、 ここ数年、審判員の審判技術が向上図 られ ているとはいえない。その原因のひ とつに国内 規定 と国際規定の両規定 をマスターす る過程で の混乱があげられ る。ひ とつの規定 に熟達すれ ば、罰則 を与 える際の混乱 もな く、 自信 を持 っ て審判がで きる と考 える。大会 のたびに変 る審 判規定 を毎回読 みなお し、審半田こあた ることは 非常 に負担が大 きい。全柔遵審判委員会 には、こ のような現場の審判員の過重負担 に配慮 し、審 判規定統一へ向けての検討 を期待 したい.
まとめ
本研究 は、柔道の国際化 と日本柔道の今後 の 課題 (第四報)として、国際柔道連盟試合審判規 定 と講道館柔道試合審判規定の相違点 と問題点 を中心 に比較 ・検討 を行 った ものである。両規 定 を過去の文献 を参考 に考察 を行 った ところ、
以下の ような知見が得 られた。
(1) 技 の評価基準では、国際規定が 「効果」
を採用 し
、30
年以上の歳月が流れた。国 内規定ではこれ を黙殺 し、「指導」のみを採用 しているが、長年の間に効果の判 定基準 は明確 にな り効果 を採用す る時 期が きている。
( 2)
禁止事項 と罰則 の適用では、国内規定の「教育的指導
」
「場外注意」
「寝技への引 き込 み注意」
「警告 または反則負け」
「蟹 ばさみの禁止」
「抑 え込み時間」 につい て再検討 を行 う必要がある。( 3)
ブルー柔道衣 ・ゴール デ ンス コア方式 は、テレビを中心 としたメディア対策 と して採択 された。全柔連 は、柔道の国際 化 に伴 ったI J F
の改革 の趣 旨を国内柔 道関係者 に広 く周知 し、その是非 を問 う べ きである。( 4)
国内における審判員技術 の停滞 は、複数 の審判規定 を馬区使 しな けれ ばな らない ことによって起 こっている。国際規定 と 国内規定の統一の検討がのぞまれ る。( 5)
日本文化 としての柔道 を世界 に広 め る ため、講道館 を中心 に武道 としての柔道 を研究す る機関・委員会の設置 を検討す る必要がある。引用 ・参考文献
1 )
松本芳三 「国際柔道試合審判規定の改正」柔道9
月号、講道館、1 973
2)
安部一郎 「国際柔道連盟スポーツ委員会に出 席して」柔道1
月号、講道館、1 9‑ 21
頁、1 9 7 4 3)
尾形敬史「審判規定の変遷」
『競技柔道の国際化』不味堂出版
、41
頁、1 997
4 )
川口孝夫 「世界ジュニア選手権大会 ・審判報 告」柔道9
月号、ll ‑ 1 5
貢、20 02
5) 「VTR:国際化するスポーツ・柔道」『ニュー スステーション』テレビ朝日
、1 0
月1 0
日放映、1 99 4
6)
ジャパン ・タイムス、3
月9
日、1 9 9 6 7)
「カラー柔道衣97
年導入へ意欲」毎日新聞、9
月
28
日、1 995
8)
鮫島元成「競技システム」
『競技柔道の国際化』不味堂出版