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高速分子進化による高機能バイオ分子の創出

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Academic year: 2021

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高速分子進化による高機能バイオ分子の創出

相同組換え機能を使っての遺伝子ターゲッティング法 Gene Targeting by Homologous Recombination

井上 弘一*、田中 秀逸、畠山 晋

Hirokazu Inoue

1

, Shuuitsu Tanaka

1

, Shin Hatakeyama

2

埼玉大学理学部生体制御学科

Department of Regulation Biology, Saitama University

2 埼玉大学科学分析支援センター

Material and Life Science Research Center, Saitama University

Abstract

DNA double strand breaks are mainly repaired by homologous recombination (HR) and nonhomologous end joining (NHEJ). In this article, we describe gene targeting efficiency in HR mutants and NHEJ mutants of the filamentous fungus Neurospora crassa. And we conclude that NHEJ-defective mutant is a most ideal host for gene targeting.

Key Words: KU70, KU80, LigIV, NHEJ, HR, Gene Targeting, Neurospora crassa

1. 研究の背景

20世紀の終わり近い時期に生物学の研究は 新たな時代に入った。ヒトゲノム解読作戦に代表 されるように個々の生物のゲノムの塩基配列を 明らかにする研究が始まった。ヒトゲノム作戦の リーダーとなったのは約50年前に20世紀最 大の発見と評されている

DNA

の構造模型を提出 したワトソンで、彼はこんなに早くこのような時 代が来るとは思いもよらなかったと話していた という。2000年には不完全ながらヒトゲノム の解読は90%近くに達した。多くの他の生物で もゲノム解読が進み、コンピューターによる情報 分析法も進み、新たに情報生物学とよばれる研究 分野も生まれた。今日ではモデル生物とされてい る大腸菌、酵母、線虫、ショウジョウバエ、シロ イヌナズナなど多くの生物でゲノムの解読は終 わったと言われている。その結果、例えば、酵母 には6,200の、そしてショウジョウバエには 13,600の遺伝子が存在すると予想されてい

る。しかしこれらの予想遺伝子は多くの場合その 働きが明らかではない。ポストゲノムの最も必要 とされる研究の1つは、これらの機能未知の遺伝 子の働きを明らかにして行くことである。コンピ ューターが提示するタンパク質のモチーフや配 列の特徴はその遺伝子がコードするタンパク質 の働きを暗示はするが決定的な決め手にはなら ない。やはりそれらの遺伝子の変異体を作製し、

それを解析することが、遺伝子の機能を知る最も 良い方法であると考えられる。

しかし、狙った特定の遺伝子に変異を入れるこ とは簡単ではない。最も有効な方法は遺伝子ター ゲッティング法である

[1]

。これは生物が本来持 つ相同組換え機構(DNA の同一の塩基配列を持 つ部位同士で配列を交換する)を利用し、目的と する遺伝子に変異を入れる方法である(図1)。

出芽酵母ではこの機構が働き、細胞外から導入し

DNA

のほとんどが染色体の相同部分に組み込 まれるため、標的遺伝子の破壊を容易に行なうこ とができる。

____________

* 〒338-8570 さいたま市桜区下大久保255 電話

/FAX

048-858-3413

E-mail

[email protected]

(2)

25

図1 遺伝子ターゲッティング法による

標的遺伝子の破壊

しかしこの方法は多くの生物ではうまく働か ない。それは外部から導入した遺伝子

DNA

は染 色体の相同部分にはほとんど組み込まれず、染色 体のあちこちにランダムに挿入されてしまうか らである。従って遺伝子ターゲット法を使うには 特別な工夫が必要となる。

2.

アカパンカビのゲノム解読

アカパンカビはモデル生物として広く遺伝学 の研究に使われてきた材料である。特筆すべきは このカビで「遺伝子変換」が明らかにされ、また、

「一遺伝子一酵素説」の実験が行なわれたことで ある。その他にも研究材料としての長い歴史から 多くの研究成果が蓄積されている。そのような背 景から、カビのゲノム解析においてまず取り上げ られた材料はアカパンカビであった。2000年 には解読が始まり、2003年にはその結果が発 表され [2]、2004年には遺伝子の働きについ てのコンピューター解析の結果がまとめられた

[3]

このカビのゲノムサイズは約39メガベース で、1万を越える遺伝子がコードされていると報 告された。他の生物と同様アカパンカビでも半数 以上の遺伝子は機能が未知であった。

3.

相同組換えと非相同組換えによる DNA 二本 鎖切断の修復

DNA

の二本鎖切断の修復には2つの組換え修 復機構が働く。それは相同染色体を使って修復す る相同組換え修復(

HR

)と切断末端同士を組換 える非相同末端結合(

NHEJ

)である。我々はア カパンカビでの以前の実験から相同組換え修復 で働く遺伝子に突然変異を持つ株を宿主として ターゲット実験を行なうと、ほぼ100%が相同 部位には挿入されないことを確かめていた。そこ で相同挿入(ターゲット率)を高めるには(1)

相同組換えで働く遺伝子の発現を上げるか、(2)

非相同組換えで働く遺伝子を不活化するかのど ちらかであろうと考えたが、相同組換え修復で働

RAD51

の発現を上げると細胞が異常になると

いう他の生物での報告から(1)を捨て、(2)

の方法を試みた。まず、

NHEJ

で中心的な働きを

する

KU70, KU80

のホモログをコードする遺伝

子をアカパンカビゲノムデーターベースから見 いだし、これらの遺伝子を破壊した株

mus-51

mus-52

を作製した。

4.

遺伝子ターゲット実験

遺伝子のターゲット実験には図2の

DNA

断片 を使った。選択マーカとしてのバスタ耐性遺伝子

(

細菌由来

)

をアカパンカビのメチルトリプトフ ァン耐性遺伝子(

mtr

)の5‘末端側と3’末端 側で挟む構造になっている。この

DNA

により形 質転換されたカビをバスタ耐性で拾い、それがメ チルトリプトファン(実際の実験ではパラフルオ ロフェニルアラニンを使った)に耐性であるかど うかで相同挿入かどうかを判断する。図2はその 仕組みを説明している。

最初は野生株、

mus-51, mus-52

で実験を行なった

[4]

、その後やはり

NHEJ

で働く

LigIV

変異株

(mus-53)でも実験を行なった [5]。結果は表1に 図2 相同・非相同組換えの確認法

(3)

26

まとめられている。野生株が10%程度のターゲ ット率であるのに対して

NHEJ

変異株ではいず れの変異株でもターゲット率は100%であっ

た。特に

mus-53

株ではホモロジー部分が短くて

もターゲッティングがうまく行くことがわかっ (表1)

[5, 6]

表1 アカパンカビにおける

mtr

遺伝子での ターゲティング実験結果

mei-3 は相同組換え修復において中心的な役割をする遺伝子

である。Δは各遺伝子の破壊株である事を示す。( )内は酵 母のホモログ遺伝子である。

5.

考察と展望

本実験で明らかにされたことは、

NHEJ

で機能 するタンパク質をコードする遺伝子を破壊して おけば、細胞外から導入した

DNA

は100%が 染色体の相同部位に組み込まれるということで ある。この方法により生細胞の中の狙った遺伝子 を自由に改変できる。ポストゲノム研究で最も必 要とされた方法が確立されたことになる。現在、

アカパンカビ研究者のグループでは全ての遺伝 子をノックアウトするプロジェクトが進行中で ある。もちろん異なる生物では、遺伝子の導入法 や選択マーカをどうするか、相同部分の長さをど うするかなど、検討課題はあるものの根本的な方 法は

NHEJ

遺伝子の破壊株を宿主に使うことで ある。すでに多くの糸状菌で、この方法が極めて 有効であることを示すサポート論文がたくさん 出てきており、我々の論文は現在までに

6

0以上 の文献に引用されている。以後はこの方法を使っ た実用化が進むことを期待している。

参考文献

[1]

マリス・カペッキ

: “

遺伝子ターゲッティング

”,

経サイエンス

, No.5, pp.52 (1994).

[2] J.E. Galagan et al.: “The genome sequence of the filamentous fungus Neurospora crassa”, Nature, 422, pp.859-868 (2003).

[3] K.A. Borkovich et al.: “Lessons from the genome sequence of Neurospora crassa: tracing the path from genomic blueprint to multicellular organism”, Microbiol.

Mol. Biol. Rev., 68, pp.1-108 (2004)

[4] Y. Ninomiya, K. Suzuki, C. Ishii, and H. Inoue: “Highly efficient gene replacements in Neurospora strains deficient for nonhomologous end-joining”, Proc. Natl. Acad. Sci.

USA, 101, pp.12248-12253 (2004).

[5] K. Ishibashi, K. Suzuki, Y. Ando, C. Takakura, and H.

Inoue: “Nonhomologous chromosomal integration of foreign DNA is completely dependent on MUS-53 (human Lig4 homolog) in Neurospora”, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103, pp.14871-14876 (2006).

[6]

井上弘一: “糸状菌における遺伝子ターゲッティン グ 法 の 確 立

”,

生 物 の 科 学 遺 伝

,

別 冊

No.21, pp.296-298 (2007).

本研究は、(財)埼玉県中小企業振興公社「埼 玉バイオ」のサポートを得て、当研究室の石井千 津元助教授、及び以下の大学院生・学部学生の協 力の下に行なわれた:安藤良徳、石橋和真、鈴木 啓一郎、高倉千裕、二宮祐子(敬称略)

参照

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