CPA(CardiOpulmonary arcst)で 搬送 されたネフローゼ症候群の 1例
(日
赤医学 第 49巻 第 2号 19979)(227)
〈症例 報告 〉
CPA(cardiOpulmonary arrest)で 搬 送 され た ネフローゼ症候群の 1例
大田原赤十字病院小児科
小 林 靖 明 、大 森 さゆ 、佐 々木悟 郎 、上 牧 勇
キー ワー ド :ネ フローゼ症候群 、来院時心肺停止、
CPA(cardiopulmonary arrcst)、 DOA(dcad on a面
val)、ネグ レク ト
A
caseof nephrotic syndrome transported in
a stateof cardiopulmonary arrest.
Yasuaki KogeyRsur, Sayu Oruont, Goro SRsnxt and Isamu
Keuruarl
Division of Pediatrics, Ootawara Red Cross Hospital
は じ め に
ネ フローゼ症候群 による強度の浮腫 があるに も かか わ らず 、病院 を自主退院 したあ と自宅で療養 して い た 1歳 6か 月 の 男 児 が 来 院 時 ′ し 、 肺 停 止 (cardiopulmonary arrcst,CPA)の 状態 で搬送 され、
心肺 蘇生 に反応せず死亡 した。本児 の CPAに は さま ざまな要因が関与 している と考 え られ、若干 の文献的考察 を加 え報告す る。
症 例 症例 :1歳 6か 月、男児 主訴 :来 院時心肺停止
現病 歴 :1歳 1か 月時 に感冒症状 に続 いて眼瞼浮 腫 が 出現 、九州 の某病院 に入院 した。蛋 白尿 4+、
低 アルプ ミン血症 、高 コ レステロール血症 を認め、
高度 の浮腫 と合 わせ ネフローゼ症候群 と診 断 され た。 プ レ ドニゾロ ン開始後 1週 間で尿 蛋 白はい っ たん陰性 となったが 、その後再 び (+)と なった と ころで 自然食品 を用 いて 自宅で療養 したい とい う 家族 の強 い希望 が あ り自主退院 となった。 ステロ イ ド剤 を急 に中止 した場 合の病状 の悪 化の可能性
や、 自宅 での加療 は困難であることなどにつ いて の担 当医の再 三の説得 に もかかわ らず退 院のやむ な きに至 った。その後実家のある栃木県 に移 った が 、ステロイ ド剤 は全 く服用 されず、患児 は高度 の浮腫のため 自宅では寝 た き りの状態であ った。
某病 院退院後約 4か 月を経過 した平成 9年 3月 1日 午後 3時 頃 、バ ナナ と野菜 スープの食事 のの ち30分 ほ ど して呼吸 を してい ない ことに祖母が気 付 い た。近医 に連絡 をとったあ と、午後 4時 30分 に心肺停止状態で当院救急外来 を受診 した。
来院時現症 :来 院時 ,全 身 の著明 な浮腫 を認 めた (図
1)。体温 は保 たれてい たが、意識 は な く体動 や痛覚刺激 に対す る反応 は全 く見 られなか った。
来 院時検査成績 :全 身単純 レン トゲ ン写真 (図 2) では、全 身の皮下浮腫 に加 え、腹水 による腹部膨 満が顕 著 で、胸廓 は下方 よ り著 しく圧排 されてい た。このため肺野 の含気量 は著明 に減少 していた。
頭 部 CT(図 3)で は皮下浮腫 を認めたが、頭蓋内
に明 らか な梗塞や出血 はなかった。血液採 取が困
難で あ ったため、腹水 を採取 した (表
1)。性状 は
白濁 していたが血性で はな く、 また細菌 は検 出 さ
れ なか った。腹水 の生化学 は血液所見 をある程度
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反映 してい る と考 え る と、 K75 mEqハ と高 カ リウ ム血 症 の存 在 が疑 われた。 一方BUN15 6 mg/dl、
ク レアチニ ン
0.5 mgノdlと、腎機能障害 の存在 は否 定 的で あった。
受診後 の経過 :直 ちに心 マ ッサ ー ジ、気 管 内挿管 を行 い蘇生 を試みた。挿管の際 、喉頭 に食物 と思 われ る ものが残 っていたが、気道 を完全 に開塞す る所見ではなか った。 さらにボス ミン心腔内注入 を行 つたが 反応 な く、15分 後 に死亡 を確 認 した。
外 傷 はみ られず 、間診 か ら不審 な点 はみ られ ない こ とか ら、検視 の結果病死 と判断 された。
考 察
小 児の CPA(い わゆる DOA)症 例 の中で ネフ ロ ーゼ症候 群 が原 因で あ る こ とは まれで あ る
1)。小林靖明、大森 さゆ、佐 々木悟郎、上牧 勇
水 田の報告
2)による と、小児 D O A325例 の原 因疾 患 で は乳 幼 児突 然 死 症 候 群 が 446%と 最 も多 く、
つ いで溺死・窒息 な どの事故 203%と なってい る。
基礎疾患 を有す る患児の DOAは 全体の 168%で 、 内訳 は多い順 にてんかん 。頭蓋内出血 な どの中枢 神経 系疾患52%、 喘息 ・肺炎 な どの呼吸 器系疾患
4.9%、
先天性心疾患 ・急性心不全 な どの循環 器系
疾 患4.6%な どとなってお り、統計上 ネフローゼ症 候群 はみ られ ない。本症 において浮腫 の強 い期 間 は、入院加療 されていることが ほ とん どと思 われ るが、今回の症例 は 自然食品 を用いて 自宅で療養 した とい うきわめて特殊 な状況 にあつた。 しか も ステ ロイ ド剤 を極端 に忌避 し、 自宅では全 く服用
させ てい なか つた。
ネフローゼ症候群 において、心肺停止 に至 り得
図
1患児の全身写真 図 2 単純 X線 写真
PA(CardiOpulmonary arrest)で
搬送 されたネフローゼ症候群の 1例
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赤医学 第 49巻 第 2号 19979)(229)
る シ ョックの成因 と して、主 に以下の 3点 が いわ れてい る
3)。1っ は低 アルブ ミン血症 による循環 血漿量 の低下である。本症例 はネフローゼの病 初 期 では なか った ものの、高度 の浮腫 が長期間続 い ていた こ とか ら循環血漿量低下が慢性 的 に持続 し ていた と考 え られ る。 2つ め は長期大量 ステロイ ド剤投 与後 の副腎皮 質機能不全であ るが、 これに つ いてはプ レ ドニ ゾロ ンを長期 内服 してい ないた め該 当 しない。 3つ め は腹膜炎 な どの感染症 や利 尿 剤 使 用 に続 発 す る二次性 ネフ ローゼ急 症 で あ る。本症例 では腹水 に細菌 は認め られ なか った も のの、他 の感染症 の存在 は否定で きない と思 われ る。
一方本症例では通常の入院加療 においては考 え られ ないほ どの高度 の浮腫 を伴 ってお り、著明 な 腹水が下方 よ り胸廓 を圧排 していた。 また高度 の 浮腫 に よ り呼吸運動 は市U限 され、 これ らによ り慢 性 の呼吸不全 を合併 していた もの と思 われる。 そ
して感染あるいは誤飲 を契機 に呼吸不全が進行 し、先 に述べた慢性的な循環不全 も加わ り、シヨ ック症状さらには CPA、 と進展した可能性が考
えられる。
小 児医療 において、近年ス テロイ ド剤 を極度 に 拒 絶 す る傾 向は本症例 に限 らず しば しば見受 け ら れ る。本症例 は病 初期 にステロイ ド剤 に反応 した こ とか ら、本剤 を用い ることな く不幸 な転帰 をと つた こ とは大変残 念 な結果 とい わ ざるを得 ない。
民 間療 法へ は じる家族への指導の重 要性 と難 しさ を改 めて痛感 した。 ネフローゼ症候群 をは じめ と す る さまざまな難治性疾患 に対す るステ ロイ ド剤 の有用性 は論 を待 たない。 われわれは どの ような 態度 を とる家族 に も、適切 に用 い られた場 合の本 剤 の有用性 を正 しく理解 させ る ように努め なけれ ば な らない と思 われた。
また今回の症例 の ように、難治性疾患 をかか え た患児が 自主退院 になった ときに、その後医療 機
表 1 腹水検査所見
pH 70
比 重 1007
Na 138 mEq/1 K 7.5 mEq/1 Cl l19 mEqハ BUN 15 6 mg/dl CRTNN O.5 mg/dl
蛋 白 11l mg/dl
細 菌 陰性
図 3 頭部 X tt C丁 像
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