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二つの伝統工芸を融合させた新ブランド開発 : 新 ブランドNARUKOの開発を通して

著者名(日) 桂 雅彦

雑誌名 宮城教育大学紀要

巻 44

ページ 73‑84

発行年 2009

URL http://id.nii.ac.jp/1138/00000134/

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1.はじめに

 宮城県が日本に誇る伝統産業をいくつも抱えている が、同じ地区に二つの国指定の伝統産品が存在するの は、全国的にも珍しい。温泉地として有名な鳴子である。

 しかしながら、当該工芸品の受注が年々低迷し、20 年前と比較すると約半分の出荷額となっている。ま た、後継者の問題もあり、貴重な財産が失われる可能 性が大きくなってきた。これは単なる地域産業の問題 ではなく、県や国の文化性が希薄になり、教育上も大 きな問題になると思われる。

 そこで、同地域にある2種の伝統工芸の良さを融合 させ、それぞれの特性を活かし、従来にはない新しい 商品を展開させることをジャパンブランド支援事業に おいて実施した。新しい伝統性として解釈できるよう に取り組み、新しい鳴子のイメージを構築してより総 合的な「NARUKO」としてのブランドづくりを行っ

た。単純な新しい商品としての位置づけではなく、観 光資源としての対外的イメージをより良い方向に向か わせる方法論としてもこのブランドには意味があると 思う。メディアに取り上げられ、既存の伝統工芸やこ の温泉地としての魅力を再認識してもらう機会になれ ば、地場産業の振興にも十分寄与することができる。

 まず、先行して進んでいる他県のジャパンブランド 支援事業の現状を参考にし、我々がどのような視点に おいて考え方をまとめなければならないかを導くこと にした。それぞれのブランドコンセプトとその背景、

問題点、生産体制と販売システムの内容などについて 確認することにより現実的なブランド開発の研究がよ り明確になる。

 先進地視察とともに全体的な市場動向と時代性につ いての調査を行った。特に欧米のマーケット向けに開 発することを想定しているので、前提条件として、コ ンセプトを形成する上でとても重要になってくる。 

  新ブランド NARUKO の開発を通して  

* 桂     雅  彦

New Brand development to fuse two traditional crafts.

 KATSURA Masahiko

要 約

 本研究では、宮城県の鳴子地域に存在する二つの伝統工芸である「木地玩具」と「漆器」を融合させ、海外での 市場でも通用する新しいブランドを開発した。使用素材、制作手段の違う数百年を伝統にするそれぞれの技法をい かに融合させるかがポイントになった。結局、パーツごとにそれぞれの技術を活かした表現を行い、ジョイントし て一つの製品に仕上げるという、積み木のような遊び心で多くのバリエーションを可能にする今までにない方法で 商品化した。ブランドコンセプトは、自然との共生感を基本にした鳴子のライフスタイルそのものの LOHAS であ る。

          Key words :  鳴子温泉・木地玩具・漆器・融合・LOHAS

*  美術教育講座

(3)

 試作段階では、様々な表現パターンを確認して可能 性を探り、商品化の段階に関しては、より販売性を意 識した内容で展示会に出す。まず、2008年度の事業で 国内の展示会においてお披露目し、2009年度において 海外の展示会に出展し、外国のマーケットにおいて通 用するかどうか確認する。また、実質的な販売ではな く、数字では計れない効果として、メディアに取り上 げられて、鳴子の地域としてのブランド性が高まるこ とを期待するものである。

 本研究は、単純なブランド開発という観点ではな く、伝統産業を再編成し、新しいブランドとして組み 立てる前例をみない開発事例として今後の伝統産業の 育成に関わる参考になれば良いと考える。

2.鳴子の伝統産業について

 大崎市鳴子温泉は宮城県北西部に位置し、豊富な泉 質で全国的に知られる鳴子温泉郷と、奥の細道に詠ま れた尿前の関などの歴史資源などを有し、古くから保 養と観光の地として栄え、年間約400万人の観光客が 訪れている。しかしながら、観光客は平成3年に比較 すると大きく減少している。

 平成18年に古川市他全7市町と合併をして大崎市と なった中で、鳴子地域の活性化には広域連携や地域の 魅力づくり、全国に向けた情報発信、さらには今回の テーマである国指定伝統的工芸品の「こけし」や「漆 器」などの豊富な地域資源との融合・展開が必要不可 欠となっている。

⑴ 鳴子漆器の歴史と特徴

 江戸時代の初期に、現在の宮城県鳴子町に当たる地 域を支配していた領主が、地元の漆器職人と蒔絵職人 を京都に修行に遣わし、鳴子漆器の振興を図った。18 世紀後半の書物には塗物、箸、楊枝等が産物として書 かれており、漆器が鳴子の主要産物であった。

 昭和26年、沢口悟一氏(「日本漆工の研究」の著者)

が古来の墨流し技法を応用した龍紋塗を考案して、産 地形成の発展に貢献している。平成3年に経済産業大 臣指定の伝統的工芸品に指定になった。鳴子漆器の手 法は、木地呂塗、むら雲塗、拭漆塗り、塗立て、さら には龍紋塗などがある。いずれも日用雑器類で、ぼっ てり感があり、素朴と温かみなど東北らしさを感じさ

せる器が多い。

⑵ 鳴子こけしの歴史と近況

 鳴子におけるこけしの歴史は古く、江戸末期には木 地玩具、漆器が売られていた記録もあり、湯治客を相 手に山々の良材を活用しながら木地業を大きく発展し ていった。こけしはこのような木地師が創りだしたも のであり、現在は「鳴子系こけし」として伝統こけし の代表的な地域として至っている。昭和56年に宮城の 伝統こけし(鳴子系・遠刈田系・弥治郎系・作並系・

仙台系)は国の伝統的工芸品として指定された。

 鳴子系こけしの特徴は大きな頭、中程がやや細く安 定感のある形と菊の胴模様、首を胴に差し込んだ「は め込み式」の構造も大きな特徴で、首を回すとキイキ イと音を出すこともよく知られている。

 昭和23年から開催された全国こけし祭りは、伝統こ けし最大の催し物として受け継がれ、今年で第55回を 迎えている。戦後、鳴子こけしが人々との交流の中で 発展し、地域の活力源としても担っていた。

⑶ 現状と問題点

 鳴子こけしの事業数の推移は、平成9年には44あっ たが平成17年には、38まで減少している。また、従事 者数は、平成8年に94人であったが、平成17年には、

56人まで減少している。生産額では、平成6年には3 億3千万円あったが平成17年は、1億450万円にまで 低下している。従事者が約半減し、生産額は、3分の 1にまで減少しているということだ。観光客も平成4 年に400万人を超えていたが、平成17年には、205万人 と半減している。さらに、地震の風評被害でより減少 傾向があるのが昨今である。

 温泉自体には魅力があるものの、宿泊施設、食事、

文化的環境、リピート性を高くする為の工夫などがさ れておらず、新鮮味ある観光資源がより必要とされて いることは推測される。話題性があり、メディアに取 り上げてもらうことにより、より観光地としての注目 度が増すことも重要な課題である。

3.他産地の取り組み

 ジャパンブランド支援事業において、他産地の状況

を把握した上で、コンセプトを作成し、独自性をより

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強く推し進めることができるように戦略性を持たなけ ればならない。まず、東北の産地で漆器を主体とした 取り組みが弘前と会津で行われていたので簡単にまと めておきたい。

⑴ 弘前 津軽塗「うるおい、うるわし」事業プロ ジェクト

 弘前の事業プロジェクトの副委員長の今氏、委員で ある木村、小笠原、小松、大橋委員と事務局の弘前商 工会議所の小林、村谷氏からお話を聞くことができた。

 弘前では、漆器という大量生産をとりにくい業態の 為、マスマーケティングというよりもワントゥワン マーケティングをコンセプトする。

 工人は、デザイナーと対等な立場で製品を制作する ということが重要で、直接ユーザーと話をすることで 必要なものを提供するという自分で消費者の意向を含 めた商品開発を行う。

 津軽塗という独自の表現を海外含めて多くの方に見 てもらい、それをどのような商品に展開するかを個別 に行うことで素材がブランドであるということを基本 理念とする。

 海外に向けて漆器という素材についての理解は日本 ほどないが、表現としての高い評価はいただいてい る。実際の日用品として扱いがデリケートであった り、気候の関係等のマイナス面もあるが、地道に津軽 塗の素晴らしさを見てもらうと反応は、少しずつ増え ると考えられる。実際、イタリアの家具のメーカーか らの引き合いがある。

 体制としては、任意の団体で若手の工人が主体的に 運営している。長期的なスパーンで大きな流れを作っ ていることが目標である。また、対外的な組織づくり が重要で、職人が中心となった自由な体制ができない と従来の動きと同じになってしまう。

⑵ 会津 BITOWA

 委員長の市橋氏、副委員長の遠藤氏、会津若松商工 会議所の結城、大越氏に話を伺うことができた。

 会津では、「ホテルライクで上質な生活の提案」を 基本コンセプトとした BITOWA が発表されている。

伝統を生かして和のテイストを盛り込んだ質の高いホ テルで暮らすようなイメージを生活空間に取り入れる ことをコンセプトにした。あえてテーブルウェアは外

して女性向けのリビング、サニタリー用品が主になっ ている。海外の展示会では、蒔絵の反応が大きかった が、トータルとしてブランドの魅力を創出していきた いということであった。組織的には、同業者組合の青 年部が受けているが、地場産業の現状の厳しさと伝統 技術を後世に受け継ぐことを目的として、若い人たち に夢を持ってもらうような観点からもこの事業の意義 がある。観光資源としての意味合いは、それほど強く なく、あくまでも一つのブランドとして商業的に成功 を収めることを目的としている。認知度を高めるため に広報活動が重要であるが、できる限り無償の記事扱 いとしてデザイン関連や婦人雑誌などに掲載してもら うことを念頭に置いている。それもふまえ、全体的な プロデュースとして桐山登士樹氏にお願いし、塚本カ ナエ氏に全体のデザインワークを担っていただいてい る。今後の問題点として事業費負担金を工人が支出で きるかどうかの現実的な課題が浮き彫りになる。構成 員の温度差があるようだ。

4.市場・ライフスタイルトレンド

⑴ 日本の漆器市場の現状

 日本の伝統産業に中でも japan と称されるように代 表的な存在である。世界に誇るべき技術であるが、ラ イフスタイルの変化、不況の影響を受け、著しいマー ケットの縮小が起こっている。生産工程が複雑で、細 分化され、家内制手工業である工人が支えている。流 通は、旧態然とした独特の問屋制度が残っていて、新 しい製品を生み出す背景に乏しい。樹脂に木粉を混ぜ て大量生産する業務漆器に関しては、価格が廉価であ り、流通や生産体制が一般の工業製品のように近代化 されているが、本物の漆器に関しては、集約化や効率 化が他産業に比べて著しく劣っている。

 生活空間の中で考えてみた場合、日常使いでは、食

器としてお椀やお盆、菓子鉢などに漆器が主に使用さ

れてかなり限定的なイメージになっている。特別な席

で使用するハレの器や芸術品としての扱いでの作家物

としての扱いが多い。家具にも展開されているが従来

の漆器のイメージを変えるまでには至っていない。注

目されるブランドとしては、工業製品的手法で、廉価

であり、乾燥した気候条件でも問題なく使用できる木

簡という手法を用いて、斬新な色使いや表現で成功し

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ている例がある。山中漆器でジャパンブランド支援事 業にも参加していた NUSSHA や仙台の木村浩一郎氏 による art-craft である。NUSSHA は、着物の生地を 使用した独特のビジュアル表現がヨーロッパのバイ ヤーの目に留まり、販売を伸ばしている。木村氏のデ ザインは、アート的な表現をテーブルウェアに持ち込 み、伝統的なエッセンスとアバンギャルドな未来的指 向性を独自に展開している。どちらにしても共通して 言えることは、古典的な漆器の生産手法ではなく、廉 価で気候条件に左右されないが、スプレーで塗りを行 う簡易的漆器(漆の成分は、含まれている)であると いうことと、従来の感覚とは違うブランドの個性が しっかり形成されているのが成功の所以であると考え られる。

⑵ ライフスタイルと消費動向

 現代の抱える時代のキーワードとして、環境問題が 大きく取り上げられる。資本主義経済の行き過ぎによ る経営破綻による不況も重要な時代性である。どちら にしても言えることは、本質的でないマネーゲームに よる負の面が大きく露出したことによる結果であると いえる。CO2削減に鳩山政権も世界に恥ずかしくな い目標を掲げ、地球環境を守るための様々な政策を打 ち出す努力を明言した。特に、異常気象をまともに受 ける日本では、より深刻な事態であると考えられる。

日本は、もともと自然と共生した生活を基本とする農 業立国であった。木製の家屋で生活し、自然素材を大 切にする健康的な生活を当たり前のように行ってきた 民族でもある。欧米の大きな流れとして、ロハスとい う考え方が主流になりつつあり、持続可能な健康的な 生活を目指す動きが顕著になっている。ロハスとは、

Life of Health and Sustainability の略である。1990年 代からエコロジー意識が高まってきたが、環境破壊を 食い止める保護的な動きではなく、次世代に繋げてい く持続性の考え方が重要になってくると考えられるよ うになってきた。このことからも伝統性や民間におけ る数百年にわたって継承されてきた技術、産業を大切 にする、評価する観念も確実に向上していると言って 良い。ロハスの製品に対する考え方として、信頼性が とても重要になっている。材料、組成、成分が人間に 優しいものであるかどうか、生産プロセスはどうなの か、適正な価格設定がされているかどうかという、安

全・安心が表現されていなけれればならない。

 消費トレンドであるが、体や精神を美的にケアする とともに文化的上昇志向が強くなってきている。自分 の感性に合った満足感が得られるものが特に重要で、

安いから良いという観念でなく、高くても納得できる 価値相応のものを良しとする傾向がある。ただし、ユ ニクロのように正統的ファッショナブルなイメージ戦 略と素材研究、効率化を駆使して安価で使いやすい機 能性の高い商品を提供することで成功している事例も ある。素材がしっかりしていて、オーソドックスな形、

カラーバリエーションが豊富で自分色を選択できる手 法をとっている。特に、広告宣伝に質の高いセンスの 良い表現を徹底しているので、安物というイメージ は、確実に排除することができリッチな人間も堂々と 入店できる戦略性が成功していると思う。このように 大量生産におけるイメージ戦略が徹底された廉価商 品、少量生産における独自性に富んだ高級化という二 極化がマーケットを構成している。

 鳴子における商品は、後者の類いをしっかりと追求 し、高くても購買意欲を十分そそるような観点から マーケットに臨まなければならない。

5.ブランドコンセプト

⑴ コンセプト立案の背景について

 コンセプトを立てる上で、前提条件として考えなけ ればならないのが、二つの伝統産業が観光地である鳴 子に存在するということ。それぞれの伝統産業は、衰 退化が進み、後継者問題が大きくなってきている。観 光資源としても重要な要素であるので、地域経済全体 的な危機的状況になりつつある。そのことを地元の人 間は、十分に理解できていないことと、非常に脆弱な 経済状況である上で、一つのブランドが良い方向に向 かわせることができるパワーがあるかどうかだ。従来 型の補助事業に対しては、地元の組合では、信頼性が 乏しい。特に、木地玩具組合からは、不信感と技術的 な問題から協力関係が得れないこととなってしまっ た。しかしながら、個人的に木地玩具の作家である桜 井氏の協力を得ることができた。

⑵ ライフスタイルと消費動向から考えられること

 先に述べたライフスタイルと消費動向から自然との

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共生感、、環境に配慮した考え方、安心・安全を十分 に感じられる健康的でより文化性に富んだ美的生活を 実現できるためのファクターとして認識が反映されて いることが重要だと思われる。また、鳴子地域の生活 感や本物の自然素材を大切にする伝統的産業を元にす ることで、現在のトレンドにそのまま合致する背景が あると考えられる。

⑶ ブランドコンセプト

 鳴子地域の自然との共生観は、日本人が元来持って いた精神性である。人間が元々自然の一部であること を忘れた配慮の欠落により、環境を破壊してきた結 果、生命体としての地球が病んできたことになる。こ のような背景から、LOHAS の概念をベースにした ORGANIC をコンセプトにする。グリーンを室内の置 くような感覚で、新しい商品をリビングに飾ってもら うことを考えたい。何となく、落ち着いてホッとする 空間を演出する為の要素として捉えることができれば 良い。また、木地玩具と漆器の組み合わせという特に イメージとしては、木地玩具の玩具性における遊びの 考え方も重要な要素としてコンセプトに取り入れる。

 ターゲットは、ナチュラルなテイストを好み、自分 らしい個性的な生活空間をクリエイトしているこだわ りを持った人種を設定したい。あまりに奇をてらわ ず、飽きが来なくて永年愛せるようなオーソドックス であるが主張のある空間に溶け込んだ商品にする。

6.デザインコンセプト

⑴ 二つの伝統産業の融合

 本研究において、非常に重要なのは、二つの伝統産 業の持っている違いをいかに融合させるかである。同 じ木を素材としているが違う種類の木を下地として使 用し、全く違うプロセスにおいて一つの商品が出来上 がる。こけしを代表とする木地玩具は、あくまでも飾 り物としての存在意義があり、漆器は、基本的に日常 的に使用される道具として考えられる。機能性があ り、目的がはっきりしている。また、漆器の製作プロ セスは、30工程も必要とする時間、手数の掛かる作業 が必要になる。その全く違う伝統技術を一つの商品に 取り入れるのは、基本的に難しい。例えば、こけしの 一部を漆塗りにするとか、漆器にこけしの装飾性を盛

り込んで新しい表現にして行くことは考えられるが、

作業の流れとして不都合がどうしても生じてしまう。

従来の手順を変えることなく新たな融合した商品にな るように工夫することが必要になってくる。

⑵ プラスという思想

 一つの単体内での融合化する方法論では、作業上か なりの無理があることは、上記で述べたが、それを解 決する策として、別々のパーツをそれぞれの技術を駆 使して作成し、それを組み合わせて一つの商品とする ことである。木地玩具の工人さんも漆器の工人さんも 一人一人独特の技術、表現を持っている。それをしっ かり活かす為には、パーツをそれのぞれの独自性にお いて表現し、最後にバランス良く組み合わせるのがよ り良い効果が生まれると判断した。

 また、それは、玩具性の遊びの精神と繋がる。同じ 形態のパーツを様々な表現の漆塗り(鳴子では、龍紋 塗り、木地呂塗り、叢雲塗り、拭き漆、研ぎ出しなど 多種の表現技法を持つ職人さんがいる。)と鳴子系の こけしに装飾する花柄やボーダー等を新たな考えにお いてアレンジした表現の物を作りネジ止めで繋げてい く。いわば、積み木的な自由なアレンジで、無限大の 組み合わせを楽しむことができる。異種混合でそれの 良さが対比的に確認でき、それが結果的に新たな表現 として認知される独自の表現形態として近未来的なス タイルを構築することが可能になる。

 従来、このような作業は、あってしかるべきである があまりにも亜流的に捉えられていたのであろう。正 統的な発想ではないかもしれないが、結果的に生活者 が満足する物として、価値観を感じさせる商品として 誕生すれば良いのである。そのプラスの思想を概念図 としたものがあるので以下に示す。

 デザインコンセプトをまとめてみると  ・積み木の概念

 ・パーツを積み重ねる

 ・遊び感覚の多様なバリエーション  ・オーガニックなフォルム

 ・表現の違いを対比的に楽しめる

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7.デザインワーク

 コンセプトに基づいて具体的なデザインワークの作 業(具現化)に入っていった。イメージとしては、有 機的なラインを表現し、積み重ねることが可能なフォ ルムのパーツで構成されていることを念頭に進めた。

アイテムとしては、ヨーロッパの市場を意識した内容 として、リビング関連の商品をまず製作し、ある程度 ボリュームのある展示会映えするフォルムとコンセプ トがより明快に伝わることを重視した。日本では、一 般的でないが、ヨーロッパではキャンドルをよく使用 している。また、フルーツの盛り器として、コンポー ト、花生け、コーヒーテーブル、照明器具を中心に考 えた。

 生地玩具の製作で必須なのが轆轤技術での絵付けが 可能なものに限り、木地製作上可能なフォルムを考え た。

⑴ 光造型による試作

 上記の考え方により様々なアイデアスケッチを重

ね、ウェーブラインの躍動感のあるフォルムを基本に

することにした。スケッチを図面にして宮城県産業技

術総合センターの協力を得て、光造型による試作を

行った。以下がキャンドルスタンドと照明器具の図面

と試作品の写真である。

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⑵ 商品製作

 光造型の試作によりボリュームとイメージの感覚が つかめたので、表面処理を漆や木地玩具の絵付けなど により実際の木地における試作段階に入った。様々な 漆の表現や木地玩具の装飾性の組み合わせによる実際 の商品レベルの物を確認することができる。かなり、

多種の表現を試みたので、一部の試作品を次に示す。

・コーヒーテーブル:天板が漆の研ぎ出し、台部は、

黒漆仕上げ。脚のパーツは、木地玩具の職人さんによ る独自のボーダー模様を表現。

・コンポート:朱の漆の天板部と脚のパーツは、木地 玩具のボーダーと黒漆仕上げのサンドになっている。

台部は黒漆仕上げ。

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・キャンドルスタンド:左が木地呂塗りと龍紋塗り、

ボーダー仕上げ、黒漆仕上げの組み合わせ、右が木地 呂塗りと黒漆仕上げ、グレーのボーダー、の組み合わ せ。

・花生け:本体が黒と朱の漆研ぎ出し仕上げ、台部が モノトーンのボーダー仕上げ。

・キャンドルホルダー:木地玩具の技法を使用した花 柄の仕上げ。(デザイン:梅田弘樹氏)

 以上がオーガニックラインを基本にした代表的な本 ブランドの商品である。

8.ブランドのネーミングと VI

 ブランド開発において商品開発だけでなく、そのブ ランドを象徴するネーミングやそれに伴うロゴタイプ デザイン、マークのデザインが重要になる。そして、

それを様々な広報ツールに展開してブランドのコンセ プトやイメージを訴求していくことが社会に対して認 知させる方法として欠かすことができない。

⑴ ネーミング

 このブランドのコンセプトは先に述べたが、今一度 整理すると

① 鳴子という全国的に有名な温泉地にあるということ。

② 単純な商品開発ではなく観光資源としてのブランド 性も合わせ持つものである。

③ 二つの国指定の伝統産業を融合させるということ。

④ 木地玩具(こけし)と漆器の双方の良さを最大限引 きだすデザインとする。

⑤  LOHAS をコンセプトにしてオーガニックなイメー ジを表現する。

 というポイントを受けて、ネーミングとして考える

のは、鳴子という地名がとても重要になってくるとい

うことだ。文化性やコンセプトを反映する独自のネー

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ミ ン グ を 考 え る 方 向 性 も あ っ た が、そ の 土 地 柄 も LOHAS の概念を表現しうることから、非常に単純で あるが「NARUKO」という欧文体に決定した。

⑵ ロゴタイプ・シンボルマーク

 ネーミングを受け、それを具現化することとして、

ロゴタイプとシンボルマークのデザインに入った。イ メージとしては、かなり基本的なオーソドックスな感 覚がブランドを象徴する上でも大切なので、奇をてら わず、プレーンであるが都会的な緊張感のある質の高 さを示すことができるような考え方で進めた。当初 は、既存のフォントをアレンジすることも考慮に入れ たが、独自に直線を基本構成にしてモダンな遊び心が あって固くなり過ぎない、オーガニック性も含めた表 現に持っていき。何度も微調整を加えながら最終的な ロゴタイプを決定した。

 シンボルマークは、様々なパターンのアイデアス ケッチを重ねたが、表現の基本は、二つの融合をシン プルかつ効果的に視覚化することと。フラットなグラ フィックではなく、立体的な質感を伴うパターン(漆 のようなとろっとした質感)を表現した。以下に示す 内容が最終決定したロゴタイプとシンボルマークであ る。

⑶ 広報ツール

 決定したロゴタイプ、シンボルマークを使用して 様々な広報ツールを開発しなければならない。基本的 なイメージとしては、二つの技法の融合を積み重ねる というデザインコンセプトに則って表現すること。

オーガニックなイメージラインでより象徴的なグラ

フィックにて展開する。以下が、名刺のデザインとチ

ラシのデザインである。優しいウェーブラインに技法

の違うパーツが合わさっている表現を両サイドに施し

た。

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9.国内の展示会出展

 海外の展示会への出展を目指し、市場を広げるとい う趣旨のジャパンブランド支援事業で進めているブラ ンド開発であるが、現実的には、国内の市場も十分考 慮しなければならない。2008年度においては、11月20 日 〜22日 に お い て 東 京 ビ ッ グ サ イ ト で 開 催 さ れ た IPEC に参加した。

 IPEC(INTERIOR PRO EX CO)は、インテリア のプロと企業を繋ぐ国際展示会とセミナーを開催する イベントで、国内外から多くのバイヤーやインテリア デザイナー、プランナーなどが来場する。海外を目指 す上での参考意見やブランドの評価などを直接いただ く良い機会だと判断した。

 次に示す写真が、私がデザインした出展ブースであ るが、ブランドの考え方や出展の商品、ブースのデザ インなどを高く評価され、IPEC 大賞奨励賞を受賞し た。来場された方々から、デザインの独自性、魅力な どを高く評価していただいて、取り扱いたい旨の商談 も多く寄せられた。特に、こけしの愛好家からの良い 印象が多く一つのマーケットとして存在することが確 認できた。しかしながら、安定した生産能力と販売体 制に関して、多くの問題点があり、これからの大きな 課題になっている。

 予算上の問題などがあって約3mの奥行きと約3m の巾の小さいブースでの表現になったが、より印象度 が高く、インパクトのある空間にしたかったので、壁 面を商品の写真をより効果的にグラフィック化し、

キーワードを施す程度のシンプルな感覚にした。ま た、ボックス上の展示台に商品を並べて漆などの質感 が感じられるようにライティングも考えた。

 IPEC の展示発表での来場者やインテリアショップ のオーナーから様々な意見をいただいた。コンセプト はとても評価できるし、デザインは魅力的であるとい う印象があったものの、価格面では高すぎるという商 品としてのレベルまで到達していないのが現実だと思 われる。

10.海外での展示会

 本格的な展示会は、2010年1月に予定されているフ ランス パリのメゾン・エ・オブジェ展に参加する が、それまでにもジャパンブランド展として参加して いく方針である。2008年12月のニューヨーク展、2009 年1月のパリ展、2009年2月のニューヨーク展に参加 した。実際の取引には発展していないが、独特のグラ フィック表現や造形性に興味を持っていただいている ようで、今後のプライス設定と新商品の追加でよりブ ランド力を高めなければならない。

 予定しているメゾン・エ・オブジェ展であるが、世 界150カ国からバイヤーが訪れ、7万人を超える業界 関係者が来場する世界有数の国際見本市である。パリ ノール見本市会場で行われ、会場面積が約20万㎡に達 する。余裕持った広さで3コマ程度の見せ方で検討し ている。ブランドコンセプトがいかに欧米の方々に伝 わるのか、商品として魅力があるのか。日本の文化で ある伝統産業を十分理解してもらえるのかが問われる。

11.メディア戦略

 ジャパンブランド支援事業に参加している産地は、

全国に多くあるがその中でも NARUKO が、それを取

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り上げたデザイン誌 CasaBRUTUS で大きく取り上げ ていただいた。コーディネイターの長山智美氏にコー ヒテーブルが絶賛され、鳴子にも取材に行っていただ いて、様々なアドバイスもいただいた。このように、

影響力のあるメディアに記事にしていただくのが知名 度を上げる為にも有効であり、海外の展示会の実施に お い て も 多 く の メ デ ィ ア に 取 り 上 げ ら れ て、

NARUKO ブランドの魅力をより多くの方々に知って いただくことが商業的にも成功する上で有効になると 思う。特にターゲットに近い方々が購読しているデザ イン性の高い婦人誌等も記事にしていただけるように 話題性を持って展開させたい。

12.今後のデザイン展開

 二つの伝統産業を融合するのをパーツに分けてそれ を組み合わせながら一つの商品を作成するという基本 は変わらないが、造形的に違うパターンの展開もアイ テムのボリュームを増やす上で必要になってくる。従 来のパターンでも、アイテムを増やす必要性があり、

特に、照明器具などがポイントになってくる。

 新たに考えているパターンとしては、積み重ねをよ り造形的に魅力的にすることと、合わせ面が正確に あっていなくても多少の融通が利くようなデザインで 行うこと。オーガニックな要素が無くならないように 優しいイメージの手触り感の良い面を作っていく。

 また、違うパターンとして考えているのが、こけし に使用されている造形をそのまま流用するということ だ。球状の頭部とシリンダー状の胴部でできている

「こけし」であるが、その単純な形態の組み合わせを 商品に応用できないかということだ。ややオーガニッ クな造形性から外れるかもしれないが、素材感やテク スチャーからシンプルなラインであれば、グラフィッ ク表現も活かされるので良いのではないかと考えられ る。以下に、その図面の一部を示す。

・Tray: シンプルな円板状のトレイに球状の木地玩具 のパーツが足として付属する。

・CandleStand:シリンダー状のパーツと球状のパー ツが交互に接続される。基本的にシリンダー状が漆 塗りで球状のパーツが木地玩具のボーダーと花柄の 組み合わせになる。

・Bowl:丸い漆塗りの本体に木地玩具のボーダー表 現で作成した足が付く。

1610

1mm 程下げる 35

φ400

30

φ43

40

90 度間隔でコーナーに4つ装着する。

φ70

φ70 φ26

35

7066 6

φ180

25

CandleStand01 S=1/1 20Jun2008 M.Katsura

R 108

R 108

150

φ 216

φ 195 φ 45

33

9090

φ112

30 3

φ112 φ74

58

CandleStand02 S=1/1 20Jun2008 M.Katsura

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・CandleStand:楕円球を半分に切断したような形状 で積み重ねる形状が独特な造形性を楽しめる。交互 に同じ形状のパーツを使って漆塗りと木地玩具の ボーダーなどを組み合わせて使用する。

13.まとめ

 一つのブランドをしっかり構築することは、簡単な ことではない。特に、衰退化している地方の地場産業 を土台にしてブランド化するということであるので、

体力の無い状態で現実的に可能かどうか難しい面も見 えてくる。生産能力やシステム化する上での人員や体 制の問題が大きくのしかかる。デザイン性が良くても 良質の製品を需要に合わせて供給することができて初 めて流通する商品として認められる。しかしながら、

このまま日本の財産である伝統文化が無くなってしま うことには、大きな損失を招くことになる。伝統産業 は、一つの文化である。その土地ならではの歴史性や 自然環境、美意識、感性などがそれを発生させ、今日 まで持続してきたものである。産業活性化がしっかり できるように地方自治体や国がしっかりした援助を 行ってこそ、復活できるのではないだろうか。この ジャパンブランド支援事業も経済産業省から補助金が 出ている事業だが、より継続させることにより可能に なるので、数年の取り組みでは、鳴子のような経済基 盤の乏しい地域ではなかなか難しい。

 ブランド化の一つのねらいは、地場産業活性だけで なく観光産業の活性にもある。元来、温泉地として有 名である観光地なので、低迷している来客数を増加さ せることで全体の経済状況を良くさせる効果もある。

その為にもあえて NARUKO というネーミングにし、

独特にデザイン性と取り組みに対して注目されること になれば、観光客も増加する一つの要因になると考え ている。

 本研究の目的は、二つの伝統産業を融合化して一つ の製品にする試みの新しいブランド開発であるが、日 本各地にある伝統技術をライフスタイルの変化や伝統 的なものに対して理解度が低い次世代の若者に価値を 認めてもらう為にも単純に従来型の商品を作成し続け るのは意味がない。よりその技術を応用し、より魅力 的な商品として進化すべく努力を怠ってはいけない。

持続性のある産業にする為に既存の考え方を改めるこ

とも必要になる。

 また、融合のさせ方としてそれぞれの今まで培って きた伝統性を尊重して、それぞれの良さを引き出しな がら目的性を変えること(例えば、今回は、こけしと いう置物の技術を機能性のある生活器に展開するとい う試み)を行うことになった。ある意味で、伝統を守っ てきた工人さんにとって手慣れないものを作ることに 対する抵抗感はあると思うが、その素晴らしい技術や 感性を転用するという考えは間違っていないと思う。

それにより、元あるこけしの価値がより高まる可能性 もある。海外でもこけしファンが増える糸口になるか もしれない。こけしをそのまま海外に紹介するより も、このデザインの元にあるのは、こけしから来てい るのですという話題性から訴求していくのも良いので はないだろうか。

 海外では、ロシアのこけしに当たるマトリョーシカ がブームになっていると聞く。素朴なホッとする木地 玩具に対する好感度は、時代性も反映して益々増加し ていくと考えられる。そのような観点からもそのエッ センスをデザイン化して新たな商品として機能を持っ た日用品に進化させることが逆に言えば、今我々が行 うべきことでもあるのかもしれない。古き良き技術を 未来に活かす術を今後もより深く思考し発展するよう に心掛けたい。

14.謝 辞

 本研究は、ジャパンブランド支援事業での私のデザ イン関係の活動をまとめたものであるが、特に以下の 事業に参加して様々なご意見などを頂戴した方々、試 作品などの制作に関して多大な協力を得た方々に感謝 したい。

宮城県商工会連合会:山形氏、樋口氏 宮城県産業技術総合センター:伊藤氏、畠氏 東北工業大学:佐藤氏、梅田氏

売れる店づくり研究所:熊谷氏 元ジェトロ仙台所長:遠藤氏 アイグラフ:猪狩氏

鳴子漆器組合:後藤氏、笹原氏 こけしの桜井:桜井氏

(平成21年9月30日受理)

参照

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