〈研究論文 ― Research Paper〉
紫外線照射による浄水障害原因藻類の増殖抑制効果
及び細胞損傷レベルの観察
守 屋 良 美
1),¶大 瀧 雅 寛
1)Inhibition of Algal Growth in Water Purification Process by UV Irradiation and
Observation of Damage Level on Algal Cell
Yoshimi MORIYA1),¶ and Masahiro OTAKI1)
1) Department of Human Environmental Sciences, Ochanomizu University, Tokyo 112-8610, Japan
Abstract
Rapid algal growth in the water purification process often causes problems such as turbidity leak. We investigated whether the application of ultraviolet (UV) radiation (254 nm) was effective in controlling algal growth. The objective of this study is to investigate the effect of UV irradiation on some isolated algae at a conventional UV dose (50-200 mJ cm-2) or a high UV dose (500-1000 mJ cm-2). Three algae that obstruct water purification, that is, diatoms of
Cyclotella, green algae of Dictyosphaerium, and flagellate of Cryptomonas, were selected and cultivated. As a result, it
was observed that the cell concentration was reduced or maintained during one week after conventional UV dose irradiation in all algae. Dictyosphaerium exhibited higher resistance or faster growth compared with Cyclotella and
Cryptomonas. Moreover, it was observed that algal cells exposed to a high UV dose were simultaneously broken, and
the cell number was reduced in the cases of Cryptomonas and Dictyosphaerium. On the other hand, for Cyclotella, the cell content was changed but the shape of the cell was not. In conclusion, a conventional UV dose inhibited algal growth and a high UV dose injured cellular contents directly and induced cytolysis in some algal species. Keywords: Algae; Water purification; Ultraviolet irradiation; Inhibitation 1.はじめに 浄水処理において原水中への藻類の混入および処理工 程における増殖は,浄水障害の原因となる1)。浄水場で の対応としては,取水方法の変更や,薬品注入箇所及び 注入量の変更などが代表的な方法として行われている1)。 この他の対策として紫外線照射が考えられる。これまで, 主にアオコなどの湖沼水での富栄養化現象に関連する藻 類に対しての研究が進められてきた。 Alam et al. (2001)2) は,Microcystis aeruginosa に対し 37 mJ cm2を照射する と,非照射系に比較して 7 日間以上増殖抑制が可能であ り,150 mJ cm2照射では細胞数の減少が観察されるな ど,照射量に応じて藻類の増殖抑制が可能なことを報告 している。この様に紫外線照射による藻類の増殖抑制が 可能であることは確認されているが,対象藻類としては, 単離培養された単種や,複数種を含む実環境水などが主 に検討されてきた。酒井ら(2006)3)は,実環境試料中 (ダム湖水中)から採取した Microcystis aeruginosa に対 して,実験室内で紫外線照射を行った結果,Microcystis の増殖は,低圧または中圧紫外線ランプ照射によって抑 制されることを確認している。Sakai et al. (2007)4) によ
れば,藍藻類の Microcystis aeruginosa 及び Anabeana variabilis に対する紫外線照射による増殖抑制メカニズム の検討を行い,細胞数の低下に大きく影響する因子とし て Microcystis aeruginosa は,光 合 成 能 力 の 低 下 が, Anabeana variabilis は,DNA 損傷が寄与したと報告し ている。また,これらの知見を元に,浄水原水に含まれ る多種多様な藻類への紫外線照射による増殖抑制効果に ついての研究報告がされている(守屋ら(2011)5)(2012)6), 関山ら(2011)7)及び,舘野ら(2013)8))。この研究では, 紫外線照射後に藻類の不活化による増殖の抑制だけでな く,照射後の日数経過に伴って藻類細胞数の減少が見ら れたことから,紫外線消毒などで知られる遺伝子損傷に よる不活化機構だけでなく,細胞自体を分解,もしくは 消滅させる機構が存在する可能性が示唆された。本研究 では,浄水原水に対する現場での通水式紫外線照射実験 にて,特に照射後の細胞数の減少が著しく見られた鞭毛 藻類の Cryptomonas に対して単離された条件での実験に より,増殖抑制について詳細に検討した。更に浄水処理 障害の原因となる珪藻類の Cyclotella,過去に大発生し 問題となったことのある緑藻類の Dictyosphaerium も対 象藻類として検討した。これらの単離された藻類に対し, 1 ) お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科 〒112-8610 東京都文京区大塚 2-1-1 ¶ 連絡先:[email protected]
増殖抑制に有効な紫外線照射量について検討した。また 浄水工程においては,紫外線照射により細胞を破壊させ ずに増殖抑制が出来れば,藻類内容物の放出を防ぐこと ができ,発泡障害や凝集阻害を引き起こさない有効な手 段となる。そこで藻類細胞を破壊せずに紫外線照射によ る増殖抑制が可能であるのか検討するため,紫外線照射 量を高く設定したときの藻類細胞の形態変化を観察して, 細胞膜損傷の有無などについて検討することとした9)。 2.実験方法 2.1 藻類の培養と測定方法 藻 類 は,国 立 環 境 研 究 所 か ら 購 入 し た 珪 藻 類 の Cyclotella meneghiniana Kützing(NIES-2363),緑藻類 の Dictyosphaerium pulchellum Wood (NIES-453),津 久井湖試料水(2007.10)から分離培養した鞭毛藻類 Cryptomonas をそれぞれ実験室にて培養し使用した。培
養条件は国立環境研究所ホームページ10)に準拠し,培地
はそれぞれ,Cyclotella に CSi 培地,Dictyosphaerium に MG 培地,Cryptomonas に C 培地を作成し用いた。培養 は 20 ℃のインキュベーター(三洋,MIR-153)中で,蛍 光灯(照度 2000 lx)を,明暗条件(12 時間サイクル)で 行った。藻類培養用の実験器具及び培地は,全てよく洗 浄し,オートクレーブ(平山,ハイクレーブ HV-50)を 用いて,121 ℃で 15 分高圧蒸気滅菌をした後に用いた。 藻類細胞数は,プランクトン計数板(松浪硝子,MPC-200) に試料 0.3 mL を採り,20 分程度放置した後,デジタル マイクロスコープ(キーエンス,VHX-2000),もしくは 顕微鏡(OLYMPUS,BX51)で計数を行った。計数時 は,プランクトン計数板の 3 列の平均値(低濃度時は検 鏡部内の全数を複数回)を計数し,濃度を換算した。鞭 毛藻で遊泳する Cryptomonas を計数する際は,1%に調 整したグルタルアルデヒドで固定した試料を用いた。 2.2 紫外線照射方法と装置 紫外線照射装置の概略図および装置写真を Fig. 1 に示 した。光源としては 254 nm 光を特異的に照射する低圧 水銀ランプ(東芝,殺菌ランプ GL20,以下 UV ランプ) を使用し,反応容器としてプラスチック製ペトリ皿(内 径 50 mm,高さ 12 mm)を用いた。UV ランプは照射強 度を安定させるため,整流器(スワロー電機,AVR-500A) を介した電源供給を行い,サーキュレーターで空冷しな がら 1 時間程度点灯させた後に実験を開始した。紫外線 照射前の培養液に対する紫外線(254 nm)吸光度を光電 分光光度計(島津製作所,UV-2550PC100V(J))で測定 した。また溶液への入射光強度を Ronald (2003)11)を参 考にヨウ化カリウム/ヨウ素酸カリウム溶液による化学 線量計を用いて測定した。溶液内の平均照射強度は,ラ ンベルトベール則に従い,(1)~(3)式により求めた。所 定の紫外線照射量となるように,(4)式を用いて照射時間 を設定した。ここで,I0:入射光強度(mJ cm-2),L:試 料の水深(cm),A:吸光係数,I(x):深さ x での透過光 強度,Iave:平均透過光強度(mJ cm-2),t:紫外線照射 時間(s)とした。 e ) ( 2.3A 0 x I x I = − (1) d ) ( 1 0 ave=
∫
x x x I L I (2) 2.3A e 1 2.3A 0 ave L I I − − L = (3) mJ cm ave −2 I t=設定紫外線照射 量 (4) 2.3 紫外線照射による様々な藻類の増殖抑制効果の検討 上記 2.1 で示した各条件で培養を行った培養液をペト リ皿に採り,Fig. 1 の装置を用いた紫外線照射実験を行 った。紫外線照射終了後,直ちに各藻類に適した培養培 地と再度混合し,培養通気を確保するためシリコ栓で蓋 をした 300 mL 三角フラスコを培養容器として,20 ℃の インキュベーター(三洋,MIR-153)中で,蛍光灯(照 度 2000 lx)により,明暗条件下(12 時間サイクル)で 撹拌しながら培養した。紫外線照射量は,浄水現場実験 において最も増殖抑制効果が見られた Cryptomonas に対 して現場実験時と同じ 0 mJ cm-2,60 mJ cm-2及び 120 mJ cm-2にて照射し,紫外線照射後の増殖抑制効果を詳 細に調べることとした。Cyclotella 及び Dictyosphaerium に対しては上下水処理の消毒用として想定される最低照 射量 50 mJ cm2及び十分な照射量 200 mJ cm-2を想定し て設定した。開始日から 2 週間において数回,各フラス コから撹拌子を回転させてフラスコ内が一様になる程度 撹拌しながら 0.3 mL 程度採水し,プランクトン計数板 を用いて細胞数の計数を行った。照射条件ごとに照射お よび培養する実験を行った。実験は,同じ藻類培養液か ら分取した試料に対し,同条件にて 2 系列を同時並行で 進めた。2 データのバラ付き派実験手順の誤差によるも のと考え,正規分布に従うとした。平均値を代表値とし, ばらつきを標準偏差にて示した。なおデータ間の平均値 の比較については,t 検定により有意な差の有無の検定 を行った。藻類の増殖抑制を比較するため,式(5)に示すFig. 1 Figure and Picture of UV device.
a) Picture of UV irradiation experimental setup, b) Outline of UV irradiation experimental setup, c) Cross-sectional Outline of the reactor.
増殖抑制率(図中には Inhibition rate として表記)にて 藻類間で比較した。ここで,C0:非照射系での藻類濃度 (cells mL-1),C:対象とする系での藻類濃度(cells mL-1) である。 -[%] 0 0 C C C = 増殖抑制率 (5) 2.4 高照射量下における藻類細胞の形状観察 遺伝子損傷による不活化以外の紫外線の藻類細胞への 影響を調べるため,上述の照射量に比べて高い照射量 (500,1000 mJ cm-2)に曝露させ,藻類細胞の損傷や分 解の有無を照射直後の細胞数の減少という視点で観察す ることとした。細胞の形態観察にはデジタルマイクロス コープを用いた。紫外線照射を行う藻類懸濁液は,上水 試験法(2011)11)を参考に,まず自然沈殿法で濃縮し,培 地中金属類の紫外線光による酸化物発生2)の影響を除く た め,濃 縮 試 料 50 mL 程 度 を 遠 心 機( コ ク サ ン, H-201FR,BN4-8)314 g で 15 分間遠心分離し,上澄みを 捨てた後,上水試験法(2011)に準じ,リン酸塩緩衝液 (リン酸 2 水素カリウム(KH2PO4)42.5 g を精製水 500 mL に溶解させ,水酸化ナトリウムで pH7.2 に調整し, 全量で 1 L にしたリン酸塩原液を作成。これを 1000 倍希 釈したもの)に分散させた。この試料については, 254 nm 紫外線吸光度を測定し,反応溶液の光路長と溶液表 面での紫外線強度から溶液中の平均紫外線強度を算定し て,設定した紫外線照射量となるよう照射時間を決定し た。試料を撹拌しながらペトリ皿に 10 mL 取り,紫外線 照射を行った。紫外線照射後直ちに 2.1 で示した方法に より細胞数の計数を行った。 2.5 紫外線照射を行いながらの顕微鏡連続観察 紫外線照射により,細胞を破壊せずに藻類の増殖抑制 が可能であれば,藻類内容物の放出を防ぎ,発泡障害や 凝集阻害を誘発しない有効な手段になる。そこで紫外線 照射が藻類細胞に及ぼす形態変化がどの様に生じている のか明らかにするため,連続観察することにした。紫外 線曝露下での対象試料を顕微鏡によって連続観察し,特 に動きのある Cryptomonas の細胞の状態変化を観察し た。2.4 と同様に濃縮,遠心分離後に上澄み水を除去し, リン酸緩衝液に懸濁したものを対象試料とした。この試 料を,血球計数板に滴下し,紫外線を透過する石英製カ バーグラス乗せたもの(通常用いるポリカーボネート製 のプランクトン計数板やガラス製のカバーグラスでは紫 外線の 254 nm 波長光の吸光があるため)を対象プレパ ラートとした。20 分放置し,藻類細胞を血球計数板の底 面近傍に集まるようにした後,顕微鏡で観察し,遠心分 離やリン酸塩緩衝液による再懸濁による細胞の損傷,分 解などがないことを確認した。顕微鏡にセットした対象 プレパラートが紫外線に曝露されるよう低圧水銀ランプ (2.2 と同じもの)を設置した(Fig. 2)。設置後,観測者 の安全のため測定時は紫外線の遮断のため顕微鏡全体を 布で覆った。別途同じ設定条件下による試料部への紫外 線強度を測定したところ 4.5 mJ cm-2であった。照射量 は 0~800 mJ cm-2程度となるように照射時間を定めた。 この実験においてはプレパラート中の水深は 1 mm 以下 と非常に浅く光路長が小さいとして吸光による紫外線強 度の mJ cm-2減少は無視できるとした。なお一視野内で 観察できる細胞数は数個~数十個に限られる。そこで現 象が確認できる観察結果を得るために,同じ条件下で数 回実験を行った。 3.結果および考察 3.1 紫外線照射による様々な藻類の増殖抑制効果の検討 Fig. 3,4 より,紫外線照射直後では細胞数の減少は見 られず,0 mJ cm-2照射(紫外線照射無し)の非照射系 では照射後の培養期間において対数的に細胞数が増殖し た。一方紫外線照射系では,Cryptomonas及びCyclotella においては,照射後 2 日目までは細胞数はほぼ変化しな いものの,7 日目に向けて濃度が低下し,非照射系と比 較して有意な差となり,14 日目には増加傾向となった。 細胞数の減少率は紫外線照射量が大きいほど顕著であっ た。特に 200 mJ cm-2照射した場合では 14 日後でも初期 濃度の 10~100 分の 1 程度に藻類濃度を抑制できること Fig. 2 Picture of Microscope with UV lamp.
Fig. 3 Results in measurements of Cryptomonas with each
UV irradiation (N. D.; detection limits).
Fig. 4 Results in measurements of Cyclotella with each UV
が確認できた。Fig.5 より,Dictyosphaerium における 50 mJ cm-2照射の 1 日目では非照射系と有意な差が生じて いたが,2 日目からは有意な差は見られなかった。200 mJ cm-2では照射後 1 週間は照射無しに比べて明らかに 増殖が抑制されており,細胞数の増加は見られなかった。 Fig. 6 に示されるとおり,増殖抑制率で藻類間の抑制効 果を比較すると,Cryptomonas 及び Cyclotella では 50 mJ cm-2以上で,Dictyosphaerium では 200 mJ cm-2で一 週間後の増殖抑制率がほぼ 100%近くに達していること がわかる。一方,Dictyosphaerium の 50 mJ cm-2の照射 条件では抑制率が顕著に低くなっていることがわかる。 この原因として第一に, Dictyosphaerium の紫外線によ る耐性が高い可能性が考えられる。浄水場に模擬紫外線 照射装置を設置して行った現場実験においても,原水に 含まれていた藻類種間の増殖抑制効果は著しく異なって いたことが確認されている7)。第二の可能性として,細 胞の増殖速度が高いことが一因であることも考えられる。 しかしこの点については Fig. 5 に示されるように 0 mJ cm-2での濃度変化はこの種のもつ増殖速度を示して おり,この速度は他の藻類と同等なため,見かけの紫外 線耐性に影響を及ぼす程の増殖速度とは考えにくい。ま た紫外線照射後の生残細胞が元の存在数以上まで増殖す ると,見かけ上増殖して見えるが,50 mJ cm-2では 0 mJ cm-2に比べて増殖開始が 1 日遅れで,200 mJ cm-2で は 7 日目以降に増殖が開始している。つまり紫外線照射 量が大きいほど,不活化した細胞数が多く,すなわち生 残細胞が少ないため,見かけ上の増殖開始期が遅れたも のと考えられる。紫外線による細胞数の減少よりも生残 もしくは回復した藻類の増殖が上回っていた場合,今回 のような結果になると想定される。 紫外線照射による遺伝子損傷には,一般的に可視光に
Fig. 7 Picture of Microscopic observation with each UV
lamp.
Fig. 5 Results in measurements of Dictyosphaerium with
each UV irradiation (N. D.; detection limits).
Fig. 6 Results of inhibition rate with each algae.
よる損傷の回復,いわゆる光回復が想定される。本実験 においては紫外線照射後の藻類の培養において可視光照 射が必須であるため光回復効果の有無を確認することは 難しかった。ただし今回の実験結果では,Cryptomonas や Cyclotella では紫外線照射後の培養期間において徐々 に細胞自体の消滅(細胞数の減少)が観察されており, この場合,上述の様な光回復現象は考えられない。Sakai et al. (2007)9)によると紫外線照射によって遺伝子損傷に よる増殖抑制及び光合成能の低下が起こりうるとしてい るが,今回の結果のように細胞数の減少が観察されると いうことは,遺伝子損傷以外の不活化メカニズムが生じ ていることを示唆している。つまり藻類種ごとに紫外線 耐性だけでなく,紫外線から受ける不活化メカニズムが 異なることが考えられる。 3.2 高照射下における藻類細胞の形状観察 鞭毛で活発に動き回る鞭毛藻類の Cryptomonas に対し て,1000 mJ cm-2照射した後の形態変化の観察の結果, Fig. 7 に示すように細胞形状が通常のラグビーボール状 とは異なっており,動きも全く観察されなかった。観察 視野内に限るものの全て通常の形状が失われていた。Fig. 3 において示した照射量とは乖離した条件であるが, 400-1000 mJ cm-2の高照射量時の詳細に関しては,3.3 に示した。緑藻類の Dictyosphaerium への UV 照射では, いずれの照射量においても細胞の明確な細胞の形状変化 は視認することが出来なかった。しかし細胞数の計数 (Fig. 8)では,1000 mJ cm-2照射下において細胞数がほ ぼ半減し,1000 mJ cm-2照射下では細胞の分解,破壊が 生じている事が分かった。一方珪藻類の Cyclotella では, 細胞数の変化は顕鏡時の視野内では見られなかったこと から,細胞数の変化に繋がるような細胞の分解,破壊は 生 じ な か っ た も の と 考 え ら れ る。Cyclotella は 500 mJ cm-2までは細胞の状態に変化は見られず,1000 mJ cm-2で細胞内容物に変化が見られたが,外殻に変化はな かった。珪藻類の Cyclotella は珪酸質の被殻を持ち,他 の藻類種に比べて細胞外殻の強度が強いため,細胞の形 状変化が生じにくいことが原因であると考えられる。こ のように,藻類への紫外線の高照射では,藻類の細胞組 成によっても効果が異なると考えられる。Ou et al.
(2011)13) によれば,藍藻類の Microcystis に対して紫外 線照射後の電子顕微鏡写真により,430 mJ cm-2で細胞 が損傷,865 mJ cm-2照射で内容物が多量に失われ,完 全な細胞破壊が起こることが示唆されているとしている。 以上をまとめると,固い殻を持つ珪藻類 Cyclotella では 細胞外殻の変形は生じにくく,緑藻類のDictyosphaerium, 藍藻類の Microcystis,鞭毛藻類の Cryptomonas のよう な殻を持たないものは細胞が分解,破壊される可能性が 高いのではないかと考えられる。従って,紫外線照射時 に高照射された細胞があった場合,藻類種によって細胞 への損傷が異なり,珪藻類以外の藻類では細胞の内容物 が流失する可能性が考えられる。なお浄水工程において 紫外線を照射する場合,平均的な照射量として 200 mJ cm-2程度までが現実的には想定される。従って 1000 mJ cm-2というような高い照射量が全ての藻類細胞に曝 露するとは想定しにくいが,流通式の紫外線装置の場合, 対照水が受ける被照射量には分布が生じ,分布の幅によ っては,かなりの高照射量に曝される細胞がわずかな割 合でも存在する可能性は考えられ,上述の様な細胞の内 容物流出に留意する必要があると考えられる。 本実験においては,培地に含まれる金属類が紫外線と 反応して酸化力をもつ物質(H2O2等)が生成することを 防ぐため,遠心分離後,上澄みを捨て 0.1 mL を 9.9 mL のリン酸緩衝液に希釈し,紫外線照射を行った。従って, 培地からの残存成分は 1%程度であり,影響は小さいも のと考えられる。従って細胞損傷をもたらす原因は細胞 外における酸化物質生成ではなく,細胞内において紫外 線照射によって生じる光化学反応が関与していると推察 される。 3.3 紫外線照射を行いながらの顕微鏡連続観察 紫外線照射中の細胞の反応を観察するため,顕微鏡内 の限られた視野において,鞭毛を持ち遊走性のある Cryptomonas に対して動画及び目視下にて連続観察した。 観察の結果では,400 mJ cm-2照射後から細胞の形状変 化が見られ始め,視野内で細胞膜の形状変化が確認でき る細胞が生じたのは,430 mJ cm-2及び 480 mJ cm-2照 射後であった。540 mJ cm-2頃から細胞の活動性が落ち 始め,最終的に 800 mJ cm-2まで観察を続け,多くの細 胞の損傷が確認されたが,最後まで活動性や形を失わな いものもあった。430 mJ cm-2及び 480 mJ cm-2照射後 に見られた細胞破壊時の経過は,細胞の形が楕円形から 次第に不規則な形になり,その後細胞膜が破れ,内容物 の流出が観察された。動画撮影でも細胞破壊の様子が確 認された(静止画に変換すると画像が不鮮明なため,本 稿には掲載していない)。また 3.2 の結果も含め,120~ 430 mJ cm-2照射の範囲において,細胞構造への損傷が 徐々に生じたものと考えられる。細胞ごとに破壊までの 時間が異なる原因として,増殖期などの成長度合いが異 なることや血球計数板と対物レンズの間であるため照射 強度が場所によって異なっていた可能性が考えられる。 細胞が破壊される原因として,既報に示されるように, 細胞外膜中のタンパク質の紫外線による変性等が考えら れる13)。 3.4 紫外線照射量による藻類への損傷程度の考察 上記の結果をまとめて紫外線照射量による藻類への損 傷程度の違いについて考察した。50-400 mJ cm-2の低照 射域では,照射直後の細胞損傷は観察されなかったが, その後の培養期間では細胞数の徐々な低下が確認された 藻類種があった。400 mJ cm-2~1000 mJ cm-2の高照射 域では,紫外線照射直後において鞭毛藻類および緑藻類 の Cryptomonas, Dictyosphaerium の細胞破壊と細胞数 の減少が確認されたが,珪藻類の Cyclotella では細胞内 の変化が見られたものの,強固な珪酸の殻のため細胞破 壊には至らなかった。 この様な反応が起こったメカニズムとしては,紫外線 照射によって生じる遺伝子損傷に加え,低照射域(50~ 400 mJ cm-2程度)では光合成機能や呼吸機能への損傷, また光化学反応による H2O2の生成によって,照射後の 培養期間中での細胞死および破壊を招くような細胞損傷 が生じたと考えられる。つまり紫外線低照射直後では, 顕微鏡で視認できないほどの軽微な損傷ではあるが,細 胞構造に化学変化が与えられ,生命活動の停止や生分解 などが作用して,形状を保てなくなり,細胞数の低下が 見られたと考えられる。高照射域(400 mJ cm-2~1000 mJ cm-2)では珪酸殻のような強固な細胞は例外である が,照射直後に細胞質の損傷と破壊が観察される程の光 化学反応が生じていると考えられた。 以上のことから細胞の破壊による内容物の流出をもた らさずに,増殖抑制が可能な紫外線照射量としては, Dictyosphaerium に対して 2 週間程度の抑制を得るため には,100 mJ cm-2以上の紫外線照射を用いる必要があ ると考えられる。しかし細胞構造への損傷の観点におい ては,殻を持つ珪藻類を除き,400 mJ cm-2以上の高照 射では細胞が破壊されて内容物が流出する可能性が高い。 特に高照射下における,Cryptomonas 細胞の形状観察に おいては,限定された範囲ではあるが,430 mJ cm-2照 射後に細胞の破壊が見られたことから,様々な藻類を含 む原水を想定すると,安全側において最大でも 400 mJ cm-2の照射が妥当であると考えられる。従って, 100 ~400 mJ cm-2の照射域での照射を行うと,細胞内容物 の流出を抑えながら紫外線照射による増殖抑制が可能で ある妥当な値であると推測される。ただし,様々な藻類 を含む為,細胞破壊をもたらさずに増殖抑制が可能であ る紫外線照射量はより大きくなると考えられる。 4.まとめ 浄水障害を引き起こす藻類から 3 種を選定して 254 nm 光の紫外線照射を行い,増殖抑制効果について比較検討 した。まず,200 mJ cm-2以下の紫外線照射後の細胞数
変化により増殖抑制効果を評価した。また紫外線照射に よる藻類細胞へ与える影響について検討するため,400 mJ cm-2以上の高照射量における細胞数の変化および細 胞損傷の様子を観察した。得られた研究結果を以下に示 す。 1 ) 珪藻類の Cyclotella,緑藻類の Dictyosphaerium, 鞭毛藻類の Cryptomonas に対して紫外線照射し, 増殖抑制率を比較した結果,Cryptomonas 及び Cyclotella においては照射後,2 日目までは細胞数 は変化しないもののその後減少し,14 日目には増 加傾向となった。細胞数の減少率は紫外線照射量 が大きいほど顕著であった。特に 200 mJ cm-2照 射した場合では 14 日後でも初期濃度の 100 分の 1 程度に藻類濃度を抑制できることが確認できた。 藻 類 間 で の 抑 制 効 果 を 比 較 す る と, Dictyosphaerium においては 50 mJ cm-2では抑制 率が顕著に低くなっていることが分かった。 2) 藻類に対して紫外線を 400 mJ cm-2以上の高照射 した結果,珪藻類の Cyclotella を除き,細胞数の 減少及び細胞形態の変化が確認された。また, Cryptomonas の動画観察での 400 mJ cm-2程度の 照射において,明らかな変形損傷及び内容物の流 出が見られた。 以上のことから,今回対象として用いた藻類に関して は,紫外線照射量によって損傷メカニズムが変化し,50 ~400 mJ cm-2程度の照射域では遺伝子損傷だけでなく, 照射後の培養期間における細胞数の低下に繋がる損傷を 引き起こし,特に 400 mJ cm-2以上の高照射では,照射 直後に生じる細胞の破壊によって細胞数の低下に繋がる と考えられた。結果として細胞内容物の流出を抑えなが ら,紫外線照射による増殖抑制が可能な紫外線照射量は 100~400 mJ cm-2程度が妥当であると推測された。 記号表 I0:入射光強度(mJ cm-2) x:試料の水深(cm) A:吸光係数 I(x):深さ x での透過光強度 Iave。:平均吸光強度 C0:非照射系での藻類濃度(cells mL-1) C:対象とする系での藻類濃度(cells mL-1) (原稿受付 2015 年 10 月 23 日) (原稿受理 2016 年 1 月 29 日) 参 考 文 献 1 ) 佐藤敦久,眞柄泰基,1996.上水道における藻類障害-安全で 良質な水を求めて-.眞柄泰基編,技報堂出版,東京,pp. 132 -142.
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[論 文 要 旨]
紫外線照射(254 nm)を用いて,珪藻類 Cyclotella,緑藻類 Dictyosphaerium,及び鞭毛藻類 Cryptomonas の増殖抑制及び高照射時の細胞への影響に関する実験を行った。紫外線照射後の増殖抑制効果を,紫外線照 射前後の細胞数変化から評価した。いずれの藻類も照射無しの場合は照射後の培養期間で対数的に細胞数が 増加したが,紫外線照射した場合では細胞数が一定もしくは低下した。抑制効果は Cyclotella や Cryptomonas よりも,Dictyosphaerium において低かった。更に高照射時(500-1000 mJ cm-2)における藻類への影響に ついて,照射前後の形態変化だけでなく紫外線照射を行いながらの連続観察にて行った。Cryptomonas, Dictyosphaerium にて明らかな形態変化が見られ,Cyclotella では形態変化は見られず細胞内の変化のみが見 られた。 キーワード:藻類;浄水処理;紫外線照射;増殖抑制