嘱託公民館主事の社会教育職員としての力量形成に関する研究 [ PDF
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(2) 35 年になる。嘱託公民館主事は 146 館に一人ずつ配置. 主事が相互に学びあうこと、③公民館実践を相互に学び. されている。. あう公民館研究集会などを公民館主事自身が企画・実施. 社会教育主事は、公民館主事経験者や社会教育主事補. 担当することが有効でないかということを提起した。. で社会教育主事有資格者から登用されていたが、1995. 第2章 学習支援者の力量形成のための学び 第 1 節 イリッチは『脱学校の社会』において、. 年からは社会教育主事のポストに生涯学習推進担当主査 として発令し、社会教育主事講習受講後主事発令をする. (1)「学校化」された学校の教師という教育専門職は、学習. 人事が始まった。社会教育専門職である社会教育主事が、. 者が主体的に学び成長していくことを妨げる。. 一般行政職の一ポスト化され、概ね3年間と短期間で社. (2)学習は技能交換の学習と仲間同士による再創造の学. 会教育専門職があまり考慮されないジョブローテーショ. 習があり、「参加」と「経験」が重要である。. ンによる人事異動の対象となった。. (3)真の学習に必要な資源は、①事物、②模範、③仲間及. これにより、社会教育主事の専門的力量の低下とネッ. び④年長者の四つである。これを利用可能にする「教育. トワークの崩壊などのマイナス要素が増大し、公民館職. のための網状組織」が日常生活に存在し、博物館の案内. 員に対する研修の質や指導・助言力の低下など公民館支. 人や参考図書館員のような専門的職員によって運営され. 援システムが弱体化した。 「公民館の充実」を約束してい. ることが必要である、と述べている。. る福岡市にとっても大きな課題である。. つまり、嘱託主事の力量形成のために公的に保障すべ. 2004 年度からは、公民館の所管を教育委員会が市長部. きは、①嘱託主事本人の社会生活経験と培ってきた人的. 局に補助執行の手法で移管した。公民館の直接の担当は. 資産などをもとに判断して必要な学習内容や方法の自己. 社会教育経験のない係長級職員で構成する区役所地域支. 決定が尊重され、その環境(施設整備・図書をはじめと. 援課になった。地域支援課は、コミュニティの自律的経. する教育情報資源の整備など)が醸成され、②嘱託主事. 営のために自治協議会を支援することが本務である。. が求める学びに最適な講師や技能の模範者と出会う機会. 阿志賀一夫(高宮公民館主事・当時)が、2005 年に実. としての研修会が保障され、③嘱託主事が相互親和的に. 施した「公民館主事アンケート」は、①公民館の社会教. 学びあえる仲間や公民館主事経験豊かな先輩・年長者と. 育施設としての位置づけが後退し、コミュニティ支援業. 出会う機会が保障され、④嘱託主事が学びの扉を自らの. 務が重視され、②公民館に対する専門的な助言・指導が. 手で開き、社会教育職員としての階段を一歩一歩登って. 低下し、公民館職員の学ぶ場が少なくなり、公民館の弱. いく過程を寄り添い、伴走し、カウンセリングする専門. 体化が危惧されていることを明らかに示している。. 家としての社会教育主事である。 第 2 節 「ふり返り」に注目した学習支援者の力量形. また、同アンケートは、嘱託公民館主事が、①公民館 の主催事業を企画・実践する中で(73.1%)、②地域の人. 成に関する研究おける倉持伸江の理論整理は、. との出会いと日常会話の中から(73.1%)、③公民館職員. (1)ショーンの「行為の中の省察」の「実践者の『行為の中. の自主研修会や情報交換および相互交流の中(69.2%)で. の知』は非常に迅速なものではないだろう」と、『実践の. 学び成長していることを明らかにした。勤務年数の長い. 中でのふり返り』を採用している。. 主事では、①市民センター職員の助言・指導(43.3%)、. (2)「書くこと」と「他者とのやりとり」によって、実践の. ②公民館研究集会や生涯学習フェスティバルの担当する. 背後にある前提を批判的ふり返ることにより、新たなパ. 中(14.4%)で学んだという回答も少なくなかった。. ースペクティブを想像することが可能になる。. 福岡市公民館長会が、福岡市長に毎年提出している. (3)実践のふり返りによる力量形成の展開事例として、実. 「福岡市公民館予算に関する要望書」においても、公民館. 践研究福井ラウンドでは、①実践の記録作り、②異業種. 運営や社会教育、コミュニティ支援に関する適切な助言. の参加者で構成するグループで実践が伝わるように意識. 及び情報提供のできる職員体制の充実が要望されている。. して報告する。それに対して、異なった視点で質問され. 第 1 章では、嘱託公民館主事の現状について福岡市を. ることで、実践の暗黙の前提をふり返り、問い直すこと. 中心に分析し、嘱託公民館主事の力量形成支援は切実な. につながる。. 現場の要求であるが、それを支援すべき社会教育主事が. (4)「ふり返り」の重視は、学習支援者の力量形成の場は非. 専門性を発揮していくことができない状況にあることを. 日常的な集合研修を超えて、日常の職場の中に広がる可. 明らかにした。しかし、嘱託公民館主事の社会教育職員. 能性を持つ。実践の場でふり返りを継続的に行うことは、. としての力量形成のためには、①職員と住民が協働の公. 実践と力量形成の結びつきをより強くし、ふり返りと実. 民館実践をすること、②自主研修や情報交換など公民館. 践のサイクルを自然に実現し、実践者相互の成長、組織 -2-.
(3) としての成長を可能にする、と述べている。. 題別プロジェクト研修では研究・実践と報告書作成、④. 確かに、実践報告のために「書くこと」は、実践のプロ. 社会教育主事を公費派遣が行われている。岡山市では多. セスを明らかにし、実践をふり返るのに有効であり、実. 様な公的研修が保障され、研修の企画・運営が当事者で. 践報告をもとに共同でふり返る「他者とのやりとり」の. あり年長者である社会教育主事であることは重要である。. 有効性は、聴くことの訓練となると考えられる。. 貝塚市の職員研修も、正規と嘱託職員混合である。な. しかし、倉持の理論展開について、高橋満は、講義型. お、嘱託主事は子育てサークル等の社会活動経験が豊富. 研修を否定し「ふり返り」の絶対化に疑問を呈し、①異業. な者が応募し採用されている。当事者が研修の企画運営. 種の参加者で構成されたグループでの「ふり返り」は、研. に責任を持つ担当者制度のもとで、「話す」「聴く」「書. 修が実践の文脈から切り離される、②社会教育実践は職. く」というアクティビティを設定し、宿題レポート、グ. 員個人ではなく、すべての職場同僚や住民との協同によ. ループワークなどを取り入れたプログラムの工夫をして. って構築されるから、「ふり返り」による職員個人の意識. いる。社会教育主事講習へ嘱託も含めて公費派遣してい. 変容だけを取り上げて力量形成を論じることはできない。. る。併せて、三つの公民館連携事業による学びあい、公. ③実践は公民館職員と住民の協同で作られることから、. 民館利用者や地域コミュニティとの学びあいを実践的に. この協同の質に規定されると、厳しく批判している。. 取り組んでいる。貝塚市は、「話す」「聴く」「書く」こと. また、佐藤学は、ショーンの「行為の中の省察」は、「行. により、実践を同僚とともにふり返り、公民館実践とつ. 為後の省察」と「行為についての省察」を含み、「状況と. なげることにより力量形成を図っている。. の対話」と「自己との対話」の「二重のループ」の思考を、 「反省的実践家」は展開すると指摘している。. また、貝塚市は阪南公民館運営研究協議会での学習会、 君津市は①君津地方社会教育研究会の学習会と②千葉県. 高橋と佐藤の言説に則して考えると、年に 1 回の福井. 公民館連絡協議会の学習会を公的研修として位置づけて、. ラウンドテーブルの事例で証明する倉持の理論は、実践. 自治体を越えて公民館職員のネットワークを形成して学. の事実を対象化して検討する「行為についての省察」を. びあっている事例は、「教育のための網状組織」である。. 採用しているのであり、日常の実践の場での「状況との対. 第 2 節 公民館実践現場での社会教育職員の力量形成事例. 話」と「自己との対話」から切り離された研修であり、実践. 福岡市公民館初期中期の頃の主事たちは、①社会教育. の協同的性格からも、集団的な「状況との対話」は難しく、. に関する基本文献に学び、②主事仲間と実践交流をし、. 「反省的実践家」となるための「二重ループ」の形成を. ③先輩主事に学び、④地域課題を住民と共に解決してい. 困難にすると言える。. く中で、⑤公民館の公費運営の拡充と自らの勤務条件の. 加えて、社会教育実践を「ふり返る」基準が明確でなく、 学んできた「社会教育とは何か」「公民館とは何か」の原. 改善運動を公民館職員協議会に結集して取り組む中で力 量を形成して行ったと証言している。. 点に戻っての 「自己との対話」を不可能にすると言える。. 旧浦和市公民館主事・片野親義の新規採用・単独勤務. 第 2 章は、嘱託公民館主事の力量形成のために公的に. の状況における公民館実践と、武生市非常勤公民館主. 保障すべき事項を明確かするとともに、力量形成の場で. 事・道正志津子の自己学習と公民館実践事例は、①住民. ある職員研修で注目されている「ふり返り」理論の有効. との関係の中で、地域課題を発見し取り組む中で住民と. 性と限界を検討した。. 共に成長していること、②実践を語り合う仲間、自己学. 第 3 章 主体的な学びの機会を作っている事例の検討. 習を励ましあう仲間の存在の重要性を示す事例である。. 第 1 節 公的研修や社会教育職員集団の学びあいを中心. 第 3 章の実践事例は、①公的研修で保障していく具体. として力量形成をはかっている事例. 的な内容を明らかにし、②「書く」「話す」「聴く」のアクテ. 岡山市は、嘱託公民館主事の正規職員化運動の中で、. ィビティを取り入れた研修は、実践をふり返り、今後の. 公民館と社会教育の基本を主事集団として徹底的に学び、. 展望を描いていく力量形成の機会となり、大切にすべき. 公民館実践を書くことにより力量を形成し、市民に支援. 手法であることを示し、③公民館主事は、実践の場で住. される公民館実践の実績により、2005 年度から社会教育. 民と共に学びあい成長していき、困難な問題は主事仲間. 主事有資格者の嘱託主事より正規の社会教育主事として. と共に学びあい解決していく中で力量形成していること. 発令し地区公民館を中心に配置している。現在、この社. を明らかにし、④自治体を越えた学びあう主事仲間のネ. 会教育主事が正規と嘱託職員混合の公的研修の企画運営. ットワークが力量形成に重要であることを示している。. に責任を持っている。公的研修は、①OJT 研修、②ワー. 第 4 章 福岡市嘱託公民館主事の力量形成の実態分析. クショップ等を取り入れた新任職員研修、③テーマ・課. インタビュー項目は、地域での社会教育活動はじめ社 -3-.
(4) 会生活経験と、力量形成のために一般的に考えられる①. に訪問して学んでいる。館長と共に学ぶ事は重要である。. 公的な公民館職員研修、②自己研鑽、③同僚等との学び. (11)公民館主事が学ぶべき課題は、人権尊重を基底にす. あい、④公民館実践の中での学び、⑤社会教育主事(補). えて、一人の住民のつぶやきや悩みの中に地域課題、生. の指導・助言などに着目して行った。. 活課題があり、公民館実践として取組んできた事例が多 数あった。①障がい児と保護者の支援が学習と人権・福. インタビューは、2009 年 7 月 15 日~2011 年 1 月 7 日 の期間に、16 人に対して実施した。 (1)公民館職員歴は、インタビュー当時 5 年以上 27 年、. 祉の地域づくりの事例。②中国帰国者支援と地域づくり、. 市民センター時代の支援状況も語られている。. ど公民館実践を共にする住民や NPO が集う実践の場で. (2)学歴と(3)職業歴は、人権問題や人間関係を経験し学ん. 住民と共に学びあう姿勢が重要である。. だ主事の場合は、職務遂行に役立っていると言える。. (12)公民館主事は、嘱託でありかつ住民であるというこ. (4)公民館主事になるきっかけと、(5)社会教育関係団体な. とで大変な状況で働いているが、自分の人生にとって、. ど社会活動経験は連動している。嘱託公民館主事は、P. 「人と人との出会い、 つながりは財産」と多くが答えた。. TAや子ども会、子ども劇場、ボランティア、市民運動. (13)公民館主事の力量形成に必要な支援は、職員研修(制. やNPO活動のなかで、地域での人と人のつながりを育. 度)充実の要望が強い。自分の実践をふり返る機会とし. み、職務遂行に役立つ社会教育や文化活動等の経験が豊. ての研修会の開催。社会教育主事講習を勤務時間内に受. 富である。公民館補助要員歴任者も多い。また、夫の事. 講できるよう認めること。公費で研究集会派遣など。. ③男の料理教室など。また、文庫活動経験者、転勤族な. 業の失敗、女性に対する雇用・賃金差別などつらい人生. 最後に、①社会教育と公民館の理念を学びあい、公民. 経験に人としてのあり方を学んでいる人もいる。これは、. 館実践を交流し切磋琢磨する嘱託公民館主事のネットワ. 福岡市公民館が地域の社会教育の拠点であることを地域. ークの形成、②公民館に集う住民と職員が協働する実践. 住民が認識していることを証明するものである。. を追求しそこで学ぶこと、③職員研修の企画・運営に嘱. (6)公民館を取り巻く状況は、①社会教育が軽視され、コ. 託公民館主事集団が参画することの保障、④職員研修は、. ミュニティ支援業務が求められ、②社会教育事業予算が. 「話す」「聴く」「書く」アクティビティを設定し、区内. 削減された上に使い方も画一的指導で自由に事業が組み. 外の公民館実践や市民・NPO の学習実践に学びあうこ. にくく、③パソコンによる事務の負担が大きく、④パソ. と、⑤公民館所管課職員は職員に寄り添い、学びあう姿. コンによる事務連絡で他の公民館職員との交流が困難な. 勢と職員の主体性を尊重した支援を心がけ、学びあう機. ど厳しい状況で働いている。. 会を保障する予算の拡充に努力することが求められる。. (7)公民館職員研修は、新任研修の中身はほとんど忘れら. 4.主要引用文献. れているが、区を越えた職員とのつながりの機会となり、. ・福岡・社会教育研究会『福岡市の公民館・社会教育あ. 区を越えた職員の交流と学習グループができている。ま. ゆみシリーズ 2010 年度セミナー記録集』2011. た、かつて各区で開催されてきた公民館研究集会は、職. ・イヴァン・イリッチ『脱学校の社会』東洋・小澤周三. 員と住民が共に実践に学びあう機会として有効であった. 訳、東京創元社、1977. ことが証言されている。. ・日本社会教育学会編『学びあうコミュニティを培う』. (8)社会教育主事と区地域支援課担当係長の助言・指導は、. 東洋館出版社、2009 ・ 『成人の学習 日本の社会教育第 48 集』日本社会教育. ともに力量不足である。しかし、かつての社会教育主事 (補)は、区を越えた公民館の情報を提供し、他の公民. 学会編、東洋館出版社、2004. 館の主催事業見学や他区の公民館研究集会などに誘い、. ・ドナルド・ショーン『専門家の知恵~反省的実践家は. 連れて行ってくれていたとの証言がある。. 行為しながら考える~』佐藤学・秋田喜代美訳、ゆみ. (9)自主研修は、嘱託公民館主事は、いい仕事がしたい、. る出版、2001. 学びたい意欲があり、いくつかの区の主事会で、公民館. ・高橋満『NPO の公共性と生涯学習のガバナンス』東 進堂、2009. の日常の事務処理や主催事業等の情報交換の自主研修が. ・片野親義『社会教育における出会いと学び 地域に生. 始まっている。また、採用時同期の主事仲間など区を越. きる公民館入門』ひとなる書房、2002. えた自主研修の事例もあった。 (10)自己研鑽は、情報収集と学習仲間の重要性を示して. 5.主要参考文献. いる。全市の公民館だよりを見て、これはと思う事業予. ・長澤成次編著『公民館で学ぶⅡ―自治と協同のまちづ くり』、国土社、2003. 定の公民館に電話で問合せ、館長とともに事業実施の際 -4-.
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