NII-Electronic Library Service 『
選
択
集
』草
稿
本
第
三
筆
は
西
山
上
人
証
空
上
田
良
準
N工 工一Eleotronlo Llbrary Servloe
『 選 択 本 願
念
仏 集 』 の 草稿
本 に 、 西 山 上 人 証 空 ( 以 下尊
称 を 略 す ) の 筆 蹟 が 存 す る こ と は 、 嘗 て 論 ぜ ら れ た こ と は な か っ た が、 筆 者 は 、 た ま た ま 、 昭 和 五 十 五 年 秋 、精
巧 な複
製
資 料 と 、 他 の 証 空真
蹟
と を 比 較 検 討 し た 結果
、 本 文 第 三 筆 の 部 分 が 証 空 の真
蹟
で あ る こ と の 確 証 を 得 る に 至 っ た 。 そ れ は 、 第 十 三 章 段 す な わ ち 九 二 丁 右 四 行 か ら 、 第 十 六 章 段 す な わ ち 「 〇 六 丁 左 終 行 の コ 如 経 法 応 知 已 上 」 に 至 る 、 墨付
一 〇 七枚
中 の 十 四 枚半
、 字 数 に し て 三 四 〇 〇 余 文 字 で あ る 。 内 容 か ら い え ば 第 十 三 章 段 は 「 念 仏 を 以 て多
善 根 と な し、 雑 善 を 以 て 少 善 根 と す る 文 」第
十 四 章 段 は 「 六 方 恒 沙 の 諸 仏 、余
行 を 証 誠 せ ず 、 た だ 念 仏 を 証 誠 し た ま ふ の 文 」 第 十 五 章 段 は 「 六 方 の諸
仏 、 念 仏 の 行 者 を 護 念 し た ま ふ の 文 」第
十
六
章
段 は 「 釈 迦 如 来 、 弥 陀 の 名 号 を 以 て 、 慇 懃 に 舎 利弗
に付
属
し た ま ふ の 文 」 で あ り 、 ま た 本 文 へ の 引 用 経 典 は 、 第 十 二 章 段 ま で は 大 経 、 観 経 で あ っ た の に対
し て 、 こ れ ら 四章
段 は 阿 弥 陀 経 で あ る 。 そ れ ら の こ と が、 証 空 の執
筆 に 直 接 つ な が る か ど う か は 、今
後
の 問 題 と し て 、 以 来、 比 較検
討 の 概 要 と 、 そ れ に関
連 す る 二 三 の 間 題 に つ い て 発 表 し た も の を 一 応 と り ま と め て 報告
し た い 。 『 選 択 集 』 草 稿 本 第 三 筆 は 西 山 上 人 証 空 一1
一西 山 学 報 法 然 上 人 の 『 選 択 集 』 選 述 の こ と は、 『 醍 醐 本 』
『 四 巻 伝 』 二 『 百 因
縁
集 』 『 信 瑞 本 』 『 知 恩 伝 』 『 弘 願 本 』 四 『 十 六 門 記 』『 琳 阿
本
』 五 『 九 巻伝
』 三 ノ 上 『 四 十 八 巻 伝 』 一 一 『十
巻 伝 』 四 『 正 源 明 義 抄 』 五 に 記 さ れ て い る が 、 そ の 中 で執
筆 に 関説
す る も の は 、『 九 巻 伝 』 と 『 四 十 八 巻 伝 』 お よ び 『 十 巻 伝 』 で あ る 。 『 四 十 八 巻 伝 』
=
に は建
久 八 年、 上 人 い さ さ か な や み 給事
有 け り 。 殿 下 ふ か く御
歎 あ り け る 程 に 、 い く 程 な く て 、 平 癒 し 給 に け り 。 上 人 同 年 正 月 一 日 よ り 草 庵 に と じ こ も り て 、 別 請 に お も む き給
は ざ り け れ ば 、 藤 右 衛 門 尉 重 経 を 御 使 と し て 、 浄 土 の 法 門 、 年来
教
誠 を 承 る と い へ ど も、 心 脇 に お さ め が た し、 要 文 を し る し 給 は り て 、 か つ は 面 談 に な ず ら へ 、 か つ は の ち の禦
た み に も そ な へ 侍 ら む と 仰 ・ り れ け れ ば 、安
楽
房鷺
韆
を蟄
と し て 、震
集 を 撰サ
リ れ け る に 、第
三 の章
書 写 の と き 、 予 も し 筆 作 の 器 た ら ず ぱ 、 か く の ご と く の会
座 に 参 ぜ ざ ら ま し と 申 け る を き き 給 て 、 こ の 僧橋
慢 の 心 ふ か く し て 、 悪 道 に 堕 し な む と て 、 こ れ を し り ぞ け ら れ に け り 。 そ の 後 は真
観
房 感 西 に ぞ か か せ ら れ け る 。 こ の書
を 撰 進 せ ら れ て の ち、 同 年 五 月 一 日 上 人 の夢
の 中 に 、善
導
和
尚 来 応 し て 、 汝 専 修 念 仏 を 弘 通 す る ゆ へ に 、 こ と さ ら に き た れ る な り と し め し た ま ふ 。 此 書 冥 慮 に か な へ る事
し り ぬ べ し 。 ふ か く 信 受 す る に た れ り 。 と 記 し 、 ほ ぼ 同 じ 内 容 の 『 九 巻伝
』 等 の 記事
と 相 俟 っ て 、 従来
、『 選 択
集
』 の執
筆 ( 助 筆 ) 者 と し て は 、安
楽 房 と真
観
房 の 名 が 知 ら れ、 こ の 二 人 の 助 筆 に よ っ て成
っ た と さ え 思 わ れ て い る も の で あ る 。 然 し、 そ の 記 事 は 一 見 し て わ か る よ う に 、 聖典
の 編 纂 に際
し 、 関 与 す る も の の 姿 勢 を 正 し て 当 ら し め ら れ た こ と を 示 す も の で 、 そ れ 故 に こ そ 、善
導
の 冥 慮 に も 叶 い 、 来 応 を み た 所 以 を 語 る も の で あ っ て 、 従 っ て 撰 述 の状
況
を 描 い た も の と は い い 難 い 。 と こ ろ で 、 そ の原
本 い わ ゆ る 草 稿 本 と さ れ る も の は、 京 都廬
山 寺 蔵 ( 重文
) の 古 鈔 本 で 、 そ の 開 巻 辟 頭 の 一 一NII-Electronic Library Service
選
択 本 願 念 仏 集/
南 無 阿 弥 陀 仏 / 往 生 之 業念 仏
為
先 の 二十
一 文 字 は 法 然 上 人 源 空 の 自筆
と い わ れ 、 そ の あ と 本文
の執
筆
は 、 明 ら か に 三 人 の 手 か ら な っ て お り 、 そ の 三筆
四交
替
の 文 段 が 、室
町 初 頭 の 鎮 西 派 の 学 僧 聖 冏 の 『 決 疑 鈔 直 牒 』 第 七 に 、「 或 云 ク 」 の 相 伝 の 趣 と し て 記 さ れ て い る
文
の 選 択 本 願 ヨ リ 念 仏 為 先 ノ 註 ニ イ タ ル マ デ 上 人 ノ 御 自 筆 ナ リ 。 第 一篇
ヨ リ 第 三 本 願 章 能 令 瓦 礫変
成金
ノ文
二 至 ル マ デ ハ 安 楽 房 ノ執
筆 ナ リ 。 問 日 ク 一 切 菩 薩 雖 立其
願 ヨ リ十
二付
属
章 二 至 ル マ デ 真 観房
ノ 執 筆 ナ リ 。 第 十 三章
ヨ リ 第十
六 章 ノ 一 如 経 法 応 知 マ デ ハ 他 筆 也 、名
字 ヲ失
ス 。 静 以 善 導 以 下 ハ 又 真 観 房 ノ 執筆
也 。 に合
致
す る と こ ろ か ら 、 こ の 種 の 記 事 と し て 現 段 階 で は 最 も 古 く 、 し か し 『 選 択 集 』 の 撰 述 か ら は 一 五 〇年
を 経 た こ の 『 直 牒 』 の文
が 、廬
山 寺 本 を 草 稿 本 と 推 定 す る 根拠
と さ れ て い る の で あ る 。 さ て 、 そ の執
筆 の 役 に 安 楽 房 が抜
擢 さ れ た の は 、 祖 父 師 茂 が大
外
記 、父
師 秀 が 小 外 記 と い う 、 公文
を 司 る 家 柄 の 出 身 で 、 彼自
身
ま た 能 文 で あ っ た こ と に ょ る の で あ る が 、後
年
建
永
の 法 難 に お い て 、 累 を師
に お よ ぼ し た 、僑
慢 の性
、自
己 顕 示欲
は 師 の 前 に 覆 う べ く も な か っ た の で あ る 。後
任
の真
観 房 も ま た、 文 筆 の 家 に 生 れ た 入 室 の 弟 子 。 進士
入道
で 、 師 の 覚 え も め で た く、 こ れ よ り 先 建 久 五 年 に 、安
楽房
の 父 師 秀 が 上 人 を 請 し て 五 十 日 の逆
修 を 行 っ た と き、 師命
に よ っ て 、結
願 の 一 日 代 理 を つ と め た と い う 間柄
で 、 そ の 入 事 は首
肯 で き る 。 し か し 、 そ の 筆 蹟 の 真 否 に つ い て は 、古
筆 研 究 家 の 当 時 国 立京
都 博物
館 の 資料
室 長 で あ っ た木
下 政 雄 氏 ( 現 堺 市 博 物 館 副 館 長 ) が、「 こ の 筆
者
に比
定
さ れ る 第 一 筆 の 安 楽 房 遵 西、 第 二 筆 の 真観
房 感 西 、 お よ び 筆 者 不 明 の第
三 筆 に つ い て は 、 い ず れ も 他 に そ の真
跡
が知
ら れ て お ら ず 、 確 証 す る こ と は む ず か し い 。 し か し い ず れ も 鎌 倉 時代
特 有 の 筆 跡特
微 を 示 し て おり
、 そ の伝
承 は尊
重 し て お き た い 」 と い わ れ る よ う に 、 安楽
房
、 真 観 房 の 筆 で さ え 消 極 的 に 承 認 す る ほ か な く 、 ま し て失
『 選 択 集 』 草 稿 本 第 三 筆 は 西 山 上 人 証 空 一3
一 N工 工一Eleotronlo Llbrary西 山 学 報
名
の 第 三 筆 の 如 き は 沓 と し て 検討
の よ す が も な か っ た の で あ る 。 と こ ろ が、 照 合 の結
果
は 、 字 姿 か ら筆
遣 い に い た る ま で 、 一 見 し て 同 筆 で あ る こ と が 直 感 さ れ、 し か も 執 筆年
代
の 開 き を さ え 感 じ さ せ な い ほ ど の 酷 似 を 見 、 第 三 筆 は 西 山 上 人 証 空 で あ る と の 確 信 を う る に い た り ( 別 表H
参
照 ) 、 同 資 料 を携
え て 、京
都
博
物
館 に 木 下 資料
室 長 を た ず ね 、 酷似
の様
相 と い い 、字
数 と い い 、 同 筆 相 違 な き 由 の 支 持 を 頂 い た こ と で あ っ た 。 さ て 筆 蹟 酷 似 の状
態 で あ る が 、 百 聞 一 見 の こ と ば に 違 わ ず、 別 表e
に あ ら わ れ て い る 通 り で 多 言 を 要 し な い が 、 用 い た 資料
は 次 の 通 り で あ る 。 剛京
都
大 念 寺文
書 ( 四 戒 相 承 の文
) 。こ れ は も と 証 空 が 西 山 往 生 院 ( 三 鈷
寺
) の 静房
(自
房 ) に 、 臨 終瞻
仰 の 仏 体 と し て 安 置 す べ く 、 真 如 堂 の 慈 覚大
師
作
の 弥 陀 像 を 摸 刻 し た、 来 迎 仏 の 胎内
に 、 仁 治 四年
( 一 二 四 〇 )門
弟 円 空 の 発 願 で 、 同 門 の有
志 が 頓 写 し た 如法
経 と と も に 納 蔵 せ ら れ て い た 文 書 で 、 昭 和十
六 年 に 仏 像 修 理 の 際 に 発 見 さ れ た ( 重文
) 指 定 の真
蹟
で あ る 。 胎 内 に 納蔵
し た 時 期 を 、 一 応 仁 治 四年
と す れ ば 、 証 空 ⊥ ハ 十 七 歳 の筆
で 、 『 選 択 集 』 撰 述 の 二十
二 歳 か ら 四 十 五年
後 と い う こ と に な る 。 そ の 文 は 四 戒 相 承金 剛
宝
戒諸
仏 本 源敬
帰弥
陀 依 心 起行
八 万
余
門釈 尊 教 匪
成
十
六 観 六 字具
足開 顕 弘 願
善 悪 凡 夫
皆
得 往 生 願 以 此功
徳 平 等 施 一 切 同 発 菩 提 心往
生
安
楽
国南
無 阿弥
陀
仏沙 門
証 空 比 丘 尼 喜 忍 一
4
一NII-Electronic Library Service 別 表
e
( 選 択 集 草 稿 本 第 三 筆 と 証 空 真 蹟 の 比 較 ) 選 択 集 草 稿 本 大 念 寺 文 書 選 択 集 草 稿 本 大 念 寺 文 書一 選 択 集 草 稿 本 大 念 寺 文 書
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『 選 択 集 』 草 稿 本 第 三 筆 は 西 山 上 人 証 空善
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一 N工 工一Eleotronlo Llbrary選 択 集 草 稿 本 大 念 寺 文 書
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一NII-Electronic Library Service 選 択 集 草 稿 本 警 誓 願 状 寺 →
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歌
西 山 学 報 の 漢 字 八 十 五
文
字
か ら な る も の で 、 今 回 の 如 く 、 漢文
体 の筆
蹟 を 判 定 す る に は 好 箇 の資
料 で 、 別 表 は 比 較 の 便 を 計 っ て 、 こ の文
書
の 文 字 の 側 へ 草稿
本 か ら 酷似
文 字 を 集 め た も の を 主 体 と し 、 他 の 書 状 類 か ら も 適 宣 引 用 し た 。 二奈 良 興 善
寺
文 書 ( 正 行 房 宛 書状
) ( 重 文 ) 。 昭 和 三 十 七 年 四 月、 同寺
本尊
の 阿 弥 陀 如 来 の 胎 内 か ら 、 源 空、 欣 西 、 親 蓮等
の書
状
と と も に 発 見 さ れ た 断 簡 で 、 内 容 か ら み て 、 元 久建
永 ( 一 二 〇 四−
六 ) の 頃、 す な わ ち 証 空 三 十 歳前
後 の筆
と み ら れ る も の で あ る 。 三 京都
清
涼
寺 文 書 ( 熊 谷 入 道 宛 書 状 ) ( 重 文 ) 。 こ れ は 入 道 か ら 法 然 上 人 へ 差 出 し た 便 り に対
し て 、 上 人 の 意 を う け て 証 空 が 認 め た 書 状 と み ら れ る も の で あ る が、 『 四 十 八 巻 伝 』 二 七 に は 、 冒 頭 の 「 二 字 と も か へ し ま い ら せ 候 ぬ 。 御 ふ み 又候
め り 」 の 二十
字 約 二 行 を 除 き 、「 源 空 」 の
書
状
と し 、 ま た 了 恵 編 の 『拾
遺 語 灯 録 』 も 同 様 で あ る 。 師 上 人 の 意 を う け て 認 め た と い っ て も、 発 信 人 は 証 空 で あ っ て 代 筆 で は な い 。 熊 谷 入 道 が 念 仏 し て 死 期 を 予 知 し た こ と を 上 人 に報
ら せ た こ と へ の 返 状 と い う 内 容 か ら み て 、 承 元 二 年 ( 一 二 〇 八 ) と す れ ば 、 証 空 三 十 二 歳 の 筆 で あ る 。 四京 都
誓
願 寺 文 書 (広
川 刑 部 宛 書 状 ) 。も と 三 鈷
寺
所 蔵 で あ っ た も の を 、 南 紀 総持
寺 の南
楚 か ら 誓 願寺
竜 空 に 遺 贈 さ れ たも
の 。 年 代 不 明 で あ る 。 五七 ケ
条
制
誡
置 名、 元久
元年
( 一 二 〇 四 ) 証 空 二 十 八 歳 の 筆 で あ る 。 い ま 別 表 の筆
蹟 に つ い て 一言
す る な ら ば 、へ 草 稿 本 〉
〈
真
蹟資
料 〉 と も に 、 鎌 倉 時代
の 筆 蹟 特徴
を そ な え た 和 様 漢 字 特 有 の律
動 的 な 線 で 形 成 さ れ て い る 。 そ の 中 か ら 証 空 独 特 の 筆 遣 い 、字
姿
を 示 す も の の 二 三 を 取 上 げ て み よ う 。 ( 因 み に 、筆
蹟 に付
し た 数 字 は法
蔵 館 刊 『 選 択 集 』 ( 草 稿 本 ) 複 製 の 丁 数 ・ 左 右 ・ 行 数 を 示 し た も の で あ る ) ま ず、 証空
自 署 の 「 沙 門證
空 」 の 四 文字
に は 、 さ す が に 四 十余
年 の 隔 り が み え な い 。〈 稿
本
〉 と 〈 大 念 寺 本 〉 と 一 一NII-Electronic Library Service ヘ ヘ ヘ ヘ へ 筆 圧 も 筆 速 も 全 く 一 つ で あ る 。 両 本 と も に 、 「 沙 」 は 三 水 へ ん を タ テ の 一 本 の 線 に つ く り、 つ く り の 「 少 」 を 平
仮
名 の 「 み 」 に 似 た 草体
に ま と め て い る 。 「 門 」 の 左 側 を タ テ 「 本 の 線 に ま と め 、 全 体 に 外 側 に ふ く ら み 、 右 の 空 間 ヘ へ を 大 き く 抱 え て い る 。 「 証 」 は 〈 草 稿 本 〉 〈 大 念 寺 本 〉 〈 七 ケ 条 制 誡 〉 と も、 行 書 体 の 言 べ ん が 、第
ニ ヨ コ 画 が 目 立 ヘ ヘ ヘ ヘ へ っ て長
く 、 つ く り の 登 は 左 に 傾 斜 し て 右 下 り に の び て い る 。 ま た 、 同 じ 「 証 」 の 草 体 〈 清 涼 寺 本 〉 の 場 合、言
べ ん ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ へ第
一 画 の点
に つ づ け て 、第
ニ ー 七 画 を タ テ の 一 本 に ま と め 、 下端
を 外 側 へ 撥 ぬ 上 げ て 、 つ く り の 癶 か ん む り に つ づ け る 意 連 を み せ て い る 。 こ の 字 姿 は 、 書 体 字 典 等 に徴
し て も き わ め て 稀 な 形 で あ る が、 こ の 〈 草 稿本
V に は多
く み ら れ、へ
清
涼 寺 本 〉( 熊 谷 蓮 生 宛 書 状 ) の 証 空 署 名 の
字
姿 を 見 馴 れ た 筆 者 が、 証 空 真 蹟 を 直 感 し 、今
回 の 調 査 に 踏 み き る 端 緒 と な っ た の で あ る 。 「 起 行 」 の 「 起 」 の 第 一 と第
四 の タ テ 画 を 一 本 に つ づ け 、 六 、 五 、 七 画 を 順 に た た ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ へ ん で 心 も ち 右 下 へ 下 げ る 走 に ょ う と 、 己 つ く り の第
三 画 の つ よ い 線 。「 行 」 の そ れ ぞ れ 向 い あ っ て 佇 立 す る
長
短 ニ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ へ 本 の タ テ 画 の 風 情 は 独特
で あ る 。「
余
」 の 食 へ ん の 第 一 画 が 大 き く 、 次 第 に 下 が 狭 ま り 、 余 つ く り は 人 か ん む り の第
二 画 を 第 一 画 の 半 ば か ら 曳 き、 そ の 分 だ け未
の位
置 が 下 が り 、 全 体 と し て 右 下 り 。 ま た 「 余 」 の 禾 を 〈 草 稿 本 〉 ヘ ヘ へ 〈 大 念 寺 本 〉 と も 未 に つ く っ て い る 。 「 成 」 は 「戒
」 〈大
念 寺 本 〉 と 同 様 に 、 戈 つ く り が 直 立 に 近 く 長 い 。 「 佳 」 は 「 離 」〈 草 稿 本 〉 も 「 唯 」
〈 〃 〉 も 「 観 」
〈 大 念
寺
本
〉 と 同様
に 「 隹 」 の 第 ニ タ テ 画 が 長 く 下 に突
出 し、 ま た長
い 第 四 ヨ コ 画 の 上 下 が 空 い て い る 。「 生 死 」 は、
「 生 」 の 第 三 タ テ 画 を 下 ま で の ば さ ず 、 心 も ち 引 上 げ て
第
四 ヨ コ ヘ ヘ ヘ へ 画 を 意 で 結 び 、 第 五 ヨ コ 画 に 短 く つ な ぎ 小 さ く 仕 上 げ て い る 。 「 死 」 の 歹 へ ん は 、第
「 ヨ コ 画 も 短 く 、 へ ん か ら の ヘ ヘ へ 意 連 を 見 せ て 仰 向 く 匕 つ く り の 曲 線 が特
徴 的 で あ る 。 一9
一N工 工一Eleotronlo Llbrary Servloe い っ た い 、 草 稿 本 の
執
筆
に 証 空 を 擬 す る と い う 発 想 は 、 『 選 択 集 』 草 稿 本 第 三 筆 は 西 山 上 人 証 空 唐突
か と い う に 、決
し て そ う で は な く 、 証 空 三代
の法
孫
西 山
学
報 に あ た る行
観 は 『 選択
集
秘 鈔 』 一 に 先 ツ 此 ノ 選 択 ト ハ月
輪 禅 定 殿 下 ヨ リ 仰 ヲ 蒙 テ 作 ラ ル ル 文 也 。 … … 時 二 法 然 上 人 春 秋 六 十 六 御 籠 居 己 後 ノ 事 ナ リ 。 西 山夫
零
二≒
ξ
法筌
人 ハ薯
・ 西 山夫
ハ昊
ノ 人 也 ・ 或 ハ 師 ・ 仰・攣
経 律論
等 ・ 文共
・裂
善
( 六 ) カ ル ル 也 。 勢 観 房 ハ 生 年 十 八 也、 此 ノ 人 ハ 御前
二 侍 ル ト 雖 モ未
ダ ロ 入 ノ 程 ニ ハ 至 ラ ズ 。 と 記 し 、 士 、 た 、 証 空 に 受 学 し た 長 西 の 門 下 の 、 東 大寺
難
も 『堂
源 流 章烹
二 ) 証 空 従 幼 随 源 空 上 人 、 習 学浄
教 、 精 詳 義 途、 源 空 上 人 作 選 択 集 、 証 空 年 二 十 三 是 勘 文 役 、深
達 彼 義 。 と い っ て い る 。 こ こ に 口 入 と い い 勘文
の 役 と い う の は 、 師 の 意 を 承 け て 経 釈 の 要文
を 引 く 編 集助
手
の 意 で 、 当時
法 然 上 人 は病
床 に あ り 、 そ の あ と 四月
八 日 に は 『 没 後 遺誠
ノ 文 』 ま で 作 っ て い る ほ ど で あ る か ら、 撰 述 に 際 し ても
い っ そ う助
手
が 必 要 な状
態 で あ っ た に違
い な い 。 そ し て こ の 任 に 、 入 室 以 来 直接
の師
授 を 蒙 り 、 こ と に観
経 疏 の料
簡 に お い て は 数 回 に わ た り 、 章 々科
々 の 訓 説 を 受 け た と い う、 子 飼 い の 弟 子 証 空 が 当 っ た で あ ろ う こ と は 、 当 然考
え ら れ、 同 座 し た こ と は疑
う 余 地 の な い と こ ろ で あ る 。 従 っ て 、 『 秘 鈔 』 の 伝 え る会
衆 の 顔 ぶ れ か ら み て も、名
字
不 明 の 第 三 筆 に は 、 ま ず 証 空 を 想 定 す る こ と が 、 も っ と も 自 然 な こ と で 、 む し ろ 、今
日 ま で そ れ が試
み ら れ な か っ た こ と が ふ し ぎ で あ る 。 そ れ な ら ば 、 な ぜ 執 筆 三 人 の 中 で 証 空 た だ 一 人 「名
字 ヲ 失 」 し て い る の か と い う 疑 問 が 残 る 。 そ の 問 題 は 後 段 に ゆ ず り 、 い ま }応
、 証 空 が 執筆
に 加 わ っ た 事 情 を考
え て み る に 、 確 証 の 当初
は 、 証 空 の執
筆
部
分 は 、 十 亠 ハ 章 段 の な か の 第 十 三 章 段 以 降 で 、 し か も最
後 の 結 文 は 再 び 真 観 房 の 筆 と い う 部位
と 分 量 、 そ れ に 交替
直前
の 真観
房 の 筆 の み だ れ か ら み て 、 勘 文 が 本務
で あ っ た 証 空 が、 真 観 房 の 何 等 か ( 或 は 健康
上 等 ) の 理 由 に よ る 休 筆 を 、応
急 に カ バ ー さ れ た の で は な い か と 思 っ た の で あ る 。NII-Electronic Library Service し か し 、 真 観 房 の
手
で 書 継 が れ る 「 静 以 善 導 観 経 疏 」 以 下 の 結 文 は、 一 〇 六 丁 左 の余
白 を 超 え て 、 次 の 一 〇 七 丁 右 の 第 一 行 か ら 書 か れ て い る こ と に 注 意 す る と き 、 証 空 の 擱筆
を 俟 た ず に 、真
観
房 が 用 紙 を 改 め て 結 文 を 書 い た こ と か ら生
じ た こ の 余 白 が 、 証 空 執 筆 の 事 情 を 秘 め て い る よ う に も 思 え る 。 そ こ に 考 合 わ さ れ る こ と は 、 後 年 、 真 観 房 亡 き あ と 、 嘗 て 彼 が 法 然 上 人 に 近 侍 し て 、 諸 方 の門
弟 と の 連 絡 に 当 っ て い た よ う に 、 そ の あ と を 継 い だ 証 空 が 、 大 和 の 正行
房 に 宛 て た 書状
( 奈 良 興善
寺 蔵 ) に 「 … か や う に 御 ふ み お ま い ら せ 候 に つ き て ハ 、 故 真 観 房 往 生 の 事 が 思 ひ い て ら れ 候 也 。 た れ も こ れ に も お は し ま し 丶 よ り は 、 思 い て 、 あ は れ に お も ひ ま い ら せ給
候 ら ん な 」 と 認 め て い る 。 そ の 「 か や う に 御 ふ み お ま い ら せ 」 る と は、 か つ て 真 観 房 が 上 座 の 弟 子 と し て し て い た よ う に 、 い ま自
分 が そ の 後 を 継 ぎ 、 こ う し て便
り を 書 く に つ け て も 、 追憶
の 情 に か ら れ る と い う の で あ ろ う 。 証 空 に と っ て 、 十 四 才 か ら 二 十 四 才 に か け て の 青 年期
十 年 問 を 兄事
し た 、 二 十 四 才 年 長 の真
観
房 へ の 敬慕
は 格 別 で あ っ た で あ ろ う こ と を 思 う と 、 ま た 逆 に 真 観 房 が生
前
に 証 空 に 懐 い た で あ ろ う 愛情
も 容 易 に察
せ ら れ 、 い ま は む し ろ、 師法
然 の 指 示 に より
、 兄 弟 子 真 観 が若
い 証 空 に親
情
を こ め て 、 こ の 勝 縁 に 与 ら し め る べ く、 特 に 終 り 四章
を領
っ て 助 筆 せ し め た の で は な い か と 考 え る の で あ る 。 以 上 の 如 き 次 第 で 、 こ の 草 稿 本 に 証 空 の真
蹟 が 存 し て い た こ と の 意 義 は 、従
来 と か く 異 論 の あ っ た、 証 空 の勘
文 の 役 に も 確 証 が え ら れ 、 更 に第
一 筆 の 安 楽 房、 第 二筆
の 真 観 房 に つ い て も、 そ の 筆 者 伝 承 が 一 層裏
付 け ら れ た こ と に あ る と い っ て よ い 。 二 さ て 、『 選 択 集 』
執
筆 に 関 説 す る 諸 本 ( 別 表 口 ) の う ち、 聖 冏 の 『 直 牒 』 の 本 文 の 三 筆 四 交 替 の 「 相 伝 」 が 廬 山 『 選 択 集 』 草 稿 本 第 三 筆 は 西 山 上 人 証 空 一11
一 N工 工一Eleotronlo Llbrary西 山 学 報 寺 ( 草
稿
)本
に 符合
す る こ と は 先 に 述 べ た が、 『 直 牒 』 以 外 の 諸 本 は 、 す べ て 安 楽 房 か ら 真 観 房 へ の 、 た だ 一 回 の交
替 を 記 す の み で あ る 。 そ れ は 、他
本
に お い て は 、 も と も と 、 完 成 に い た る ま で の執
筆 ( 交替
) の 、 す べ て の 次第
を 伝 え る こ と が 目 的 で は な く、 僑 慢 な 安 楽 房 が 却 け ら れ て 真 観房
が 受 継 い だ と い う ハ プ ニ ン グ が 、 関 与 す る 人物
を 簡 び 姿 勢 を 正 し て 完 遂 さ れ 、 ま た そ れ故
に 、 善 導 の 冥 慮 に も 叶 う も の で あ る と い う 、 本 集 撰 述 の 事情
を物
語 る に 充 分 な 挿 話 で あ っ て 、 そ れ を 伝 え る こ と が 目 的 だ か ら で あ ろ う 。 し か し 、 そ の 挿 話 も 、 は じ め か ら た だ 二 人 の交
替 劇 だ け が 内 容 だ っ た の で は な く 、 行 観 の 『 秘 鈔 』 (別
表口
の3
) に 伝 え る如
き 人 物 構 成 に よ っ て 、 『 直牒
』 相伝
の 次第
( 別 表 口 の7
) の 如 く 執 筆 さ れ た こ と が 、 初 期 に は 語 り継
が れ て い た と考
え ら れ る 。 し か し 安 楽 房 が 却 け ら れ て 真 観 房 が替
っ た 第 一 回 以 外 の交
替
や 、 そ の 交替
文
段 な ど ち詳
し い 事柄
は、 挿 話 と し て の 興 味 が 少 な い か ら 、 次 第 に 脱 落 転 訛 し て 、 記 述 が 簡単
に な り、 交替
の 文 段 に は ふ れ ず 、 た だ 章 段 の み を 記 す に も 、「 第 三 章 書 写 の と き 」 と 正 確 に い っ て い る の は 『 四 十 八 巻
伝
』 の み で 、 『 密 要決
』 『 秘 鈔 』 『 文前
綱義
』 等 は 、 第 二 章 ま で 安 楽房
第
三 章 か ら 真 観 房 と 、『 選 択 之 伝 』 に な る と 、 第 三 章 ま で 安 楽 房 第 四
章
か ら 真 観 房 と な っ て い る 。 そ う し た 中 で 、 西 山 系 の 『 密 要 決 』 と 『 秘 鈔 』 と が、 交 替章
段 の 記 述 は 、 第 二 章 ま で 安 楽 房 第 三 章 か ら 真 観 房 と 、 転 訛 し な が ら も 、 同 座 の 人 名 と 役 割 を 伝 え て い る の は 、 そ れ ら諸
鈔 の 成 立 ( 『 秘 鈔 』 は 永 仁 ( 一 二 九 三i
八 ) 年 間 ) し た 当 時 の伝
承 形 態 と 考 え る こ と が で き る 。 そ う し た 伝 承 の 中 か ら 、 凝 然 の 『 源 流 章 』 を 含 め て 、各
本
そ れ ぞ れ に 、 必 要 に応
じ て 取捨
引 用 し た あ と を摘
記 す れ ば 、 別 表 口 ( 次 頁 ) の如
く で あ る 。 一 見 し て わ か る 如 く 、 安 楽 房、 真 観 房 以外
の 人名
お よ び 役 割 を 記 載 し て い る の は 、 西 山 系 の 『 密 要 決 』『
秘
鈔 』 と 、 凝 然 の 『 源 流章
』 で あ る 。 そ れ に対
し て 、『 四 十 八 巻
伝
』 等 鎮 西系
の 諸 本 に は 、 全 く そ の 記 載 が な い 。 そ れ が 自 然 な 脱 落 に よ る も の か、 取 捨 に よ る も の か は断
定 し 難 い が 、 『 文前
綱 義 』 『 選 択 之伝
』 は 挿話
性
の濃
い 『 四 十 八 巻 一12
一NII-Electronic Library Service 別 衷 口 ( 選 択 集 撰 述 に 関 す る 諸 説 ) 書 名 一 一 九 八
1
『 原 ( 草 稿 ) 本 』 1 = 「 四 七2
証 空 『 密 要 決 』 = 一 九 三 − 八3
行 観 『 秘 鈔 』 一 三 一 一 応 長 元4
凝 然 『 源 流 章 』 1 一 三 一 一 延 慶 四5
舜 昌 『 九 巻 伝 』 1 = 昌 二 四 正 中 元6
〃 『 罕 八 巻 伝 』 噌 三 四 一 ー 一 四 二 〇7
聖 問 『 直 牒 』 1 一 六 三 九 8 良 定 『 選 択 之 伝 』 1 一 七 五 〇 9 鳶 宿 『 文 前 綱 義 』 人名
・ 役
割 交 替 章 段 ( 法 然 ) 上 人 達 者 ( 証 空 ) 証 空 要 交 を 引 く 証 空 口 入 証 空 勘 ヌ 役 ( 源 智 ) 源 智 侍 者 ( 安 楽 ) 安
舞
安鰊
宀彝
( 真 観 } 〈 内 題・ 注〉 ( 師 ノ 仰 二 従 テ 経 律 論 等 ノ 文 共 ヲ 引 集 メ 被 書 ) 真 観 法 門 の 義 を 談 〔 補 ) 真 観 執 筆 選 択 本 願− 為 先 〈 本 文 〉 第 一 筆 ハ 変 能一 A亠
寡
主
慧 圭
) 第 二 筆 第 三 筆 ( 章 段 安 楽 − 三 安 楽 一 ー 三 ( 〃 ) 安 楽 初 − 三 安 楽 一 ー 二 三 − + 二 卜 三i
+ 六 ( 酬塑
響
(騙
経 轡 真 観 三 ー 真 観 三 ー を 記 さ ず } 真 観 後 ー 真 観 他 筆 失 名 宇 三 − + 二+ 三 − + 六 ( 〃 ) 真 観 四 − 真 観 三
1
あ ニ そ ニ ジ ソ 第 四 筆 「 選 択 集 』 草 稿 本 第 三 筆 は 西 山 上 人 証 空 士 ハ ー ( 静 以 1 } 十r
嶺
一13
一 N工 工一Eleotronio Library
西 山 学 報
伝 』 の 記 載 を 継 承 し た と 考 え ら れ、 ま た 『 直 牒 』 の 相 伝 の
次
第
は 、 『 決 疑鈔
』 の 「 此 の 集 ヲ 撰 セ ラ ル ル ノ 時 、 真 観 房 ヲ 以 テ執
筆 ノ 人 ト為
ス 」 と 、 い か に も 執 筆 者 は 真 観 房 一 人 で あ っ た か の 如 き 記事
に 尅 し て 、 相 伝 に よ れ ば 「 多 ク 執筆
有 リ 」 と 註 す る た め の も の で あ る か ら 、 か り に 同 座 の 人名
が 記 さ れ て い な く て も、 と く に 問 題 に は な ら な い と も い え る 。 し か し 、 助 筆 三 名 の交
替
の 次 第 を こ れ だ け 正確
に伝
え な が ら 、第
三 の 筆 者 の み失
名
し て い る の は 何 故 か 、 依 然 と し て 問 題 は残
る 。 そ れ に し て も 、 流 祖 の関
与
し た 撰 集 の 事情
を 、 西 山 証 空 の 門 流 に お い て 、 適 確 に 伝 承 し え な か っ た こ と こ そ 、 遺 憾千
万
と い う ほ か な い 。 こ れ に 関 連 し て 『 選 択 集 』 に お け る 証 空 の 、執
筆 と い う新
事
実
は 暫 く措
く と し て 、 勘文
の事
さ え 無 視 す る 傾 向 が 、 鎮 西 流 に は あ る と す る 、 真 宗大
谷 派 の 慧 空、 深 励 、 住 田 智 見等
の 諸 学 匠 の 見解
が 注 目 さ れ る 。 即 ち、 大 谷 派 初 代 講師
光
遠 院 慧 空 ( 一 六 四 四 − 一 七 二 一 ) は 、 そ の 著 『 選 択 集 叢林
記 』 巻 一 の 「執
筆
ノ 事 」 に 鎮 西 ノ諸
記 ニ ハ 証 空 勘 文 ナ ド ト 云 事 曽 テ 沙 汰 ナ シ 。 サ レ ド 上 人 籠 居 ノ 時 ハ 、 御 代 官 ト シ テ 証 空 マ イ ラ ネ バ 、 争 力 不 昌 口 入 人 殉 豈 不 レ 預 二其
座 一 乎 。 況 ヤ 源流
章
二 善 恵 公 在 二 撰 座 一 ト 云 々 。 是 レ 他 家 ノ 実 記 ナ ル ヲ ヤ 。 源 流 章 云、 源 空 上 人 作 二 撰 択 集 「 証 空 年 二 十 三 ( 二 ) ニ シ テ 是勘
文 ノ 役 タ リ 。深
一 一 達彼
義 一 文 。と 記 し 、 香
月
院
深
励
( 一 七 四 九−
一 八 一 七 ) も 『 選 択 集 講 義 』 一 に 黒 谷 ( 四 十 八 巻 ) 伝 ノ 中 ニ ハ安
楽
房 執 筆 ノ コ ト ハ ア レ ド善
恵 房 ノ 勘 文 ヲ ツ ト メ タ コ ト ヲ 述 べ テ ナ シ 。 之 レ ガ 黒 谷 伝 ハ 往 々私
ノ ア ル伝
記 ジ ャ ト 云 フ 一 ノ 証 拠 ナ リ 。 一 14 一NII-Electronic Library Service と 。 ま た 、 住 田 智 見 は 『 浄 土 源 流 章 解 説 』 に 二 十 三 ( 二 ) の 時 、 元 祖 選 択 撰 述 の 時、 特 に 勘 文 を
勤
む 。 密 要 決 の 初 め に 記 す 処 。 西 山 の諸
記 み な 一 様 な り 。今
( 源 流 ) 章 亦 然 り 。 こ の こ と 四 十 八 巻 伝 の 十 一 、 四 十 七 に は 見 え ず 、 翼 讃 に も 言 わ ず 。 鎮 流 に は 之 を 認 め ぬ と 見 ゆ 。 と い っ て い る 等 の こ と で あ る 。 さ て 、 そ れ ら 真 宗 学 匠 の 指摘
に よ っ て 、 鎮 西 流 宗 学 の 初 期 の 動 向 を 窺 う と き 、 西 山 証 空 を 邪義
視 す る 傾 向 の あ っ た こ と は 否 め な い 。 即 ち 、 鎮 西 流 祖 聖 光 房 弁 長 は 『 末 代 念 仏 授 手 印 』 の中
で 、「 上 人 往 生 ノ 後、
其
ノ 義 ヲ 水 火 二 諍 ヒ 、其
ノ 論 ヲ 蘭 菊 二 致 シ 、 還 テ 念 仏 ノ 行 ヲ 失 ヒ 、 空 シ ク 浄 土 ノ 行 ヲ 廃 ス 」 る 異端
を 嘆 き 、 そ の 終 り に 邪 義 と 断 ず る ノ 「 三 人 義 」 の 第 二 に 鯉 人 ノ 云 ク ・ 行 門 観 門 弘 願門
此 ノ 三 門 ヲ 立 テ テ ・ 弘 願門
ハ 往告
得
其
ノ 行 門 ノ 人 観 門 ノ 人 ハ 往 生 ヲ 得 ズ 、 弘 願 門 ノ義
ヲ 知 ラ ザ ル ニ依
テ ナ リ 。 之 二依
テ学
文 ヲ能
ク能
ク シ 弘 願 門 二帰
ス ベ シ 。 と い う の は 、 西 山 証 空 を 難 じ た も の で あ る が 、 西山
に お い て は 、 観 門 弘 願 は表
裏
相 離 れ ぬ か ら、 弘 願 を 離 れ た 観 門 の往
生 を 論 ず る こ と は な く 、 言 う と こ ろ の 論 旨 は 当 っ て い な い し 、 ま た 証 空 の 勧 め る 念 仏 は 、 必 ず し も 学 問 の 必 要 で な い こ と は 、 鎮 西 寄 り と 言 わ れ る 『 四 十 八 巻 伝 』 第 四 七所
収 の 「 津戸
三郎
尊
願 え の 返状
」 の 、 平 信 の 念 仏 に よ っ て も 明 ら か で あ る 。 が 、 兎 も角
、 証 空 を ふ く め て 「 此 ノ 三 人 の 義 ハ 是 レ 邪義
也 。 恐 ル ベ シ 、 恐 ル ベ シ 。 全 ク 是 レ 法 然 上 人 ノ 義 二非
ズ … …学
文
セ ザ ル 無 智 ノ 僧 達 ノ 愚 案 ナ リ 」 と激
越 な 筆 致 で難
じ て い る 。 そ の 門 弟 然 阿良
忠 も 『決
答授
手
印 疑 問 鈔 』上
に お い て 、法
然
上 人 の滅
後
、 一 念 義 が 繁 昌 し 、 小 坂 ( 証 空 ) の 弘 願義
が 世 に 興 り 、人
み な先
師 の遺
誡
に背
い て 、多
く は 念 仏 の行
を 廃 す る に 至 っ た と い い 、 ま た 、 当時
、 彦 山 の 住 侶 で 『 選 択 集 』 草 稿 本 第 三 筆 は 西 山 上 人 証 空 一15
一 N工 工一Eleotronlo Llbrary西 山 学 報 念 仏
者
に な る こ と を 志 し 、 西 山 (善
恵 房 証 空 ) と 善導
寺 ( 聖光
) と の 何 れ を 師 す べ き か を 思案
す る も の の 夢 に 、 高 僧 が 現 わ れ て 「 善 恵 房 ノ 義 ハ 虚 空 二面
形 ヲ シ タ ル 様 ナ リ 。 聖 光 房 ノ 製 作 ノ 授 手 印 ハ 末 代 二 光 ヲ 放 ッ ベ キ ノ 書 ナ リ 」 と、 聖 光 房 を 讃 め た と い っ て い る 。要
す る に 証 空 は 、 鎮 西 流 に と っ て 、 正 潤 を 競 う べ き ラ イ バ ル で あ っ た の で あ る 。 ま た 『 四 + 八巻
伝 』 第 四 六 の埀
光
房 弁 長 の伝
L に は ・鸛
房 源 智 が譜
師 念 仏 の 義 道 を た が え ず申
す 人 は ・ 鎮 西 聖 光 な り L と い っ た と 記 し、 そ の 聖 光 房 の弟
子 然 阿 良 忠 は 、 勢 観 房 の 付弟
蓮 寂 と 、 そ の 後文
永 年 中 に 、 東 山 の 赤 築 地 で 四 十 八 日 の 談 義 を し た そ の と き 、自
分 が 読 み 役 と な り 、 鎮 西 聖 光 の 流義
と 勢 観 房 の 流義
と の 、 両 流 の 校合
を し た と こ ろ 、 少 し も 違 わ な か っ た と い う の で 、 勢 観 房 の 付 弟 蓮 寂 を し て 「 日 比 勢 観 房 の 申 さ れ し こ と は 、 い ま す で に 符 合 し ぬ 。 予 が 門 弟 に を き て は 、 鎮 西 の 相 伝 を も て 我 が 義 と す べ し 。 さ ら に 別 流 を た ず ぬ べ か ら ず 」 と 、 鎮 西 流 え の 合 流 を 認 め し め て お り、 教 団 形 成 へ の 然 阿 の 意 慾 的 な 側 面 を 窺 う こ と が で き る 。 ま た 、 清 涼 寺 蔵 の 『 熊 谷 蓮 生宛
証 空 書状
』 が、 鎮 西 流 了 恵 編 の 『 拾 遺 語 灯 録 』 お よ び、 こ れ も 鎮 西 寄 り と い わ れ る 『 四 十 八 巻 伝 』 二 七 に 、 明 ら か に 差 出 人 は法
然 と は 別 人 と わ か る 、 冒 頭 の 「 二 字 と も か へ し ま い ら せ 候 ぬ 。 御 ふ み 又 候 め り 」 の 二 十 字 約 一 行 半 を 削除
し、 署名
を 「 源 空 」 に 改 竄 収 録 し て い る こ と の 背 景 に も、證
空 の名
を 否 定 す る 動 機 が な か っ た と い い き れ な い 。 さ て 、 勢 観 房 の 撰 と さ れ る 『 選 択要
決 』 一 巻 は 、 実 は朝
日 山 信 寂 の 撰 と い う こ と で あ る が 、 本 文 中 の コ 辰 シ イ 哉 慧 日 ( 法 然 上 人 ) 影 ヲ 隠 シ テ 己 二 五 五 ノ 星 霜 ヲ 送 ル 」 の 記 述 に ょ っ て 、 法 然 上 人 の 滅 後 二 十 五 年 、 即 ち 嘉 禎 三年
( 一 二 三 七 ) の 撰 述 と み ら れ る も の で あ る が、 当 時 当 然 上 人 の 門 下 で 異 義 が簇
出 し 、 中 に は 単 に 『 選 択 集 』 を 批 判 す る だ け で な く、 上 人 の 真 撰 に 非 ず と い う も の さ え あ る の で 、 こ れ に対
し て 要 義 を 決 択 し た も の で あ る と い う 。 即 ち 序 文 に 一 一NII-Electronic Library Service 比 日 、 諸 方 ノ
道
俗 ヲ 見 聞 ス ル ニ 、 宿 習 同 ジ カ ラ ザ レ バ 解 行 異 リ 有 リ 。 伝 聞 ク . 一 門 ノ 学者
ノ 中 二 、 竊 二 難破
ヲ 加 ウ ル 者 有 リ、 初 心 ノ 行 者 之 ヲ 聞 テ病
ト 為 ス 。 因 テ 今 、 略 シ テ其
ノ 難 ヲ 挙 ゲ 聊 力 要 ヲ 取 テ決
ヲ為
ス 。 是 レ 乃 チ 迷 徒 ノ 疑 ヲ 去 ン ガ為
二 、 賢 者 ノ 譏 リ ヲ 顧 ミ ズ 。 難 二 十 種 有 リ 、 随 難 随 決 ス 。 と い う 、 そ の 十 種 の 異 義 な る も の も 、実
名
を 挙 げ て い な い の で 、 誰 の 義 を 指 す か は 、 明 確 に は 判 じ 難 い が、 そ の中
七
ニ ハ 、 此 集 ハ 行 者 ノ 功 ヲ 以 テ往
生 ノ 行 ト為
シ 、末
ダ 正 因 正 行 ノ 法 ヲ 明 カ サ ズ 云 々 八 ニ ハ 、 此 集 所 立 ノ 宗 義 ハ 是 レ末
ダ 理 ヲ 尽 サ ズ 、 当 世 ノ 宗 義 ハ 其 ノ 意 斯 レ周
シ 云 々 九 ニ ハ 、 此 集 ノ 所 明 ハ 只 ダ 是 レ 随機
ノ 説 ノ ミ 、 其 ノ 実義
二於
テ ハ 我 レ 独 リ 相 伝 ス 云 々 十 ニ ハ 、 此 集 ハ 只 ダ 往 生 ノ 分際
ヲ 明 シ テ、未
ダ 成 仏 ノ実
義 ヲ 立 テ ズ 云 々 の 四項
は 、 論 述 の 内 容 か ら み て 西 山 義 に 対 す る も の と 思 わ れ る が 、 そ の 教義
上 の 論 難 に 対 し て は 、 別 の機
会
に ゆ ず る 。 た だ、 こ の中
に 、 正 因 、 正 行、 顕 行 、 示 観 等 の 証 空 『 他 筆 鈔 』 の名
目 が 出 て い る こ と に つ い て 、 一 言 付 記 す る な ら ば、従
来
『 他 筆 鈔 』 の 成 立 は 、 そ の筆
録 者 に 擬 せ ら れ る 門弟
、 東 山 義 祖 証 人 示 寂 の 寛 元 二 年 ( 一 二 四 四 ) 以 前 と す る の が 通 説 で あ っ た が 、 い ま 『 選 択要
決 』 の 中 に 『 他 筆 鈔 』 の 論 目 が 所破
と な っ て い る と こ ろ か ら み て 、 通 説 よ り 七 年前
の 『 要 決 』 選 述 の 嘉 禎. 二 年 ( ご 「 三 七 ) 当 時 、 既 に 講 ぜ ら れ 、 或 は 成 立 し て い た と 言 え る の で あ る 。 さ て 、 そ れ ら 西 山義
へ の 論 難 の中
で 、 証 空 の事
歴 に 関 す る 事柄
と し て 、 第 九 の 文 中 に 「若
シ 夫 レ 、 面 受 ロ 決 ナ ラ バ 、 何故
二年
年 二 義 ヲ 改 メ 時 時 三 言 ヲ易
フ ル ヤ 、前
二 準 ジ テ 後 ヲ 思 フ ニ未
来 モ亦
タ 不 定 ナ ル ベ シ 」 と い っ て い る の は 、 証 空 が 教 義 を 語 る の に 、 既 成 の名
目 に 飽 き 足 ら ず 、 自 ら 案 出 し た 特 殊 名 目 を 用 い 、 初 期 の 『観
門 義 』 時 代 に は 行 門 ・観
門
・ 弘 願 を、 次 の 『 他 筆 鈔 』時
代 に な る と 顕行
・ 示 観 、 正 因 ・ 正 行 等 と、 時 期 に よ っ て名
目 を替
え て い る 『 選 択 集 』 草 稿 本 第 三 筆 は 西 山 上 人 証 空 一17
一 N工 工一Eleotronlo Llbrary西 山 学 報 こ と を 逆 手 に 執 り 、 も し 汝 が 宗 祖 に 常 随 二
十
三 年 の 直接
師 授 を 蒙 っ た弟
子 で あ る な ら ば 、 特殊
名
目 の 自 己 案 出 な ど は 無 用 の は ず と 、 詰 っ て い る の で あ る 。 次 に 、 第 十 の文
中 に 問 日 ク 、 同 人 ( 前 文 の 有 人 、 暗 に 証 空 を指
す ) 又 云 ク 、 此 集 ハ 昔時
上 人 ノ 命 ヲ 奉 ジ テ 我 レ要
文 ヲ 集 ム ト 、 実 不 如 何 。答
日 ク 、 選択
ノ 文 ヲ 集 ム ル コ ト ハ 当 二 建 久第
九 之 暦 二 当 ル 、 歳 月 ヲ 算 計 ス ル ニ 四 十 歳 二向
ン ト ス 。 年 令 ヲ 以 テ 知 ル ベ シ 、 マ タ 才 能 ヲ 忖 リ テ 知 ル ベ シ 。 と い う 。 即 ち 、 『 選 択 集 』 は 、 む か し 法然
上 人 の 命 を う け て 、自
分 が要
文 を 集 め た と い っ て い る が、本
当 だ ろ う か と 問 い 、『 選 択 集 』 の 撰 述 は 、 建
久
九年
だ か ら 、 も う 四 十 年 に も な る 。 だ と す る と、彼
は い っ た い 、 そ の 時 何 歳 だ っ た と い う の か 、 年 齢 を 考 え て み る が よ い 、 そ ん な 才能
が あ っ た と い う の か 。 と 。 そ れ は 、 一 言 の も と に 、 証 空 勘文
の事
歴 を 抹消
す る 、 短 か く 鋭 い 言 葉 で あ る 。 し か し 、 た と え、 勘 文 の 事 を 、 否定
す る た め に も せ よ 、 嘉 禎 三 年 と い う 証 空 六十
冖 才 の 在 世 中 に 、『 要
決
』 が、 そ の 事 を 記 し て い る と い う 事 実 は 、貴
重 な史
料 と い う べ き で あ る 。 従 来 、 証 空 の 勘 文 は 『 密 要決
』( 下 に 述 べ る 如 く 証 空 の
自
撰 は 疑 が わ し い ) の ほ か は、 歿 後 五 十 年 頃 に 成 る行
観 の 『 秘 鈔 』 や 凝 然 の 『 源流
章
』 の 記 事 に拠
る ほ か な か っ た 。 そ れ を い ま 同 時 代 の 『要
決
』 が 記 し て い る と い う こ と は 、 「 同 人 言 ク 」 だ け れ ど も 、 実 は、 そ れ を ロ コ ミ で 多 く の 者 が 言 っ て い た 、 そ の 世 間 の ロ が 問 題 な の で あ っ た 。 だ か ら 、 異 義 を 決 択 す る は ず の 『 要 決 』 が、 わ ざ わ ざ 、 た だ 一 人 証 空 の 事 歴 に 言 及 し 、「
我
レ 要 文 ヲ 集 」 め た と い う 勘 文 の 役 と い う 事 歴 を 、 何 の 説 明 も な く、 ま た 反 証 も 用 い ず に 、 一 言 の も と に 抹 消 し 去 ろ う と す る 、 そ の 短 い 語 気 の 鋭 さ は 、 そ の ま ま 、 「 こ の ひ じ り 、法
門
の 大綱
、 選 択集
を 本 と し て 、 か の 義 に た が へ る事
、 一 言 も申
さ れ ざ り 」 ( 『 四 十 八 巻 伝 』 四 三 ) し 、 守 文 的 起 行派
の信
寂
が 、 「 意 を 得 て 文 に 滞 ら ざ る 」 哲学
的安
心 派 の 證 空 に対
す る 、 い ろNII-Electronic Library Service い う な 意 味 で の 、 強 烈 な 面 当 て と み る こ と が で き る 。 源 智、 蓮 寂 は 所 請 紫 野 門
徒
、 信 寂 も ま た法
然 面 授 で 、 と も に 聖光
の 直 系 で は な い が 、 そ の 教 系 は 『 四 十 八 巻伝
』 に よ れ ば 、 早 く か ら 鎮 西 教 団 に 合 流 し て お り、 ま し て 法 然 上 人 の面
授 で 、『 選 択
集
』 の 撰 述 に も 同 座 し た と さ え い わ れ る、 源 智 の 撰 と し て伝
え ら れ る 『 選 択 要決
』 が、 鎮 西 流 に お い て 、門
下 異 流 の 要義
決
択 の 典拠
と し て 、 重 用 さ れ た こ と は 推測
に 難 く な い 。 従 っ て 、 住 田師
等 の 「 鎮 流 に は 之 を 認 め ぬ と 見 ゆ 」 と い わ れ る 、 鎮 西 流 に お け る 証 空 の 扱 い も、 或 は こ の 『 選 択 要決
』 の 記 事 が オ ピ ニ オ ン ・ リ ー ダ ー の 役 割 を 果 し て い る の で は な い か と 思 わ れ る 。 以 上 は 、 初 期 鎮 西 流 に お け る 証 空 勘 文 の扱
い に つ い て 述 べ た の で あ る が 、 勘 文 の 事実
の 否 定 は撰
述 同 座 の 否 定 に も つ な が り 、 必 然 的 に 、助
筆
と い う 役 割 を考
え る 基 盤 も打
消 さ れ る こ と に な り 、 そ の結
果 、 本 文第
三 筆 の み 「 他 筆 、名
字 ヲ 失 ス 」 と な っ た の で は な い か と 思 う 。但
し、 以 上 は 鎮 西 流初
期 の諸
鈔 に み え る傾
向
で あ っ て 、 学 問 的 且 つ 公 正 に 扱 わ れ て い る 同 流 現 代 の学
匠 に つ い て 言 っ て い る の で は な い 。四
さ て 、 證 空 の 勘 文 、執
筆
が 明 ら か に な る と 、 次 に 證 空 の 撰 と さ れ る 西山
事 相 鈔 の 問 題 が 再 燃 す る 。 西 山 事 相 鈔 と は 、『 当 麻 曼 陀 羅 注 』 十
巻
、『 観 経 秘 決 集 』 二 十 巻、
『 選 択 密 要
決
』 五 巻、『 四
十
八 願 要 釈 鈔 』 二 巻 、 修 業 要決
』 一 巻、『 当 麻
曼
陀 羅 供 式 』 一 巻、『 同 八 講 論
義
鈔 』 一 巻 等 、 五 部 三十
八 巻 の 総 称 で あ る が 、 各 鈔 相 互 に 内 容 的 に ふ か く関
連 し あ っ て い る た め 、『 密 要 決 』 の 撰
者
の 問 題 は 、 当 然 他 の 鈔 に も 波 及 す る こ と に な る 。従
来
も 、 『 当 麻曼
陀 羅 注 』 の 證 空 撰 に つ い て 、 思 想 や 流伝
の 面 か ら し ば し ば 疑 義 が 提 出 さ れ 、 こ れ に 対 し て 護 教 的 反論
が く り 返 さ れ 、時
に は 互 に 傷 い た事
例 も の こ し て い る だ け に 、 現 代 に お い て も 、疑
義
を抱
き な が ら 沈 黙 を ま も っ た 学 者 も あ っ た 。 『 選 択 集 』 草 稿 本 第 三 筆 は 西 山 上 人 証 空 一19
一 N工 工一Eleotronlo Llbrary西 山 学 報 『 曼 陀 羅 注 』 を ふ
く
め 、 事 相 鈔 の 成 立 に つ い て 、 筆・ 者 は か ね て 、 證 空 に 源 流 す る 口 伝 が、 後 年 に 文献
化 さ れ 、 證 空 に 仮 托 さ れ た も の と考
え て い る が 、 い ま は 、 思 想 に 渉 る 問 題 は別
と し て 、『 選
択
密 要 決 』 を 真 撰 と す る場
合
、 證 空 の 勘文
、執
筆 と い う事
実
と 、 ど の よ う に 齟 齬 を き た す か を指
摘
し た い 。 ま ず、 『 密 要 決 』 に お い て 『 選 択 集 』 の 「 撰 述 」 を 述 べ る 部分
は 、 辟 頭 の 「 題 号 ノ事
」 と 題 す る 項 で 、 要項
に 従 っ て 分 段 す れ ば 、次
の 如 く で あ る 。ω
〈 三 種 の 題 目 の こ と V選 択
本
願 念 仏 集 ト ハ 、 此 集 二 一 ニ ノ 題 目 有 ル コ ト ヲ知
ル ベ シ ( 以 下 略 )ω
へ 述 作 の因
縁 と 年 月 V( 略 ) 〈 撰 述 に
同
座
の 人物
〉此
文 ヲ 撰 セ ラ ル ル ノ 時、 人 ヲ簡
ビ テ 座 二在
ラ シ メ ズ 。 真 観有
リ テ法
門 ノ 義 を 談 ジ 、 証 空有
リ テ経
釈 ノ 要 文 ヲ 引 キ 、安
楽 有 リ テ筆
ヲ執
リ テ 之 ヲ 書 ク 。 此 ノ 外 二 人 ヲ 簡 ビ テ 座 二 在 ラ シ メ ズ 。 ω へ 安 楽 、 題 を 書 き 、 因 を 題 目 と す る 理 由 を 上 人 に 問 う 〉 安 楽 題 ヲ 書 キ テ 云 ク、 経 釈多
ク 果 二 向 ヒ テ 之 ヲ 題 ス 、今
因 ヲ 選 ビ テ 題 ト 為 ス 、 其 意 如 何 。 上 人 云 バ ク 、教
文 ノ 面 ヲ廃
シ テ 利益
ヲ 留 メ ザ ラ ン 為 二 、 因 ヲ 釈 シ テ 題 ト 為 ス 、 此義
ハ 下 ノ 章 に 有 ル ベ シ 。 〈 真 観 、 題 目 に つ い て 二 間 、 上 人 二 答 〉 ( 略 ) 〈 証 空、本
集
に 序 を 用 い ざ る 理 由 を 問 い 、 上 人 答 う 〉( 略 ) ω 〈 真 観、
本
集 に 作 者 の 名 を 記 さ ざ る 理 由 を 問 い 、 上 人答
う 〉( 略 )
圖
〈 安 楽 と 真 観 と執
筆交
迭 〉第
二 章 に 至 リ テ 、安
楽 筆 ヲ 閣 キ テ 云 ク、 此 文 ヲ 撰 作 ノ 座 二 召 サ レ テ 執 筆 ス ル コ ト 、 是 レ 生 涯 ノ 面 目 ナ リ ト 。 上 人 云 バ ク、 後 世 二於
テ 名 ヲ 称 セ ラ レ ン コ ト ヲ欲
ス ル カ 。 其 ノ 器 量 タ ル ヲ 以 テ 、今
執 筆 セ シ ム ト 雖 モ 、 其 ノ 心 正 シ カ ラ ズ ト 。仍
テ 第 三 章 ヨ リ ハ 、 真 観 二 執筆
セ シ メ 、 安 楽 ヲ 棄 テ ラ ル 。( 以 下
略
) 一20
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