• 検索結果がありません。

微分積分学における高大連携の方法について .

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "微分積分学における高大連携の方法について ."

Copied!
42
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

Tamotsu KIUCHI, Akari SUZUKI and Yoshihiko YAMAURA (Accepted November 30, 2017)

微分積分学における高大連携の方法について

木内 保

,

鈴木 明梨

,

山浦 義彦

平成

29

10

23

日作成

概 要 数学の特に解析学の分野における「高大連携」についての一考察を述べる. 一例として, 高等 学校と大学数学科に於ける微分積分学との整合性について,積分を題材として議論したい. 具体的 に言えば,大学の微分積分学における重積分の議論に於いて, Gauss-Greenの公式を述べそれに基 づいた計算をしてみせる教育が必要であると考える.

目 次

1 導入. . . 0 2 入試問題とその解法. . . 3 3 面積公式とそれによる入試問題の解法. . . 4 4 Gauss-Green の公式. . . 14 5 入試問題の Gauss-Greenの公式による解法. . . 24 6 高校の定積分の定義と大学での定積分の定義. . . 27 7 結論. . . 30 参考文献. . . 30 8 付記1: 高校数学における積分教育について. . . 32 9 付記2: Gauss-Green の公式の特別な場合の証明. . . 33 * 日本大学櫻丘高等学校: 〒156-0045 東京都世田谷区桜上水3-24-22 ** 日本大学大第一中学・高等学校: 〒130-0015 東京都墨田区横網1-5-2 *** 日本大学文理学部数学科/日本大学大学院総合基礎科学研究科: 〒156-8550 東京都世田谷区桜上水3-25-40

Nihon University Sakuragaoka High School: 3 − 24 − 22 Sakurajosui,

Setagaya−ku, Tokyo, 156−0045 Japan

** Nihon University Daiichi Junior & Senior High School: 1 − 5 − 2

Yokoami, Sumida−ku, Tokyo, 130−0015 Japan

*** Department of Mathematics, Graduate School of Integrated Basic

Sciences, Nihon University: 3 − 25 − 40 Sakurajosui, Setagaya − ku, Tokyo, 156−8550 Japan

微分積分学における高大連携の方法について

Hayato KAMIOKA*

(Accepted November 11, 2016)

木内 保*・鈴木 明梨**・山浦 義彦***

The Process of Photo-Induced Phase Transition in Reduced-Type Titanium Oxide Ti4O7

2 5 6 16 26 29 32 32 34 35

(2)

1

導入

本論文では,大学数学における2変数関数に対する積分,いわゆる「重積分」の高大連携を意識した 教育方法についての一考察を述べる. 1999年に中央教育審議会から高大連携教育が提唱されたが,数学の特に「微分積分学」に特化すれ ば,その根本は高校生が大学の公開授業を受けてみる,といった形式的なことではなく,高等学校で学 ぶ「数学III」と大学1,2年生で学ぶ「微分積分学」のスムーズな連携教育にあると考える. ところが, 現在でもそれはほとんど進んでいないのが現状ではないかと思われる. 実際, 日本大学文理学部数学 科(以下「本学」)に於いては,学生たちは大学の講義で学ぶ数学を,単位を取得する対象としてしか とらえていない傾向がある. この傾向は,卒業後に数学の教師を目指す意識の高い学生に限ったとし ても,全く同じである. 大学の数学が中学や高等学校の教育現場でそのままの形で教えられることこ そないが,そこで学ぶ根本的な原理や発想法が数学教育に於いて最も大切な根底となる,ということ に気づかないまま多くの学生たちが数学の教師になっている. 高大連携はさておき,本学には高校の数学と大学の数学は「大きく異なる」という感想を述べる学 生が多い. その理由として主に次の2点が考えられる. 理由1. 内容の抽象性 理由2. 大学の数学における概念の天下り的な定義の仕方 理由 1については, しかし,高校の教科書においても具体的練習問題に入る前の記述は「抽象的」で ある. 従って,これが主な原因ではなく,むしろ理由2が大きな原因になっていると考えられる. たと えば, 微分について言えば, 偏微分という考え方は実は高等学校でも折に触れ習う. 関数 f (x) = kx2 (k は定数)を微分しなさい,と言われれば高校生でも迷わず f(x) = 2kx と答えるだろう. これこそ が偏微分の計算に他ならない. よって,大学初年度の学生も偏微分についてはほとんど疑問をもたず に非常にスムーズに習得する. その一方で,本来の2変数関数に対する微分の概念である全微分可能 性の定義を正しく, そして深く理解して大学を卒業する本学学生はそう多くはない. 実際, 卒業後何 年経ってもその場で定義を自分で再現できるという卒業生は残念ながらほとんどいないのではない だろうか. その理由が「定義が天下り的に導入される」ということであろう. 大学初年度の微分積分学の目標の一つは,変数の個数を高校のときの1から2以上に上げることに ある. その目的から言えば,「偏微分,全微分」の順序ではなく,「全微分,偏微分」の順序で教えるべ きである. そして, 全微分という考え方が1変数関数の微分の概念から出発すべきであり, それがき わめて自然に拡張定義されることを始めに丁寧に解説すべきであろう. しかし,多くの解析学の専門 書でも計算しやすい偏微分から始まり,そして全微分の概念があたかも天下り的に導入される. これ では, 教わる側が, 大学数学を高校数学の延長としてとらえられなくても無理はない. 以上のように 考えを進めてくると, 数学において実質的な高大連携が進まないことには, 大学側の教育の責任も少 なからずあるものと考えられる. また, 中学,高校での数学教育の問題点も考えてみよう. 中学, 高校の数学では受験問題が解ける ようになることに重点をおくあまり,数学の原理· 原則に触れるような授業がおろそかになっている 傾向が否めない. 実際,たとえば「三平方の定理」を使うことはできてもその証明を何も見ずに再現 できる高校生はほとんどいない. 定理や公式を「使う」ことにのみ重点が置かれた教育の結果であろ う. 中学, 高校の数学教育において, 原理 ·原則を教えることこそが高大連携の出発点になると考え る. 高大連携を意識してそのような実例を挙げてみよう(参考文献[6], [7] 参照). (a) 「3点法」による2次関数のグラフの描き方. 平方完成により頂点を求めてからグラフを描 くのではなく, 定数項を除く項の因数分解を利用してグラフを描くことを教える. たとえば f (x) = 2x2 − 4x + 5f (x) = 2x(x− 2) + 5 から直ちにf (0) = f (2) がわかり, それによっ

(3)

て,軸が0 と 2の中点であるx = 1 とわかる. こうして, 3点(1, 3), (0, 5), (2, 5) を通る滑ら かな放物線を軸対称に注意しながら描けばグラフが完成する. この感覚は,大学数学で学ぶ 2変数関数のグラフ(特に回転面)を理解する際の感覚として大いに役立つ. (b) 2種類以上の文字を含む式の扱い. 2種類以上の文字を含む不等式の証明など多くの問題が あるが, これらは1つの文字のみを変数と考え, 他を定数とみることによって統一的な解法 が可能であることを理解させる. それを実例を通して生徒に実感させる. この手法は, 大学 数学における2変数関数の極大, 極小の理論に応用される. (c) 順列と組み合わせの関係. 生徒たちに実際に樹形図を描かせ,同一視する場合を一つの場合 とみなし, 総順列を同一視した場合の数で割ることにより, 組み合わせが求まることになる ことを実感させることができる. これは大学数学の集合論における「同値類」の考え方へと 発展する. 以上のように,単に受験問題の解き方をノウハウとして教えるのではなく, 原理· 原則を教えること で,高校数学の範囲でも様々な問題が統一的見地から見ることができるようになる. それだけでなく, その原理 ·原則は大学の微分積分学でも大いに役立つのである. これこそが高大連携であると筆者は 考える. 以下, 本論文の主題である「積分」を例に高校と大学での積分の教育方法について述べてみよう. 通常の専門書や大学1,2年生での講義では,重積分は次の手順で教えられる ([2]): A1. Riemann 式積分による重積分の定義 A2. 重積分と累次積分の一致に関する定理 A3. 重積分の累次積分を使った具体的計算練習 一方,高等学校での1変数関数の積分の議論を思い出してみると次のとおりである: B1. (数学II) 不定積分を原始関数として定義する. B2. (数学II) 面積によって定義される関数が原始関数で与えられることの証明 B3. (数学II) 定積分の原始関数を用いた定義 B4. (数学III) 区分求積法 このように比較してみると, A1–A3 の流れの中に,当然あるべき2変数関数に対する「原始関数」の 議論が入らず, A3での計算に於いて, 2変数関数ではなく, 1変数関数の原始関数が現れることになる. これは学生の目にはきわめて不自然に映るであろう. このような教育を施されれば, 大学生は2変数 関数の議論は1変数関数の議論の拡張であることに気づかなくて当然である. この決定的なギャップ を修正する教育方法を提示するのが本論文の目的である. なお, 高校数学における B1–B4の教育方 法にも問題がある. このこと,およびその修正案については付記1にまとめた. しかし,現在の高校で B1–B4の流れで教育がなされている以上,大学での積分講義は,付記1に記した「積分教育」の修正 から始めるべきであると考える. 本論文ではここまでが準備段階として完成しているものとして,そ の次のステップから詳細を述べたい. その手順は以下のとおりである: C1. 重積分のRiemann 式積分による定義 (省略) C2. 線積分のRiemann 式積分による定義 (第4節)

(4)

C3. Gauss-Green の公式 (第4節) C4. Gauss-Green の公式を用いた具体的計算とその特別な場合の証明 (第6節,付記) C5. 重積分と累次積分の変換議論 (省略) C6. 累次積分による具体的計算 (第6節) なお, C1 と C5 については, 例えば参考文献として挙げてある専門書に詳しく述べられているので, その記述は省略することにする. 冒頭に述べた理由1「大学数学は抽象的でわかりにくい」ということの関連事項を述べて本導入を 終わりにしたい. 何故学生たちがそのように感じてしまう講義になるかと言えば,それは教える側が 「抽象的な定義」から始める方が,説明するのに好都合だからである. つまり,多くの場合それは教え る側の都合による. 一方の学生側は,厳密に抽象論に基づいて概念の導入から始まると最後にいくら 具体的な計算練習を経験しても,その概念を深く理解するまで集中力が続かないことが多い. つまり, 具体的計算と抽象論をつなぎ合わせるという考察をするころには既に息切れしてしまっているのであ る. 積分に関する一例を挙げてみよう. 微分積分学を一通り学んだ本学4年生に「円錐の体積が同じ 底面をもつ円柱の体積の1/3 になる」ことについて説明してみよ,というとまず答えられない. それ は,高校までの数学と大学の数学は別物であると考え,それらをつなげようという観点をもつことが, 大学4年間を通じてなかったからである. 大学卒業後に数学の教師を目指す学生たちでさえも, 一歩 間違えると, “ 1/3 ” という数はあくまで近似値である,などと自信をもって答えるありさまである. 来週の試験範囲は三重積分の計算問題です, という状況にあれば一生懸命計算練習をして, 累次積分 の具体的計算をできるように努力はするが,それが実は体積が断面積の積分に等しいという事実の根 底の理論であることには全く意識が行かない. このことに一切気づかずに大学を卒業し,教職志望の 学生はそのまま教師になって生徒に数学を教えるようになるのである. このようなことにならないた めには,高校および大学の微分積分学の教育に於いては,お互いにつねに「つながり」を意識すべき であろう. それこそが真の意味での「高大連携」であると考える. そこで, 本論文では重積分を題材として高校生が普通に解く入試問題を出発点とし, Gauss-Green の公式を実際に使ってみることを強く意識してみた. 本論文で使われる記号の定義 R は実数すべてからなる集合を表す. a, ba < b を満たす実数とするとき, [a, b], (a, b) はそれぞれ 閉区間,開区間を表す. 定義はそれぞれ [a, b] ={x ∈ R | a  x  b}, (a, b) ={x ∈ R | a < x < b} である. 同様にして半開区間[a, b), (a, b] は次のように定義される: [a, b) ={x ∈ R | a  x < b}, (a, b] ={x ∈ R | a < x  b}

開区間 (a, b)上で定義された実数値関数fC0(a, b)-級であるとは, f (a, b) 上で連続であること

である. C1(a, b)-級であるとは, (a) f(a, b) 上で微分可能である, (b) それによって定義される導

関数f (a, b)上で連続であることである. なお, C0[a, b]-, C1[a, b]-級も同じように定義される. 2

(5)

2

入試問題とその解法

次の問題は大学入試に於いてよく出題される型の問題である. これを受験生が解く方法でまずは解い てみる.   [問題] 媒介変数表示された曲線  x(t) = cos t + t sin t

y(t) = sin t− t cos t (0 t  π)

Cとする. このとき, 原点と C 上の点 (x(t), y(t))を端点とする線分が通過する領域の面積を 求めなさい.   (解答) 求める面積を S とする. x(t), y(t) の値が計算しやすいような代表的な値t = 0,π2, π などを 代入して対応する点 (x(t), y(t)) を座標平面上にプロットし, それらを滑らかな曲線で結ぶことによ り, C の概形を求めることから始める. 1 1 図1: 曲線C さて,直線 x =−1, x軸,および C によって囲まれる図形の面積を S1 とし,直線 x = π2, x軸,およ び C によって囲まれる図形の面積をS2 とする. また, 2点 (−1, π), (−1, 0),および原点 Oを3頂点 とする直角三角形の面積をT とする(図 2 参照). O x O O y y y x x T 図2: S1, S2, T

(6)

3つの面積S1, S2, T を求めてから, S = S1− S2− T として求める面積を計算する. このうち, S1− S2 は次のようにまとめて計算することができる: S1− S2=  π 2 −1 y(t) dx  π 2 1 y(t) dx =  1 −1 y(t) dx =  1 −1 (sin t− t cos t) dx 最後の定積分を置換 x = x(t) を利用して計算する: dx = t cos t dt であり, x−1 → 1と変化する とき, tπ → 0と変化するので置換積分の計算は, 2回部分積分を使って以下のように計算される: S1− S2 =  0 π

(t sin t cos t− t2cos2t) dt

=  0 π  t 2sin 2t− t2 2 cos 2t− t2 2  dt =  0 π t sin 2t dt + π 3 6 (∵ cos 2t の項を部分積分) = π 2 + π3 6 (∵ sin 2tの項を部分積分) 一方, T は直角三角形の面積だから直ちにT = π2 と求まるので, S = (S1− S2)− T = 2 + π3 6  −π 2 = π3 6 (答)

3

面積公式とそれによる入試問題の解法

「面積公式」を紹介し,前節の問題をこの公式を使って解いてみる. 予め「偏角」の概念を定義して おこう. (x, y)x = y = 0 でない実数の組とする. このとき,ただ一つの正の実数 r とただ一つの θ∈ [0, 2π) が決まって,等式  x = r cos θ y = r sin θ が成り立つ. このとき, θ“ (x, y)の偏角 ” といい θ = arg(x, y) (∈ [0, 2π)) と表記することにする. 図3: 偏角

(7)

面積公式 2次元座標平面において, 原点から伸びる2直線0, �1 および, 曲線C によって囲ま れる領域D の面積をS とする. C の媒介変数表示を  x = x(t) y = y(t) (a t  b) とする. ただしa, b は定数であり0 a < b < π 2 を満たすとする. また, x(t), y(t)は微分可能な 関数とし, 次の条件(A) を満たすとする:

(A) a t < t  b =⇒ arg(x(t), y(t)) < arg(x(t), y(t))

このとき, 次の公式が成り立つ: S =  b a {x(t)y (t)− x(t)y(t)} dt (注意) 以下,原点と点(x(t), y(t)) を通る直線を�(t)と記すことにする. 領域D と仮定 (A) を図示 すると図4の通りである:

S

図4: 領域Dと仮定(A) さて,証明の前に高校で学ぶ面積公式についての一考察を与えておこう. 主張は次のとおりである: 補題 2次元座標平面において,原点とは異なる2点 A(a, b)B(c, d) が与えられているとする. 次を仮定する. (1) 直線OA と直線OB のなす角は π 2 より小さい. (2) arg(a, b) < arg(c, d) このとき, 三角形OAB の面積S について次の等式が成り立つ: S = 1 2(bc− ad) (注意) 本来この公式はS = 1 2|ad − bc| という形で知られている. 特にこの補題は,仮定(1), (2) の下 に絶対値の中の符号を特定できるという主張である.

(8)

(補題の証明) α := arg(a, b)とおく. 原点まわりの−α回転は行列  cos(−α) − sin(−α) sin(−α) cos(−α)  よって表される(第4節の“ Gauss-Green の公式 ” 直前の議論参照). 従って, (a, b) を原点を中心と して −α回転移動した点を (a, b), (c, d)を原点を中心として−α 回転移動した点を (c, d)とおくと,  a b  =  cos(−α) − sin(−α) sin(−α) cos(−α)   a b  =  a cos(−α) − b sin(−α) a sin(−α) + b cos(−α)   c d  =  cos(−α) − sin(−α) sin(−α) cos(−α)   c d  =  c cos(−α) − d sin(−α) c sin(−α) + d cos(−α)  (3.1)   図5: −α回転 さて,−α だけ回転した図で考えると,原点, (a, b), (c, d)を頂点とする三角形の面積は公式より 1 2|ad − bc| である. b = 0, a > 0であり,かつ, θ∈ (0,π 2) だからd > 0 が成り立つことに注意すれば, ad− bc = ad > 0 (3.2) ここで, (3.1) より

ad− bc =a cos(−α) − b sin(−α)c sin(−α) + d cos(−α) a sin(−α) + b cos(−α)c cos(−α) − d sin(−α)

=ac sin(−α) cos(−α) + ad cos2(

−α) − bc sin2(

−α) − bd sin(−α) cos(−α) − ac sin(−α) cos(−α) + ad sin2(

−α) − bc cos2(

−α) + bd sin(−α) cos(−α)

=(ad− bc)(sin2(−α) + cos2(−α)) = ad − bc

従って, (3.2) より ad− bc = ad − bc > 0 こうして ad− bc の符号は正と確定したので, S = 1 2|ad − bc| = 1 2(ad− bc)

(9)

(「面積公式」の証明) 2直線 0, �(t)C によって囲まれる図形の面積をS(t) とする(図 6). 図6: S(t) このとき,求めたい面積SS(b) の値に他ならない. S(t) について微分積分学の基本定理を適用す ると S(b)− S(a) =  b a S(t) dt S = S(b), S(a) = 0 であることに注意すると S =  b a S(t) dt (3.3) が成り立つ. よって,面積 S を求めるためには S(t) を計算すればよいことがわかる. わかりやすさ のため, t0∈ [a, b]を任意に選んでS(t0) を求めることにする. Δtを以下を満たすような正の実数と する: (1) t0+ Δt∈ [a, b] (2) 2直線�(t0), �(t0+ Δt) のなす角が π2 より小さい. Δt を十分小さい範囲で考えればこれらの性質 (1), (2) は確かに満たされる. さて, ΔS := S(t0+ Δt)− S(t0) とおく. 図7: ΔS このとき,微分の定義よりS(t 0) は次式で表される: S(t0) = lim Δt→0 Δt>0 ΔS Δt

(10)

右辺の計算を進めたいが, ΔS を明確に計算することは困難である. そこで, 2直線�(t0), �(t0+ Δt)C で囲まれる図形に於いて, C の部分を直線で「近似」し,得られる三角形の面積を �ΔS とおい て ΔS の代わりに計算に使うことを考える(図 8 参照). すなわち次のような近似を考える: ΔS ≈ �ΔS (3.4) この近似は, Δt が十分小さければ正当的であることが直観的には理解されるだろう: 図8: ΔS

では, 3点 O, A(x(t0), y(t0)), B(x(t0+ Δt), y(t0+ Δt))を頂点とする三角形の面積�ΔS を求める. こ

のために,この三角形を図9に示す2つのベクトル−→OA,−→OBで構成されると考えて, よく知られた公 式を使うことにする. 図9: 三角形の面積ΔS�の計算に用いる2本のベクトル 高校の「数学B」で扱われる “ ベクトルを用いた三角形の面積の公式” と上で証明した補題により � ΔS = 1 2 � � �x(t0+ Δt)y(t0)− x(t0)y(t0+ Δt) � � � = 1 2 � x(t0)y(t0+ Δt)− x(t0+ Δt)y(t0) � = 1 2 � x(t0) � y(t0+ Δt)− y(t0) � − y(t0) � x(t0+ Δt)− x(t0) �� 従って, � ΔS Δt = 1 2 � x(t0)· y(t0+ Δt)− y(t0) Δt − y(t0)· x(t0+ Δt)− x(t0) Δt � ここで ⎪ ⎪ ⎪ ⎨ ⎪ ⎪ ⎪ ⎩ lim Δt→0 Δt>0 x(t0+ Δt)− x(t0) Δt = x (t 0) lim Δt→0 Δt>0 y(t0+ Δt)− y(t0) Δt = y (t 0)

(11)

に気を付ければ, S(t0) = lim Δt→0 Δt>0  ΔS Δt = 1 2(x(t0)y (t 0)− x(t0)y(t0)) を得る. t0 を tで置き換えて, (3.3) に代入すれば主張の公式が証明される. 以上が「面積公式」の高校生向けの証明である. 証明中,多くの高校生がごまかされた気分になるの が近似式 (3.4) ではないだろうか. 何故なら, それが成り立つことは直観的に「自明」として済ませ ているからである. 実際,高等学校の「数学III」に於いて,極限が導入されると,発散や振動といった 現象が紹介され,必ずしも収束するとは限らないことからその議論が始まる. そして,発散,収束を判 定する具体的な練習問題を解く,という手順になっている. ところが,いったんその項目が過ぎると, 極限は収束して当然の対象になる. つまり, 収束することを厳密に議論することはなくなる. 以下で 述べる厳密な議論は高校の範囲を超えてしまうのもまた事実であるが,大学数学では特に「収束性」 の証明は厳密に議論してみせることが特に解析学に於いては非常に重要であると考える. このための 道具が「不等式評価」とよばれる手法であり,それは解析学に特徴的な道具である. 近似式 (3.4) の正当化 先述の微小面積の近似を正当化するために, 曲線 C に次の条件を課す. x(t), y(t)C1[a, b]-級関数 であるとする. すなわち, [a, b] 上でそれらは微分可能であり,導関数が [a, b] 上で連続であると仮定 する. 簡単のため, Δt > 0 のとき, 面積が ΔS, ΔS である図形もそれぞれ同じ記号 ΔS, ΔS を使っ て表すことにする. 図10: ΔSとΔS 近似の正当化のために, 2つの図形の対称差 ΔS� ΔS = (ΔS\ ΔS)∪ (ΔS\ ΔS) の面積|ΔS�ΔS|を評価することを考える. ただし, 2つの集合A, Bに対してA\B = {x ∈ A | x �∈ B} である.

(12)

図11: 対称差ΔS� ΔS s∈ (t0, t0+ Δt] とするとき, C 上の2点(x(t0), y(t0))と (x(s), y(s)) の距離(2点を結ぶ線分の長さ) は三平方の定理より |(x(s), y(s)) − (x(t0), y(t0))| =  (x(s)− x(t0))2+ (y(s)− y(t0))2 と表される. x(t), y(t) について,平均値定理によりあるξs, ηs∈ (t0, s)が存在して x(s)− x(t0) = x�(ξs)(s− t0), y(s)− y(t0) = y�(ξs)(s− t0) が成り立つ. ここで, x(t), y(t) ∈ C1[a, b] だから, 連続関数に関する最大値の定理を x(t), y(t) に適 用すれば M := max t∈[a,b](|x (t)| + |y(t)|) は有限値である. 従って, |(x(s), y(s)) − (x(t0), y(t0))|   M2(Δt)2+ M2(Δt)2=2M2(Δt)2=2M Δt つまり, 任意のs∈ (t0, t0+ Δt]に対して, (x(t0), y(t0))と (x(s), y(s)) の距離の最大値は 2M Δt で あることがわかる. 言い換えれば, 2点 (x(t0), y(t0))と(x(t0+ Δt), y(t0+ Δt))ではさまれるC の一 部(これを C0 とおく)は, 点 (x(t0), y(t0)) を中心とする半径 2M Δt の円 B√ 2M Δt(x(t0), y(t0)) に 含まれることになる. さらに, 2点 (x(t0), y(t0))と (x(t0+ Δt), y(t0+ Δt))を端点とする線分(これを L とおく)もまた同じ円に含まれる. このとき,次の包含関係が成り立つ(図 12)ことを証明しよう. ΔS� ΔS⊂ B 2M Δt(x(t0), y(t0)) O 図12: 対称差と円B√ 2M Δt(x(t0), y(t0))

(13)

曲線 C に対する仮定(A) を思い出せば,任意の t ∈ (t0, t0+ Δt) について, 直線�(t) は2直線 �(t0) と�(t0+ Δt) によってはさまれる領域 D0 に含まれる(図 13の左図のようになり右図のようになる ことはない). O O = = 図13: 対称差の分析(1) また, D0 =  t∈[t0,t0+Δt] �(t) が成り立つことになる. 以上のことから, 各 t ∈ [t0, t0+ Δt] に対して,半直線 �(t)C0 と L とそ れぞれ1点で共有点をもつことになり,これらの共有点を端点とする�(t) の一部分を I(t) と記すこ とにすると, ΔS� ΔS =  t∈[t0,t0+Δt] I(t) が成り立つ. P O = 図14: 対称差の分析(2) 線分 I(t)の端点はそれぞれ C0 と L 上の点だから,いずれも円 B√2M Δt (x(t0), y(t0)) に含まれてい る. 従って, I(t)⊂ B√ 2M Δt(x(t0), y(t0)) (t∈ [t0, t0+ Δt])が成り立つ. なお, 1つの固定された円内に

(14)

勝手に2点をとり, それらを端点とする線分を考えればその線分全体がその円に含まれる. このこと は線分を媒介変数表示して計算すればすぐに検証もできる. 以上から, ΔS� ΔS =  t∈[t0,t0+Δt] I(t) ⊂ B 2M Δt(x(t0), y(t0)) よって, |ΔS − ΔS|  |ΔS � ΔS|  |B 2M Δt(x(t0), y(t0))| = π · 2M2(Δt)2 (3.5) 従って,等式ΔSΔt = ΔSΔt +ΔSΔt ΔS Δt  の両辺について Δt→ 0 として極限の線形性を用いると, lim Δt→0 ΔS Δt = limΔt→0  ΔS Δt + limΔt→0 ΔS Δt  ΔS Δt  (3.5) より 0ΔS Δt  ΔS Δt    = Δt1   ΔS − ΔS  1 Δt· 2πM 2(Δt)2 = 2πM2Δt −→ 0 (Δt → 0) だから,はさみうちの原理より lim Δt→0 ΔS Δt  ΔS Δt  = 0 こうして, S�(t0) = lim Δt→0 ΔS Δt = limΔt→0  ΔS Δt つまり,最終的に Δt→ 0 とすることを目標とする議論に於いては,一部を曲線で囲まれた図形 ΔS を三角形 ΔS であると「みなして」議論しても結論には影響しないことが厳密に証明された. それでは,以上によって証明された面積公式を使って第2節の冒頭に掲げた入試問題を解いてみよう:

(15)

面積公式を用いた入試問題の計算 x(t) = t cos t, y(t) = t sin tだから, S = 1 2  π 0  x(t)y(t)− x(t)y(t)dt = 1 2  π 0 

(cos t + t sin t)t sin t− t cos t(sin t − t cos t)dt

= 1 2  π 0 (t2sin2t + t2cos2t) dt = 1 2  π 0 t2dt = π 3 6 (答) (3.6) 実に容易に計算ができたことがわかるだろう. この他,面積公式を使って計算できる面積の例を2つ ほど紹介しよう. [例1] 扇形 (図 15) の面積を求める. 図15: 扇形 弧の媒介変数表示は次のようになる:  x(t) = r cos t y(t) = r sin t (a t  a + θ) ただし, a は定数. x(t) =−r sin t, y(t) = r cos t だから,面積公式に代入して S = 1 2  a+θ a  x(t)y(t)− x(t)y(t)dt = 1 2  a+θ a (r2cos2t + r2sin2t) dt = 1 2r 2θ これはよく知られた扇形の面積の表現式である. [例2] アステロイドとx, y 軸で囲まれる図形(図 16)の面積を求める.  x(t) = r cos3t y(t) = r sin3t (0 t  π 2)

(16)

S 図16: アステロイド 面積公式に代入して, S = 1 2  π 2 0  x(t)y(t)− x(t)y(t)dt = 1 2  π 2 0 

r cos3t× (3r sin2t cos t) + 3r cos2t sin t× r sin3tdt = 1

2  π 2 0 3r2 4 sin 22t dt = 3 16r 2  π 2 0 (1− cos 4t) dt = 3 32πr 2

4

Gauss-Green

の公式

第3節で紹介した「面積公式」は大学の微分積分学で学ぶ「Gauss-Greenの公式」の特別な場合であ る. このように広い視点から公式を俯瞰すると,公式の被積分関数x(t)y(t)− x(t)y(t) の正体も, の特別な場合としてスマートに理解することができるだろう. 以下, Gauss-Greenの公式を述べるた めに必要な概念の導入から始める. 1次元における微分積分学の基本定理は次の形で書かれる:  b a f (x) dx =F (x)b a ただし, Ff の原始関数である. f の原始関数は f だから, これは次のように書くことができる:  b a f(x) dx =f (x)b a この形の「2次元版」がGauss-Green の公式として知られている. 2次元に拡張することを考えると, 1次元の場合の領域(a, b) に該当するものとして, 2次元では平面内の曲線で囲まれた図形Ω を考え ることになる. 1次元の場合, 右辺は f (b)− f(a) = 1 × f(b) + (−1) × f(a) という形をしているが, f (a), f (b) は考えている領域である (a, b) の端点における関数値に他ならない. 2次元平面内の領域 Ω の「端点」とはなんだろうか? この場合, Ω の内部と外部の「境界」であり,それは一般に曲線に なることが分かるだろう. この「境界」と呼ばれる曲線を ∂Ω と表記する.

(17)

図17: 領域とその境界 このとき,求める「2次元版」は∂Ω でのf の値を用いて記述される量になるだろうという見当がつ く. 大雑把にいえば, 実はそれは ∂Ω という曲線上でf に「符号」を付けた関数を積分した値にな る. では,曲線上で定義された関数を曲線上で積分するというのはどういうことだろうか? 定義を述 べることから始めよう. なお, この時点で通常の1変数関数の Riemann 積分の考え方を習得してい ることが前提となる.   定義 (線積分) 媒介変数 t を使って (x(t), y(t)) (a  t  b) によって表される曲線を C と する. ただし, x, yC0[a, b]-級関数とする. f C 上で定義される実数値関数とする. 点列 Δ ={t0, t1, . . . , tn}を区間 [a, b]の分点集合(これを [a, b]の分割という)とする: a= t0 < t1<· · · < tn=b (n は自然数) 分点集合すべてからなる集合をDとする. また, δ[Δ] = max i=1,...,n|ti−ti−1|とおく. 分割Δ∈ Dによっ て生じる各部分区間[ti−1, ti] (i = 1, 2, . . . , n)における代表点をτiとし,その列 =1, . . . , τn} の選び方全体を とする. Δ = {t0, . . . , tn} ∈ D および = 1, . . . , τn} ∈ TΔ に対して, Riemann和を次式によって定義する: S[Δ, TΔ] := n  i=1 f (x(τi), y(τi)) 

{x(ti)− x(ti−1)}2+{y(ti)− y(ti−1)}2

lim �→∞δ[Δ�] = 0 を満たす任意の分割列 (Δ�) および,それに対応する任意の代表点選出列(TΔ) に 対してS[Δ�, TΔ]が一律にある一定値に近づくとき,その極限値を  C f dS と記して「f の C 上での線積分」とよぶ.  

(18)

C C C � の の グ ラ フ 図18: 線積分  Cf dS という量は,曲線C とそれ上の f のグラフによって囲まれた3次元空間内の曲面の面積であ る(図 18). 以下, fC を含むある領域で連続であり,かつx(t), y(t)C1[a, b]-級であれば,線積分,すなわ ち,上の定義の Riemann 式積分は存在して,定積分の形で書けることを証明する. なお, x(t), y(t)

C0[a, b]によって表される曲線を「連続曲線」, x(t), y(t)∈ C1[a, b]によって表される曲線を「C1-

線」という. 定理 (線積分の存在と表現公式) CC1-曲線とし, f C を含む閉正方形領域 D で連続な 関数とする. このとき,線積分は存在して次の等式が成り立つ:  C f dS =  b a f (x(t), y(t))x(t)2+ y(t)2dt C 図19: 曲線のパラメータ表示 (注意) 書物によっては, Riemann式積分による線積分の定義を省略し,滑らかな曲線に限って,天下 り的に上の等式をもってその定義とすることがある. 書物の頁数は省けるが, この式を見ても線積分 の定義の意図は読みとれないだろう. また,恒等的に 1という値をとるような関数f ≡ 1 on C の積分は,この公式に従えば  C f dS =  b a  x(t)2+ y(t)2dt (4.1) となり,曲線C の長さに他ならない. f ≡ 1C 上の定積分C1 dS は,図形的に考えればC を高さ 1だけ垂直方向に平行移動することによってできる曲線を C + 1と記せば, 2つの曲線 CC + 1,

(19)

さらに直線 x = x(a), y = y(a) および直線x = x(b), y = y(b) によって囲まれる曲面(図 20)の “ 面 積 ” を意味するべきであるので, (4.1) は自然な等式であると言える. 1 図20: f≡ 1の場合 「曲線の長さ」は高等学校の教科書でも紹介されている. 実際,上式をもってその定義としているが, それ自体かなり天下り的である. またその解説においても,曲線を直線で近似するという議論がなさ れており,その近似が「極限の存在」に影響を与えないことまでは何も吟味しない. 本論文では省略 するが,曲線の長さも近似折れ線の長さの上限によって定義し直すべきであろう. なお, 上限は極限 の概念とは異なり上限公理によってその存在が保証されているので,定義としては何の吟味も必要な いのである. (証明) 分割を Δ = {t1, . . . , tn} ∈ D とし, 分割 Δ に対応する代表点を = 1, . . . , τn} ∈ TΔ と する. このとき示すべきことは, δ[Δ]→ 0 とするとき Riemann和 S[Δ, TΔ] n  i=1 f (x(τi), y(τi))  {x(ti)− x(ti−1)}2+{y(ti)− y(ti−1)}2 が主張の右辺の定積分の値に収束することを示せばよい. 予め,各小区間[ti−1, ti]に於いてx(t), y(t)∈ C1[t i−1, ti] だから平均値定理が適用できて,  x(ti)− x(ti−1) = (ti− ti−1)x�(ξi) for some ξi ∈ (ti−1, ti)

y(ti)− y(ti−1) = (ti− ti−1)y�(ηi) for some ηi∈ (ti−1, ti)

(4.2) が成り立つことに注意しておこう. S[Δ, TΔ] = n  i=1 f (x(τi), y(τi))  {x(ti)− x(ti−1)}2+{y(ti)− y(ti−1)}2 = n  i=1 f (x(τi), y(τi))  x�i)2+ yi)2(t i− ti−1) (∵ 上記の平均値定理) = n  i=1 f (x(τi), y(τi))  x�i)2+ yi)2(t i− ti−1)    A + n  i=1 f (x(τi), y(τi))  x�i)2+ yi)2xi)2+ yi)2(t i− ti−1)    B

(20)

ここで, Aは Riemann積分の定義から主張の右辺の定積分に収束するので, Bがδ[Δ]→ 0 のとき0 に収束すれば等式が証明されたことになる. では, Bについて考える. まず, 3角不等式から |B|  n  i=1 |f(x(τi), y(τi))|   x�i)2+ yi)2xi)2+ yi)2(t i− ti−1) (4.3) f は閉長方形領域 D上で連続だから(2変数連続関数についての最大値の定理より) 有界な関数であ る. 従って,正数 M をうまく選んでC 上で一律に |f(x, y)|  M for (x, y)∈ C が成り立つようにできる. また,証明のあとの (注意) で述べてあるように実数 p, q, P, Q に対して,   P2+ Q2p2+ q2|P − p|2+|Q − q|2 (4.4) が成り立つので,   x�i)2+ yi)2xi)2+ yi)2 |xi)− xi)|2+|yi)− yi)|2 任意の実数 rに対して Er := sup  |x�(s)− x�(t)| + |y�(s)− y�(t)| s, t ∈ I(閉区間) ⊂ [a, b], |I|  r とおけば, (4.3) 右辺は次のように評価される: |B|  n  i=1 M√2Eδ[Δ](ti− ti−1) = 2M (b− a)Eδ[Δ] (4.5) x�y[a, b]で連続だから一様連続である. よって, Er → 0 as r→ 0 こうして, δ[Δ]→ 0 のとき, Eδ[Δ] → 0 であることが分かり, (4.5) にはさみうち原理を適用すると B→ 0 が従うので証明が完了する. (注意) 実数p, q, P, Q に対して(4.4) を証明する.   P2+ Q2p2+ q2|P − p|2+|Q − q|2 (証明) 両辺はともに0以上だから, 両辺を2乗した不等式を証明すればよい. もっと簡単に言い換 えて,   P2+ Q2p2+ q22 |P − p|2+ |Q − q|2 ⇐⇒ P2+ Q2+ p2+ q2 − 2P2+ Q2p2+ q2  P2+ p2 − 2pP + Q2+ q2 − 2qQ ⇐⇒ −2P2+ Q2p2+ q2  −2pP − 2qQ ⇐⇒ pP + qQP2+ Q2p2+ q2 を示せばよい. 左辺が負ならば自明な不等式だから左辺が正と仮定して証明すればよい. 従って, 両 辺を2乗した (pP + qQ)2 (P2+ Q2)(p2+ q2)

(21)

を示せばよいが,これは,右辺から左辺を引けば (右辺)− (左辺) = P2p2+ P2q2+ Q2p2+ Q2q2− (p2P2+ q2Q2+ 2pP qQ) = p2Q2+ q2P2− 2pP qQ = (pQ − qP )2  0 もう1つ, Gauss-Green の公式を記述するために必要となるのが,曲線 ∂Ω の外向き法線ベクトルで ある. このため接ベクトルも込めて定義する:   定義 (接ベクトル, 外向き法線ベクトル) (i) (接ベクトル) C1-曲線 C : (x(t), y(t)) (a t  b) が与えられたとき,任意の t 0 ∈ (a, b) に 於いて,ベクトルの列 1 t− t0 −−→ P0Pt (ただし, P0 = (x(t0), y(t0)), Pt = (x(t), y(t)))t→ t0 のときに極限をもつならば,それを点 P0 = (x(t0), y(t0)) に於ける接ベクトルと いう. (ii) (法線ベクトル) 接ベクトルに垂直なベクトルを法線ベクトルという.   図21: 接ベクトル 接ベクトルを定義に従って成分表示すれば  lim t→t0 x(t)− x(t0) t− t0 , lim t→t0 y(t)− y(t0) t− t0  = (x�(t0), y�(t0)) である. 従って,接ベクトルはx(t)y(t)が共に微分可能であるとき,かつそのときに限り存在する. (注意) 曲線を F (t) = (x(t), y(t)) (a t  b)という「ベクトル値関数」と考えるとき,接ベクトル (x�(t 0), y�(t0)) の定義は lim t→t0 F (t)− F (t0) t− t0 に他ならない. ただし,ベクトル (f (t), g(t))t→ t0 のときに(α, β) に「限りなく近づく」とは,そ れらの終点間の距離  (f (t)− α)2+ (g(t)− β)2 が 0に限りなく近づくこと,と定義することが自然であるので,これを採用する. その結果,接ベクト ルはF�(t 0)のことであり,あくまで通常の微分の考え方を踏襲した概念になっている. 言い換えれば

(22)

上記の「接ベクトル」という考え方は,天下り的に与えられるものではなく,高校で学ぶ微分の考え 方のきわめて自然な拡張概念である. (注意) x(t 0) = y(t0) = 0 のときは接ベクトルは 0ベクトルになる. 0ベクトルは「接ベクトル」 とは呼ばないのが慣例であるので, 通常“ C1-曲線 という場合は, すべての t ∈ (a, b) について, x(t) = y(t) = 0であることを除外する. すなわち,一言で言えば x(t)2+ y(t)2 �=0 for t∈ (a, b) を予め仮定するのが普通である. さて,次を満たす曲線 (x(t), y(t)) (a t  b)C1-級単純閉曲線という:

(i) x(t), y(t)∈ C1[a, b] かつx(t)2+ y(t)2

�= 0.

(ii) 任意の異なる t, t ∈ [a, b] について, (x(t), y(t))�= (x(t), y(t)). ただし, t = a, t = b のときの

(x(a), y(a))=(x(b), y(b))と仮定する. (iii) lim t→a t>a x(t) − x(a) t− a , y(t)− y(a) t− a  = lim t→a t<b x(t) − x(b) t− a , y(t)− y(b) t− b  直観的には,両端が一致した曲線で,途中で交わることがなく,さらにいたるところで接ベクトルが定 義できる曲線のことである(図 22, 23).  [C1-級単純閉曲線でない例]22: C1-級単純閉曲線でない例  [C1-級単純閉曲線]23: C1-級単純閉曲線

(23)

C1-級単純閉曲線で囲まれた領域Ω を考える. このとき,境界∂Ω の各点 での法線ベクトルを成分で 表すことを考える. ただし,法線ベクトルは向きは2通りあり, 大きさも無数にある. そこで,実用上 使われる「単位法線ベクトル」を求める. さらに,領域Ω が与えられその境界の曲線∂ΩC1-曲線 である場合, ∂Ω の各点での2つの単位法線ベクトルのうち, 領域の内部を向く単位法線ベクトルを 「内向き単位法線ベクトル」, 領域の外部を向く単位法線ベクトルを「外向き単位法線ベクトル」と いう. 外向き単位法線ベクトルはν(t0) という記号で表記されることが多い(法線ベクトルはnormal vector に対応するので nが使われることも多いが, nを使う場合は, 数列の添え字などで自然数とし て使われる nと区別するため�n や太文字n が使われる. 一方, ν (ニュー) と記せばこのような区別 は不要である). 図24: 外向き単位法線ベクトル では,外向き単位法線ベクトルν(t0)の成分表示を求めてみる. 「外向き」は,曲線をどのように媒介 変数表示するかに応じて変わってくる. ここでは, ∂Ω の媒介変数表示(x(t), y(t))t を増加させる と反時計回りに ∂Ω 上を進む場合を考える. すると,接ベクトルは図 24のような方向を向くことに なる. すると, ν(t0) は単位接ベクトル 1  x�(t0)2+ y(t0)2(x (t 0), y�(t0)) (4.6) を −90◦ 回転させたベクトルであることがわかる. 一般に,ベクトルの角度θ の回転は行列によって 表される. 実際,偏角αの座標を偏角 α + θ の座標に変換する行列を R(θ) とおくと  cos(α + θ) sin(α + θ)  = R(θ)  cos α sin α  が任意のθ で成り立つはずである. 図25: ベクトルの回転

(24)

ところが左辺を加法定理で分解すれば � cos(α + θ) sin(α + θ) � = �

cos α cos θ− sin α sin θ

sin α cos θ + cos α sin θ � となる. これを右辺の形に変形すれば R(θ) =cos θ − sin θ sin θ cos θ � を得る. こうして, (4.6) を −90 回転してみると, ν(t0) = � cos(−90) − sin(−90) sin(−90) cos(−90) � ⎛ ⎝ 1 x(t0)2+y(t0)2x (t 0) 1 x(t0)2+y(t0)2 y�(t 0) ⎞ ⎠ = � 0 1 −1 0 � ⎛ ⎝ 1 x(t0)2+y(t0)2x (t 0) 1 x(t0)2+y(t0)2y (t 0) ⎞ ⎠ = ⎛ ⎝ 1 x(t0)2+y(t0)2y (t 0) 1 x(t0)2+y(t0)2x (t 0) ⎞ ⎠ こうして,外向き単位法線ベクトルについて次の成分表示を得る: ν(t0) = 1 � x�(t0)2+ y(t0)2(y (t 0),−x�(t0)) (4.7) 以上により, “ Gauss-Green の公式 ” を記述する準備がすべて整った. Gauss-Green の公式 C1-級単純閉曲線を境界にもつR2 の領域 Ω を考える. f = (f1, f2) R2 で定義される C1-級の2次元ベクトル値関数とする. このとき,次の公式が成り立つ: �� Ω div f dx1dx2 = � ∂Ω f (ξ)· ν(ξ) dS(ξ) ただし, ν(ξ)∂Ω上の点 ξ に於けるΩ に対する外向き単位法線ベクトルである. また,R2 の 変数を (x1, x2) と表記するとき, div f = ∂f 1 ∂x1 + ∂f2 ∂x2 である. 図26: Gauss-Greenの公式

(25)

(注意) 何故これが高校で学んだ微分積分学の基本定理の高次元版として自然であるか説明しておこ う. 逆に1次元の場合をこの形式で理解すると次のようになる:  b a f(x) dx = f (b)− f(a) = 1 × f(b) + (−1) × f(a) 領域(a, b) の境界はa, b の2点である. ではこれらの境界における外向き単位法線ベクトルとは何だ ろうか? x = a における外向き単位法線ベクトルは−1, x = b における外向き単位法線ベクトルは +1 と考えるのが自然であろう(図 27). 図27: 1次元Gauss-Greenの公式 そして,線積分はちょうど2点での積分に置き換わることになる. これは,積分の意味を考えればそれ らの値の「和」と考えられる. こうして, Gauss-Greenの公式の右辺がちょうど積の和 (+1)× f(b) + (−1) × f(a) になる. 1変数実数値関数に対する div f は通常の微分に相当するので, 左辺はabfdx となる. (注意)— 境界の曲線のわずかな一般化 Gauss-Greenの公式では,領域の境界∂ΩC1-級単純閉曲線であると仮定したが,少し一般に, “ 区 分的 C1- で十分であることが知られている. “ 区分的 C1- であるとは, 全体としてC0[a, b]-級(すなわち, [a, b] 上で連続)であって, 区間 [a, b]が有限個の部分区間に分解されたとき,各部分区 間で C1-級であることを意味する. たとえば, x(t), y(t) ∈ C0[a, b]であって, [a, b] = [a, c]∪ [c, d] ∪ [d, b] と分解されているならば x(t), y(t)∈ C1[a, c] ∩ C1[c, d] ∩ C1[d, b] であることである. 直観的には 2点 (x(c), y(c)), (x(d), y(d))に於いて,角ができる場合である. 図28: 境界の「角」

(26)

5

入試問題の

Gauss-Green

の公式による解法

Section 1 で高校数学の範囲で解いた問題を, Gauss-Green の公式を使って計算してみる. 問題を再記 しておこう:   [問題 (再記)] 媒介変数表示された曲線  x(t) = cos t + t sin t

y(t) = sin t− t cos t (0 t  π)

Cとする. このとき, 原点と C 上の点 (x(t), y(t))を端点とする線分が通過する領域の面積を 求めなさい.   Gauss-Green の公式を用いた解法 線分の通過領域を Ω と記すとき, Gauss-Green の公式は次のようになる:  Ω div f dxdy =  ∂Ω f · ν dS (5.1) ただし, ν∂Ω 上のΩ に対する外向き法線ベクトルである. この公式を特に f (x, y) = (f1(x, y), f2(x, y)) = (x, y) として適用することを考える. このとき, div f (x, y) = ∂f 1(x, y) ∂x + ∂f2(x, y) ∂y = ∂x ∂x + ∂y ∂y = 1 + 1 = 2 よって, (5.1) より, 2  Ω dxdy =  ∂Ω (x, y)· ν dS ところが,Ω dxdy は最終的に求めたい面積 |Ω|だから, Gauss-Green の公式を用いた結果, |Ω| = 12  ∂Ω (x, y)· ν dS (5.2) という線積分によって求める面積が表現できることがわかる. あとはこの線積分を計算すればよいの であるが, そのために右辺を計算可能な形に書き換える. 具体的には, 領域の境界 ∂Ω が媒介変数 t を使って (x(t), y(t)) (a t  b) と表現されているものとして, (5.2) の右辺を書き直す. (4.7) を代 入して  ∂Ω (x(t), y(t))· ν(t) dS(t) =  ∂Ω (x(t), y(t))· 1 x(t)2+ y(t)2(y (t),−x(t))dS(t) =  b a (x(t), y(t))· 1 x(t)2+ y(t)2(y (t),−x(t))·x(t)2+ y(t)2dt =  b a  x(t)y(t)− x(t)y(t)dt 以上から, |Ω| = 12  b a  x(t)y(t)− x(t)y(t)dt (5.3)

(27)

こうして,あとはΩ の境界∂Ω を媒介変数tを使って(x(t), y(t))という形で具体的に表現して, (5.3) に代入して計算するだけである. ところで,右辺はΩ の境界∂Ω 全体の上での積分であるが,実はΩ の境界のうち,原点から伸びる2直線「�1: x 軸」と「直線 2: y = −πx」の上での積分は考えなくて よい. このことは, (5.2) まで議論をさかのぼることによって理解される. 実際,これらの2直線上で はベクトルf (x, y) = (x, y)とそこでの外向き法線ベクトル ν(x, y)は直交するので,被積分関数の内 積 f (x, y)· ν(x, y) = (x, y) · ν(x, y)は 0 になるからである(図 29参照). C 図29: fν の直交 この考察により, (5.3) に於いて実際に計算するのは,曲線C の部分だけである. そこで, C を媒介変 数を使って表現することから始めなければならないが,それはすでに問題で与えられていた:  x(t) = cos t + t sin t

y(t) = sin t− t cos t (0 t  π) x(t) = t cos t, y(t) = t sin tだから, 以上を(5.3) に代入(a = 0, b = π) して |Ω| = 12  C f · ν dS = 1 2  π 0  x(t)y(t)− x(t)y(t)dt = 1 2  π 0 

(cos t + t sin t)t sin t− t cos t(sin t − t cos t)dt

= 1 2  π 0 (t2sin2t + t2cos2t) dt = 1 2  π 0 t2dt = π 3 6 (答) (5.4) (注意) 上記の答えは第2節で求めた値ともちろん一致する. この計算方法では, (5.3) を求めるまで が大変ではあるが,これ自体を公式と考えれば,次の都合よい状況とあいまって(5.4) だけの非常に簡 単な計算で済むことになる: (a) 境界のうち原点から伸びる直線を除く曲線部分のみで計算すればよい. (b) (a) の曲線の媒介変数表示は問題文で与えられている. (注意) — Gauss-Green の公式の適用の工夫 Gauss-Green の公式する際の工夫をまとめておこう.

(28)

• (1) ベクトル値関数 f の選び方

「領域 Ω の面積を求める」であるため, Gauss-Greenの公式の左辺の重積分 

Ω

div f dxdy

の被積分関数 div f が定数になるようにベクトル値関数f (x, y) = (f1(x, y), f2(x, y)) を定めなけれ

ばならない. div の定義から div f = ∂f 1 ∂x + ∂f2 ∂y だから,これが定数になればよい. そこでもっとも単純にf1(x, y) = x, f2(x, y) = y とおけば, 上式 は 1 + 1 = 2 となってくれるので, f (x, y) = (x, y) を採用した. このとき特に  Ω div f dxdy =  Ω 2 dxdy = 2|Ω| となり, Ω の面積 |Ω| が求められる準備が整うことになる. • (2) 境界積分での工夫 ベクトル値関数f を上述のように決めたとき,今度はGauss-Greenの公式の右辺の線積分に着目する.  ∂Ω f· ν dS f (x, y) = (x, y) と決めたのだから, f は原点を基準点とする位置ベクトルになる. この特殊性から, 特に�f, ν� = 0となる曲線上での積分は無視して良いことになる. 一般に, 延長すれば原点を通るよ うな線分がそのような曲線に相当する. 図 30で言えば,1と 2の2直線である: ① ② ① ② O O 図30: 計算しなくてよい境界 積分する曲線が少なければ少ないほど計算は楽になるので,これはとても便利な性質である. 以上のことから, 面積を求める際に Gauss-Green の公式を使うには, f (x, y) = (x, y) として適用 し,原点から伸びる直線の一部は境界積分としては計算しなくてよいということになる. なお, (1) に 於いて f1(x) = x, f2(x) = 0 とおけばdiv f = 1 となり, より計算が楽になるようにも思えるが, 逆 に原点から伸びる直線上では f · ν = 0が成り立たなくなり, その部分での計算にしわ寄せがくるこ とになる.

(29)

6

高校の定積分の定義と大学での定積分の定義

具体的な入試問題とその解法を通じて Gauss-Green の公式を紹介したが, この公式が重積分の議論 に於いてどのように教えられるのが適切であるかを説明したい. 高校数学では定積分  b a f (x)dx :=F (x)b a (Ff の原始関数) と定義されていた. 実はこれは微分積分学の基本定理として証明される「事実」である. 高校数学に 於いてこの事実を定義として採用しているのには次の理由があると考えられる: (a) 定義自体が計算手法を与えることになっているので大変わかりやすい. (b) 本来の定義である Riemann 積分は高校生には難解である. ところで,高校では「定積分が面積を表す」という事実を微分積分学の基本定理を用いた証明ととも に教わるが, 面積自体の定義を学ぶことなく議論が行われるため, どうも判然としないものを感じる 高校生も多いであろう. 一方で, 小学生でも「曲がった図形の面積をわかりやすい形で近似して面積 を求める」という感覚はもっている. 高校の積分の定義は,上記の理由があるにせよ,この感覚とは 大いにズレたものになっていることは否めない. これに対して,大学での定積分は面積を表す概念として定義される. むしろ「面積」を定積分とい う考え方によって定義していると言ってよいだろう. その計算方法として微積分学の基本定理に基づ く, 原始関数を用いた計算方法が紹介される. さらに大学の数学では, 1変数関数の定積分だけでな く, 2変数関数の重積分を学ぶ. Riemann積分の考え方は自然に2変数関数に適用されるため,スムー ズに定義が拡張される. ここで, 1変数関数の場合の流れに従うのであれば, 実際の計算方法として は第4節で紹介した,微分積分学の基本定理の一般化であるGauss-Greenの公式を使うのが自然であ る. ところが, 通常の大学の微分積分学講義ではそのことに触れることなく,累次積分に直して計算 する方法が教えられることになる. 何故,大学数学ではGauss-Green の公式ではなく累次積分を扱うのか. その理由は,計算のしやす さに他ならない. そして, 具体的に同じ例題を使って, 両方の公式を用いてそれぞれ計算することで そのことを学生に実感させることが重要であると考える.   [例題] 次の重積分を計算しなさい:  D x2y dxdy ただし, D ={(x, y) ∈ R2 | 0  x  y  3 − x} である.   [方法1] Gauss-Greeen の公式を使った計算方法 始めに, Gauss-Green の公式  D div f dxdy =  ∂D f · ν dS に於いて, f = (f1, f2) = (0, f2) とおくと  D ∂f2 ∂y dxdy =  ∂D f2· νydS

(30)

となる. ただし, νy は法線ベクトル νy 成分である. 1変数関数の微分積分学の基本定理と同じ表 記方法(被積分関数を小文字のf , その原始関数を大文字を使ってF と表記した)にならうのであれ ば, f2 を単に F(y) と記し, f = ∂f2 ∂y = ∂F(y) ∂y とすれば, �� D f (x, y) dxdy =∂D F(y) · νydS (6.1) と表せる. ただし, F(y)f に対するy 方向の原始関数である: ∂F(y) ∂y (x, y) = f (x, y) 例題の場合, ∂y F(y)(x, y) = f (x, y) = x2y だから積分区間に変数を含む,いわゆる 不定積分 F(y)(x, y) =y 0 f (x, t)dt =y 0 x2tdt = 1 2x 2y2 によって計算される. さて,図 31のように, D の境界 ∂Dを3つの部分に分けて考える: ⎧ ⎪ ⎪ ⎨ ⎪ ⎪ ⎩ I1: 直線y = x I2: 直線y = 3− x I3: y 軸 図31: 領域Dとその境界 このとき, (6.1)の右辺は次のように分解できる: �� D f (x, y) dxdy =∂D F(y)· νydS = � I1 F(y) · νydS +I2 F(y) · νydS +I3 F(y) · νydS (6.2) (6.2) の右辺の各線積分を計算していこう: • I1 上での線積分 I1 の媒介変数表示として最も素朴に (x(t), y(t)) = (t, t) �0 t  3 2 �

(31)

を採用する. このとき,接ベクトルはμ = (1, 1)だから,単位接ベクトルはμ =˜ |μ|μ = 1 2(1, 1) となる. よって, 外向き単位法線ベクトルν は,単位接ベクトルを−90 回転させたベクトルだから ν =  cos(−90) − sin(−90) sin(−90◦) cos(−90)  ·√1 2  1 1  =  0 1 −1 0  ·√1 2  1 1  = 1 2  1 −1  として求まる. 従って, νy =−√12. また, dS =  x�(t)2+ y(t)2dtより, dS =2 dt. 以上から,  I1 F(y)· νydS =  3 2 0 1 2t 2t2 −√1 2 √ 2 dt • I2 上での線積分 直線 I2 の媒介変数表示として (x(t), y(t)) = (3− t, t) 32  t  3 を採用する. このとき,接ベクトルはμ = (−1, 1)となるので,単位接ベクトルは μ =˜ 1 2(−1, 1) と表 せる. よって,外向き単位法線ベクトル ν はやはり−90 回転させて ν =  0 1 −1 0  ·√1 2  −1 1  = 1 2  1 1  として求まる. 従って, νy = 12 , dS = 2 dtとなるので,  I2 F(y)· νydS =  3 3 2 1 2(3− t) 2t2 1 2 2 dt • I3 上での線積分 I3 上では法線ベクトルは ν = (νx, 0) という形をするので (図 31参照), y 成分は 0 である: νy = 0. よって,  I3 F(y) · νydS = 0 以上の I1, I2, I3 でのそれぞれの計算結果を合わせて(6.2) を計算する:  D x2y dxdy =  D f (x, y) dxdy =  I1 F(y)· νydS +  I2 F(y)· νydS +  I3 F(y)· νydS    =0 =  3 2 0 1 2t 2t2 −√1 2 √ 2dt +  3 2 0 1 2(3− t) 2t2 1 2 2dt =21  3 2 0 t4dt + 1 2  3 3 2 (9t2− 6t3+ t4)dt = 81 64 [方法2] 累次積分を使う計算方法

図 11: 対称差 ΔS �  ΔS
図 17: 領域とその境界 このとき , 求める「 2 次元版」は ∂Ω での f の値を用いて記述される量になるだろうという見当がつ く . 大雑把にいえば , 実はそれは ∂Ω という曲線上で f に「符号」を付けた関数を積分した値にな る
図 32: 累次積分による計算 x の値を 0 と 3/2 の間で固定すると , y の範囲は x  y  3 − x だから ,  D x 2 y dxdy =  320  3 −xx x 2 y dxdy =  32 0 12 x 2 y 2  y=3−xy=x dx =  320 12 x 2  (3 − x) 2 − x 2  dx = 3 2  32 0 (3x 2 − 2x 3 ) dx = 8164 以上を実体験すれば , 学生は累次積分に直して計算する方がはるかに容
図 35: 考える領域と累次積分 まず , 重積分を累次積分に直して計算すると  Ω ∂Φ(x, y)∂y dxdy =  10 dx  x+10 ∂Φ∂y (x, y) dy =  1 0  Φ(x, y)  y=x+1y=0 dx =  1 0  Φ(x, x + 1) − Φ(x, 0)  dx =  1 0 Φ(x, x + 1) dx ( ∵ Φ(x, 0) ≡ 0 for x ∈ [0, 1]) =  1 0 α dx ( ∵ Φ(x, x + 1) ≡ α for x
+4

参照

関連したドキュメント

これはつまり十進法ではなく、一進法を用いて自然数を表記するということである。とは いえ数が大きくなると見にくくなるので、.. 0, 1,

ヒュームがこのような表現をとるのは当然の ことながら、「人間は理性によって感情を支配

備考 1.「処方」欄には、薬名、分量、用法及び用量を記載すること。

Q7 

析の視角について付言しておくことが必要であろう︒各国の状況に対する比較法的視点からの分析は︑直ちに国際法

 今日のセミナーは、人生の最終ステージまで芸術の力 でイキイキと生き抜くことができる社会をどのようにつ

を育成することを使命としており、その実現に向けて、すべての学生が卒業時に学部の区別なく共通に

を育成することを使命としており、その実現に向けて、すべての学生が卒業時に学部の区別なく共通に