チタン酸バリウムナノ粒子を用いた誘電体薄膜の低温作製
有村雅司 *1 牧野晃久 *1 藤吉国孝 *1 山下洋子 *1
Preparation of Dielectric Thin Films at Low Temperature Using BaTiO 3 Nanocrystalline Particles
Masashi Arimura, Teruhisa Makino, Yoko Yamashita, Kunitaka Fujiyoshi
チタン酸バリウムは,積層セラミックコンデンサ等の更なる小型化の要求に応えるために種々の方法での超微粒子化あ るいは薄膜化が試みられている。著者らは高濃度ゾルゲル法によってチタン酸バリウムのナノ粒子を調製し,これを直接 成膜に用いることで誘電体薄膜の低温調製を試みている。しかし,800℃程度の低温焼成では,焼結性が十分ではないた めにチタン酸バリウム本来の誘電特性が得られていない。そこで本研究では,焼結助剤としてホウ素あるいはアルミニウ ムをチタン酸バリウム薄膜に添加することで低温焼成での誘電特性の改善を試みた。その結果,焼結助剤としてホウ素を 添加した場合,焼成による粒成長が促進され,それに伴い誘電率も向上した。無添加の薄膜の誘電率は,100kHzにおいて 205であったのに対して,ホウ素を添加した薄膜は240まで向上した。
1 はじめに
携帯電話を始めとする電子機器では,小型化,機能集 積化の更なる要求が高まっており,この要求に応えるた め電子機器に使用される積層セラミックコンデンサは,
一層の小型化,高容量化が必要とされている。現在,積 層セラミックコンデンサの誘電体層1層の厚みは1μmま で薄くなっているが,今後はサブミクロンオーダーとな ることが予想されており,ナノオーダーの原料粉体の調 製方法,サブミクロンオーダーの誘電体層形成技術の確 立が急務とされている。これらのことを背景として,誘 電体層の主原料であるチタン酸バリウム(BaTiO
3)に関し て,ナノ粒子調製方法や薄膜形成技術等,様々な方面か ら精力的に研究がなされている
1),2)。
高濃度ゾルゲル法は,従来のゾルゲル法より高濃度の バリウムとチタンのアルコキシド溶液を出発原料に用い ることで,結晶化したBaTiO
3ナノ粒子を室温で調製でき る方法である。著者らはこれまで,高濃度ゾルゲル法に よって得た結晶性ナノ粒子を分散媒中に分散させてコー ティング溶液を作製し,これを塗布することによって誘 電体薄膜を作製するナノ粒子コーティング法について研 究を行ってきている
3)。同法は,塗布という方法で薄膜作 製が行えるために,大面積の薄膜作製が可能である。更 には,ナノ粒子を用いているために,従来の固相法ある いは液相法では1000℃以上を必要とする焼成温度を数 百℃低下することができると期待されている。しかし現 状では,800℃程度の低温焼成では焼結が十分に進行せず,
BaTiO
3粒子サイズは小さく,また焼結密度も不十分であ り,BaTiO
3本来の誘電特性は得られていなかった
4)。
そこで本研究では,液相による薄膜の焼結性の向上,
あるいは薄膜の粒子間空隙にガラス相を充填するために,
低融点のホウ酸塩ガラスの主成分であるホウ素,あるい はホウ素と同族元素でありガラスの添加剤に用いられて いるアルミニウムをBaTiO
3薄膜に添加し,その効果につ いて検討を行った。
2 研究,実験方法
2-1 BaTiO
3結晶性ナノ粒子の調製
図1にBaTiO
3結晶性ナノ粒子の調製のフローチャート を示す。先ず,等モルのバリウムジエトキシド(高純度 化学研究所製)とチタンテトライソプロポキシド(高純 度化学研究所製)を,乾燥窒素雰囲気中においてメタノ ールと2-メトキシエタノールの混合溶媒へ溶解させて,
1.0mol/Lの前駆体溶液を調製した。前駆体溶液を-30℃ま で冷却した後,撹拌しながら水/メタノール混合溶媒(体 積比1:1)を滴下し加水分解を行った。水/メタノール混 合溶液の滴下量は,水の添加量が前駆体溶液中のTiに対 して16倍モルとなるようにした。加水分解終了後,30℃
で1週間の熟成(エージング)処理を行うことで粒径約 20nmの結晶化したBaTiO
3ナノ粒子を得た。
*1 化学繊維研究所
CH
3OH+CH
3OC
2H
4OH(3 : 2) Ba(OC
2H
5)
2Ti(O-isoPro)
4BaTiO
3前駆体溶液
乾燥窒素雰囲気加水分解
BaTiO
3ナノ粒子 エージング
30℃まで加熱
-30℃
30℃,7日間
H
2O/MeOH ( 1 : 1(vol) ) H
2O/Ti = 16
20 30 40 50 60 70
回折強度/任意単位
回折角/度
(100)
●
BaO
Al 0.02M Al 0.002M 無添加 B 0.002M B 0.02M B 0.1M B 0.2M (110)
● (210)
●
(211)
● (220) Pt (111) (基板) ●
●:BaTiO
3(ICDD 31-0174)
2-2 ナノ粒子コーティング溶液の調製
添加元素のホウ素およびアルミニウムは,ナノ粒子の 分散媒である2-メトキシエタノール中に溶解させて,
BaTiO
3薄膜への添加を行った。
乾燥雰囲気中において,ホウ素(ボロン)あるいはア ルミニウムを含む金属アルコキシドであるトリエトキシ ボロン(高純度化学研究所製)およびイソプロピルアル ミニウム(高純度化学研究所製)をそれぞれ2−メトキ シエタノール中に溶解した。2-メトキシエタノール中の ホウ素濃度は0.002,0.02,0.1および0.2mol/L,アルミ ニウム濃度は,0.02および0.2mol/Lとなるように調製し た。これらを12時間攪拌したのちに分散媒として用いた。
前記分散媒に2-1で合成したBaTiO
3ナノ粒子をBaTiO
3濃度 が0.2mol/Lとなるように加えて超音波照射を12時間行い,
添加元素であるホウ素あるいはアルミニウムを含有した ナノ粒子コーティング溶液を調製した。また,比較のた めに,添加剤を加えていないナノ粒子コーティング溶液 も同様に調製した。
2-3 BaTiO
3薄膜作製
成膜はスピンコーティング法によって行った。基板 (Pt(111)/Ti/SiO
2/Si(100))上に2-2で作製したコーティ ング溶液を滴下し,第一段:1000rpm×5秒,第二段:
3000rpm×25秒の条件でスピンコーティングを行い,その 後150℃で乾燥を行った。上記過程を数回繰り返した後,
800℃で2時間の焼成を行った。
2-4 試料評価
得られた薄膜の生成相の同定,結晶構造の解析をX線回 折測定装置(XRD)(理学電機製,RINT2500V),薄膜の表面
形態ならびに断面の観察を走査型電子顕微鏡(SEM)(日本 電子製,JSM-840F)によって行った。
薄膜の誘電特性は,BaTiO
3薄膜表面に上部電極として 直径1mmのアルミニウムを蒸着し,アルミニウム上部電極 と白金下部電極との間をインピーダンスアナライザー (アジレント製,HP4192A)によって評価した。
3 結果と考察
3-1 BaTiO
3薄膜のX線回折測定結果 3-1-1 ホウ素を添加した薄膜
ホウ素を添加して得られた薄膜のXRDパターンを図2に 示す。添加量が0.02mol/Lまでは,立方晶BaTiO
3の回折ピ ークのみであったが,0.1mol/L以上では,酸化バリウム に起因すると考えられる回折ピークが認められた。いず れの添加量においてもBaTiO
3の回折ピークにシフトは認 められないことから,添加したホウ素はBaTiO
3の結晶中 に固溶することはなく,粒界等に析出していると考えら れる。また,ホウ素の添加量が増加するにつれてBaTiO
3の 回折ピーク強度が増加しており,焼結性が向上している と考えられる。
3-1-2 アルミニウムを添加した薄膜
アルミニウムを添加して得られた薄膜のXRDパターン を図2に示す。いずれの添加量でも立方晶BaTiO
3の回折ピ ークのみが確認された。ホウ素添加の場合と異なり,添 加量を増加することでBaTiO
3の回折ピーク強度が減少し ていた。このことより,アルミニウムはBaTiO
3の焼結性 を阻害すると考えられる。
図1 BaTiO
3ナノ粒子調製プロセス 図2 BaTiO
3薄膜のXRDパターン
3-2 薄膜の粒径
得られたBaTiO
3薄膜の(110)回折ピークの半値幅から Scherrerの式を用いてそれぞれの薄膜の結晶子径(粒径) を算出した
5)。その結果を図3に示す。
ホウ素の添加を行った場合の粒径は,無添加時の粒径 (46nm)以上となっており,ホウ素の添加は粒成長を促進 する効果があることが判明した。その粒成長の効果は,
添加量0.02mol/Lで最大値の75nmとなり,無添加と比較し て約1.6倍となっていた。 一方,アルミニウムの添加を 行った場合の粒径は,無添加時の粒径以下となっており,
アルミニウムの添加は粒成長を抑制する効果があること が分かる。アルミニウムを0.02mol/L添加した場合の粒径 は21nmであり,焼成前のナノ粒子サイズ(粒径:約20nm)
とほぼ同じであることから,粒成長が完全に抑制された と考えられる。
3-3 薄膜の表面形態
ルミニウムを0.02mol/L添加した 薄
電気的特性
電特性を示す。
2mol/Lまで増 加
は添加量 と
図4にホウ素またはア
膜と無添加の薄膜の表面形態と断面をSEMによって観 察した結果を示す。XRDから得られた結果と同様に,ホウ 素を添加した薄膜は,粒子が大きく成長している様子が 確認された。しかし,表面あるいは断面には空隙が多く 認められ,膜密度は焼結によって向上していないと考え られる。また,アルミニウムを添加した薄膜は,焼結が ほとんど進行しておらず,膜厚は収縮せずに厚い状態で あった。
3-4 薄膜の
図5に得られた薄膜の誘
ホウ素の添加を行った場合,添加量を0.0
することで誘電特性が向上した。無添加の薄膜の誘電 率が100kHzにおいて205であったのに対して,ホウ素を 0.02mol/L添加した場合は240まで向上した。更に,誘電 損失は周波数に対して安定化し,測定周波数範囲に於い て0.08以下となった。しかし,それ以上のホウ素の添加 を行った薄膜は,上部電極と下部電極の間の絶縁性が不 十分となり誘電特性の測定が行えなかった。
アルミニウムの添加を行った場合,誘電特性
共に悪化する傾向があった。アルミニウムの添加量が 0.02mol/Lの時,100kHzにおける誘電率は60まで減少し,
誘電損失は大きく増加した。
図3 BaTiO
3薄膜の粒径の添加元素濃度依存性 添加元素:ホウ素(B) ,アルミニウム(Al)
10 20 30 40 50 60 70 80
0.001 0.01 0.1 1
B
Al
粒径/nm
添加量/mol/L
無添加時の粒径 (46 nm)
焼成前の粒径 (20 nm)
図4 BaTiO
3薄膜の表面および断面のSEM像
表面 断面
無添加
B 0.02M
Al 0.02M
200nm 200nm
Si
Pt BaTiO3Si
Pt BaTiO3Si
Pt BaTiO350 100 150 200 250 300
誘電率/−
Al
B 0.02M 無添加
B 0.002M Al 0.002M 0.02M
104 105 106
0.01 0.1 1
誘電損失/−
測定周波数/Hz B 0.02M
無添加 B 0.002M Al 0.02M
Al 0.002M
103
図5 BaTiO 上段:誘
3
薄膜の誘電特性の周波数依存性
電率,下段:誘電損失
3-5 粒径と誘電率の関係
ホウ素あるいはアルミニウムの添加を行った薄膜に関 し
Ba
まとめ
は,ナノ粒子コーティング法によって調製し た
TiO
3の粒成長が促進さ
BaTiO
3の粒成長が
参考文献
a, K.Shirartsuyu, H.Takagi and Y.Sakade:
2) c.Jpn.,
3) ,山下洋子,有村雅司:
4) 県工
5) (1990)
7)M.Shimizu,S.Okamura,T.Shiosaki:Mater.Integration ,
Ba
まとめ
は,ナノ粒子コーティング法によって調製し た
TiO
3の粒成長が促進さ
BaTiO
3の粒成長が
参考文献
a, K.Shirartsuyu, H.Takagi and Y.Sakade:
2) c.Jpn.,
3) ,山下洋子,有村雅司:
4) 県工
5) (1990)
7)M.Shimizu,S.Okamura,T.Shiosaki:Mater.Integration ,
て,誘電率を3-2で算出した粒径に対してプロットを行 った結果を図6に示す。比較のために,助剤の添加を行わ ずに,800℃以上の高温焼成,あるいはそれ以下の低温焼 成を行うことで粒径制御を行った薄膜の結果も同図上に 示す。BaTiO
3の誘電率は一般的に粒径とともに増加する と言われているが
6),7),本研究で作製した薄膜についても 同様の関係が成り立っていることが分かる。また,ホウ 素あるいはアルミニウムを添加して作製した薄膜の誘電 率は,無添加の薄膜の誘電率より低くなっていることか ら,添加元素が誘電率を低下させている可能性がある。
更なる誘電率の向上のためには,薄膜を構成している 剤の添加を行わ ずに,800℃以上の高温焼成,あるいはそれ以下の低温焼 成を行うことで粒径制御を行った薄膜の結果も同図上に 示す。BaTiO
TiO
3粒子サイズを増加させる必要があり,添加剤によ って粒径の制御を行う場合には,薄膜の誘電特性を損な わない材料を選択しなければならないと考えられる。
TiO
4 4
本研究で 本研究で
BaTiO
3薄膜にホウ素およびアルミニウムを加えること で低温焼成での焼結性ならびに誘電特性の改善を試みた。
その結果,以下の結論を得た。
・ホウ素の添加を行った場合,Ba BaTiO
れると同時に誘電率も向上した。しかし,過剰な添加を 行うと,薄膜の絶縁性が低下した。
・アルミニウムの添加を行った場合,
れると同時に誘電率も向上した。しかし,過剰な添加を 行うと,薄膜の絶縁性が低下した。
・アルミニウムの添加を行った場合,
抑制され,誘電率も低下した。
抑制され,誘電率も低下した。
5 5
1)Y.Takeshit 1)Y.Takeshit
Jpn.J.Appl.Phys., Vol.36, p.5870(1997)
松田弘文,水島哲郎,桑原誠:J.Ceram.So
Jpn.J.Appl.Phys., Vol.36, p.5870(1997)
松田弘文,水島哲郎,桑原誠:J.Ceram.So
0 50 100 150 200 250 300
0 20 40 60 80 100
無添加 B 添加 Al 添加
誘電率/−
粒径/nm
100kHz
Vol.107,No.3,p.290(1999)
桑原誠,倉田奈津子,緒方道子 Vol.107,No.3,p.290(1999) 桑原誠,倉田奈津子,緒方道子
セラミックス,Vol.36,No.6, p.415-416(2001) 藤吉国孝,有村雅司,牧野晃久,山下洋子:福岡 セラミックス,Vol.36,No.6, p.415-416(2001) 藤吉国孝,有村雅司,牧野晃久,山下洋子:福岡 業技術センター研究報告,No.13,p.29(2003) 加藤誠軌:X線回折分析,p.246-248,内田老鶴圃 業技術センター研究報告,No.13,p.29(2003) 加藤誠軌:X線回折分析,p.246-248,内田老鶴圃 6)M.Nunoshita, T.OHTA, T.Tokuda:Mater.Integration,
6)M.Nunoshita, T.OHTA, T.Tokuda:Mater.Integration,
Vol.14,No.5,p.29-37(2001) Vol.14,No.5,p.29-37(2001)
Vol.12,No.7,p.19-24(1999) Vol.12,No.7,p.19-24(1999) 図6 粒径と誘電率の関係図
図6 粒径と誘電率の関係図
3
の誘電率は一般的に粒径とともに増加する と言われているが
6),7),本研究で作製した薄膜についても 同様の関係が成り立っていることが分かる。また,ホウ 素あるいはアルミニウムを添加して作製した薄膜の誘電 率は,無添加の薄膜の誘電率より低くなっていることか ら,添加元素が誘電率を低下させている可能性がある。
更なる誘電率の向上のためには,薄膜を構成している
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粒子サイズを増加させる必要があり,添加剤によ って粒径の制御を行う場合には,薄膜の誘電特性を損な わない材料を選択しなければならないと考えられる。
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