中央大学理工学部情報工学科 卒業研究論文
限界集落を確保するための地域内交通手段
学籍番号 13D8104019C 東 恵実
指導教員 田口 東 教授 2017年 3月
あらまし
本研究では、岩手県上閉伊郡大槌町をモデルとし、研究を行う。まず始めに、大槌町の道 路ネットワークを作り、その頂点への最短距離を、ダイクストラ法を用いて求める。次に、
大槌町の道路ネットワークに建物を建て、そこに住んでいる人を割り当てる。住んでいる人 たちの1か月の行動のシナリオを作り、彼らを道路ネットワーク上で動かして、道路ネット ワークの交通量を調べる。その結果を元にして、地域の構造を考慮しながら、施設の配置問 題や交通ネットワークを考え、持続可能な地域のあり方を考察する。
キーワード 過疎地域、道路ネットワーク、ダイクストラ法、シナリオ
目次
第1章 序論 ... 1
第2章 大槌町の道路ネットワーク ... 2
2.1 道路ネットワークの概要 ... 2
2.2 大槌町の概形 ... 2
2.3 使用するデータ ... 3
2.3.1 座標データ 枝リンクデータ... 3
2.3.2 背景の座標データ ... 3
2.4 大槌町の道路ネットワークの構築 ... 4
第3章 大槌町の最短経路問題 ... 6
3.1 最短経路の概要 ... 6
3.2 最短経路問題 ... 6
3.3 ダイクストラ法(Dijkstra法) ... 7
3.4 大槌町の最短経路問題 ... 12
3.4.1 使用するデータ ... 12
3.4.2 プログラムの作成にあたり ... 12
3.4.3 ヒープ(heap)とは ... 12
3.4.4 ヒープを用いたダイクストラ... 13
第4章 大槌町の道路ネットワークの交通量 ... 20
4.1 道路ネットワークの交通量 ... 20
4.2 使用するデータ ... 20
4.2.1 建物 ... 20
4.2.2 人 ... 23
4.2.3 世帯人数 ... 23
4.2.4 年齢、性別 ... 24
4.2.5 1か月のシナリオ ... 26
4.3 大槌町の道路ネットワーク ... 27
第5章 結論 ... 36
5.1 まとめ ... 36
5.2 今後の課題 ... 36
謝辞 ... 37
参考文献 ... 38
第1章 序論
日本では、現在少子高齢化が進んでおり、深刻な状況に陥っている。生産人口の減少と 高齢者人口の増加により人口構成の歪みをもたらし、経済、社会に影響を与えている。具 体的には労働力人口の減少による経済成長の低下、若者の減少による社会の活力の低下、
社会保障負担の増大、地域社会の変貌(過疎化、住民サービス、商業サービスの低下な ど)が挙げられる。
人口減少によって高齢化が地方に現れているということ、集落として存続が不可能にな りつつあること、または、存続するうちに最低限継続可能な交通手段を提供することを踏 まえ、国土交通省では、地方振興のひとつとして、『小さな拠点』づくりというものを考 えている。小さな拠点というのは、小学校区など、複数の集落が集まる基礎的な生活圏の 中で、分散している様々な生活サービスや地域活動の場などを「合わせ技」でつなぎ、人 やモノ、サービスの循環を図ることで、生活を支える新しい地域運営の仕組みをつくろう とする取り組みである[1]。この取り組みを行うことで、小学校や旧役場庁舎の周りに日常 生活を支える買い物、医療等の「機能」をコンパクトに集積でき、人々の移動時間を減ら すことができる。
本研究では、地域社会への変貌について取り上げ、近年、少子高齢化が進んでおり、過 疎地域の指定を受けている岩手県上閉伊郡大槌町をモデルとして、研究を行う。第2章で は、大槌町の道路ネットワークについて説明する。第3章では、作成した大槌町のネット ワークを、探索プログラムを用いて特徴を調べ、その結果をもとに第4章では、仮想的に 大槌町に住んでいる人々を道路ネットワーク上に発生させ、1か月のシナリオをもとに道 路の交通量を調べる。その結果をもとに、理想な街づくりを考察する。
第2章 大槌町の道路ネットワーク
2.1 道路ネットワークの概要
道路ネットワークとは、経路計算やナビゲーション時の誘導などに利用される地図のこ とである。経路計算というのは、道の距離や時間を計算するものである。仮想的な街を作 るために、まずモデルとなる大槌町の道路ネットワークや大槌町の地形をコンピュータ上 に実現しなければならない。
本章では、大槌町の道路ネットワークの概形と道路ネットワークの構築について述べよ うと思う。
2.2 大槌町の概形
大槌町は平成28年11月30日現在、人口は12,303人、面積は約201㎢である。大槌 町は岩手県三陸海岸の中央部に位置しており、主に岩手県東部を占めている北上山地に覆 われ、東側はリアス式海岸に面しており、東から流れる大槌川と小槌川の流域に家屋や商 店街が密集している。
図2.1 大槌町のリアス海岸側の地図 [2]
2.3 使用するデータ
2.3.1 座標データ 枝リンクデータ
大槌町の道路を形成する頂点データ6961個とその頂点がどのように結ばれている のかを示す枝リンクデータを使用する。枝の本数は4767本である。
頂点の座標データ
・x座標
・y座標
・z座標
枝リンクデータ
・始点
・終点
・道路の広さ
2.3.2 背景の座標データ
道路ネットワークの座標以外にも背景の座標と標高を与える。まず、緯度・経度の値か ら平面直角座標への変換を行い、背景のx座標、y座標の値とする。そこに標高のデータ も加える。
背景の座標データ
・x座標
・y座標
・z座標
2.4 大槌町の道路ネットワークの構築
これらのデータをもとに大槌町の道路ネットワークを形成する。ネットワークの構築は C言語プログラムで行う。まずデータを入力し、MicroAVSを使って、図で表す。下の図 は、道路ネットワークの枝のみを表した図である。
大槌町の道路ネットワーク
図2.2 大槌町の道路ネットワーク
道路ネットワークは赤色で描かれており、道路ネットワークの頂点には黄色の丸が描かれ ている。標高の高さごとに色を分けており、標高が高くなるにつれて赤色に、低くなるに つれて青色になるようにしている。以上のことを踏まえると下のような図になる。
図2.3 大槌町の道路ネットワークと標高データの融合
第3章 大槌町の最短経路問題
3.1 最短経路の概要
道路ネットワーク上で人を動かして交通量を見るための過程として、出発地と目的地の 間をその人々がどのように動くのかを仮定する必要がある。人がどこか目的地へ行くとき に大抵の場合は近道を使って移動する。もちろん、この道は狭くて通りづらいので回り道 をするだとか、夜遅くには明かりが全くないので明るい道を通って帰宅するだとか、そう いう場合もあるが、ここでは、大槌町に住んでいる人々は近道、すなわち、最短経路を使 って移動すると仮定する。この章では、大槌町の最短経路を求め、その特徴について述べ る。
3.2 最短経路問題
有向グラフGの各辺e = (u , v) ∈ E(G) に実数の長さlength(e)が割り振られているネ ットワークN = (G , length) の最短経路問題には、以下の3つのタイプがある。
(a) 2点間の最短経路問題
与えられた始点sから終点tへの最短経路を求める問題 (b) 1点から全点への最短経路問題
与えられた始点sからすべての点への最短経路を求める問題 (c) 全点から全点への最短経路問題
すべての点対s,tに対して、sからtへの最短経路を求める問題
大槌町の道路ネットワークの最短経路を求めるに当たり、(b) 1点から全点への最短経路を 求めるタイプを使って行う[3]。
3.3 ダイクストラ法(Dijkstra法)
ダイクストラ法とは、最短経路問題を効率的に解くグラフ理論におけるアルゴリズムで ある。ネットワークN = (G , length) の各辺eの長さlength(e) がすべて非負のとき、最 短経路木を求める以下のダイクストラ法のアルゴリズムは点sから残りの点への最短パス を広げていき、最終的にすべての点への最短経路を求める方法で行う。(VPはsからの最 短経路が確定した点の集合、V(G)-VPは最短経路が未確定な点の集合を表す。)
ここに数式を入力します。
(a) (b)
図3.1 (a) ネットワーク N = (G , length) と (b) その最短経路木
(a) でリンクには、非負の距離とリンク番号が記載されている。
(b) は (a) の最短経路を求めた最短経路木を表している。
sからの最短経路木を求めるダイクストラのアルゴリズム
① スタート点sを選び、VP:=∅; distance[s]:=0; {path[s]:=0}とする。
s以外の点vに対しては、distance[v]:=∞; {path[v]:=-1}とする。
② VP≠V(G)である限り以下の(a)、(b)を繰り返す。
(a) M=V(G)-VPの点の内でdistanceの値の最小な点wを求める。
(b) VP:=VP∪{w}とする。
さらにwを始点とする各辺e = (w , v)に対して、
distance[v] > distance[w] + length(e) ならば、
distance[v] := distance[w] + length(e) {; path[v] := e}とする。
以上のアルゴリズムで行う。
次ページに計算例を示す。
6
2 4
1
3 5
10,1
4,4
40,9 5,3
15,2
9,5
2,6 1,7
30,8
10,10
2 4
1
3 5
6
10
4
15
1
10
(a) (b)
図3.2 (a) STEP1 (b) STEP1の仮ノードとdistanceの更新
(c) (d)
図3.3 (c) STEP2 (d) STEP2の仮ノードとdistanceの更新
(e) (f)
図3.4 (e) STEP3 (f) STEP3の仮ノードとdistanceの更新
2 4
1
3 5
6
10
4
40 5
15
9
2 1
30
10 0
∞ ∞
∞
∞ ∞
2 4
1
3 5
6
10
4
40 5
15
9
2 1
30
10 0
10 ∞
∞
15 ∞
2 4
1
3 5
6
10
4
40 5
15
9
2 1
30
10 0
10 ∞
∞
15 ∞
2 4
1
3 5
6
10
4
40 5
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9
2 1
30
10 0
10 14
∞
15 19
2 4
1
3 5
6
10
4
40 5
15
9
2 1
30 10 0
10 14
∞
15 19
2 4
1
3 5
6
10
4
40 5
15
9
2 1
30 10 0
10 14
55
15 19
(g) (h)
図3.5 (g) STEP4 (h) STEP4の仮ノードとdistanceの更新
(i) (j)
図3.6 (i) STEP5 (j) STEP5の仮ノードとdistanceの更新
図3.7 STEP6 完成図
2 4
1
3 5
6
10
4
40 5
15
9
2 1
30
10 0
10 14
55
15 19
2 4
1
3 5
6
10
4
40 5
15
9
2 1
30
10 0
10 14
55
15 16
2 4
1
3 5
6
10
4
40 5
15
9
2 1
30
10 0
10 14
55
15 16
2 4
1
3 5
6
10
4
40 5
15
9
2 1
30
10 0
10 14
26
15 16
2 4
1
3 5
6
10
4
40 5
15
9
2 1
30
10 0
10 14
26
15 16
前ページ図3.1において起点を1としたときの例を記した。
各リンクには通過にかかるコストを示しており、各STEPにおいて変化するdistanceは 各ノードに示している。また、各図において、オレンジ色で示されているノードやラベル が確定した最短経路で、青色で示されているのは、ラベルが未確定のノードで、何も色が ついていないノードは未探索を表す。
STEP1
ノード1起点であるので探索済みで確定ノードとし、オレンジのラベルを付ける。
M=V(G)-{1} = {2,3,4,5,6}とおく。
その他のノードはdistance=∞と初期化しておく。
ノード1を始点とするリンクを持つノードは2,3なので、
ノード2に関してdistance[2]=∞>length[1]=10
ノード3に関してdistance[3]=∞>length[2]=15
より10、15をそれぞれdistance[2],distance[3]として新たに入力。探索をしたので青色
でラベルをつける。
STEP2
ノードの集合Mの中でdistanceが最小であるノード2を選び、確定ノードとする。
M=M-{2}={3,4,5,6}とおく。
ノード2を始点とするリンクを持つノードは4,5なので、
ノード4に関してdistance[4]=∞>distance[2]+length[4]=10+4=14
ノード5に関してdistance[5]=∞>distance[2]+length[5]=10+9=19
より14、19をそれぞれdistance[4],distance[5]として新たに入力。探索をしたので青色
でラベルをつける。
STEP3
ノードの集合Mの中でdistanceが最小であるノード4を選び、確定ノードとする。
M=M-{4}={3,5,6}とおく。
ノード4を始点とするリンクを持つノードは3,5,6なので、
ノード3に関してdistance[3]=15<distance[4]+length[6]=14+2=16
ノード5に関してdistance[5]=19<distance[4]+length[8]=14+30=44
ノード6に関してdistance[4]=∞>distance[4]+length[9]=14+40=54
ノード3とノード5に関しては値を更新しない。ノード6に54をdistance[6]として新た に入力。探索をしたので青色でラベルをつけ、仮コストとして入力。
STEP4
ノードの集合Mの中でdistanceが最小であるノード3を選び、確定ノードとする。
M=M-{3}={5,6}とおく。
ノード3を始点とするリンクを持つノードは5なので、
ノード5に関してdistance[5]=19>distance[3]+length[7]=15+1=16
より16をdistance[5]として新たに入力。
STEP5
ノードの集合Mの中でdistanceが最小であるノード5を選び、確定ノードとする。
M=M-{5}={6}とおく。
ノード5を始点とするリンクを持つノードは6なので、
ノード6に関してdistance[6]=44>distance[5]+length[10]=16+10=26
より26をdistance[6]として新たに入力。
この段階で集合Mの要素は1つしか残っていないので次のSTEPで処理は終了する。
STEP6
ノード6を選び、確定ノードとする。
M=M-{6}=∅とおく。
Mが空集合になったので処理は終了する。
[4]
3.4 大槌町の最短経路問題
3.4.1 使用するデータ
大槌町の道路ネットワークの最短経路をダイクストラ法で求める。第2章で、プログラ ムで出力した道路ネットワークを用いる。使用するデータは第2章と同様である。また、
先ほどの例では、各辺が一方通行の有向グラフとなっていたが、大槌町の最短経路問題で は両方向通れることにする。
3.4.2 プログラムの作成にあたり
第2章で述べたように大槌町の道路ネットワークのノードとリンクの数はかなり大きい ものである。膨大なネットワークでのダイクストラ法を実行しようとすると、かなりの時 間がかかってしまう。そこでヒープを利用することで計算量を抑えることができる。
3.4.3 ヒープ(heap)とは
順序集合X上でfindmin(最小値の探索),insert(挿入),deletemin(最小値の削除),
decreacekey(キーの削除)の4つの操作をサポートするデータ構造である優先度付きキュー を根付き木で実現したものをヒープ(heap)と呼ぶ。ダイクストラのアルゴリズムのV(G)-
VPの部分をヒープで表しておけばm回decreasekeyを行い、O(n)回insert,deletemin を行うことでDijkstraのアルゴリズムが実行できるので計算量はO(mlog 𝑛)となる。さら に、フィボナッチヒープと呼ばれるデータ構造で表現しておけば、ネットワークNの1点 から全点への最短経路はダイクストラのアルゴリズムでO(m+nlog 𝑛)の手間で求めること ができる。
3.4.4 ヒープを用いたダイクストラ
ヒープを用いたダイクストラを作るのにまず、頂点vに接続するリンクのリストを作 る。先ほどのダイクストラ法の例をもとに作ったリストが次ページの図3.8である。これ は配列で表現することもできる(図3.9)。
図3.8 点vに接続するリスト構造
(a) (b)
図3.9 (a)ネットワークN=(G,length)と(b)配列を用いたリスト構造
図3.9の(b)において、上の配列は頂点から出ているリンクの一つを表しており、下の配列 では、それがリスト構造になっている。例えば、上の配列の添え字1を見ると1というデ ータが入っている。そこで下の配列の添え字1を見ると2が入っているので、次に添え字 が2のところを見ると、0になっている。0は図3.8でいうNULLを表す。これらは頂点 1から出ているリンクのリストを表している。同様にして頂点2,3,4,5,6も表さ れる。このようにリスト構造にすることによってメモリを減らすことができ、効率がよく なる。
6
2 4
1
3 5
10,1
4,4
40,9
5,3
15,2
9,5
2,6 1,7
30,8
10,10 点1に接続する枝リスト
点2に接続する枝リスト
点3に接続する枝リスト
点4に接続する枝リスト
点5に接続する枝リスト
点6に接続する枝リスト
1 2 NULL
NULL
NULL
NULL
NULL
NULL 点1
点2
点3
点4
点5
点6
4 5
3 8
6 7 9
10
4 3 6
1 10 0
2 0 8 5 0 7 9 0 0 0
1 2 3 4 5 6
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
ヒープでのアルゴリズムの実装
STEP1 最初の点は何もしない。○はdistanceの値である。
図 3.10 ヒープSTEP1
STEP2 頂点1から出ている点を調べる。枝番号1と2のlengthを調べ、短い方を
root_minとする。そして短い方のノードをdelete_minする。
図3.11 ヒープSTEP2
STEP3 頂点2から出ている点を調べる。枝番号4と5のlengthを調べ、短い方を
root_minとする。そして探索されているノードの中で一番短い方のノードを
delete_minする。残っているノードはヒープ木で表している。
図3.12 ヒープSTEP3
STEP4 頂点4から出ている点を調べる。枝番号6,7,9のlengthを調べ、値の更新の 必要があれば行い、短い方をroot_minとする。そして探索されているノードの 中で一番短い方のノードをdelete_minする。残っているノードはヒープ木で表 している。
図3.13 ヒープSTEP4
STEP5 頂点3から出ている点を調べる。枝番号8のlengthを調べ、値の更新の必要が
あれば行い、短い方をroot_minとする。そして探索されているノードの中で一 番短い方のノードをdelete_minする。残っているノードはヒープ木で表してい る。
図3.14 ヒープSTEP5
STEP6 頂点5から出ている点を調べる。枝番号10のlengthを調べ、値の更新の必要が あれば行い、短い方をroot_minとする。そして探索されているノードの中で一 番短い方のノードをdelete_minする。ここで、ノードがなくなったので終了。
図3.15 ヒープSTEP6
上に示したやり方で大槌町の最短経路を求める。次ページに求めた最短経路を 赤は最短経路を、青は道路ネットワークのうち最短経路に使わなかった枝を示す。
図3.16 大槌町の最短経路結果
先ほどのネットワークの始点を表した図が図3.17である。緑色が始点を表している。
図3.17 始点を表した大槌町のネットワーク
大槌町の最短経路の特徴
赤い道路ほど最短経路で通る頻度が多くなっており青い道路になると通過する頻度が減っ ている。大槌町の最短経路をどのくらい通るのかの頻度を表したのが図3.18である。始点 に近いほど赤くなっており、頻度が多い経路をたどっていくと、一本道となっている。最 短経路の手法だけで見ると、この一本道に交通手段としてバスを入れられるのではないか と予測する。
図3.18 最短経路で通過した回数を表した図
第4章 大槌町の道路ネットワークの交通量
4.1 道路ネットワークの交通量
第3章で求めた大槌町の最短経路をもとに、道路ネットワークの交通量を調べる。ま ず、コンピュータの道路ネットワーク上に建物を建てる。次にその建物の体積を求め、体 積当たりに住んでいる人数を出し、住んでいる人全員に住んでいる場所、世帯、年齢、性 別、1か月のシナリオを与える。そして、1か月のシナリオをもとに道路ネットワーク上 に動かす。それによって大槌町の道路ネットワークの交通量を求める。この章では大槌町 の道路ネットワークの交通量を求め、最短経路で求めた道路の使用頻度と比較し考察す る。
4.2 使用するデータ 4.2.1 建物
最初に家を建てる。家を建てるのに使用するのは、建物の頂点になっている部分の 座標である。家の角を座標として与え、合計5761世帯の家をプログラム上に建て る。データとして与えるのは建物の番号と建物の概形の各頂点のx座標,y座標,z 座標である。
(例)
表4.1 建物の頂点の点データ例
x座標 y座標 z座標
1 0 0 0
2 2 0 0
3 0 1 0
4 2 1 0
家(黒い四角)を建てたらその建物の重心(黒い点)を求める。その重心から建物の角の頂点へ 2本のベクトル(オレンジの実線)をひき,外積によって平行四辺形の面積(オレンジ)を求め る。他の3箇所(青)に対しても平行四辺形の面積を出し、それらを全て足していき,最後 に余計に足されている部分を引いて建物の底面積を求める。
図4.1 建物の例
底面積を求めたら、それぞれの家の高さをデータとして与え、5761世帯の体積を求める。
ここで、道路ネットワークと関連を付けるために、道路ネットワークで定義した頂点6961 点の座標と家の重心の座標との2点間の距離を調べ、一番近い頂点の場所に家を建てるこ とにする。
図4.2 道路ネットワークと建物の例
上の図の場合、頂点番号1,2,3,4,5に1件ずつ家が建てられる。
2 4
1
3 5
6
次に施設をプログラム上に建てる。建てる施設は以下の通りである。
1.郵便局(全部で8か所)
2.コンビニ(ローソン,ファミマ,ヤマザキショップ,マルタニショップ8か所)
3.大槌町役場
4.公民館(大槌町役場中央公民館,安渡公民館,公民館赤浜分館)
5.大槌消防署 6.大槌病院
7.ホーマック大槌店ホームセンター 8.おさなご幼稚園
9.大ケ口保育園
10. 大槌町立大槌学園(小中一貫校) 11.県立大槌高校
12.ポスト(全15か所)
13.小さな病院(内科,小児科,歯科など,全4か所)
14.薬局(全7か所)
15.スーパー(全4か所)
16.酒店(全13か所)
17.老人ホーム(全3か所)
18.大槌駅 19.公園,体育館
20.シーサイドタウンマスト(ショッピングセンター)
まず、最初にこれらの施設の住所を調べる[5][6][7][8]。次に、その住所をもとに緯度経度 に変換する[9]。そして、その緯度経度を平面直交座標に変換する。最後に、その座標をデ ータとしてプログラムに与える。先ほどの建物と同様に施設に対しても、道路ネットワー クと関連付けるために、道路ネットワークの頂点6961点の座標と変換された座標との2 点間の距離を調べ、一番近い頂点にその施設が建てられているとする。
4.2.2 人
4.2.1で求めた体積をもとに人を発生させる。先ほど求めた5761世帯の体積をすべて足
し、家の全体積とする。大槌町の人口はおよそ12000人であるので、
(大槌町の全人口÷家の全体積)×(それぞれの頂点での体積)
を求め、それぞれの頂点(頂点)ごとに何人住んでいるのかを求める。
4.2.3 世帯人数
ここでは1世帯に何人住んでいるのかを求め、住んでいる人々に家庭を与える。まず大 槌町の世帯人数のデータをもとにして、割合を出す[10]。世帯人数データとその割合の結 果が以下の図である。
図4.3 大槌町の世帯人数別世帯数と世帯人数割合
世帯人数別の割合を求めたら、それらの割合の累積比率を求める。そして、その累積比率 をもとにプログラムで乱数を発生させて、世帯人数を割り振る。
表4.2 大槌町の世帯割合の累積比率
26%
21% 33%
20%
世帯人数別の割合
1人世帯数 2人世帯数 3人世帯数 4人世帯数
1392 1774 1115 1081
1人 世 帯 数 2人 世 帯 数 3人 世 帯 数 4人 世 帯 数
世帯人数別世帯数
1人世帯 0.259605 2人世帯 0.590451 3人世帯 0.798396
4人世帯 1
4.2.4 年齢、性別
住んでいる人それぞれに、場所と家庭を与えたので、年齢と性別を与える。年齢は国勢 調査に出されている5歳別人口の分布を使用する[11]。性別に関しては、男女比がほぼ1:1 であるので、1:1で割り振る。
まず年齢を与える。大槌町の年齢分布は図の通りである。
図4.4 平成28年度大槌町人口の割合
390398429431456477506 606608 719732754792855907909 1050 1155 37 156
3
0 200 400 600 800 1000 1200 1400
0~4 10~14 20~24 30~34 40~44 50~54 60~64 70~74 80~84 90~94 100以上
平成28年度大槌町人口
207209218237251263268282319333387389390417476548565 34 142
130
-189-183 -324-289-243-226-219-213 -365-332
-433-402
-590-522-502-490-464 -287 -122 -7-2
-800 -600 -400 -200 0 200 400 600 800
0~4 10~14 20~24 30~34 40~44 50~54 60~64 70~74 80~84 90~94 100以上
平 成28年 度 大槌 町男女 別5 歳階級 人口
女 男
先ほど述べた世帯人数と同様に、年齢分布をもとにして割合を出す。そして累積比率を出 して、その値をもとにプログラムで乱数を発生させて年齢を割り振る。割合と累積比率は 以下の通りである。
表4.3 年齢の割合と累積比率
年齢 人数 割合 累積比率
0~4 390 0.031528 0.031528 5~9 398 0.032175 0.063703 10~14 456 0.036863 0.100566 15~19 606 0.048989 0.149555 20~24 477 0.038561 0.188116 25~29 431 0.034842 0.222959 30~34 506 0.040905 0.263864 35~39 608 0.049151 0.313015 40~44 719 0.058124 0.37114 45~49 754 0.060954 0.432094 50~54 792 0.064026 0.49612 55~59 909 0.073484 0.569604 60~64 1050 0.084883 0.654487 65~69 1155 0.093371 0.747858 70~74 907 0.073323 0.82118 75~79 855 0.069119 0.890299 80~84 732 0.059175 0.949475 85~89 429 0.034681 0.984155 90~94 156 0.012611 0.996766 95~99 37 0.002991 0.999757
100以上 3 0.000243 1
4.2.5 1か月のシナリオ
大槌町で暮らしている人々に1か月のシナリオを与える。1か月のシナリオというのは、
大槌町に住んでいる人全員を 31日分の目的地まで動かすものである。10 代には学校、70 代には老人ホームや病院のように年齢ごとに目的地を割り振り、1か月のシナリオを作成す る。シナリオは1日に行く場所は1か所として行う。つまり、家と目的地を行き来する。
シナリオ例
表 4.4 シナリオ例
年齢 性別 1日 2日 3日 4日 5日 6日 7日
40 1 小 小 小 小 小 コ シ
35 2 老 病 郵 老 老 老 ス
25 1 消 消 病 消 消 消 シ
0 2 公 公 公 公 公 公 シ
70 1 病 老 老 老 老
50 2 駅 内 駅 駅 駅 シ シ
55 1 駅 駅 駅 駅 酒 駅 駅
45 2 駅 駅 シ 駅 シ 駅 駅
75 1 駅 駅 駅 駅 駅
0 2 公 公 公 公 公 公 シ
75 1 老 老 公 公 公
70 2 老 公 老 公 老
50 1 駅 駅 駅 駅 ス 駅 ス
0 2 公 公 公 公 公 公 シ
60 1 小 小 小 小 小 コ シ
60 2 老 老 老 老 老 老 ス
85 1 公 公 病 公 公
30 2 駅 駅 シ 駅 シ 駅 駅
65 1 老 老 老 老 老
75 2 病 公 病 公 公
30 1 駅 駅 駅 郵 酒 駅 駅
60 2 役 役 役 役 役 シ シ
45 1 ス ス ス 郵 ス ス 館
75 2 老 老 公 公 公
55 1 中 中 中 中 中 ス
50 2 駅 駅 ス 駅 駅 ス
80 1 老 老 老 老 病
40 2 薬 薬 コ 薬 ス
30 1 中 中 中 中 中 ス
90 2 老 老 公 公 公
90 1 老 館 老 館 老
55 2 薬 薬 コ 薬 ス
85 1 公 公 病 公 公
55 2 駅 駅 ス 駅 駅 ス
40 1 中 中 中 中 中 ス
80 2 老 館 老 館 老
シナリオの表の説明 年齢…5歳別で表す。
性別…1を男性、2を女性とする。
シナリオ…1週間分を表している。青は土曜日、赤は日曜日を表す。
それぞれのシナリオの例は以下の通りである。
小…小学校 コ…コンビニ シ…ショッピングセンター 消…消防署 病…病院 公…公園 老…老人ホーム 内…小さい病院 酒…酒店 役…役所 ス…スーパー 郵…郵便局 中…中学校 薬…薬局 館…公民館
4.3 大槌町の道路ネットワークの交通量
以下のデータをもとに、大槌町の道路ネットワークの交通量を調べる。使用するのは第 3章で使用した大槌町の最短経路を求めたプログラムである。最短経路問題を求めたとき は、大槌町の道路ネットワークの頂点座標と枝のリンクを与えたが、それに加えて施設ご
とにsuper_sourceという頂点を与える。このsuper_sourceというのは、ある施設が複数
ある場合(単独でも可)に、その複数ある施設と結ぶ点のことである。例えばコンビニだ と、すべてのコンビニつながる頂点のことである。またsuper_sourceと施設を結ぶため のリンクも新たに定義しなければならない。このsuper_sourceを定義することによっ て、目的が同じような施設が複数ある場合に、その施設からすべての頂点への最短経路を 求めやすくすることができる。コンビニ、病院、幼稚園、保育園、小中学校、高校、スー パーからすべての頂点への最短経路を求めたものが次ページからの図である。次ページの 図は最短経路の通った頻度を表しており、経路の色が赤いほど頻度が高いことを表してお り、経路が青いほど頻度が低いことを表す。
コンビニ
図4.6 大槌町 コンビニの地図[12]
図4.7 コンビニと住居の間の最短経路
病院
図4.8 大槌町 病院の地図
図4.9 病院と住居の間の最短経路
幼稚園
図4.10 大槌町 幼稚園の地図
図 4.11 幼稚園と住居の間の最短経路
保育園
図 4.12 大槌町 保育園の地図
図4.13 保育園と住居の間の最短経路
小中学校
図4.14 大槌町 小中学校(一貫校)の地図
図4.15 小中学校と住居の間の最短経路
高校
図4.16 大槌町 高校の地図
図4.17 高校と住居の間の最短経路
スーパー
図4.18 大槌町 スーパーの地図
図4.19 スーパーと住居の最短経路
それぞれの施設に対して全頂点への最短経路を求めてみると、どの経路にどのくらいの 人が流れるのかの予測をすることができる。では、人が流れて1か月のシナリオ通りに動 くとしたらどのように動き、どれくらいの交通量になるのかこのsuper_sourceを使って 調べる。
各々に1か月のシナリオを与えているので、まず自分が住んでいるところからスタート し、1日1施設ずつ巡る。目的地にたどり着いたら、経路を辿り、通った経路を記憶して おく。それを31日分行い、1人目のシナリオが完成する。これを大槌町のおよその人口分
(12955人)で行った結果が以下の図である。
図4.20 1か月のシナリオにもとづいた大槌町の道路ネットワークの交通量
交通量の特徴
西側にある集落地域は、交通量が多くあることが分かった。駅周辺には施設が密集してい るため交通量が赤くなっている。海岸付近の集落には人があまり流れていないのでそれら の集落をつなぐためにコミュニティバスを交通手段としておくことを提案する。
第5章 結論
5.1 まとめ
本研究では、岩手県上閉伊郡大槌町をモデルとして、道路ネットワークを作成し、最短経 路問題を求めた。また、建物と人を発生させ、シナリオを作り、その通りに動かすことによ って大槌町の道路ネットワークの交通量を見ることができた。第2章では大槌町の道路ネ ットワークを作成し、大槌町の地形や概形の特徴をコンピュータ上に表した。第3章では表 した道路ネットワークをもとに、最短経路問題をダイクストラ法で求め、その最短経路の特 徴について述べた。第4章では、建物と人を発生させ、人に世帯と年齢と性別とシナリオを 与え、道路ネットワークの交通量を調べ、その特徴を述べた。限界集落を持続させるために は、各集落にどのようなサービスが失われているのかを探し、それを補うために 1 か月の シナリオを見て、なぜ経路を通る頻度が高いのか、低いのかを見たり、年齢ごとに交通量を 見たりして、地域と地域をつなぐための手段を考えるべきである。海岸地域は駅周辺に比べ て商業サービスが少ないと考える。駅周辺にショッピングセンターがあるが、また別の地域 にショッピングセンターを作ることで商業サービスが盛んになると考える。また大槌町に は町民バスというものがあるが、本数が少ないので、本数を増やすことを提案する。そして 町民バスと新しいショッピングセンターをつなげ、人々の移動負担を軽くすることができ るもではないかと考える。
5.2 今後の課題
・今回は最短経路を通ることを前提に求めたが、現実には、通りづらい通路や、暗くて夜 には通らない通路などがあると思うのでより現実的な経路を調べて交通量を調べる。
・交通量が分かったので、どこに施設を配置すればそれぞれの年代の人にとって便利であ るのか、より持続可能な地域にするにはどうしたらいいのかを考察する。
・1日のシナリオで行く場所を1か所に指定をしていたので、2か所3か所行くことにな ったときのシナリオを考察する。
・移動距離、移動時間を出し、どこの地域の人にどれだけの負担がかかるのかを考察する。
謝辞
本研究を進めるにあたり、多くのご指導ご助言をいただいた中央大学理工学部情報工学 科の田口東教授、山形浩一氏に深く感謝いたします。そして一年間共に過ごし、切磋琢磨 しあった田口研究室の学部生の皆様に、心から感謝いたします。
参考文献
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<http://www.mlit.go.jp/kokudoseisaku/kokudoseisaku_tk3_guidebook.html>
[2]Google Inc., “Google Map”,(オンライン),
<https://www.google.co.jp/maps>
[3]浅野孝夫,今井 浩,新コンピュータサイエンス講座 計算とアルゴリズム,オーム社 出版局,2000,pp59,pp86,pp119‐pp122
[4]宮崎渉,“火災発生時における避難行動のシミュレーション”,中央大学理工学部情報工
学科論文,2001
[5]病院なび,(オンライン),
<https://byoinnavi.jp/iwate/kamiheigun'otsuchicho>
[6]酒屋ボックス,(オンライン)
<http://www.liqueur-box.com/IWATE/OTSUCHI-CHO-KAMIHEI-GUN_index.html>
[7]公園まっぷ,(オンライン),
<https://park.publicmap.jp/city/03461>
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<http://kaigo.homes.co.jp/s/list/ad11=3/area2=461/>
[9]Syncer,(オンライン),<https://syncer.jp/geocoding>
[10]人口統計ラボ,(オンライン),
<https://toukei-labo.com/2010/jinin.php?tdfk=03&city=03461>
[11] e-Stat,(オンライン),
<http://www.e-
stat.go.jp/SG1/estat/GL02020101.do?method=extendTclass&refTarget=toukeihyo&listF ormat=hierarchy&statCode=00200241&tstatCode=&tclass1=&tclass2=&tclass3=&tcla
ss4=&tclass5=>平成28年1月1日
[12]Bing地図,(オンライン),
<https://www.bing.com/maps>