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待ち行列の数理モデル 朝倉書店

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Academic year: 2021

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オペレーションズ・リサーチ 724(62)

【書評】

木村 俊一 著

待ち行列の数理モデル

朝倉書店 224頁 2016年 定価3,600円+税 ISBN: 978-4-254-27571-1

本書は,待ち行列モデルの中でも応用上,重要視さ れながら,その解析の難しさから遠ざけられてきたモ デルの近似解法について解説した書籍である.特に本 書はM/G/s待ち行列を中心とした複数窓口モデルおよ びそのネットワークモデルについて,近似解法および 関連する理論的側面の解説に力を入れており,ほかの 待ち行列関連の書籍とは一線を画していると言えよう.

なお本書は「確率工学シリーズ」と冠したシリーズの 1冊目であり,本シリーズは,不確実環境下における 社会システムが抱える諸問題に対して,その問題解決 のための方法論の深化を目指すために刊行され,待ち 行列,信頼性・保全性,意思決定,投資戦略,エネル ギー問題,年金制度などへの応用を軸にして,数理モ デル(確率モデル)を体系的に学ぶことを狙いにして いる.本書のレベルは中級以上と位置づけされている ものの,議論展開のアイデアはできるだけ記述されて おり,スムーズに読み進めることができるであろう.

本書の前半(第1章〜3章)では,基本的な待ち行 列モデルと関連する話題を述べ,後半(第4章〜6 章)では,本書のメインとも言える複数窓口待ち行列 を中心とした近似解法について丁寧に解説している.

より詳しい構成は以下のとおりである.

第1, 2章: 待ち行列理論の基礎,出生死滅型の待ち 行列について

第3, 4章: M/G/1待ち行列の基礎,M/G/s待ち行列 の近似解法

第5章: 拡散近似を用いた近似解法

第6章: ネットワークモデルおよびその近似解法 以下,各章の内容について簡単ではあるが紹介させ ていただく.

第1章では,本書で扱う待ち行列モデルの応用例に ついて簡潔にまとめている.そのため読者は具体的な 応用のイメージをもって本書を読み進めることができ るだろう.さらに,待ち行列理論において利用頻度の 高い(リトルの法則,率保存則,フィンチの公式な ど)についても一通り解説している.

第2章では,出生死滅過程で表現できる待ち行列モ デル(到着時間間隔やサービス時間が指数分布に従う モデル)の厳密解の導出方法について,複数窓口や待 ち客の途中退去があるモデルについて解説している.

第3章では,主にM/G/1待ち行列の厳密解を導出す るための基本テクニックについて解説している.さら に,M/M/1待ち行列との定性的な関係についても触 れ,それは,続く第4章における複数窓口モデル(M/

G/s待ち行列)の近似公式を導く際のアイデアとなっ ている.

第4章では,本書の主題である,複数窓口モデルお よびその近似解法について解説している.はじめに M/D/s待ち行列の厳密解を導出し,その数値計算の手 順に至るまで丁寧に解説している.その解自体が有用 であると同時に,M/M/s待ち行列の厳密解と併せて,

以降のM/G/s待ち行列の近似解法で利用されるためで

ある.その後, M/G/s待ち行列の近似解法として,代 表的な2種類の方法(定常状態確率の近似に基づく方 法,既知の厳密解・極限定理との整合性に基づく方 法)を紹介している.特に後者は,システム内挿近似 と呼ばれ,既知の厳密解との整合性だけでなく近似精 度が優れていることが多いことから,本章ではシステ ム内挿近似の解説に重点を置いている.さらに章の後 半では,定常状態確率(客数分布,待ち時間分布)の 近似公式およびその整合性について解説している.こ こで紹介されている数多くの近似公式およびその諸性 質から,近似公式の導出に尽力した筆者を含む待ち行 列研究者たちの歴史をうかがい知ることができる.本 書では,多くの漸近的性質を満たす近似式として,分 布依存近似を推奨している(本書の88ページ,式

(4.31)を参照).紙面の都合上,仕方ないとは思いな がら,近似公式を導くためのもう一歩踏み込んだ解説,

そして,近似公式の良し悪しおよびその傾向を比較す るための数値例がもう少しほしかったように思われる.

第5章では,待ち行列モデルの特性量について,2 通りの拡散近似(i.重負荷時に成り立つ漸近的な挙

(2)

2018年11月号 (63)725 動に関する極限定理,ⅱ.特性量の拡散過程による連

続近似)について詳しく解説している.(i)について,

GI/G/s待ち行列における3通り(システム目線,客目

線,その両方)の効率性に注目した重負荷時の極限定 理について紹介している.特に三つ目については,近 年,コールセンターのスタッフ配置問題で応用されて おり,数理と応用をつなぐ興味深い話題である.(ii)

について,拡散方程式の解を用いた,待ち行列モデル と拡散モデルの対応方法について解説している.特に,

GI/G/1待ち行列の拡散モデルを用いた客数分布の過

渡解や仮待ち時間分布の近似的な導出のアイデアにつ いて述べており,理論および実用の両面において興味 深い内容であると言えよう.本章の後半では,GI/G/s 待ち行列に対する拡散近似のアイデアを述べ,さらに,

モデルを制限したうえで,近似解としての精度を高め る方法についても述べている.

第6章では,開放型・閉鎖型の待ち行列ネットワー クとして,ジャクソンネットワークを紹介し,特に閉 鎖型の場合における定常状態確率の計算手順について 詳しく解説している.ここで,ジャクソンネットワー

クのような指数分布を仮定したモデルについては,多 くの現実問題との乖離を否めない.その問題を解決す るために本章では,拡散近似による待ち行列ネット ワークの近似解法に話題を移す.本章の後半では,指 数分布の仮定を一般化したジャクソンネットワークに ついて,拡散モデルを用いた近似解法を簡潔に述べて いる.さらに,待ち行列ネットワークにおける各ノー ドへの到着過程について,平均および変動係数のみで 特徴づけることにより,各ノードを独立な待ち行列と して2次モーメント近似するパラメトリック分解近似 についても解説している.

以上,紹介させていただいたとおり本書は,応用上 の魅力に反し,その厳密解を得ることが難しい待ち行 列モデルの近似解法およびそのアイデアについて丁寧 に解説している.そのため本書は,待ち行列分野にお ける数理と応用をつなぐ解説書であると言えよう.ぜ ひ一度,本書を手に取られてはいかがだろうか.

佐久間 大(防衛大学校)

参照

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