X 線と中性子線による非破壊内部構造観察
1. はじめに
健康診断や空港での荷物検査のよう な非破壊内部検査は,一般的に元素の 吸収量の差を画像のコントラストとし て再現(透過像)する.X 線は,重い 元素ほど X 線の吸収量が大きい.健 康診断での胸部撮影の場合では,骨や 血液の部分は白く,たくさんの空気が 含まれる肺内部は黒く映る.そのため,
生体のような主に水や骨でできている サンプルは得意であるが,工業製品の ような密度の高い元素が含まれるサン プルには向いていない.一方,中性子 は,一部の元素に対しては非常に大き な吸収や散乱があるが,鉄などの密度 の高い元素に対して比較的透過力が高 い.そのため,X 線では困難であった 工業製品の内部観察に有効である.
透過像だけでなく,サンプル 1 周分 の投影像から断層像を再構成する CT
(Computed Tomography) も 有 効 な 内部観察の一つである.本稿では,X 線(とくに高輝度 X 線)と中性子線 を用いた非破壊内部構造観察例を紹介 する.
2.X 線の利用
現在,臨床用・工業用などいろいろ な CT 撮影装置が販売されている.し かし,より微細構造を可視化するため には X 線の高輝度化が必要である.
そこで,大型放射光施設 SPring-8 を 利用して,生体(主にマウスなどの小 動物)を対象にした撮影を行っている.
近年は遺伝子治療や再生医療が注目 され,新薬の開発が盛んに行われてお り,薬剤効果を経時的に追跡するため には,サンプルを生きたまま撮影する ことは有効である.そこでわれわれは,
マウスやラットが生きたまま撮影可能 な in vivo-CT システムを開発し,さ らに動態観察を行うために空間 3 次元 に時間 1 次元を加えた 4 次元(4 D)
in vivo-CT システムに応用し,心臓や 気管支の撮影を試みた(図 1)(1).こ
こでは,照射 X 線の開閉シャッタ・
呼吸・心拍・露光を同期させることに よってモーションアーチファクトと放 射線線量を減らした.また 4D in vi- vo-CT では,撮影前に露光タイミング を設定し,そのタイミングを撮影ごと に変える prospective 法を採用してい る.この方法は,ほぼ同じ状態での投 影像から CT 再構成を行うため,モー ションアーチファクトの少ない画像が 期待できる反面,動態観察を行うには 何回もスキャンする必要があり時間が かかる.現在,臨床で用いられている 高速四次元スキャンが期待できる ret- rospective 法による 4D in vivo-CT シ ステムを検討している.
3. 中性子線の利用
X 線源に比べると,中性子源は放射 性同位体等を用いた装置以外はラボレ ベルで利用できる装置はほとんどな く,比較的大型装置に限られる.われ われのグループでは,将来の小型中性 子源の開発を目指し,現在,日本原子 力研究機構研究炉 JRR-3 や京都大学 原子炉実験所 KUR で予備的なイメー ジング実験を行っている.
現在,検出器や光学システム,画像 処理システムの検討を行っている.シ ンチレータと CCD カメラを組み合わ せた検出器を用いて,コンクリートや 樹脂と金属の複合体(ゼンマイ仕掛け のおもちゃ)の CT 撮影を行い,X 線 では撮影困難なサンプルに対する有用 性を確認した(図 2)(2).そのほかにも,
金属管内の流体挙動,とくに混相流の イメージングなどにも利用され,ボイ ド率分布の計測も行われている(3,4).
4. おわりに
X 線と中性子線は相補的な技術であ り,得られた画像は,コンピュータを 用いた力学シミュレーションによっ て,ものづくりやバイオエンジニアリ ングなどさまざまな分野に利用されて いる.今後,小型中性子線源の開発も
望まれるが,X 線と中性子線双方にお いて,光学装置や高感度検出器,撮影 システムなどの周辺技術の開発も進め る必要がある.
謝辞
本実験は,SPring-8 実験課題(Proposal Number:2008B1384)と京都大学原子炉 実験所共同利用研究 22P4-6 によって行わ れた.
(原稿受付 2011 年 2 月 14 日)
〔世良俊博 (独)理化学研究所(現:
大阪大学)〕
●文 献
( 1 )Sera, T., ほか,Physics in Medicine and Biology,53-16(2008),4285-4301.
( 2 )山形 豊・ほか,中性子イメージング研究 会,(2011-1).
( 3 )竹中信幸・ほか,RADIOISOTOPES, 56,
(2007),487-493.
( 4 )竹中信幸・ほか,RADIOISOTOPES, 56,
(2007),699-707.
図1 4D in vivo-CT の撮影例 ラット心臓の変形
マウス冠動脈(下向き矢印)と大動脈弁
(右向き矢印)
Aorta PA RA RCA
RV
500μm 500μm
CV
図 2 中性子ラジオグラフィー例 樹脂と金属の複合体
(ゼンマイ仕掛けのおもちゃ)
CT 画像から再構成した ボリュームレンダリング 透過像
日本機械学会誌 2011. 5 Vol. 114 No.1110 401
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