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電子書籍における可読性とマーカー機能の利用に関する研究

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Academic year: 2021

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電子書籍における可読性とマーカー機能の利用に関する研究

A Study of Legibility and Using a Marker Function on the Electric book

1w110061-0 鵜澤 和正 指導教員 長 幾朗 教授

UZAWA Kazumasa Prof. CHOH Ikuro

概要:本論文は、文章から任意の部分を選びフォントを変化させることによって読書体験に生じる変化を抽出し、電子書籍の マーカー機能としての有用性を述べたものである。読書体験とは、読書におけるユーザーエクスペリエンスのこととする。近 年、電子書籍の利用は単に読むだけからコンテンツの編集や共有という方向に移行しつつある。書き込みの際用いられる機能 にハイライトがあるが、可読性の観点からマーカー機能として唯一の最適な手法だとは言えない。フォントは使い方によって 文章を目立たせたり可読性や読書体験を向上させたりすることができ、電子書籍ではフォントがインタラクティブに変更でき るという特徴がある。以上から新たなマーカー機能としてフォントによる表現を提案した。実験では、フォントを操作した文 章を読んだ際の内容記憶テストと読書に関する感性評価を実施して、従来のハイライト機能の場合と比較し有用性を検証した。

キーワード:電子書籍、可読性、読書体験、フォント Keywords: e-books, legibility, reading experience, fonts

1. はじめに

近年、電子書籍はコンテンツの編集や共有という利用方 向へと移行している。それに伴い電子書籍の機能性も見直 され改良する必要がある。現状の電子書籍はただ単に紙の 書籍を電子化しただけであり、ハイライトという手法も紙 の書籍から変化していない。これまでにも電子書籍の可読 性に関する研究は多数あるが、マーカー機能の意義と関連 したものはない。そこで本研究では、可読性と読書体験の 観点からマーカー機能に求められる要件を整理し、それを 満たすフォントの表現を提案し有用性を評価した。

2. 電子書籍の利用

電子書籍は読書環境や目的に応じて使い分けが行われて いる。読まれているジャンルは、漫画、小説、ビジネス書 や実用書の順に上位を占めている。電子書籍は漫画との親 和性が高いと言われ、娯楽としての用途が多い印象がある。

しかし、2013 年のベストセラー作品の電子化率を見ると、

コミックの次にビジネス書が高いなど、学習目的での活用 も期待されていることが分かる。

日本の教育分野における電子化の先行事例では、塾や予 備校といった私教育分野でのデジタル教材が挙げられる。

近年ではモバイル端末を利用して塾外でも学習できる。

図1 シンタックスハイライト

http://nskw-style.com/2012/wordpress/be-a-wper.html

公教育分野でも政府が中心となって電子化は進められて おり、デジタル教科書と呼ばれる。動画や音声といった多 機能コンテンツや検索性の向上に期待が高まる一方で、学 習効果については賛否両論がある。

法人内の電子化では大規模な例として電子図書館が挙げ られる。これによって電子書籍の種類がより豊富になり、

私たちが触れる機会も増大すると考えられる。電子化のメ リットとして貸出し書籍に書き込みができることがあり、

前述のデジタル教科書と組み合わせて相乗効果を発揮する ことが期待できる。

東京大学付属図書館では、読者の間で書き込みやしおり の設定を共有したり外部の知識と連携したりすることで電 子書籍の新たな活用を見出す実証実験を行うと発表してい る。この事例から分かるように、電子書籍の利用はコンテ ンツの編集や共有の方向に進んでいると言える。

3. 電子書籍の特徴

電子書籍は電子データであることでメリットがある一方 で、時間や経時性についての内容理解が悪いというデメリ ットが指摘されている。これは紙の書籍に特有の物理的な 存在や感覚といったものがないことに起因すると一つに考 えられている。

電子書籍は実体が存在しないため、読書の際に電子端末 を必要とする。その画面表示方法は液晶か電子ペーパーか で2通りに分かれ、可読性や読書の質に大きく違いがある。

前者はカラー表示で彩度が高いのが特徴であり、全体の流 れを追うような読み方となる。後者の見え方は紙の質感と 同様で視認性は高く目の疲労が少ない。いずれの電子端末 も、画面の表示設定が選択可能であるという特徴をもつ。

紙の書籍にマーカーを引く行為を電子書籍で再現したの がハイライトという書き込み機能である。これを応用して ハイライトを一覧で表示する機能や、読者全体で共有する ソーシャルリーディングサービスなどが注目されている。

しかし、ハイライトの問題点として文字コントラストの 低下や色数の制限などがある。また、マーカーの意義を考

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えると、最終目的はマーカー部を理解・記憶することだと 言える。しかし、ハイライトにその効果はなく、マーカー 機能がハイライトという手法である必然性はない。

ここでシンタックスハイライトを考えると、これは文字 色とフォントを利用して文章の可読性を向上させるもので ある(前ページの図1参照)。よって、マーカー機能として フォントの表現も有効だと言える。しかし、視認性や内容 理解についてデメリットも指摘されているため、慎重に検 討が必要である。

4. 読書におけるフォント

快適な読書のために文章の可読性は重要であり複数の要 因から影響を受ける。フォントはその一つであり、また可 読性以外にも様々な変化を及ぼす。Daniel Oppenheimer らの研究では、読みにくいフォントを使うことで読書の記 憶量が向上すると判明しており、フォントを用いて読書の 質を向上させることができると考えられる。

電子書籍で使用するフォントは、媒体の違いによって可 読性や受ける印象に違いが生じる。kindle で読みやすいと されて好まれるフォントは青キン明朝であるが、これはIPA 明朝をより太く改良したものである。企業や研究機関でも 電子書籍のフォントは盛んに研究されている。例えば、電 子ペーパー上におけるゴシック系フォントの読みやすさに ついての研究では、文字の太さに依存するコントラスト感、

及び文字間隔に影響されることが判明している。しかし、

WIRED SCIENCEの記事では、現状の電子書籍のフォン

トは読みやすさばかりが追求され、内容は印象に残りにく いという指摘もある。将来的には用途に応じたフォントを インタラクティブに使用していくようになると予想される。

5. 新たなマーカー機能の提案と実験

まず、これまで得られたことからマーカー機能の満たす べき要件として以下の2つを挙げた。

(1)マーカー部の文字を目立たせること

(2)マーカー部の内容理解と記憶を補助すること

そして提案するのが、文章の一部のフォントを任意に変 えることでマーカーとしての役割を果たす機能である。

実験の目的は、ハイライトを使用した文章とフォントの 操作を施した文章とを電子端末で読んだ場合に、内容記憶 と読書の質に生じる差異を検証することである。通常フォ ントは青キン明朝、フォントの操作に際してはHGP 創英角 ゴシック UBを使用した。主なフォントとの比較を図2に示 す。

図2 フォントの比較

実験方法は以下の通りである。被験者 24 人(男 16、女8)

について男女の比とkindleの使用経験者数がそれぞれ等し くなるよう2グループに分け、一方にハイライトを使用し た文章を、他方にフォントを操作した文章を与えた。実験 の流れは、与えた文章を前半と後半に分けて制限時間内に 読んでもらい、毎回の読書後に文章に関して感性評価と内 容記憶テストを順に実施した。図3に実験の流れを示す。

内容記憶テストは1回15問の30点満点である。前半と 後半の点数の差で記憶力における変化を計測した。

感性評価では、SD法の質問紙を作成し、文章全体に対す る印象についての18項目を7段階で回答してもらった。

図3 実験の流れ

記憶テストの結果、ハイライトを使用した文章とフォン トを操作した文章とで内容記憶力に差はなかった。

一方の感性評価では大きく差が生じた。概ねフォントを 操作した文章の方が理想的な評価を得ている。前述のマー カー機能の要件2つを満たしており、さらに集中しやすい という心理的効果が顕著に表れていた。したがって、フォ ントを活用した電子書籍のマーカー機能は、感性評価 から有用性があると示唆された。

6. おわりに

これまで述べてきたように、電子書籍は学習目的での 利用も多く、その学習効果が期待されている。加えて、今 後はコンテンツの編集や共有を行っていくことで、そこか ら新たな考え方や知識を得られるようになる。その際に使 用されるのが書き込み機能であり、マーカー機能の改善は これらのメリットの増大を意味する。

参考文献

1) 野村総合研究所、『2015 年の電子書籍』、東洋経済新報社、

2011、p3

2) Daniel M Oppenheimer et al, “Fortune fravors the Bold (and the Italicized): Effects of disfluency on educational outcomes”, Cognition, 2011, vol.118, no.1, pp111-115.

3) 三枝 竜 ら、「電子書籍リーダー用の日本語フォントの読みやすさ の比較評価」、日本人間工学会、2012

4) Lehrer Jonah, “The Future Of Reading”, WIRED SCIENCE, 2010-09-08,http://www.wired.com/2010/09/the-future-of-readin g-2/, (accessed 2015-01-08)

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