平成 17 年度 日本自転車振興会補助事業 デジタルコンテンツに関する調査研究
3 D コンテンツに関する調査研究
報 告 書
平成18年3月
財団法人デジタルコンテンツ協会
この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。
はじめに
これから10年後の2015年頃には、「立体映像産業」は大きな産業に育 っていると予想される。何故ならば、高精細・高画素数のFlat Panel Display(FPD と略)、鮮明で忠実な色再現、デジタル通信・放送、ハイビジョン規格の地上波デ ジタルテレビ放送の普及、デジタル・パッケージメディア(次世代DVDまど)、
ブロードバンド通信(有線、無線)、などが更なる技術的発展・普及することは 明らかである。
その先のことを考えると、位置的に離れた場所で、また時間的にずれた時刻で、
その現場にいで、実物を直接見て、聞いて、雰囲気を感じているような、より近 い現場で見ているのに近い視聴環境(高臨場感もその一つである)を実現するこ とへのニーズが現実味を帯びてくる。
その一つが、立体映像表示である。このような将来展望より、財団法人 デジ タルコンテンツ協会(DCAj)では、立体映像のコンテンツに関連する調査を平 成17年4月にスタートさせた。
本報告書は、財団法人 デジタルコンテンツ協会(DCAj)が、日本自転車振興 会から平成17 年度事業として補助を受け「3D コンテンツに関する調査研究」
の成果をまとめたものである。
平成18年3月
本 田 捷 夫
目次
序章...1
1. 調査研究の背景と目的...1
2. 調査研究の実施体制...3
3. 調査研究の方針・内容...6
3.1 3Dコンテンツの応用分野...6
3.2 コンテンツ関連調査...7
3.3 技術関連調査...8
3.4 海外動向調査...9
第1章 コンテンツ関連調査... 11
1.1 立体コンテンツの歴史と現状... 11
1.1.1 エンターテインメント分野-新たな立体映画ブームの到来-... 11
1.1.2 アトラクション分野...34
1.1.3 アミューズメント分野...40
1.1.4 プロダクション...50
1.1.5 立体Web3D...60
1.1.6 シミュレーション分野...73
1.1.7 印刷...80
1.1.8 ステレオ写真...85
1.2 立体映像コンテンツの援助・育成に関する現状...92
1.2.1 クリエータの援助について...92
1.2.2 コンテストについて...95
1.2.3 クリエータの育成について...96
1.2.4 立体映像コンテンツ制作に対しての裾野を広げるには...97
1.2.5 3DコンソーシアムにおけるCreators Lounge について...99
第2章 技術関連調査...103
2.1 立体映像表示方式...103
2.1.1 メガネ式2眼立体表示方式...103
2.1.2 メガネなし2眼立体表示方式... 110
2.1.3 多眼情報呈示方式... 114
2.1.4 奥行き情報呈示方式... 118
2.1.5 波面情報呈示方式(ホログラフィ)...122
2.1.6 印刷立体表示...126
2.1.7 その他表示方式...129
2.2 立体映像ビデオ関連の規格...133
2.2.1 立体関連の映像信号...133
2.2.2 映像信号フォーマット...135
2.2.3 デジタルシネマ規格の概要...136
2.2.4 圧縮・多重方式...140
2.3 2眼式立体映像設備...147
2.3.1 2眼式立体映像撮影用のカメラ...147
2.3.2 映像再生設備...152
2.3.3 2眼式上映設備...155
2.4 立体CG生成用プラットホーム...156
2.4.1 ハードウェア...156
2.4.2 ソフトウェア...161
2.5 立体映像処理ソフト...170
2.5.1 2D/3D変換ソフト...170
2.5.2 立体映像編集ソフト...178
2.5.3 3Dビューアソフト...179
2.5.4 まとめ...180
2.6 立体映像を応用したゲーム、アミューズメント施設...182
2.6.1 ビデオゲーム...182
2.6.2 アミューズメント施設...189
2.7 立体映像の安全性と快適性...198
2.7.1 はじめに...198
2.7.2 立体映像の安全性とガイドライン...199
2.7.3 安全性と快適性の評価システム...200
2.7.4 おわりに...201
2.8 参考資料...204
2.8.1 立体映像用カメラ装置...204
2.8.2 立体映像表示(ディスプレー)装置...206
2.8.3 立体映像生成(CG)装置...210
第3章 海外動向調査...213
3.1 韓国における立体映像産業...213
3.1.1 韓国の立体映像関連の歴史...213
3.1.2 韓国の立体映像関連の主要技術...217
3.1.3 韓国の立体映像産業の関連機関...219
3.1.4 韓国の立体映像産業の動向と展望...222
3.1.5 イファ女子大学...224
3.1.6 クァンウン大学 次世代3Dディスプレイ研究センター... 230
3.1.7 ETRI(Electronics and Telecommunications Research Institute)... 236
3.1.8 KIST(Korea Institute of Science and Technology)... 241
3.2 その他、アジア地域におけるにおける立体映像産業...244
3.2.1 中国の立体映像産業の動向と展望...244
3.2.2 台湾における3Dコンテンツ関連の動向...254
3.3 北米におけるにおける立体映像産業...258
3.3.1 SIGGRAPH ...258
3.3.2 Stereoscopic Displays and Applications...259
3.4 ヨーロッパにおけるにおける立体映像産業...266
むすび...269
序章
1. 調査研究の背景と目的
これから数年後には、「立体映像産業」に育つ芽が出ると予想される。何故ならば、高精 細・高画素数のFlat Panel Display(FPDと略)、デジタル通信・放送、デジタル・パッケ ージメディア、ブロードバンド、などが更なる技術的発展・普及することは明らかである。
その先のことを考えると、位置的に離れた場所で and/or 時間的にずれた時刻で、その現 場で視聴するのにより近い視聴環境(高臨場感もその一つである)を実現することへのニ ーズが現実味を帯びてくる。その一つが、3D映像(立体映像)表示である。
このように、IT及びデジタル機器の著しい進歩によるデジタルコンテンツの多様化、
高度化の進展に伴い、格段にリアリティーの高い映像を表現する3Dコンテンツへの取り 組みが増大している。またIT関連のみならず、映画・放送業界、建築・建設業界、医学・
医療現場を始めとする多分野の産業界/学会において、3Dコンテンツの利活用の必要性が 高まりつつある。
本調査研究では、これらの分野での利活用が期待される3Dコンテンツに関して、技術 的な課題・解決方策、今後の適用方策等について調査研究し、有効な提案を行うことを目 的とする。
まず調査の範囲を明確にするために、この調査では「3D」を「立体(ディスプレイ)」
と解釈する。(いわゆる「3D-CG」の「3D」とは異なる。この場合の「3D」は、扱う(あ るいは想定する)対象が3次元空間で定義されることを意味する。) このことを、まず委 員全員の共通認識として明確にした。
但し、立体映像の実用化は大変である。それは、これまでの立体映像の歴史を振り返っ てみても明らかである。何故なら、
1:現在実用化されている立体映像表示方式は、現実の(三次元)空間を見るのとは異 なる不完全な立体映像表示方式であり、それでも、通常のFPDに比べて、かなり高価で あること。ほとんどのシーンの場合、それだけのお金をかけて得られるもの(情報や感動)
が少ない。
2:人が両眼で外界を見て、3次元空間の配置や距離(間隔)を認識・識別するのには、
両眼視差による立体視以外の要因も同時に認識・判断することによって奥行き距離の認識 をおこなっているからである。その他の要因としては、眼のピント調節、寄り眼の大きさ、
網膜上での像の大きさ、リニア・パースペクティブ、エアリアル・パースペクティブ、重 なり合い(あるいはオクルージョン)、陰影の付き方、フラクタル構造(地肌模様)の勾配、
などがある。
特殊な目的にはこのような制限があっても立体映像表示が有効である場合があり、その ような分野では少しずつ使われ始めている。その例としては、CADで設計した乗用車の モデルを実物大の立体像表示して形を決めるような場合である。しかしエンターテインメ ント分野での利活用は、必然性が少ないので、その普及は大変である。
それを承知の上で、応用範囲をアニメ・映画(のビデオを含む産業)、ゲーム、テレビな どのエンターテインメント分野に重点を置いて、まずハードを含めて現状を調査し、普及 させていく上での問題点を明確にすることを最終目的とする。
2. 調査研究の実施体制
財団法人デジタルコンテンツ協会内に当協会会員会社と外部有識者等からなる
「3Dコンテンツに関する調査研究委員会」を設置して調査研究を実施した。
また、一部の調査業務は、財団法人デジタルコンテンツ協会より外部機関(株式 会社精機通信社)に調査委託を行った。
日本自転車振興会
(補助)
財団法人 デジタルコンテンツ協会 3Dコンテンツに関する 調査研究委員会
調査委託
株式会社精機通信社 コンテンツ関連調査WG
技術関連調査WG
海外動向調査WG
(WG:ワーキンググループ)
3 D コンテンツに関する調査研究委員会名簿
(順不同・敬称略)
委員長 千葉大学 本 田 捷 夫
工学部 画像情報工学科 教授
委 員 インターサイエンス株式会社 泉 邦 昭 代表取締役
委 員 株式会社NHKテクニカルサービス 室 井 謙 三 事業開発センター
企画・開発 デジタル開発 部長
委 員 クリスティ・デジタル・システムズ 半 澤 衛 日本支社
支社長
委 員 三洋電機株式会社 安 東 孝 久 研究開発本部デジタルシステム研究所
ビジュアルインフォメーション研究部 主任研究員
委 員 シャープ株式会社 北 浦 竜 二 技術本部次世代商品開発センター
第四開発室 主事
委 員 株式会社スリーディー 岩 田 憲 治 営業本部
副本部長
委 員 セイコーエプソン株式会社 曽 根 原 富 雄 研究開発本部
映像情報技術開発室 上席主任研究員
委 員 株式会社ソリッドレイ研究所 田 邉 亨 デザイン部
部長
委 員 東京工業大学 中 嶋 正 之 大学院 情報理工学研究科
教授
委 員 凸版印刷株式会社 岩 田 藤 郎 総合研究所
光学デバイス研究所 部長
委 員 株式会社ナムコ 馬 場 哲 治 事業開発グループ
VT研究チームリーダー
委 員 日本ビクター株式会社 中 村 伸 司 技術開発本部
コア技術開発センターコアユニット 主幹技師
委 員 松下電工株式会社 澤 田 一 哉 新規商品創出技術開発部 照明開発部
応用システム開発グループ グループ長・主幹研究員
委 員 早稲田大学 河 合 隆 史 大学院 国際情報通信研究科
助教授
事務局 財団法人デジタルコンテンツ協会
常務理事、 (兼)事業開発本部長 田 中 誠 一 事業開発本部 先導的事業推進部長 大 橋 淑 郎 事業開発本部 先導的事業推進部 研究主幹 土 屋 光 久
協力メンバー
映像ジャーナリスト 大 口 孝 之 日中CG文化交流協会 大 島 景 紘 ステレオクラブ東京 大 谷 和 利 早稲田大学 大学院 金 相 賢 凸版印刷株式会社 小 室 哲 郎 株式会社セガ 武 田 博 直 NPO Webリッチメディアフォーラム 深 野 暁 雄
3. 調査研究の方針・内容
3.1 3D コンテンツの応用分野
本調査研究のテーマである「3D」に関する認識を共有化させるため、現状における応 用例を「産業マップ」として概念的に捉える試みを行った。
応用事例をいくつかのカテゴリーに分類する場合、基準となる軸を設定することで理解 を助ける場合が多く、ここでは、次に挙げる三要素を基準軸とすることとした。
(1) 産業用途-民生用途
(2) インタラクティブ-ノンインタラクティブ
(3) 制作現場-活用現場
この三軸を基準に、現時点で応用、試行、または構想されている3Dの応用分野を概念 的に描くと以下の図の通りとなる。
(本田 捷夫)
3Dコンテンツの応用分野
エンターテイン メント・ゲーム
アーケード
パチンコ・スロット
産業 用途 民生
用途
インタラクティブ
ノン・インタラクティブ 制作現場
活用現場
テーマパーク
ホームビデオ
モバイルゲー
ム 教育
訓練
訓練シミュ レータ
3Dムービー
CAD シミュレー
ション CAD
デザイン シミュレー ション
景観 シミュレー
ション
手術 トレー ニング 診断
設計 製造
医療 車 ・ 建築
TV・ビデオ
TVゲーム
印刷
雑誌 3D
シアター
サイエンティフィック ビジュアライゼーション 広告
映画 カタログ
マニュアル
Eラーニング バーチャル
リアリティ
デザイン シミュレー ション
3.2 コンテンツ関連調査
(1) 調査方針と内容
調査メンバーに本田委員長を加え、今年度の立体コンテンツに関する調査の方針と具体 的な調査内容の検討を行った。そのときの議論でしばしば出された疑問は、「なぜ立体は(ス テレオ映画などの例)毎回ブームで終わってしまったのか? 近年の立体ディスプレイ開 発、3D ディジタルシネマは今までと同じくブームで終わってしまうのだろうか? コン テンツのドライビングフォースが足りなかったからではないか?」であった。
その議論から、2005年度の調査方針を、
・ 「大きな歴史的な流れをみるために、過去から現在までの立体コンテンツならびに育 成について実態調査を行う。」に集約した。
マーケットの調査、これからのコンテンツの方向性、また新しい伝送メディアとの関係 などは、2005年度の実態調査の結果を受けて次年度以降の課題とすることにした。
次に方針を受けて、調査内容の議論を行い下記をあげることした。
調査内容
1.持続できなかった理由はなにか →立体映画の歴史と現状 2.現状の立体コンテンツとしてはどんなものがあるのか →現状を調べ上げる 3.その制作はどうなっているのか →実写、CGの現状
4.配信などの現状 →Web3D
5.制作者の育成はどうか →立体映像コンテンツの援助・育成に関する現状調査
(2) 調査範囲
具体的な調査範囲は、応用先の観点から下記のように分け、委員もしくは外部の第一人 者に依頼を行い実態を調査した。
エンターテインメント 映画、ビデオ、TV、CF(Commercial Film) アミューズメント ゲーム、パチンコ
アトラクション テーマパーク シミュレーション 景観、建築、CAD 教育、医用、印刷、写真
なお、アーカイブに関するコンテンツは、シミュレーションに含み、周回型の2Dアー カイブコンテンツは調査対象から除外した。2D-3D 変換を利用したコンテンツは、変換 技術の側面が強いことから2章で取り扱うこととした。
立体映像に関する内容は相互に関連が深く、各調査範囲においてオーバーラップを許容 した。
調査メンバー:馬場(ナムコ)、河合(早大)、田邉(ソリッドレイ)、澤田(松下電工)、
曽根原(セイコーエプソン)
(曽根原富雄)
3.3 技術関連調査
「技術よりの調査ワークグループ(第二章 WG)」のまとめ役を室井が担当した。第二章 では 3D コンテンツを制作(撮影)、編集、記憶、配給、上映について「方式」、「規格」、「ハ ードウェア」、「ソフトウェア」、「応用」を現時点でまとめてみることを目的とした。
立体視の「方式」では、研究中のものも含めてなるべく多くの方式を網羅したが、他の 項目は、実用されているものについてまとめたため、実用化が進んでいる「メガネ式2眼 立体表示方式の機器」が、またその構成品としては、近頃急速に種類が増え低廉化が進ん でいる「ハイビジョン応用の機器」の紹介が多くなった。現状を反映した報告になってい る。
調査メンバー: 半澤(クリスティ)、岩田(凸版)、安東(三洋電機)、岩田(スリーディ ー)、泉(インターサイエンス)、馬場(ナムコ)、河合(早大)、室井(NHK テクニカルサ ービス)
(室井 謙三)
3.4 海外動向調査
3Dコンテンツに関する調査委員会では、海外動向調査ワークグループ(WG)が設置さ れ、当該WGのまとめ役を河合が担当した。平成17年度は韓国における立体映像産業の 動向に関する現地調査を中心に、その他、アジアやアメリカ、ヨーロッパの動向について 検討を行った。
韓国では、70年代の終わりから80年代にかけて3D映画の製作が開始され、90年代半 ばにはベンチャーを中心に3D関連企業が登場、その後、IT産業の急成長とともに3D関 連技術開発が活性化してきた。2001年はITバブルの崩壊に伴う立体映像産業の低迷が見 られたが、2002年のワールドカップの立体映像中継をはじめとして、2003年には3Dデ ィスプレイ研究センターの設立、2005 年には 3 次元映像産業協議会が発足し、産業化へ 向けた取り組みが活性化し始めている。その背景としては、IT839政策をはじめとした、
韓国政府によるIT産業の次世代戦略などがあげられる。また、韓国での3D関連コア技術 は、3D映像生成技術、3D映像編集技術、3Dディスプレイ技術、3D視覚技術(ヒューマ ンファクタ)に分類され、それらのマッチングによる応用技術の開発も重要視されている。
さて、海外動向調査WGは、2005年11月30日から12月2日かけて、韓国での3D関 連の視察を行った。訪問先は、以下の4機関であった。
●イファ女子大学 ITRC CG/仮想現実研究センター
1999年、視覚的/認知的な要素を反映したCGおよびバーチャルリアリティ(VR)の 戦略技術開発のために設立された研究機関である(リーダーは、キム ミョンヒ教授)。
ITRC(Information Technology Research Center)とは、上記IT839政策実現のための、
大学を活用した人材育成機関であり、競争的な公的研究費による支援が行われている。
●韓国電子通信研究院(ETRI:Electronics and Telecommunications Research Institute)
1985年、電子・情報通信分野における新たな知識や技術の創造・開発・普及と人材の養 成を行い、経済・社会発展に寄与することを目的として設立された、科学技術部傘下の国 策研究所である。3D に関連する部門としては、デジタル放送研究団とデジタルコンテン ツ研究団があり、今回の現地調査では後者を訪問させていただいた。
●韓国科学技術研究院(KIST:Korea Institute of Science and Technology)
1966年、国家の科学技術を導く創造的源泉技術の開発と成果の普及のために、韓国で最
初に設立された国務総理傘下の国策研究所である。今回の現地調査では、3D に関連する 部門として、システム研究部の映像メディア研究センターを訪問させていただいた。
●クァンウン大学 ITRC 3Dディスプレイ研究センター
2003年、次世代3Dディスプレイ研究開発のために設立された研究機関である(リーダ ーは、キム ウンス教授)。偏光方式やフローティング方式を用いた、3D プロジェクショ ン ディスプレイの開発と実用化等が行われている。韓国内の大学では、3D関連研究のメ ッカといえるかもしれない。
その他のアジアとしては、中国および台湾の産業・学術分野の動向について、それぞれ まとめていただいた。また、アメリカではCG関連の国際会議であるSIGGRAPHと、3D に特化した国際会議であるStereoscopic Display and Applicationsを、それぞれ取り上げ ていただいた。そしてヨーロッパでは、ATTESTプロジェクトについて紹介した。
調査メンバー: 曽根原(セイコーエプソン)、馬場(ナムコ)、中嶋(東京工業大学)、
河合(早大)
(河合 隆史)
第 1 章 コンテンツ関連調査
1.1 立体コンテンツの歴史と現状
1.1.1 エンターテインメント分野-新たな立体映画ブームの到来-
(1) なぜ今、立体映画なのか
(a) ハリウッドが立体 化を急ぐ背景
2005 年春にラスヴェ ガスで開催された、映画 興行関係者向けのコンベ ンションSHOW WEST において、ジョージ・ル ーカス、ロバート・ゼメキス、ジェームズ・キャメロン、ロバート・ロドリゲス、ランダ ル・クレイザーらの映画監督たちが、デジタル立体上映に関するシンポジウム(上写真)を 行った。ここで話し合われた内容は、「観客の劇場離れをくい止めるため、新たな映写の手 法の開発に取り組む必要がある。そのためのアイデアの一つが立体映像だ」という主張で あった。
このような発言が行われた背景には、深刻なハリウッドの興行成績不振がある。実際に 2002年に92億7100万ドルを記録したものの、2005年は80億ドル代まで下がってしま った。この原因としては、次のような問題が考えられている。
製作費の高騰と企画の貧困化
俳優のギャラや VFXの経費などの高騰で、製作費が軽く1億ドルを超えるようにな ってしまい、投資額の回収が困難になってしまった。そのため出資を行う側は、収益 の予測が簡単で安全な企画ばかりを要求するようになる。結果としてリメイクやヒッ
ト作の続編、コミック原作モノなどといった、同じような作品ばかりが増加する傾向 が顕著となった。このことに観客側も飽き始めており、ハリウッド映画がつまらない という印象を持たれるようになった。
ガソリン価格や劇場入場料の上昇
米国の地方都市では、郊外のシネマコンプレックスに家族が車で出かけて映画を見る というパターンが多いが、ガソリン価格が高騰してあまり車に乗らなくなってしまっ た。また映画館の入場料金も、ここ数年で大幅に上昇している。結果として、劇場に 足を運ぶ人が減少してしまった。
ホームシアターの充実
劇場公開からさほど日を置かずに、DVDで新作映画が家庭で楽しめるようになった。
また特に米国では、大型リアプロジェクションテレビやサラウンドシステムなど、豪 華なホームシアターが普及している。そのためわざわざ映画館に行かなくとも、迫力 ある映像が家に居ながら体験できるようになった。
アジア映画の充実
アジアでは韓国・中国などの映画に人気が集まり、ハリウッド作品が映画の中心とい う概念が揺らぎ始めた。
(b) アメリカ映画界トップの意見
実際に、アメリカの映画関係者のトップに、今回の立体映画ブームをどう捉えているか、
直接尋ねてみた。
リック・マッカラム氏
: 『スター・ウォーズ』シリーズのプロデューサー「我々は将来、観客が劇場に来なくなるのではと懸念しているのです。
なぜなら、今の劇場の映写や音響の環境は、あまりにも粗悪で、観客 を軽視し過ぎています。我々がどんなに苦労して映画を制作しても、
劇場で忠実に映写されなければ意味がありません。しかし現状は、理 想とはほど遠いものです。今は DVD や大型ディスプレイが普及しまし たから、観客が劇場まで来なくなっても当たり前なのです。だから客
離れをくい止めるためにも、本当に面白くてユニークな映写の手法を考えていかねばなり ません。そのためのアイデアの 1 つが立体映像なのです」
ジェフリー・カッツェンバーグ氏
: ドリームワークス・アニメーション CEO「ホームシアターの画面も大きくなり、HD DVD やブルーレイも出て くる中で、やはり劇場も進歩していかなくてはいけない。そのため の答えが立体映像だと思うのです。やがては全ての映画が立体にな る可能性もあります。ですからドリームワークスでも、この分野の リサーチを行っています。そして CG アニメーションは、この動きに おいて映画界をリードしていくと思ってます」
ジョージ・ルーカス氏
: 『スター・ウォーズ』シリーズの監督「立体映像は、デジタルプロジェクターを映画館に売り付けるため の、勧誘の手口です。『あなたの劇場もデジタルプロジェクターを導 入すれば、こういう素敵な(3D)作品が上映出来てお得だよ』という、
プロモーションの手法ですね」
なおルーカスフィルム社は、「立体デジタルプロジェクターを導入 した米国の劇場が、2007 年には 2500~3000 館に達している」と試 算しており、充分な利益が得られると予測している。
ジェームズ・キャメロン氏
: 映画監督・プロデューサーまた他の映画ジャーナリストのインタビューで、キャメロンは 昨年こういう発言もしている。「まだ、世界で 3D 映画を公開でき る劇場が少なすぎます。3D 映写機を導入すれば、劇場主は毎年減 りつつある観客動員を、元に戻すことができるのに、なかなか理 解してくれないんですよ」
(写真は『ジェームズ・キャメロンのタイタニックの秘密』より)
(2) 立体映画の歴史 ~ かつての立体映画ブーム
今回と同じような状況は、過去にも数回起きている。これまでの立体映像の流行を振り 返ってみよう。
(a)1922 年~1925 年 アナグリフ立体映画の流行
最初の立体長編映画であるナット・デヴェリック監督の『The Power of Love』(1922年)を始め、ウィリアム・ヴァン・ドーレン・ケリーの
『Plasticon』(1922年)や、ヤコブ・F・レーベンタールの『Plastigrams』
(1922年, 図-1.1.1)などのアナグリフ短編が、米国で数多く公開された。
また同じ 1922 年には、ローレンス・ハモンドが、モーターで回転 するシャッターを用いた時間差方式(現在ではアクティブ・ステレオと 呼ばれる)による立体映像システム“Teleview”を発明し、1 時間 35 分の長編『Radio-Mania』(1923年)を、ニューヨークで興行している
(図-1.1.1-2)。
この時期、フランスやアメリカの映 画業界では、大型フィルムやマルチス クリーン、アナモフィックレンズなど によるワイドスクリーンの開発も盛ん だった。しかし同時に、サウンドの開 発も盛んに進められており、『ジャズ・
シンガー』(1927年)以降は世界中が一斉にトーキー化へと進んでいく。そのため立体映像 やワイドスクリーンは、しばらく忘れられた存在になってしまった。
(b)1937 年~ 1940 年 偏光フィルター方式の誕生
レーベンタールと組んでいたジョン・ノーリングは、アナグリ フによる短編集『Audioscopiks』(1936 年, 図-1.1.1-3)や『New Audioscopiks』(1938年)を作っていた。
やがて 1937 年にポラロイド社が設立され、偏光フィルターの 市販が始まると、すぐにこれを使った立体映像(現在はパッシブ・
ステレオと呼ばれる)が作られる。ノーリングは、ニューヨーク世 図-1.1.1-1
図-1.1.1-2
図1.1.1-3
界博(1939-40年)のクライスラー自動車館(図-1.1.1-4左)に、『In Tune with Tomorrow』(図 -1.1.1-4中央, 図-1.1.1-4右は使用されたカメラ)という10分間の偏光式の作品を提供した。
彼はさらに、ゴールデンゲート国際博覧会(1940年)のペンシルベニア鉄道パビリオンにも、
『Pennsylvania Railroad's Magic Movies』と題された短編を提供している。
またドイツでも、1937年に世界初のカラー立体短編映画『Zum Greifen Nah(You Can Nearly Touch It)』が作られた。だが1939年以降、激化する第二次世界大戦によって、立 体映画の存在は再び忘れられる。
(c)1940 年代 レンチキュラー式裸眼立体視の登場(ソ連)
1940年に、ソ連のS.P.イワノフが、眼鏡を必要としないレンチキュラー(ラジアル・ラ スター・スクリーン)方式の立体上映システムを開発した。戦後になり、長編の『Machine 22-12』(1945年)や『Robinson Crusoe』(1946年, 図-1.1.1-5)が制作され、1947年に戦 前の立体映画劇場の後継として設立された、ウォストキノ劇場で上映された。
その後、このウォストキノ劇場用の作品は、
『Precious Gift』(1948年)、『In the Steppes』
(1949年)、『Lalim』(1949年)、『May Night』(1953 年)、『Aleko』(1954 年)、『Pal』(1958 年)と作ら れ続けたが、全てソ連内部での公開で、世界に広 まることはなかった(1970 年の日本万国博覧会・
ソ連館での上映という例外はある)。これは観客が 鑑賞する位置がシビアに決められ、僅かでもズレ ると立体視が出来なくなるという、システムの脆弱さによるものだった。
図-1.1.1-4
図-1.1.1-5
(d)1951 年~ 1953 年 英国の立体映画
1951 年に第二次大戦からの復興を祝うために、ロンドンで開催された英国祭(Festival
of Britain)では、レイモンドとナイジェルのスポティスウッド兄弟が未来の映画館
“Telekinema”を企画した。この劇場は、偏光式の立体映写 システムや、立体音響装置、テレビ画像のプロジェクターな ども備えており、半年間の会期中に5本の短編立体映画が上 映された(図-1.1.1-6は撮影風景)。
Telekinema は、英国祭終了後も残されることが決まり、
国立映画劇場として1952年10月に再オープンした。そこで、
新たな立体映画のコンテンツを提供する必要があったため、
1952年に5本、1953年に12本の短編が作られた。
(e)1952 年~ 1954 年 第 1 次立体映画ブーム
アメリカでは、1950年ごろから急速に家庭にテレビが 普及し始めた。実際に米国内で販売されたテレビセット は、1946年が1万台だったのに対し、1953年には2123 万4000台にも達している。そして、FCC(連邦通信委員 会)がカラー放送の標準方式をNTSCに決定し、1954年 から放送開始した。
それに反比例するように、映画館への入場者は減って いき、1946年に1万8719館あった米国の劇場(ドライブ インシアターを除く)が、1953年には 1万4174館まで減少した。ハリウッドのスタジオ
はこの状況に危機感を感じ、対 抗策の1つとして立体映画が選 ばれた。
その先駆けとなったのは、
1951 年に設立されたナチュラ ル・ビジョン社である。同社の 立体映画カメラ(図-1.1.1-7)に、
ラジオ製作者のアーチ・オボラ ーが注目し、自ら製作・監督・
図-1.1.1-6
図-1.1.1-7
図-1.1.1-8
脚本を務めた映画『ブワナの悪魔』(1952年, 図-1.1.1-8)を公開した。この作品をきっかけ として、翌1953年には異常なほどの立体映画ブームが全米に巻き起る。この1953年だけ でも、世界中で長編30本、短編44本もの立体映画が作られた。そのジャンルは、西部劇、
ホラー、サスペンス、SF、ミュージカル、コメディ、ドキュメンタリー、アニメーション など多岐に渡る。この影響は米国以外にも広がり、ドイツ、ハンガリー、オランダ、香港、
日本などでも短編制作が試みられた。
だが立体映画ブームは急速に冷めていき、1953年の末には早くも終焉が見え始めていた。
1954年にも、長編17本、短編3本が作られているが、アルフレッド・ヒッチコック(Alfred Hitchcock)監督の「ダイヤルMを廻せ!」(1954年)のように、立体で制作されながらも、
普通に平面映画として公開された作品も少なくない。
あまりにも早い幕引きであるが、その原因として考えられるのは
・カメラに向って棒を突き出す、石を投げつけるといった、立体感を強調する演出が陳腐。
・作品の内容上、立体効果に必要性がなく、むしろ作品鑑賞の邪魔になる。
・立体効果に頼って、ストーリーがおろそかになっている作品が少なくなかった。
・長時間の立体視が疲労をもたらす。
・眼鏡が煩わしい。
・ほとんどの作品が B 級以下の水準で、名作と言われるような映画が作られなかった。
などといったことである。
だが、当時の映画雑誌や劇場プログラムを読むと、も う1つの大きな理由があったことに気付かされる。それ は、1920年代に一度各映画会社が取り組んだものの、定 着することが無かったワイドスクリーンである。しかし 立体映画に注目が集まったのと同じ理由で、1952年に復 活した。当時の興行界はワイドスクリーンを、「眼鏡無し立 体映画」とか「パノラマ式立体映画」などと呼んで、「ステ レオ式立体映画(本当の3D映像)」と比較していた。ワイドスクリーンと3Dの開発に二重 投資を強いられる映画会社は、どちらか一方を選択する必要に迫られたのである。結果と して立体映画が競争に負けてしまった。
(f)1961 年~ 1977 年 立体ポルノ映画ブーム
一度は忘れられた立体映画は、ヌードやセックスを扱った映画として静かに復活を始め 図-1.1.1-9
る。例えば英国の『パラダイス』(1961年)や、西ドイツと米国の合作『The Playgirls and the Bellboy』(1962年)などがある。後者の監督は学生時代のフランシス・フォード・コッ ポラである。また国内でも試みられており、日本シネマという会社が『猟奇 色情夜話』
(1968年)という成人映画を作っている。
立体映画とポルノの関係を決定付けたのは、アル・シリマン・Jr.が監督・脚本を務めた、
1969 年の『淫魔』(図-1.1.1-10)である。10 万ドルという、超低予算で作られた作品だっ たが、サンフランシスコとロサンゼルスで上映され、2600 万ドル(当時の邦貨で 90 億円)という信じられない興行成績 を記録した。そしてその流行は長く続き、1977 年までに(確 認出来ただけでも)21 本の立体ポルノが作られ、またこれら が題名を変えたり、編集を直して、再公開を繰り返していた。
この御蔭で立体映画は絶滅を免れ、技術開発が継続出来たの であるから、ポルノといっても馬鹿にしたものではない。
(g)1977 年~ 1978 年 立体カンフー映画ブーム
ブルース・リーの影響でカンフーがブームになった時には、
いくつかの立体カンフー映画も作られている。例えば、台湾の
『空飛ぶ十字剣』(1977 年, 図-1.1.1-11)や、香港の『ジャッキ ー・チェンの燃えよ! 飛龍神拳/怒りのプロジェクト・カンフー』
(1978年)などで、米国でもいくつか作られた。
また香港の武侠映画でブームが再燃した 80 年代にも、日中 合作で『侠女十三妹』(1986年)という作品が公開されている。
(h)1980 年~1984 年 第 2 次立体映画ブーム
1980年代に入ると、米国の家庭にケーブルテレビが普及し始める。そして、一気に増え
た放送時間とチャンネルを埋めるために、古い映画がどんどん放送されていった。1980 年にロサンゼルスのSelecTVというケーブル局が、『雨に濡れた欲情』(1953年)という立 体映画を、視聴者に赤青眼鏡を配布してアナグリフで放送した。するとこれが話題になり、
次々と古い立体映画が放送された。
こういった流行に映画業界は新たな可能性を感じ、新作の立体映画を立て続けに制作し 図-1.1.1-11
図-1.1.1-10
ていった。まず先行したのは、フェルディナンド・バルディ監督 で、スペイン=アメリカ=イタリア合作として『荒野の復讐』(1981 年, 図-1.1.1-12)や、『秘宝の王冠』(1982 年)という作品を発表し た。これに続いて1982年には『13日の金曜日Part3』など長編 5本、1983年には『ジョーズ3D』『悪魔の棲む家Part3』など長 編7本、1984年にも『エマニュエル』など長編5本が作られた。
しかしどれも、気の抜けた“Part3”だったり、中身の薄い低予 算映画ばかりで、この第2次ブームも終焉を迎えた。
(i)1984 年~ 1985 年 インドの立体映画ブーム
インドでは1984年に、『Chhota Chetan』(図-1.1.1-13)という 長編立体映画が作られた。そしてこれをきっかけにブームが起こ り、翌1985年には7本の長編作品が公開されている。
(j)1986 年~1989 年 液晶シャッター方式の流行
1986 年 9 月に、日本ビクター、シャープ、
松下電器の3社から、液晶シャッター眼鏡を採 用した、アクティブ・ステレオ式の立体 VHD ビデオディスクプレーヤー(図-1.1.1-14)が発売 される。しかしVHDそのものが、規格として 短命だったため、1988年には消滅した。
また同様の液晶シャッター眼鏡は、ゲームマシンに応用され、ナムコ、アイレム、タイ トーなどがアーケードゲーム機として発売した。また家庭用でも、1987年に任天堂とセガ が共に3Dシステムを発売している。だがどれも短命に終わった。失敗の最大の原因はフ リッカーにあるが、周波数を上げてフリッカーレスにした商品も普及しなかった。
現在も液晶シャッター眼鏡自体の販売は続いており、これに対応した DVD も米国では 盛んに発売されているが、インターレース式ブラウン管モニターが不可欠である。走査線
図-1.1.1-12
図-1.1.1-13
図-1.1.14
補間でプログレッシブ化したモニターや、液晶、プラズマのディスプレイでは立体視はで きない。
(k)1989 年~現在 立体ハイビジョン
NHKテクニカルサービスが開発した立体ハイビジョン・システムが、90年代に日本で 盛んだった地方博覧会や、博物館、美術館、図書館などの公共施設に多数導入された。こ れらは、MUSE方式のレーザーディスクをソースとして用いていたため、今では古く感じ られる。現在はハードディスクが用いられることが多いが、運営のしやすさを考えると、
HD DVDやブルーレイ・ディスクの登場が待たれる。
(l)1978 年~現在 テーマパークのアトラクションとしての立体映画
今でこそ立体映像は、博覧会・科学館・テーマパーク などのアトラクションとして定着しているが、その発想 は古くからあるものではない。そのきっかけを作ったの は、マリンランド・オブ・フロリダという海洋テーマパ ークで、1978年に公開された『Sea Dream』(図-1.1.1-15) という作品である。
この『Sea Dream』の成功によって、立体映画はキワモ ノから脱することができ、監督したマレー・ラーナーは、ディズニーからエプコットセン ターのアトラクション『マジック・ジャーニー』(1982年)の映像制作の依頼を受ける。
ディズニーは 1986 年にも、主演マイケル・ジャクソン、製作ジョージ・ルーカス、監 督フランシス・フォード・コッポラという豪華な顔ぶ れを揃え、『キャプテンEO』(図-1.1.1-16)と題した立 体映像アトラクションをオープンさせた。そしてこれ 以降、『Jim Hensons Muppet Vision 3D』(1991年)、
『ミクロアドベンチャー!』(1995年)、『Its Tough to be a Bug!』(1998年)、『マジックランプシアター』(2001 年)、『Mickey's PhilharMagic』(2003 年)といった施設 を作り続けている。
ディズニーに対抗するユニバーサル・スタジオも、『ターミネーター2: 3D』(1996年, 図 -1.1.1-17)、『アメージング・アドベンチャー・オブ・スパイダーマン・ザ・ライド』(1999 年)、『シュレック 4-D アドベンチャー』(2003 年)、『セサミストリート 4-D ムービーマ
図-1.1.1-15
図-1.1.1-16
ジック』(2003年)などのアトラクションをオープンさせ、いずれも大成功を収めた。
また純日本産テーマパークでも、東京多摩のサンリオ・ピューロランドと、大分ハーモ ニーランドの『夢のタイムマシン』(1990年)や、長崎ハウステンボスのミステリアスエッ シャー館で上映されている『エッシャー・永遠の滝伝説』(1992 年)などが成功している。
短期的な流行に振り回される劇映画の世界と違い、テーマパークは立体映像にとって安住 の地と言えるかもしれない。
(m)1982 年~1990 年代 博覧会の流行(日)
日本では1980~1990年代にかけて、国際博覧会や地 方博覧会が立て続けに開催された。これは、各自治体が 市政百周年という節目の時期を迎えていたことと、バブ ル経済が重なり、世界でも類を見ない状態が生まれたた めである。
先駆けとなったのは、1983年に上越新幹線の開通を記 念して開催された『'83 新潟博覧会』の『あすの新潟館』
で上映された『はばたきの時 ニイガタ』(映像制作は電通/電通映画社)である。そして流行 を決定付けたのは、筑波で1985年に開催された科学万博であった。『日立館インターフェ イス・シアター』、『住友館 3D-ファンタジアム』、『鉄鋼館』、ソニー『ジャンボトロン』、
『松下館』などに立体映像が導入されている。そして最も注目を集めたのが、富士通パビ リオンである。ここで、世界で初めて公開されたOMNIMAX 3D方式による『ザ・ユニバ ース』(図-1.1.1-18)である。そしてこの成功以降、博覧会には必ずと言ってよいほど、立 体映像を上映するパビリオンが設けられるようになった。
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図-1.1.1-18
(n)1990 年~現在 大型映像
バンクーバーで 1986 年に開催された交通博では、カナダプレースにおいて IMAX-3D 方式による作品『Transitions』(図-1.1.1-19)が上映された。このシステムを開発したIMAX 社は、世界各地にIMAX-3D方式の常設館を設け、同時にオリジ ナルの作品を増やしていった。
やがて、シネマコンプレックスの内部にIMAX-3Dの上映館が 導入されるケースが増え始め、ソニー・ピクチャーズ・クラシッ クスやウォルト・ディズニー・ピクチャーズといった劇映画のス タジオもこの分野に参入を開始する。現在、最も盛んに取り組ん でいるのがワーナー・ブラザーズ映画だ。
また、ベルギーのエヌウェーブ・ピクチャーズのように、この 分野を専門とするプロダクションも現れ、精力的に作品を提供して きた。
(o)2000 年代 3D デジタル撮影
IMAX-3Dによる立体撮影は、巨大な撮影システム(初期のころ と比べるとかなり小型にはなったが)を用い、膨大にフィルムを消 費するといったことから、機動性、経済性などに問題を抱えてい た。これを克服するために、ジェームズ・キャメロン監督はソニ ーに特別オーダーを出して、HDC-F950をベースにした、立体ハ イビジョン撮影用の“リアリティカメラシステム”を開発した。
キャメロンはこのシステムを用いて、『ジェームズ・キャメロンの タイタニックの秘密』(2002年, 図-1.1.1-20)や『エイリアン・オ ブ・ザ・ディープ』(2005 年)といった、IMAX-3D の深海ドキュ メンタリーを制作した。
またロバート・ロドリゲス監督は、キャメロンに協力を求め、
『スパイキッズ』シリーズの第3弾である『スパイキッズ3-D: ゲ ームオーバー』(2003 年)や、『シャークボーイ&マグマガール』
(2005年, 図-1.1.1-21)を制作した。この2作は、一般の映画館で 公開されたため、35mmフィルムのアナグリフ方式で上映されて いる。
図-1.1.1-19
図-1.1.1-20
(3) 『チキン・リトル』
(a) 立体デジタルシネマ第 1 弾
2005年12月23日から公開された、ディズニー【1】
単独制作の初のフル3DCG長編アニメーション『チ キン・リトル』は、通常の35mmフィルム版以外に、
立体映像のデジタルシネマ・バージョンも上映され ている(図-1.1.1-22、および資料参照)。
『チキン・リトル』の立体デジタル上映館は、米国 78館、カナダ2館、メキシコ4館(北米合計84館、
88スクリーン)、日本2館(千葉・舞浜のAMCイクスピアリ16【2】、ワーナー・マイカル・
シネマズ多摩センター【3】)である。ディズニーが、“Disney Digital 3-D”と名付けたこの 上映システムは、CP2000 プロジェクター(図-1.1.1-23 左)を販売するクリスティ【4】と、
劇場運営用のソフトウェアを提供する AccessIT【5】、Dolby Digital Cinema Server(図 -1.1.1-23右)を提供するドルビー【6】、そして立体視システムを担当するReal D【7】が運営 している。
さらにReal D社は、2006年1月よりDP100プロジェク ター(図-1.1.1-24)を販売するバルコ【8】、Kodak CineServer とソフトウェアを提供するコダック【9】、及び Atlab Image and Sound Technology社と組んで、オーストラリア5館で の『チキン・リトル』の立体上映を開始した。
図-1.1.1-22
AMCイクスピ アリの映写室 図-1.1.1-23
図-1.1.1-24
(b) 『チキン・リトル』に採用された新技術
今回の『チキン・リトル』では、数多くの新技術が導入されている。まずプロジェクタ ーがDLP Cinemaになったことで、フィルムのガタつきが無くなり、疲労の軽減に役立っ ている。フィルム映写機の2台シンクロ上映では、左右の映像のズレが脳に負担を与えて いたが、画面の振動がまったく無いデジタル映写では、
この問題が完全に解消された。
また観客に渡される眼鏡(図-1.1.1-25)も、一見、博覧 会やテーマパークなどで見られる普通の偏光眼鏡のよう だが、ちょっと違う。従来の立体上映では、直線偏光を 採用していたため、頭を少しでも傾けると左右の像がズ レてしまうという問題があった。これは、首の筋肉を異 常に緊張させるため、疲労の原因の一つとなっていた。しかし今回は、円偏光(右回り偏光、
左回り偏光)で像を分離しているため、頭を傾けてもズレは一切生じない。円偏光の弱点は、
特定の波長の光に対し左右の分離が生じにくいことであるが、今回ゴーストはまったく感 じられず極めてクリアな映像が見られた。この眼鏡はReal D社が提供している。
同社は、『チキン・リトル』3D版を上映する 劇場のシステム設計を担当しており、映写室の 窓を通常の透過率 90%のものから 98%のもの へ、DLP Cinema プロジェクターのランプを 4kw から 6kw へ、スクリーンをホワイトマッ トからシルバースクリーンへの交換も、それぞ れ指示した。このため画面の明るさは充分だが、
スクリーンの指向性には若干問題があるようで、
壁際の3列はチケットを販売しないそうである。
不思議に思われるのが、パッシブ・ステレオなのにプロジェクターは1台であることだ。
これは、プロジェクターのレンズ前に取り付けられたZ スクリーン(図-1.1.1-26)という装 置が解決している。ZスクリーンはReal D社が2005年2月に買収したStereoGraphics 社【10】が開発したもので、時分割の映像を円偏光に変換する透明な液晶パネルである。こ れによって、プロジェクターはアクティブ・ステレオなのに、映写はパッシブ・ステレオ という理想的な状態が実現出来た。
なお、アクティブ・ステレオの欠点はフリッカーが発生しやすいことだが、今回は同じ 図-1.1.1-25
図-1.1.1-26
フレームを 3回ずつ、左右交互に 144Hzで投 影する方法(図-1.1.1-27)が採られた。これほど 高いフレームレートを扱うため、2K のプロジ ェクターでありながら実際は 1.7K 程度の解像 度に落としているそうである。しかし、解像度 が不足しているという実感は無く、鑑賞には何 の問題もない。
(c) 『チキン・リトル』立体上映の興行成績
これらの設備は、北米ではドルビー社が劇場にシステム一式を提供する方法が採られてい る。しかし日本では、上映館が独自に購入しなければならない。シネマプレーヤーやサー バーを、従来広く使われてきた QuVIS 製からドルビー製へ交換することも含めて、かな
り多額の負担を強いられる。
だがイクスピアリ(図-1.1.1-28)を例に取ると、『チ キン・リトル』を上映している 4 スクリーンの内、
3Dは1個所だけだが、その1スクリーンが『チキ ン・リトル』全体の入場者の60%を占めている。入 場料金が200円高いにも関わらず、単純計算で 2D 上映の4.5倍(2005年12月23日~12月27日の平 均)も3Dに観客が入っているのである。北米でもよ く似た結果が報告されており、1スクリーンあたり 2Dの約3倍(2005 年11月4日~11 月27日の平均)の入場者を記録している。
こういった結果から、今回の試みは大成功だったと言えるだろう。問題は、立体上映シ ステムを導入した劇場に、いかにして定期的に3Dのコンテンツを供給出来るかによる。
(4) 2006 年以降 (a) 今後の立体作品
Real D 社は、次の計画としてフル 3DCG 長 編 『Monster House』(図 -1.1.1-29)を、米国で2006年7月21日 より100館以上で立体上映すると発表し 図-1.1.1-27
図-1.1.1-28
図-1.1.1-29
た。製作総指揮はスティーブン・スピルバーグとロバート・ゼメキスが共同で当たり、監 督は新人のギル・ケナンが担当する。手法的には、ゼメキスが監督した『ポーラー・エク スプレス』(2004年)と同様のパーフォーマンス・キャプチャーを全面採用しているが、キ ャラクターはカートゥーン風に仕上げられた。CG 制作は『ポーラー…』と同じく、ソニ ー・ピクチャーズ・イメージワークスが担当している。
さらに第3弾として、ディズニーのフル3DCG アニメ『ミート・ザ・ロビンソン』(図 -1.1.1-30)が決定している。原作は『ロボッツ』(2005年)のウィリアム・ジョイス。監督は ステファン・J・アンダーソンとスティーブ・アンダーソン。
アメリカは2006年12月、日本は2007年の夏休み公開を予 定している。
なお『チキン・リトル』のマーク・ディンダル監督は、「今 回の 3D 版の評判が非常に良いので、今後ディズニーで作られ る『American Dog』(2008年)、『トイ・ストーリー3』(2008 年)、『Rapunzel Unbraided』(2009 年)などの作品も立体 化される可能性が高い」と述べている。
これに続くのが、『スター・ウォーズ』全作品をエピソード4/5/6/1/2/3という順で、2D から3D変換して毎年1作ずつ再公開するプロジェクトである。早ければ2006年後半か ら始まり、2012年までに終了する予定である。
さらに立体上映が予想される作品としては、ロバート・ゼメキス監督の『Beowulf』(07 年)や、キャスティングがスタートしたジェームズ・キャメロン監督の『Battle Angel』(2007 年)などがある。前者は、パーフォーマンス・キャプチャーによる中世英国の英雄叙事詩で、
後者は木城ゆきとのコミック「銃夢」を原作とする、実写+CG複合のSFアクションにな る予定である。なおキャメロンは、国際宇宙ステーションを舞台としたSF アクション映 画『Godspeed』や、『Project 880』という仮題名で呼ばれる企画も進めており、いずれも 立体にするそうである。
(b) 対抗する IMAX 社
デジタルプロジェクターによる立体映像ブームに危機感を抱いているのは、これまで 常設の立体映像興行館として市場を独占してきたIMAX社【11】である。実際に『スター・
ウォーズ』シリーズの立体版は、当初IMAX-3Dで公開される予定だったが、デジタルプ ロジェクターに奪われることになってしまった。
© Disney. All rights reserved.
図-1.1.1-30
このことについてリック・マッカラム氏は、「我々は IMAX に信頼を置いていません。劇 場の数が少な過ぎるからです。現在、IMAX-3D の劇場は世界中でも 50~60 館程度で、これ からは衰退に向かうと考えられ、それに対しデジタルプロジェクターを導入する劇場は、
2005 年の後半から 2006 年にかけて大幅に増えていくと考えられます。我々は 1000 館単位 のビジネスを考えているのです」と、かなり辛辣な意見を述べている。
だがワーナー・ブラザーズ社は、積極的に IMAXと組んだ戦略を採っている。2004年もロ バート・ゼメキス監督、トム・ハンクス主演の フル CG 映画『ポーラー・エクスプレス』を IMAX-3D で公開した。これに続いて、トム・
ハンクスがプロデュースする『Ant Bully』
(2006年, 図-1.1.1-31)や、ジョージ・ミラーが 監 督 を 務 め る 『Happy Feet』(2006 年, 図 -1.1.1-32)といったフル CG 長編アニメも、
IMAX-3Dでの公開が決定している。
(c) 鍵を握る 2D→3D 変換技術
だがデジタルプロジェクターにしても、IMAX-3D にしても、必要なことは魅力的なコ ンテンツを継続的に劇場に提供することである。しかし、技術的・コスト的な制約上、大 量に作るのは難しい。そこで普通に撮影された作品や、旧作の映画を、立体映像に変換す るアイデアが考え出された。
この技術で先行していたのはIMAX社で、1998年にオーストラ リアのゼノテック社、及び日本のイマジカと共同で、『南極大陸』
(1991 年)や『エベレスト』(1998 年)といった IMAX映画の一部を 2D→3D変換するテストを行っている。そして実際に、『ジークフリ ート&ロイ マジック・ボックス』(1999年)という作品に導入した。
また現在IMAX社は、デジタル・メディア・グループ社が開発し た3D変換技術を独占使用する権利を取得しており、このテクニッ クを用いて『スペース・ステーション』(2002年, 図-1.1.1-33)の一
© 2006 Warner Bros.All Rights Reserved.
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© 2006 Warner Bros.All Rights Reserved.
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部を3D変換している。
さらに同社は、35mmフィルムをデジタル画像処理で高画質化し、IMAXフィルムにプ リントするIMAX DMR(Digital Re-Mastering)技術を組み合わせて、『スパイダーマン2』
(2004 年)や『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』(2004 年)といった映画の一部を IMAX-3Dに変換したテストを行った。2006年公開の『スーパーマン リターンズ』や『ポ セイドン』といった作品も、IMAX DMR版の公開が決定しているが、3D変換も検討され ているようである。
(d) 3D 変換業者の対立
しかし、『スター・ウォーズ』の2D→3D変換作業を請け負ったのは、米国のIn-Three 社【12】であった。同社はこの技術に、Dimensionalization という名称を与えており、実 際に『スター・ウォーズ』(1977年)、『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』
(2002年)、『トップガン』(1986 年)、『リロ&スティッチ』(2002年)などといった映画を、
3Dに変換したテスト映像を公開している。
だがIMAX社は、インスリー社の技術がデジタル・メディア・グループ社の特許を侵害 しているとして、訴訟を起こしている。各社とも今後、2D→3D変換による立体映画が、
大きなビジネスになる可能性を秘めていると感じているのだろう。今後この分野での競争 は、ますます激化していくと思われる。
ちなみに『チキン・リトル』も、普通に全編ステレオレンダリングしたのではなく、2D
→3D変換で立体化されている。この作業を請け負ったのはジョージ・ルーカス率いるILM で、同社が開発した“Q”というソフトを用い、約1400カットを3Dに変換している。マ ーク・ディンダル監督は、「立体映画になることが決定したのは、2004 年の 5 月でした。
でも立体視用に 65 カットを作り直すことになりました。例えば、空から落下してきたパネ ルに触る時に手が伸びたり、落ち葉が舞い上がる時に観客の目の前に飛んでくるといった 効果を加えています」と語っている。実際に鑑賞してみると、たしかに立体効果が顕著な カットと、そうでないカットが混在していた。その 65 カット(人によっては 85 カットと いう発表もある)は、きちんとステレオレンダリングでやり直している個所だろう。
我々は日常生活において、運動立体視やパースペクティブからも立体感を得ており、そ う頻繁に両眼視差による遠近感を感じている訳ではない。だから映画の中に、過剰に両眼 視差のあるシーンを入れると、わざとらしい印象を持ってしまう。だから 65 カットとい うのは、適当な量なのだろう。
(e) 3D 変換の孕む危険性
しかし2D→3D変換の普及は、新たな問題の発生を予感させる。というのは1990年代 に流行していた、カラライゼーション(Colorization)を連想させるからだ。これは、白黒の 旧作映画をコンピュータ処理で着色する技術で、『キング・コング』(1933年)、『フィラデ ルフィア物語』(1940年)、『コルシカの兄弟』(1941年)、『カサブランカ』(1942年)、『ヤ ンキー・ドゥードル・ダンディー』(1942年)、『素晴らしき哉、人生!』(1946年)、『34丁 目の奇跡』(1947年)、『アスファルト・ジャングル』(1950年)、『花嫁の父』(1950年)、『ボ ディ・スナッチャー 恐怖の街』(1956年)、『史上最大の作戦』(1962年)、『ナイト・オブ・
ザ・リビング・デッド』(1968 年)、などがカラー作品に変換されている。しかし、「クラ シック映画のカラー化は製作者の意図に反する」と、マーティン・スコセッシやウディ・
アレンといった映画人が反対運動を起こした。
3D変換の場合でも、『スター・ウォーズ』のように監督・プロデューサー自らが手がけ るなら問題ないだろうが、「まったく無関係の人間による加工は許されることなのか」とい った議論が巻き起こることが考えられるからだ。
(5) 最後に
(a) 立体映画ブームの今後
今回の立体映画ブームが、1950年代のように短期間で終息してしまうかどうかは、もう 少し経過しないと結論が出せない。だが過去の経験を参考にして、対策を講ずることは可 能だろう。
まず 1950 年代のブームの時は、ワイドスクリーンという強力なライバルが存在してい た。今回は4Kのデジタルシネマがそれに相当するかもしれない。ただ、通常のサイズの 劇場スクリーンでは、2Kと4Kの映写にほとんど差は見られない。IMAX並の大型スクリ ーンならば効果もはっきりするだろうが、一般の映画館が4Kのプロジェクターを導入す ることは考えにくいのである。したがって同じ投資をするならば、立体上映システムの方 を選ぶ可能性が高いと予想される。
しかし立体眼鏡の存在は、マイナス要因として残り続けるだろう。現在の技術では、大 きなシアターで普通に裸眼立体映像を鑑賞することは不可能である。したがって開発の方 向は、いかに快適な立体眼鏡を作り出すかに向けられるべきだ。
だが上映設備が整ったとしても、ありきたりな飛び出し効果のみに頼り、ストーリーや
演出がおろそかな作品が続けば、いずれは飽きられるのは確実である。今回のブームでも、
『シャークボーイ&マグマガール』(2005年)のような、ほとんど無内容の作品もあるが、
全体的には質の高い作品が多く予定されており、過去の失敗のようにはならないことが期 待される。
しかし怖いのが、ハリウッド全体の収益の上昇が見込めなければ、立体映像が悪者扱い を受ける可能性があることである。観客減少の原因は、映画産業全体の構造にあるにも関 わらず、批判しやすい3Dに責任を押しつけることが予想されるからである。
(b) 日本の動き
気になるのは、日本国内にこのブームに同調しようという動きが見られないことである。
現在企画が進んでいるのは、坂野義光監督による日米合作の IMAX-3D 作品『ゴジラ 3D Godzilla 3D to the Max』だけである。最近、興行成績の安定している邦画界は、ハリウ ッドのような焦りがないため、新技術の導入に積極的になれないのだろう。
だが、ふと気がつくと、手描きアニメーションを作っている国は日本だけで、他国はす べて3DCGアニメばかりになっていたことからも分かるように、我が国の映像業界はちょ っと鈍感過ぎるのである。むしろ、国をあげて取り組む姿勢を見せている韓国の方が、立 体映像では先行する可能性が高い。
■参考文献
R.M. Hayes: 3-D Movies - A History and Filmography of Stereoscopic Cinema, McFarland & Company, 1989
■参考サイト
【1】ディズニー http://www.disney.co.jp/
【2】AMCイクスピアリ 16 http://www.ikspiari.com/
【3】ワーナー・マイカル・シネマズ http://www.warnermycal.com/
【4】Christie Digital http://www.christiedigital.com/、http://www.christie.jp/index.html
【5】AccessIT http://www.accessitx.com/
【6】Dolby http://www.dolby.com/、http://www.dolby.co.jp/
【7】Real D http://www.reald.com/
【8】Barco http://www.barco.com/jp/
【9】Kodak http://wwwjp.kodak.com/JP/ja/motion/
【10】StereoGraphics http://www.stereographics.com/
【11】IMAX http://www.imax.com/
【12】In-Three http://www.in-three.com/
なお、より詳しい情報をお知りになりたい方は、以下のサイトを参考にして下さい。
http://www.tcat.ne.jp/~oguchi/