建築用タワークレーンのハイブリット型電力供給システム助成事業の成果
平成 19 年 3 月
財団法人 機 械 シ ス テ ム 振 興 協 会
製 作 者 株 式 会 社 小 川 製 作 所 試 用 者 株 式 会 社 竹 中 工 務 店
この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。
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目 次
1. システムの必要性
(1) 必要性 ··· 1 (2) 国内、海外の現状··· 3
2. システムの概要
(1) 主要機能··· 4 (2) 構 成 ··· 5 (3) 特 徴 ··· 7
3. 実施期間 ··· 7
4. 実施内容
(1) 製作過程 ··· 7 (2) 試用過程 ··· 17
5. 成 果
(1) 技術的、経済的成果 ··· 25 (2) 今後の問題点 ··· 26
付
1. システムの性能 ··· 26 2. システムの仕様 ··· 26 3. 今後5年間の需要推計 ··· 28
1.システムの必要性
(1)必要性
地球温暖化防止に向けて先進国の削減約束を取り決めた京都議定書の目標期限である 2008~2012 年までに建設業においては 2010 年を目途に CO2 の排出量を 12%(建設機械分野 で 20 万 t-CO2/年)削減する目標を掲げ、その実現に向けて取り組みを進めている。
「建設業自主行動計画-地球温暖化防止対策」の中で次のような関連する実施方策が述べ られている。
・化石燃料消費の少ない建設機械・車両の採用の推進。
-燃費改善された建設機械・車両の採用とともに作業内容に適応した建設機械・車両 の採用を図る。
・高効率仮設電気機器等の使用の促進。
-建設現場においてエネルギ効率の良い機器及び工具を採用する。
建築現場におけるクレーンの機種選定は建物の規模、構造、工期などの条件によりタワ ークレーン、移動式クレーンのいずれかに決められ下記のようになる。
・建物高さが 30m 以下の低・中層建物の工事には工事敷地の余裕度にもよるが現場への 搬入・搬出性、組立・解体性、現場内の移動性、駆動源の実装、据付性などの利便性 を活かし移動式クレーンが使用されるケースが多い。(図-1)
・建物高さが 60m 程度までの高層建物工事にはタワークレーンが比較的多く使用される が諸条件によっては大型の移動式クレーンが使用される。(図-2)
・上記以上の超高層建物の工事には揚程の高いタワークレーンが使用される。(図-3)
図-1移動式クレーン 図-2大型移動式クレーン 図-3タワークレーン
タワークレーンは元々環境負荷の少ない機械であり地球温暖化防止策の一つである作業 内容に適した建設機械となりえるものであるが利便性において移動式クレーンより劣る部 分があるため機種選定で移動式クレーンの方が採用され易かった。
しかし移動式クレーンでは最近、道路上を自走または搬送するときの車両重量規制の厳 格化(2004年国土交通省発表)による分割搬送の必要性が発生し、運行経費、組立・解体 手間が増加すること、第3次排出ガス規制の強化によりオフロード機械への規制対象が拡 大されること、転倒事故の多発に対する安全性向上の指導強化など課題を抱えてきており、
その利便性も問われ始めている。
上記分割搬送による費用増加は地域にもよるがおよそ以下のとおりである。
表-1移動式クレーン諸費用増加表
運搬トレーラ 運搬トラック 補助クレーン 作業員 入出庫費 増加費用小計
2台 2台 6名
100t
クレーン 160,000 80,000 200,000 180,000 200,000 820,000
4台 2台 6名
120t
クレーン 320,000 80,000 320,000 180,000 200,000 1,100,000
4台 8名
160t
クレーン 320,000 320,000 240,000 300,000 1,180,000
4台 8名
200t
クレーン 320,000 320,000 240,000 300,000 1,280,000
このような移動式クレーンを取り巻く環境変化がタワークレーンに対する利便性の向上 ニーズとして高まってきている。
当該システムはエンジン系クレーンに比べて環境負荷が極めて少なく、安全性の高いタ ワークレーンの強みを活かし、エンジン系クレーンに劣る部分を改善しエンジン系クレー ンの領域をカバーする代替機として普及させ、タワークレ―ンを有効活用される機械に革 新するものと考える。
結果として関連産業の技術水準の向上と高度化に寄与するとともに社会上の課題に対す る解決の一端を担い、低生産性分野のタワークレーン製造業としての活性化を図るために も必要なシステムと考える。
(2)国内、海外の現状
国内におけるエネルギ回収・蓄電技術による機械システムはエンジン駆動系において自動 車分野でのハイブリット車として商品化され徐々にその普及の度合いが高まってきている。
建設機械などに使用されるディーゼルエンジン駆動系は実験研究発表等に止まり商品化 はまだされていないが昨年パワーショベルの分野でエンジンとバッテリーを併用したモニ ター機としての第1号が発表された。
一方電気駆動系においては路面電車での実験的研究開発の発表と、乗用エレベータの分 野では商用電力との併用低速エレベータがある。
パワーショベルでの概要
・旋回駆動に電動式モータを採用し、旋回停止時の回生エネルギをバッテリーに回収、動 力源をエンジンとバッテリーの併用型とすることで、燃費及びCO2の排出削減をねらった ものとなっている。
路面電車での概要
・停車場で充電し、停車場間は蓄電装置の電源を利用し走行する。
走行時に生じる回生エネルギを蓄電装置に戻し、停車場間所要走行距離を確保するため の電力エネルギを確保する。
ただし、架線レスがねらいであり併用供給の制御はない。
乗用エレベータでの概要
・エレベータの回生運転時に発生した回生電力は蓄電システムに蓄電される。
蓄電された回生電力は力行運転時に放電するが所要電力に対する不足分は建物電源から 供給される。ただし、建物電源のデマンド制御はない。
上記乗用エレベータの場合、商用電源と蓄電システムとのハイブリット運転という点に おいては同様なシステムといえるが本システムは商用電源側の電力量を一定以下にコント ロールできること、またクレーン回生運転時に蓄電する量が小量な場合、クレーン作業待 機中(または休止中)の時間を利用し商用電源から蓄電システムに急速充電できることに 特長をもつシステムである。
なお、海外における事例については最近の国際建設機械展示会、業界誌技術報告などで の発表はない。
2.システムの概要
(1)主要性能
本システムはクレーン運転時、商用電源からの所要エネルギを予め決められた電力(通 常契約電力)以内にコントロールし、効率的かつ安全に蓄電装置のエネルギと併用制御す る以下の性能を有する。
① クレーン運転時の一般的動作パターンで最も不利となる条件のもとで計算された所 要電力が商用電源側において、その計算値の50%以下になること。
② クレーン作業中において蓄電装置容量が上限、下限を超えた場合あるいは双方どちら かに異常が発生した場合においてもシステムを安全な状態に保ち、クレーン性能を極 力低下させることのない包括的安全制御システムであること。
図-4はクレーンの一般的動作パターンに基づいた、所要電力と蓄電装置の蓄電量との 推移を示したものである。
図-4所要電力と蓄電量の推移
本システムの具体的な性能を以下に示す。
1.商用電源の供給電力を監視(測定)し、一定量(24kw)以下に制御する。
2.商用電力が24kwを超える場合、蓄電装置から不足エネルギを供給する併用制御を行う。
3.蓄電量が50%以下に降下した場合は、起伏・旋回モータにデマンド制御を行う。
4.蓄電量が 25%以下に降下する場合は、蓄電装置のエネルギ供給を停止して商用電力単 独制御とし巻上モータには速度制限、起伏・旋回モータは停止させる。
(2)構 成
本ハイブリット型電力供給システムの構成を表-2に示す。
表-2ハイブリット型電力供給システムの構成 充放電装置
充放電用 DC/DCコンバータ 商用電源 電力検出装置
制御装置 シーケンサ・安全切替回路
蓄電装置
ユニット数 264個(直列)×2台(並列)
蓄電電圧 DC2.3V×264=DC607V 容量 1.88MJ×2=3.76MJ 充電時間 16.8kw/秒
その他装置類
クレーン主共用制御盤 インバータ、ダイオードコンバータ
各駆動装置他 巻上装置、起伏装置、旋回装置、回生抵抗器 図-5にシステム構成図及び図-6にクレーン機上の配置図を示す。
図-5システム構成図
(DC/DCコンバータ)
充放電装置
(DC/DCコンバータ) 充放電装置 巻上装置 起伏装置 旋回装置
蓄電装置
(バッテリー)
回 生 抵 抗
共用制御盤
共用制御盤
(バッテリー)
蓄電装置
図-6システム主要構成機器クレーン機上配置図
(3)特 徴
本ハイブリット型電力供給システムの特徴を以下に示す。
① 蓄電装置の電圧監視及び商用電源の電力監視によりそれぞれの規定値、制限値を任 意に設定できることでクレーンの作業パターンに合わせた効率的なエルネギ制御が できる。
② 蓄電装置の蓄電量が予め設定した規定値、制限値に達した場合、システムがデマン ド制御を行いクレーン動作に制限を与えるが、クレーンが急停止することのないよ う減速措置を段階的に講ずることでクレーン能力を極力低下させることなくまた、
クレーン運転者の緊張感の緩和に有効な制御である。
③ 蓄電装置の蓄電量が少量になった場合でもクレーン作業待機中または、休止中の 時間を利用し商用電源側から蓄電システムに急速充電ができる。
3.実施期間
製作期間:平成17年7月~平成18年11月
試用期間:平成18年12月~平成19年1月
4.実施内容
(1)製作過程
A.平成17年度における製作の具体的内容 ① システム全体の計画・設計
蓄電池の最終的な基本仕様の決定とそれに基づく充放電制御装置(DC/DCコン バータ)の入出力特性仕様(定格容量、定格電圧、定格電流、過負荷耐量等)の決 定及び、その基本的なシステム回路の計画設計と制御ソフトの設計を行った。
また、機械緒元と運転パターンに基づくクレーン制御装置側との信号確認にポイン トを置き、必要な単線系統図の計画設計を行った。(図-7参照)
本システムの核となる蓄電池に関しては懸念される点の抽出と安全対策等について の検討を行い関連部分の詳細設計に反映させた。
本システムが搭載されるクレーン機上(旋回体部)の各装置の配置計画については 重量バランス、メンテナンスを含めた作業通路等の確保にポイントを置き設計を行 った。(図-6参照)
図-7単線系統図
② 蓄電制御装置部の製作
蓄電池部(電気二重層キャパシタ)と充放電部及び、それらの制御装置から構成さ れる本システムで最も重要な部分で、これらの設置場所がクレーン機上であること から各装置の収納筐体を含めた外形寸法、重量等が極力コンパクトになるよう設 計・製作を行った。
また、使用環境条件を確保するため冷却ファンを取付け、特に蓄電池部の温度管理 として温度センサーを設置した。
蓄電池部は重量バランスを考慮しクレーン最後部に配置し、充放電制御装置部はそ の収納筐体をクレーン運転室と共用のものとしてクレーン右側面前寄りに配置し、
各装置周辺のメンテナンススペースに配慮した設計を行った。
図-8電気二重層キャパシタ外観図
③ クレーン制御装置部の製作
共用制御盤、運転操作盤及び制御メンテナンスのための故障診断履歴装置、遠隔監 視装置等より構成されクレーンを安全且つ、効率よく運転するための制御回路の設 計・製作を行った。
共用制御盤内の機器配置はメンテナンス性にポイントを置きまた、機器発熱による 盤内温度上昇防止用に冷却ファンを設置した。
運転操作盤には操作性の良いジョイスティック型の操作レバーを使用し、巻上が4 ノッチ、起伏旋回が3ノッチとスムーズな速度変換ができるものとした。
また、盤面にはつり荷重、作業半径を確認できるよう表示部を設けた。
故障診断履歴装置には主要な7項目のデータを取り込み表示モニターにより確認で きるようにした。
また、遠隔監視装置との接続により外部からのアクセス監視ができるようにした。
図-9共用制御盤内配置図
表示モニター
運転操作盤
図-10運転操作盤と表示モニター
④ 駆動装置部の製作
資材揚重のための巻上装置、クレーンジブ起伏装置及び旋回装置の設計・製作を行 った。
特に巻上装置、起伏装置については蓄電制御装置関係部材の配置スペースが適正に 確保できるようコンパクト性にポイントを置き設計を行った。
また、起伏装置についてはワイヤドラムを従来の多段巻きから一段巻きにしワイヤ 乱巻き防止に配慮した。
旋回装置においてはオープンギャ部の噛み合いバックラッシュを適正に調整できる よう装置支持部に偏芯スリーブを設けまた、起動停止時の衝撃を吸収するための緩 衝材(皿バネ)を減速機支持部分に採用した。
各駆動装置、制御装置等を搭載する旋回フレームは作用荷重に対して十分な強度を 有し、組立解体性及び運搬輸送性等を考慮した前後2分割構造とした。
図-11巻上装置の概要
図-12起伏装置の概要
B.平成18年度における製作の具体的内容 ① システム各装置の部品の設計・製作
蓄電制御装置部・クレーン制御装置部及び、駆動装置部を含むシステム構成部品で各 制御装置部の取付け架台の製作、巻上・起伏装置部のワイヤドラム、機器取付けペー ス等の機械加工、同駆動装置部に付帯するカバー等の小部品の設計製作を行った。
また、荷重検出・揚程検出等データ収集に必要な各センサー取付け部品の設計製作 及び、本システムに係わる取扱説明書等の書類作成を行った。
② システム各装置の組立、部分試運転
蓄電制御装置部の組立を行い擬似的な充放電試験を繰り返し、制御ソフト及びその 制御回路が基本仕様を満たしていることを確認した。
図-13蓄電装置・充放電制御装置の組立
クレーン制御装置部の組立を行い各安全装置(リミット関係)・運転操作盤を接続し 各動作信号に対して制御回路が正常に機能していることを確認した。
図-14共用制御盤の組
巻上・起伏・旋回の各駆動装置の組立を行いクレーン制御装置部と仮配線後、試運 転を繰り返し異音・振動・異常発熱等のないことを確認した。
図-15巻上装置及び起伏装置の組立
図-16旋回装置部の組立
③ 試用クレーンの仮組立
性能確認に必要なクレーンの動作パターンの計画及び、設置計画を行い各装置の単 独試運転及び、相互マッチング試験の完了後弊社試験構台上に試用クレーンの仮組 立を行った。
本システムの調整前に商用電源のみでクレーンの基本動作及び、荷重試験を行い また、各リミット装置の動作試験を含め安全であることを確認した。
尚、試用クレーンの仕様及び姿図を図-17に示す。
図-17試用クレーンの仕様及び姿図
図-18クレーン機上の状況
④ システムの調整・試運転・性能確認
本システムのクレーン搭載後の蓄電制御装置の各種設定、駆動制御用インバータの 設定等必要な諸調整を行い、クレーン動作パターンの計画に基づいた各試験項目に ついて試運転試験を行った。
試験方法としては巻上荷重の種類を定格3t~8tまでとし起伏旋回動作を加えた 6ケースと空フック時の動作パターンで行った。
図-19荷重試験状況
主な計測データとしては各動作試験時における商用側、蓄電池側の電力状況の推移、
動作停止時の充放電時間、蓄電池室の温度と周囲温度、各操作信号、巻上・巻き下 げ量(揚程)の収集を行った。
・荷重3t時分析データ ・荷重4t時分析データ
・荷重5t時分析データ ・荷重6t時分析データ
・荷重7t時分析データ ・荷重8t時分析データ 図-20荷重試験分析データ
収集したデータの整理・分析を行い、当初の下記性能目標を満たしていることを確 認した。
[目標値(1)]
・クレーンの一般的動作パターンにおいて商用側の電力供給が 24kwを超過しない 状態を維持し且つ、バッテリー蓄電量が規定値(25%)以下に低下しないこと。
(図-21参照)
図-21商用電力の推移と動作パターン図
[目標値(2)]
・クレーン通常運転1サイクルあたりの全消費エネルギに対する、定格荷重及び フックの降下時に回生されるエネルギの回生率が平均7%以上であること。
(図-22参照)
検証結果:平均回生率7.57%
図-22エネルギ平均回生率
(2)試用過程 ① 試用条件の確認
現場使用条件下での一般的なクレーン動作パターンにおける性能(条件1)並びに、
クレーン作業中において蓄電装置容量が上限(条件2)あるいは下限(条件3)を 超える場合等における動作状況を確認するため、商用電源の電力供給制御値とバッ テリーの初期充電値、充電停止レベル及び蓄電量規定値を検討し決定した。
上記各条件における設定値を以下に示す。
1)条件1「現場使用条件下での一般的なクレーン動作パターン」
クレーン側の最低電力制御値を確認するため、制御値を起伏・旋回の所要値まで下 げた。
・商用電源側電力供給制御値 20kw ・初期充電値(待機充電) 440v ・充電停止レベル 550v ・蓄電量規定値 デマンドレベル1 300v デマンドレベル2 250v
2)条件2「クレーン作業中において蓄電装置容量が上限を超える場合」
巻下げ時の回生充電量が充電停止レベルを超えた場合の動作状況を確認するために、
商用側からの充電レベルを下げ、回生充電を停止させる状態を設定した。
・商用電源側電力供給制御値 20kw ・初期充電値(巻下げ前充電値) 350v ・充電停止レベル 400v ・蓄電量規定値 デマンドレベル1 300v デマンドレベル2 250v
3)条件3「クレーン作業中において蓄電装置容量が下限を超える場合」
巻上げ時に充電量がデマンドレベルを超えた場合の動作状況を確認するために、
デマンドレベルを上げ、デマンド制御の開始する状態を設定した。
・商用電源側電力供給制御値 20kw ・初期充電値 350v ・充電停止レベル 550v ・蓄電量規定値 デマンドレベル1 300v デマンドレベル2 250v
② 目標性能の確認《目標値(1)》
「クレーンの一般的動作パターンにおいて、商用側の電力供給が 24kwを超過しな い状態を維持し且つ、バッテリー蓄電量が規定値25%以下に低下しない」
1)性能測定結果
クレーンの性能により決定される最低電力制御値を確認するため、制御値を起伏装 置(15kw)、旋回装置(3kw)の所要値(20kw)まで下げ、一般的なクレ-ン 動作パターン条件1における商用電源側と蓄電池側の電力状況を荷重8t、6t、
4tの3種類で測定した。
図-24に荷重8tの3動作単独運転の測定結果と巻上げ時の揚程に対する商用電 力のハイブリット制御あり、なしの比較を示す。
また、図-25に荷重8tの3動作同時運転の測定結果と巻上げ時の揚程に対する 商用電力のハイブリット制御あり、なしの比較を示す。
同様に図-26~27に荷重6t、図-28~29に荷重4tの結果を示す。
図-23試用クレーンの設置状況
図-24荷重8t時単独運転測定結果及び制御有無の比較
図-25荷重8t時同時運転測定結果及び制御有無の比較
図-26荷重6t時単独運転測定結果及び制御有無の比較
図-27荷重6t時同時運転測定結果及び制御有無の比較
図-28荷重4t時単独運転測定結果及び制御有無の比較
図-29荷重4t時同時運転測定結果及び制御有無の比較
2)結果の確認
最低電力制御値を 20kwとした場合、荷重6tまではバッテリー蓄電量(キャパシ タ電圧)は規定値の25%(250v)以下には低下しないことが確認できた。
荷重8tではバッテリー蓄電量が規定値の25%以下になり、目標値を満足できない ことを確認した。ただし、図-30に示すように動作開始前のバッテリー初期蓄電 量を上限許容値の90%(550v)に上げた場合は、規定値の25%以下に低下しない ことが確認できた。
図-30初期充電量を変化させた場合の比較(荷重8t同時運転)
③ 目標性能の確認《目標値(2)》
「クレーン通常作業1サイクルあたりの全消費エネルギに対する、定格荷重及び フック降下時に回生されるエネルギの回生率が平均7%以上である」
1) 性能測定結果
荷重8t、6t、4t の3動作単独運転と3動作同時運転において回生されたエネルギ を以下の算定式により求め、クレーン通常作業1サイクルあたりの全消費エネルギ に対する割合である回生率とともに表-2に示す。
また、参考として実測データを図-31に示す。
算定式 Ek=1/2・C・(Vf2-Vs2) Ek:回生されたエネルギ
Vf:巻下げ終了時のキャパシタ電圧 Vs:巻下げ開始時のキャパシタ電圧
なお、各荷重毎のクレーン通常作業1サイクルは今回の設置条件において、クレ―
ンを実際に運転している者の意見を取り入れ且つ、全消費エネルギが最大になるよ うな動作パターンを設定した。
表-2エネルギの回生率
定格荷重 8t 6t 4t
運転モード 単独 同時 単独 同時 単独 同時 全消費エネルギ(kJ) 4454.0 4442.2 3555.0 3449.3 2685.1 2685.2
開始時 335.8 289.9 437.6 387.8 437.0 437.6 キャパシタ
電圧(V) 終了時 370.2 337.2 459.3 409.3 453.3 453.3 実測降下量(m) 4.4 5.3 4.9 4.8 5.2 4.7 実測 294.5 359.6 246.0 244.8 176.0 169.6 回生量(kJ)
5m換算 333.1 339.2 252.0 257.7 168.6 180.4 回生率(%) 7.5 7.6 7.1 7.5 6.3 6.7
図-31巻下げ時のキャパシタ電圧の変化
2) 結果の確認
クレーン通常作業1サイクルあたりの全消費エネルギに対する、定格荷重及びフッ ク降下時に回生されるエネルギの回生率は平均7.1%であった。
よって、基本計画時の目標値(2)7%以上を満足することを確認した。
④ 安全性及び操作性の確認
クレーン作業中においてバッテリー蓄電量が上限あるいは、下限を超えた場合等に おいてもシステム全体の安全が確保され且つ、クレーン性能を低下させることのな いことを確認した。
1) 条件2「クレーン作業中においてバッテリー蓄電量が上限を超える場合」
・測定結果
上限である充電停止レベルを400Vに下げ、荷重8tで巻下げ運転したときの各測 定値の結果を図-32に示す。
図-32バッテリー蓄電量が上限を超える場合の測定結果
・結果の確認
巻下げ時に回生されるエネルギからの充電量が充電停止レベルを超えた場合に回 生されるエネルギが電力供給等に影響を与えることなく、制動抵抗器で消費され ることを確認した。
また、バッテリーの温度上昇はなく安定した状態であった。
2) 条件3「クレーン作業中においてバッテリー蓄電量が下限を超える場合」
・測定結果
初期充電レベルを400Vに下げ、荷重8tで巻上げ運転したときの各測定値の結果 を図-33に示す。
図-33バッテリー蓄電量が下限を超える場合の測定結果
・結果の確認
デマンドレベル1、2の動作制限がスムーズに作動することを確認した。
また、デマンドレベル2から1へ復帰するのに要する時間は20秒程度であった。
・操作者(運転者)からの意見、要望
今回は動作制限についての説明を事前に受け運転したので違和感はなかった。
しかし、実作業を考慮すると動作制限になる前に警報等のアナウンスが必要であ る。また、動作制限は巻上げが優先されているが実際の作業の場合は必ずしも巻 上げが最優先とは限らないため動作制限前のアナウンス後、優先する動作を選択 できるようにする必要がある。
3) 連続運転の状況
トラック等から荷を巻上げ、荷降ろし場所へ水平に移動させる作業を想定した連続運 転を行い、充放電を短時間に繰り返した場合のシステム全体の動作状況を確認した。
・測定結果
最も過酷な条件として荷重8tを地上より35m程度巻上げ、起伏旋回を同時操作し、
再び地上へ巻下げる運転を8から9回行ったときの各測定結果を図-34に示す。
また、荷重4tでの同様な試験の測定結果を図-35に示す。
図-34荷重8t時の連続運転測定結果
図-35荷重4t時の連続運転測定結果
・結果の確認
バッテリー等に顕著な温度変化はなく、問題なく運転できた。
このような運転モードではバッテリー蓄電量の消費が少なく、回生されるエネル ギが制動抵抗器により多くが消費されている。
5.成 果
(1)技術的、経済的成果 ① 技術的成果
・本システムの実用化に相応しいクレーン運転状態の制御機構とその制御ソフトが 完成した。
・クレーンの一般的動作パターンにおいて、商用側の電力供給規定値を超過しない 状態が十分維持可能であることまた、バッテリー蓄電量が制限値以下に低下しな いことを確認できた。
・クレーン作業中においてバッテリー蓄電量が上限あるいは、下限を超えた場合に おいてもシステム全体の安全が十分確保され且つ、クレーンの性能を低下させる ことがないことを確認できた。
・クレーンの常態として軽荷重の場合はバッテリー蓄電量の推移に余裕があり、重 荷重の場合は初期蓄電量の設定を上げることで規定値を下回らないことが確認で きたことにより商用電源側とバッテリー初期蓄電量の最適な組み合わせを作業所 の電力条件とクレーン作業条件に応じて選定できることが確認できた。
・クレーン通常作業1サイクルあたりの全消費エネルギに対する、定格荷重及びフ ックの降下時に回生されるエネルギの回生率が初期目標の平均7%以上を確認で きたことにより、建設機械分野でのCO2排出削減目標6%の実現に寄与できる効 果が確認できた。
② 経済的効果
・クレーン用仮設受電設備が本システムを採用することで高圧受電から低圧受電に 転換した場合の効果として、従来比約10%減が見込まれ、その金額はおよそ200 万円/台・年となる。(但し、試用クレーン能力相当の場合)
また、クレーン能力によっては高圧受電を避けられない場合であってもその設備 容量を削減できることで全体の費用軽減が十分期待できる。
機械経費 電気経費
変動費 固定費
図-36仮設受電設備簡素化による費用面の効果(概算値)
固定費 変
従来 新システム
従来
10%減:200万円/台・年
(2)今後の問題点
・本システムを広く普及させるためには、バッテリー部及び充放電制御装置部が占め るスペース並びにコストの軽減が重要なポイントとなり、今後バッテリー生産技術 の更なる向上、クレーン能力に応じた制御装置のモデル化が望まれる。
・クレーンによる解体作業等で回生されるエネルギが蓄電量を超過する場合、本シス テムでは抵抗器により放熱しているが、この余剰エネルギの活用方法として起伏・
旋回用への電源供給が考えられるが、他の目的への活用可能なシステムの開発が望 まれる。
・本システムの最終目標としてケーブルレスを目指しているが今後、ハイブリットク レーンがハイブリットクレーンを組立てたりまた、解体できるための総合的なシス テムの開発が望まれる。
付
1.システムの性能 性能の目標
① クレーンの一般的動作パターンにおいて、商用電源側の電力供給が24kwを超過し ない状態を維持し且つ、バッテリー蓄電量が規定値の25%以下に低下しないこと。
② クレーン通常作業1サイクルあたりの全消費エネルギに対する、定格荷重及びフ ック降下時に回生されるエネルギの回生率が平均7%以上であること。
2.システムの仕様 基本仕様
① 蓄電装置(電気二重層キャパシタ)
1セル 2.3V 3200F ユニット数 264個×2台=528個 総電圧 2.3V×264個=607V 最大貯蔵エネルギ 1.88MJ×2=3.76MJ 使用温度 -25~+40℃
充電時間 16.8kw/秒
外形寸法 W1704×H1655×D593 mm 重量 400kg×2=800kg
寿命 +25℃で50万サイクルまたは、10年以上
② 充放電装置(DC/DCコンバータ)
・入力特性(キャパシタ側)
定格容量 250kw(最大300kw)
定格電圧 DC0V~DC640Ⅴ 定格電流 DC350A連続
過負荷耐量 150%60秒及びDC600A2秒 ・出力特性(DCリンク側)
定格容量 250kw(最大300kw)
定格電圧 DC550V~DC730Ⅴ
定格電流 DC350A連続(最大450A)
過負荷耐量 150%60秒及びDC600A2秒 ・使用環境
環境 屋内
相対湿度 5~95%RH(但し結露なきこと)
保存温度 -20~+60℃
動作温度 -10~+45℃
・制御回路電源 200VAC±20% 50/60Hz
③ クレーン共用制御盤
・屋外キュービクル型 主開閉器はノーヒューズブレーカー
操作回路用漏電ブレーカー(感度電流30A)
・機内電圧 主回路200/220V操作回路100/110V 50/60HZ ・制御方法 間接制御
・配線 盤内600Vビニール電線、外部は2種クロロプレン キャプタイヤケーブル
・外形寸法 W1500×H1800×D400 mm
④ 駆動装置
・巻上装置 30kwかご形電動機 インバータ制御 ・起伏装置 15kwかご形電動機 インバータ制御 ・旋回装置 3kwかご形電動機 インバータ制御
3.今後5年間の需要推計
建築用タワークレーンの新規需要状況は1988年から1992年をピークに減少を続け、
バブル期に製造されたクレーンの絶対量も飽和状態となり、ここ10年ほどはピーク時 の10%前後を推移する程度である。
建築工事における合理化は今日までさらに一層厳しさを増し、作業所における仮設揚 重機に対しても工期短縮、機械経費、躯体補強費などの低減対策が強く求められてき ている中、バブル期に大量に製造されたクレーンは既に15年から20年を経過し、
これら在来機の性能・機能は経年的なものを含めてこれからの建築施工のニ-ズに応 えきれなくなってきている。
最近の動向として機械の更新が徐々に図られてきているが機械に対しては新しい性 能・機能が要求され安全性の面からも古い機械の稼働率が減少している。
建築用タワークレーンの更新は今後適正な市場に合わせ確実に且つ、計画的に図られ ていくものと確信する。
本システムを搭載したクレーンは他のクレーンとは明らかに特異性があり、他の分野 の蓄電制御システムの発展と共に技術向上、低コスト化が図られ本システムに対する 認知の広まりに伴い、今後の更新市場において多くの需要が望めるものと考える。
本システムの試用完了後5年間の需要予測にあたり、更新時期に該当する台数を中・
小型機で 250 台、大型機で200 台とし、更新率をそれぞれおよそ5%とした。[1986 年から1995年:製作者(小川製作所)納入実績より]
表-3今後5年間の需要予測
適用クレーン 1年後 2年後 3年後 4年後 5年後 合計 中・小型 2 2 2 3 3 12
大型 1 3 3 3 10
合計 2 3 5 6 6 22