• 検索結果がありません。

『古代日本の情報戦略』

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "『古代日本の情報戦略』"

Copied!
1
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

日本の歴史 22

日本の歴史 51

『古代日本の情報戦略』

近江俊秀著 (朝日新聞出版 朝日選書 2016)

本書の請求記号 682.1‖Omi

稲垣宏行

 我々は時代を遡るほど文明が発展しておらず、

その時代が安穏としたものだと思いがちです。し かし、ある面ではそうだとは限りません。日本古 代交通史を専門とする著者は、文学作品も含めた 資料の比較によって、古代日本の通信速度を詳細 に分析しています。

 古代の「通信システム」駅制では、情報が1日 最大160km(時速20 ~ 30km)の速度で伝達さ れていたと言います。これはロードレースの世界 記録に匹敵する速度です。勿論、この速度自体 は速いと言えるものではありません。また、古代 の馬は、体高120 ~ 130cmと大きくありませんで した。しかも、移動可能時間は日の出から日の 入りの間(12、3時間)まででした。しかし、約 16kmの等間隔に設置された駅家の存在が、安定 した速度での情報伝達を可能にしていたと本書 は述べています。

 駅家には駅子と呼ばれる職員が常駐し、馬も 何頭か用意されていました。規律も厳しく、駅使 の情報伝達が遅延すれば、その駅使は最悪の場 合、流刑に処されるとされていたそうです。安定 した速度を保つために、規定の馬や駅路を使用 した移動でない場合でも咎められた例も本書で 述べられています。

 駅路も情報伝達速度や馬の神経質な気質を考 慮して、必ず真っ直ぐに舗装していたと言います。

駅路は一駅約16km間隔でしたが、国家はこれを 一ヵ月半という短期間で行っていたそうです。聖 武天皇の時代の800年頃、奈良の僧・行基が北 海道や沖縄を除く日本地図を、駅路を基に作成し ていたという話もあります。かの有名な伊能忠敬 の『日本地図』は1800年頃ですが、確かならば、

その一千年前にその原型が完成していたことにな ります。

 この通信体制には、唐(現・中国)から導入さ

れた律令制度が大きく影響していました。ただ、

当時は壬申の乱や白村江の戦いが勃発しており、

内政と外交の面で不安定な情勢でした。160km の長距離において安定した速度での通信が求め られたのも、このような緊急事態に備える目的も ありました。しかし逆に言えば、それ以外の理由 では、1日160kmを下回った速度でも問題は無かっ たということでもあります。実際、外交使節の日 本到着の場合、太宰府(現・福岡県)から都ま で知らせる速度は1日72 ~ 80kmだったと述べら れています。

 一方、駅制の維持は多大な困難が伴ったと本 書は述べています。駅子の業務は農民に課され ていましたが、税免除は成されていたものの、馬 の世話などの重労働でも給金が支払われないこ とがある上、故郷にもなかなか帰れません。馬の 餌代や世話などにも多くの費用がかかりました。

緊急事態に備える目的だった駅制の意義も拡大 解釈され、官吏の旅行などでも仕事を課せられ負 担が増大していったそうです。そのため、駅制は 律令制度と共に衰退していきましたが、国司の権 限が強まり朝廷の制御から離れていったことが拍 車をかけました。国司の権限強化は、朝廷が課 税対象となる全国の土地を把握するなど、中央集 権体制の維持のため求められたものですが、逆 効果に繋がったようです。

 遠い時代といえど、現代に生きる我々が驚嘆す るほどの精巧な文明があり、その構築に迫られる ほど厳しい時代であったことを本書は示していま す。しかし同時に、それを維持し続けることが如 何に難しく、また、完璧に見えて少なくない矛盾 や欠陥を孕んでいるということも示してくれている のだと感じました。

いながき ひろゆき(司書・管理運営課)

図書館員の文献紹介と      資料の活用

29

参照

関連したドキュメント

当初 10 日間は、稽古時間の 3 分の 2(全体の稽古時間を 1 時間と すると 40 分)は、準備体操やトレーニング、素振りなどを行い、.. 面をつけての稽古は全体の稽古時間の

目録中の最古の日記帳は、一袋に纏められた資料群[1-1 から 1-10] 12) に含まれる、1887 年の日記が綴られた自家製の『明治十 日記帳』

  はじめに走行環境が異なることにより判断時間にどれ だけ差が生じるかをみていく。本研究では 40〜80 km/h

は し が き 本報告書は、外務省より平成24年度国際問題調査研究・提言事業費補助金を受 けて、「北極のガバナンスと日本の外交戦略」というテーマのもとで、1 年間当研 究所が行ってきた研究活動の成果を取りまとめたものです。 地球温暖化の影響に伴う北極海の海氷面積の減少に伴い、海底資源の権益確保や

度を比較している。

1 4 3 デジタル時代の到来とネットワーキング デジタ J レ・ネットワーキング戦略 ( 1

-26-..

さらに, 次なる時代への改革のプログラムである「日本新生プラン」を政