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デジタル・ネットワーキング戦略(1) デジタル時代の到来とネットワーキング-香川大学学術情報リポジトリ

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香 川 大 学 経 済 論 叢 第71巻 第1号 1998年6月 133-155

研究ノート

デジタル・ネットワーキング戦略(

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デジタル時代の到来とネットワーキング

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デジタ1レ革命の影響 1. 1デジタル革命 デジタル デジタル化はあらゆる方面から注目されているが,端的に言えば, 現在, アナログからデジタルへと転換されることである。アナログ 化とは情報伝達方式が, とは,情報を波のような不連続的な信号として取り扱う技術をいい,対してデジタル あらゆる情報を

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と 1からなる値で表そうという技術である。デジタJレ化が進 とは, むと,すべての情報が,同じ形式によって表され,情報の加工や統合がしやすくなる。 マルチメディアが実現し この技術転換により,多様なメディアの統合した形である, デジタノレ革命と呼 たのである。この情報伝達形式の変革とその祉会に及ぽす影響は, さまざまな影響を各方面にあたえる。 ぶにふさわしく, そして家庭にまで及ぶ、影響がすでに デジタyレ化は急速に進み,市場,企業, 近年, アルビン・トアラーが述べた,第

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の波が派生しているのである。 みられる。まさに, トフラーは,人類の歴史を文明史的にとらえ,農業革命を第1の波,産業革命を第2 そして現在のデジタル革命という情報伝達方式の転換にともなう社会の変化を の波, (1) 原田が主催しているデジタル時代の到来を支持する同好メンバーによる研究会の研究 テーマであるデジタル・ネットワーキングシリーズの第 1弾である。 ( 2) 社 団 法 人 香 川 経 済 同 友 会 調 査 主 事 。

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134 香川大学経済論叢 134 第3の波とした。そしてこの第3の波における変化を,農業革命,産業革命のそれを デジタlレ化を在会の根本的ノfラ夕、イムをもかえるものとして しのぐものであるとし, (3) 位霞づけている。 デジタル革命が社会全体に及ぼす影響を大きくとらえ,かつ今後 本稿においても, デジタノレ革命をパラダイム・スイッチャーとして位置づけて の社会の変化において, いる。そして来るべきパラダイム変革後の社会を情報世紀と名付け,情報世紀はデジ タノレ化によって広がった情報利用の可能性が十分に発揮された社会システムが,構築 されるべきであるとの観点から,情報世紀の社会をデジタlレ・ユートピアとして述べ る。また,構築されるべき社会システムの基本コンセプトとして,後に述べるデジタ i h

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そしてデジタル・ネットワーキングを, 21世車己にデジ lレ・ネットワーキングをおき, タノレ・ユートピアを創造するための組織論的な方法論として捉え,企業や生活におけ る未来の活用策について多面的な検討を行う。 2“デジタル・ユートピアにおける企業と生活 ドン・タプスコットが言うまでもなく,デジタル化が現出させる情報世紀において (4) は,知のネットワークが基本にある社会であり, これがデジタル・ユートピアを実現 させる条件となる。人類の知識は,あたらしい情報伝達手段によって誰にでも入手可 能な情報内容が広がることにより,人類共有の財産となる。 この知のネットワークこそが,来るべき市場,企業,家庭の地殻変動を乗 そして, デジ この知のネットワークによる, り切るための最良の乗り物となる。したがって, タJレ・ユートピアの方向性の明確な規定が重要である。 リアルタイ プローシューマーの登場, デジタル革命の企業や生活への主な影響は, そして組織のバーチャル化の3点にまとめられる。第1のプロ ム・アクティビティ, これは経済

(3) Alvin Toffler, THE THIRD WA VE, W. Morrow & Co, 1980 ,.第三の波J(徳山

二郎他訳)日本放送出版協会, 1980年。

( 4) Don Tapscott, THE DEGITAL ECONOMY : Promise and Peril in the Age 01 Netωorked Intelligence, McGraw-Hill, Inc.., 1996 rデジタル・エコノミーJ(野村総合

研究所訳)野村総合研究所, 1996年。

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135 デジタル時代の到来とネットワーキングデジタlレ・ネットワーキング戦略(1) 135-環境における供給側と需要側の特定を難しくするという大きな変化を意味する。第2 のリアルタイム・アクティビティとは,デジタル化によって需要が発生した時点での 生産というような企業活動が可能となり,経済学における新たな生産性概念の発生を 意味している。第

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の組織のバーチャル化とは,企業が実体として存在しなければな らない理由はなくなり,企業のゴーイング・コンサーンや規模拡大への指向性という 経営学における伝統的な企業観が,捨て去られることを意味している。 3わ複合型な社会システムの誕生 また,デジタノレ・ユートピアの社会システムとは,シビック・リベラリズムを指向 する社会であり,ここでは効率と公正,競争と協調,経済と文化という異なる価値の 聞のバランスが重視されてくる。すなわち,従来の創造的な個衆が自己組織化を展開 するような社会ではなく,偲の存在意識のゆらぎがいわばカオスとなり社会構造や社 会秩序を形成するような社会である。 またコミュニケーションの側面からも,インターネットに代表される電子ネット ワークの定着により,従来の個人や家庭,組織,地域のあり方とはまったく巽なる形 態のネットワークが形成されてくる。 このことは,現在我々の生活する実態社会であるリアノレワールドに加えて,非実態 のバーチャルワーノレドも含んだ複合的な社会システムの登場を意味する。ネットワー ク上にしか存在しない,非実態の世界が実態社会と問等に認識されることになる。こ の複合的な社会システムにおいては,バーチャルで多用な共同体型の組織が多くみら れるだろう。また時空間の壁を超克することが司能となる。また,不特定多数を対象 とした情報発信や,相互に関連しあい,聞かれたコミュニケーションにより,地域や 人種,年齢,性別,職業の枠を超えたグローパルな不特定多数に対する情報発信が可 能になっている。こうして,我々は複合的な社会システムの中で,まだ見ぬ多くの人々 との精神的な出会いという人間的な豊かさを獲得することができる。 4デジタル・ユートピアへの方向性 しかし,デジタル化が現出させるデジタJレ・ユートピアが真のユートピアであるか

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-136:ー 香川大学経済論叢

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どうかは,我々の意識の在り様に大きく依存している。すなわち,このデジタノレワー ルドに期待される

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世界観とは,たとえば直接民主主義を指向したコミュニティーが創 造され,そして人類文化のコラボレーションによる平和で安心な生活が保証されてい る,というイメージなのである。すなわち,現在の資本主義的な交換利益社会を超え て利他主義と正当な利己主義を両立させうる,いわばyレドルフ・シュタイナーの主張 する共同利益社会といったニューパラダイムの創造が要請される。 こうして,経済生活のすべての分野に従事する生活者が,心の次元でも深く結びつ く紅会の到来が期待されてくる。言い換えれば,共同利益社会においては経済活動全 体が個人の経済的関心の中に反映することを意味している。こうして,信頼をベース にした社会思想が根づけば,このための価値規範もおのずと経済から文化へと次第に 移行するようになる。しかし,そのためには,新しい人類文化の形成と高度なデジタ ル技術の動的調和が強く求められてくる。このようにデジタル・ユートピアの実現に よって,これからは地球上の人々は,より深いところで価値を共有して地球的な規模 での自己実現の機会が獲得できることになる。 II.情報世紀のニューパラダイム

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新しい価値規範であるビット デジタル革命はデジタル・ユートピアを現出する可能性があると述べたが,この世 界を規定するのは,従来とは異なる規範である。すなわち,ニコラス・ネグロポンテ の主張したように,従来のモノの経済を支えていた規範は物質としてのアトムである (6) が,これからの情報の経済を支える規範は情報としてのビットなのである。このビッ トの特徴とは,色も大きさもなく,また光の速度で移動することである。そして,情 報としてのピットは,たとえばサンプリングの感覚を狭めることによる完全なレプリ カの創造を可能にする等の現象を社会に多く生じさせることになる。 あらゆる情報がビットになることによる影響が具体的にどのようなものであるかを (5) }レドルフ・シュクイナー,高橋巌訳『社会の未来』イザラ書房, 1989年。

(6) Nicholas Negroponte, BEING DIGITAL, Alfred A.Knopf, Inc.. , 1995 rビーイン

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デジタル時代の到来とネットワーキングデジタJレ・ネットワーキング戦略(1) -137-考えると,以下の2つにまとめられる。まず第1には,ビットは容易に混じりあうこ とから,マルチメディアを可能とする。そして第2には,キーワード機能のヘッダに も似た他のビットを教えるようなビットが現出する。このような混じりあうビットや ピットについてのビットの登場によって,従来のメディアの構造は根本的に転換して しまう。このように,情報としてのビットの存在によって,まったく違った素材を組 み合わせ,新しい情報内容をも創造できるのがデジタル時代の特徴である。また,こ のように新しい価値規範が誕生するのが,情報世紀なのである。 2.新しい時空間のバーチャルワールド 我々は,リアルワールドにおいては地球という実態世界の中での社会性を持ってお り,同時に物理的な環境の中で生活している。しかし,新しい時空間のバーチャルワー ルドでは,もはや社会的な環境が物理的な環境とセットでなく,物理的な環境のない 場においても社会的な環境が形成されることになる。ここで,リアJレワーノレドとバー チャルワールドの双方がくみ合わさり,同等に認識される社会をデジタルワールドと 名付けよう。事実,このデジタルワールドでの社会活動への参加は,例えばインター ネット上での議論への参加など,すでに実感できる社会活動なのである。 バーチャJレワールドにおいては,人聞が実感できる新たな時空間は,リアルワーノレ ドと比べ,飛躍的に広がる。したがって,デジタルワールドでは,バーチャノレワール ド部分において米開拓なバーチャル空聞が無限に存在するため,新しい出会いや体験 の可能性も広がることになる。 そして,デジタルワールドへの移行における組織形態の変化については,図1のよ うに表すことができる。一方でバーチャル・コーポレーションという経済組織を,他 方ではバーチャル・コミュニティーという非営利組織を現出させる。前者のバーチャ ル・コーポレーションとは,まさに情報世紀における理想の企業形態であって,イノ ベーションのために優位性を持った組織である。後者のバーチャlレ・コミュニティー とは,ネットワークを用いた教育支援システムや交際支援システムが代表的な形態で あるが,これは個人の生活をサポートする非営利組織である。

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138 香川大学経済論叢

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リアルワールド

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惨 バーチャルワールド 膨 大 な 未 開 拓 市 場 バーチャルフロンデイア の存在 図1 デジタル時代の組織形態変化 3リ新しい価値指標のプラグ・アビリティ 138 従来は,企業成績評価基準として,投入に対する産出である投資生産性のみが主に 用いられてきた。そのため,企業や人間の評価を,すべて所有物の多寡で行うような 傾向も強かった。ところが,情報世紀においては,企業にとっても個人にとっても, 他者を頼らない自立した精神や自身での創造力が要請されてくると考えられる。こう なると,実際の生活においても,ある時間を企業のためにまたある時間は家庭のため にと,自らの裁量で振り分けた生活プランの構築が必要となる。 このような状況では,まさに自立した個が保有する知を,いかにネットワーキング するかという能力が関われはじめる。言い換えれば,連結の経済性を追求する生産性 視点が要請されている。すなわち,異質な能力の適切な連結で付加価値の増大を可能 にする能力であるプラグ・アビリティーなどが重視されてくる。こうして,バーチャ ノレなネットワークは,従来の企業や共同体の価値指標を超えて進化しはじめている。 4ドデジタルワールドにおけるライフデザイン デジタノレワールドでは,個人が自身の人生において,より自由な出会いやコミュニ

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139 デジタル時代の到来とネットワーキングデジタル・ネットワーキング戦略(1) -139-ケーションの実現をつうじて,ライフデザインとも認識されるような,あらゆる場へ の自由意志による参加を可能にする。とりわけ,不特定多数の人々が生活関心を同時 に充足するような場であるコミュニティーなどは,従来に比較するとかなり身近なも のになる。また,このデジタlレ化が現出させるバーチャル・コミュニティーは,ネッ トワークによる地域を超えたコミュニティーの形成,ネットワークによるコミュニ ティーの強化,ネットワークによる新しいコミュニティーの創造,という

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つの新し いコミュニティーの方向性を予見している。 とりわけ期待すべき事象は,ネットワークによる新しいコミュニティーの創造であ り,具体的には,サテライトオフィスや在宅勤務によって居住区を基盤としたトータ ル機能としての地域コミュニティーである。このような地域コミュニティーでは,リ アノレなコミュニティーとバーチャルなコミュニティーとのシナジー効果が発揮でき, 個人生活は生活空間や仕事空間の自在な編集やデザインが容易に可能になる。こうし て,ネットワークの活用によって,生活者はデジタノレワールドにおいて,自身の人生 をデザインしながら,進めていくことができるようになる。 III.デジタルワールドのネットワーキング 1デジタル・ネットワーキングの意義 前節で述べたように,情報世紀の社会をデジタノレ・ユートピアとするためには,社 会システムの基礎にデジタノレ・ネットワーキングがおかれなければならない。デジタ ル化によって,従来のコンピューター・ネットワークがあらゆる方向に広がっていき, 生活のすみずみにはりめぐらされた状況になる。そうして,好むと好まざるとに関わ らず,各個人の相当に詳しい情報がネットワーク上にのせられるようになると,ひと つのコンビューター・ネットワークが人間のネットワーク化を可能にする。これによっ て,富の創造や社会開発のために,ネットワークを通じて人々が頭脳や知識や創造性 を結集することができる。そして,いちどに結集することのできる情報量が格段に増 加するため,従来に比べ,効率的な成果が期待できる。このような情報の結集が各個 人の意志で,ネットワーク上のあらゆる場所でランダムに行われ,ネットワークの一 構成分子である個人がネットワーク上を自由に飛び回ることによって,そのネット

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ワークの情報量は増加し,創造の可能性はさらにひろがっていく。このようなネット ワークを仮にデジタ1レ・ネットワークと呼ぶことにしよう。 そこで具体的に,デジタル・ユートピアを現出できるかどうかの鍵を握るデジタル・ ネットワーキングの性質について,つぎの

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点をあげ,それぞれについて述べていく。 まず第1は知のネットワークと個のネットワークが,共生していることであり,第2 はネットワーク上のバーチャル・コーポレーションとバーチャル・コミュニティーの 存 在 で あ れ そ し て 第 3は情報世紀に相応しいユートピア創造への働きである。それ ぞれについて詳しくみてみよう。 2知のネットワークと個のネットワーク まず,デジタルワールドの組織戦略の要諦は,第 1は知のネットワークと個のネッ トワークの共生が重視されることである。このような知のネットワークと個のネット ワークの重視は,コンピューターネットワークと人的ネットワークのバランスのある 統合から現出される。これによって,はじめてデジタノレ時代は技術と文化を共生する 世界の構築が行える。 また,企業経営は次第に知識をベースにしたものに転換し,このため企業は知のネッ トワークを求めたグローパルな行動を行うことになる。また,地域のネットワークも いまや知を求めており,従来の居住空間を基軸としたいわゆるご近所概念から,場と いう物理的な制約には囚われない無限のフロンティアへの拡大を指向する。このよう な状況下で,知識は企業への蓄積から個への蓄積へと転換して,このため企業は個に 蓄積される知の動態的なネットワークへと転換する。ここにおいては,個と個の複合 的なネットワークが,たがいに創発的な価値を創造するシステムとして稼動していく。 3刷バーチャルなコーポレーションとコミュニティー また,デジタノレワールドの社会に対する最大の貢献は,前述した,時空間の制約を 超えたバーチャル・フロンティアの誕生にあるといえよう。すなわち,従来のリアル ワールドを超えたバーチャノレなもう一つの世界の誕生なのである。このようにして, ビジネス空間にはバーチャル・コーポレーションが,生活空間にはバーチャル・コミュ

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6 t t b t a p -B 4 9 t h 141 デジタル時代の到来とネットワーキングデジタ1レ・ネットワーキング戦略(1)

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ー (7) ニティーが,それぞれ誕生してくる。そこには,ネチズンと呼ばれるバーチャルワー ルドの市民が誕生して,そしてやがてバーチャルワールドとリアJレワールドとの仕切 り枠も消滅し,湾然一体化した時空聞が現出する。 ノTーチャlレ・コーポレーションは関連を多面的に拡大することで,いわば小さな大 企業ともいうべきビジネスネットワークを誕生させている。このことは,究極的には, 個人企業のアライアンスによるアメーパー状のグローパルなネットワークへの発展を 予見している。また,バーチャJレなコミュニティーの代表的な形態にいわゆるフォー ラムが位置づけられる。フォーラムでは,多くの見も知らぬ人々が消費行動や生活の 知恵を互いに出し合っており,ここはあたかも情報の交換市場のようである。 4“情報世紀のユートピア創造の働き このように,デジタJレワールドは社会の未来を明るくする期待の星でもある。した がって,我々にとっては,この明るい未来を現実のものにする努力の実践が大切なの である。すなわち,情報世紀の社会は,決してウィリアム・ギブソンが『ニューロマ ンサー』に描いたような暗い世界であってはならない。デジタlレワ-)レドをユートピ アにするか,またディストピアにしてしまうかは,それこそ我々の手にかかっている。 大切なことは,技術のみを絶対的に信奉することなしまた否定もすることなし科 学と人類のバランスのある共生を探ることである。 昨今では,環境問題に代表される地球上の課題などから地球の未来を憂えるあまり, ディストピア幻想に落ち入ってしまう傾向が台頭している。また同時に,米来を憂え ることからむしろ過去へ逃避を行って,ひたすら過去を賛美するという風潮もみられ る。そこで我々は,このような状況を打ち破って情報世紀に真のユートピアを実現さ せるためにこそ,バーチャ1レなフロンティアの開拓を行うべきなのである。そして, デジタル革命の到来が新たなフロンティアを現出させることもあり,人類の未来の進 歩へ向けたバーチャルワールドへの期待は多大なものである。したがって,これから

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F ネティズン~ (井上博樹他訳)中央公論社,

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年。

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142ー 香川大学経済論叢 142 は,技術的な観点からの十分な検証を行うとともに,人間の論理と技術の論理の整合 性について配慮することが,たいへん重要で戦略的な課題となる。

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デジタノレ時代のビジネスチャンス 1インテリジェントなインターフェース アトムからビットへの転換は,ビジネスプランに対しでも多大な影響を与えている。 無限のネットワーキングが可能な時代になるとネットを効率よく構成する能力が不可 欠になる。そこで,期待されるのが,知的なインターフェース機能である。インター フェース機能とは主に人間と機械を結ぶ媒体としての機能をいい,この機能の善し悪 しが,ネットの効率性を決定づける。サプライヤーにとっても,ユーザーにとっても, この機能を担うエージェントが,社会システムにくみこまれることが必要である。こ うして,コンピューターとの会話は,企業はビジネス・エージェントを,そして生活 者はライフ・エージェントと,それぞれエージェントを介在させた形態になる。 ライフデザイナーを指向するポジティブな生活者にとって,このエージェントを装 備さえすれば,供給者側に対しても主導権を握って,購買行動がおこせる。すなわち, 生活者がニーズ情報を発進して,エージェントがこの情報への適切なナビゲーション を行って膨大な情報の中から数点に絞り込んだ情報のフィードパックを行う。これら のフィードパック情報の中からのみ,生活者は本当に欲しい物を選択しさえすればよ い。すなわち,生活者からの発信情報に対して供給者側が応えるという新たなビジネ ス形態が誕生する。このシステムは,まさにリパース・マーケティングともいうべき 生活者起点、の新しいマーケティングの分野なのである。 2.非同期モードでのネットワーク ビットの時代の到来は,従来では非効率であった非同期モードでのコミュニケー ションを改革させた。もちろん,ビットの時代の特徴は,一方ではリアルタイムでの スピードの追求だが,他方ではまた非同期のコミュニケーションによる時聞からの解 放も特徴なのである。たとえば,単なる報告,連絡,情報提供などは,必ずしも同期 のコミュニケーション形態をとる必要などはない。むしろ,場合によっては,非同期

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143 デジタル時代の到来とネットワーキングデジタJレ・ネットワーキング戦略

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-143-のほうが望ましいケースもある。すなわち,ネットワークをオフの状態にしながら時 間をずらして後で処理できるのは,多大なメリットである。 また,コミュニケーションを非同期にすることで,情報の受発信の機会を大幅に拡 大できる。すなわち,従来のネットワークと異なった情報縁ともいうべき新たなネッ トワークの創造である。ここでは,見も知らぬ人々とも自在に,そして年齢や場の制 約も超えて結びあうことができる。この出会いの場にこそ,デジタル時代のニュービ ジネスが期待されるニューマーケットが誕生する。また,情報縁の持っている特徴は, ネットワ}クを無限に増殖でき,またネットワークの性格もより個性的なものを指向 して多様な形態に発展できることである。このように,非同期という特徴を利用した ビジネスチャンスは,これからのデジタル時代には無限の可“能性が潜んでいる。 3“空間の制約を超えるネットワーク デジタル時代のもう一つの特徴は,従来の空間の持つ制約から完全に開放されるこ とである。すなわち,デジタル時代には,ビジネスにおいても,生活においても,地 理的な限界が完全に除去される。すなわち,特定の時間や特定の場所への依存度をほ とんど消滅させてしまう。場合によっては,場所そのものさえも電子的な手段でバー チャルに提供できてくる。こうして,まさに居ながらにして,世界中,あるいは宇宙 の果てにまで,自在に到達できるようになる。そして,自らも場所の特定ができない 空間において,同時に自在に複数の仕事や生活をマルチに行えるわけである。 このように,デジタル時代には,生活や仕事の場が一体になっていたり,多様に分 散しているため,とりわけアドレスという概念が大切になってくる。このアドレスと は,リアルワ-)レドにおける住所とはまったく異なった概念である。バーチャルワー ルドの住所であるアドレスは,多数のビジネスチャンスを誕生させる。つまり,時空 間のずれを意図的に活用したマーケティングやコミュニケーションによって,新たな 価値がうまれつつあるのである。こうして,従来のリアルワーノレドにおける常識が, 根本的に覆える時代へと,次第に移行していく。

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-144- 香川大学経済論叢 144 4“生活者を重視するオン・デマンド指向 また,デジタル時代における生活が本格的に発展すると,リアルタイムにおけるニー ズよりは,むしろオン・デマンドに対するニーズが高まってくる。すなわち,デジタ ノレ時代において,主流になる消費に関する情報は,いわゆるオン・デマンドな情報な のである。オン・デマンドな情報とは,需要や必要のあった時点での情報である。こ の情報の活用により,消費者は自分が欲しいものを,欲しい時に入手でき,供給者は, 効率的なものを含めたサービスの提供ができる。 また,このようなオン・デマンド情報の活用は,マス・メディアの終駕とパーソナ ル・メディアの台頭を引き起こす。そうなれば,ペイ・パー・ビューに代表される広 告などが代表的なメディア形態になる。そうして,いよいよ前述のりパース・マーケ ティングのためのメディアが重視されてくるようになるのである。 誰もが,自在に,いつでも,必要な情報を引き出せるメディアの操作を行って,最 終的には個人がパーソナル・メディアを所有すると予想される。この段階にいたれば, 前述したエージェントを有効に活用し,あたかも自分自身をメディアのような存在へ と転換できる。 そして,メディアのパーソナル化の進展にともなって,サプライチェーンに象徴さ れる伝統的な流通システムが解体し,いわばプロシユーマーたる生活者を基軸とした ネットワークが登場しはじめる。こうして,オン・デマンドなメディアの発展にとも なって,オン・デマンド指向の生活システムが構築されるであろう。

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デジタル時代のニューフロンティア

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ショッピングのキャッシュレスイ

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ニ いよいよエレクトロニツク・コマースが実証実験の段階から実用の段階を迎えてい る。エレクトロニツク・コマースとはインターネット上に仮想、商底街を設置し,各種 商品の通信販売を行う試みである。そしてネットワークを活用したオンライン・ショッ ピングも本格的な展開が大きく期待されるまでになった。従来では,セキュリティ面 にやや課題があったが,電子マネーの技術的な改善もあって,これから飛躍的な発展 が期待される。そうして,

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が付与されたプラスチックカードがあれば,現金なしで

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145 デジタデジタル・ネットワーキング戦略{1)Jレ時代の到来とネットワーキング -145-ショッピングが楽しめる。さらに現在では,百貨庖などでプリペイドカードとして使 用でき,さらに公衆電話のテレホンカードとして使用できる電子マネーカードも,実 験段階であるがすでに登場している。 また,流通業のみならず金融機関においても,金融ピックパンへの対応からマーケ ティング戦略のデジタル化を積極的に展開している。具体的には,国際キャッシュカー ドによるサービス提供へ向けたグローパルなATMネットワークの整備などである。 そして同時に,電話やパソコンを利用したダイレクト・バンキングについても,すで に実用が射程距離に入っている。このシステムの特徴は,銀行の庖舗に行くことなし に資金移動が行えることで,すでに実際に振込や振替などが行われている。 2エンターテイメントのパーソナル化 インターネットやデジタル衛星放送の実用化によって,ビジネス面のみならず,個 人の生活におけるエンターテイメントも格段の広がりを見せている。映画や音楽,そ してファッション,レジャーなど,新しい個のニーズへの対応ビジネスも多彩に展開 されている。このような状況下で,最も期待されるメディアは,すでに話題になって いるウェブTVである。このウェブTVとは,いわばテレビをインターネットの端末 に変える装置であり,リモコン一つで簡単に操作できるハードである。こうして,マ スメディアのツールであったテレビが,いよいよ個人向けマルチメディアの端末とし て登場する。 このような動向は,家電とマルチメディア機能を持つ情報端末の一体化傾向を示し ている。また,これによって,ニュービジネスとしての期待が大きいマルチメディア・ マーケティングの本格的な展開も可能となる。こうして,いわば眠らない庖や劇場な どが続々とバーチャルワールドに登場し,いつでも,どこでも,自在に個人の生活に エンターテイメントを組み込める。言い換えれば,まさにメディアの進化が個人のラ イフスタイルを高度化させているといえる。 3..教育における生涯課題化 さらに,デジタノレ時代では学習についても従来の形態はまったく変化してしまう。

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-146- 香川大学経済論叢

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もはや従来型の学校などは消滅して,ここでは登校拒否の問題は生じない。また,ま すます学習は生涯を通じた課題になり,そのため児童や青年向けの学習という発想か ら転換がはかられつつある。そうなると,公的な既存の教育機関では対応が困難に なり,教育は次第に正規の学校体系から離れたシステムに移行していく。こうして, 学習領域にも多大なニュービジネスのチャンスが現出する。 また,新しいメディアの学習への活用によって教育方法も根本的に転換する。これ からは,とりわけ外部との関係を重視し,より聞かれた学校を指向すべきである。こ のようなことは,インターネットを活用することで容易に実現でき,これより到来す る知識時代にも相応しい学習も可能になる。とりわけ,大学については,従来以上に 社会の動きと連携した教育が望まれる。この要望が充足されることは,仕事と学習の 距離感の短縮を意味している。そうなると,大学のカリキュラムや教授の資質につい ての再考も,これからは避けて通れない課題である。 4..ホーム・セキュリティのデジタル化 また,デジタノレ時代の家庭生活についてはホーム・セキュリティの電子サービス時 代を迎える。いよいよ家電製品や住宅がネットワーク化されて,個人の住宅までもが セキュリティ・ネットワークに組み込まれてくる。つまり,家庭内の機器をネットで 連結することで,防犯,通報や自動施錠などのホーム・セキュリティも可能になるの である。また,高齢者や病人のケアや遠隔医療も可能になり,まさに高齢化社会に不 可欠な社会的なインフラになるだろう。そして,この領域にはすでにホームドクター など多くの事業化も推進されている。 このホーム・セキュリティーのビジネス領域は,これからはネットワークを活用す ることによるサービス産業への発展が可能である。具体的には,マン・マシン・シス テムの構成要素の中における人的サービス領域をマルチメデ、イア機能で代替すれば, セキュリティ・ビジネスで獲得しているインフラを教育産業や情報産業へ活用するこ とが可能なのであり,オン・デマンド指向のサービス産業の高度化に道を開くだろう。

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147 デジタデジタル・ネットワーキング戦略(1)lレ持代の到来とネットワーキング

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I.収穫逓増を可能にする経済法則 1収入鉱大への動態的構造 -147二一 デジタノレ時代の経済法則によると,デファクト・スタンダードを得た企業には収穫 逓増の法則が働いて,ク、ローパyレなレベルで一人勝ちが可能になる。そして,またバー チャノレ・ビジネスにとっても,この収穫逓増の法則はきわめて有効に作動する。この 収穫逓増の法則とは,売上高がある臨界点を超えると一気に上昇し,このため単位当 たりコストが削減して,結果的には大幅な収益増大が実現するという法則である。す なわち,バーチャル・コーポレーションの経営者は,この収穫逓増の法則によって多 大なリターンが約束されている。 収穫逓増の法則が働く事業には,

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つの成長形態があると想定される。第

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は,新 製品や新サービスの開発に膨大な投資が要請されるが,一方では単位当たりの追加コ ストがきわめて少額な成長形態である。第 2は,販売される数量が倍になるたびに, 単位当たりコストが大幅に低減する成長形態である。第3は,使用される商品やサー ビスが増大するに連れて,それらの付加価値も高まる成長形態である。そして実は, ノTーチャル・ビジネスの形態とは,これらの 3形態のすべてに該当する収穫逓増型の 成長形態なのである。 2..早期参入が勝利の条件 収穫逓増型のビジネスでは,可能な限り早期の事業参入が成功のための不可欠な条 件である。そして対象ターゲットに対する素早いアクセスと,マス化される手前のビ ジネス・ネットワークの完成が必要である。不確実性を恐れるあまり勝算が明確にな るまで待っていては,一つも成果があがらない。すぐに参入障壁が高くなるため,一 旦遅れてしまうと参入が不可能であり,また逆に先行すれば他者による参入を阻止で きる。 すなわち,バーチャlレワールドのビジネス形態は先手必勝であって,ここでは遅れ (9 ) 事実上の業界標準のことをさす。

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-148ー 香川大学経済論叢 148 をとることが,そのまま敗北を意味する。この遅れの具体的代償については以下の4 点に総括できる。第1点は先行者による独自資産の構築による参入障壁である。第2 点は後から有能なメンパーを募るのが困難という人材面の参入障壁である。第3点は 第2点の結果でもあるが,すでに他ネットワークに因われた専門家を入手するには多 大な人件費が必要になるコスト面からの参入障壁である。第4点は参入障壁が高まる につれ,先行ネットワークの市場シェアが雪だるま式に上昇する事業構造面の参入障 壁である。これらのことから,後から参入し障壁を乗り越えるのは,常識的に困難な 課題である。 3..進化するバーチャル・コーポレーション ビットのネットワークであるノてーチャJレ・コーポレーションは,いわゆるコミュニ ティー指向であることが組織形態の特徴である。そして,このバーチャル・コーポレー ションの進化過程は,すなわちコミュニティー型組織の進化過程である。第1段階で はいわば点の段階,第 2段階では面への発展段階,第 3段階ではこれが連動する段階, 第 4段階ではエージェントへの転換段階なのである。これらの発展過程の素早い上昇 が勝利の決め手になる。こうして,組織の発展を自己目的化しないメンバー自身が主 体である組織ノfラダイムが現出してくる。 コミュニティー組織の発展過程に見る最終像の展望として,この段階では,コミュ ニティー組織はメンバーに対するエージェントへと進化している。ここでの連合した コミュニティーは,参加メンバーに対する利益の最大化を狙うことが,その主たる責 務である。ここにおいて必要な情報を入手するためには,メンバーは最も効果的なコ ミュニティーへとアクセスする。また,この段階における情報は,組織には1帰属せず にメンバー自身に帰属すると共に,エージェントである連合化されたコミュニ ティー・メンバーに対する価値の極大化を指向する。 4..オーブン指向のプラットホームビジネス デジタノレ化の波はリアルワールドのビジネスに対してもパラダイム転換を強いてい る。新しいパラダイムは,プラットフォームの構築の要請と,オープンであることが

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149 デジタル時代の到来とネットワーキングデジタル・ネットワーキング戦略(1) -149-成功の鍵となるという法則である。実際これらの点において,先行しているコンピコー ター業界では,すでにインフラとしての

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を異なる機種やメーカー間で共 通して使える技術基盤を構築しており,その上で活動する企業の活動をサポートする 産業プラットホームの構築を行っている。そのため,コンビューター産業の組織は, すでに垂直構造であるタテ型組織から水平構造であるヨコ型組織へと転換し終えてい る。 また,この産業プラットホームビジネスからは,多くのベンチャーが誕生しており, このため産業振興の観点から多大な期待が寄せられる。このプラットホームビジネス の代表的事例は,金融市場のカードビジネスにおける VISAや,金型部品市場におけ るミスミや,中古車取引市場におけるオークネットなどが有名である。また,このプ ラットホームビジネスは,原則的にはデファクト・スタンダードの指向に特徴が見出 せる。こうして,プラットホームビジネスの優等生であるマイクロソフトやインテル が誕生した。 VII.コラボレーションとアライアンス 1分業体重視から関係重視への転換 デジタル化の到来は,マーケティング戦略や組織戦略を根本的に転換させる。マー ケティング戦略においてはパーソナル・マーケティングが主力になって,この結果サ プライチェーンはカスタマー・サポートシステムへと転換する。組織戦略については, 従来の分業論を前提としたシステムから,関係論を前提としたネットワ!ークへの転換 である。また,企業聞の関係もよりオープンな形態になり,系列に代表される伝統的 な支配一被支配の関係から,規模の大小に影響を受けない対等な水平的な関係が成立 するであろう。 このように,これからの組織化は,いわばN対Nの自在なネットワークによるコラ ボレーションの追求に特徴がある。これは,一時的なアライアンスを多面的に行うこ とで,自らの能力では実現できないパワーの獲得を狙う戦略である。その意味では, これからは内部統制を重視するコーポレート・ガパナンスよりは,むしろアライアン ス・マネジメントが重点課題になる。こうして,企業と顧客の関係も,従来のサプラ

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15β,ー 香川大学経済論叢

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イヤーとユーザーという関係から,おたがいがパートナーであるという関係にまで高 伸する。 2リパーソナル・マーケティング時代 デジタlレ化の進展にともない,マーケティング戦略は次第にパーソナル化指向を強 めている。この代表的なコンセプトがドン・ぺパーズのいう

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マーケティ (10) ングなのである。このマーケティングの特徴は,従来の顧客獲得に力点を置く戦略か ら既存顧客の囲い込みに力点を移転したことである。その理由は,このパーソナル・ マーケティングは売上高の増大を指向せず,利益高の増大を指向するからである。ま た,パーソナノレ・マーケティングは,成長期の戦略ではなく成熟期の戦略であるとも いえる。 ここにおいては,マーケッターも従来とは様相の異なった性格へと転換する。従来 のマス・マーケティングにおいては,いわばプロダクト・マネージャーであるマス・ マーケッターが活躍したが,パーソナノレ・マーケティングでは,顧客とのリレーショ ンを深める顧客マネージャーに期待がかけられる。また,そのためには顧客との良好 なリレーションシップの形成こそが不可欠な条件になる。こうして,データベース・ マーケティングが期待され,先端技術であるデータウエアハウスやデータマイニング が重視される。

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によるネットワーキング マーケテイング戦略のマス・マーケティングからパーソナノレ・マーケティングへの 転換によって,流通システムもカスタマー・サポートシステムへと転換した。このよ うな現象は,製販同盟に代表される小売とメーカーとのコラボレーションシステムで ある

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への進化を要請している。このことはまた,流通システムを 語るロジックのチャネル論からネットワーク論への転換をも意味している。すなわち, サプライサイドに立脚したプロダクト・パイプラインの生産性の向上を狙うロジック

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151 デジタル時代の到来とネットワーキングデジタル・ネットワーキング戦略(1) であるチャネル論は,いよいよ終震の時期を迎えている。 151ー 従来のチャネル論では,まさにサプライヤーが流通システムの主導権を握っていた。 ここでは,生産した分だけ市場に押し込んで販売するという,いわゆるプッシュ方式 のシステムであった。しかし,この方法では,市場の成熟にともない,商品が流通在 庫として滞留したり大量の返品がサプライヤーに戻ったり,流通における生産や物流 を混乱させてしまった。そこで,顧客に最も近い小売から,順次必要な量だけの発注 を行うというプノレ方式への期待が高まってきた。こうして,次世代システムのカスタ マーレディー指向のデマンドチェーンへの転換が行われる。 4.ゴーイング・コンサーンを超えた企業 顧客がマーケテイング戦略において主導権を獲得するのにともない,企業活動でも 個人がイニシアチブを発揮する時代が到来している。すなわち,企業におけるアウト ソーシングの展開やネットワークを利用したグローパルな

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の導入などによっ て,すでに仕事の集積場としての企業という意味はほとんど喪失している。そして, これからはたとえ企業人であっても,自宅に居ながらの仕事という風景が日常的なも のになる。また同時に,従来では外部化していた生活機能をも,順次生活の基地とし て家庭に取り込むことが想定される。 こうして,社会システムにおいて,個人にイニシアチプが移転しはじめると,また 従来の企業像も大きく転換する。すなわち,個々のネットワークオーナーがビジネス をマネージメントするようになり,ほとんど会社の長たる社長の機能は意味を失って しまう。同時に,ゴーイング・コンサーンとしての企業であって,そして消耗品とし て従業員がいるという状態から,個人の生活基盤や地域のコミュニティーこそがゴー イング・コンサーンであるという状態へと転換する。そして,これからは,企業は個 人の踊り場としての役割へ転換し,すなわち企業は消耗品という時代が到来する。 VIII.企業組織の未来と地域組織の未来 1デジタル創世紀の企業組織 情報世紀を迎えるにあたって,明るい未来の到来が期待されるが,そのためにこれ

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152- 香川大学経済論議ー 152 からは,デジタノレ・ネットワーキングによる個のヒューマン・ネットワークの形成の ノTックアップが不可欠になる。これは,企業においても家庭においても,個人が主役 であって,組織は手段であるという考え方である。したがって,個人は単なる組織の 一構成員ではなく,個人のネットワークの動態が組織なのである。すなわち,生物学 的に言うならば,一つひとつの細胞の能力と相互の細胞リンケージの重視である。 このような考え方に立脚すると,デジタJレ化へのポジティブな対応から,以下のよ うな最も先進的な戦略課題に対しても,組織戦略からの解決策の提供が可能になる。 すなわち,デジタ1レ・ネットワーキングを実践することで,知識創造へ向げたマネー ジメントの革新が実現されてくる。すなわち,具体的には,第 1はグローパノレ・スタ ン夕、ードによるアライアンス経営,第2はサービス企業への変身へ向けたドメイン転 換,スピード経営を可能にする魁織的機動力の獲得,というマネージメント上の課題 の早期解決である。 2企業間デジタル・ネットワーキング デジタノレ・ネットワーキングは,個別の企業組織に対してだけでなく,企業間関係 の組織に対しでも,有効に機能している。これからの企業間関係は,従来以上にオー プンなルーズな連携へと進化すると想定されるため,いわゆるソフト・コネクション が企業聞における連結能力向上のための戦略課題になる。このように,連結の経済性 を追求する生産性の概念は,ネットワーキング,すなわち連結することでシナジー効 果を発揮して収穫逓増を狙える対応を要請している。 こうして,デジタル・ネットワーキングの導入によって,ソフト・コネクション指 向の企業関連携が実現する。言い換えれば,このことは,資源を内側に取り込んで成 長を図ろうという戦略から資源を外部に開放して成長を図ろうという戦略への,いわ ば大胆なパラダイム転換なのである。具体的には,第1には企業統合からバーチャル・ カンパニーへの進化,第2には企業聞のデジタノレ連携と次世代の流通システム,第3 にはコア・コンピタンスとコア・アウトソーシング,というアライアンス上の課題の 早期解決である。

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153 デジタデジタル・ネットワーキング戦略(1)lレ時代の到来とネットワーキング 3..デジタル創世紀の家庭組織 153-このデジタJレ化に見る特徴は個人のネットワークを重視することで,このことでデ ジタルワールドというアナザーワールドが獲得できる。ここでは,リアルワールドの システムとはほとんど異なったシステムが運営され,またデジタJレなネットワークの 中には,ネチズンとしてのもう一人の自分が誕生する。そして,ここではバーチャル なコミュニティーに参加できるばかりかバーチャルな家庭さえも持てる。すなわち, ネットワーク上に,実際のリアルな家族とは別に,第2,第 3の家族さえ自在に築け るわけである。 このような問題意識に立脚すると,デジタノレ・ネットワーキングがこれからの家庭 や地域に及ぼす影響についての考察が重要になる。これは,いわばライフ・デザイニ ングのバーチャル化指向の考察であり,この特徴は以下の3点、に総括できる。すなわ ち,第1はライフ・デザイナーを指向するプロシューマー,第2はマルチ・エンター テイメントによる快感体験,第3は時空間を超えるネットワーク・コミュニティー, という 3つの潮流なのである。こうして,デジタル時代を迎えて,リアルな家庭や地 域に縛られないアナザ、ーワーyレドを築くことも可能になる。 4デジタル・コミュニティーのビジネス活用 このような潮流は,また個人間の関係の形態をも根本的に転換させてしまう。そし て,この個人間ネットワークの転換を捉えたコミュニュティ・ビジネスの可能性も多 大なものになることが想定される。これらのコンセプトからビジネス化に成功してい る企業弘実際にすでに多数現出している。これらの現象からは,これから期待でき るビジネス領域は企業対企業の関係場から利益が獲得できる領域ではなしむしろ生 活者対生活者の関係場から利益が獲得できる領域なのである,ということが理解でき る。また,その理由は,デジタノレ・ネットワークが生活者対生活者の場に相応しい特 性を持っているからである。 また,具体的にはプロパイダーがインターネット上に自社の接続サービスの付加価 値を増大させるために展開するビジネスが多く存在している。また,特定の顧客セグ メントをネット上に組織化を行って,これに対する広告代理屈ビジネスもすでに展開

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-154 香川大学経済論叢 154 されている。そして,このような状況下では,インタラクティブなコミュニケーショ ンが重視されはじめてくる。こうして,第1はリレーションシツプによるロイヤルティ 指向の経営,第2はパーソナル化を指向するコミュニケーションの形成,第 3はイン テリジェント・エージェントの戦略的な活用,の3点がデジタJレ時代の代表的な課題 になるであろう。 参 考 文 献

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ズン~ (井上博樹,小林統訳)中央公論社, 1997年 松田卓也『正負のユートピア』岩波書庖, 1996年

参照

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