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小説テクストにおける受身表現の述語動詞

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(1)

小説テクストにおける受身表現の述語動詞

著者 山本 和恵

雑誌名 同大語彙研究

号 14

ページ 26‑42

発行年 2011‑03‑31

権利 同志社大学大学院日本語学研究会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012463

(2)

小説テクストにおける受身表現の述語動詞

山本やまもと

和恵か ず え 同志社大学大学院博士課程前期課程

[email protected]

キーワード

小説テクスト,人称,受身表現,動詞の分類

0.要旨

本稿では,受身に使用される動詞について取り上げ,受身の分類ごとに分析して考察した。そ の結果,一人称小説・三人称小説ともに有情物主語「迷惑・恩恵」の受身は,動作動詞や伝達動 詞や感情態度動詞と多く結びつき,「迷惑・恩恵」の感情を伴う際に用いられることを確認した。

有情物主語「中立」の受身は,伝達動詞や動作性動詞と多く結びつき,主語が伝達や動作を受け たことを客観的に描く際に用いられることを確認した。非情物主語「中立」は,動作性動詞や情 景描写動詞と多く結びつき,語り手が非情物の事象を描く際に主語を背景化する表現として用い られることを確認した。

1. はじめに 1.1 本稿の目的

日本語の受身表現における意味分類が多岐に渡っていることは,多く論じられている。そこで,

実際に,文章という一つのまとまりである小説や物語テクストの中で受身表現がどのように使用 されているのかについて,前稿(「小説テクストにおける受身表現の使用傾向」『同志社国文学』

第74号)では,受身表現の使用傾向について一人称小説,三人称小説それぞれの受身を調査し,

考察を行った。その結果,一人称小説三人称小説ともに語り手が登場人物や場面を主観的に描く 作品では,「迷惑・恩恵」の受身が使用され,反対に,語り手が登場人物や場面を客観的に描く作 品では,「中立」の受身が多く使用される傾向があることを確認した。また,三人称小説において 語り手が自由に登場人物に融合し独立する主観的にも客観的にも描かれる作品では,「迷惑・恩恵」

「中立」の受身がともに多用されることを確認した。

以上の結果を踏まえて,本稿では,小説テクストにおける受身に焦点をあて,受身に使用され る動詞を受身分類ごとに分析し,動詞と受身の意味内容の相関を論じることにする。

1.2 調査対象

本稿では,森鷗外,夏目漱石,太宰治,川端康成の8作品ずつ全32作品を「一人称小説」と「三 人称小説」に分け,受身の調査を行うこととした。これらの著名な作家をとりあげるのは,でき

(3)

分類 主語 意味

①A 有情物の主語が他動詞の動作 の影響を直接受ける受身

有情物 迷惑・恩恵

①B 有情物の主語が他動詞の動作 の影響を直接受ける受身

有情物 中立

②  非情物の主語が動作の影響を 直接受ける受身

非情物 中立

③  有情物の主語が自動詞の動作 の影響を間接的に受ける受身

有情物 迷惑 迷惑・恩恵

中立

④A 有情物の主語が動作の影響を 所有物を介して受ける受身

④B 有情物の主語が動作の影響を 所有物を介して受ける受身

有情物 有情物

るだけ長い小説テクストで一人称三人称小説どちらも執筆している作家であり,さらに,これら の作家は,すでに文学研究や語学研究においても,とりあげられることが多いからである。

【調査対象】

・夏目漱石 一人称小説 「吾輩は猫である」「坊っちやん」「草枕」「坑夫」

三人称小説 「虞美人草」「三四郎」「それから」「門」

・森鷗外 一人称小説 「舞姫」「百物語」「二人の友」「雁」

三人称小説 「青年」「阿部一族」「山椒大夫」「高瀬舟」

・太宰治 一人称小説 「富嶽百景」「女生徒」「津軽」「斜陽」

三人称小説 「ロマネスク」「走れメロス」「猿面冠者」「火の鳥」

・川端康成 一人称小説 「十六歳の日記」「青い海黒い海」「伊豆の踊子」「再婚者」

三人称小説 「雪国」「千羽鶴」「山の音」「眠れる美女」

【使用テキスト】

夏目漱石『漱石全集』(1993~1994)岩波書店,森鷗外『鷗外選集』(1979)岩波書店,太宰治

『太宰治全集』(1998~1999)筑摩書房,川端康成『川端康成全集』(1980~1981)新潮社を用い た。

2.小説テクストにおける受身の分類

本稿で扱う受身の分類に際しては,前稿の山本(2011)に詳述している。要約すると,小説テ クストの受身の分類を行う際に,主語に立つものが有情物であるか非情物であるか,また受身の 意味において,主語に立つものが,動作を受けることによって「迷惑」感を伴うこと,あるいは,

主語に立つものが,動作を受けることによって「恩恵」を受けたと感じること,主語に立つ物が 動作を受けても感情の変化は伴わない場合は「中立」の意味分類を行った。これは,語り手が小 説テクストを主観的に描くのか,客観的に描くのかという点で大きく数値が変化すると考えて,

このような分類を行うことにした。

これを踏まえて,基本的な受身の分類を表にすると,以下のようになる。

【表1-受身の分類】

(4)

3.小説テクストにおける受身の述語動詞とその特徴 3.1 調査方法

ここでは,一人称小説と三人称小説の概略を詳しく捉えるために,森鷗外,夏目漱石,太宰治,

川端康成の一人称小説と三人称小説における受身として表された動詞を全て抜き出した。その際 に動詞を有情物主語と非情物主語に分け,さらに,【表1】の受身の分類をもとに「迷惑・恩恵」

「中立」別に受身を分類し,受身に使用された動詞を7種類に分類した。以下にそれを示す。

1移動動詞 出発・到着を示すもの,方向・経過を示す動詞 例)歩く 行く 降りる 帰る 来る 入る 戻る

2感覚動詞 視覚や聴覚に関する動詞

例)聞く 聞こえる 知る 睨む 見つける 見る 3思考動詞 考えたり思ったりすることに関する動詞

例)疑う 思う 考える 信じる 理解する 4感情態度動詞 感情や態度を表す動詞

例)驚く 期待する 嫌う 心配する 憎む 喜ぶ 5伝達動詞 相手に何かを伝える動詞

例)言う 書く 聞く 伝える 問う 呼ぶ 読む 6動作性動詞 直接的に作用を及ぼす動詞

例)洗う 押す 教育する 捨てる 照らす 7情景描写動詞 情景や事象の描写を表す動詞

例)織り成す 調和する 照り付ける 吹く 揺る

上記の分類は,小説テクストの分類において主語のとる行動,または情景描写に用いられるか どうかという観点から分類した。1~5はテクストを分析する際の人間の行動として分類し,6 は直接的な動作に作用するものとして幅広く集めて分類し,7は情景描写を表すものとして分類 した。

以上の分類に従って,分類した結果を紙幅の都合上,本稿では,最も受身の述語動詞の用例数 が多い夏目漱石の作品を例にして【表2-1】【表3-1】で示した。なお,他の作家の作品は,

【付表】に載せている。

3.2 小説テクストにおける受身の述語動詞の調査結果

【表2-1】【表3-1】を見ると,夏目漱石の作品において一人称小説・三人称小説いずれも,

最も使用例の多い動詞は,6動作性動詞であり,全1344例中731例あり,全体の54%を占めて いる。これは,受身が直接的に相手の動作の影響を受ける場合に用いられることが多いことを意 味していると考えられる。

以下,5伝達動詞が265例で全体の20%,4感情態度動詞が158例で全体の12%,1移動動 詞が85例で全体の6%と続くが,受身の意味分類によって受身が使用される動詞の用例数に相違 が見られるため,以下,受身の意味分類ごとに考察していく。

(5)

【表2-1  夏目漱石「一人称小説における受身の述語動詞】

分類 吾輩は猫である 坊っちゃん 草枕 坑夫 計 合計

1

追ひ出す 来る 連れ出す 飛ば 飛び込む 投げ出す(3)

吐きかける 抛り出す 乱入する 11

押し返す 抛り出す 2

運搬する 越す(2) 手繰 り寄せる 釣り出す 連れて 行く(2) 流す 引きずり 下す 引きずり出す 引き廻 す 引く(2) 呼び返す

14

置ひて行く 繰り返す 出す 釣り出す 連れ込む 連れて 行く(2) 連れる 引き摺 り 込 む 引 き 戻 す 持 つ て

(い)く

11 38

2 知る 睨む(2) 見付ける 見

5 0睨む 1唸 る 睨 む ( 2 ) 見 る

(4) 7 13

3 思ふ 矚目する 評する 見透か す みなす(2) 見離す 7見做す

1思ふ(2)

2思 ふ ( 2 ) 認 め る ( 3 )

忘れる(3) 8 18

4

崇める 怪しむ(2) 疑ふ ふ(気を) 怒る(3) 可愛が 好 く 抜 く ( 肝 を ) ぬ く

(毒気を)(2) 惚れる 魅入

る 笑ふ(4) 19

威 嚇 す る 禁 じ る 好く 胡麻化す 鹿にする(2) ふ(3)

9

欺 く ( 2 ) 驚 か す ( 2 ) 奪ふ(心を) 勘定する 蔑する 屠る 嗤ふ

9

祟る 苛める 怒る 驚かす 調戯う きめつける 拒絶す 苦しめる(2) 愚弄す 軽蔑する 公認する いる 奨励する 頼る 嘲弄 する 度外視する 認定する

( 2 ) 尽 く す ( 愛 想 を ) 馬 鹿 に す る ( 4 ) 惚 れ る

(2) 瞞着す 笑う(4)

31 68

5

あばく 譃はる 云ふ(7) か らかふ(3) 聞く 催促する 出す(口を) 頼む だます 問 ふ どやす(2) 取る(気を)

(2) 話をする 侮辱する ほ める 命ずる(2) 揶揄する

28

云ふ(8) 入れる 掛ける 聞く 叱る

(2) 頼む だま す ( 2 ) ど や す ほめる(2) 命令 する 呼ぶ

21

云 ふ ( 3 ) 入 れ る 誘 ふ そそのかす 罵る 罵詈する

8

云ふ(5) 促す 威嚇かす 掛 け る ( 声 を ) 聞 き 返 す 聞く(2) 催促する 誘ふ 叱る(5) 説得する 説諭 する 尋ねる 瞞る 談じる 釣り込む(2) 問ふ 毒突 冷やかす(4) 褒める 呼び出す 呼びとめる 呼ぶ

35 92

6

圧迫する 逢ふ(大変な目に)

動かす うつ 追い懸ける 追い 詰める 起こす(2) おしつけ る(4) かける 担ぐ 鑑定す る 毀損する 吸収する 食い 殺す 繰り返す 蹴る 攻撃する 扱く 擦する 小突き廻す さす 縛る 絞め殺す すてる 狭める せまる(追手に) 束縛する 叩 たれかける 挑発する 尽 くす(我儘を) つける(渾名 を) 繋ぐ(2) つまむ つら ま へ る 釣り 込む 呈出 する 投ずる 捕らえる 取り残す と る(5) なでる(2) 煮る 盗 む (3) 呑む 挟む 張る 引き掻く 引き据える 捲く(煙 に)(2) 密封する 用いる 焼く 養ふ 八つ裂きにする や り込める やる(8) 掠奪する

78

圧 し 付 け る か く

(2) 買ふ 勘当 する 教育する り付ける 食ひつく 攻撃する 殺す する(2) 擲きつける 付ける 取り扱 ふ(2) とる ぐる(2) なげる 握る 抜く 張り飛 ば す 開 く 巻 く 間違へる(2) せびらかす 免職す 持ち込む 揉み 返 す 遣 り 込 め る

(2) やる(3)

39

圧しつける 圧し潰す 掻き 切る 絡みつける 釘付けに す る ( 2 ) 支 配 す く ふ 制限する 制す 突きつける 衝 く 積 み 込 む 詰 め 込 む 閉じ籠める 取り扱ふ 取り 囲む とる(2) 塗りつけ る 根こぎにする 引き殺す 捲 き 込 む 余 儀 な く す る

24

煽る 開ける 打ち抜く 埋める(2) 燻す い懸ける 追う 追っ掛ける 冒す 置去にする 圧しつけ る ( 2 ) 切 る 食 う

(6) 殺す(3) 採用す 遮 る 唆 か す 刺 す

(3) 螫す 支配する 拠だてる 吸いつける 制す

(3) 攻め落とす 責める

( 2 ) 突 き つ け る ( 2 ) 突く つける 裹む 詰め込 釣る 閉じ込める(2)

閉じ龍める 捉まえる 取り 扱う 取り巻く(2) 取る

(3) 詰る 抛げ込む 擒る 残す 呑む 跳つける 擲りつける 引き摺る 引つ 張る(6) 吹き払う 塞く 葬る(2) 抛り出す 見せ 持ち込む(3) やつつ け る や り つ け る や る

(6)

91 232

7 吹く  1 吹く 1 なし 0 吹く(3) 3 5

149 73 58 186 466

1 載せる 持ち上げる 2 なし 0 送る 引き出す 2 出る 1 5

2 なし 0 なし 0 なし 0 なし 0 0

3 なし 0 なし 0 なし 0 なし 0 0

4 寄せる(同情を) 1 なし 0 なし 0 なし 0 1

5

誘ふ 称する 勧める 頼む 注 文する 呼ぶ

8

申し付ける 勧める 2

問ふ 呼び留める 呼ぶ

4

云ふ(2) 教える 掛ける

( 言 葉 を ) ( 2 ) 聞 く

(2) 聞き返す 頼む ひ 返 す 呼 び 懸 け る 呼 ぶ

(3)

14 28

6

懸ける 冠する 製造する 作り 上げる 照らす 撫でる 跳ね付

ける 雇ふ 8

なし

0

取り囲む ひく

4

担 ぐ 採 用 す る 支 え る

(2) つける 包む 連れ る(2) 隔てる 持ち込む 10 22

7 なし 0 なし 0 点出する 1 なし 0 1

19 2 11 25 57

1 輸入する 1なし 0浮 き 出 す 描 き 出 す 流 す

蒸し返す 4跳ね返す 蒸し返す 2 7

2 見る 1 なし 0 見違へる 1 なし 0 2

3 案出する 解釈する 決する 3なし

0考へる 見違へる 1思ふ(2) 認識する 見做

4 8

4 歓迎する 軽蔑する 2 笑ふ 1 怪しむ 珍重する 2 なし 0 5

5 呼びおこす 誘ふ 命ずる(2) 4 なし 0 確かめる 暈す 2 云ふ 1 7

6

委任する 印す 打ち洩らす 置 く(2) 行ふ(4) 飾りつけ る(2)切り抜く 喰ひ破る 繰 り返す(2) 加える 構成する しきる 布く 敷く(3) した ためる 支配する 証拠立てる 使用する 処する 記す 吸ひ取 る 製造する 敲き返す 積み込 む 積む 釣るし上げる つるし あげる 照らす 取り払う とる 名づける 発明する(2) 刎ね 上げる 引つ張る 真似る 充た す(2) 結びつける 盛り込む 掠奪する 連発する  割り出す

51

掻 き 分 け る 取 る 踏みつぶす

3

按排する 織り出す 抑へる からむ 切り落とす 括りつ ける 遮る(2)刺す 敷く 使用す 逼る 染め抜く 立 て 籠 め る つ つ む

(2) つなぐ 積み上げる 吊 る す 照 ら す 取 り 残 す 弄る 葬る(2) 彫り残す 用 ひ る 揉 む 催 す 盛 る 焼き付ける 和らげる

32

圧倒する 行ふ 抑へる 押 し 潰 す 押 す ( 2 ) 追つ懸ける 繰返す 執行す る(2) 支配する 吸ひ込 狭める 敲き込む 包む 詰め込む 釣る 照らす き交ぜる 弾く 引く 彫り つける 纏める 揉み潰す

25 111

7 限る(2) 2 かぎる 揺る(2) 3 沈む 吹く 飽和する 捲く 4 照りつける 1 10

64 7 46 33 150

合計 232 82 115 244 673

A

B「

(6)

【表3-1  夏目漱石「三人称小説における受身の述語動詞】

虞美人草 三四郎 それから 計 合計

1

押 し 出す 越 す 先 立つ 出す

出る 飛び込む 6

借 り に 来 る 通 す 入院する はじき出 す 持つて行く

5

押し出す 去る 出る 持つ

て行く 4

追い付く 追ふ(2) 負ふ

帰つて来る 5 20

2 聞く 見る(3) 4見抜く 見る(3)

4する(眼付を) する(苦い

顔を) 見る 3なし 0 11

3 認める(2) 2 思う(2) 2 思ふ(2) 解釈する 3 思ふ 1 8

4

愛す(6) 欺く 苛める 羨ま しがる 怒る(3) 玩具にする 調戯う 苦しめる 馬鹿にする

(2) 慰める (2) 舐める 辱める 見下す 見下げる

23

愛す 疑ふ 驚かす 閑却する 傷つける 軽蔑する 瞞す しめる(2) 馬鹿 にする(3) 惚れ る 笑ふ(2)

15

愛す 崇める 怒る 驚かす

(4) 驚く 嫌ふ 偶像視 する 苦しめる(3) 謝絶 す る 尽 か す ( 愛 想 を )

(3) 悩ます 馬鹿にする

(2) 笑ふ

21

欺 く 驚 か す ( 10 ) 嫌 ふ 禁じる 苦しめる(2) ひ る 心 配 す る 責 め る 束縛する 悩ます(3) き直る 笑ふ

24 83

5

云ふ(3) 掛ける 催促する

(2) 叱る そそのかす 訪ね 追 窮する 吠へ る 誉 める

見咎める 13

云 ふ ( 4 ) 聞 く

( 3 ) し か る

( 2 ) し や べ る 立 て る ( 伺 い を ) 注意する(2) かす

14

云ふ(4) 聞く(3) 叱り飛ばす 叱る(5)

勧める 説法する 宣告する 注意する(2) 強請る 賞める(2) 呼び出す

( 5 ) 呼 び 付 け る 呼 ぶ

(3)

32

云ふ(7) 聞き糺す 声を 掛ける 断る 誘ふ 注意す 毒 吐 く 問 ふ 強 請 る 申し渡す 呼ぶ 17 76

6

失ふ 打つ(3) 奪ふ 追ひ懸 ける 追ひつく 抑へる 押しつ ける 攪き廻す 折る 飼ふ 担 ぐ(2) 食ふ 遮る(4) 邪 魔をする 吸ひ込む 坐る 制す 急き立てる 逼る(2) 責める 叩く 敲く 突きつける 釣り込 捕へる 取り除ける(2)

取り残す 取る(2) はたく 引く 塞ぐ 捲き込む 巻く 弄 ぶ 揉む やる 装ふ

46

動かす 奪ふ 売る 押す(2) 啓発す 子供扱いにする 殺す 捨てる する

(2) 逼る 釣り 込 む 取 扱 に す る 閉 じ 込 め る 打 す 囚ふ(5) 取り残 取る(5) 握る はぐらか 比較する 引張 封じる 隔てる 巻き上げる 遺る

36

相手にする 与える 受け取 動く 打つ 促す(3)

冒す 置く 起こす 怒り出 押し詰める(2) 圧す

(2) 押す 掛ける 担ぐ 斬り殺す 斬り付ける 切り 離す(2) 斬る 切る 繰り返す 拘引する す ( 6 ) 催 促 す る ( 2 ) 割く 曝す 支配する 縛る 強ひる 憑く 釣り込む す ( 2 ) 撲 す 投 げ 込 む 残す 延ばす 破壊する 引つ張り廻す 封じ込め 含める 踏み込む 包囲 する 間違へる 蒸す 遣る

(3) 余儀なくする 62

与へる 中てる 洗ふ 労は 射 抜 く 受 け る 奪 ふ

( 2 ) 冒 す ( 2 ) 置 く 追い掛ける 抑えつける し狭める 折る 掛ける みつく 斬る 絞める 棄て る(2) する(2) 繋ぐ 釣 る 留 め る 取 り 上 げ る 取 り 扱 ふ 取 り 残 す ( 2 ) 取る(4) 塗る 貧殺する 吹き倒す 腐食する 編入す 忙殺する 捲き込む く やる

43 187

7 腐る 1 吹く 1 吹く 揺る(2) 3 吹く 1 6

95 77 128 91 391

1 なし 0 なし 0 案内する(3) 3 案内する(3) 4 7

2 見る 2 なし 0 刺激する 1 なし 0 3

3 認める 1 なし 0 なし 0 なし 0 1

4 なし 0 なし 0 なし 0 許す 1 1

5

聞く 誘ふ 頼む(2) 問ひ懸 ける 呼ぶ(7)

13

云 ふ ( 4 ) 聞 く

(2) 誘ふ 託む

(2) 頼む(3)

放つ 呼ぶ

14

云ふ(5) 依頼する 聞く 誘 ひ 出 す 紹 介 す る 頼 む

( 2 ) 問 ふ 話 し か け る 命ず 呼び返す 呼び懸ける 呼ぶ(4)

20

云 ふ ( 4 ) 聞 く 誘 ふ

(2) 紹介する(4)

ぶ(2) 12 59

6

織り込む 招く ゆす振る 3

描く(2) 置き易 へる 織りこむ み敷く 連る 留め 取 る ( 脈 を ) 封じ込める 待ち受 ける 導く(2)

12

委 託 す る 連 れ る 留 め る 挟む 包囲する 見せる

7

預ける 掛ける かける 伴ふ 寐かす 引き取る 招く 呼び起こす 9 31

7 なし 0 なし 0 なし 0 なし 0 0

19 26 31 26 102

1 送る(2) 引き寄せる 掃き落

とす 蒸し返す 5なし

0持つて行く 掃き出す

2運び出す

1 8

2 眺める 1 なし 0 なし 0 なし 0 1

3 抱く 思ふ(2) 認める 4 1 認める 1 なし 0 6

4 なし 0 なし 0 なし 0 なし 0 0

5 誘ふ(2) 呼び出す 3 なし 0 なし 0 なし 0 3

6

暖める 圧し潰す 入れる 打つ 埋める 描く 蔽ふ(2) 抑へ る 圧し付ける(3) 押す 卸 織り成す 刈り込む(2)

吸 収 す る 喰 ひ 留 め る 括 る

(2) 繰り返す 遮る(2)

裂く(2) 吸ひ取る 塞く 逼 る 占有する 阻害する 染めつ け る 焚き残 す 鏤 める 包む

(2) 繋ぎ留める 繫ぐ 劈く 尖 ぐ 尖れる 鎖す 取り 直す 取り残す(2) 取り巻く 抛げ 出す 並べる 偸む 引く(2)

牽く 封じ込める 隔てる(2)

捲 き 込む 鞭 うつ 弄ぶ 揉む 盛る

60

争 ふ 描 く 圧 す 繰り返す 交換する 製へる(2) 遮る 仕 切 る 代 表 す る 包む 取り崩す げる 開く 吹き散 らす 含む

16

集める 活ける 冒す 贈る 行ふ 吸収する 切り詰める 繰 り 返 す 曝 す 吸 ひ 込 む 代 表 す る 建 て る 費 や す 作 り 上 げ る 作 る 照 ら す 塗り付ける 挟む 葬る す ( 2 ) 捲 き 込 む 巻 く

焼き付ける 24

仰ぐ 洗ふ 慰藉する 打ち 崩す 打ちつける 描く 行ふ(3) 抑へつける 折り返す 飾る 刻み付ける 繰り返す(2) 汚す 交換 す る ( 3 ) 遮 る 仕 組 む 透かす 制する 注ぐ 染め 付 け る 作 る 付 け 加 へ る 包 む 照 ら す ( 7 ) 鎖 す 閉 ざ す 取 り 換 は す ( 2 ) 取 り 広 げ る 挟 む 広 げ る 封 じ る 吹 き 上 げ る 含 む 塞ぐ 迎へる

48 148

7 吹く(2) 揺る 3調和する 吹く 2射付ける 注ぐ 照り付ける

吹く 4限る 吹く(2) 3 12

76 19 31 52 178

合計 190 122 190 169 671

B「

A

3.2.1 有情物主語①A③④A「迷惑・恩恵」の受身における述語動詞

まず,有情物主語①A③④A「迷惑・恩恵」の受身では,一人称小説三人称小説ともに最も使 用例の多い述語動詞は,6動作動詞であり,それぞれ232例187例であり,①A③④A「迷惑・

恩恵」の中では,50%,48%を占めている。

(7)

*各例文で, 部分が主語, 部分が受身の述語動詞である。( )は,動詞の分類を表す。

(1) 吾輩は虎から急に猫と収縮したのだから何となく極りが悪くもあり,可笑しくもあつたが,

主人の此権幕と横腹を蹴られた(6)痛さとで,虎の事はすぐ忘れて仕舞つた。

一人称小説「吾輩は猫である」

(2)(自分は) 実を云ふと此の男の顔も服装も動作もあんまり気に入つちや居ない。ことにさ

つき白い眼でぢろ/\遣られた(6)時なぞは,何となく嫌悪の念が胸の裡に萌し掛けた 位である。 一人称小説「坑夫」

(3)(宗助)「賑やかだよ。一寸行つて御覧。なに電車に乗つて行けば訳はない」と勧めた。さ

うして自分は寒さに腐蝕された様に赤い顔をしてゐた。

御米はかう宗助から労はられた(6)時,何だか自分の身体の悪い事を訴たへるに忍び ない心持がした。実際又夫程苦しくもなかつた。 三人称小説「門」

(1)(2)(3)は,ともに最も使用例の多い6動作動詞の例文である。まず,(1)は,吾輩が主人に 直接横腹を蹴られたという動作を受けたことによって痛い思いをしたことを表現している。(2) も,自分がこの男に直接目でじろじろやられたという動作を受けたことによって嫌悪の念を抱い たことを表現している。(3)は,病気である御米が寒さの中帰ってきた夫・宗助から直接言葉を掛 けて労わられたことによって恩恵の感情を抱いたことを表現している。つまり,小説テクストに おいては,こうした直接相手から動作を受けた際に「迷惑・恩恵」の感情を伴って使用される受 身が多い。

次に,二番目に多い述語動詞は,一人称小説では5伝達動詞で92例20%,三人称小説では4 感情態度動詞で83例21%である。三番目に多いのは,一人称小説では4感情態度動詞で68例15%,

三人称小説では5伝達動詞で76例19%である。この結果から,一人称小説三人称小説ともに,

4感情態度動詞と5伝達動詞の割合が高いことがわかる。

(4) 此儘に済ましてはおれの顔にかゝはる。江戸っ子(=おれ)は意気地がないと云はれる

(5)のは残念だ。宿直をして鼻垂れ小僧にからかはれて,手のつけ様がなくつて,仕 方がないから泣き寝入りにしたと思はれちや一生の名折だ。一人称小説「坊っちやん」

(5) (代助は)今夜にも(義姉から父に三千代との密通を)話されれば(5),明日の朝父に 呼ばれる(5)かも知れない。 三人称小説「それから」

(6) (吾輩は)覚えず咽喉仏がごろ/\鳴る。主人は愈柔かに頭を撫でゝ呉れる。人を笑つ て可愛がられる(4)のは難有いが,聊か無気味な所もある。

一人称小説「吾輩は猫である」

(7) 自分(=三四郎)が,野々宮に対する程な尊敬を美禰子から受け得ないのは当然である。

さう云へば何だか,あの女から馬鹿にされて(4)ゐる様でもある。

三人称小説「三四郎」

(4)(5)は,ともに5伝達動詞である。(4)では,主人公である坊っちやんのおれが生徒にから かられて泣き寝入りをしたら,生徒たちに意気地がないと言われることは残念だと「迷惑」の感 情を伴って表現している。(5)では,義理の姉が父に代助の密通を話すこと,それによって父が自

(8)

分を呼ぶことに恐れている「迷惑」の感情を伴っている。つまり,「云う」「話す」「呼ぶ」などの 伝達動詞を受けることで「迷惑・恩恵」の感情を伴う際に,用いられているのである。

(6)(7)は,ともに4感情態度動詞である。(6)では,東風子が吾輩の主人である苦沙弥に話し ている失敗談を聞いて,吾輩が可笑しくなり,つい喉仏が鳴ったにも関わらず,主人は吾輩を撫 でて可愛がる態度を吾輩は直接受けている。と同時に,吾輩は,主人に対して有り難いという「恩 恵」の感情を伴っていることを表現している。(7)では,美禰子が三四郎にとっている態度を三四 郎は馬鹿されているようだと受けて,「迷惑」の感情を伴っていることを表現している。こうした

「言う」「話す」「呼ぶ」などの伝達動詞や「馬鹿にする」「可愛がる」のような態度を直接受ける ことで「迷惑・恩恵」の感情を伴う際にも受身表現が多く使用されている。

以上のように,有情物主語①A③④A「迷惑・恩恵」の受身表現では,一人称小説三人称小説 ともに6動作動詞,4感情態度動詞,5伝達動詞が多く用いられ,これらの動詞は,有情物主語

①A③④A「迷惑・恩恵」の受身表現の全体で,一人称小説84%,三人称小説88%になる。

その中で,最も多く使用されるのは,一人称小説三人称小説ともに6動作動詞であり,これは,

直接動作を受けた際に「迷惑・恩恵」の感情を伴う有情物主語の受身が多く使用されるためであ る。以下,使用例が多いのは,一人称小説では5伝達動詞,4感情態度動詞,三人称小説では4 感情態度動詞,5伝達動詞と続き,主語が対象から「馬鹿にする」「可愛がる」のような態度や「愛 す」「怒る」などの感情,「云う」「聞く」「呼ぶ」などの伝達動詞を直接受けることで,迷惑や恩 恵を伴う際に,受身表現が多く使用されていることが明らかとなった。

3.2.2 有情物主語①B4B「中立」の受身表現における述語動詞

次に,有情物主語①B4B「中立」の受身表現における述語動詞について考察していきたい。

一人称小説三人称小説ともに最も使用例の多いのは,5伝達動詞であり,それぞれ28例59例で あり,①B④B「中立」の中では,49%,58%を占めている。

(8) 主人は(中略)先生と玄関から呼ばれた(5)ので,誰だらうと其方を見ると半分程筋 違に障子から食み出して居る顔は正しく寒月君である。一人称小説「吾輩は猫である」

(9) 宗助は(書生に)一番奥の方にある一脚に案内されて(1),是へと云はれる(5)ので,

踏段の様なものの上へ乗つて,椅子へ腰を卸した。 三人称小説「門」

(8)は,主人公である吾輩の目から主人を観察している場面であり,誰かが主人を呼んだので,

見ると,そこに寒月君がいたのである。ここでは,語り手である吾輩が主人を客観的に描写して いるため,主人を主語にして誰かが主人を呼んだことを主語を変えずに「主人は呼ばれた」と受 身を使用している。こうした主語が伝達を受けたことを客観的に描く際には,「中立」の意味の受 身が使用される。同様に,(9)も,本来,能動態なら「書生が宗助を一番奥の方にある一脚に案内 して,是れへと云ふ…」となるのであるが,語り手が主人公である宗助について語っている場面 であるため,ここでは,「宗助は書生に案内されて,是へと云はれる」と受身表現になり,主人公 の宗助の行動や出来事を客観的に語っているのである。こうした登場人物が誰かに伝達を受けた ことを語り手が客観的に語る場合に,「言う」「聞く」「呼ぶ」などの5伝達動詞が多く使用される のではないだろうか。つまり,語り手が主語に近づいて主観的に感情を用いて伝達を受けたこと

(9)

に「迷惑・恩恵」の感情を伴って語る場合は,前節の有情物主語①A③④A「迷惑・恩恵」にな り,語り手が離れたところから客観的に主語が伝達を受けた事実や事象を語る場合は,この節で 述べている有情物主語①B4B「中立」となることが考えられる。

二番目に使用例が多いのは,一人称小説三人称小説ともに,6動作性動詞であり,一人称小説 22例,三人称小説31例であり,①B④B「中立」の中では39%,30%を占めている。

(10) 四人が離れたり,かたまつたり,隔てられ(6)たり,包まれ(6)たりして雲の中を

歩いて行つた時の景色は未だに忘れられない。 一人称小説「坑夫」

(11) (宗近くんは)「おい」と手を懸けた儘肩をゆす振る。小野さんは(宗近くんに)ゆす

振られ(6)ながら向き直つた。 三人称小説「虞美人草」

(10)は,語り手である自分を含めた四人が「隔てる」「包む」などの動作の作用を受けても,「迷

惑・恩恵」の感情を伴わず,単に動作を受けたことを客観的に語っている受身表現である。(11) も,語り手が客観的に主語である宗近くんが小野さんの「ゆる振る」という動作を受けて「向き 直った」事実を描写している。こうした語り手が客観的に主語が単に動作を受けたことを描写す る際に,6動作性動詞が使用される。

今まで説明してきたように,5伝達動詞,6動作性動詞は,「中立」の意味の動詞と結びついて,

客観的に主語が動作を受けたことを表現している。それゆえ,4感情態度動詞のような動詞は,

前節の「迷惑・恩恵」の受身と違い,「中立」の受身には,一人称小説・三人称小説ともに使用例 が1例のみなのである。つまり,有情物主語①B4B「中立」では,語り手が登場人物や出来事 を客観的に描く場合に,「中立」の受身が使用される。それにより,動詞の選択において「中立」

の意味にも「言う」「聞く」「呼ぶ」などの5伝達動詞,「包む」「隔てる」「ゆす振る」などの6動 作性動詞を用いて,客観的に事実を描くことが明らかとなった。

3.2.3 非情物主語②「中立」の受身表現における述語動詞

最後に,非情物主語②「中立」の受身表現における述語動詞について考察を行いたい。一人称 小説三人称小説ともに最も使用例の多いのは,6動作性動詞であり,それぞれ111例148例で,

非情物主語②「中立」の中では74%,83%を占めている。

(12)主人が此禿を見た時,第一彼の脳裏に浮んだのはかの家伝来の仏壇に幾世となく飾り付け

られたる(6)御灯明皿である。 一人称小説「吾輩は猫である」

(13)彼(宗助)は来年度に一般官吏に増俸の沙汰があるといふ評判を思い浮べた。又其前に改 革か淘汰が行はれるに(6)違ないといふ噂に思ひ及んだ。 三人称小説「門」

(14)突き当りの壁は,突立つてゐる。微かなカンテラに照らされて(6),色さへしつかり分

らない上が,一面に濡れて,濡れた所丈がきら/\光つてゐる。 一人称小説「坑夫」

(15)六畳の座敷は緑り濃き植込に隔てられて(6),往来に鳴る車の響さへ幽かである。

三人称小説「虞美人草」

(12)は,「飾り付ける」というのは,動作性の他動詞であり,本来有情物「人間」が主語となる

が,「飾り付けられる」と受身表現になることによって,主語「人間」が背景化され,「御灯明皿」

が前景化されて描写された表現となる。(13)も同様に,「行う」というのは,動作性の他動詞であ

(10)

り,有情物が主語となるが,「行われる」と受身表現になることによって,主語が背景化され,出 来事が前景化されて描写される表現になる。

(14)は,能動文にすると「カンテラが壁を照らして」となり,主語も「カンテラ」という非情物 であり,目的語の非情物「壁」が主語となり受身表現になるのだから,「中立」の受身になる。同 様に,(15)も,能動文にすると,「植込が六畳の座敷を隔てて」となり,主語も「植込」という非 情物であり,目的語の非情物「六畳の座敷」が主語となり,受身表現になったのだから,「中立」

の受身表現となる。こうした本来能動態でも非情物が主語であり,非情物が非情物に動作を受け た事態を表す場合,「つつむ」「照らす」「隔てる」などの6動作性動詞が用いられる。

次に,非情物主語②「中立」の受身において,二番目に多く使用される動詞は,一人称小説三 人称小説ともに7情景描写動詞であり,一人称小説では10例7%,三人称小説では12例7%で ある。

(16) 今度は陸海軍万歳と赤地に白く染め抜いた奴(花火)が風に揺られて(7),温泉の町 から,相生村の方へ飛んでいつた。 一人称小説「坊っちやん」

(17) 往来の左右に何十本となく並んだ,軒より高い笹が,悉く寒い風に吹かれて(7),さら

/\と鳴つた。 三人称小説「門」

(16)は,語り手である坊っちやんの立場から,奴(=花火)が風を受けて揺れていることを描写 している。これを能動態にすると,「風が奴を揺る」と非文になってしまい,受身表現でなければ 表現できないのである。同様に,(17)も,語り手が風が吹いて笹が風を受けていることを描写して いる。これを能動態にすると,「風が笹を吹く」と非文となり,これも受身表現でなければ表現で きないのである。特に,「揺られる」の動詞は,終止形のない動詞であり,動詞そのものが受身に なる動詞として大きな特徴といえる。

こうした事物が動くことによって,非情物が作用を受ける場合に,「注ぐ」「吹く」「揺る」など が受身になり,情景描写を表す受身として用いられるため,非情物主語が作用を受けた場合に7 情景描写を表す動詞が多く用いられるのであろう。一方,有情物が主語になる場合,「乗つてゐた 代助は,二重の頭がぐる/\回転するほど,風に吹かれた。」(それから)のように「迷惑・恩恵」

の意味と結びつくことが多い。

以上をまとめると,非情物主語②「中立」において,最も使用例が多いのは,一人称小説三人 称小説ともに6動作性動詞である。これは,能動態では有情物主語であったものが受身表現にな ることによって主語が背景化され,出来事が前景化されて描写される表現になるものと,能動態 でも非情物が主語であるものが,動作の作用を受けて受身表現になり,物事の事態を表すものが ある。こうした非情物が動作を受けた事態を表す場合,6動作性動詞が用いられる。次に多いの は,一人称小説三人称小説ともに7情景描写動詞であった。これは,事物が動くことによって,

非情物が作用を受ける場合に,「注ぐ」「吹く」「照り付ける」「揺る」などが受身になり,情景描 写を表す受身として用いられる。また,情景描写動詞は,「吹く」「揺る」などは,「吹かれる」「揺 られる」など受身表現で用いられることが多い動詞であることが特徴として挙げられる。

(11)

4.おわりに

本稿では,小説テクスト内における受身に焦点をあて,人称別・作家別に受身を分類し,受身 に使用される動詞を受身の分類ごとに分析し,動詞と受身の意味内容の相関について論じること を目的に考察を行った。

その結果,まず,有情物主語①A③④A「迷惑・恩恵」の受身表現では,一人称小説三人称小 説ともに6動作性動詞,4感情態度動詞,5伝達動詞が多く用いられ,主語が直接動作や伝達や 感情態度を受けて「迷惑・恩恵」の感情を伴う際に用い,その際に語り手が主語に近づいて主観 的に語られることを確認した。

つぎに,有情物主語①B4B「中立」において最も使用例の多いのは,一人称小説三人称小説 ともに5伝達動詞であり,有情物主語①A③④A「迷惑・恩恵」とは異なる結果であった。これ は,登場人物が主語に「云う」「聞く」「呼ぶ」などのような場合に,語り手は客観的に主語が登 場人物に受けた伝達の事実を語るため,5伝達動詞が多く使用されるのである。つまり,一人称 小説三人称小説において,「云う」「聞く」「呼ぶ」などの5伝達動詞では,語り手が主語に近づい て主観的に感情を用いて語る場合は,有情物主語①A③④A「迷惑・恩恵」になり,語り手が主 語を離れたところから客観的に事実や事象を語る場合は,有情物主語①B4B「中立」となるの である。二番目に使用例が多いのは,6動作性動詞であり,語り手が客観的に主語が単に動作を 受けたことを描写する際に,「隔てる」「包む」「ゆす振る」などの「中立」の意味の動詞が用いら れるのである。

また,非情物主語②「中立」では,6動作性動詞,7情景描写動詞の順に多く用いられた。こ れは,語り手が非情物の事象や出来事を描く際に6動作性動詞が受身になり,主語が背景化され た結果,単に出来事や状態を表す表現となる。また,事物が動くことによって,非情物が作用を 受ける場合に,7情景描写を表す「注ぐ」「吹く」「照り付ける」「揺る」などの動詞が受身になり,

情景描写を表す受身として用いられることを確認した。

さらに,全体を通して一人称小説であっても三人称小説であっても,述語動詞の傾向において,

大きな相違は見られず,受身表現の選択には,むしろ語り手がテクストを主観的に描くか客観的 に描くかという点が受身表現における述語動詞の使用傾向の大きな要因として指摘できるのでは ないかと考えられる。その根拠として,語り手が主語に近づいて語る場合は,一人称小説であっ ても三人称小説であっても,感情を伴う「迷惑・恩恵」の受身が多用され,反対に,語り手が主 語が受けた行為・動作や場面を客観的に語る場合は,一人称小説・三人称小説ともに「中立」の 受身が多用される。それに伴い,受身の述語動詞において有情物主語①A③④A「迷惑・恩恵」

の受身には,6動作性動詞(追い詰める,殺す,攻撃する,曝す,閉じこめる,とる,根こぎに する,盗む,遣り込める など),4感情態度動詞(愛す,怪しむ,怒る,可愛がる,苦しめる,

軽蔑する,悩ます,馬鹿にする,惚れる,笑う など),5伝達動詞(言う,聞く,叱る,注意す る,呼ぶ など)といった登場人物の感情を表す動詞が多く用いられ,こうした動詞は主観性を もつ動詞であると言える。また,有情物主語①B4B「中立」の受身には,客観的に主語が受け たことを表す5伝達動詞(言う,聞く,誘う,紹介する,注文する,問う,話しかける,呼ぶ な

(12)

ど),6動作性動詞(描く,支える,包む,照らす,連れる,伴う,導く など)が多く用いられ,

非情物主語②「中立」の受身には,6動作性動詞(置く,行う,繰り返す,遮る,包む,割く,

照らす,ひく,隔てる など),7情景描写動詞(限る,沈む,照りつける,吹く,揺る など)

といった出来事や情景を表す動詞が多く用いられ,「中立」の受身に使用される動詞は,客観性を もつ動詞であり,語り手が主観的に描くが客観的に描くかによって,使用される動詞に特徴がみ られることが明らかとなった。

今後は,さらに,能動形と受身形の出現数の問題,受身の選択が文脈上の転換について果たす 役割などの問題を課題としたい。

【参考文献】

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参照

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