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博士学位論文審査報告書

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Academic year: 2021

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2016年1月6日

博士学位論文審査報告書

大学名 早稲田大学

研究科名 スポーツ科学研究科 申請者氏名 樋口 智洋

学位の種類 博士(スポーツ科学)

論文題目 サッカーのゲームパフォーマンス分析のコーチング現場への還元に関する研究 A study on the restoration to the coaching field of game performance analysis in soccer

論文審査員 主査 早稲田大学教授 土屋 純 博士(人間科学)(早稲田大学)

副査 早稲田大学教授 誉田 雅彰 工学博士 (早稲田大学)

副査 早稲田大学教授 岡 浩一朗 博士(人間科学)(早稲田大学)

副査 早稲田大学教授 堀野 博幸 博士(人間科学)(早稲田大学)

本学位論文では,サッカーのゲームパフォーマンス分析に関する研究成果のコーチング現場へ の還元を主題とし、第 1 章緒言、第 2 章ゲームパフォーマンスの測定方法に関する研究、第 3 章 測定方法の使用事例とチーム戦術のパフォーマンス評価に関する研究、第 4 章 量 的 デ ー タ を 用いない分析方法と個人戦術のパフォーマンス評価に関する研究、第 5 章総括論議、第 6 章結論 から成り立っている。具体的には,本論文においては以下を目的としている。

1) 視認的パフォーマンス評価を量的なデータに変換し客観性を担保して分析する尺度を提案 し、その精度を検討すること、

2) 上記の尺度を用いて、ゲームごとのパフォーマンスとその変容を可視化し、期分けと重ね ることでトレーニングの効果を検討すること、

3) サッカーのコーチング現場でのゲームパフォーマンス分析の事例として、映像を使用した ミーティング形式でのコーチングの事例を提示し効果を検討すること。

まず第1章では、サッカーのゲームパフォーマンス分析に関する過去の研究を、分析方法と分 析内容という2つの視点により概観している。ここから、分析方法に関して、ゲームを専門的に 評価でき、かつ客観性の高いデータが得られる方法を構築する必要性を指摘している。

第 2 章では、第 1 章で指摘したように、サッカーのゲームパフォーマンス分析に用いられる測定 法は数多く存在するものの、フィールド分割の方法は研究間で異なり、また各エリアの面積もフ ィールド内で均一でないという問題点を解決するため、ゲームパフォーマンスの客観的分析尺度 として“代表値”となるプレー重心を提案し、記述分析法によるプレー重心算出の妥当性とその 精度を検討した。記述分析法としてフィールド分割法と目視プロット法を、デジタル分析法とし て 2 次元 DLT 法を行い、3 つの測定法により算出された攻撃開始地点のプレー重心の座標値の比 較を一元配置の分散分析を用いて、記述分析法とデジタル分析法の攻撃開始地点のプレー重心の 測定誤差の比較を Pearson の積率相関分析を用いて、さらに,記述分析法によるプレー重心算出 の妥当性検証のため、2 次元 DLT 法との一致性を Bland-Altman plot を用いて検討した。その結 果、記述分析法により算出されたプレー重心は、エリアごとに散布したプレー回数の代表値を示 す尺度として妥当性が示された。また、フィールド分割法と目視プロット法により算出されたプ レー重心はどちらも妥当であるが、フィールド分割法は目視プロット法と比べて測定誤差が多い。

ことを示した。

(2)

第 3 章では、第 2 章で提案しその妥当性が示されたプレー重心を用いて、チームコンセプトと なるプレー項目の体現状況の変遷を可視化しチームコンセプトに関するトレーニングの効果を 検討することを目的とした研究を行った。地域大学 1 部リーグに所属し、「積極的な守備からよ り高い位置でボールを奪い,相手が整う前に早く攻めること」を 1 つのコンセプトとした 1 チー ムを対象とし、2010 年と 2011 年のリーグ戦全 44 試合について、目視プロット法によりボール 奪取位置の座標値およびそのプレー重心を測定した.対象チームの毎日のトレーニングでは、チ ームコンセプトを強く意識させた。その結果、ボール奪取位置に関し、2010 年 1 節から 2011 年 22 節にかけてプレー重心を用いて算出された距離が有意に増加していた。つまり、トレーニン グ進行に伴い積極的な守備によりボールを奪取した位置が高くなっていることが示された。また、

同じコンセプトでのトレーニングの継続において、実施頻度の増加が同じ期間内でのパフォーマ ンスの改善幅の増加に貢献すること、同じコンセプトでのトレーニングの継続において、開始か ら 1 年間はパフォーマンスが向上し、その後 1 年間は安定的に高いパフォーマンスが保たれるこ と、トレーニングにおいて 1 つのテーマのみでなく関連する 2 つのテーマを同時にトレーニング することにより、双方のパフォーマンスが向上する可能性があることが示唆された。

第 4 章では、自チームの改善すべきプレーに関する映像と、そのプレーに関して理想とする世 界トップレベルのプレー映像を用いたコーチングが、選手のプレーパフォーマンスの向上に及ぼ す影響を検討することを目的とした実験を行った。J リーグに所属するクラブのアカデミー第 2 種 1 チームを実験対象とし、まず設定したトレーニングテーマについて実践すべき「狙い」と対 象チームにおける実験前の「課題」を明確にするため、テーマの「狙い」が実践されていない「課 題」となる場面の代表的な映像をトレーニングマッチの試合映像より抽出した。次に世界トップ レベルの試合映像を使い、チームの「課題」となった場面と類似の場面で行われている成功プレ ー、つまり「狙い」を実践できている場面の映像を抽出した。これらの映像を用いたコーチング を行い、トレーニングマッチと公式戦のプレーの変化を観察した。映像ミーティングを活用した 1 週間のトレーニングの結果、直後の公式戦においてディフェンスラインのコントロールに関す る「狙い」のプレーの改善が見られた。このテーマに該当する場面はこの試合で 6 回出現し 5 回 は「狙い」を実践できるようになっていた。このことから、自チームの改善すべきプレー映像と 世界トップレベルの手本となるプレー映像を用いたコーチングによって、選手のプレーパフォー マンスが向上することが示唆された。

第 5 章の総括論議では、上記のような結果を踏まえ、次のように考察している。

1)サッカーにおけるゲーム分析の研究では、分析方法に関し、ゲームパフォーマンスを分析す るためにゲーム中に起こる現象について視点を定めることが重要である。

2)質的なものを量的にしたり,抽象的なものを具体的にしたりすることは分析結果に客観性を 持たせるための重要な手順である。

3)数値として可視化されたデータは、統計処理を用いたり分析結果の裏づけとなる理論やデー タを引用したりすることで客観性を担保できるが、分析の成果をコーチング現場へ還元する ことを考えると、フィールドで起こる現象を数値化することが必ずしも得策であるとは言え ない。

4)数値としての量的データは使用せず、映像データを用いたコーチングによってもパフォーマ マンスは向上させることができ、またこの手法によって起きたプレーパフォーマンスの変化 は数値で表すことは困難であるものの、数値には置き換えられない運動の質,行動の質を重 要視するパフォーマンス分析・評価の方法を用いた研究を、多様な分野や競技において行っ ていくことが重要である。

(3)

これまでにさまざまな球技系のスポーツ種目においてゲーム分析研究が多数なされてきてお り、サッカーに関する研究も例外ではない。しかしながらそうしたゲーム分析研究では分析方法 が様々であり、多くの研究結果を比較できないという問題が存在している。本学位論文はそうし た問題点を解決するために「プレー重心」という定量値を提案してその妥当性を検討しただけで はなく、さらにそれを用いたコーチングの実践を行い、成功事例を報告している。また、そうし た定量値を用いたコーチングではなく、映像という定性的な情報についても選手への提供の方法 を工夫し、そのコーチングにおける利用について事例研究を行い、これについても成功事例をま とめている。スポーツのコーチング科学領域においては、こうした様々な手法を用いたコーチン グ事例の蓄積が必要であり、本学位論文はそうした観点から高く評価できる。

上記から、本審査委員会は、樋口智洋氏の学位申請論文が博士(スポーツ科学)の学位を授与 するに十分値するものと認める。

なお、本学位論文に関連した学会誌等掲載学術論文は以下のとおりである。

・樋口智洋,衣笠竜太,藤田善也,堀野博幸,土屋純:散布した点の代表値を示す尺度「プレー 重心」の提案と精度の検討.スポーツ科学研究, 9, 338-349, 2012.

・樋口智洋,堀野博幸,土屋純:大学サッカーにおける戦術トレーニング効果の検討‐「プレー 重心」を用いて‐.スポーツパフォーマンス研究,5,176 -188, 2013.

以 上

参照

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