Ⅲ 遺 物
1土 器
右京一条一坊西北坪 の東南部 に位置す る第81次 調査で出上 した土器 は総量 で整理箱16箱程度 と少 ない。大半 が飛鳥Ⅳ〜
Vの
藤原宮期前後 の井戸・ 土坑 な どか ら出上 した土師器・ 須恵器で、他 に斜行溝SD8655出上 の弥生 時代後期 の土器、楕 円形土 坑SK8667出上 の13世 紀 前半 の土 師 器・ 瓦器・ 白色釉陶椀、小溝群等 出上 の黒色土器・ 瓦器 な どが少量 あ る。 ここで は、藤原宮期 前後 の遺構 出土土器 を報告 し、併 せて同 じ西北坪 内の第60次調査 の井戸 および一条条間路側溝、
西南坪 内の第65次調査 の井戸・ 土坑 出土土器 を概述 す ることと し、弥生土器、平安時代以 降の 上器等 につ いて は割愛す る。 なお、土器 の時期区分、器種名、調整手法名 な どは『飛鳥藤原宮 発掘調査報告 Ⅱ』、『平城宮発掘調査報告Ⅶ』 な どに準拠 し、適宜追加す る。
1)井
戸SE8690出土上器(fig 7‑1〜
30、PL.8,10)
整理箱4箱
。 すべて井戸枠抜 取 穴 出土。大半 が藤原宮期 の上師器・ 須恵器 で、奈良時代前半 の土器 がわずか に含 まれ る。埋土 は 上下2層に分 かれ るが、土器 の内容 は明確 には分かれない。土師器
器種 には杯A、 杯B、 杯C、 杯G、 杯H、 皿A、 蓋、鉢A、 高杯A、 横瓶形小壺、
小壺B、 甕A、 甕B、 甕C、 鍋、甑があ り、製塩土器片 が1片あ る。杯
A(13・ 14)は
底部外 面 をヘ ラ削 りし、 口縁部外面 を粗 くヘ ラ磨 きす るbI手
法 で、 内面 は底部 に ラセ ン暗文、 口縁 部 に2段
の放射暗文 を施す。13の底部外面 に ×の針描 きがあ る。他 に奈良時代 に降 る1段放射 暗文 の破片が あ るが図示 で きない。杯C(9〜 12)は
底部 のヘ ラ削 りと口縁部外面 のヘ ラ磨 き を省略 したaO手法。 口径15.8cmのCⅡ (12)と口径13〜 14cmのCⅢ (9〜 11)が
あ る。10・11は口縁端部 の外側が沈線状 にへ こむの と内面 を黒色処理 している点 で特異 であ る。大型 の杯 (15)は
bl手
法で左傾す る放射 暗文 を回縁端部 まで施 す。分厚 い底 と砂 を多 く含 む胎土 が通有 の杯Cと異 な る。 口径19.2cm、 器高3.6cm、 径高指数20.3。 皿Aに
は、aO手
法 で1段
放 射 暗文 を もつ (17)と、底部外面 を粗 く削 った後 に外面全面 をヘ ラ磨 きす るb3手
法 で、 内面 底 部 を ハ ケメ調整 の後、二重 の ラセ ン暗文 を施す(18)が
あ る。18は内湾気 味の口縁部、石英粒 を多 く含 む胎土 が異例 であ る。底部外面 に「 ×」 の墨書 があ る。蓋 (16)は大 き く扁平 なつ まみを もち、 日縁端部 がわずか に肥厚す る。頂部 は5分
割 にヘ ラ磨 き し、内面 とつ まみ上面 とに ラセ ン暗文 を施す。 国径21.4cm。 日縁部 を ヨコナデす るだ けの杯G(2・ 3)は
日径10〜1l cm。3
には灯 明痕跡 があ る。暗茶灰色 を呈 し粗製 であ る点 で皿
G(1)、
小壷B(4〜
6)、 横瓶形小 型壺(7)と
共通す る。小壺Bは
扁平 な体部 に外反 す る短 い口縁 がつ く。 口径6〜 9 cm前後 の 小型 品であ る。4・ 5は外面 をハ ケメ調整 し、 内面 はナデ調整。6は体部外面 をナデ調整、 内 面 をヘ ラで撫 で る。横瓶形小型壺 は4・ 5と同 じ調整で内面 には粘土 の継 ぎ目が残 る。体部長8.8cm。 製塩土器
(8)は
口径9 cmで外面 に手掌紋 が残 る。甕・ 鍋 は多量 にあ る。 小 片 の ため 図示 で きないが甕Aに
は体部 内面 をナデ調整す る「大和型」 に混 じって、体部内面 をヘ ラ削 り す る「河 内型」 などがあ る。須恵器
器種 には杯A、 杯B、 蓋、椀A、 鉢、高杯、平瓶、壺、甕 な どが ある。杯
Aに
は法 量 の違 いによるAⅢ
lとAⅣ
があ る。AⅢ l(27)は
丸底気味で厚 い底部 の外面 を丁寧 に ロクロ 削 りす る。 日径14.6cm、 器高5.5cmo AⅣ (28)は底部 ヘ ラ切 り不調 整。 杯Bに
は法 量 に よ る7
【雲≦≡雲翌上
==■ h均9
`
くこ三三≧聖里
「 死
1fig 7 SE 8690出土土器
BⅡ、
BⅢ
、BⅣ
があ り底部 ヘ ラ切 り不調整 が多 い。BⅣ (21)は
口径14.5 cm、 器 高3.9cmで 低 目の高台がつ く。杯B12(23)は
分厚 い底部 が高台 よ り下 に垂 れ る。 硬質 で灰 白色 、 東 海 地方 の製 品。 なお、BⅢ
に灯 明痕 が残 るものがある。杯B蓋
(19・20)は
扁平 な宝珠形 のつ ま みがつ き身受 けのかえ りはない。 ともに内面 を硯 に転用す る。 なお、 かえ りを もつ蓋 は下層 出 上 の1点のみであ る。椀Aに
は平底 か ら直立気味 に開 く24と、丸 みを もって 国縁部 に至 る25・26があ る。24の口径13.8om、 器高7.4cm。 平瓶
(29)は
肩 部 に稜 のつ くや や高 い体 部 と広 日の 回縁部 か らな る。体部外面下半 を粗 くハ ケメ調整 したのち底部周縁部 をヘ ラ削 りす る。体部径19cm。 甕 (30)は直立気味 に開 く短 い口縁 の端部 が三角形 に肥厚す る。 内面 の当て具 は年輪 の 浮 き出た木 口に放射状 に刻 み 目を入 れた「車輪文」 で ある。 白灰色 で砂 を多 く含 む。甕 には他
に直立 す る短 い口縁部 を もち肩部 に円形浮文 を貼 り付 けた ものな どがある。
2)井
戸SE8689出土土器 (fig 8‑31〜42、PL.8,10)
整理箱1箱。方形縦板組 の井 戸 枠 内か ら土 師器杯A、 杯B、 杯D、 蓋、高杯A、 壺、甕A、 須恵器杯A、 杯B、 同蓋、平瓶、横 瓶、壺、甕Aが
出土。大半 は藤原宮期 に属 すが、埋土上層 に33・ 39など奈良時代 中頃 に降 る ものが少量含 まれ る。掘形 出土土器 には土師器杯A、 甕、須恵器杯A、 鉢
Aな
どがあ り、須恵器 杯A(40)や
土 師器杯A片
は藤原宮期 に属す。土師器杯
AIに
はbl手
法 で 口縁端部 の肥厚 が小 さい31や大 き く巻 き込 む よ うに肥 厚 す る32 な どがある。31は口径18.4cm、 器高4.8om、 径高指数27前後。32は日径19.4cmで共 に藤原宮 期 に 属 すが、31が古 い様相 を もつ。33は口縁部 内面 に1段放射暗文 と連弧暗文 を施 し、 口径20cmで 平城宮 Ⅱ期 に属す。甕A(34)は
内湾気味 の口縁 の上端 に面 を もつ。体部 内面下半 はオサエ、上半 はナデ調整。外面全体 に煤 が付着す る。甕
A(35)は
「 河内型」 であ るが内面下半部 をナ デ調整す る。 国径17.8cm、 器 高18.Ocm。 須恵 器 杯Aに
は口縁 部 と底 部 の境 に丸 み の あ る杯A
(36)と、角張 った杯
AⅡ (37)が
あ り、 ともに底部 は ロクロ削 り。杯BⅣ (39)は
低 い高 台 が底部 の縁辺 につ き、 回縁部 が斜 め上方 に直線 的 に開 く。 口径13.2 cm、 器 高4.l cmで底 部 はヘ ラ切 り不調整。平城宮 Ⅲ〜Ⅳ期 に属 す。杯B蓋
(38)は 口径16.5cm。 やや高 い宝珠形 のつ まみ の上面 に「 ×」 の墨書があ る。横瓶 (41)は成形時 の下半部 は平行叩 き目と同心 円当て具痕 か らな る叩 き成形 であ るが、上半部 は叩 いて いない。甕A(42)は
日径16.8cmの直立気 味 の短 い 口縁 を もつ。底部外面 と口縁部 〜頚部 の内面 が磨滅 してい る。体部径27.3cm、 器高28.9cm。3)井
戸SE8650出土土器 (fig 8‑43〜51、PL.9,10)
井戸枠抜取穴 か らの出土 で整理 箱 1箱。器種 には土師器杯A、 杯C、 杯H、 皿A、 甕A、 甕B、 須恵器杯A、 杯B、 同蓋、平瓶、横瓶、壷、甕 な どがあ り、土師器鍋・ 甕類、須恵器壺・ 甕類 が多 い。 いずれ も藤原宮期 に属す。
土師器杯
AI(45)は bl手
法で比較 的密 な2段
放射暗文。 口径17.Ocm、 器 高5,Ocm、 径 高 指数29.4。 ttC Ⅱ (43・
44)は
口径13.6cm、 器高2.9cm。 甕A(46)は
口縁端部外側 に面 を もち、体部下半 内面 を縦ハ ケメ、上半 か ら回縁部 を横 ハ ケメ調整。 口径
16cmo ttA(47)は
茶褐色 の6
4
ノ 狩
fig.8 SE 8689・ 8650出 土土器
≦
16
緻密 な胎土 で体部 内面 をヘ ラ削 りす る「河 内型」。 日径16.Ocm、 器 高
16.3cmo tt B(48)は
体 部 内面上半 を横 に、下半 を縦 にナデ調整す るが、所 々に成形時の当て具痕跡が残 る。日径23cm。須恵器杯
B蓋
(49)は頂部 の周縁 に高台状 の突帯が巡 る。器形 か ら体部 に稜 を もつ杯類 の蓋 と 思 われ る。類例 は陶 邑古窯址群 のT G33・ 55・ 71号窯 な どにあ り、藤原宮期前後 の上器 と伴 出 す るが、本例 は外面 の濃緑色 の 自然釉 や胎土 か らみて陶 邑古窯址群 の製品で はない。平瓶 (51)は丸 みのあ る頂部 に広 い口が開 く。底径17.5cm、 体部径23.6om。
4)井
戸 SE8664・ 8665出 土土器 (fig.9‑52〜66、PL.9,11) 2基
の井戸 は検 出当初、1
基 の不整形 な土坑 と認識 してお り、 その段階で出上 した遺物 には和 同開弥銅銭 1枚と土師器杯
A、 杯C、 皿A、 蓋、鉢、甕、須恵器杯A、 杯B、 同蓋、高杯、壺、甕等 があ る。掘 り進 め る 内 にSE8665の井戸枠 を抜 き取 った後、SE8664が構築 されてお り、検 出当初の土器 にはSE8664 廃絶時 までの上器 が混在す ることが判 明 した。和同開弥 の出上位置 はSE8665井戸 枠抜 取 り、
SE8664掘形 のいずれかであ るが、両者 の上器 は互 いに類似 して い る上 、 比 較 的良好 な接 合 関 係 にあ って区別 で きない。 そ こで、土坑段階 の上器 とSE8665抜取穴及 びSE8664掘形 の上器 、 SE8664井戸枠 内の上器 とに分 けて記述す る。
土坑段階 の土 師器杯CⅡ (64)は口径13.6cm、 器高3 3cm、 径 高指数24。 口縁 端部 内側 の面 が広 い。飛鳥Ⅳ〜
V期
。須恵器杯BⅡ (66)は分厚 く垂 れ下 が った底部 を もち、 日径17.Ocm、器高3.2cm。 飛鳥Ⅳ〜
V期
に属 す。 これ に対 して須恵器杯BⅢ (65)は
ヘ ラ切 り調整 の底部 と直線 的 に開 く口縁部 との境 に低 い高台 を巡 らせ る。SE8689の39と類 似 し平 城 宮 Ⅲ期 に位 置 づ け られ る。 口径15。2cm、 高 さ4.5cm。 65は出土土器 の中で最新 の資料 で あ り、SE8664の廃 絶 を 平城宮 Ⅲ期 にお くべ きことを示 して いる。
SE8665抜取 り及 びSE8664掘形 出土土器 (52〜55・
62)に
は土師器杯A、 杯C、 杯H、 皿A、蓋、高杯、鉢、甕A、 篭B、 須恵器杯 A・ 椀 A・ 杯 B。 同蓋・ 高杯、甕 な どがあ り、 いずれ も 飛鳥Ⅳ〜
V期
に属 す。土師器杯Al(52・ 53)は bl手
法で、 口縁端部 を小 さ く肥 厚 させ、2
段放射暗文 を施 す。 口縁部 が直立気味 の52は暗文 が粗 く、外傾度 の大 きい53は密な暗文である。
国径18〜18.5cm、 器高5cm前 後。径高指数27〜28.5。 皿
AI(54)は bO手
法 で 口縁端部 を小 さ く外反 させ る。 国径22cmo ttA(55)は
湾曲す る口縁部 の内面 をハ ケメ調整 し、外端部 に面 を もつ。体部 内面 は横方 向のナデ調整。 口径16cm。 須恵器杯BⅡ(62)は
SE8664掘形 出土 で外 方 に踏 ん張 った細 い高台 と口縁端部 の小 さな肥厚が特徴 的。東海地方 の製 品であろ う。 ロクロ 削 りの底部外面 に「川」字状 のヘ ラ記号 が ある。 口径17.8cm、 器高4.3cm。SE8664井戸枠 内出土土器 (56〜
61)は
大半 が最下層 か らの出上 で、 器 種 に は土 師器 杯D、杯H、 皿A、 壺、甕A、 甕C、 須恵器杯A、 杯B、 同蓋、平瓶、壺、甕 な どが あ る。土師器甕 体部 や須恵器壺 口縁部 の細片が多 い点 でSE8685と類似 す る。土師器杯
D(56)は
内湾気 味 の 口縁 の端部 が内側 に肥厚 す る。bl手
法で内面 に暗文 を もたない。 口縁部 の内外面 に「 ×」 の17
fig,9 SE 8664・ 8665出土土器
針書 きがあ る。 日径15.Ocm、 器高4.5cm。 甕
A(57〜 60)は
ほぼ同大 で あ るが、 内面 を ヘ ラで 横方 向 に撫 で る57、 横方 向ハ ケメ調整 の58・ 59、 横方 向 に撫 で る60などがあ り、 日縁部 の形態 も多様 であ る。58は胎土 と口縁部 の特徴 か らも「近江型」。「大和型」 の60の体部外面 には全体 に煤 が付着 し、 内面 には一方 に偏 った焦 げ付 きがあ る。甕C(63)は
須恵器 の技法で作 ったい わゆ るロクロ土師器甕で、体部全体 を叩 き成形 した後、上半部外面 をカキメ、 内面 をナデ調整 す る。体部 内面下半 には微 かな同心 円の当て具痕が残 る。淡黄灰色 を呈す る還元炎焼成で軟質。北 陸地域 に顕著 な分布 を示す器種 で あ るが、藤原宮・ 京域 の飛鳥
Vの
土器群 に2・ 3の出土例 があ る。頚部以下 の体部外面 に幅3 mmの植物質 を粗 く編 んだ篭 の痕跡 が残 り、釣 り下 げて使用 した とみ られ る。須恵器杯B(61)は
厚 い底部 に比 べて細 い口縁部 か らな る。底部外面 はロク ロ削 りののち ロクロナデ。 口径17.5cm、 器高4.2cm。5)井
戸SE8685出土土器 (fig.10‑67〜74、PL.10)
整理箱半量。大半 が井戸抜取穴出上で、器種 には土師器杯A、 杯C、 壺B、 甕、須恵器杯A、 杯
B蓋
、壺、甕 があ る。土 師器杯Aに
は 時期 を異 にす る三者 があ る。 内面 に2段
放射暗文 を施 す69は飛鳥Ⅳ〜V期
。1段
放射暗文 と連18
70
0 ( │
c三
三 ≡ ≡ ≡ 三
:::::三::::::::::::::甘 i:!!!!:::::!!!!!!!!!!!二 !!J聖ぃ
. 82fig。10 SE 8685。 SK 8686・ SB 8670出土土器
弧暗文 を施 す67は回径20cmで 平城宮 Ⅱ期。1段暗文で外面 のヘ ラ磨 きがない68は同Ⅲ期。抜取 穴最上層 の須恵器杯
A(71)は
平底 か ら斜 め上 に開 く器形 で底部 はヘ ラキ リ未調整。 内外面 に 火欅 きがあ る。平城宮 Ⅲ期。 なお一部残 った掘形埋土 には飛鳥Ⅳ〜V期
に属す土師器杯A等
が 数片含 まれてい る。6)土
坑SK8686出土土器 (fig.10‑75〜83)
整理箱1箱
。器 種 に は土 師器 杯A、 杯C、 杯 D、 杯G、 杯H、 皿A、 甕、甑、須恵器杯A、 杯B(81)、 同蓋、椀B、 皿B、 同蓋 (82)、 高 杯、鉢、甕 な どが あ り、供膳具が 目立 つ。土 師器杯Cに
は口径14.6cm、 器 高3.2 cm、 径高 指 数 22で飛鳥Ⅳ〜V期
に属すCⅡ (75)の ほか、径高指数28〜 32で外面 を磨 く飛鳥 Ⅱ〜 Ⅲ期 に属 す ものがあ る。杯A(76・ 77)は
ともにbl手
法でヘ ラ磨 きが粗 い。須恵器蓋 には杯BI蓋
(78) のよ うにかえ りを もつ ものが少量含 まれ るが、大半 はBⅢ
蓋 (79)の よ うにかえ りを もたない。蓋 (82)は 口径31cmで 大型 の皿
Bに
伴 うもの。甕 (83)は端部 の肥厚 した大 きな直 口。外面 は 平行 叩 き目、 内面 はナデ調整 で平滑。7)建
物 SB8670出土土器(fig.10‑84)
柱穴か ら飛鳥Ⅳ〜V期
の上 師器杯A、 杯B、 杯C、皿
Aな
どの小片 とともに、瓦 を思 わせ る胎土 と焼成 の悟 り鉢(84)が
出土 した。厚 い器壁 の平 らな底部 と斜 め外方 に直線 的 に開 く回縁部 か らな り、片 口につ くる。外面 は口縁部を縦方向に、底部 との境 を横方 向 にヘ ラ削 りす る。 内面 には使用時 の擦痕 が横方 向 に残 る。
8)一
条条間路(SF6800)側
溝出土土器 (fig.11‑85〜101)
整理 箱4箱
。 北 側 溝SD6802 出土土器 が南側溝SD6801出土土器 よ りも多 い。器種 には土師器杯A、 杯C、 杯B、 杯G、 皿 A、 高杯B、 小壺B、 甕A、 甕B、 甕C、 鍋、甑、竃、須恵器杯A(99)、 杯B(940950101)、
同蓋 (91〜93)、 杯G、 椀A、 椀B(97)、 皿A(100)、 鉢A、 大盤A、 短頚壺、提瓶、長頚壺、
平瓶、磁、甕 な どがあ る。 いずれ も飛鳥Ⅳ〜
V期
に属 し奈良時代 の土器 は明確で はない。土 師器杯
AI(85)は bl手
法 で 口径18.6cm。 皿A(86)は aO手
法 で 口径22.6cm、 器高2.6cm。小壺
B(87・ 88)は
口径6.8〜7.2cm、 器高4.6〜5,2cm。 完形 品。ttA(89)は
内面 を ヘ ラ削 り、外面 を細 かなハ ケメ調整す る「河 内型」。短 い口縁 の甕
X(90)は
体部 内面 粘 土 の継 ぎ目が残 る。竃 は裁頭 円錐形 をなす体部 の一側面 を方形 に切取 り、 その両側 と̲L部 に庇 を貼 り付 ける。口径20cm、 高 さ20cmの小型品 と口径25cm以 上、高 さ約40omの 大型 品があ る。須恵器蓋 (91)は 頂部外面 に「 □ 〔郡 力 〕□」 の墨書 を もち、92は内面 を硯 に転用 して いる。杯
B(94・ 95)は
底部 ヘ ラ切 りで踏 ん張 り気味 の高台 を もつ。杯
G(98)は
底部 ヘ ラ切 り。杯A(99)は
底部 ロ クロ削 りで無蓋 の器種。 口径15.2cm、 器高4.2cmo ttA(96)は
直立 す る口縁 部 の端部 外面 が 凹む特徴 を もち、猿投窯 の製 品 と思 われ る。 日径13.4cm、 器高6.4cmで有蓋 の器種。ttB(101)
は白灰色 で薄手。 日径27.6cm。 杯部下半 を ロクロ削 りし、径17cmの高 い高台がつ く。
9)井
戸SE6810出土土器 (fig.11‑102〜107)整
理箱1箱
。 一 条条 間路 北 側溝 に近 接 した 井戸 の抜取穴。器種 には土 師器杯A、 杯D、 杯G、 皿A、 鉢A、 小壺B、 甕A、 甕B、 甑、須 恵器杯A、 杯B、 同蓋、壺、甕 があ り、 いずれ も藤原宮期 に属す。 杯D(102)は bl手
法 だ が底 中央部 に木葉痕 が残 る。杯G(103)も
同様 の器形 であ るがaO手法。ttA(104)イ
よaO手
法で86と類似 し、後述 の120(bO手
法)よ
りも浅 い。皿A、 杯Gと もに底部 に木葉痕 が残 る。甕
A(105)は
SE8664の60に類似 した口縁 だが内面 はハ ケメ調整。 口径13.6cm、 器 高11.3cm。須恵器杯
B(107)は
垂 れ下 が る底 部 の周縁 に低 い高 台 がつ く。 口径16.6cm、 器 高4.6cm。 蓋 (106)は外径15.9om。 口縁端部 内面 に灯 明痕 がある。10)井
戸SE7244出土土器 (fig.11‑108〜116)整
理箱2箱
。 右 京一 条一 坊 西南坪 北 端 の井 戸 で、北半 を逆L字
形 の縦板組 に改修 す る。器種 には土 師器杯A、 杯B、 蓋、杯C、 皿A、 高 杯A、 鍋、甕A、 B、 竃、甑、須恵器杯A、 杯B、 蓋、皿、椀A、 壺、甕 が ある。土師器 で は 杯A・Bが
多 く、鍋て甕、甑、電 などの存在 も特徴的である。杯Aに
はbl手
法で2段
放射 暗 文 (109)の ほか、平城宮 Ⅱ期 に属す1段
放射暗文 十連弧暗文 (108・110)が
少量 あ る。 杯B
(112・
113)は
径高指数28前後で外面 を密 に磨 く。蓋 (111)は 口径15.8cm。 内面 に大 きな ラセン暗文を施す。須恵器蓋 (114)は厚 い頂部 と薄 い端部 が特徴的で、奈 良 時代 に降 る可能 性 が 強 い。杯
A(115)は
日径16.4cm、 器高4.Ocm。 口縁 の上1/3の内外面 に灰 が被 り、 同一 器 種 の重 ね焼 きであ る。杯BI(116)は
薄手 で シャープな国縁部。東海地方 の製 品。 井 戸 は平 城遷 都 前後 に改修 され、奈良時代前半 に廃絶 した と思 われ る。 ほか に土馬・ 転用硯・ 靖塙 に使用 した 土 師器 な どがあ る。11)土
坑SK7236出土土器 (fig。11‑117〜121) 5袋
。器種 には土 師器 杯A、 杯C、 杯G、皿A、 甕A、 甕B、 甕C、 須恵器杯A、 杯B、 蓋、鉢A、 甕が ある。藤原宮廃絶時〜奈良時代 初 めに属す。杯
AI(118)は bl手
法で2段
放射暗文。 国径20cmtto ttA Ⅱ (117)は al手法 で回径11.4cmo ttC(119)は
藤原宮期 の特徴 をよ く示 す。皿A(120)は bO手
法で104よ り も 浅 いが放射暗文 は粗 い。土 師器甕Aは
日径16cm、 器高14cm前 後 で内面 をなで る「大和型」 が多く、 口縁部 が大 き く肥厚す る。須恵器鉢
A(121)は
端部近 くを強 く撫 で る特 徴 が あ る。 灰 白 色 を呈す る東海地方 の製品。12)土
坑SK7240出土土器 (fig。11‑122〜128) 5袋
。浅 い皿 状 の方形 土 坑 で、 他 の土 坑・井戸 と異 な り、飛鳥 Ⅲ〜Ⅳの上器 が主体 で、飛鳥
Vが
わずか に含 まれ る。器種 には土師器杯A、杯C(123)、 杯H(122)、 皿A(125)、 皿H(124)、 鉢A、 台付鉢、高杯B、 高杯H、 甕A、
甕B、 甕C、 甕X、 竃、須恵器杯A、 杯B、 杯
G(127・
128)、 蓋 (126)、 壺 、 甕 が あ る。 土 師器杯A、 須恵器杯Bは
少 な く、他 に漆皿 に使 った上師器杯 や フイ ゴ羽 日、鋳型 があ る。工房 に関連 した土器群 であろ う。13)土
坑SK7238出土土器 (fig.11‑129〜130) 2袋
。土 師器杯A、 甕A、 甕B、 小 壺B、須恵器杯B、 椀
Bが
あ り、藤原宮期 に属す。土師器杯A(129)イ
よbl手
法で2段
放射 暗文 だが 径高指数23と浅 い。椀B(130)は
口径20.8cm。 底部 は丁寧 な ロク ロ肖1り 。 高 く踏 ん張 る高 台 がつ く。底部外面 にヘ ラ書 き「 □ 〔部 力 〕」がある。東海地方 の製品であろ う。14)井
戸SE7243出土土器 (fig.12‑131〜148)整
理箱5箱
。 多 くは飛 鳥V期
に属 す が埋 土 上半部 に平城宮 Ⅱ期 に属 す ものが あ る。器種 には杯A、 杯C、 杯B、 蓋、皿A、 皿H、 高杯A、鉢A、 甕 A・ B・ C、 鍋、竃、須恵器杯A、 杯B、 蓋、椀 A・ B、 皿B、 鉢A、 高杯、平瓶、
甕 な どがあ り、墨書土器、土馬、 フイ ゴ羽 □が伴 出す る。土 師器杯
Aに
は藤 原宮 期 に属 す136 の ほか、平城宮 Ⅱ期 に属す連弧暗文 を もつ小片がある。杯 (131)は b。手法 で杯AIに
似 た法 量 を もち、1321よaO手
法 で杯Cに
似 た器形 であ るが、 いずれ も内面 に暗文 を施 さない。杯A、杯
Cを
模倣 した粗製 の杯 で藤原宮東 内濠SD2300などに出土例 があ る。蓋 (134)は口径23.2cm。皿
Bに
被 る。皿A(135)イ
よaO手
法 で、 口縁端部 の巻 き込みが大 きい。平城宮 Ⅱ期。鉢A(137)
は口縁部 内面 に長 い1段放射暗文、底部 をハ ケメ調整 した後 に ラセ ン暗文 を施 し、 回縁部外面 を密 に磨 く。甕A(138)、 甕
C(139)は
ともに体部 内面 をヘ ラでなで る。須恵器杯A(145)は
浅手 で底部 ヘ ラ切 り不調整。
ttB(143・ 144)は
底部 の内寄 りに踏 ん張 った高台 を付 けた もの覗 7U88喜 乳 理 =」
5
<ミ
三 三
F::::::::::::::::::::]Z222222222222号2222222万「 「
lfi4
窪撃撃≧≧垂≧堅
111―
― ル
115
122
fig.1l SD6801・ 6802・ SE 6810・ SE 7244・ SK 7236・ SE 7240・ SK 7238出
LL器
1範
巧 甲
0
1開
(144)が一般 的で あ るが、底部 の周縁 に低 い高台を付 けたもの (143)が少量 ある。椀
B(146)
は直立気味 の 口縁部 で、高合 は断面三角形 を呈す る。胎土 か らも東海地方の製品。蓋 には笠形 (140)と扁平 (141・
142)の
二者があ るが、かえ りを もつ もの はほとん どない。 平瓶 (148) は体部径23.6cmの大型 で肩 部 に二条 の沈線 が巡 る。扁平 な頂部 に上側面 をヘ ラ削 りで調整 した 提梁 がつ く。平城宮 Ⅱ期 に属 すで あろ う。15)井
戸SE7237出土土器 (fig。12‑149〜163)
整理箱7箱
。 大 半 は飛 鳥 Ⅳ 〜V期
に属 す が 一部 (159・ 162等)は
奈良 時代初 めに降 る可能性 があ る。器種 に は土 師器杯A・ B・CeD。
G・ H、 蓋、皿A、 鉢A、 小壺B、 甕A・
BoC、
鍋、 甑、竃 、須恵器杯A・ B・ G、 蓋、椀 A、 鉢A、 皿A・ B、 大皿 、台付壺、平瓶、長頚壺、短頚壺 、悟 り鉢、甕があ る。他 に墨書土 器、転用硯、漆皿、製塩土器 が少量含 まれ る。tt C(149・ 150)イよ回径13.7〜12.7cm、 器 高31
〜3.3cmo ttA Ⅱ
(151)は bl手
法 で 口径16.7cm、 器高4.4cm。 甕Aに
は内面 を削 る152と ヘ ラで 撫 で た153・ 154な どが あ る。甕Bは
扁平 な把手 を貼 り付 け、体 部 内面 に当て具痕 がある。須恵 器杯Aは
丸 みのあ る分厚 い底部 (158)と 平底薄手 な どが あ る。 杯B(156・ 157)は
いず れ も 底部 ヘ ラ切 り調整。 蓋 (155)は笠形 をな し口縁部 に身受 けの小 さな返 りがつ く。外径14.8cm。「 子
Jの
墨書 が あ る。平瓶 (159)イよ体部径8.8omで提梁 がつ く。 平瓶 (161)イ よ直径18.7cmで角 張 った肩 の体部 に広 国の 口縁部 がつ く。160は口縁端部下 に凸帯状 の段 を もつ。 東海地方 の平 瓶 の口縁部 と思 われ る。短 頚壺 には角張 った肩 に沈線 を巡 らせ四耳 を もつ162と 、 やや張 りの あ る体部 で高台 を もつ163な どが あ る。16)土
製品な ど硯・ 土馬 の ほか、墨書土器、製塩土器、漆付着土器がある。
硯 には一条条 間路南側溝SD6801の蹄 脚 硯脚 部 1
片、同溝上 の包含層 な どの円面硯
3点
の ほか、須恵 器杯B蓋
の内面 を使用 した転用硯6点
があ る。 円面 硯 (fig 13)は 硯面部径15,3c皿、 長 方 形透 窓 は19個 に復元 で きる。包含層 出土 で はあるが、本来 は南側溝 に含 まれていたので あ ろ う。 ほか にほぼ同大 で透窓 が22個 に復元 され る破片 がある。
土馬 は SE7243・ 7244な どか ら体部
4点
、脚部4点
、尾部1点
が 出上 した (PL ll)。 調 整 と 胎土 か ら7個
体以上。 いず れ も長胴短脚 で鞍 を突帯 で表現 す る形式 で、尻繋を竹管文列で表現 す る もの と しない もの、手綱 を沈線 で描 いた ものなどがあ る。平城京 の奈良 時代 前半 の清SD
485出 土例等 に比べて、胴部 の反 りがない点で藤原宮期 の上馬 の特徴 を もつ。
製塩土器 は図示 したSE8690例
(8)の
ほか SE8685・ SE8664・ SE7237な ど奈 良 時代 前半 ま で存続 した井戸 か ら少量 出上 している。 いずれ も外面 に手掌文 が残 り、 内面 はナデ調整。漆付着土器 には土 師器杯A・ 杯 C・ 杯G、 須恵器杯
Bな
どを利用 した漆パ レッ トと須ほ器壺・平瓶 を利用 した漆壺 とが あ る。 いずれ も少量 づつで はあ るが、SE8690・ 7244・ 7237な ど銅 ス
ラグ・ フイ ゴ羽 日 と重複 した出上分布 を示す。
墨書土器 は、 図示 した ものの ほか にSK7236の須恵器杯
Aが
あ るが、判読 で きない。17)右
京―条―坊 出土土器 の特徴①土 師器杯
AIを
例 に とれば、西北坪 の土坑・ 井戸 出土土器 は径高指数29〜 26で2段
放射 暗 文 の飛鳥 Ⅳ〜V期
の土器が主体 を占める。 その うちSE8689には抜取穴埋土上層 に、SE8685には抜取穴底近 くに口径20cm程 度、径高指数18〜19、
1段
放射 暗文+連
弧 暗文 の平城宮 Ⅱ期 や径 高指数17前後 で1段
放射暗文 だ けの同 Ⅲ期 の土器 が少量含 まれて いる。 西南坪 の井戸、土坑 の 場合 も同様 で、SE7244に同様 の時期 の上器 が含 まれ るが、 内面 の暗文 が な くな った奈良 時代 後半以後 の土器 は認 め られない。両坪 は飛鳥 Ⅳ期 に造営 され、飛鳥Vの
時期 に改作を受 けた後、平城宮 Ⅱ・ Ⅲ期 に完全 に廃絶 す る。
奈良時代 の上器 は これ まで に、京域で は本坊 に隣接 す る右京一条二坊 や左京二条二坊、宮域 東 の左京六条三坊 な どで確認 されて いるが、宮域 で は西外 濠、東方官衡地 区 の一部 などその出 土 は限定 的 であ る。宮・ 京域 の大部分 は遷都後程 な く廃絶 した と考え られ るが、一部 は左京六 条三坊 のよ うに、役所 (香山正倉
)と
して利用 された り、本坊 を含む北辺街区の一部のように、大 き く性格 を変 え る ことな く、暫 く存続 した と思 われ る。
これ に対 して、一条条間路側溝 には明確な奈良時代 の上器 はみ られない。 この点 は他 の条坊 関連遺構 の場合 と同様 であ り、条坊側溝 は藤原宮 の廃絶後 程 な く埋 め立 て られたのであろ う。
②土坑・ 井戸 出土土器 の器種構成 で は鍋・ 甕・ 竃・ 甑 な ど煮炊具が 目立 つ。比較 的出土量 の 多 い井戸 SE8690。 7237・ 7243で 算 出 した器種構成比 は、杯皿等 の供膳具 :甕鍋 等 の煮 炊 具 : 壺等 の貯蔵 具 が
6〜 7:3:1と
な る。藤原宮東大溝SD105な
ど宮城 内 中枢 部 で は10:1:
1の比率 にあ って供膳具 が圧倒 的で ある。煮炊具 が供膳 具 の半分程度存在 す る構成 が、小規模 な建物で構成 され る宮城北辺 の街区での器種構成上 の特徴 とみることができる。そこでは、甑・
竃 の破片 も少量 ずつ出土 してお り、比較的小規模 な単位 で煮炊 きが行 なわれたであろ う。
③土 師器杯類 の内容で は木葉痕 を残 す
a手
法 の杯・ 皿類 (102・ 104・ 135な ど)が
多 い こ とと暗文 を もつ杯
AoCを
模倣 した杯 (1310132など)の
存在 が注 目され る。前者 は底部 のヘ ラ 削 りを省略 した もので、後者 は法量 は規格 に合 って い る ものの、 暗文・ ミガキを施 さない。 と もに粗雑 な作 りの土器 であ る。後者 は藤原宮東面北 門周辺 の内濠SD2300等に もみ られ、 必 ず しも京域 に限定 され るわ けで はない。 む しろ東面北 門周辺 は官奴 司の木簡 が出土す るなど、現 業部 門 をかかえた官行 の存在 が想定 され る地域 であ り、本調査 区周辺 が銅 スラグ、 フイゴ羽 口、漆皿 な ど工房 関連遺物 の出土 す る地域 であ る点 で共通 す る性格 にあると考 え られる。すなわち、
これ ら粗雑 な作 りの上器 は都城遺跡 内で も現業階層 によ って使 われた供膳具 あるいは道具 と考 え られ、 その出土 は単 に京域 と宮域 との違 いで はな く、 そ こで行 なわれ た活動 の内容 (遺跡 の 性格
)の
違 いを反 映 してい るとみ られ る。瓦
瓦 は少量 であ り、井戸・ 土坑 な どか ら散発的 に出土 した。 内訳 は軒丸瓦
1点
、軒平瓦2点
、 英斗瓦3点
、丸瓦約12kg(約
80片)、 平瓦約23kg(約
150片)で
あ る。1)軒
丸瓦6273型
式B種 1点
(fig。14‑1)が
井 戸SE8689の井 戸 枠 内 か ら出土 した。6273 型式 は内区 に複弁八弁蓮華文 を配 し、外 区内縁 に珠文、外縁 に凸鋸歯文 をめ ぐらす。A〜 D種
が あ り、全て藤原宮所用 であ る。
B種
は弁 の盛 り上 が りが弱 いが、弁端 で強 く反 るのが特徴で あ る。C種
と酷似 す るが、中房 が よ り高 く、凸鋸歯文 の数 も64と1個
少 ない。外 区内縁 に絶傷 が1箇所 あ り、瓦 当側面 に抱端痕 が残 る。瓦 当裏面 や丸瓦部凸面 はナデ調整。瓦当裏面 の一部 に押圧 した布 目痕 が残 る。表面 は黒 く燻 し焼風 である。胎土 に黒色粒 を多 く含む。高取町 と御 所市 の高台・ 峰寺瓦窯産 で あ る。藤原宮 で は、大極殿・ 朝堂院地 区で、6273型 式B種
は軒平瓦6641型 式
E種
と組 み合 わせて使用 された ことが判 明 している。 ともに粘土紐桶巻 き作 りである。2)軒
平瓦6641型
式F種 1点
(fig。14‑2)が
井 戸SE8664の掘 方 か ら、 6643型 式D種 1点 (fig.14‑3)が
井戸SE8685の井戸枠抜 き取 り穴 か ら出上 した。6641型式 は内 区 に左 か ら右 に 流 れ る偏行唐草文 を配 し、上外 区 に珠文、下外 区 と脇区に線鋸歯文 をめ ぐらす。A・ C・E〜
Pの
14種が あ り、ACC・
E・FoN種
が藤原宮所用である。F種
はA種
と似 るが、支葉 の巻 きが強 いのが特徴 で あ る。瓦 当面 に糸切 り痕 がある。顎 は貼 り付 け削 り出 し段顎であ る。平瓦 部 の凸面 は顎近 くまでを縦方 向 にヘ ラケズ リした後、横方 向にナデ調整 を加え る。 凹面 は瓦当 寄 りを横方 向 にヘ ラケズ リす るが、以下 に布 目が残 る。大和郡 山市 の西 田中・ 内山瓦窯産であ り、軒丸瓦6281型 式Ba種
との組 み合 わせが判 明 している。6641型 式F種
は粘土板桶巻 き作 り であ る。藤原宮 で は、西方官衡地 区で、6641型 式F種
がやや ま とま って出土 している。6643型 式 は内区 に右 か ら左 に流 れ る偏行唐草文 を配 し、上 。下外 区 と脇区に珠文をめ ぐらす。
A〜 E種
が あ り、全 て藤原宮所用である。B〜 E種
は文様 が酷似 す るが、外区の珠文数 や唐草 文 との位置が異 な る。D種
は左端 に絶割れ痕があ り、文様 がずれて い る。粘土紐桶巻 き作 りで、顎 は貼 り付 け削 りだ し段顎 で あ る。平瓦部 の凹面 は瓦当寄 りを縦・ 斜方 向にヘラケズ リす るが、
以下 は桶 の模骨痕 (幅約2.5cm)、 布 とその綴 じ合 わせ痕、粘土紐痕 が残 る。凸面 は顎 近 くを縦 方 向 にヘ ラケズ リす るが、以下 は縦位 の縄 叩 き目が残 る。胎土 に黒色粒 を多 く含む。高台・ 峰 寺瓦窯産 であ る。6643型 式
D種
は藤原宮 で はそれ ほど多 く出土 して いない。3)憂
斗瓦3点
と も切戻斗瓦 (fig,14‑4〜6)で
、粘土紐桶巻 き作 りであ る。 凸面 は縦 位 の縄叩 きののち丁寧 にナデ調整す るが、凹面 は不調整。幅 は11〜12cmが2点
、17cm前後が1点。 前二者 には側縁 を面取 りす る もの(4)と
、 しない もの(5)と
が あ る。 それ ぞれSE8650と SE8690から出土。後一者 は両側縁 を丁寧 に面取 りす る (6)。 SE8689出土 。 他 に割 戻斗 瓦 と 思 われ る瓦が3点
あ る。3 6643D
fig.14 軒瓦・英斗瓦
4)丸
・ 平瓦ほとん どが小片である。丸瓦で判明するものは全て玉縁丸瓦である。凸面 に縄 叩 き目が残 るもの、凸面 に回転 によるハケメ調整 を施す ものなどがある。後者 は側面をヘ ラケ
ズ リし、凹面の側・ 端縁を面取 り。胎土 に黒色粒を多 く含む。高台・ 峰寺瓦窯産であろう。
平瓦 は凸面 に縄叩 き目の残 るものが多 く、粘土紐桶巻 き作 りとわか る例 もある。他 に格子叩 き目平瓦が
1点
、凹凸面 とも丁寧 に横方 向のナデ調整を施す ものが1点
ある。後者 は完形品で ある。長 さ44・9cm、 広端幅32.lclll、 狭端幅30.Ocm、 厚 さ約2.3clll。 側面 はヘラケズ リし、 凹面 の 両側縁 と広端縁 に面取 りを施す。比較的硬質で灰褐色を呈 し、胎上 に長石粒 をやや多 く含む。5)小
結今回の調査で出上 した瓦 は、 ほとんどが藤原宮所用瓦 と同 じ製品であるが、量 は少 な く、本瓦葺 き建物 に用い られたとは考え られない。藤原京内では、 これまでの調査において、
寺院を除いて瓦がまとま って出土 した例 はな く、
1坪
占地 の大規模 な邸宅、たとえば右京七条 一坊西南坪では、正殿や脇殿が棟だけ瓦を用いた甍棟であった可能性を考 えている (『藤原京 右京七条一坊西南坪発掘調査報告』1987)。 今回の調査地で出土 した瓦の場合、 災斗瓦 の数 が やや日立つので、近 くに甍棟の建物があったと考えることもできよう。∞ に 5 鯵
磯
=
3 銭貨、金属製 品、木製 品、 その他
1)銭
貨 (PL。13)井
戸SE8664・ 8665上層か ら和同開珠 の断片が出土 したため、埋土 を水 洗 して同一破片を回収 した。伴出土器などか ら藤原宮期の和同銭である可能性が高いが、3片
に割れるなど遺存状態が悪 く、銭文など細部の特徴 も明確でない。外縁の幅が広い「濶縁」で、背面の方形郭が大 きい「背広郭」 に属する。研日」「 開」「珠」 の
3字
を確認で き、「 降和」「小 弥」 の可能性があるが判然 としない。 また「開」字の門構え上部が隷書風 に開 く「隷開」か否 か も不明。外径2.45cm。 藤原宮期の和同銭 としては、藤原宮第75‑15次
調査出土銭 を確実 な資 料 としてあげることがで きる。 この銭 は隷開、濶縁、背広郭 という特徴があ り、字体 は小振 り で和同銀銭 に類似する。また蛍光X線
分析の結果、成分中にアンチモ ンを数%含
む ことが明 ら かにな っている。近年、藤原宮期前後の銅製品の特徴 として、アンチモ ンを顕著に含有する傾 向のあることが判明 してお り (『奈良国立文化財研究所年報1996』)、 本銭 も以下 に報告 す るよ うに、 アンチモ ンの含有量が高い。 この事実 は、第75‑15次
調査出土銭 に共通する銭形の特徴、伴出土器 の年代 とも矛盾せず、本銭を藤原宮期の和同銭 とする有力な傍証 となろう。
銅銭の成分分析結果
蛍光
X線
分析の非破壊的手法 によって本銅銭の成分分析を行なった。結 果 は次表 にみるように、銅を主成分 に、錫、鉛、 アンチモ ン、 ヒ素、銀、鉄、 ビスマスを副次 的に含有す るが、注 目すべ きことにア ンチモ ンの含有量が錫を上回る。 アンチモンを顕著 に含 む銅銭 としては、藤原宮第75‑15次
調査出土和同銭 と富本銭をあげることができ、富本銭 はこ れまでに出上 した4例
のすべてに数%の
ア ンチモ ンを含む ことが判明 している。 また藤原宮80 次調査出上の海獣葡萄鏡 も同様であ り、今後、古代金属を考える上で見落 とす ことができない 元素の一つ としてア ンチモ ンに着 目する必要があるだろう。銅 88.4 錫 15 鉛 0.2 ア ンチ モ ン 3,8 ヒ素 1 銀 0.4 鉄 3.6 ビスマス
0.9(%)
2)金
属製品 (fig。15・ 16、PL.13)鉄
製品が5点
出上 したが原形 を知 りうる もの は1点
にす ぎない。
1は
全長7.6cm、 身幅0.5cm、 厚 さ0.25cmの鑢。全体に華奢 なつ くりで、 断面長方形 の両平面 に鑢 目が刻まれている。関を境に「 く」の字状 に屈曲するが、本来の形状であるかは 不明。身 は両端部でやや幅を広げ、先端 は厚 さを減 じて尖 りぎみに終わる。屈曲側の面 に右下 が りの斜線を重ねた単 目の鑢 目が、外面の一部 に斜格子の複 目が認め られる。古代の鑢の出土 例 は皆無 に近 く、唯一、宮城県東山遺跡 に出土例があるが、全長17omを超える大型品である。本例 は正倉院 に伝存す る小型 の鑢 (南倉88鑢第 1号
)に
近 く、彫金などの細工用の鑢 とみ られ る。井戸 SE8689出 土。南西坪の65次調査区で は、井戸 SE7237か ら鉄鏃 と刀子 が出土 してい る。鉄鏃 2は 箆被 と茎の界 に棘状突起を もつ棘 箆被の鏃。左右均整 に小 さ く刃 をつ けた基矢 鏃で、実戦用の中心 となる形式の鏃である。関上部に黒漆が付着 し、その下 に糸巻 きの痕跡が28
残 る。全長10.4cm、 茎長3.lcm。 刀子 3は 茎を折損す るが、 刃部 はほぼ完存。 平造 り角棟 の最 も一般的な刀子で、棟関か ら切先に向かって棟厚を減 じる。よく使い込まれており、研ぎによつ て大 きく身が細 る。刃関は不明瞭。現長9。2cm、 身長5.6cm。 棟厚0.35cm。
12は65次調査区の井戸 SE7237か ら出土 した黒漆塗木柄付刀子。完形 に近 い刀身 が木柄 に装 着 された状態で遺存す る。現状で木柄 の柄元か ら中程で折損 し、刀身 と木柄が分離す るが、全 体の残 りは極 めて良 い。現存長23.4cm。 刀身 は平造 り角棟 の一般的な刀子で、切先をわずか に 欠失す るものの鋭利な刃部が残 り、刃関 と棟関の造 り出 しも明瞭。棟 は身中程か ら切先に向かっ てわずかに内湾する。身現長8.3cm、 刃元の身幅0.83cm、 棟厚0.38cm。 茎 は途中で折損 し茎端 を 柄中に残す。
X線
写真 による復原茎長7.2cm。木柄 は全長15.Ocmで、背方向に緩やかに湾曲す る。断面 は背 に丸みを もたせ、腹側 を尖 らせ た卵形を呈する。柄元の断面長径1.8cm、 短径1.42cm。 柄元か ら深 さ7.6cmの茎孔が書1り抜 かれ てお り、柄元木口には鉄刀身を固定 した幅0.5cm、 厚0。lcm弱の飢が埋め込まれた状態で遺存す る。全面 に黒漆が塗布 されているため木取 りや細部の加工 は不明であるが、
X線
写真撮影の結果、柄頭3 cmほ どが別材であることが判明。その材質や接合方法 は判然 としないが、兜金形を
した柄頭材を接着剤で継いだようである (fig.16X線 写真参照)。 柄長
4寸
で計画 した木柄 を 製作途上で5寸
に変更 したものか。刀子 は木工具のみな らず万能の切削具 として多用 されたた め、出土例の多い鉄製品である。 しか しなが ら木柄に装着 された状態での出土例 は少な く、出 土木柄 も白木のものがほとんどである。黒漆塗 り木柄を もつ本品は、工具 とみるよりは官人が 携帯 した書刀 とみるべ きであろう。藤原宮期の刀子を知 るうえで一級の資料である。3)木
製品 (fig.15、 PL。12)
井戸 を中心 に祭祀具や工具柄な どが出土 した。5か
ら9は
斎串。 5は 細長 い薄板 の両端を圭頭状 につ くったもので、上端の斜辺 の左右か ら割裂 くように切 込みが入 る。長12.9cm、 幅2.lcm、 厚0.3cm、 SE8665出 土。 6と 7は 上端を圭頭状に、下端 を剣 先状 につ くる。切込みは
7が
斜辺 に、6が
斜辺直下 に入 る。 7は 全体 に腐食が進み残 りは悪い。現存長20.4cm、 厚0.4cm、 井戸 SE8689出 土。 6は 現存長14.5cm、 幅1.5 cm、 厚0.25cm、 井戸
SE
8650出土。 8も 井戸 SE8689出 土品で、切込みは側辺 に入 る。現存長8.2cm、 幅1.2cm、 厚0.4cm。
9は 剣先状に尖 った斎串の下端部である。SE8664出 土。 これ らの斎串 は、 いずれ も井戸 の埋 土中か ら他の祭祀具を伴わずに出土 してお り、井戸の祭祀 に用いられたものと推測される。4
は中空の茎の外面を縦方向に削 り、外径1.2cm、 長10cmの棒状品 に仕上 げた木柄。小 日か ら節 にかけて径0.8cm、 深 さ9.7cmの孔があ く。井戸 SE8690出 土。10は井戸 SE8685か ら出上 した部 材。折損のため全形 は不明であるが、一木を削 りだ して上端 に丸棒状の握 り部をつ くり、その 直下を三角形 に大 きく春Jり抜 く。欠損部を左右対称 に復原す ると、 スコップの柄 に似 た把手状 木製品 となる。以上の他 に、土坑 SK8667か ら桶 の側板、井戸 SE8689か ら先端 を尖 らせ た杭 がまとまって出土。 またSE8650 0 8665・ 8685・ 8690から桃の種子が出土 している。
︱︱ 約
︲ ︱︱
禦 凶
● 凹 阿 阿 悔
八
︼
fig。
15
金属製品・ 木製品・ 鹿角製品 (1〜3・11:2/3、
木製品1/2)
0
⑨
帥Vζ
fig.16 黒漆塗木柄付刀子実測図 。X線写真
(1/2)
30
4)鹿
角製品 (fig。 15、PL.13) 11は
縦3.75cm、 幅1.35cmの平面矩形 の鹿角製品。中軸上 に径4 mmの円孔が
2孔
あ く。上面 は角を落 として甲盛 りに、下面を平坦につ くる。上面に整形時の 縦方向の削 り痕が残 るが、研磨 されて光沢を もつ。側面形 は、中央部か ら両端 に向か って厚 さ を減 じ、小 日は傾斜をつけて哉 られる (中央部最大厚0.4cm)。 用途 については詳 らかで はない が、正倉院に伝存する葛製胡禄の緒の留具に類似す る。胡禄を身体 に装着するための緒や、矢 束ねの緒を背板 に固定す る座金状 の部品で、対 になる円孔 に緒を通 して背板 に固定 した り、緒 締 としている。本品の用途を推測す る上で参考 になろう。井戸 SE8664の 枠内最下層か ら出土。5)石
製品 (fig.17、PL.13)
今回の調査区に外部か ら意図的 に搬入 された石材 を62点抽 出 で きた。内45点が流理構造が顕著な耳成山産の斜長流紋岩で、表面 は風化のために灰黄白色を 呈 し、板状節理が発達。その内の21点に、小口面を中心 にした使用痕跡が認め られる。 この他 に定形的な流紋岩系砥石や弥生時代のサヌカイ ト製石器などが出土 している。1は 流紋岩質溶結凝灰岩 (俗称榛原石
)製
の砥石。厚 さ6 cm前後 の板状節理の表裏面 と 1側 面を使用。研磨面 は自然の凹凸が磨滅 して平滑 とな り、複数方向の刃痕が認 め られ る。井戸 SE8689出 土。 3は 表面に 1〜 2 mm大の長石風化 による空隙をもつ流紋岩系の砥石。長 さ7.Ocm、幅6.4cmの平面五角形 を した小型 の砥石で、小 日を含み全面が研 ぎ減 る。 上面 は
3方
向 に研 ぎ の方向を変えて使用。土坑 SK8686出 土。2・4〜 6は
井戸 SE8690か ら出土。2は
砂岩製 の 不整形砥石。折損著 しく本来の形状 は不明。2面
が大 きく凹 レンズ状に研 ぎ減 る。 4は厚さ1.3 omの斜長流紋岩製の砥石片。板状節理面の1面
を使用する。研磨面 に筋状の擦痕が顕著に残る。5と 6は 擦石 に近 く、板状節理面の片面を使用 し、大 きくす り減 って角が磨滅する。
7〜 9は 、弥生時代の石器。 9は 剥片刃器で土坑 SK8686か ら出土 した。不定形剥片 の
1辺
に丁寧な両面剥離で刃をつ くり出す。刃部の対辺 となる背部 には自然面が残 る。8は
平面台形 の小型の刃器。刃部 は下辺 と両側辺 に作 られ、いずれ も使用による磨滅が顕著。井戸 SE8665 出土。60次調査では、一条条間路南側溝 SD6801か ら完形 に近 い木葉形の石槍7が
出土。 現長9。3cm、 重量39.3gで 、先端をわずかに欠損。両面か ら細かな二次調整 を加 えて鋭利 な刃 をつ くり出す。
以上 の他 に丼戸 SE8689か ら鋳型片が出土 した。小片のため製作 された器物 は不明であるが、
細密な文様 の一部が残存す る (PL.13参 照)。 鋳型片 は過去 の調査で、西北坪 の井戸 SE6810か ら
1点
、一条条間路の北側溝か ら4点
、南側溝か ら1点
、南西坪の SK7240か ら1点
出土 して いる。 これに関連する鋳造関係遺物 は、60・ 65次調査区か ら輔羽口片が19点、lllllR片が38点出 土 してお り、付近 に鋳銅関係の工房が存在 したことを示唆する。 これ らの分布 は、南西坪の全 域 に分布す るものの、特 に60次調査区の西部 に集中す る傾向があ り、付近 に工房の存在が推測 される。 こうした鋳造関係遺物の出土 と宅地内の小規模建物のあり方 は、平城京の八条、九条 付近 の様相 と類似 し、藤原京 の土地利用 と金属生産工房のあ り方 を考える上で興味深 い。努 サ
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︲
fig.17 石製品・ 靖蝸 32
付 寄生虫卵分析・ 花粉分析
株式会社 古環境研究所
1 試料 につ いて
西 区で検 出 した井戸SE8685と大土坑SK8667の堆積物 につ いて、 寄 生 虫 卵分 析 お よび花 粉 分析 を行 ない、遺構 の性格 と植生 の復元 を試 みた。 試料 はSE8685の 1・
2(上
層・ 下 層)、SK8667の
3点
で あ る。2
寄生虫卵分析1)方
法微化石 分析法 を基本 に以下 の よ
(1)サ
ンプルを採量す る。(2)脱
イオ ン水 を加 え撹拌 す る。0
飾別 によ り大 きな砂粒 や木片等 を 除去 し、沈澱 法 を施 す。は
)25%フ
ッ化水素酸を加え80分静置。(2・
3度
混和)うに行 な った。
tab.3
寄生虫卵分析結果分類群 (試 料0.lcc中
)
井戸SE 8685 土坑 学 名 和 名1 2 SK8667
Helminth eggs 寄 生 虫 卵
Ascaris
回 虫 Trichuris 鞭 虫2 5
Total 計
()7
(― )(5)水
洗後 サ ンプルを2分
す る。(6)片
方 にアセ トリシス処理 を施 す。(7)両
方 のサ ンプルを染色後 グ リセ リ(―
)70
(― )ンゼ リーで封入 しそれぞれ標本 を作製す る。
(8)検
鏡・ 計数 を行 な う。以上 の物理・ 化学 の各処理間 の水洗 は、1500rpm、
2分
間 の遠心分離 を行 な った後、上澄 み を捨 て るとい う操作 を3回
繰 り返 して行 な った。2)結
果SE8685の
2よ り少量 の回虫卵 と鞭虫卵 が検 出 され たが、 他 か らは検 出 され なか っ た (tab.3)。3)小
結分析 の結果、寄生虫卵 は少量 の検 出かあ るい は検 出 されなか った。後述す る花粉分 析 で は花粉粒 が良好 に検 出 されて いることか ら、寄生虫卵 が分解 され るよ うな堆積保存環境 で なか った と考 え られ る。 これ らの ことか らみて、SE8685と SK8667は糞便 に強 く汚染 され る堆 積環境 で はなか った と推定 され る。 よ って、便所遺構 で あ る蓋然性 はない とみなされ る。
3花
粉分析1)方
法花粉粒 の分離抽 出 は、基本 的 には中村 (1973)を参 考 に し、試料 に以下 の順 で物理 化学処理 を施 して行 な った。
(1)5%水
酸化 カ リウム溶液 を加 え15分間湯煎 す る。tab 4 花粉分析結果
ガ類群
̲
井戸SE 8685 土坑
平
空
和名TW名 ̲ 1 2 sK8667
Arboreal pdlen Po」ocarpvs Abres Tsuga
肋 Sy斃釦̲DIprovrcla 釦 脚 函 θれ デaporP滋 Scla」opJivs ycrjttWata JvBrans
PrerOcπИ れ 。JForra Arravs
Benra
働rpれus‐Osけa Jttonたa Castaraっa crenata―Castanopss Fagvs
OIPercys subgen.Lepr」obaranus OVerctt subgen ocrobaranopSお uttus̲zert07a serrata
G"占Aprlttanbe aspera Acscurus tvrbnara
yras FraFfaus
Typha‐Spttan加
Sagi確れ
Grammeae Ovzaり,9
的 eraceae An9ガ9ma腔五s漱 Monοcho口 2
月οlttοコunII s,cとPe心モ釘ia Chenopodia∝ac‐ハ正naranthaceae Caryophylaccae
RaIIuncurus Cmclferae UmbeⅡiferae Prantagο Lactuccjideae Asteroldeac
Monolate勒,e spore Celatopter益
Total po■en Unknown polen
樹木花粉 マキ属 モ ミ属 ツガ属
マツ属複維管束亜属 スギ
コウヤマキ
. 29
5 3 1 1 4
2
・2 23 36 1 8 4
・3 26 2 33 1
Taxaceae―Cephalotaxaxeae― Cupressaccae イテイ科イ ヌガヤ科‐ヒノキ科
121 3
1
10
1
12 11 6 4
1
2
鴛錦耗解約一 冨 nen ♂ 着轟斧 A涯 一 ――一―――十 一― ̲里
1̲̲Porttatt orettcea スペ リヒユ属
1
Mora∝ao‐
Urtlcaceae
クヮ科‐イラクサ科13 3
Rosa∝
ac
バ ラ科5
饂 菰5「 ―
― ― ―
観 鶏 〜― 一 一
―
―
̲ ̲̲ ̲―
ぞ10 5 3 12 5 3
ArtemAsIB
ョモギ属23 16 2 Fem spore 巧
″ 積功而了 ―――――十一一̲̲̲― ――――― ―――――――13 4 3 Trdato枷眸 spOや
三条溝胞子
8 9 2
1Arbo臣 』 っ
olea
樹木花粉116 135 274
Arbored・Nonarbored pollen 樹木・草本花粉
13 1 lo
Nonarbore』po■
en
草本花粉497 315 53
クル ミ属 サ ワグル ミ ハンノキ属 カバノキ属 クマシデ属―アサダ ク リ‐シイ属 ブナ属
コナ ラ属コナラ亜属 コナラ属アカガシ亜属 ニ レ属‐ケヤキ エノキ属‐ムクノキ
トチノキ ブ ドウ属 トネ リコ属
1 1
11 12 1 4 4 5 10 32 2 2 1
626 451 337 18780 9922 17524
3 4 4 ガマ属―ミクリ属
オモダカ属 イネ科 イネ属型 カヤツリグサ科 イボクサ
ミズアオイ属 タデ属サナエタデ節 アカザ科‐ヒユ科 ナデシヨ科 キンポ ウゲ属 アブラナ科 セ リ科 オオバコ属 タンポポ亜科 キク亜科
︲ 3.
6 5 2
W 6 8 3 1 6 2 0 5 1 6 8
. 2.7
85 8
.
︲ Ъ 2 3
・0 4 2
単条溝胞子 ミズワラビ
花粉総数 (試料1∝中に算定)
未同定花粉
Fem spore
シダ植物胞子22 13 5
樹木花
草本 花粉 ―― ―― ―一 ―― ―― ――
一 ¬
キ
タ ナンア
オン デポブ
オボキヨ シウラセ'ヽクモ コゲナリコ下市ギ 科属科科属科科属 アカザ科︱ヒユ科 タデ属サオ声紗存繭 イボクサ カヤツリグサ科
イネ科
ハンノキ属
章本花粉 シ ダ 植 イ テイ マ ィヌ
壇 #毒
維コ
│
サ 管ウヒクワ
ク コナ エ マ ナラ ノ シ ラ属ニキ デク 属アレ属 力属リ コカ属│ ト パ││ ナガ │ムトプネ ノアシブラシケクチドリ キサイナ亜亜ヤノノウコ 属ダ属属属属キキキ属属 11%未満 fig.18 花粉組成図
ワトコ属︱ガマズミ属
│ ク フ ガ 科 マ ス1 属 ベイ │オ フラ ミモ ヒクバマクダ ユサラメリカ 属科科科属属ロイネ属型 ※花粉総数が基数
物マモン束 ヤノルグ 胞キミガ亜スマキミル 子属属属属ギキ科属ミ
(2)水
洗 の後、0.5mmの飾 で礫 な どの大 きな粒子 を取 り除 き、 沈 澱 法 を用 いて砂粒 の除去 を 行 な う。(3)25%フ
ッ化水素酸溶液 を加 えて30分 放置す る。(4)水
洗 した後、氷酢酸 によ って脱水 し、 アセ トリシス処理 (無水酢酸911濃
硫酸 のエル ドマ ン氏液を加 え1分
間湯煎)を
施 す。(5)再
び氷酢酸 を加 えた後、水洗 を行 な う。(6)沈
澄 に石炭酸 フクシ ンを加 えて染色 を行 ない、 グ リセ リンゼ リーで封入 しプ レパ ラー ト を作製 す る。以上 の物理・ 化学 の各処理 間 の水 洗 は、1500rpm、
2分
間 の遠心分離 を行 な った後、上澄 み を捨 て るとい う操作 を3回
繰 り返 して行 な った。検鏡 はプ レパ ラー ト作製後 直 ち に、生物顕微鏡 によ って300〜 1000倍 で行 な った。 花粉 の同 定 は、 島倉 (1973)および中村 (1980)を ア トラスと し、所有 の現生標本 との対比で行 なった。
結果 は同定 レベルによ って、科、亜科、属、亜属、節 お よび種 の階級で分類 した。複数 の分類 群 にまたが る ものはハ イ フ ン (―
)で
結 んで示 した。 なお、科・ 亜科 や属 の階級 の分類群 で一 部 が属 や節 に細分 で きる場合 はそれ らを別 の分類群 と した。 イネ属 に関 して は、中村 (1974、1977)を参考 に し、現生標本 の表面模様 。大 きさ 。孔・ 表層 断面 の特徴 と対比 して分類 し、個 体変化 や類似種 があ ることか らイネ属型 と した。
2)結
果(1)分
類群出現 した分類群 は、樹木花粉22、 樹木花粉 と草本花粉 を含 む もの4、 草本花粉17、
シダ植物胞子
3形
態 の計46で あ る。 これ らの学名 と和 名 お よび粒 数 をtab.4に
示 す。 以 下 に 出現 した分類群 を示 す。〔樹木花粉〕
マキ属、 モ ミ属、 ツガ属、 マ ツ属複維管束亜属、 スギ、 ヨウヤマキ、イチイ科 ―イヌガヤ科 ― ヒノキ科、 クル ミ属、 サ ワグル ミ、 ハ ンノキ属、 カバ ノキ属、 クマ シデ属 一アサ ダ、 ク リーシ イ属、 ブナ属、 ヨナラ属 ヨナラ亜属、 ヨナラ属 アカガシ亜属く エ レ属 ―ケヤキ、エノキ属 ―ム クノキ、 トチノキ、 ブ ドウ属、
トネ リコ属、ニワ トコ属 ―ガマズ ミ属
〔樹木花粉 と草本花粉を含む もの〕
スベ リヒユ属、 クワ科 ―イラクサ科、バ ラ科、マメ科
〔草本花粉〕
ガマ属 ― ミク リ属、 オモダカ属、イネ科、イネ属型、 カヤッ リグサ科、イボク サ、 ミズアオイ属、 タデ属サナエタデ節、 アカザ科 ―ヒユ科、 ナデシヨ科、キ ンポウゲ属、 ア ブラナ科、セ リ科、オオバ コ属、 タンポポ亜科、キク亜科、 ヨモギ属
〔シダ植物胞子〕
単条溝胞子、 ミズヮラビ、三条溝胞子
(2)SE8685
樹木花粉 より草本花粉 の占める割合が高い。樹木花粉 で はイチイ科 ―イヌガヤ 科 一 ヒノキ科、 スギ、 マツ属複維管束亜属、 コナラ属 アカガシ亜属、 ク リーシイ属が主 に出現す る。 草 本花 粉 で は栽 培 植 物 や人里 植 物 を多 く含 む イ ネ属 型 を含 む イ ネ科 が優 占 し、 カヤ ツ リ グサ科 、 アカザ科 ― ヒユ科 が や や高 率 で、 ヨモギ属 、 ア ブ ラナ科 な どが 出現 す る。 なお、試料
1では特 にイ ネ属 型 を含 む イ ネ科 が優 占す る。
(3)SK8667
樹 木 花 粉 の 占 め る割 合 が草 本 花 粉 よ り極 めて高 い。 樹 木 花 粉 で はハ ンノ キ属 、 ニ ワ トコ属 ―ガマ ズ ミ属 が優 占 し、 マ ツ属複維 管束亜属 もやや高 率 で あ る。草本花粉 で はイネ 属 型 を含 む イ ネ科 が主 に出現 す る。3)花
粉分 析 か ら推 定 され る植 生 と環 境SE8685と
SK8667か ら得 られ た花粉 群集 は著 し く特 徴 が異 な る。 示 唆 され る植 生 は ま った く異 な り、 同発掘 区 内 で あ るの で 時期 が隔 た る と推 定 さ れ る。 以下 、 土 坑 ごとに植 生 と環 境 の復 元 を行 な う。(1)SE8685
周 囲 はイ ネ科 を 中心 に、 カヤ ツ リグサ科 、 ア カザ科 ― ヒユ科 、 ヨモ ギ属 、 ア ブ ラナ科 な ど繁 茂 して い た と推 定 され る。 これ らはいず れ も集 落 域 や農 耕 地 に生 育 す る人 里 植 物 な い し農 耕 雑 草 の性 格 を もつ もので あ り、 周 囲 は集 落 や農 耕 地 の広 が る人 為 的 な環 境 で あ った と推 定 され る。 上 位 (試料1)で
はイ ネ属 型 の 出現 率 が高 く、 水 田 も分 布 して いた と推 定 され る。 樹 木 はイ チ イ科 ― イ ヌガ ヤ科 ― ヒノキ科 、 スギ、 マ ツ属複 維 管 束 亜 属 、 コナ ラ属 ア カ ガ シ 亜 属 、 ク リー シイ属 な どが周 囲 で孤 立 木 の状 態 かや や遠方 で森 林 を形 成 していた と考 え られ る。照 葉樹 が優 占 しな い た め、 人 為 性 の高 い森 林 が推 定 され る。
(2)SK8667
周 囲 に はハ ンノキ属 、 ニ ワ トコ属 ―ガマ ズ ミ属 、 ニ ヨ ウ マ ツ類 (マ ツ属 複 維 管 束亜 属)の
二 次林 性 の樹 木 が繁 茂 して いた。 放 棄地 が多 く途 中相 の樹 木 が多 く生 育 して い た と 考 え られ る。参考文献
Peter J ttrarnock and Karl」 .Reinhard(1992)ふ 江ethods for Extraxting Pollen and Parasite Eggs from Latrine Soils. Jounal ofッ 代rchaeological Science,19,p231‑245.
金原正明・ 金原正子 (1992)「花粉分析および寄生虫J『藤原京跡の便所遺構 ―藤原京7条 1坊―』 奈良 国立文化財研究所
p14‑15
金子清俊・ 谷 口博一 (1987)「線形動物・ 扁形動物・ 医動物学」『新版臨床検査講座』
8
医歯薬出版 p.9‑55
中村
純 (1973)『花粉分析』古今書院 p.82‑110
金原正明 (1993)「花粉分析法 による古環境復原」『新版古代の日本第10巻』角川書店
p.248‑262
島倉巳二郎 (1973)「日本植物の花粉形態」『 大阪市立 自然科学博物館収蔵 目録』第5集
p.60
中村
純 (1980)「日本産花粉の標徴」『 大阪自然史博物館収蔵 目録』第13集
p91
中村
純 (1974)「イネ科花粉 について、 とくにイネ (Oryza sat
a)を
中心 と して」『 第 四紀研究』13 p.187‑193.中村