アメリカ経済刑法における郵便詐欺罪・通信詐欺罪 の意義
著者 川崎 友巳
雑誌名 同志社法學
巻 66
号 1
ページ 1‑66
発行年 2014‑05‑31
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014653
アメリカ経済刑法における郵便詐欺罪・通信詐欺罪の意義同志社法学 六六巻一号一
ア メ リ カ 経 済 刑 法 に お け る 郵 便 詐 欺 罪 ・ 通 信 詐 欺 罪 の 意 義
川 崎 友 巳
一 はじめに 郵便詐欺罪・通信詐欺罪の過去と現在 一 郵便詐欺罪・通信詐欺罪規定の史的展開 郵便詐欺罪・通信詐欺罪の現行規定 郵便詐欺罪・通信詐欺罪の成立要件 一 保護法益と罪質 詐取する計画 欺く意図 郵便または通信の使用 金銭または財産の奪取 ﹁無形の権利﹂の保護をめぐる判例と立法の攻防
一( )
同志社法学 六六巻一号アメリカ経済刑法における郵便詐欺罪・通信詐欺罪の意義
一 無形の権利の法理とマクナリー・ケース判決 無体財産の保護 ﹁財産をコントロールする権利﹂を奪取したケースへの適用 一六条の制定と﹁公正なサービス﹂のはく奪 郵便詐欺罪・通信詐欺罪の量刑 一 法定刑と刑の加重・付加 犯罪の個数 量刑手続六 むすび
一 はじめに
アメリカ合衆国の連邦法では、詐欺などの手段として、郵便や有線・無線通信を用いることを、詐欺そのものとは別個の犯罪として定めている。郵便詐欺罪(
m ail fr au d
)と通信詐欺罪(w ire fr au d
)である。一世紀後半(郵便詐欺罪)と〇世紀半ば(通信詐欺罪)に別々に制定された両罪は、立証が比較的容易で、適用範囲が広く、効果も大きいといった特徴ゆえに、今日では、連邦レベルのホワイトカラー犯罪対策において、コンスピラシー罪と並び )1(、最も頻繁に適用されている犯罪であり )2
(、ホワイトカラー犯罪と戦う検察から、﹁真に愛する我々のストラディバリウスであり、我々のコルト
ーードプロセッサのフ人気メーカー 3)
45
(ル理器具ーガッラス・ビ(スイルの々我、りあ調ト金)属バッドのブランドでーあで、我々のクイジナり()である﹂などと表され、﹁連邦検察の兵器工場において、最も普及していて、殺傷能力の高い武器 )4
(﹂、あるいは﹁ナンバーワンの武器 )5
(﹂であるなどとも評されてきた。﹁迷ったら、郵便詐欺罪で起訴を﹂ ( )
アメリカ経済刑法における郵便詐欺罪・通信詐欺罪の意義同志社法学 六六巻一号 が、検察官の間で知れ渡った格言であることも、しばしば言及されている )6
(。 他方、こうした郵便詐欺罪や通信詐欺罪のあり様に対しては、﹁郵便詐欺罪と通信詐欺罪は、長く検察に、本質的に実りのないことが分かっている捜査において、小さな、しかし、怪しげな勝利をもぎ取る手段を提供してきた )7
(﹂などと、濫用につながる危険性への警鐘も鳴らされてきた。判例も、長年にわたって、法定刑の上限が、〇年の拘禁刑(一定の場合には〇年に加重)という重罪である両罪の濫用を防ぐため、適用範囲を制限するさまざまな試みを重ねてきた。 従来の日本では、経済犯罪への刑事法上の対応を検討する際、しばしばアメリカ合衆国の動向が比較法的考察の対象として取り上げられてきたものの、そうした考察の多くは、インサイダー取引やマネーロンダーリングなど特定の犯罪類型に関するものに限られており、類似する犯罪類型がない郵便詐欺罪や通信詐欺罪への関心は高くなかった。しかし、同国の経済犯罪対策の正しい理解には、特定の犯罪類型の考察と並んで、全体像についても目配せすることが有益であろう。そして、その中で重要な位置を占める郵便詐欺罪と通信詐欺罪の検討を抜きにして、アメリカ合衆国の経済刑法の全体像を語ることは考えられない。また、アメリカ合衆国の経済犯罪の中でも比較的日本で注目度が高い犯罪について個別に考察をすすめる際も、それらの犯罪の成否が問題になった重要な判例において、同時に郵便詐欺罪や通信詐欺罪の成否も争われる場合が少なくないことから、判例の正確な把握にとっても、郵便詐欺罪と通信詐欺罪の理解は欠かせないのである。 本稿では、このような問題意識に立ち、アメリカ合衆国の連邦レベルで定められている郵便詐欺罪および通信詐欺罪について多面的に考察を加えることにしたい。具体的には、まず、両罪の制定から今日までの立法の変遷を跡づけるとともに、成立要件について、判例の動向を中心に確認する。とりわけ、両罪の成立要件としての詐欺行為などの客体に﹁無形の権利﹂を含むか否かという点については、近時、判例・立法を巻き込んで活発な議論が繰り広げられているこ
( )
同志社法学 六六巻一号アメリカ経済刑法における郵便詐欺罪・通信詐欺罪の意義
とから、特に詳細な検討を加えたい。さらに、両罪の効果を一層高めている量刑の仕組みについても整理する。これらの考察を通じて、郵便詐欺罪と通信詐欺罪の実像に迫り、アメリカ合衆国の経済犯罪対策における両罪の意義を見定めたい
)8
(。
郵便詐欺罪・通信詐欺罪の過去と現在
一 郵便詐欺罪・通信詐欺罪規定の史的展開 ⑴ 一年郵便法 郵便詐欺罪の起源は、一年に制定された郵便法に遡る )9
(。南北戦争終結後、急速な経済成長を遂げつつあったアメリカ合衆国では、同時に、州をまたぐような詐欺や不正行為も顕在化し始めた。とりわけ、当時整備が一気に進んだ郵便配達網を利用した詐欺の横行は深刻な問題として受け止められた。そして、こうした事態に対応すべく、要請の強まった連邦レベルでの法規制の一環として、郵便詐欺罪を定めた郵便法が制定されたのである。同法〇一条には、次のような規定がおかれていた )₁₀
(。
詐取する計画または計略を企て、または、企てる意図を有し、または、合衆国によって開設された郵便局を使用することによって、または、詐取する計画または計略を企て、または企てる意図を有する者と書信を開始するようにそそのかすこと
によって、(合衆国内に在住か、国外に在住かにかかわらず)他の者と商業書信または書信を開始し、または開始することによって計画または計略を達成する意図を有する者が、計画または計略を実行中または実行するために(もしくは実行する
ことを試みて)、手紙または小包を合衆国の郵便局に持ち込み、または合衆国の郵便局から受け取り、そうした郵便局の基 ( )
アメリカ経済刑法における郵便詐欺罪・通信詐欺罪の意義同志社法学 六六巻一号 盤を悪用したときは、軽罪で有罪とし、満一个月を超えない拘禁刑と一緒に、または別に、〇〇ドル以下の罰金に処すものとする。
この規定には、その後、何度かの改正が施されたものの、基本的な構造は、現在まで踏襲されており、今日では、現行規定の中で最も古い制定法上の犯罪の一つに数えられている )₁₁
(。この規定の導入にあたっては、﹁世慣れたずるがしこい都会人ら(
cit y sli ck er s
)が、罪のない世間知らずの田舎暮らしの人々を騙すのに、郵便を使うのを阻止すること﹂に主眼が置かれていたとされる )₁₂(。しかし、この規定が取締りの対象とする﹁詐取する計画﹂の具体的な内容について、立法時に詳細な議論がなされなかったため、判例上、立法当初より、規制対象の内容を、厳格な文言解釈によって郵便が﹁詐取する計画﹂にとって不可欠な場合に限定するのか )₁₃
(、それとも﹁詐取する計画﹂の実行に何らかの形で郵便を使用した場合にも拡張するのか )₁₄
(で見解が分かれた )₁₅
(。 ⑵ 一年の改正 そうした中で、連邦議会は、郵便詐欺の規定を大幅に改める改正を行った )₁₆
(。改正後の規定は次のとおりである。
詐取する計画または計略、または、合衆国によって開設された郵便局を使用することによって、または詐取する計画また
は計略を企てる意図を有する者と書信を開始するようにそそのかすことによって、合衆国内に在住か、国外に在住かにかか
わらず、他の者と商業書信または書信を開始し、または開始する意図もつことによって、詐取し、不法な使用のための偽造コインもしくは偽コインまたは銀行券、紙幣または合衆国の、または州、準州、市、会社、法人または人の債務証書または
証券、または偽造商品または偽商品であると述べられ、または告知または約束されたあらゆるものを販売し、処分し、貸し
( )
同志社法学 六六巻一号六アメリカ経済刑法における郵便詐欺罪・通信詐欺罪の意義
付け、両替し、改造し、贈与もしくは分配し、提供もしくは供給し、または調達する計画または計略、または、通信を通じて、
もしくは通信によって、または、一般に、﹁ソウダスト詐欺(
sa w du st s w in dle
)﹂もしくは﹁偽造通貨詐欺(co un te rfe it m on ey d ef ra ud
)﹂と呼ばれるものによって、または、通常、﹁グリーン・アーティクルズ(gr ee n a rti cle s
)﹂、﹁グリーン・コ イン(gr ee n co in
)﹂、﹁ビルズ(bil ls
)﹂、﹁ペーパー・グッズ(pa pe r g oo ds
)﹂、﹁財務省発行長期債券偽造(sp ur io us T re as ur y no te s
)﹂、﹁合衆国グッズ(U nit ed S ta te s g oo ds
)﹂、﹁グリーン・シガーズ(gr ee n c ig ar s
)﹂またはそうした偽造または模造品と関連するものと理解されるように意図された、その他の名称または語句で呼ばれる取引または取引の偽装によって、金銭を取得する計画または計略を企て、または企てる意図を有して、計画または計略を実行中または実行するために、または実
行することを試みて、手紙、小包、文書、回状、パンフレットまたは広告を合衆国の郵便局、郵便局の支局、路上またはホテルの郵便箱に持ち込み、または持ち込ませ、または合衆国の郵便局から受け取り、そうした郵便局の基盤を悪用した者は、
軽罪で有罪とし、満一个月を超えない拘禁刑と一緒に、または別に、〇〇ドル以下の罰金に処すものとする。
このように一年の法改正では、当時一般的であった詐欺の手法を具体的に列挙することで、﹁詐取する計画または計略﹂の成立範囲の明確化が図られた。しかし、この改正も、裁判所の混乱を解消するには至らなかった。むしろ、新しい規定に示された﹁詐取する計画﹂の具体例が限定列挙なのか )₁₇
(、単なる例示に過ぎないのか )₁₈
(、ここでも下級審の判断は分かれたのである。 ⑶ ダーランド・ケース判決と一〇年の法改正 こうした判例の混乱に終止符を打ったのが、一六年のダーランド・ケース合衆国最高裁判所判決 )₁₉
(であった。本件では、弁済の意思が全くない債券の販売に郵便を利用したとして、郵便詐欺罪で起訴された被告人が、ペンシルバニア東部地区連邦地方裁判所において有罪を言い渡された。第巡 六( )
アメリカ経済刑法における郵便詐欺罪・通信詐欺罪の意義同志社法学 六六巻一号 回区連邦控訴裁判所も、この判断を支持したことから、被告人が﹁詐欺による財産の獲得﹂というコモン・ロー上の詐欺罪は、行為者が過去または現在の事実について誤った内容を伝えたときにだけ適用されてきたので、将来の支払い意図について嘘をついた本件は、詐欺にならいと主張し、上告した。これを受けた合衆国最高裁判所は、〇一条の郵便詐欺罪における﹁詐欺﹂の意義は、コモン・ロー上の詐欺行為の定義に限定されるという被告人の主張を斥け、コモン・ロー上の詐欺よりも広い範囲に及ぶという判断を下した。最高裁は、同条の規定には、﹁過去もしくは現在に関する陳述によって、または将来に関する示唆および約束によって欺くために目論まれた全てが含まれる。重要なことは、意図や目的が存在することである )₂₀
(﹂と判示した。本件では、そうした意図の存在が認められたことから、有罪判決が支持されたのである。 また、一〇年には、ダーランド・ケース判決に沿う形で、文言の改正が実施された )₂₁
(。具体的な規定内容は、以下の通りである。
虚偽または詐欺の申告、表示、約束によって金銭また財産を騙取し、または取得するため、詐取する計画もしくは計略を
企て、または企てる意図を有し、当該計画や計略を実行し、または実行を試みる目的で、合衆国内または合衆国外のいずれに居住する者宛てであっても、合衆国の郵便制度によって配送または配達されるよう、手紙、ハガキ、小包、文書、回状、
パンフレットまたは広告を合衆国の郵便局または郵便支局、路上またはその他の郵便箱または委任された郵便物の預かり所
に持ち込み、または持ち込ませ、または、合衆国内または国外のいずれに郵送されたものであっても、それらの場所から持ち帰り、または受け取り、または、指示に従って、または宛先とされた者によって配達するように指示された場所に、手紙、
ハガキ、小包、文書、回状、パンフレットまたは広告を郵便によって配達させた者は、何人も、一〇〇〇ドルを超えない罰
( )
同志社法学 六六巻一号アメリカ経済刑法における郵便詐欺罪・通信詐欺罪の意義
金刑もしくは年を超えない拘禁刑またはその両方の刑を科すものとする。
この改正では、一年の改正で盛り込まれた﹁詐取する計画﹂の具体例が再び姿を消し、内容が整理し直されたほか、法定刑が、一〇〇〇ドルを超えない罰金刑と年を超えない拘禁刑に引き上げられた。この改正は、単に法定刑が引き上げられたというだけでなく、その罪質が軽罪から重罪に改められたことを意味し、その結果として、同罪の存在意義は一層高まることになった。 ⑷ 一年以降の改正 さらに、一年には、それまで規定の中で用いられていた語句が時代にそぐわなくなっていたことから、文言の現代語化が図られ、合衆国法典第一編一一条に現行規定の原型となる郵便詐欺罪が定められた )₂₂
(。同条の規定は、以下のとおりである。
虚偽または詐欺の申告、表示、約束によって金銭または財産を詐取し、または取得する計画もしくは計略を企て、または
企てる意図を有し、または偽造もしくは変造された硬貨、有価証券もしくはその他の物、またはかかる偽造もしくは変造された物品のように表示し、暗示し、もしくは隠ぺいした物を違法に用いて、売却し、処分し、貸与し、両替し、変更し、分
売し、頒布し、または供与もしくは斡旋する計画もしくは計略を企て、または企てる意図を有する者は、何人も、当該計画や計略を実行し、または実行を試みる目的のために、郵便物または郵便局によって送付または配達されるあらゆる物を郵便
局または郵便物の取扱いを委任された者に持ち込んだとき、またはそこから郵便物を引き取り、または受領したとき、または、認識をもって、指示に従って、または宛先とされた者によって配達するように指示された場所に、郵便によって配達をさせ
たとき、一〇〇〇ドルを超えない罰金刑もしくは年を超えないの拘禁刑に処せられ、または両方の刑が併科されるものと ( )
アメリカ経済刑法における郵便詐欺罪・通信詐欺罪の意義同志社法学 六六巻一号 する。
合衆国法典第一編一一条の規定は一年の改正後、半世紀近く改正されなかったが、一年に、﹁暴力犯罪の統制および法執行法(
V io le nt C rim e C on tr ol an d L aw E nf or ce m en t A ct o f 19 94
)﹂において、詐欺の手段として、連邦郵便制度ではなく、フェデックス(F ed E x
)やUPSなどの民間または商業州際運送業者が利用された場合にも、郵便詐欺罪が成立する旨の規定が追加され、同罪の成立範囲は、立法によって一層の拡張が図られた )₂₃(。 他方、郵便詐欺罪の法定刑については、一年の金融機関の改革、再生および執行法において、金融機関への詐欺の場合の加重規定が追加され )₂₄
(、一〇年には、その法定刑の上限が〇年を超えない拘禁刑から現行の〇年を超えない拘禁刑へと引き上げられた )₂₅
(。さらに、エンロン事件への教訓として制定された〇〇年のサーベンス・オクスリー法〇条によって、郵便詐欺罪の法定刑の上限が、年を超えない拘禁刑から〇年を超えない拘禁刑に引き上げられた )₂₆
(。加えて、〇〇年には、災害関連の郵便詐欺についても、法定刑の上限が〇年を超えない拘禁刑に加重される改正が行われた )₂₇
(。 ⑸ 通信詐欺罪 これに対して、通信詐欺罪の歴史は浅く、その立法化は、一年の通信法改正の一環として﹁詐取する計画などにラジオや通信を用いることを犯罪とする規定が導入されたのに始まる )₂₈
(。しかし、制定後は、郵便詐欺罪と対をなす規定として位置付けられるとともに、法定刑の引上げでも、郵便詐欺罪と同様の経緯で法改正が実施されてきた。
( )
( )同志社法学 六六巻一号一〇アメリカ経済刑法における郵便詐欺罪・通信詐欺罪の意義
二 郵便詐欺罪・通信詐欺罪の現行規定 こうした歩みを経て今日を迎えた現行の郵便詐欺罪および通信詐欺罪は、合衆国法典第一編一一条および一条に定められている。具体的な規定内容は、次のとおりである )₂₉
(。
第一一条 詐欺および詐取
虚偽または詐欺の申告、表示、約束によって金銭または財産を詐取し、または取得する計画もしくは計略を企て、または企てる意図を有する者は、何人も、偽造もしくは変造された硬貨、有価証券もしくはその他の物、またはかかる偽造もしく
は変造された物品のように表示し、暗示し、もしくは隠ぺいした物を違法に用いて、売却し、処分し、貸与し、両替し、変更し、分売し、頒布し、または供与もしくは斡旋するため、当該計画や計略を実行し、または実行を試みる目的で、郵便物
または郵便事業によって送付または配達されるあらゆる物を郵便局または郵便物の取扱いを認められた者に持ち込んだとき、または民間または商業州際配達業者によって送付もしくは配達されるあらゆる物を預託し、または預託させたとき、ま
たは、そこから物品を引き取り、または受領したとき、または、認識をもって、受領場所についての指示を出して郵便またはそれらの配達業者に配達をさせたとき、本編の定めた罰金刑もしくは〇年以下の拘禁刑に処せられ、または両方の刑を
併科されるものとする。本条の違反行為が、(ロバート・T・スタフォード救援および緊急支援法一〇条に規定されたそうした用語のような)大統領によって宣言された大規模災害や緊急事態に関して発生し、または、関連して正式に許可され、
輸送し、伝達され、支出され、もしくは支払われた給付に伴って発生したとき、または金融制度に影響を及ぼしたとき、その違反行為者は、一〇万ドルを超えない罰金刑もしくは〇年を超えない拘禁刑に処せられ、またはその両方の刑を併科さ
れるものとする。 一〇
( )アメリカ経済刑法における郵便詐欺罪・通信詐欺罪の意義同志社法学 六六巻一号一一 第一条 通信、ラジオまたはテレビによる詐欺 虚偽または詐欺の申告、表示、約束によって金銭または財産を騙取し、または取得するため、計画もしくは計略を企て、
または企てる意図を有する者は、何人も、当該計画や計略を実行する目的で、州際または国際通商において、電信、ラジオまたはテレビを手段として、文書、記号、信号、図画、音声を伝達し、または伝達させたとき、本編の定めた罰金刑もしく
は〇年以下の拘禁刑に処せられ、または両方の刑を併科されるものとする。本条の違反行為が、(ロバート・T・スタフォード救援および緊急支援法一〇条に規定されたそうした用語のような)大統領によって宣言された大規模災害や緊急事
態に関して発生し、または、関連して正式に許可され、輸送し、伝達され、支出され、もしくは支払われた給付に伴って発生したとき、または金融制度に影響を及ぼしたとき、その違反行為者は、一〇万ドルを超えない罰金刑もしくは〇年を超
えない拘禁刑に処せられ、またはその両方の刑を併科されるものとする。
さらに、一年には、郵便詐欺罪および通信詐欺罪の成立範囲に大きな影響を及ぼす次のような規定も制定された )₃₀
(。
第一六条 ﹁詐取する計画または計略﹂の定義
本章の目的上、﹁詐取する計画または計略﹂の語には、他の者から、正当なサービスという無形の権利を奪取する計画ま
たは計略を含む。
後に詳述するように、本規定は、郵便詐欺罪および通信詐欺罪の成立範囲を拡大するだけにとどまらず、その役割を
一一
( )同志社法学 六六巻一号一アメリカ経済刑法における郵便詐欺罪・通信詐欺罪の意義
大きく変質させる可能性を秘めていたことから、その意義について、立法当初より議論の的となり、判例にも、大きな影響を及ぼした。 では、こうした経緯を経て画されてきた両罪の成立要件は、現在、どのような内容になっているであろうか。次章では、この点に考察をすすめていきたい。
郵便詐欺罪・通信詐欺罪の成立要件
一 保護法益と罪質 郵便詐欺罪と通信詐欺罪の保護法益は、郵便制度や通信制度の高潔性に求められてきた )₃₁
(。ここからも明らかなように、﹁詐欺(
fra ud
)﹂という名称が付されているものの、郵便詐欺罪と通信詐欺罪の本質は、個人財産を侵害することにではなく、詐欺などの不法行為の手段として郵便制度や通信制度を濫用することにある )₃₂(。また、両罪は、詐欺が結実したか否かにかかわらず、成立する﹁未完成犯罪(
in ch oa te c rim e
)﹂である。このため、両罪の成立には、﹁被告人の詐欺の計画が成功したこと﹂の検察による立証は求められず、それゆえ、標的とされた被害者に損害が生じたという事実の立証も要しない )₃₃(。 誕生の時期は異なるが、今日、郵便詐欺罪と通信詐欺罪の規定は文言上も多くの共通点を有するに至っている。このため両罪の規定の解釈については、犯罪の手段の点(郵便制度か、ラジオや通信か)とそこから導かれる裁判管轄権に関する点 )₃₄
(を除いて、共通することを前提に検討が加えられている )₃₅
(。判例も、﹁郵便詐欺罪および通信詐欺罪の規定は、実質的にではなく、形式的に異なるにすぎない。そして、一方を解釈した判例は、同様に他方にも当てはまる )₃₆
(﹂と述べ 一
( )アメリカ経済刑法における郵便詐欺罪・通信詐欺罪の意義同志社法学 六六巻一号一 ていることからも明らかなように、同様の前提に立っている。 郵便詐欺罪および通信詐欺罪が成立するためには、被告人が、①詐取する計画または計略を企てたこと、②欺く意図を有していたこと、③詐取する計画または計略を促進するために合衆国郵便制度、民間運送業者または州際もしくは国際通信を使用するなどしたこと、④金銭もしくは財産の損失または正当なサービスを喪失という結果が生じたか、生じたであろうことを、検察官が合理的な疑いを超えて立証しなければならない )₃₇
(。
二 詐取する計画 ⑴ ﹁詐取する計画﹂の広範性 郵便詐欺罪および通信詐欺罪の成立には、被告人が、﹁詐取する計画(
sc he m e to de fra ud
)﹂などを企てていたことが、検察によって合理的な疑いを超えて立証されなければならない。ただし、両罪を定める合衆国法典第一編一一条と一条は、﹁詐取する計画﹂という要件が意味するところを何ら定義していない。そこで、この成立要件の正確な意義を見出す役割は、主として判例によって担われてきた。 前述したように、合衆国最高裁判所は、一六年のダーランド・ケース判決 )₃₈(で、﹁詐取する計画﹂という制定法の文言の意義は、コモン・ロー上の詐欺行為よりも広く、﹁過去もしくは現在に関する陳述によって、または将来に関する示唆および約束によって欺くために目論まれた全てを含んでいる )₃₉
(﹂と判示した。このダーランド・ケースの判断は、その後の判例でも踏襲されており、﹁詐取する計画﹂には、さまざまな種類の詐欺にとどまらず )₄₀
(、被害者から﹁策略(
tr ic k
)、欺もう(de cie t
)、ごまかし(ch ic an e
)またはだし抜くこと(ov er re ac hin g
)によって価値を有するもの )₄₁(﹂を奪取することや﹁コミュニティーの中での普通の生活における根本的な誠実さ、道徳的な正しさおよび率直な振る舞いから離脱すること )₄₂
(﹂が含まれる。また、計画が成功したか、失敗したかも、﹁詐取する計画﹂の存否には影響しない )₄₃
(。
一
( )同志社法学 六六巻一号一アメリカ経済刑法における郵便詐欺罪・通信詐欺罪の意義
他方、財物強要など相手を威迫して財物を奪取する行為の計画は、﹁詐取する計画﹂に当たらない )₄₄
(。たとえば、一六年のファスロ・ケース判決 )₄₅
(において、合衆国最高裁判所は、謀殺や身体への危害を加えるという脅迫を内容にした計画は、﹁詐取する計画﹂には含まれないと判示した。 ⑵ 詐取の重大性 ﹁詐取する計画﹂の要件を充足するためには、計画された詐取行為が、﹁重大な欺もう(
m at er ia l de ce pt io n
)﹂を伴っていなければならない。この点を明らかにしたのが、一〇年のネイダー・ケース合衆国最高裁判所判決 )₄₆(であった。本件の概要は次のとおりである。被告人は、詐欺的な銀行ローンの申請に基づく複数の訴因の郵便詐欺罪や通信詐欺罪などで起訴され、第一審のフロリダ中部地区連邦地方裁判所で有罪を言い渡された。第一一巡回区連邦控訴裁判所においても、その判断が支持されたことから、被告人は、正式審理裁判所判事が、陪審に﹁被告人の虚偽申告が取引にとって重大であったか否か﹂の判断を求めなかったことが、破棄事由となる誤りに当たるなどと主張して上告した。この上告を受けた合衆国最高裁判所は、全員一致で、被告人の主張を支持し、検察は﹁詐取する計画﹂の基礎をなす﹁欺もう﹂が重大であったことを立証しなければならないとの判断を下した。そこでは、規定上は明確に定められていないものの、コモン・ロー上、詐欺罪における﹁欺もう﹂の要件については重大性の立証を要求する解釈が確立しており、一一条には、この確立した解釈を覆す特段の規定もおかれていないことから、議会の意思は、﹁欺もう﹂の重大性を要求していると解さると説かれた )₄₇
((ただし、最高裁は、陪審への説示の誤りは、評決に影響を及ぼさず、それゆえ無害であったという理由で、有罪判決を維持した )₄₈
()。 ⑶ 合理的な一般人基準と被害者基準 判例は、﹁欺もう﹂が重大であったか否かの判断にあたって、標的にされた被害者が信じてしまうほどのものであったか否かを基準として用いてきた(被害者基準)。ただし、その一方で、いくつかの巡回区連邦控訴裁判所は、﹁欺もう﹂が重大であるためには、合理的な一般人が信じる程度の内容でなければ 一
( )アメリカ経済刑法における郵便詐欺罪・通信詐欺罪の意義同志社法学 六六巻一号一 ならないという基準を採用していた(合理的な一般人基準)。そうでなければ、信憑性の全くない欺もうまでが重大であることになり、郵便詐欺罪の適用範囲に歯止めが利かなくなってしまうことが懸念されたのである。 たとえば、一六年のブラウン・ケース判決 )₄₉
(において、第一一巡回区連邦控訴裁判所は、市場価格を上回る金額で住宅を販売し、購入者を欺いたとして起訴された被告人について、起訴の対象となった住宅購入者への説明の中に、﹁投資は安全で、家賃収入は住宅ローンの支払いを上回り、一年後には売却可能である﹂といった発言が含まれていた点を捉えて、﹁合理的な一般人はそうした説明を信じたりしない﹂と述べ、原審のフロリダ南部地区連邦地方裁判所が下した有罪判決を覆した。市場に関する情報は、潜在的な購入者にとって自由に入手可能であり、それゆえ、合理的な一般人ならば、騙されなかったはずと解したのである。同判決では、司法が通常の商取引に介入し、過剰な犯罪化をもたらすことへの懸念も示された。 しかしながら、第一一巡回区連邦控訴裁判所は、〇〇年のスベイト・ケース判決 )₅₀
(において、ブラウン・ケース判決の立場を変更し、他の巡回区連邦控訴裁判所と足並みをそろえた )₅₁
(。本件では、生命保険原契約者の平均余命、生命保険契約の内容および投資のリスクについて虚偽の説明を含んだ資料を用いた保険買取り投資のセールスを行っていた被告人が、郵便詐欺罪で起訴されたのに対して、第一審のフロリダ北部地区連邦地方裁判所が、陪審に対して、被告人の行った虚偽の説明は﹁詐取する計画﹂に含まれるという説示を行い、これを受けた陪審が、郵便詐欺罪の成立を肯定する評決を下した。これに対して、被告人が、先例となるブラウン・ケース判決に反するとして控訴した。控訴を受けた第一一巡回区連邦控訴裁判所は、たとえ、通常は騙されないような内容の欺もうを用いたとしても、郵便詐欺罪が成立するという判断を全員一致で下し、第一審判決を支持し、被告人の控訴を斥けた。このように、今日では、判例は、合理的な一般人は信じないような説明であったとしても、被害者が信じたのであれば、﹁重大な欺もう﹂に当たるとして
一
( )同志社法学 六六巻一号一六アメリカ経済刑法における郵便詐欺罪・通信詐欺罪の意義
いるのである )₅₂
(。 ⑷ ﹁詐取する計画﹂の立証 ﹁詐取する計画﹂の該当性は、かなり緩やかな基準に基づいて判断されている。その一方で、判例の中には、﹁詐取する計画﹂の立証が不十分であったことを根拠に、郵便詐欺罪で無罪とする判断が散見される )₅₃
(。たとえば、実父の死後、その年金証書を着服したとして郵便詐欺罪などで起訴され、コロラド連邦地方裁判所で有罪を言い渡された被告人からの控訴を受けた一年のジャクソン・ケース判決 )₅₄
(において、第一〇巡回区連邦控訴裁判所は、検察が、実父の死去について被告人が認識していたことを十分に立証できなかった点をふまえ、﹁実父の死去の認識がなければ、代理権が付与され、これらの手続の正当性が争われていない本件においては、被告人のこの日までの行動は、申し立てられた﹃詐取する計画﹄の一部とはなり得ない )₅₅
(﹂と判示した。同様に、﹁詐取する計画﹂の内容となる﹁詐取行為﹂の立証が不十分にとどまった場合、この行為の存在を前提に起訴されていた郵便詐欺罪についても、有罪の判決は認められない )₅₆
(。
三 欺く意図 ⑴ ﹁欺く意図﹂の意義 郵便詐欺罪と通信詐欺罪の成立には、主観的犯罪成立要件である特別な意図(
sp ec ifi c in te nd
)として、﹁欺く意図(in te nd to d ep riv e
)﹂の存在が立証されなければならない )₅₇(。合衆国最高裁判所は、前述したダーランド・ケース判決の中で、郵便詐欺罪の規定は、﹁過去もしくは現在に関する陳述によって、または将来に関する示唆および約束によって欺くために目論まれた全てを包含している。重要なのは、意図と目的である )₅₈
(﹂と述べるなど、欺く意図の存否が、郵便詐欺罪の成否のポイントであることを古くから指摘していた。 ﹁欺く意図﹂の証明は、しばしば状況証拠によってなされる )₅₉
(。たとえば、被告人による自らの行為の隠ぺい )₆₀
(、不実の 一六
( )アメリカ経済刑法における郵便詐欺罪・通信詐欺罪の意義同志社法学 六六巻一号一 表示 )₆₁
(または被害者の現実の財産的損害 )₆₂
(などから、﹁欺く意図﹂の存在が導かれてきた。さらに、前科の証明や事後の悪行からも、意図を推論することが許容されている )₆₃
(。しかし、﹁欺く意図﹂の立証に必要な主観の内容と程度については、判例上、必ずしも明確でない。 ⑵ 商取引における詐術の対象 判例上、﹁欺く意図﹂という主観的犯罪成立要件の存在は、比較的緩やかに認められてきた。しかし、商取引においては、被告人が、詐術を被告人と被害者の間の取引そのものに向ける意図を有していなければならない。というのも、﹁欺く意図﹂を、﹁誇大広告(
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)﹂や物の質、希少性、価値についての単なる誇張と区別しなければならないからである。たとえば、中古車のセールスマンが、顧客に﹁この車は世界一です﹂と言ったとき、その車が、流製品だと分かっても、セールスマンは、誇張しただけであって、﹁欺く意図﹂を有していたことの根拠にはならないが、セールスマンが、中古車が重大な事故を起こしたことがあるのに、﹁この車は事故せずに、順調に走行してきました﹂と顧客に言えば、虚偽の発言は、経済的取引そのものに向けられたことになるので、そこから﹁欺く意図﹂の存在が導かれ得るのである )₆₄(。 そうした判例の姿勢を示した具体例として、一〇年のリージェント・オフィス・サプライ社ケース判決 )₆₅
(をあげることができる。本件では、虚偽の説明を含んだ電話でのセールスによる文具の通信販売業を営んでいた被告会社が、郵便詐欺罪で起訴されたが、同社では、虚偽の説明が、①電話相手の友人から紹介されたという点、②セールスマンは医師またはその他の専門家で、文具を処分しなければならない状況にあるという点、③処分をしなければならない理由は、文具の持ち主であったセールスマンの友人が死亡したためである点などに限定されていた。ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所において、郵便詐欺罪で有罪を言い渡された被告会社の控訴に対して、第巡回区連邦控訴裁判所は、本件の問題の枠組みを﹁虚偽の説明によるセールスが、販売された商品の品質、適合性または価格に向けられていないとき
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( )同志社法学 六六巻一号一アメリカ経済刑法における郵便詐欺罪・通信詐欺罪の意義
か、あるいはその逆で、安売りの本質に向けられた偽りの説明に向けられたときか )₆₆
(﹂、郵便詐欺罪を構成するのはどちらかという形で整理したうえで、本件に当てはまる前者の説明は、虚偽であっても、郵便詐欺罪には当たらないとして、原審の有罪判決を破棄した。 ⑶ 個別評価と全体評価 その一方で、判例は、経済取引においてなされた説明が、内容を個別的(逐語的に)評価すれば正しいが、全体的には誤解を生む内容である場合にも、﹁欺く意図﹂があると解してきた。たとえば、一六年のラスティガー・ケース判決 )₆₇
(では、この点が争点となった。本件の被告人は、不動産販売広告の一環として、誤解を招きかねない表現を含んだダイレクトメールを郵送したとして、郵便詐欺罪で起訴された。一審のアリゾナ連邦地方裁判所が同罪の成立を認め、有罪を言い渡したのに対して、被告人は、﹁欺く意図﹂という要件を充足するために要求される広告の表現が誤っていたか、または誤解を招きかねなかったという点の立証が不十分であると主張して控訴した。これを受けた第巡回区連邦控訴裁判所は、被告人の控訴を斥け、広告の中の説明文は、逐語的には誤っていないが、全体的に見れば、誤解を招きかねず、人を欺く内容であるとして、﹁欺く意図﹂の存在を肯定した )₆₈
(。たとえば、被告人は、広告において、大きなレジャー向きの湖が物件からわずかマイルの距離にあると正確に記していたが、通常、湖畔までの実際の道程が一から〇マイルであることを示していなかったことなどを摘示したうえで、判決では、内容的に誤っていて、人を欺く説明を含んでいるダイレクトメールは、単なる﹁誇大宣伝﹂の限度を越えている実質的な証拠であるとの判断が下された。そして、﹁欺く意図をもって一計が案じられ、計画の遂行に郵便が用いられたときは、個々の事実について不正確な表現がなかったという事実は重要でない )₆₉
(﹂として、郵便詐欺罪の成立が肯定された。 ⑷ 信任義務違反と欺く意図 会社の従業者が、会社への信任義務に反したという事実からも、﹁欺く意図﹂が導かれることがある。たとえば、玩具等の製造・販売を業とする会社で、秘書兼副社長であった被告人が、簿外取引によ 一
( )アメリカ経済刑法における郵便詐欺罪・通信詐欺罪の意義同志社法学 六六巻一号一 って裏金を作り、賄賂や私的な利得に用いていたとして、通信詐欺罪を含む一の訴因で起訴された一年のシーゲル・ケース )₇₀
(である。本件において、第巡回区連邦控訴裁判所は、ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所の有罪判決を支持し、被告人は、会社および監査役に自らの計画を示さないという不作為によって、﹁誠実かつ忠実に、会社の利益の最大化を図るために行動するという会社と株主への信任義務に違反した )₇₁
(﹂として、会社と株主を﹁欺く意図﹂の存在を肯定し、被告人を通信詐欺罪で有罪とした )₇₂
(。 また、同旨の判断は、一年のワイス・ケース判決でも確認され、踏襲された。本件では、映画会社の従業者であった被告人が、上司の指示により、架空請求への同社の小切手の振出しや株取引でのキックバックなどによって、裏金をつくったことに関して、その過程で郵便が用いられたことを根拠に、郵便詐欺罪などで起訴され、第一審のニューヨーク南部地区連邦地方裁判所で有罪を言い渡された。これに対して、被告人は、①本件では、シーゲル・ケースと異なり、被告人が裏金を私的に利得したわけでなく、②裏金をつくったのも、上司からの命令に従ったものであり、会社や株主を﹁欺く意図﹂はなかったなどとして、控訴した。この控訴を受けた第巡回区連邦控訴裁判所は、改めて、シーゲル・ケース判決の先例としての拘束力は、①私的な利得がなくても、②上司からの指示に従った取締役でない者の行為であっても、信任義務に違反した事実が立証されれば、郵便詐欺罪が成立するという点にあると述べ、第一審判決を支持し、被告人の控訴を斥けた。 このように民事法上の義務である信任義務の違反を根拠に、﹁欺く意図﹂の存在を肯定する判例の姿勢には、シーゲル・ケースの法廷反対意見において、﹁要するに、詐取行為も、被害者も必要としない会社への無作法という新しい犯罪がつくられたのである )₇₃
(﹂と揶揄されたように、古くから問題が指摘されてきた。そこでは、信任義務違反を犯罪成立の根拠と連動させるべきではなく、民事法上の義務は、その不履行に対して、民事法上の責任が生じるのであって、刑事法
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( )同志社法学 六六巻一号〇アメリカ経済刑法における郵便詐欺罪・通信詐欺罪の意義
上の責任の発生根拠とするのは妥当でないと説かれてきた )₇₄
(。しかし、それにもかかわらず、判例は、今日まで、信任義務違反の事実から﹁欺く意図﹂の存在を認める姿勢を明確に撤回していない。 ⑸ 誠実性の抗弁と弁護士への信頼の抗弁 郵便詐欺罪の成立には、﹁欺く意図﹂の存在が立証されなければならないことの裏返しとして、たとえば、行為者自身が、虚偽の説明を正しいと思い込んでいたり、被害者を害する意図なく行為していたりするなど、被告人が誠実に行為していたと分かれば、起訴に対する完全な抗弁になり得る )₇₅
(。こうした﹁誠実性の抗弁﹂が認められることによって、検察による郵便詐欺罪や通信詐欺罪での不合理な起訴を回避する機能が果たされている )₇₆
(。 誠実性の抗弁の特別な類型として、被告人が、弁護士の助言を信頼して行為していたという主張をあげることができる。被告人が重要な事実を弁護士に伝え、法令を遵守するつもりで、弁護士の助言を信頼し、助言に従って行動したと判断されれば、誠実性の抗弁が認められる )₇₇
(。たとえば、後述する一〇年のウォルターズ・ケース判決 )₇₈
(において、第巡回区連邦控訴裁判所は、弁護士への信頼が抗弁になることを陪審に説示しなかったことは、正式審理裁判所判決の破棄事由になる誤りであると明言した。
四 郵便または通信の使用 ⑴ 郵便と通信 郵便詐欺罪および通信詐欺罪が成立するためには、郵便または通信が使用されたことが要件となる。この﹁郵便または通信の使用﹂という要件が充足されるためには、①合衆国郵便事業または民間もしくは商業州際配達業者(一一条)または州際通信(一条)を、②被告人が使用したか、または使用させたことと、③その使用が、﹁詐取する計画﹂と関連性を有することが、検察によって合理的な疑いを超えて立証されなければならない )₇₉
(。 〇
( )アメリカ経済刑法における郵便詐欺罪・通信詐欺罪の意義同志社法学 六六巻一号一 郵便詐欺罪における﹁郵便﹂とは、合衆国郵便公社による公的な郵便事業を意味する。従来、郵便詐欺罪は、こうした郵便事業が使用された場合にのみ成立した。しかし、一年の法改正により、合衆国郵便公社による郵便事業に加え、民間または商業州際配達業者の配達事業も一一条に追加された )₈₀
(。しかも、州際運送業者による配達が利用された場合、実際には、手紙や小包が州をまたいで輸送されなかったとしても、本罪の成否を妨げられない )₈₁
(。 他方、通信詐欺罪の対象には、州際または国際間での電信、ラジオ、テレビなどを手段とした文書、記号、信号、図画、音声などの伝達が含まれる。近年では、ファクシミリ )₈₂
(、電子メール )₈₃
(の普及などの通信技術の発展を背景に、一条についても対象の拡大傾向がみられる。 ここで要求される郵便や通信は、虚偽であったり、詐欺的であったりすることは要せず )₈₄
(、見知らぬ者同士の間で用いられたもので構わないし )₈₅
(、通例的なもの(被告人が使用しなくても、定期的に郵送されているもの)でも構わない )₈₆
(。 ⑵ ﹁使用させた﹂の意義 郵便詐欺罪は、行為者自らが郵便を使用したときだけでなく、他の者に郵便を﹁使用させた﹂ときにも成立する。ここでいう﹁使用させた﹂とは、自らは直接使用しないが、 ﹁郵便が、通常の業務の流れに従えば、使用される﹂という認識をもって行為したとき、または、そのように郵便が使用されることが合理的に予見可能であったときを指す )₈₇
(。﹁使用させた﹂ことの立証に、物品の発送や受領が、個人的なものであったことの証明は要しない )₈₈
(。この要件の充足には、郵便や通信の使用を承知していたり、具体的に意図していたりすることも要しない )₈₉
(。こうした点について争点となった一年のペレイラ・ケース判決 )₉₀
(では、﹁結婚詐欺﹂によって、相手女性を欺き、その財産を奪うことを計画した被告人に対して、被害者が被告人に裏書したカリフォルニア銀行の口座用小切手を、被告人がテキサス銀行で使用し、テキサス銀行が支払いを受けるためにカリフォルニア銀行に郵送した点を根拠に、郵便詐欺罪が罪状としてあげられ、テキサス西部地区連邦地方裁判所で有罪を言い渡された。第巡回区連邦控訴裁判所も、
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( )同志社法学 六六巻一号アメリカ経済刑法における郵便詐欺罪・通信詐欺罪の意義
この判断を支持したことから、被告人は、自らが、小切手の送付に郵便を使用させたという点について、不十分な証明しかなされていないなどと主張し、上告した。合衆国最高裁判所は、その主張を支持せず、﹁ある者が、通常のビジネスの過程において、当然、郵便を使用することになるという認識をもって行為したとき、または、そうした郵便の使用が、合理的に予見可能だったとき、たとえ、現実には意図していなかったとしても、行為者は、郵便を﹃使用させた﹄ことになる﹂との判断を下した )₉₁
(。自らが振り出した小切手が、発行銀行に送られるのは常識であるから、被告人は、テキサス銀行が小切手をカリフォルニア銀行に郵送することを認識していたか、認識しているべきであったと解したのである )₉₂
(。 ﹁郵便または通信の使用﹂という要件の充足は、手紙が送られた際の封筒のような直接的な証拠によって立証することもできれば )₉₃
(、状況証拠によって立証することもできる )₉₄
(。 ⑶ 郵便・通信と﹁詐取する計画﹂実行との関連性(シュマック・ケース判決) いくら行為者が郵便や通信を使用していても、そうした目的と無関係の場合まで、郵便詐欺罪や通信詐欺罪の成立を基礎づけるわけではない。規定上、両罪の成立には、郵便や通信の使用が、﹁計画や計略を実行し、または実行を試みる目的﹂であったことが必要である。そうした目的が認められるのは、郵便や通信が、計画を促進するために使用されたときである )₉₅
(。そして、郵便や通信が計画を促進したと評価されるには、郵便や通信が、﹁被告人によって考案された計画の実行の一部 )₉₆
(﹂であり、両者の間に十分な関連性が認められる場合でなければならない )₉₇
(。ここから、判例は、以下のつ場合には、﹁詐取する計画﹂と郵便・通信の使用の関連性を否定し、両罪の成立を否定してきた )₉₈
(。①計画に反する郵便・通信 )₉₉
(。②緊急に履行が求められる公的な義務としての郵便・通信 )100
(。③計画開始前の郵便・通信 )101
(。④計画実現後の郵便・通信 )102
(。 ところが、合衆国最高裁判所は、一年のシュマック・ケース判決 )103
(において、郵便が、詐欺の計画にとって不可