九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
The acute phase serum zinc concentration is a reliable biomarker for predicting the
functional outcome after spinal cord injury
貴島, 賢
https://doi.org/10.15017/2534391
出版情報:九州大学, 2019, 博士(医学), 課程博士 バージョン:
権利関係:This is an open access article under the CC BY-NC-ND license http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
氏 名:貴島 賢
論 文 名:
The acute phase serum zinc concentration is a reliable biomarker for predicting the functional outcome after spinal cord injury
(脊髄損傷後の急性期血清亜鉛濃度は運動機能予後を予測する信頼できるバイオマーカー である)
区 分:甲
論 文 内 容 の 要 旨
背景:外傷性脊髄損傷は患者にとって壊滅的なイベントであり、恒久的な運動機能障害 および感覚機能障害を引き起こす。有効な治療法を開発するために、多数の基礎動物実験 と急性期脊髄損傷臨床試験の両方が行われてきたが、確立された治療法は現在、ほとんど 存在しない。脊髄損傷の重症度は患者ごとに大きく異なり、脊髄損傷急性期では自発的な 機能回復がしばしば観察されるため、急性期においては、運動機能の予後予測は極めて困 難である。事実、軽度の脊髄損傷でも、脊髄損傷の超急性期には、重度の麻痺が一時的に 観察され、その後急激な機能回復が見られる。したがって、急性期における患者の重症度 評価と、急性期における治療介入効果の正確な評価は、困難を極める。言い換えれば、臨 床試験において、運動機能改善が治療効果に起因するものなのか、あるいは単に自発的な 機能回復に起因するものなのかは、判断することができないのである。このような脊髄損 傷の急性期治験の難しさが数十年前から指摘されているが、現在、脊髄損傷の研究と臨床 試験はほとんど急性期のものである。本 研 究 では脊 髄 損 傷 後 の急 性 期 血 清 亜 鉛 濃 度 を用 いて運 動 機 能 予 後 を正 確 に予 測 する新 しい方 法 を報 告 する。
方 法 :運 動 機 能 予 後 が異 なる脊 髄 損 傷 マウスモデルを作 成 し、脊 髄 損 傷 の重 症 度 、運 動 機 能 予 後 、および急 性 期 血 清 亜 鉛 濃 度 の関 係 を調 べた。また、human の前 向 き研 究 を行 い、脊 髄 損 傷 後 72 時 間 以 内 の血 清 亜 鉛 濃 度 を評 価 することによって 運 動 機 能 予 後 を予 測 できるかどうかを調 べた。
結 果 :マウスモデルにおいて、損 傷 後 12 時 間 の損 傷 急 性 期 では下 肢 運 動 機 能 ス コアを使 用 して運 動 機 能 予 後 を予 測 することはできないことがわかった。一 方 で、損 傷 後 12 時 間 の急 性 期 血 清 亜 鉛 濃 度 は脊 髄 損 傷 の重 症 度 に比 例 して減 少 し、脊 髄 損
傷 後 12 時 間 の血 清 亜 鉛 濃 度 は運 動 機 能 予 後 を高 精 度 に予 測 できることがわかっ た。同 時 に、損 傷 後 12 時 間 の脊 髄 亜 鉛 濃 度 は、脊 髄 損 傷 の重 症 度 に比 例 して増 加 することがわかった。亜 鉛 は体 内 で合 成 されない必 須 微 量 元 素 であることを考 えると、
末 梢 血 から損 傷 脊 髄 に浸 潤 する細 胞 が亜 鉛 濃 度 の変 化 に関 与 しているのではないか と考 え解 析 を続 けると、亜 鉛 インポーターZIP8 を介 して、末 梢 血 から亜 鉛 を細 胞 内 に 取 り込 んだmonocyte が損 傷 脊 髄 に浸 潤 することがわかり、その浸 潤 数 は損 傷 強 度 と 比 例 することがわかった。以 上 の結 果 から、血 清 亜 鉛 濃 度 低 下 と損 傷 強 度 が相 関 する メカニズムが明 らかになり、それは、脊 髄 損 傷 後 に monocyte が亜 鉛 を細 胞 内 に取 り込 み、損 傷 強 度 依 存 的 に損 傷 部 位 へ浸 潤 するというものであった。さらに、38 人 の脊 髄 損 傷 患 者 の非 線 形 回 帰 分 析 を行 い、急 性 期 の血 清 亜 鉛 濃 度 が長 期 の運 動 機 能 予 後 を正 確 に予 測 し(R2=0.84)(図 1)、この精 度 は他 に報 告 のある急 性 期 バイオマーカ ーよりも著 しく高 いことがわかった。また、患 者 が最 終 的 に独 歩 可 能 か否 かの予 測 の精 度 も極 めて高 いことがわかった(AUC=0.98)(図 2)。
結 論 : 急 性 期 血 清 亜 鉛 濃 度 は運 動 機 能 予 後 を予 測 す る た め の 有 用 なバ イ オ マ ー カーと なり得 る 。この シンプ ル な方 法 は、よ り客 観 的 な臨 床 試 験 の実 現 と、脊 髄 損 傷 に 対 する患 者 に合 わせた治 療 法 の開 発 を可 能 にするだろう。
図1 図2