事後強盗罪の根拠 と解釈
目次
Ⅰ
は じめにⅡ
事後強盗罪 の根拠 について1
事後強盗罪 の根拠論 と解釈論 との関係 に ついて2
事後強盗罪 の根拠 (1) 人身保護説( 2)
拡張2
項強盗罪説( 3)
拡張1
項強盗罪説Ⅲ
事後強盗罪 の解釈1
「窃盗」 の意義 について2
窃盗 の機会 の継続 の意義 について (1) 本稿 の見解( 2)
理論 的問題 の検討( 3)
実践的問題 の検討3
暴行 ・脅迫 お よび 目的要件 について 4 事後強盗罪 の未遂Ⅳ
おわ りにⅠ
はじめに本稿 は,窃盗 の機会 の継続 をは じめ とす る事 後強盗罪 の成立要件 について,同罪 の根拠論 に 重点 を置 きつつ,若干 の考察 を試 み るもので あ る。平成
1 4
年,1 6
年 と,相次い で登場 した重 要 な最 高裁 判 例1)を契機 と して,窃 盗 の機 会 の継続性要件 を中心 に,事後強盗罪 の成立要件 を巡 って多 くの議論 がな されたが,豊富 な判例 の蓄積 があ ったためか,事後強盗罪 の共犯 の問 題 の場合 とは異な って,過去 の判例 との比較検 討等,い わば,実践的 な側面 に議論 の重点が置近 藤 和 哉
( 本法務研究科教授)
かれていた よ うに思 われ, この こ とが,機会継 続性要件 をは じめ とす る同罪 の成立要件 に関 し て,理論的に暖味 な もの を残 してい る原 因 とな ってい るように思 われ るか らで ある。以下で は, まず,事後強盗罪が 「強盗 として論 じ」 られ る 根拠 について検討 を加 え,次いで, これ を基礎
として,事後強盗罪 の解釈論上 の問題点 につい て考察す るこ とに したい。
Ⅲ
事後強盗罪の根拠について1
事後強盗罪 の根拠論 と解釈論 との関係 につ いて本章
「Ⅱ
」では,事後強盗罪 の成立要件 の意 義 を明 らか にす る前 提 と して,窃 盗 に よる暴 行 ・脅迫が強盗 として論 じられ る根拠 について, やや立 ち入 った検討 を加 えるこ とに したい。議 論 の中心 とな ってい る機会継続性要件 をは じめ, 事後強盗罪 の成立要件 は,言語的 には多様 な意 味 をもち得 るか ら, それ ら諸要件 の意義 を画定 す るには,事後強盗罪 がなぜ強盗 とされてい る のか とい う, その根拠論 に遡 る必要 が あ るが2), 構成要件解釈 の指導原理で あるべ き根拠論が, 窃盗犯人 に よる暴行 ・脅迫 が強盗 として論 じら れ るのは, これが強盗罪 に似 てい るか らで ある,とい う粗い レベルに とどまってい る限 りは,限 界的 な事件 の解決 に際 して,強盗 に似 てい るよ うに見 えるか ら要件 は充足 されてい るはずだ, とい う転倒 した議論 に陥 る危険が ある ように思 われ るか らで ある3)0
なお,本章 における検討 の対象 は,大別 すれ
2 6
事後強盗罪の根拠 と解釈ば,事後強盗罪の根拠 を人身保護 の必要性 に求 める見解4)(本稿 では
,
「人身保護説」 とい う) と,
「窃盗」 に よる暴行 ・脅迫 の強盗罪類似 の 性格 に求 め る見解5)(本稿 で は,
「拡 張 強 盗 罪 説」 とい う) とであるが,後者 の見解 に関 して は,機会継続性要件 の解釈 とは無 関係で ある と い う指 摘 が され てい る6)。 その根 拠 は,
「例 え ば, あ くまで財産犯 として捉 えよ うとす る見解 の 『財物 を確保す るために暴行脅迫 を行 う必要 が あ る』 とい う命題 か らは,
『財物 を得 てい る こ と』等 が要件 として要求 され るこ とはあ って ち,
『その暴行脅迫 が窃盗 の機会 ない しは機 会 継続 中にな されなければな らない』 とい う命題は出て こない」 こ とである7)0
しか し, この指摘 に即 してい えば,窃盗 が完 全 に終 わ って しまっては,暴行 ・脅迫 を用いた 財物 の 「確保」 を観念で きな くな るのだか ら, 後者 の見解 か らも,暴行 ・脅迫 は,窃盗 が完全 に終 わる以前,す なわち,窃盗 の機会 ない しは 機会継続 中にな されなければな らない, とい う 命題 は,十分 に導 出可能で ある と思 われ る。後 者 の見解 に よっては機会継続性要件 を うま く説 明で きない とい う主張 は もちろん あ り得 るが, 論理的に,両者 は無 関係 で ある とはい えないで あろ う。
2
事後強盗罪 の根拠 (1) 人身保護説 ア 人身保護説 の論拠ま ず
,2 3 8
条 に よ って,
「窃 盗」 に よ る暴 行 ・脅迫 が強盗 として論 じられ る根拠 を,被害 者等 の生命 ・身体等 に対す る窃盗犯人 の危険性 に,一元 的 に求 め る見解8)9)(人 身保護説) に 検討 を加 えるこ とに したい。人身保護説 の主要 な論拠 は,第
1
に,窃盗犯 人 に よる暴行 ・脅迫か ら人身 を保護す る必要性 が あ る こ と10),第2
に,事 後 強 盗 罪 が,強 盗 罪 に近 い類 型 的違 法 性 を具 えてい る こ と11), 第3
に,い わば,消極 的論拠 として,窃盗犯人 に よる暴行 ・脅迫 を,強盗罪 (刑2 3 6
条) における暴行 ・脅迫 に準 じるもの として位置づ ける 見 解 (拡 張 強 盗 罪 説) が 採 れ な い こ とで あ
る12)
0
第
3
の論 拠 の検 討 は,次款「( 2 )
」以下 に譲 り,本款 では,前二者 について検討す る。イ その検討
( ア)
第 1の論拠 についてまず,第 1の論拠 につい て は
,
「窃 盗犯人 が 犯行 を終 了 し, あるい は窃盗 の意思 を放棄 して 現場 を離 れ る際 に,暴行 ・脅迫 を加 えるこ とが 多い とい う刑事学上 の実態」13)の客観 的 な根拠 が,十分 に示 されて こなか った憾 みはあるが, 窃盗犯人 の暴行 ・脅迫が強盗 として論 じられ る こ との説明 として, お よそあ り得 ない とまでは い えないであ ろ う。第
1
の論拠 に対す る批判 としては, まず,窃 盗罪以外 の財産罪 の犯人 が加 える暴行 ・脅迫 に ついて,事後強盗罪類似 の規定 が設 け られてい ない こ とが,十分 に説明で きない とい うものが あ るが14),立 法 者 が,窃 盗 犯 人 が特 に危 険 だ と判 断 した こ とに理 由 が ない とまで は い え ず15),決定的ではない よ うに思 われ る16)。第 1の論拠 の問題 点 は,む しろ, これが,窃 盗犯人 の暴行 ・脅迫 が強盗 として論 じられ るこ との説明 にお よそな り得 ない こ とではな く, こ れ単独 ではそれ を説 明 し切 れない点で あ ろ う。
まず,事後強盗罪 の根拠論 を強盗罪か ら切 り 離 して しまっては,少 な くとも,窃盗犯人 が行
う脅迫 について, これ を強盗罪並 みに重 く処罰 す る (あるい は,脅迫 を契機 として,先行す る 窃盗罪 を強盗罪並 みに重 く処罰す る)根拠 を見 出 しがたい よ うに思 われ る17)0
す なわち,暴行 に関 しては,窃盗犯人が行 う 暴行 は, しば しば強力 な ものにな り,被害者等 の傷害や死亡結果 な どの重大 な法益侵害 につ な が りかね ない,従 って,強盗罪 の法定刑 を借用
して強力 に抑止す る必要 がある, とい う論理 は, 確 かに, あ り得 る。 しか し,脅迫 に関 しては, 仮 に,窃盗犯人 が行 う脅迫 が強力 な ものにな り がちだ として も, そ こか ら生 じる被害 は,ほ と
ん どの場合,意思の 自由の侵害 に とどまるので あ って18),生命 侵 害 は も とよ り,身体 的 な被 害 さえ,例 外 的 に生 じるに過 ぎない19)。窃 盗 犯人が行 う脅迫か ら窃盗被害者等 を保護す るた め,強盗罪 の法定刑 を借用 してで も,行為者 を 重 く処罰す る必要がある とい う主張 の説得力 は, 事後強盗罪 を加重 された暴行 ・脅迫罪 と位置づ けるか, それ とも,加重 された窃盗罪 と位置づ け るか とは無 関係 に,極 めて希薄 で あ る
。2 3 8
条 において,暴行 と脅迫 とが平等 に扱 われてい るのは,暴行 が,人身 に対す る危 険行為 として ではな く,脅迫 と並ぶ,意思の抑圧手段 として 位 置づ け られてい るこ と,事後強 盗罪 が
,2 3 6
条 のそれ よ りは拡張 されてい る とはい え, なお 強盗罪であるこ とを示 してい るのではないか と 思 われ る20)0
さらに,人身保護説 の論者 も,窃盗直後 にお ける犯人 の危険性 の発露 としての暴行 ・脅迫が 行 われた場合 のすべてにおいて,事後強盗罪 の 成立 を肯定す る立場 を徹底 してい るわけではな い。例 えば,佐伯教授 は,「事後強盗罪 が 目的 犯 として規定 されてい るこ とを考 える と,行為 者 が主観的 に逮捕 され得 る状況 にある と認識 し ていた場合 には,強力 な暴行 ・脅迫 が用い られ る危険が高い ので,窃盗 の機会 の継続性 を肯定 す るこ とも考 えられな くはない (仮 に, そ う解 す る として も,被害者側 の追求可能性が まった く存在 しない場合 は除外 す るのが適 当で あ ろ う)。 しか し, その よ うに解 す る と,事後強盗 罪 の成立範 囲が不明確 で広範 な もの となる」 と して,追及可能性が現実 に存在 しない以上,辛 後強盗罪 は成立 しない とされ る21)0
この立場 か らは,例 えば,窃 盗 犯 人 Ⅹ が,
A
の アパ ー トに空 き巣 に入 り, あれ これ物 色した ものの盗 りたい ものが見つか らず,諦 めて, 誰 に も目撃 されず にアパ ー トを出て歩 き始 めた が,す ぐに,後 ろか ら猛然 と走 って迫 って くる
B
の足音 に気付 き, 自己 を逮捕す るため追いか けて来た家人 だ と誤信 して哩嵯 に暴行 を加 えた (Bは,駅 へ 急い でい る学生 だ った) とい う場合 には,事後強盗罪 は否定 され るこ とになるの であろ う。
しか し, この ような暴行 は, まさに,人身保 護説 が, その抑止 の必要性 を説いていた暴行で
ある。
佐伯教授 は,客観的 な追及可能性 を要求すべ き根拠 として, そ うしない場合 に,事後強盗罪 の成立範 囲が不 明確 で広範 にな るこ とを挙 げ ら れ るが, まず,不 明確化 についてい えば,人身 保護説か らは,暴行 ・脅迫が,窃盗直後 におけ
る犯人 の危険性 に起因す るもので あ った こ とは, いずれにせ よ事後強盗罪の成立要件 で あ って, 機会継続性概念 に取 り込むな どした上 で立証 さ れなければな らない はずで ある。従 って, これ のみ を事後強盗罪 の成立要件 としたか らとい っ て,事後強盗罪 の成立範 囲が不 明確 になるこ と はない ように思 われ る。 また,広範化 について い えば,人身保護説 の根拠論 を素直 に適用 した 場合 の帰結 が,人身保護説 の論者 に とって も広 範 に感 じられ る とい うこ とが,問題 で はないか と思 われ る。 これに対 しては,客観 的 な追及可 能性 を欠 く場合 に事後強盗罪 の成立 を否定す る のは
,2 3 8
条 の背後 にある政策判 断で あ る とい う説明が あ り得 るが,政策判断 には,何 らかの 根拠が あるはずであ り, その根拠 が,実 は,上 記 のB
は,強 盗 の被 害者 とは評価 で きない, とい うものなので はないか とい う疑問が残 る。(j) 第
2
の論拠 について次 に,第
2
の論拠 について見 るこ とに したい。十河教授 は,次 の よ うに述べ られ る。「事後強 盗罪 は,財産 のみな らず身体 の安全 や意思 の 自 由をも侵害す る とい う点 において,通常 の強盗 罪 と共通 してい る。 そ して,窃盗 その ものは暴 行 ・脅迫 を手段 とした財物奪取 ではない ものの, 事後強盗罪 においては暴行 ・脅迫 が窃盗 の機会 の継続 中にな され るこ とが要求 されてお り, そ の ように窃盗 と機会 を同 じくして暴行 ・脅迫が 行 われ た場 合,社 会 的 実 態 と して は窃 盗 と暴 行 ・脅迫 を一体 の行為 と評価す るこ とが可能 と
な ろ う。 この よ うに,事後強盗罪 におい て窃取
2 8
事後強盗罪の根拠 と解釈と暴行 ・脅迫 が一体 として行 われ る とい う実態 に着 目す る と,事後強盗罪 は,暴行 ・脅迫 を手 段 として財物 を奪取す る通常の強盗罪 に近い類 型 的 違 法 性 を備 え て い る とい え る の で あ
る。」22)0
しか し, ここで,強盗罪 に近い類型的違法性 の根拠 として指摘 されてい る諸事情 は,例 えば, 犯人が傷害 目的や強姦 目的で暴行 ・脅迫 を加 え,
その後 に領得意思 を生 じて,被害者 の反抗抑圧 状態 に単純 に乗 じて財物 を奪 った場合 に も,す べて認 め得 る ように思 われ る。 この場合,多 く
の見解 は強盗罪の成立 を否定 してい るので あ っ て,刑法 も
,1 7 8
条 の よ うな規定 はあえて設 け てい ない。類型的違法性 を人身保護説 の論拠 と す るこ とも,難 しい のではないか と思 われ る。(ウ) 小括
以上 の よ うに して,人身保護説 の積極的論拠 は,い ず れ も十 分 で な く23),窃 盗 犯 人 の危 険 性 は, これ 自体 が,強盗罪 とは無 関係 に,強盗 罪並 みの重い処罰 を基礎付 ける根拠で ある とは い えない ように思 われ る。
( 2)
拡張2
項強盗罪説 ア 問題 の整理 と検討 の観点次 に,刑 法
2 3 8
条 が,
「窃盗」 に よる暴 行 ・ 脅迫 を強盗 として論 じてい る根拠 を, これが, 強盗罪類似 の実質 を有 してい るこ とに求 め る見 解 (拡張強盗罪説) に検討 を加 えるこ とに した い。この グル ープに属 す る見解 は,1項強盗罪 と の類 似 性 を根 拠 とす る もの (拡 張1項強 盗 罪 読) と
,2
項強盗罪 との類似性 を根拠 とす る も の (拡張2項強盗罪説) とに分かれ るが,いず れ も,刑法2 3 8
条が,窃盗犯人 に よる暴行 ・脅 迫 を強盗 として論 じてい る主要 な根拠 を, それ ら暴行 ・脅迫 が,強盗罪類似 の財産 的法益侵害 を惹起 してい るこ とに求 めるものである。 そこ では,人身保護説 がその根拠論 の柱 としていた 窃盗犯人 の危険性 は,強盗 の範 囲 を,2 3 6
条 が 規定す る要件 を一部充足 してい ない,いわば,強盗罪 の周辺的行為へ と拡張す るこ との正当化 根拠 として (また は, その一部 として),位 置 づ け られ るこ とにな る。
従 って, この見解 の当否 の判断 は, まずは, この見解 が事後強盗罪の成立 を肯定す る場面 に おいて
,2 3 8
条 に よって,い わば補完 され るこ とにな る強盗罪 の成立要件 が何 であ るか, その ような要件 の補完 が,窃盗犯人 の危険性 を根拠 として正 当化可能で あるか とい う観点か ら, な され るべ きこ とになる と思 われ る。本 款
「( 2 )
」で は,拡 張2
項強 盗 罪説 につ い て, これに加 え られてい る批判 を手 がか りとし て,検討 を加 えるこ とに したい24).イ 拡張
2
項強盗罪説 とその論拠まず,拡張
2
項強盗罪説 の主張 内容 とその論 拠 を確認 してお くとに したい。 同説 の論者 とし ては, まず,佐伯教授 を挙 げ るこ とがで きる。教授 は,窃取 した財物 の返還 を,暴行 に よって 免 れ る行為 に
2
項強盗罪が成立す るこ とを前提とす る と,事後強盗罪 の第
1
類型 (財物 を得 て, これ を取 り返 され るこ とを防 ぐために暴行 ・脅 迫 を加 える場合) は,
「財物 の取返 しを防 ぐ目 的で暴行 ・脅迫 を用いれば同罪 の既遂 を認 め る 通説 の見解 か らは,2
項強盗 の既遂時期 を拡張 した犯罪類型 とい うこ とにな る。 また,財物 の 取返 し防止 に成功 したか どうか に よって既遂 ・ 未遂 を決す る見解 か らは,2
項強盗 その もの と い うこ とになる。」 とされ る25)0島 田教授 も
,2 3 6
条 に よって は( 2
項)強 盗 未遂 に しか な らない ものが,人身保護 の必要性 をその根拠 とす る2 3 8
条 に よって (事後)強盗 既遂 にな り得 るこ とを認 めてお られ るので26),この限度で は,拡張2項強盗罪説で ある。 もっ とも,島田教授 が この ように されたのは,窃盗 既遂後 の暴行 ・脅迫 にのみ関与 した復行行為者 に成立す る強盗罪 の既遂時期 は,窃盗実行犯 の それ とずれて もか まわない か
( 2
項強盗罪 とす るこ とにな る), それ とも,一致 すべ きか (辛 後強盗罪 とす るこ とになる) とい う問題 に関 し て,後者 の見解 を採 った こ とか ら, その必要が生 じたためで あ り,拡張
2
項強盗罪説 を主張す るこ とに主 眼が置 かれてい たわけで はない27)0西 田教授 も,窃盗犯人 に よる暴行 ・脅迫 が強 盗 と して論 じられてい るの は
,
「窃 盗 が既 遂 に 達 した後 に,犯人 が取還拒否 ・逮捕免脱 ・罪跡 淫減 の 目的で暴行 ・脅迫 を行 うこ とは,獲得 し た財物 を保持 す るための もので あ り,実質的 に は,暴行 ・脅迫 に よって奪取 した の と同 じで あ る と評価 されたか らで あ ろ う」28)とされ, また,「事 後強盗 は窃盗犯人 が既 に財物 を得 てい るか らこそ, また, その場合 にのみ,強盗 を もって 論 ず る実態 を有 す る」29)ともされ るか ら,窃盗 が既遂 の場合 について,拡張強盗罪説 を採 って お られ る とはい え よ う。 ただ し, そ こで念頭 に 置 かれてい る 「強盗」 が
,2
項強 盗 で あ るのか, それ とも1
項強盗 で あ るのかは,明 らかで はない 30)0
り 拡張
2
項強盗罪 に対す る批判 とその検討 (ア) 第1
の批判 とその検討拡張
2
項強盗罪説 に対す る第1
の批判 は,財 物 を得 た窃盗犯人 に よる暴行 ・脅迫 が,窃盗 の 被害者以外 の者 に向け られた場合 に関す る もの で あ る。す なわち,2 3 8
条 の規定 か らす れ ば, この場合 に も事後強盗罪 が成立 し得 るこ とは明 らかで あ る よ うに見 えるが,窃盗 の被 害者以外 の者 には,財物 の返還請求権 が ない。従 って, 拡張2
項強盗罪説 は, この場合 に事後強盗罪 の 成立 を肯定 で きな くな るのではないか, とい う ので あ る31)0しか し, この批判 には疑 問が あ る。
まず, この批判 が,強盗罪 の成 立要件 が欠 け てい るこ とをその根拠 としてい る点 は,事後強 盗罪 の議論 において しば しば見 られ る ところで はあ るが,当 を得 た もので はない よ うに思 われ る
。2 3 8
条 は,少 な くともその一部 におい て, 強盗罪 の成立要件 を欠 く行為 を強盗 として論 じる規 定 な ので あ るか ら32),事 後 強 盗 罪 に該 当 す る とされ る行為 が強盗罪 の成立要件 を欠いて い るこ とは,何 らおか しな こ とで はない。従 っ て,拡張
2
項強 盗罪説 が,返還請 求権 が そ もそも存在 しない ところで事後強盗既遂罪 の成 立 を 主張 した として も, これが直 ちに不 当で あ る と はい えない。 これが不 当で あ るか否 か は,本款 の冒頭 で も述べ た よ うに
,2 3 8
条 に よる強盗 罪 の要件 (ここでは,法益 お よび法益侵害) の補 完 が,窃盗犯人 の危 険性 を根拠 として正 当化 し 得 るか香 か に よって決 まるこ とで あ る と思 われる。
そ して,第 1の批判 との関係 で は, まず,窃 盗 の被 害者以外 の者 に対 す る暴行 ・脅迫 に,返 還請求権 の侵 害 をお よそ肯定 で きない わけで は ない こ とを確認 してお く必要 が あ る と思 われ る。
財物 の取還 を目指 して犯人 に組 み付 い た通行人 や警察官 に対す る暴行 ・脅迫 が,結果 的 に被 害 者 の返還請求権 を侵 害す るこ とは,十分 にあ り 得 るで あ ろ う33)0
そ うす る と, この批判 が妥 当す る可能性 が あ る局面 は,第三者 に対す る窃盗犯人 の暴行 ・脅 迫 に よって,被 害者 の返還請求権 の侵害 (また はその危 険) が生 じなか った場合 だ とい うこ と に な る。 これ は,例 え ば,窃 盗 犯 人
Y
が,C
の アパ ー トに空 き巣 に入 り,現金 を窃取 して, 誰 に も目撃 されず に アパ ー 下を出て歩 き始 めた が,す ぐに,後 ろか ら猛然 と走 って迫 って くる
D
の足 音 に気 付 き,現 金 を取 り返 す た め に追 い か けて来 た家人 だ と誤信 して噛嵯 に暴行 を加 えた( D
は,駅 へ 急 い で い る学 生 だ った) と い うよ うな場合 で あ ろ う。 この場合 に関 してい えば,拡張2
項強盗罪説 は,確 か に,事後強盗 罪 の成立 を肯定 で きない34)Oしか し,他 の見解 に立 つ論者 も, ここで は,
( 2 3 8
条 の文 言上 は可 能 で あ るが)事 後 強 盗 罪 の成 立 を否 定 す るので は ない か と思 われ る35)0 そ うす る と,拡張2
項強盗罪説 が,事後強盗罪 の成 立 を認 め るべ き ところで, これ を肯定 で き ない とい うこ とはない こ とにな り,結局 の とこ ろ, この批判 は当た らない こ とにな る よ うに思 われ る。(イ) 第2の批判 とその検討
拡張2項強盗罪説 に対す る第 2の批判 は,被
30
事後強盗罪の根拠 と解釈害者 の返還請求権 は,窃盗 の機会 の継続 中で な くて も,いつで も侵害で きるか ら, この見解 に 立 った場合 には,事後強盗罪の確立 された成立 要件 である,窃盗 の機会 の継続性 が不要 にな っ て しま うとい うもので ある36)0
しか し,すでに見 た ように,拡張
2
項強盗罪 説 は,事後強盗罪 は2
項強盗罪で ある とす る見 解で はな く,窃盗犯人 の危険性 を根拠 として,2
項強盗罪が拡張 された罪 であ る とす る見解 で ある。従 って, この見解 を採 った場合 には,拡 張 の根拠で ある窃盗犯人 の危険性 を担保す るも の として,窃盗 の機会 の継続性 が,む しろ必須 の要件 となるように思 われ る。(ウ) 第
3
の批判 とその検討拡張
2
項強盗罪説 に対す る第3
の批判 は, 同 説 に よる と,不法 の二重評価 が生 じる とい うも のである。長井教授 は,次の ように述べ られ る。「事 後 強 盗 罪 の本 質 を 『二 項 強 盗』 に類 す る
『窃取 された財物 へ の追 求権 の侵 害』 と解 す る 立場 を支持す るこ とはで きない。 その理 由は, 窃盗既遂 を本罪の構成要件的不法評価 の枠外 に 置 くこ とはで きない ので,窃 盗既 遂 の場 合 に
『追求権侵 害』 を不法根拠 とす るこ とが 『不法 の二重評価』 にあた るか らである」37)。
確かに,拡張
2
項強盗罪説が,事後強盗罪で の処罰 に加 えて,窃盗罪で の処罰 をも肯定す る ので あれ ば38),二 重 評価 で あ る。 しか し,紘 張2
項強盗罪説 は, その ような見解 ではないから, この批判 も当た らない ように思 われ る。
回 第
4
の批判 とその検討拡張
2
項強盗罪説 に対す る第4
の, そ して, より重要で ある と思 われ る批判 は,窃盗既遂犯 人 が,取還阻止 目的で暴行 ・脅迫 を加 えたが, 結局,財物 を取 り返 されて しまった場合 に関す る も の で あ る39)。す な わ ち, こ の 場 合,秦 行 ・脅迫 に よる返還請求権 の侵害 (既遂) は認 め られないか ら,事後強盗罪 の根拠 を2
項強盗 罪 との類似性 に求 める見解 か らは, これ を事後 強盗既遂 とす るこ とがで きず,判例 ・通説 の理 解 と鮎齢 を生 じるのではないか, とい うのである40)
。
まず, この批判 が,財物 が取 り返 された場合 には,返還請求権 の侵害が欠けてい るこ とをそ の根拠 としてい る点 は,すでに述べ た理 由か ら, 妥 当 とは思 われ ない。 ここでの問題 は
,2 3 8
条に よる強盗罪 の要件 (ここでは,既遂結果) の 補完 が,窃盗犯人 の危険性 を根拠 として正 当化 可能 で あ るか香 か で あ ろ う41)。 そ して, この 観点か らす る と, ここで加 え られてい る批判 は, 結論 として妥 当で ある ように思 われ る。す なわ ち,拡張2項強盗罪説 は,事後強盗罪 の既遂時 期 に関 して,判例 ・通説 (暴行 ・脅迫 の実行 に よって,事後強盗罪が既遂 にな る) と一致 しよ うとす る限 り,窃盗犯人 の危険性 を根拠 として
2
項強盗罪 の既遂結果 の補完 (換言すれば,既 遂時期 の前倒 し) を主張す るこ とになる。 これ を正当化 す るには,窃盗犯人 の危険性 が,一般 の2
項強盗犯人42)のそれ を上 回 ってい る とい え る こ とが必要 で あ るが43), この よ うな こ と は,俄 には認 めがたいか らで ある44)0そ して,仮 にそ うであ る とす る と, その影響 は,財物 が取 り返 された場合 が事後強盗未遂 に なるか, それ とも既遂 にな るか とい う,個別事 例 の解決 の レベルには とどまらない。拡張
2
項 強盗罪説 は,2 3 8
条 は,窃盗犯人 の危 険性 を根 拠 として2
項強盗罪 を拡張す る規定で ある とす る見解で あるか ら,窃盗犯人が強盗犯人 よりも 危険で ある とい えない ので あれば, この説 は,その土台 を失 うので ある45)0 (オ) 小括
以上 の ように,拡張
2
項強盗罪説 に対 して従 来加 え られて きた批判 は,必ず しも的 を射 た も のではなか った と思 われ るが, そ うで ある とし て もなお, 同説 には,強盗罪 を拡張す る根拠 の 脆弱性 とい う,看過 しがたい欠点が ある ように 思 われ る。 同説 に は, さ らに,窃 盗 犯 人 の暴 行 ・脅迫 に よって侵害 され る法益 を,財物 の占 有 (拡張1項強盗罪説)で はな く,返還請求権 として把握 してい るこ と自体 に も,疑 問の余地 が あるよ うに思 われ るが, この点 については,拡張
1
項強盗罪説 と関連づ けなが ら,次款 で検 討す るこ とに したい。( 3)
拡張1
項強盗罪説 ア 拡張1項強盗罪説 とその論拠以上 の よ うに,拡張2項強盗罪説 に問題 があ る として も, この こ とは,拡張 1項強盗罪説 の 妥 当性 を直 ちに保障す るものではない。本款 で は拡張
1
項強盗罪説 について, これが, それ 自 体主張 し得 る ものであるか香か を検討す るこ と に したい46)。検討 の前提 として,拡張 1項強盗罪説 の内容 を確認 してお くと, 同説 の代表的論者で ある林 幹人教授 は,返還請求権 の侵害 は事後強盗罪 の 不 法 内容 で は ない とされた上 で47),次 の よ う に述べ られ る
。「 2
項強 盗罪 は,財 物 で ない無 形 の利益 を保護す るために,客体 について補充 しよ うとす る ものである。 これに対 して事後強 盗罪 は,客体 が財物 の場合 について,時間的段 階 について1項強盗罪 を補充 しようとす るもの で ある」48)0財物 を客体 とす る窃盗罪 をその前提 とす る事 後強盗罪が,財物 を客体 とす る 1項強盗罪 を補 充す る罪で あ る (逆 か らい えば,1項強盗罪 を 拡張 した罪で ある) とい うのは, それ 自体,受 け入 れやすい説明で はあ る。 とはい え
,
「財物 を得 て これ を取 り返 され るこ とを防 ぎ」 とい う2 3 8
条 の文言か らす る と,事後強盗罪 を返還請 求権侵害 と結 びつ け, 同罪 を拡張 された2
項強 盗罪で ある とす るこ とも, 同程度 に自然ではあ る49)。従 って,拡 張 1項 強 盗 罪 説 が そ の妥 当 性 を主張す るためには,事後強盗罪 における法 益侵害 を,返還請求権 の侵害 としてではな く, 財物 の占有 の侵害 として理解すべ きこ とを示す 必要が ある。従来 の拡張 1項強盗罪説 は, この 点において十分 ではなか った ように思 われ る。まず,林教授 の見解 について見 る と,教授 が 示 してお られ る根拠 は,次 の よ うな もので あるO す な わ ち,事 後 強 盗 罪 が (人 身 犯 罪 で は な
く50))強 盗 罪 と実質 的 な同一性 を有 す る犯 罪
で あるこ とについて,① 「事後強盗罪が強盗罪 の後 に規定 され, ともに暴行 ・脅迫 と財物 の奪 取 を基本 的 な成 立要件 としてい るこ と」51)。 ま た,事後強盗罪 が
,1
項強盗罪 の補充類型 で あ るこ とについ て,(参そ う解 す るのが,
「条文 の 規定ぶ りか ら して妥 当 だ と思 われ る」 こ と52)0さらに,事後強盗罪が,拡張
2
項強盗罪説 が主 張す る ところ とは異 な り,2
項強盗罪 の補充類 型ではない こ とについて,③窃盗 が未遂 の場合 で あ って も,
「窃盗未遂 を犯 してい るか らには, 本罪 の財産犯 としての性格 を認 めるに十分 で ある」 こ とと
,
「既遂 の場合 で も,暴 行 の相手 が 被害者 とお よそ関係 のない者 で ある場合, ある い は,財物 が取 り返 された場合 には,返還請求 権 の侵害 を認 め得 るか,疑問が ある。 それで も 窃盗 が既遂で あるか らには,事後強盗既遂罪 の 成立 を認 めるこ とはで きる」 こ と53)0現在 の議論 と関係 が あるのは, この うちの② と③ とで あるが, まず,(参は,説明 としては, やや簡潔 に過 ぎるよ うに思 われ る. また,(参の 前半部分 は,拡張
2
項強盗罪説が,窃盗未遂 の 場合 に も主張可能で ある (同説 が,窃盗既遂 の 場合 に限定 してい るのはおか しい) こ とを指摘 す るもので あ って,事後強盗罪 を2
項強盗罪 に 引 き付 けて理解す るこ とに対す る批判 とはな ら ない よ うに思 われ る. さらに,(参の後半部分 は, すでに検討 した ように,拡張2項強盗罪説が, 事後強盗罪 は2項強盗罪 の拡張 で ある としてい るに過 ぎない( 2
項強盗罪 とイ コールで ある と は してい ない)以上,批判 として適切 で ない ように思 われ る。
また,金津教授 は
,
「一旦得 た財 物 の 占有 を 確立す る目的で,かつ, 占有 を確立す るに足 る 程度 の暴行 ・脅迫 が加 えられ るこ とで,強盗罪 との同質性 が担保 され る と解 すべ きで あ る。」とされ るが54),人 身保 護 説 との関係 です で に 触 れた批判 を展 開 され る以外,特 に根拠 を示 さ れてい ない。
イ 本稿 の見解
事後強盗罪 における法益侵害 を,返還請求権
3 2
事後強盗罪の根拠と解釈の侵害 としてではな く,財物 の占有 の侵害 とし て理解すべ き理 由は,む しろ,以下 の ような も ので ある と思 われ る。
す なわち,拡張
2
項強盗罪説 は,窃盗直後 に おいて,窃盗犯人 の暴行 ・脅迫 よって侵害 され る法益 は,窃盗 の例 えば1牛後 に,窃盗犯人 の 暴行 ・脅迫 に よって侵害 され る法益 と同 じく被 害者 の返還請求権 で ある とした上 で,ただ,窃 盗直後 においては,窃盗犯人 の危険性 を考慮 し て,2
項強盗罪が拡張 されてい るのだ とす る55)。しか し,窃盗直後 の暴行 ・脅迫 に よって侵害 さ れ る法益 は,返還請求権 に尽 きる ものではない
よ うに思 われ る。
例 えば,窃盗 の被害者が,盗 品 を持 って逃走 した窃盗犯人 に追いついて,取 り返 そ うとして 組 み付 き,取 り合い にな ったが殴 り倒 された場 令,被害者 は,殴 られて,財物 を奪 われた と思 うであろ う。他方,事件 の 1年後 に,被害者が 盗品 を持 った犯人 と偶然 に出会い,取 り返 そ う
として同 じ目に遭 った場合 には,被害者 は,殴 られて,財物 を取 り返せなか った と思 うで あろ う。 この認識 の違い は,根拠 のない印象ではな く,被害者が被 った法益侵害 の内実 の違い を反 映 した ものではないか と思われ る。す なわち, 前者 の ケースにおいて,犯人 に組 み付いた被害 者 は,財物 の占有 を一時的に失 ってはいたが, これ をすみやかに取 り戻 し,永続 的 には失 わず にすむチ ャンス,す なわち, 占有 の即時的回復 の可能 性 をい まだ失 ってい なか った が56),窃 盗犯人 の暴行 に よって, これ を奪 われて しまっ た ので あ ろ う57)。他 方,後者 の ケ ースの被 害 者 は, 占有 も, 占有 の即時的回復 の可能性 をも す で に失 って お り58),窃 盗犯 人 の暴 行 に よ っ て侵害 された法益 は,返還請求権 に尽 きるので あろ う。
そ して,前者 のケースにおいて被害者 が侵害 された, 占有 の即時的回復 の可能性 は,窃盗罪 との関係 で は,従来 か ら,拡 張 された 占有59)
として認 め られて きた もので あ る60)。例 えば, バ ス待 ちの列 に並んでいた人が,足元 にカメ ラ
を置い た まま列 と一緒 に移 動 して,約
2 0 m
離 れ て しま った時61), あ るい は,公 園 の ベ ンチ で友人 と話 していた人 が, ポ シェッ トを置 き忘 れ∴た まま駅 へ 向か って歩 き始 めて,約2 7 m
離 れ て しま った時62), これ らの カ メ ラまた は ポ シェッ トを持 ち去 る行為 には, 占有離脱物横領 罪ではな く,窃盗罪が成立す る とされた。事後 強盗罪固有 の法益侵害 は,返還請求権 で はな く,この よ うな,拡 張 され た 占有63)の強 取 で あ り64),事 後 強 盗 罪 は, この意 味 で,拡 張 され た1項強盗罪 なので はないか と思 われ る65)0
とはい え,詐欺犯人や恐喝犯人 が,犯行直後 に,財物 を取 り返 そ うとす る被害者 に暴行 ・脅 迫 を加 えて撃退 して も,1項強盗罪 は成立 しな い か ら66),事 後 強 盗 罪 が, この,拡 張 され た 占有 の侵害 のみ を理 由 として,強盗 として論 じ られてい るわけではない こ ともまた,明 らかで ある。拡張 された 占有が,窃盗 との関係 でのみ 厚 く保護 されてい る理 由については,(∋法益主 体 の意 思 に基づ か ず に財物 の 占有 が移 転 され (窃盗), これに引 き続いて,拡張 された 占有が 強取 された場合 と,②法益主体 の意思 に基づい て財物 の 占有 が移転 され (詐欺 ・恐 喝), これ に引 き続いて,拡張 された 占有 が強取 された場 合 とを比較す る と,① の方 が,法益侵害 の総量 が大 きい と評価 、され た か らで あ る67), とい う 説明が,一応可能で あろ う68)0
Ⅲ 事後強盗罪の解釈
1
「窃盗」 の意義 について次 に,以上 に見 た意味での拡張1項強盗罪説 を前提 としつつ, 同罪 の解釈論上 の諸 問題 につ いて,検討 を加 えてみ るこ とに したい。
まず
,2 3 8
条 の 「窃盗」 に,窃盗未遂犯人 が 含 まれ るか香 か につい て見 る と69),判 例 ・通 説 は, これ を肯 定 して お り70),本 稿 の立場 か らも, これ を否定すべ き理 由は特 に見 あた らない。
他 方,「窃盗」 は窃盗既遂犯人 に限 る とす る 見解 も主張 されてい る。
まず,拡張 1項強盗罪説 に立 たれ る林教授 は,
「
『窃盗 が』 とい うのは,窃盗既遂犯人 の意味 で あ る。」71)とされ る。林 教 授 は,(∋事 後 強 盗 罪 は,1項強盗 罪 を補 充 す る罪 で あ り,1項強盗 罪 が成立 し得 な くな る時点以 降 に, その成否 を 問題 に し得 る72),(∋そ して,1
項強 盗罪 は,窃 盗 が既遂 に達 した後 も,窃盗犯人 が財物 を確保 す る まで は成 立 し得 る73), とい う二 つ の前 提 を採 って お られ るた め,「事後強盗罪 は財物 を 確保 した後 に, それ に対す る追及 が開始 された 時点か ら成 立 し得 る もの と解 され る」74)こ とに な るので あ る。 しか し, それの窃取 が既遂 に達 した財物 を容体 とす る強取 を認 め るこ とにな る (参の前提 には,強盗罪 を,加 重暴行 ・脅迫罪 と して しま うので はないか とい う疑 問が残 る75)。また,松 宮教授 も,窃盗 は既遂 で なければな らない とされ る76)。 これ は,窃盗 未 遂犯 人 が, 逮捕免脱 ・罪跡 隠滅 目的で暴行 ・脅迫 に出ただ
けで強盗罪 の重い刑 で処罰 され る等 の帰結 を回 避 す るた めで あ り77), こ こに は,確 か に,正 しい認 識 が含 まれ てい る よ うに思 われ る78)0 しか し,窃盗未遂犯人 が,窃盗 は既遂 だ と誤信 して暴行 に出た場合 , これ は,犯人 が故意 を も って,事後強盗罪 の構成要件該当行為 をすべ て 行 ったが,た また ま既遂 に至 らなか っただけで あ るか ら, この場合 を も,事後強盗罪 の処罰範 囲か ら除外す るこ とが妥 当で ある とい えるか に は, なお疑 問が残 る79)。
2
窃盗 の機会 の継続 の意義 につい て (1)本稿 の見解次 に,窃盗 の機会 の継続 について見 るこ とに したい
。2 3 8
条 には,窃盗 の機会 の継続 とい う 文言 はない が,判例 ・学説 は, これが事後強盗 罪 の成立要件 で あるこ とを,一致 して認 めている80)0
本稿 の立場 か らも, この要件 は当然 に必要 で あ り, また,本要件 は,暴行 ・脅迫 時 におけ る, 財産 的 な被侵害法益 (拡張 された 占有 ‑占有 の 即 時的回復 の可能性) の存在 を基礎づ け る もの
として要求 されてい る と説 明す るこ とにな る。
暴行 ・脅迫 が窃盗 の機 会 の継続 中に行 われた と い うこ とは,暴行 ・脅迫 に よって, 占有 の即時 的 回復 の可能性 が侵害 された (また は,侵 害 の 危 険が生 じた) とい うこ とで あ り,逆 に,窃盗 の機会 の継続 が認 め られない とい うこ とは,秦 行 ・脅迫 が,単 な る暴行 ・脅迫以上 の法益侵害 を もた らさなか った とい うこ とで あ る。近 時 の 最 高裁判 例 が示 した,「被 害者等 か ら容易 に発 見 されて,財物 を取 り返 され, あ るい は逮捕 さ れ得 る状況 が継続 してい た」 か否 か とい う判 断 枠組 みは,被害者側 にお け る, 占有 の即 時的 回 復 の可能性 の存否 (まだ取 り返す チ ャ ンスが あ るか香 か) を, 目的 要 件 に即 して
8
1),犯 人 側 に視 点 を置い て表現 した もの (まだ取 り返 され る虞 れ が あ るか 否 か) と理 解 す る こ とに な る82)0
機 会継続性要件 に関す る問題 点 は数 多 くあ る が,以下 で は, その うちの主 な ものについ て, 若干 の検討 を加 えてみ るこ とに したい。
( 2)
理論 的問題 の検 討 ア 目的要件 由来説まず,機 会継続性要件 に関す る理論 的 な問題 を,三 つ取 り上 げてみ るこ とに したい。
一 つ 目は,窃盗犯人 に よる暴行 ・脅迫 が,窃 盗 の機会継続 中に行 われ なければな らない のは なぜ か, とい う問題 で あ る。 これ につい て, あ る見解 は, それ は,窃 盗犯人 が
,2 3 8
条 が規定 す る目的 を もってい なければな らない か らで あ る と説 明す る83)。しか し,窃盗犯人 が,財物 の取還 阻止等 の 目 的 を,例 えば,窃盗 の 1年後 に もっ こ とがで き るこ とは明 らかで あ るか ら, この見解 は,妥 当 で はない よ うに思 われ る。 この批判 に対 す る反 論 として は,上 の例 の場合,窃盗犯人 は
2 3 8
条の意味で の 目的 を もってい た こ とにはな らない, とい うものが考 え られ るが, そ うす る と
,2 3 8
条 の 「目的」 は,言語 的 な意味 に対す る何 らか の制約原理 をその外部 に もってい るこ とにな る。
3 4
事後 強盗罪 の根拠 と解釈それが,機会継続性要件 なのではないか と思 わ れ る。
イ (暴 行 ・脅 迫)‑ (強 取)/ (窃 取) ‑
(暴行 ・脅迫)パ ラ レル論
二 つ 目は,機 会継続 性要件 を,「強盗罪 にお ける暴行 ・脅迫 と強取 との間に要求 され る客観 的 な関係 に対応 す る もの」84),「窃 盗 と暴 行 ・ 脅迫 との間に存在 しなければな らない 内的 な関 係」85)と理解す るこ との当否で ある。 この理解 は,強盗罪 における,(暴行 ・脅迫)‑ (強取) 間 の関係 と,事後強盗 罪 にお け る,(窃盗) ‑
(暴行 ・脅迫) 問の関係 とはパ ラ レルで あ るは ずだか ら,前者 の関係 を明 らかにす るこ とに よ って,後者 の関係で ある機会継続性要件 の内容 を明 らか にで きるはずで ある, とい う形 で,撹 会継続性要件 の解釈論 と結 びついてい る。
しか し, まず, このパ ラ レル性 の前提 に,読 理的 にはあ り得 る とい う以外 に, どの ような根 拠 が あ るのか は明 らか で はない86)。 また, こ の前提 を採 った として も,窃取 が暴行 ・脅迫 に 先行 してい る事後強盗罪 におい て,「強盗罪 に おける暴行 ・脅迫 と強取 との間 に要求 され る客 観的 な関係 に対応す るもの」が何 で あるかが直 ちに明 らか に な るわ けで もない87)。結局 の と ころ,上記 の理解 は,機会継続性要件 の解釈論 にひ とつの出発点 を与 えるもの して意味がある に過 ぎず, その有効性 は,かな り限 られてい る ように思 われ る88)89)0
り 危険性説
三つ 目は,機会継続性要件 は,窃盗犯人 の危 険性 の存在 を基礎 づ け る要件 で あ る とす る見 解90)の当否 で あ る。 この見解 を採 る論者 の多 くは,事後強盗罪 の根拠論 に関 して人身保護説 を採 ってい るが,人身保護説 に問題 がある と思 われ るこ とは,すで に述べた通 りなので, ここ では繰 り返 さない。注 目され るのは,人身保護 説 を否 定 し91),拡 張1項 強盗 罪 説 を採 用 され つつ, なお,機会継続性要件 を窃盗犯人 の危険 性 と関連づ けてお られ る林教授 の見解 である。
教授 は,次 の よ うに述べ られ る。
「事後強盗罪 は,窃盗 直後 に生 じる,暴 行 ・ 脅迫が行 なわれ る重大 な危険 を抑止す るこ とを
目的 とす るか らには, その ような重大 な危険の 実現 として生 じた場合 を機会継続性 の内容 と規 定す るべ きもの と考 える.相 当因果関係 の内容 として,近時 『危険 の実現』 とい う枠組 みが示 され るこ とが多いが,機会継続性要件 はそれ を 超 えた,窃盗 『直後 の重大 な危険の実現』 とい う関係 を内容 とす る もので なければな らない の で ある。」92)
林教授 の この見解 は,教授 自身 は,事後強盗 罪 と強盗罪 との共通性 を主張 してお られ るもの の93), そ の基 本 的 な部 分 に おい て,人 身保 護 説 に きわ めて接 近 してい る よ うに見 える94)。 林教授 が, この よ うに,機会継続性要件 に,人 身保護 を限界づ け る要件 としての役割 しか振 り 分 け られな くな った理 由は,教授 が,1項強盗 罪 と事後強盗罪 との競合 を否定 された上 で,1 項強盗罪 は,窃盗既遂後 も財物 の確保 までは成 立 し得 る とされた こ と, この反面 として,事後 強盗罪が,窃盗既遂 のその更 に後 の時点で ある 財物 の確保以後 (暴行 ・脅迫 に よる財産的法益 の侵 害 をほ とん ど観 念 し得 な くな った時 点以 後) に しか成立 しない こ ととな った こ とにある が95),1項強盗罪 が,窃盗 の既遂後 も,財物 の 確保 まで は成立 し得 る とい う林教授 の前提 には, なお,検討 の余地 が あるよ うに思 われ る96)。
( 3)
実践的問題 の検討ア 認識説 と事実説
次 に,す で に何度 か触 れ た,平成
1 4
年決定 お よび平成1 6
年判 決 の事件 (以下 で は,便 宜 的 に,「天井裏 事件」,「公 園事件」 とい う) を 主 な素材 として,機会継続性要件 に関す る, よ り実践的 な問題 を,い くつか取 り上 げてみ るこ とに したい。まず,機会継続性要件 が,事実的 な要件 で あ るのか, それ とも, まだ窃盗 をや ってい る最 中 で ある, あるい は,窃盗被害 に遭 ってい る最 中 で ある とい う,犯人 ない し被害者側 の認識 をそ
の内容 とす る,主観 的 な要件 で あ るのか につい て検討 を加 える。
後者 の よ うな考 え方 は,限定 的 な形 でで はあ るが97),例 えば,次 の
3
判 例 に見 られ る。す なわ ち,天井裏事件 の‑審 判決98)は,機 会継 続 性 を否定 したが, そ こで は,「単 に当座 寝泊 ま りす る場所 を確保 す るた めに天井裏 に潜 んで い た にす ぎない こ と,警察官 の逮捕行為 当時, 本件指輪 の窃盗 の事 実 は被害者 に も警察官 に も 一切判 明 してい ない状況 にあ った こ と」 が考慮されてい た。 同事件 の控訴審判決99)は,逆 に, 機 会継 続 性 を肯定 したが, そ こで は,「本件窃 取行為 を終 えた後 において も,盗 品で あ る右指 輪 を所 持 しなが ら窃 盗 の現 場 で あ る
A
方居 宅 内に とどま り続 け, その間更 な る窃盗 の犯意 を 持 ち続 けてい た こ と」 が指摘 されてい る。 さら に, 同 じく機会継続性 を肯定 した公 園事件 の控 訴 審 判 決100)に おい て は,「被 告 人 が 引 き返 し たのは, 当初 の窃盗 の 目的 を達成す るた めで あ った とみ るこ とがで きる。一方,家人 は,被告 人 が引 き返 して玄 関 の扉 を開 けす ぐに これ を閉 めた時点で,泥棒 に入 られた こ とに気付 き,梶 棒 が逃 げて行 った として追 った もので あ る。」こ とが, その根拠 として指摘 されてい る。い ず れ の判決
も
,上記 の限度 では,窃盗 の機会 の継 続 を,窃盗犯人 や被害者 が,窃盗 が継続 中で あ る と認識 してい るこ とで あ る と理解 してい ることにな る。
学説 は, この よ うな理解 に概 ね批判 的で あ る が101),本 稿 の 立 場 (機 会 継 続 性 要 件 を,秦 行 ・脅迫時 におけ る,被侵害法益 の存在 を基礎 づ け る要件 で あ る とす る) か らも,上記 の よ う な犯人 ない し被害者 の認識 の有無 は, 占有 の即 時的 回復 の可能性 の有無 ・程度 に影響 を及 ぼ さ ない 限 り,機会継続性 が認 め られ るか香 か とは 関係 が ない こ とにな る。
イ 個別 的問題
( ア)
問題 の整理この よ うに,機会継続性要件 の内容 が客観 的 な事実 で あ る とす る と,次 に問題 とな るのは,
これ を認定す るに当た って, どの よ うな事実 に 着 目すべ きかで あ る。主 に議論 されてい るのは,
① 時 間 的 ・場 所 的接 着 性,(
参11
現 実 の追及 の 有 無,②‑ 2
追及 の可 能 性 の有 無,③ 犯 人 の意 思 内容, をそれ ぞれ考慮 す るこ との当否 につい て で あ るが,以 下 で は, これ に加 えて,④ 暴 行 ・脅迫以前 に財物 が回復 されてい た場合 に, これ を考慮す るこ との当否 につい て も,検討す るこ とに したい。(イ) 時間的 ・場所 的接着性 を考慮 す るこ との 当否 につい て
まず,① 時間的 ・場所 的接着性 に関 しては, 機会継続性 を肯定す る根拠 として,重要 で はあ るが,必ず しも決定 的で はない とい う認識 が, 判 例 ・学説 上,一 般 的 で あ り102),本 稿 もこれ に賛成 で あ る。本稿 が問題 にす る占有 の即時的 回復 の可能性 は,一種 の 占有 で あ るか ら,一般 の 占有 と同 じ く,時 間的 ・場所 的制約 に (ち) 大い に服す るか らで あ る。
なお,天井裏事件 に関連 して は,仮 に犯人 が 暴行 に及 ん だのが,窃盗 の
1
日後 だ った よ うな 場合 に,機会継続性要件 の充足 が認 め られ るか とい う問題 もあ り, 多 くの見解 は, これ を否定 してい る103)。機 会継 続 性 に認 め られ る この よ うな制約 は,本稿 の立場 か らは,機 会継続性 の 実体 が,一種 の 占有 で あ るこ と, そ して, 占有 が,事実的 な側面 と共 に,社会通念 に よって決 せ られ る規範 的 な側 面 を も有 す るこ と104)に由 来 す る もので あ る と説 明す るこ とにな る。(ウ) 現実 の追及 の有無 を考慮 す るこ との当否 につい て
次 に,②
‑ 1
現 実 の追及 の有 無 を考 慮 す る こ との当否 について,検討す るこ とに したい。 こ こで の問題 は,窃盗 と暴行 ・脅迫 との間 に,追 及 (財物 の取還 ない し犯人逮捕 の試 み) が され てい なか った部分 が あ るこ とのゆ えに (天井裏 事件 で も公 園事件 で も,犯人 は,窃盗直後 に発 見 ・追及 されてい た わ けで は なか った),機 会 継続性 が否定 され るこ とにな るか香 かで あ る。学説 の多 くは, その理 由は様 々で あ る ものの,
3 6
事後強盗罪の根拠 と解釈天井裏事件 につい て窃盗 の機会 の継続 を肯定 し た平成
1 4
年決定 の結論 を支持 してい るか ら105), 窃盗直後 か らの現実 の追及 は,機会継続性 が認め られ るた めの必須 の要件 ではない と考 えてい るこ とにな る。本稿 の立場 か らも,窃盗直後 か らの追及 は不要で あ る (天井裏事件 が まさにそ うで ある よ うに,窃盗直後 か らの追及 が な くて ち, 占有 の即時的回復 の可能性 が認 め られ る場 合 はあ り得 る)0
これに反 して,金津教授 は,窃盗直後 か らの 追及 を要 求 され る よ うで あ る106)。事 後強 盗 罪 の違法性 の実質 に関す る金津教授 の理解 は107), 本稿 ともか な り近い よ うに思 われ るが, これ を 前提 としつつ, なぜ,窃盗直後 か らの追及 が必 要 で ある とい う結論 に至 るのか は,必ず しも明 らかで はない。強盗罪 の場合,抵抗 してい る被 害者 の占有 と,無抵抗 の被害者 の 占有 とは,等 し く保 護 され るので あ るか ら108),事 後強 盗 罪 におい て も,窃盗直後 か ら追及 してい る被 害者 と, そ うで ない被害者 との間に,保護 の厚 さの 違 い を設 け る理 由はない ように思 われ る。
匡) 追及 の可能性 の有無 を考慮 す るこ との当 否 につい て
次 に,(
参‑ 2
追及 の可能 性 の有 無 を考慮 す る こ との当否 につい て,検討す るこ とに したい。ここでの問題 は,窃盗終 了時点 において,窃盗 の被害者 (等) が,犯人 を追及 で きる客観 的 な 可 能 性 (「客 観 的 な追及 可 能 性」109))が認 め ら れ ない よ うな場合 に も, なお,機 会継続性 を肯 定 す る余地 が あ るか とい う問題 で あ る110)。 こ
の よ うな問題 が論 じられ るのは,窃盗犯人 の犯 行直後 の危 険性 は,追及可能性 の存否 とは必ず しも関係 が ない た め111),人身保護説 に立 って, 機会継続性 の内容 を,窃盗犯人 の危険性 で あ る
とす る場 合 に は,特 殊 な ケ ースにおい て112), 不 当 と思 われ る結論 が導 かれて しま うか らで あ
る。
しか し, ここで の不 当 な結論 の原 因は,人身 保護説 の検討 に際 して述べ た よ うに,根拠論 と して の人身保護説 にあるので あ って, この問題
は,客観 的 な追及可能性 を機会継続性 の要件 と す るこ とに よって解決 され るべ きもので はない。
仮 に,客観 的 な追及可能性 が機会継続性 の要件 で あ る とす る と,例 えば, (非 現 実 的 な設例 で はあ るが)訪 れ る人 のい ない 山奥 の一軒家 に暮 らす植物状態 の人 の家 に, それ と知 らず に忍 び 込 んだ窃盗 が,窃盗後,起 きて騒 がれた ら面倒 だ と考 えて,被害者 を殺害 した場合 に,事後強 盗 殺 人 罪 の成 立 を否 定 す る こ とに な りか ね な い113)。本稿 の立場 か らは,上 の例 で は,機 会 継続 性 が肯定 され るが, それ は,先 に も述べ た よ うに,本稿 が問題 にす る占有 の即時的 回復 の 可能性 が,一種 の 占有 で あ り, そ うで あ る以上, 一般 の 占有 と同 じく,普通 に眠 ってい るだ けの 人 に も,孤 立無援 の植物状態 の人 に も,等 しく 認 め られ るべ きだか らで あ る114)。
もっとも,窃取 された財物 が消失 した こ とに よって, 占有 の即時的回復 の可能性 が客観的 に 認 め られ な くな った場合 には,事情 が異 な る。
物理 的 に存在 しない ものについて一般 の 占有 が 存在 し得 ない以上 , 占有 の即時的 回復 の可能性 ち, これ を認 め るこ とがで きない か らで あ る。
天井裏事件 の犯人 は,被害者 の焼酎 を飲 ん だ り, 煎 りゴマ を食べ た り, さらには電気窃盗 まで犯
してい るが,本稿 の立場 か らは,仮 に, 同人 が 指輪 を盗 んでお らず, これ らの飲食等 しか して い なか ったので あれば,機 会継続性 を, ひい て は,事後強盗罪 の成立 を肯定 で きない こ とにな る115)。人 身保 護 説,拡 張
2
項 強 盗 罪 説 の立場 か らは, ここで も事後強盗罪 の成立 を肯定す る こ とに な る と思 われ るが116),す で に述 べ た通 り, これ には疑 問が ある。(オ) 犯人 の意思 内容 を考慮 す るこ との当否 に つい て
次 に,③ 犯人 の意思 内容 を考慮す るこ との当 否 につい て検 討す る。 この議論 のひ とつ の契機 は,屋根裏事件 の控訴審判決 が,機会継続性 を 肯定 す る根 拠 と して,被 告人 が
,
「本件 窃 取行 為 を終 えた後 におい て も,盗 品で あ る右指輪 を 所 持 しなが ら窃 盗 の現 場 で あ るA
方 居 宅 内 にとどま り続 け, その間更 な る窃盗 の犯意 を持 ち 続 けていた こ と」 を挙 げていた こ とで ある117)0 多 くの見解 は,機会継続性 は,すで にな された 窃盗 と暴行 ・脅迫 との問の問題 である として こ れ に批判 的で あ るが118),本稿 の立場 か らは, 犯人 の意思 内容 は, 占有 の即時的回復 の可能性 の有無 ・程度 を左右 しない場合 には意味がな く, 逆 の場合 には意味が あるこ とになる。
例 えば,天井裏事件 では,犯人 は,被害者 の 支配領域 内で ある家屋 の中の,す ぐ見つか る よ うな天井裏 に隠れていたのであるか ら,犯人 の 意思内容 の如何 に拘 わ らず, 占有 の即時的回復 の可能性 は肯定 され119),従 って,犯人 の意 思 内容 を考慮す るこ とは無意味である120)。
他方,公 園事件 で,仮 に,犯人 が,財布 とと もに純金 のイ ンゴッ トを大量 に見つ け, とりあ えず財布 を盗 って, さらに, イ ンゴッ トを運搬 す るために,公 園に駐 めておいた 自動車 を取 り に行 った とい うので あれば,犯人が再 び戻 って
くる可能性 は相 当に高度 で ある とい える。 この 場合 には,犯人 が現場 を離脱 して公 園 まで を往 復 して くる間に も, 占有 の即時的回復 の可能性 は持続 的 に肯定 され るか ら121),犯 人 の意 思 内 容 を考 慮 す る こ とに は意 味 が あ る こ とに な
る122)
。
(カ) 財物 の回復 を考慮す るこ との当否 につい て
最後 に,④暴行 ・脅迫以前 に財物 が回復 され ていた場合123)に, これ を機会継続性 の判 断 に 際 して考慮す るこ との当否 について検討す るこ
とに したい。
まず,多 くの見解か らは,財物 の回復 と機会 継続性 とは無 関係 で あ って, この ような考慮 は 認 め られない こ とになる と思 われ る。す なわち, 事後強盗罪 の根拠論 として人身保護説 を採 る場 合 には,機会継続性 は,窃盗犯人 の特別 の危険 性, ない しは,その反面 としての人身保護 の特 別 の必要性 を限界づ ける要件で あるか ら,財物 が回復 されれば窃盗犯人 は危険でな くなる とい う前提 を採 らない限 り,財物 の回復 は,機会継
続性 とは無関係 とされ るこ とにな る124)。 また, 根拠論 として拡張強盗罪説 を採 る場合 に も,窃 盗犯人 の危険性 を,強盗拡張 の根拠 とす る場合 には,同 じ結論 になるであろ う。
しか し,窃盗犯人 の危険性 を事後強盗罪 の根 拠論 に取 り込む こ とに疑問が あるこ とは,すで に述べ た通 りで ある。機会継続性 は, 占有 の即 時的回復 の可能性 の存在 を基礎づ1ナるもの とし て要求 されてい る と考 える本稿 の立場か らは, 窃盗 の被害品が回復 された場合 には, 占有 の即 時的回復 の可能性 が, これ を観念 し得 な くなる とい う意味で消滅す るか ら, この反面 として, 機 会継続 性 が否定 され るこ とにな る125)。学説 には,窃盗が未遂 で ある場合 や犯人 が財物 を放 棄 した場合 に,暴行 ・脅迫 に よる財産的法益侵 害 の発 生 を疑 問視 して126),未遂 を含 めて,辛 後強盗罪 の成立 をお よそ否定す る見解 が見 られ るが127), こ こには,正 しい ものが含 まれてい るように思 われ る128)。
3
暴行 ・脅迫 お よび 目的要件 について 次 に,暴行 ・脅迫 お よび 目的要件 の意義 につ いて考 えてみ るこ とに したい。まず,事後強盗罪 の成立要件 で ある暴行 ・脅 迫 の意義 について,判例 ・通説 は,強盗罪 のそ れ と同 じで あ る と考 えてお り129),事後強盗 罪 固有 の法益侵害 は,一種 の拡張 された 占有 の強 取で ある と考 える本稿 の立場 か らも,何 ら異論
はない。
また, 目的要件 が設 け られてい る趣 旨や, そ の理論的 な性質 について は, それほ ど議論 が盛 んではないが,先行す る窃盗 と暴行 ・脅迫 との 密接 な関連性 を主観面で要求す る もので ある と す る見解 や130),責任要素 で あ る とす る見解131), 取還 阻止 目的は故意 と同 じで あ り,逮捕免脱 ・ 罪跡隠滅 目的 は責任 要素 で あ る とす る見解132)
が存在す る。
本稿 の立場 か らは,取還 阻止 目的 は,一種 の 故意 (暴行 ・脅迫 が 占有 の即時的回復 の可能性 を侵害す るこ との認識) で あ り,逮捕免脱 ・罪
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事後強盗罪 の根拠 と解釈跡隠滅 目的は,一種 の未遂故意 を規定 した もの で ある と説明す るこ とにな る。
後者 について若干補足す る と,窃盗未遂犯人 が 自己の窃盗 が未遂 に終 わ った こ とを認識 して い る場合,暴行 ・脅迫時 に犯人 が認識 してい る のは,せいぜい,事後強盗未遂 に当た る事実で あ る133)。 しか し,未遂 罪 の成 立 には既遂故意 が必要 で あ るか ら134), この ままで は,事 後強 盗未遂罪 の成立 を肯定す ることがで きない (さ
らには,不法領得 の意思 の不在 も,未遂罪 の成 立 を妨 げ る)。立法者 は, この事 態 を回避 す る ために,未遂故意 をその内容 とす る逮捕免脱 ・ 罪 跡 隠滅 目的135)を
23 8
条 に規 定 して136),辛 後強盗 (未遂)罪 の成立 には,未遂故意で足 りるこ とを明 らかに した と考 える とい うこ とであ る137)
。
以上 の説明は, もち ろん, フィクシ ョンに過 ぎないが, この ような説明 は,本稿 の ような見 解 を採 った場合 に限 って必要 にな るわけではな い。窃盗 が未遂 に終 わ った こ とを認識 しつつ暴 行 ・脅迫 に出た窃盗犯人 に も,事後強盗未遂罪 の成立 を肯定で きる とい う判例 ・通説 の結論 自 体 が,実 は, それほ ど当た り前 の こ とではなか
った ように思 われ る138)。
4 事後強盗罪 の未遂
最後 に,事後強盗罪 の既遂 ・未遂 の区別 につ いて,簡単 に見てお くこ とに したい。
判例 ・通説 は,両者 の区別 は窃盗 の既遂 ・未 遂 に よる として お り139),本稿 も, これ に異論 はない。窃盗行為 に よって惹起 された法益侵害 ち,事後強盗罪 の法益侵害 の構成要素である と 考 える以上,窃盗行為 に よる占有侵害が現実 に 起 こったのか, それ ともその危険に とどまった のかの違い は,違法評価 を大い に左右す る と思 われ る し140),すで に検討 した よ うに141),事後 強盗罪が強盗 として論 じられ る鍵 は,先行す る 窃盗 である と考 えられ るか らで ある。
なお,本稿 の立場 か らは,窃盗 が未遂で確定 した時点で,暴行 ・脅迫 の被侵害法益 である占
有 の即時的回復 の可能性が (ひいては,機会継 続性 も)存在 しな くなるに至 るか ら,暴行 ・脅 迫 を加 えた として も, もはや,事後強盗未遂罪 の構成要件 的結果 (事後強盗罪が既遂 に至 って いた危険) の発生 を肯定 で きない ので はないか とい う疑問 もあ り得 る。 しか し,少 な くとも, 窃盗 と暴行 ・脅迫 とが連続的 に行 われた場合 に は142),窃盗 が既 遂 に達 してい た危 険が肯定 さ れ る以上,窃盗 が既遂 に達 し, それに引 き続い て行 われた暴行 ・脅迫 に よって 占有 の即時的回 復 の可能性 が侵害 されていた危 険 もまた,肯定 可能 であろ う143)144)0
窃盗 が未遂 である場合 に事後強盗未遂罪 の成 立 を肯定す る上 での障碍 は,む しろ,故意で あ る と思 われ る。窃盗犯人が,窃盗 は既遂で ある と誤信 してい る場合 につい て は145),特 に問題 は ない が146), これ に反 して,窃 盗犯 人 が,窃 盗 が未遂 に終 わ った こ とを認識 してい る場合 に は, 目的要件 に関 して,前項で示 した ような解 釈 を採 る必要が ある と思 われ る。
Ⅳ おわりに
以上,事後強盗罪 の根拠 お よび解釈 について, やや立 ち入 った検討 を加 えて来 たが,判例 には あ ま り言及 で きず,共犯 の問題 には まった く触 れ るこ とがで きなか った。 これ らについては, 機会 を改 めて考 えてみ るこ とに したい。
注
1) 最 決 平
1 4・1 2・1 4
刑 集5 6
巻2
号8 6
頁,最 判乎1 6・1 2・1
0刑集5 8
巻9
号1 0 4 7
頁。2 ) 2 3 8
条 の文 言 自体 か らは,
「窃 盗」 に窃 盗 未 遂 犯人 や窃盗 の従 犯 が含 まれ るか香 か は,判 断で き ない。 また, 同条 所定 の 目的 も,主観 的 に これ を 有 してい れ ば足 りるのか, それ とも, これ を裏付 け る客観 的 な状況 が必要 で あ るのか も,不 明で あ る。機会継続 性要件 に至 って は, そ の意義 は も と よ り, その必要性 さえ,必然 的 には導 くこ とがで きない。3) 根拠論 を よ り意識 しつつ事後強盗罪 の解釈論 を 展 開 しよ うとす る比較 的最近 の論 考 として,例 え ば,林 幹 人 「事 後 強 盗 罪 の新 動 向
」
『判 例 刑 法』( 2 0 1
1年)3 4 8
頁,十河 太朗 「事後強盗罪 の本質」同志社 法 学