論 説
越 権 訴 訟 の 訴 の 利 益 に 関 す る 一 考 察
iーフラソスにおける﹁国民(住民)代表制の原則﹂一Φ嘆圃鵠o号Φ血①H8鼠ωΦ駆一緯δ昌と納
税者︑地域住民の原告適格ー‑
村 上
順
越権訴訟の訴の利益に関する一考察
目次
はじめに
一﹁直接的かつ個人的利益﹂冒鳳噌簿a﹁①∩梓oけ"︒﹁・︒oコ50一
二﹁共同利益﹂ぎまみ峠8滞葺竃の観念の登場
むすびにかえて
はじめに の観念の支配
現在各地に生起している公害・環境訴訟事件は︑違法な行政活動を争う地域住民の原告適格の許否を主たる争点に
して論議されてい郁そして・この問題をめぐる通説・判例の立崇︑いわゆる﹁法律上保護に値する利益説﹂にあ
り︑多くの場合︑この説は地域住民の原告適格を限定する論理として働いていることは周知の通りである︒すなわ
ち︑この考え方は︑原田尚彦教授の要約するところによれば次の様なものである︒
Cz)
1
﹁⁝⁝つまり︑具体的な公権私権への直接的侵害を云々することなく︑行政活動を規制する法規範ーこれを行政行為規範と呼
ぶiーに着目して︑それがもっぱら公益保護を目的とする規定なのか︑それとも特定範囲の個か伽称益鼻謁をも目的としている
のかという法目的を基準にして判断し︑原告が原告個人の保護規定違反を主張しているのならば︑法律の保護法益を主張するも
のとしてこれに訴・兄の利益を認める反面︑公益規定ないし第三者の保護規定の違反のみを主張しているにすぎないときには・原
告はたと︑兄違法な処分にょり事実上不利益な影響をうけようとも︑それは反射的利益の侵害にすぎないとの理由で・訴えの利益
コ を認めない︑との考︑兄方をとるのである︒﹂(引用中の傍点は村上︒以下本稿においてすべて同じ)
そして︑この様な﹁法律上の利益﹂と﹁反射的利益﹂︑あるいは端的に﹁公益﹂と椚個人的利益(私益)﹂の二元論
的発想の背景に︑公益の実現をその固有の権限とする﹁行政権﹂の観念が控えていることが指摘されるのである︒す
なわち︑この﹁行政権﹂は︑﹁公益目的の実現という︑個人の利益とは質的に異なった︑多くの場合には相対立する
ものを立日心図﹂する存在であったこと︑従って隔およそ行政法は公益目的の実現のための法であるということから・本
来︑特別の場ム・を除くほか︑行政法が個人の利益を直接に保護する芸権を賦与するン﹂とはないと壷搬Lたこと
である︒
かくて︑当該行政行為規範によって︑公権あるいは﹁法律の保護する利益﹂を設定された者でない限り・裁判所に
おいて︑侵害された権利.利益の回復を求めえない︑という論理が生ずるのである︒
本稿は︑わが国になお支配的なこの﹁公益﹂と﹁個人的利益(私益)﹂の二元論を批判する予備的作業として・早く
からこのドグマを克服し︑原告適格の拡大を達成しえたフランスの判例を︑主として納税者︑地域住民の原告適格が
法認されるまでの経緯を中心に紹介することを目的とす駈㌍
(1)この問題を取り扱うものとして︑兼子仁.﹃行政争訟法﹄二九七頁以下︑同・﹁都市住民権の研究⁝i行政法を素材として﹂(都市研究報告 2
C2)
越 権 訴 訟 の 訴 の 利 益に 関す る一 考 察
四九号)︑原田尚彦・﹃訴えの利益馳所収の諸論文︑田村悦一・﹁地域住民及び地域団体の法的地位とその保障‑判例に対する若干の疑問﹂
(立命館法学一九七五年一.二号)︑田中館照橘・﹁行政事件における地域住民の原告適格﹂(法学セミナー一九七二年二・三号)︑金子正史・
﹁行政の行為に関する訴訟の原告適格lI特に地域住民の原告適格を中心として﹂(判例評論一七〇・一七四号)等がある︒
(2)原田尚彦・﹁行政事件訴訟における訴えの利益﹂(公法研究三七号)九〇頁︒
(3)田村悦一︒﹁権利概念の変遷と行政事件訴訟︿総合判例研究V﹂(﹃行政訴訟における国民の権利保護﹄所収)一三八・=二九頁︒同じくこ
れを指摘するものとして︑高柳信一.﹁生活権思想の展開(﹃現代都市政策Vシビルミニマム﹄所収)四五頁︒すなわち︑いう﹁わが国の行
政法理論においては︑私法は市民間の利益(私益)の調犠に関する法であるが︑行政法(公法)は市民の利益とは無関係の公益の実現に関す
る法であるとされる︒国家は市民社会の上に在り︑市民社会の法益とはことなる独自の法益を追求する︒そこで︑行政とは︑このような国家
に固有の公益の実現のための利益の制限・侵害として把握されることになる︒﹂
(4)フランスにおける越権訴訟の訴の利益の問題を考察するものとして︑わが国にすでに次の文献がある︒広岡隆・﹁民衆訴訟としての越権行
為取消訴訟﹂(渡辺宗太郎還暦寵念論文﹃公法学の諸問題﹄所収)四五五頁以下︒同・﹁環境保全と越権訴訟﹂(一円一億博士還暦記念論文
﹃憲法と環境問題﹄所収)四三頁以下︒雄川一郎︒﹁訴の利益と民衆訴訟の問題ー主観的訴の利益の拡大とその限界に関する一般理論への試
論﹂(田中二郎古稀記念論文﹃公法の理論中﹄所収)一二六七頁以下︒
なお︑フランスにおける越権訴訟の訴の利益に関する判例はこれまで比較的詐しく紹介されることが少なかったので︑本稿では︑資料的に
重要と思われる判例は︑なるべくこれを掲記することにした(他に本稿で取り上げることができなかった判例で重要なものについては︑広岡
・﹁環境保全と越権訴訟﹂前掲轡収録の判例参照︒)︒
なお︑本稿の執筆にあたっては次の文献を参照した︒
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3
4
一 ﹁ 直 接 的 か つ 個 人 的 利 益 ﹂ 凶臣 曾 蝉 臼 器 9 簿 需 屋 0 5 旨 Φ 一 の 観 念 の 支 配
↓一九世紀行政判例における越権訴訟の訴の利益
コソセイユ︑デタ08ωo一一α︑卑舞は︑一九世紀全般を通じて︑越権訴訟の訴の利益の要件として︑椚直接的かつ個
人的利益﹂の援用を要求した︒
この要件を現実に楚させえたものは︑土地所有権に匹敵する強い具体性と実定性を持つ主観的権利塁︑の遡.で
あり・単なる地域住民の資格で出訴し︑原告適格が認められたのはか乞権利を援用する場A・に限定されていた︒た
とえば︑
n享ユス三ール事件(︒国為冨コこ・⁝ω樋冨きω・・薯脚∪巴一︒旦・.・︒鳶目δー原告が・〆︑の所有する土地に建物
を新築するために境界画定藷§・霧の許可を知芝申弛℃たところ︑当該土地は︑すでに適法猛認された境界画定計画に
葵っく街区延長によって・土地収用対象区域に編入されおわっているという理由で申請を却下されたのに対し争った事例︒コン
セイユ・デタは︑﹁問題の土地は︑街区延長の執行のために︑収用が必要な土地の一部である旨の指定を未だ適法に受けてはお
らない﹂として︑知事の主張を却け︑原告の請求を認容した︒
したがって・単なる地域住民の資格での出訴はいうにおよばず︑それより何らか特定的な納税者︑馨人の籍で
の原告適格も認められるところとはならなかった︒すなわち︑
住民訴訟が却下された事例として︑
幻リシャール氏事件(ρ団こωoヨ騨窃一Qo刈メ閑一〇ずβゆ﹁畠⁝︼)o=oN℃一◎o刈◎o・目層QQo)ー一八圭ハ年八月二六日︑オワーズ9ω︒ 県議会は・北部鉄道会社と知事との間に締結された契約を承認する議決を行・た.この契約の内窪︑北部鉄道会社が先に許可
{4)
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越 権 訴 訟 の訴 の利 益 に関 す る一 考 察
されたロワ男︒団①行の県境にあるサント・マクサンスω巴9や蜜舜︒寓oロ8橋の鉄道の建設を放棄する代りに他の新しい路線の開
発を認める︑というものであった︒リシャール氏その他の県の住民は︑越権震o窃αo宮享o貯を理由に県議会の議決を争う訴
を提起したが︑コソセイユ.デタは︑県が執行を放棄した鉄道路線開通によって︑交通の便その他の利益を期待したコミューヌ
の住民は︑結局︑﹁コ・︑ユーヌの住民一般の利益以外のいかなる利益も主張しておらず﹂議決を争う直接的かつ個人的利益はな
い︑として訴を却下した︒
(6)次に︑納税者訴訟が却下された事例として︑
固ゴーアイ罠事件(ρ尊弓二さ︒N唇く﹂︒︒刈︒︒馳3葺け醇⁝ド︒9p宰8刈)ーヴェルサイユ<Φ﹁.・き︒.・市の納税者であるゴー
ティェ氏は︑市財政の支出増の可能性を理由に︑市議会が民間の射撃場会社の負債返還の保証を約束した議決の達法を主張して
出訴した︒これは︑一定金額以上の市の債務負担行為には法律の根拠が必要なこと︑さらに議決に参加した議員の何名かが︑射
撃場会社の役員であったことによって︑議決の内容に利害関係を持つ議員は議決に加わりえないとした一八八四年四月五日の法
コ律六四条(後述E参照︒)に反することを理由とするものであった︒しかし︑コンセイユ・デタは︑ゴーティエ氏は︑議決の違
法を争ういかなる直接的かつ個人的利益も主張していないとして却下した︒
団カステ亥氏事件(ρ国こb︒b︒喜く﹂︒︒︒︒ρ9︒︒什︒超い①9pやαb︒)ーカステクス氏は・市の納税者の資格で・市議会
の議決の無効申立手続を定めた一八八四年四月五日の法律六五条(後述ヨ参照︒)を根拠に︑定足数を満足せぬまま行い・かつ 議決報告の市庁舎への掲示と議事録登載の要式性を怠ったサント・ユルシスQa鉱糞oとHo一諺o市議会の一八八五年度予算議決の
無効を主張して出訴した︒コンセイユ・デタは︑市の納税者は︑右の法律六五条が予定する出訴権者には該当しないとして訴を
却下した︒
最後に︑選挙人訴訟が却下された事例として︑
㈲ヴァル皇黍件(ρP・⁝⇔・⇔二︒・㎝ρ≦§頁常葺,︒・毬ーヴァルニ氏その他のアをンェξ苗の
C5)
5
選挙人は︑一八五一年八月一八日︑国防大臣が行った一定期間のアルジェ市議会の閉鎖と︑この市議会の職務を代行するアルジ
ェ県知事により任命される一〇人の構成員からなる委員会の設置を定めた命令卸﹁﹁⑪叡の違法を争った︒コソセイユ.デタは︑
原告は閉鎖される市議会の構成員の身分を援用するわけではなく︑単なる市の選挙人の名目では訴を付託する資格はないとして
請求を却下した︒
(5)霞0207︒やや鼻.もや壽︒二・︒ω・
(6)そのほか重要な判例として︑私立学校に補助金を支給する決定を行った市議会の議決に対する訴訟として︑切冨臨,0冨﹃Φ侍︒づ事件(O.国二一〇隷く﹂︒︒Φρピoげ︒9や一一刈)︑議員に特別賞与を支給する決定を行った市議会の議決を公務の無報酬性の原則に基づき争ったものとして︑
℃9ω︒・o⇒事件(O.国二一〇日碧︒︒一︒︒㊤︒︒︑∪巴ざ斜一︒︒ゆ心・日・ω㎝)がある︒
コニ﹁国民(住民)代表制の原則﹂の論理︹
この様に︑一九世紀行政判例は越権訴訟の訴の利益の要件として[直接的かつ個人的利益﹂の援用を一貫して要請
してきたわけであるが︑それでは︑単なる地域住民︑納税者︑選挙人の資格で援用する利益が︑この﹁直接的かつ個
人的利益﹂たりえないとして訴を却下されたのはいかなる理由に基づくものであろうか︒
ココルこれを明らかにするものが︑2事件の判旨および4事件の論告担当官oo白ヨδω巴器臼αqoロ<Φ﹃口ΦヨΦ韓マルグリ︹︹
iζ母αq器ユ①の論告080ピ︒︒ざ昌である︒すなわち︑
原告は︑﹁コミューヌの住民一般の利益琶貯叡3件富冨頓9傘巴一菰創窃冨ぼ富緊︒︒血①の60ヨヨ¢口Φω以外のいかなる利益も主
(7)張しておらず⁝⁝﹂
および
﹁原告は︑⁝⁝市の納税者一般に共通する利益一.冒ま﹃碑60ヨ日§位置窃q似昌仏同p一一ま脅ω8臣叶﹁凶9コoげ一Φ︒︒締一p8ヨ8§Φに基
(8)ついてのみ出訴するにすぎず⁝⁝﹂ 6
(6)
越権訴訟の訴の利益に関する一考察
これを琴るに︑判例において幾住民︑納税者︑選挙人の籍に基づく出訴が却けられた理由は・いずれも出訴
者 が 法 律 上 保 護 さ れ た 自 己 に 固 有 の ﹁ 個 人 的 利 益 ﹂ 暴 ⑪ § 書 辱 を 主 張 す る の で は な く て ・ 右 の 霧 に お い て .﹂ れ と は 諜 的 な コ 般 的 利 益 言 け似 ﹃ ゆ § § 菱 矯 し た に と ど ま っ た こ と に 求 め ら れ た の で あ つ (架
す な わ ち ︑ を る コ 般 的 利 益 L の 実 現 は ︑ ﹁ 国 民 袋 制 の 原 則 言 舞 星 ・ 器 ℃ 鐘 § £ 基 づ き ・ 国 民 意 思 を 体 現 す べ く 選 出 さ れ た 議 会 と ︑ 大 臣 責 任 制 書 尋 蒙 量 ・・ 梓仏 尋 に ょ り 議 会 に 従 属 し て 議 会 制 定 法 を
忠実に執行.具体化する政府(︑﹂の場A・︑政府は馨を通して間接的に国民を袋する立場にあるとされ臥遡に灌的に委ねられた事柄であって︑すでにをるこ般的利善の担い手(袋者菟器費・・)が確立されてあるのに・国民意思を反映しない︹行政︺裁判所援.て政府のコ般的利益Lに関する具体的藥を批判する時は・行政権と司潅の分離を定めた権力分立制(あるいは活動行政権と行政裁判権の分離の原則)に抵触するのみならず・姦決原理によって決せられた国民の懇と全体の利益を少数の者のエゴイズムのために踏みにじることになると懇されたことである.そし丁︑の論理は︑若干の制度的糞はあるが︑地方政治の楚おいても同じく﹁住民代表制﹂である,﹂とによって基本的に妥当する︒したがって︑政府ならびに自治体当局による二般的利益Lの響に対する監視と批判は・樗のコ般的利益﹂形成のルートである︑選薩.被選挙権の行使によるほか︑糞への藤︑(自治体当局に対する)直接請求・行政権への訴願等による奨.は格別︑裁判所への出訴によっては果されないと蟹れたことである・かくて・地域住民・納税煮u蒙人の籍に対するそれぞれの歴・適格の否定は︑端的に︑この﹁国民(住民)袋制の原則﹂に蘇づけられる.そして︑この麹は︑冗世紀末期におけるフランス行政法の最有力の学説によっても宣明されている.ω
すなわち︑eE.ラフエリエール国・卜麟冷竃帥酵oはいう︑7
﹁(越権訴訟の)訴の利益は覆的かつ個人的利益でなけれ窪らない.この利益は︑行政権は法適A.性(の原則の)枠内に制︑混同
限されてあるべきだ・ということについてすべての市民鉾2般的かつ並日遍的利苞ロ件仏.Φ仲・窺α訂価.騨写け陣ヨb︒.8昌昌Φ一と
されてはならない・なる利益は公権力への辻曝行わしめるためには充分でありえても︑裁判所への崇を正当化せしめるた
めには充分ではない・この様な訴訟は歴・固有の利益に根処つけることはできない.なぜならば︑一購利益を有する者は︑公
的性格を付与された袋煮蕃Φ三暴であり︑巣る私人は彼に袋る権利を持たないからである.﹂
そして︑地域住民の原告適格に関していう︑
﹁訴訟を提起しようとする者が・公衆の利益および住墨般の利益以外の利益を矯するのでなければ︑出訴籍なしとして
訴は鐘されない・事実この場合関わりA・いがあるのはその人個人ではなく︑その名において崇する畦の資格がある法的
袋看奢︒藝.・唇︒夏抱えるコーユ去︑市︑すなわち︑全体としての︹地方︺公共団体︒︒︒①︒二く一梓仙であるから蕩
る・換言すれば・︹地方︺公共団体の一部繕成するすべての人々はその個人的利益を援用して自己のために出訴することはで
きるが・彼等墜般的利擁護のために全体に代って出訴することはできないのである.彼等にはこれを擁護する使命は与えら
(13)れてはいない︒﹂
同じく︑納税者の原告適格に関しても︑
﹁コミューヌの住民同様納税者も・なる籍のみでは市財政と市有財産の良喜謬関する決定を争う訴の利蒙ない.
こ巷に関する決定が・納税者が親の形式で雰の霧を負わされる新たな負堤・︒︑︑去に課するためのものであるなら
ば・納税者の讐的利益は害されるであろうと主張しても無華ある.・ての様な利益は直端ではない.なぜなら︑その様な利
益は・袋看暴§器の有する市町村財政の利益に婆発するにすぎないからである.﹂
⇔同じくM・オウリュウ竃・工㊤ニユ︒信はいう︑
﹁いずれの社喬度も・そこに内在する欠陥を覆互定の無膠性の仮定から利益を得る場A・にしか良好撞営されえない.国民 8
Cs)