高校数学における「事例収集型ジグソー法」( ECJ 法)
―数学学習に関する学習過程モデルを理論的裏付けとしたジグソー法の一提案―
成 瀬 政 光
それから時代は移り,道路工学も進歩したわけですが,
数学には今もって 王道 はできていないようです*1.
1 はじめに
2017年2月に出された次期指導要領改訂の方針では「主体的・対話的で深い学び」の実現が求 められている.それを受け,現在はその達成に向けたさまざまな実践が重ねられている.それが実 現された実践は「アクティブラーニング」という語に集約されることが多く,近年の研究では,活 動内容や方法に注目が集まっている.その学習活動の方法の1つにジグソー法というスタイルがあ る.例えば東京大学CoREF(2017)では,次期指導要領の改訂の方針が出される以前より,三宅 らの研究を発端に,「知識構成型ジグソー法」(以下,KCJ法*2)を用いて「協調学習」を実現する ための研究を行っている.その一環として,埼玉県教育委員会(2017)は東京大学CoREFと連携 し,「学びの改革」を推進するための方法としてKCJ法を導入した実践を多く重ねている.こうし たジグソー法を用いた授業づくりのために,東京大学CoREF(2017)では,授業設計のための理 念や注意点は述べられており,このような観点は大変有用であると考えられる.しかしこうしたジ グソー法を用いた実践のほとんどは,生徒の数学の理解や学習過程モデルなどの理論的背景に触れ ていない.
そこで我々は高校数学へジグソー法を導入するにあたり,数学学習に関する学習過程モデルを理 論的裏付けとし,授業スタイル構成する.我々はこれまで,理論的に裏付けされたジグソー法の1 つとして「事例収集型ジグソー法」(以下,ECJ法*3)を提案した(成瀬(2016a)).本稿は,成
瀬(2016a)の議論に新たな視点を加え,ECJ法の構成について改めて詳細な議論を行うことを通
じて,ジグソー法に理論的裏付けをする1つのモデルケースを示すことを目的とする.
*1彌永昌吉(2013).『数学のまなび方』.筑摩書房,p.11.
*2Knowledge-Constructive Jigsaw method
*3Example Collecting Jigsaw method
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2 ジグソー法の一般的な流れ
ここでは,益川(2016)のまとめを参照し,ジグソー法について概観する.ジグソー法は1970 年代,社会心理学者のAronsonを中心とした研究グループによって開発された.これは,当時のア メリカにおける「競争社会」と「差別社会」という2つの課題を克服し,個人間の競争が成功と両 立しないような学習過程を構築したいという意識から生まれたものである.しかし,この時点での 最終的な活動の目標は「知識習得」であり,この観点でいえばAronsonのジグソー法は「正解到達 型アクティブラーニング」であると益川は評価している.
一方で1990年代後半から,三宅らは認知学習理論に根付いた知識構成を引き起こすことを目的 としてKCJ法を導入した.KCJ法は表1にあるとおり,5つの段階によって構成される.(1)で は生徒へ取り組むべき主課題(または原問題という)を提示する.(2)のエキスパート活動(以下,
Exp活動)では教師が準備した複数資料の中からいずれか1種類の資料を担当し,グループで内容 を把握する.つまり,生徒が担当資料の専門家になるということである.(3)のジグソー活動(以下,
Jig活動)では(2)の状態から席替えをし,別資料を担当した人と一緒に新たな班を編成し,(1)で 示された主課題の解決に取り組む.ここでは,相手が知らない内容を自分がもっていることになる ので,伝える必然性,聞く必然性が生じ,クラス全員が話をすることにつながるといえる.(4)の クロストークではJig活動における各グループなりのストーリーは多様であるため,それをクラス 全体で共有する.これらを比較参照することで,生徒は内容をさらに深めたり,新たな疑問や問を 共有したり,理解内容や考え方の適用範囲を広げたりする.(5)では自分なりに納得して構成した 解答をワークシートなどに記入させる.
表1 KCJ法の活動の流れ 手順 活動内容
(1) 主課題(または原問題)の提示 (2) エキスパート活動
(3) ジグソー活動 (4) クロストーク (5) 授業終了時のまとめ
3 数学学習に関する学習過程モデル
ここでは,本稿の議論の前提となる数学学習に関する学習過程モデルを設定する.そのために本 稿では,小山(2010)と河村(2016)の学習過程モデルを参照する.
3 . 1 先行研究
本稿において着目した学習過程モデルの先行研究は次の2つである.1つ目は小山(2010)のも
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ので,「数学的理解の2軸過程モデル」の中にある「直観,反省,分析」という学習過程モデルであ る.2つ目は河村(2016)のもので,「操作,反省,活用」,という学習過程モデルである.これら2 つの学習過程モデルについて,それぞれ具体的に述べる.
小山はそれぞれの学習段階について,次のように述べている(小山,2010,p.230):直観とは,
学習者である生徒が具体物あるいは概念や性質などの数学的対象を操作する直観的活動における思 考である.反省とは,学習者である生徒が自らの活動や操作に注意を向け,その操作や操作の結果 を意識化し,図や言葉によって表現することを目標とする思考である.分析とは,学習者である生 徒が表現したものをより洗練して数学的に表現したり,他の例で確かめたり,それらのつながりを 分析したりすることによって,統合を図ることを目的とする思考である.
また河村はそれぞれの学習段階について,次のように述べている(河村,2016,p.48):「1.操 作」の段階で行われる活動は,対象へ既知の知識を用いて具体的操作である.その具体的操作を基 に行った操作を内面化していき,そのパターンを見出す活動が行われる段階である.「2.反省」の段 階での活動は,学習主体である学習者が「1.操作」の段階で例に施した操作や操作した結果を意識 化して記号化する反射を行う.また,例に施した操作や行為を現在学習している数学領域内で位置 づけ,解釈や意味づけたりするなどの再体制化を行い,記号化,言語化する段階である.「3.活用」
の段階では,「2.反省」段階までに形成した数学的概念などを道具として用いる活動をする.また,
「2.反省」の段階までで得た数学的知識とパターンが同じであることを基にして学習している領域 外の知識とつなげていくような活動も行うこともあるだろう.
3 . 2 本稿にて設定した学習過程モデル
3 . 1節で述べた先行研究をもとに,本稿では学習過程モデルを「(1)操作,(2)反省,(3) 分析」
の3つの段階であると設定する.(1)について,本稿では河村(2016)と同様に,「対象へ既知の知 識を用いて具体的操作が行われ,その具体的操作を基に行った操作を内面化」することとして「操 作」という活動をとらえる.この段階について,小山(2010)は「直観」と表現しているが,「具体 物あるいは概念や性質などの数学的対象を操作する直観的な活動」と述べていることから,「操作」
という用語でまとめることができると我々は考えた.また内容の面でも,「直観」を用いた活動とい うのは,既有知識からまったく新しい事項への学習を想定しているといえる.しかし本稿では,新 規に学習した事項を前提として,そこから内容をより定着させたり,学びを深くしたりすることも 想定しているため,この段階に関する学習活動は「直観」に限らないと我々は考えた.以上のこと から,本稿では学習活動の第1段階を「操作」とした.
(2)について,本稿では小山(2010)と同様に「自らの活動や操作に注意を向け,その操作や操作 の結果を意識化し,図や言葉によって表現すること」と「反省」の段階をとらえることとした.河 村(2016)もこの段階については,同様の旨を述べている.
(3)について,河村(2016)は「活用」として,「「2.反省」段階までに形成した数学的概念など を道具として用いる活動」,および「学習している領域外の知識とつなげる活動」として述べてい
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る.しかし(2)の「反省」という段階を踏まえた活動ということであれば,数学的概念を「道具」と して利用するだけではなく,概念自体や「道具」自体に着目するような「他の例で確かめたり,そ れらのつながりを分析したりする」(小山,2010,p.230)といった活動も考えられる.これらの違 いは数学を,例えばヴィットマンら(2004)のいう「構造指向」と「応用指向」のどちらで捉えて いるかということで説明できるだろう.つまり,河村のそれは「応用指向」として,小山のそれは
「構造指向」として捉えているものと判断できる.そこで我々のこれまでの実践は構造指向によるも のが多いため,本稿では学習の第3段階を小山(2010)と同様に「生徒が表現したものをより洗練 して数学的に表現したり,他の例で確かめたり,それらのつながりを分析したりすることによって,
統合を図る」活動である「分析」とした.
以上のことから,本稿では数学学習に関する学習過程モデルを「(1)操作,(2)反省,(3) 分析」
と設定し,議論を進める.
4 高校数学におけるKCJ法を用いた実践例
ここでは,我々が提案するECJ法を示す前に,高校数学におけるKCJ法を用いた実践例を述べ る.本稿では,東京大学CoREF(2017)の付属DVDに収録されている高校数学に関する実践記 録(主に教材と授業案)156件*4(以下,CoREF実践)を分析した.これらの実践について,活 動方法や教材の質や内容を分析するために,原問題の有無,Exp・Jig活動の教材・課題の関係性,
Exp活動における「反省」活動の有無,という3つの視点によって各実践を分類した.その上で本 稿は,ここで得られた分析と3 . 2節において述べた学習過程モデルによってECJ法を構築してい く流れである.
4 . 1 原問題の有無
まず活動方法の違いを見るために,実践における原問題(2節では主課題ともいった)の有無に ついて述べる.ジグソー法は基本的には原問題を解決することを目的としている.そのため,原問 題はその実践における学習目標・テーマがそこに現れるものであるといえる.
松島(2014)は原問題とExp活動・Jig活動での課題の関係性について考察を行っている.松島 はさまざまなECJ法の実践を,「原問題においてもエキスパート問題においても,ジグソーグルー プでの活動においても学習する概念は同一」であるものを概念同一型,「原問題と学習の目標とする ジグソー問題が異なっている」場合を概念発展型,「原問題を分割したエキスパート問題の解決での 解決過程に焦点を当て,その解決の際に用いた思考方法に視点を当てる」ものを概念方法型,とそ れぞれ分類している(松島,2014,p.99).このことから,概念発展型と概念方法型は原問題とJig 課題・教材とは同じものではないと言い換えてよい.
ここで,松島(2014)はこの議論からわかるように原問題の存在を前提としていることがわかる.
*4ある1つの実践から派生し,同一の実践者または異なる実践者が教材をアレンジして別のクラスにて実践した記 録もDVDに含まれているが,それらは数に含めないこととした.
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しかし本稿ではその前提を確かめるために,ジグソー法を用いた実践に原問題が存在するのかを調 査する.まず我々はCoREF実践を形式的な原問題の有無について(1) 原問題あり,(2)原問題な し,(3)不明,の3つに分類した*5.ここで「形式的な」としたのは,授業の冒頭に原問題として 生徒に明示されているか,そうでないかを問題としているためである.この視点をもとに,CoREF 実践を3つに分類したところ,結果は表2のとおりとなった.表2により,原問題が形式的に存在 しない実践は4割ほどである.つまり,原問題はすべての実践において存在するわけではないので ある.では,原問題がない4割ほどの実践には学習目標・テーマが存在しないのであろうか.答え は否である.原問題が「形式的に」存在しない場合には,Jig活動にその学習目標・テーマが内包さ れていると考えるのが自然である.また松島(2014)の概念発展型や概念方法型という分類にもあ るように,原問題が提示されても,Jig活動では原問題と概念の異なる活動となる実践が確認され ている.つまり,その授業において達成したい学習目標・テーマは,原問題よりもJig活動に現れ るといってよい.したがってジグソー法を用いた活動の質を議論する際には,原問題ではなく,Jig 活動がどのようなものであるかに着目すべきであると我々は考えた.そこで我々はExp課題とJig 課題という両者の教材の関係性を分析する.
表2 CoREF実践における形式的な原問題の有無 (1)原問題あり (2)原問題なし (3)不明 計
件数 91 62 3 156
4 . 2 Exp・Jig活動の課題・教材の関係性
4 . 1節の議論を踏まえ,我々はExp課題とJig課題の関係性に着目し,教材の関係性を分析した.
まずは松島(2014)の原問題とExp課題の関係性に関する先行研究を述べる.松島は,原問題を 分割した複数のエキスパート問題を,包括的・発展的に統合しながら原問題で学習する概念につい て捉え直していくタイプを「分割・統合型」,原問題で学習する概念を単なる分割ではなく,特殊化 して分割したエキスパート問題とし,それらのエキスパート問題の結果を抽象化したり,帰納的に 考えたりして,原問題で学習する概念について捉え直していくタイプを「特殊化・一般化型」,と分 類している(松島,2014,p.93).これら2つの型のイメージは図1のとおりである.
しかし我々は4 . 1節において,ジグソー法における教材・課題の関係性を議論するためには,原 問題ではなく,Jig活動に着目すべきであると述べた.そこで本稿では松島(2014)の基準におい て,「原問題」の部分を「Jig活動」に置き換えることによって,Exp課題とJig課題の関係を分類 する.つまり本稿では,Jig活動に内包されている学習目標・テーマに沿って課題を複数に分割し,
それをExp活動において取り組み,Jig活動にてそれを統合することによって学習目標・テーマを 達成するタイプを「分割・統合型」,Jig活動に内包されている学習目標・テーマを単に分割するの
*5教材や授業案を見て,我々が判断できなかったものを「不明」とした.
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図1 松島(2014, p.94)の「分割・統合型」(左),「特殊化・一般化型」(右)のイメージ(一部改変)
ではなく,課題に対応する特殊化された複数のExp問題に取り組み,それらをJig活動においてこ れらを抽象化したり,帰納的に考えたりすることで,Jig活動の学習目標・テーマを達成するタイプ を「特殊化・一般化型」と分類する.これら2つの型のイメージは図2のとおりである.
図2 本稿で定めた「分割・統合型」(左),「特殊化・一般化型」(右)のイメージ
このように本稿では,Exp課題とJig課題の関係をこれら2つに分類することとしたが,具体的 にどう特徴づけがされるのかについて触れたい.先に述べた分類から我々は,Jig活動に内包され ている学習目標・テーマに対して,Exp活動の教材がどのように配列されているのかに着目する.
このことは,Exp課題が見た目上同じものであったとしても,Jig活動に内包されている学習目標・
テーマによって,「分割・統合型」なのか「特殊化・一般化型」なのかということは変化するというこ とを示唆している.そこで我々は,Jig活動に内包されている学習目標・テーマに対して,Exp活動 のために分割された教材が互いに「同質」なものであるかという概念を導入した.本稿では,Exp 課題が「同質でない」ことをExp課題の中の1つが欠けた場合にはJig活動が成立しないことで ある,と定めた.これにしたがえば,Exp課題が同質でないときは「分割・統合型」であり,Exp 課題が互いに同質であるときは「特殊化・一般化型」であるといえる.さらに「特殊化・一般化型」
は次の2つのように特徴づけできる.1つ目は,Exp課題が1つ欠けてもJig活動が成立するとい うことである.Exp課題の1つは内包された学習テーマに関する例の1つであると見なせるため,
その例が1つ欠けたとしても学習目標を達成するためには支障がないと考えられる.しかし当然な
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がら,Exp活動が1つ欠けても内包されている学習目標・テーマを達成することはできるが,活動 全体の質は下がる可能性がある.2つ目はExp課題の中の1つを(学習目標・テーマに沿った)他 の例に置き換えても,内包されている学習目標・テーマを達成することができる,つまり例が代替 可能である,といえる.
ではCoREF実践の中で,我々が「特殊化・一般化型」であると判断した例を2つ述べる.1つ
目はS513の高次方程式の解法に関する実践である*6.Jig活動に内包されている学習目標は「上手 く使い分けることで,効率よく解くための方法」を見つけ出すことがである.原問題は形式的には 存在しない.Exp課題では3つのグループに分かれ,生徒はそれぞれ因数分解,おきかえ,因数定 理を用いる例を見る.それぞれのグループでは,最終的に「それぞれの方法(グループ内で見た解 法)で解くと良さそうな高次方程式はどれだろうか」というまとめをする.Jig課題では内包され た学習目標を達成するために,複数の高次方程式について,どの解法がよいかを議論させ,生徒は 解く際の「注意すべきポイント」や「手順」についてまとめている.以上のことから我々は,この 実践を特殊化・一般化型であると分類した.この実践がそれぞれの解法について知ることが目的で あれば,1つ欠けても高次方程式の理解に不足が出るため「分割・統合型」であるといえよう.し かしこの実践は,効率よく解く方法を見つけ出すためにさまざまな解法を示した例を収集している といえるため,Exp課題の1つが欠けても(活動の質が下がる可能性はあるものの)形式的には成 立する.そのためこの実践は「特殊化・一般化型」であると我々は判断した.
2つ目はS735の実践である.Jig活動に内包された学習目標は,さまざまな問題(特に入試問題)
を解く上で,「定義に戻って考える」ことが重要であることを見出すことである.原問題はある入試 問題である.Exp活動では3つのグループに分かれ,生徒はそれぞれ原問題とは別の入試問題の与 えられた解法を読み,「定義に戻る」重要性について考える*7.Jig活動にて,生徒はそれぞれのグ ループの解法に共通する「解くのに役立つ考え方」をまとめ,再度原問題に取り組む.この実践で は「定義に戻ること」の重要性を認識させるために必要な「同質」な例を収集している.つまり,例 は1つ欠けてもJig活動は成立し,ある1つの問題を(学習目標に沿った)別の入試問題に代替可 能でもある.したがってこの実践は「特殊化・一般化型」であると我々は判断した.
さて上記の例も含め,先に述べた基準にしたがってCoREF実践を「不明」を含めた3種類に分 類したところ,結果は表3のとおりとなった.表3によれば,CoREF実践では「分割・統合型」
が全体の8割を占めている.このことは,ジグソー法といえば,1つの課題を分担して作業にあた
表3 CoREF実践のExp活動とJig活動の教材の関連性 (1)分割・統合型 (2)特殊化・一般化型 (3)不明 計
件数 125 27 4 156
*6CoREF実践のそれぞれはS+(3桁の番号)によって番号づけされている.
*7Exp教材には例えば,2x= 3となる数xは無理数であることを証明するために「なぜx=mn とするのか」や 数列Sn= 2an−3n+ 1であるときののanを求めるために,「なぜSn+1−Sn=an+1とするのか」との問いかけ がある.
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るということが念頭あるためであると我々は推察した.しかし我々は数学の研究・学習方法の性質 という側面から「特殊化・一般化型」に注目をあてた実践がもっとできるはずであると考えた.例 えば数学の学習方法に関して,黒木(1996)は「数学の研究も自然科学と同様に帰納の学問であり,
演繹の学問ではないということである」と述べ,その具体的な研究,学習の方法について,「一般論 がどのように応用されているかを豊富な具体例および具体的な計算によって知ること」,「具体例が具 体的な計算のどのような側面が抽象化・一般化されているのかを考えること」と述べている.つま り数学の研究や学習において,ある命題や事象について,成り立つ例や反例,仮定を満たさないが 結論は満たすものなどの多くの例を見ることは深い理解をする上で強力な手段であるといえる.特 にこの考えを3 . 2節で述べた学習過程モデルと組み合わせることによって,「特殊化・一般化型」の ジグソー法は数学学習の上で大変効果的な手段になりうると我々は考える.
4 . 3 Exp活動における「反省」活動の有無
ここでは再び活動方法に着目する.2節にて述べたように,ジグソー法ではExp活動において理 解した内容をJig活動において他者へ説明することを通じて,学習目標が達成されるのである.Jig 活動での説明はグループ内で自分しか情報を知りえないものであるため,理解が促されることが期 待される.このようにJig活動において生徒は,自らの操作を振り返りながら説明するということ になる.しかし一方で3 . 2節で述べた学習過程モデルと照らし合わせたとき,それぞれの実践にお いて,操作やその結果を「意識化する」ということがどこまで達成されているかについては疑問で ある.
そこで我々は学習過程モデルを用いることで,自らの操作を意識的に振り返る段階,つまり「反 省」の段階が特にExp活動の中に盛り込まれるべきであると考え,CoREF実践において,Exp活 動の中に「反省」の段階が含まれているものはどれだけあるのかを調査した.Exp活動にて「Jig 活動に向けてまとめてよう」,「この作業を通じて一般的に言えることはどのようなことか」などとい う文言が教材に含まれ,意識的に操作を振り返ることを指示しているものを「反省」の段階が含ま れている実践であると我々は判断した.このようにCoREF実践を分類すると,結果は表4のとお りとなった.表4によれば,CoREF実践において,Exp活動で「反省」の段階が明示されている ものは4割程度である.教材や授業案に明示されていないという可能性があるものの,「意識的に」
振り返るという視点が不足している実践が目立つ.このことは,生徒の深い理解に対する期待をジ グソー法の「型」に頼るということになってしまい,学習過程などの理論的背景を踏まえていない ことを示唆している.
表4 CoREF実践におけるExp活動にて「反省」の段階の有無
「反省」あり 「反省」なし 不明 計
件数 65 87 4 156
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5 ECJ法の構築
ここではこれまでの議論を踏まえ,我々が提案するECJ法の構成方法を具体的に述べる.ECJ 法は成瀬(2017a)にてすでに提案された方法であるが,本稿ではそれに4節にて述べた視点をさら に加味し,改めて詳しく議論する.ECJ法とは,KCJ法の一部として捉えることもできる.ECJ 法はおおまかにいえば,授業者が意図する学習目標・テーマを達成するための例を収集することに よって,帰納的に一般化や抽象化を促すことを目的としたジグソー法である.例を収集するという アイデアは4 . 2節にある黒木(1999)の数学は「帰納の学問」であるということからきている.ま た,ECJ法の生徒の理解に関する理論的裏付けは3 . 2節において述べた学習過程モデル「(1)操作,
(2)反省,(3)分析」にある.この学習過程モデルによってジグソー法に理論的裏付けを与えるとい う点が本稿の最大の目的である.
次にECJ法を用いた実践の具体的な流れを述べる.まず実践では当然ながら,授業者は学習目 標・テーマを設定する*8.ECJ法では,その学習目標をJig活動において達成することを前提とし ているため,原問題は必要としない(もちろん,原問題はあってもよい).次にExp活動,Jig活動 をどのように設定するのか,3 . 2節での学習過程モデルとの関連を示しながら述べる.Exp活動に て生徒は,学習目標・テーマに沿った具体物であるさまざまな例(それに沿った例,成り立たない 例など)を操作する.これは学習過程モデルの「(1)操作」の段階といえる.操作を終えた段階で 生徒は,自分の操作した例について意識的に振り返る機会をもつ.振り返りの中で生徒は,この段 階においてどのような一般化や抽象化ができるかを考え,その内容をワークシートなどに自分の言 葉や図などによって意識的に表現する活動を行う.これは学習過程モデルの「(2) 反省」の段階と いえる.つまりExp活動では「(1)操作」,「(2)反省」の段階が含まれている.次にJig活動にて生 徒は,他のグループより集まったさまざまな例を見ることによって,Exp活動の時点で振り返った 一般化や抽象化したものが正しいのか,そうでないのかを確認する.それに不整合があった場合に は,修正することとなる*9.これは学習過程モデルの「(3)分析」の段階といえる.
また4 . 2節で述べたExp活動の質に関して,ECJ法ではExp活動においていくつかの例を収 集し,さらにJig活動においてExp活動とは異なる例を収集し,内包された学習目標の達成に向け て,それらを操作し一般化・抽象化する活動が展開されている.よって,ECJ法は「特殊化・一般 化型」といえる.そのため,Exp活動で扱う例に求められる性質はそれぞれ「同質」のものである 必要がある.
以上のことを踏まえたECJ法の流れは図3のとおりに示すことができる.
また学習過程の視点から考えると,ECJ法は本稿で設定した「(1)操作,(2)反省,(3)分析」と
*8例えば成瀬は高校数学において実践する際に,構造指向としての学習テーマを設定している.これらのテーマに 関する議論は成瀬(2017b)を参照のこと.
*9我々はこれまでの議論の中で,「意味づけ論」を用いて,「(2)反省」の段階で振り返った生徒の考えを「暫定的な 意味づけ」,「(3)分析」の段階で確認し,考えを新たにしたり,暫定的な意味づけを確信したり,不整合を修正したり することを「意味づけの更新」とよんでいる(成瀬(2017a, 2017c, 2017d)).意味づけ論を用いた生徒の思考の変化 に関する議論は別の機会としたい.
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図3 学習過程モデルに沿ったECJ法の流れ
いう流れが1回の実践(1コマの授業)で達成できる.一方で3 . 1節で述べた河村(2016)の学習 過程は,1つの単元での流れを前提としている.河村は対数関数の一連の授業(18時間)において,
冒頭の1時間は,指数関数を含む不等式を用いた文章題を計算することを既有知識を利用した「1. 操作」の段階であるとしている.次の2〜8時間目では,対数の概念を形成し,対数関数の性質な どを学習し,1時間目に取り組んだ文章題を再文脈化している.これを「2.反省」の段階としてい る.さらに9〜18時間目では,「2.反省」の段階で得た概念を1時間目に取り組んだ文章題を含ん ださまざま文章題に取り組んだり,自ら生じた問を探究したりしている.これを「3.活用」の段階 としている.つまり河村(2016)は,学習過程のサイクルが1つの単元を前提としていることがわ かる.しかしECJ法は学習過程モデルの流れを1回の実践(1コマの授業)で経ることになるた め,1つの単元を学習し終えたときには,この学習過程を何回もサイクルすることができる.例え ば,1回目のECJ法を用いた授業にて「分析」された内容を2回目のECJ法を用いた授業におけ るJig活動での学習テーマとして,その正確性を上げたり,より一般的・抽象的なものにしたりす る活動を展開できる.つまり「ECJ法の積み上げ」によって,「分析」の内容の質が上がっていき,
生徒のより深い学びの実現が期待される.「ECJ法の積み上げ」のイメージは図4のとおりである.
本節において議論したECJ法の特徴づけは次のようにまとめられる:
• 学習目標・テーマに沿った例を収集することによって,生徒に一般化・抽象化を促すための ジグソー法である.
• 数学学習に関する学習過程モデル「(1)操作,(2)反省,(3)分析」を理論的裏付けとしている.
• Exp活動に「(1)操作」と「(2)反省」の段階,Jig活動に「(3)分析」の段階が含まれている.
• 学習目標・テーマがJig活動に内包されている.原問題の有無は問わない.
• 「特殊化・一般化型」に分類される.
• 1回の実践(1コマの授業)において「(1)操作,(2)反省,(3)分析」の流れが起きる.その ため1つの単元終了時には「ECJ法の積み上げ」によって,生徒の深い学びの実現が期待さ
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図4 「ECJ法の積み上げ」
れる.
6 ECJ法を用いた実践例
6 . 1 我々の実践
ここでは,我々のECJ法を用いたこれまでの実践を概観し,得られた成果やECJ法に関する課題 を整理する.これらの実践はいずれも,2016年度第2学年理系クラスにおける実践であり,生徒の 理解の様子はワークシートへの記述内容を分析した.実践の詳細については,成瀬(2017a, 2017c, 2017d)を参照のこと.
1つ目は不定積分に関する実践であり,2つのステップに分かれている(成瀬,2017a).1つ目 のステップにおいて,Jig活動に内包された学習目標は不定積分に関する「解法の柔軟な利用」で ある.この学習目標は4 . 2節で述べたS513の実践に近い.実践までに生徒は不定積分の計算方法
(置換積分,部分積分など数学III相当)を学習している.原問題は形式的には存在しない.Exp活 動にて生徒は,さまざまな計算方法を用いる不定積分の問題を3つずつ解く(「(1)操作」).その上 で「コツを明文化してください」という指示によって「(2)反省」を促す.例の質としては,不定 積分の技法を柔軟に利用するための例を収集しており,他の問題を解くことでも学習目標が達成で きるため互いに「同質」といえる.次にJig活動にて生徒は,他のグループの問題に対してExp活 動において見出したコツが適用できるかを考える(「(3)分析」).2つ目のステップにおいて,Jig 活動に内包された学習目標は,問題作成を通じて1つ目のステップで見出したコツが適用できるか を確認することである.原問題は形式的には存在しない.Exp活動にて生徒は,それぞれのグルー
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プにおいて出された指示に沿った問題を作成する*10(「(1) 操作」).また作成時に生徒は,参考に した問題,着目したポイント,工夫したポイント,作成した問題についての解答についてコメント する(「(2)反省」).次にJig活動にて生徒は,他のグループにおいて作成された問題を1つ目のス テップで見出したコツを用いてお互いに解く.解いたあと生徒は,解答を確認し,作成者に課され た指示と自分の解き方やコツにギャップがあったかを確認する(「(3)分析」).この実践の1つ目の ステップでは,生徒が見出したコツをさまざまな例を通じて更新する様子を我々は確認した.また この実践は,1つ目のステップで見出したコツが適用できるかを確認するという点から5節で述べ た「ECJ法の積み上げ」となっている.そのため,2つ目のステップでは友人の問を解く中で1つ 目のステップで見出した自分のコツが通用しないことを実感する様子を我々は確認した.
2つ目は微分方程式に関する実践である(成瀬,2017c).Jig活動に内包された学習目標は「微 分方程式の翻訳,微分方程式とは何か」である.実践までに生徒は微分方程式の初等解法(変数分 離形,1階線形方程式)を学習している.原問題は形式的には存在しない.Exp活動では6つのグ ループに分け,生徒はそれぞれのグループにおいてTorricelliの原理,回路の方程式,Newtonの冷 却の法則について(各方程式2グループずつ),初期値問題を解いたり,その解の解釈を行う(「(1) 操作」).その上で生徒は,現象に照らし合わせた微分の意味や微分方程式とは何かということを考 える(「(2)反省」).例の質としては,複数の方程式を扱っているため,分割しているように見える が,内包された学習目標は「微分方程式とは何か」ということであるため,これら3つの方程式は それを考えるための例である.仮に3つの例(方程式)のうち,1つを別の方程式としても学習目標 は達成されるため,例は代替可能である.つまり,これら3つの例(方程式)は互いに「同質」で あるといえる.次にJig活動にて生徒は,各グループの方程式の翻訳について意見交換を行い,最 終的には「微分方程式とは何か」という問についてコメントをする(「(3)分析」).この実践を経 て,生徒たちが「変化量を考えることで,同じ枠組みで考えられる」などという「数式のよさ」を 実感したり,微分方程式が計算するものから表現するための道具であるという考え方が変わったり する,ということを我々は確認した.
3つ目は最大値・最小値の公理に関する実践である(成瀬,2017d).Jig活動に内包された学習目 標は「命題の意味理解」である*11.実践までに生徒は,微分の計算(数学III相当)を学習してい る.原問題は「最大値・最小値の公理は自分のことばでどのように表現できるか」というものであ る.Exp活動では4つのグループに分け,生徒は最大値・最小値の公理が使えるものと使えないも のを混合した関数と区間の例について,最大値・最小値をそれぞれ求めた(「(1)操作」).例の質と しては,公理が成り立つ例,成り立たない例などが混合されているが,これらの例は代替可能であ るため互いに「同質」であるといえる.また生徒はこの操作を通じて,最大値・最小値の公理につ いて気付いたこと,自分なり公理を表現し直した(「(2)反省」).次にJig活動にて生徒は,他のグ
*10出された指示は「三角関数を含み,置換積分を2回使う」,「対数関数を含み,部分積分と置換積分を1回ずつ用 いる」などである.
*11成瀬(2017d)には最大値・最小値の公理の実践のみ掲載されているが,実際にはこのほかに,Rolleの定理,微 分の平均値の定理に関する「命題の意味理解」の実践も行われている.
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ループの例を見ることで,最大値・最小値の公理についてさらに自分なりの表現をし直した(「(3) 分析」).以上の流れを通じて,我々は原問題で示した時点での表現とJig活動を経た時点での表現 との違いを分析した.この実践を経て,生徒たちは公理の仮定に関して,複数の視点で公理を眺め ることができたり,公理の必要十分性について気付いたりできることを我々は確認した.しかし一 方で,誤概念に導かれてしまった記述も確認された.
6 . 2 CoREF実践での例
CoREF実践の中でECJ法とよべる実践を紹介する.4 . 2節,4 . 3節の視点から,その実践が ECJ法であるためには,「特殊化・一般化型」であり,Exp活動に「反省」の段階が含まれている必 要がある.この基準にしたがうとCoREF実践の中で,この2点が満たされているものは17件あ る.4 . 2節において紹介した2つの例もその中に含まれている.ここでは,S505という鳩ノ巣原理 についての実践を紹介する.Jig活動に内包された学習目標は「鳩ノ巣原理とはどのようなものか,
どのように使ったらよいか」である.原問題は鳩ノ巣原理を用いた証明問題である.Exp活動では 3つのグループに分け,生徒は鳩ノ巣原理の典型的な問題・解説を理解する(「(1)操作」).例の質 としては,鳩ノ巣原理の典型例を収集しているということから,これらの例は代替可能であるため,
互いに「同質」であるといえる.その上で生徒は,その理解した内容を「自分たちの言葉でまとめ よ」と意識的に操作を振り返っている(「(2)反省」).次にJig活動にて生徒は,他のグループから のまとめを参考にし,原問題に改めてチャレンジする.またその上で生徒は,「鳩ノ巣原理が使える のは,どのような問題(証明)か」ということをまとめている(「(3)分析」).以上のことから,こ の実践はECJ法であるといえる.
この例からわかるように,CoREF実践の中にもECJ法とよべる実践があることから,我々は新 しいジグソー法を提案しているというわけではない.しかし本稿の焦点はジグソー法に理論的裏付 けをすることにあり,それに大きな意味があると我々は考えている.
7 おわりに
最後に,ECJ法に関する今後の課題などを述べる.
ECJ法に関する今後の課題は次の2点である.1点目は学習過程モデルにおける生徒の理解の様 子を「意味づけ論」を用いて記述することである.これは5節の注釈でも述べたが,我々が現在取 り組んでいる事項である.例えば5節にて,「ECJ法の積み上げ」について述べた.この積み上げに よって,生徒の理解の質を上げることを目標としたいが,その分析のために,「(3)分析」の段階に おいてなされた生徒の「意味づけ」の良し悪し,生徒の学びの深さに関する評価の尺度を定める必 要がある.それを定めることが今後の課題である.
2点目は例のあり方である.4 . 2節ではジグソー法を「同質」という視点から分類した.しかし 本稿での議論は直観的側面が強く,さらに理論的な議論が必要である.また6 . 1節で述べたように,
我々の実践では,誤概念を導いた例が確認された.そこでJig活動に内包された学習目標を達成す
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るために,どのように特殊化をし,Exp課題を構成するのかを理論的に設計したい.つまりExp活 動の「(2)反省」やJig活動の「(3)分析」の段階にて,よりより生徒の「意味づけ」を促すための 例の内容や配置を明らかにしたい.
さて本稿の最大の目的は,学習過程モデルを用いてジグソー法に理論的裏付けをすることである.
我々はその1つの方法としてECJ法を提案したが,次の点に注意されたい.学習過程モデル「(1) 操作,(2)反省,(3)分析」を実現するための方法はECJ法だけに限るわけではない.例えば日本 の伝統的な方法である「練り上げ」という方法でも実現できるだろう.逆にジグソー法に対して理 論的裏付けをするための学習過程モデルは「(1)操作,(2)反省,(3)分析」だけではない.他の学 習過程モデルを理論的背景とすることによって,ECJ法とは別のジグソー法を構成することもでき るだろう.このように,本稿はジグソー法の実践に理論的裏付けをする1つの例を示したにすぎな い.しかし本稿がジグソー法の実践者としての心構えを示す1つのモデルケースになると我々は期 待している.
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