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経営組織の持続可能性に関する一考察

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神奈J廿大学大学院経営学研究科 F研究年報』第10 2006年3月 39

■ 博士論文要旨

神奈川大学審査学位論文の要 旨

経営組織の持続可能性 に関す る一考察

一 経営価値 を意識 した個人の役割 ‑

AStudyofOrganizationalSustainability

‑ IndividualRolesforCreatingManagementⅥllues

学 位 の 種 類 博 士 (経 営 学 ) 学 位 記 番 号 博 甲 第74号 学位授与の 日付 2005年3月31日

湯 川 恵 子

KeikoⅥlkawa

■ キーワー ド

持続可能性 ・経営組織 ・経営価値 (経漬価値/社会価値/環境価値)・個人

1.研究の 目的

本研究の主要 な 目的は、経営組織 における持続 可能性 の本質 を明 らかにす ることにある。持続可 能性 は昨今 その重要性 が認知 され るよ うになった 考 え方 の一つ であることは論 を待 たない。 しか し 持続可能性 はその言葉の もつ意味か らみて も、社 会性 や環境性 といった相対的に非合理的で あい ま いな判 断基準 によ らなければ把握 で きない局面 が 多い。 これ まで経済価値 の もとで拡大 ・成長 を指 向 して きた企業 をは じめ とす る組織 では、持続性 の意識 が希薄 であ り、改 めて社会 や環境 との共生 を意識 しなが ら長期的な視点で固有の社会 的役割 を果 たす ことが求 め られてい るとい えよ う。

また経済価値 を追求す るためな らば企業 はどの ような手段 を行使 して も許 され るとい うよ うな風 潮の中で、身の回 りの環境 を支配す る立場 にたっ たことが企業 の 自己都合 を増長す るとともに、

方 で 自然 や社会 の機 能劣 化 を招 い た と考 え られ

る。 そ もそ も企業 とい う合理的組織形態 が、明 日 あ さっての利益 のために自然や社会 を支配す るこ とが許 されて よいのかにつ いては大 いに疑問の余 地 があろ う。

モ ノとカネの豊 か さが価値判 断の基準 で あった 背景 には、20世紀 は じめ に発達 した大 量生 産 シ ステムによる著 しい経済成長 があ り、合理 的な客 観性 を もった経済 価値 を提示 した こ とが深 く関 わっていると考 えられ る。価値 の源泉 をモ ノやカ ネ とい う量 的に測定可能 な経済性 に置 くことで機 能 していた経済価値 指向の社会 は、 た しかにある 一定の先進諸国の人 々 を物質的に豊 かに して きた か もしれ ない。

しか し現在の社会 は "真の"豊 か さを手 にいれ ただろ うか。 こうした問いかけに対 して経済価値 以外の視点か ら解答 を見出そ うとす る識者 は少 な

くない。 目の前 にあるもの ごとを短期的に とらえ、

経済価値 の観点か らは効率 が向上 した と思 えるこ とも、反面 では大量 のモ ノやエネル ギーがムダに

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40 神奈川大学大学院経営学研究科 『研究年報』 第10 2006年3月

されて 自然環境 に負担 をかけてい ることがある。

しか し成長性や生産性、規模の大小 は、数量的測 定 によって分析 され る財務指標のなかで客観的に 把握可能であるために、経済価値 は企業活動にお ける中心的な価値判断 を提供 して きた。 ところが 持続可能 な環境対応 をは じめ、社会性や環境性 と いった相対的に非合理的な判断基準は、非財務的 な指標 によらなければ把握で きない場合 が多いの である

企業 にとって短期的な経済価値 の追求 よりも優 先すべ きことは、地球上の‑構成員 として、環境 との共生 を図 りなが ら地球の持続可能性 な発展 に 貢献す ることだろう。つ まり、社会的な影響力 を もつ企業 には経済価値追求行動のみな らず、地球 の持続可能性 に貢献す る何 らかの役割が、環境の 側か ら求め られているのである。社会 に対 しての 影響力 を強めれば強めるほど、企業は従前 よりも さらなる社会的役割 を長期的な視点で果たす よう 求 められ るようになるのはい うまで もない。

もとより経済価値 の もた らす恩恵 を否定す るも のではない。 しか し、少な くとも経済価値 を組織 行動の中心にす えたことで、持続可能性 をないが しろに して しまった点 を反省す ることは必要 だろ う。その うえで経営組織 が長期的な視点で社会 に その位置 を確保で きるよ うに舵取 りす る試みに、

学徒の一人 として ささやかな問題提起 を行いたい と思 う。

以上 をもとに本研究では、従来型の経営学では 重点的に取 りあげ られ ることが少 なかった、 あい まいで客観的に判断不可能 な質的分析 を織 り込ん だ独 自の持続可能性分析 を行ってみ るものである。

そこで、経済価値 を包摂 しなが ら社会 か ら求 め ら れ る多様 な価値 に もとづ く組織行動 を導 く持続可 能性の積極 的な意味 を経営組織のなかに見出 して い くことを目的 とした。経営組織 に限定 した理由 は、構成員である個人の役割が企業のみな らず社 会や環境 と相利共生 して持続可能性 と深いかかわ りをもつ と考 えられ るか らである。 この ことは次 に述べ る方法論 とも密接 な関係 をもつ ことになる。

2.

研究の方法論

比較的早 くか ら自然環境分野において議論 され て きた持続可能性 は、ようや く経営学で も扱われ るようにな りは じめている。 しか し持続可能性分 析 は依然 として地球環境 を扱 う限定的な ものにと どまってい る。その理由は、組織の成立要件 とそ の 日的概念 をみてい くことで明 らかに され よう

経営学 において組織 (公式組織)の最 も有名 な定 義 は、Barnard(1968)によって与 えられた 「二人 以上の人 々の意識的に調整 された活動や話力の体 系」 とい うものである。 ここで重要 なことは、組 織 の成員はバ ラバ ラな個人 なのではな く、共通の 組織 に属 して一緒 に働いている仲間であって、公 式組織 は 目的 を共有す る人々の集 まりであるとい う点、そ してその共通 目的への貢献が成員同士 を 結びつ けているだけではな く、彼 らは一緒 に働い てい るうちに共通の価値基準 をもちは じめ、社会 規範 を共有す るようになるとい う点にある。

つ ま り組織 は単独の個人では実現不可能 なこと を、他者 との自発的な協力行動 をつ うじて実現す る協働のシステムであるとされ る。 この組織化の 過程では、一人ひ とりが異 なる欲求や動機 や 目的 をバ ラバ ラに主張 したのでは行動 は組織化 されな い。 したがって成員が自分 自身の行動 を自分で意 思決定す ることをいったん脇 において、決定 を組 織 に委ね ることにより、組織 としての意思決定が で きるメカニズムを採用す るO組織の成員は一人 ひ とりの意思決定の一部 を組織 に委ね ることで満 足 をもた らす利得 を獲得す る。組織 におけるこの よ うな相互作用 は、持続 的に組織化 されてお り、

今 日集 まった人々が明 日もまた同一の役割の もと に集 まることが当然に予定 されていると考 えらえ ている。

こうして成員が もつ多様 な 目的の代わ りに、組 織 が意思決定の際に拠 りどころに したのは、理解 可能な範囲に行動 を限定 し、手元 にある利用可能 な資源 を囲い込み、あいまい性や主観性、予測不 可能性 を一切排除 した整然 とした合理的組織の追 求 だった とい える。合理的組織の もとで成員が組

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経営組織の持続可能性に関する一考察 41

織 によって もつ ことを余儀な くされた共通の価値 は経済性、すなわちモ ノやカネを多 く手 に入れ る ことが価値 あることとされて きた。 こうして経済 価値の もとで個人の多様 な選択肢 をひ とつ に束ね ることに成功 した組織 は、合理的組織 を強化 して いったことは想像 に難 くない。

経済価値 に直接寄与す る要件のみ を考察の対象 とし、それ以外 を対象外にす るとい う思考や行動 が果た して経営組織の持続可能性 に貢献す るのだ ろうか。一方 で自然環境や社会性への配慮 は、質 的評価 を必要 とす る部分が多 く非合理的であいま い性が高いために、合理 的で客観性 を要す る経済 価値追求の阻害要 因にこそなれ、促進要因にはな らない と判断 されている。特 に経済活動の拡大は 急速に自然環境 に対す る負荷 を増大 させ、人間の 生存基盤である地球のバ ランスを崩 しは じめてお

り、地球規模の環境問題 としてすでに現れている。

経済や社会の発展基盤である自然環境 を損 な うこ とな く持続可能性 な発展 を推進 してい くことが地 球上で活動す るあ らゆる組織 に求め られているの はい うまで もない。

以上の ことか ら、本研究では価値のあ りようが 一様価値 か ら多様価値 に移行す ることを想定 し、

持続可能性 とい う概念が多様価値への移行 を牽引 す ると考 える.多は‑ を含んで‑の総和以上の価 値 を創 出す るので、一様価値 と多様価値 はnotA, butBの関係ではな く、あるいはh・omAtoBといっ

た単純 な枠組みで表 され る図式ではな く、持続可 能性 を支 える多様価値の中に経済価値 を包摂 して い く方法論 を本研究 では採 ってい る。包摂 とは、

ある概念がよ り一般的な概念につつみ こまれ るこ とを指す。つ ま りnotonlyA,butalsoBやAwithB、 ÅandI3、AincludesB、AwithinBなどで表現 さ れ る関係 を意識 してい くことにす る0本研究で求 めるべ き包摂 とい う方法論によって展開 され る持 続可能性 には組織行動における多 くの ヒン トが隠 されていると考 えられ る。 そ して この方法論 を実 行す る主体は、組織 と対等の役割 を自主的に遂行 す る個人 に依存す るものである。

3.

論文の構成

本論文 は全体 で7章 と補 遺1・2、 お よび参考文 献で構成 されてい る。各章立 てを以下 に示 す。

第1章 は じめに 第1節 研究の 目的 第2節 研究の方法論 第2章 持続可能性分析の基礎

第 1節 持続可能性分析の変遷 とその意義 第2節 持続可能性の概念

第3章 経営組織 の概念整理

第 1節 企業 にみ る組織パ ラダイムの転換 第2節 持続可能性 を指向す る経営組織の定義 第3節 経営組織分析のための分析軸の検討 第 4章 環境の複雑性 と経営組織の持続可能性

第 1節 持続可能性 を意識 した環境の分析視点 第2節 縮減メカニズムによる経営組織の環境

適応

第3節 複雑性縮減主体 としての個人 第5章 持続可能性 を支 える価値 の多様化

第1節 持続可能性 を支 える価値分頬 第2節 持続可能性 における3つの価値基準 第3節 価値統合 による経営価値 の創 出 第6章 経営価値 を指向す る個人 による持続可能

第 1節 経営価値 をめ ぐる個人の とらえ方 第2節 経営価値 に連動 した個人の人間観分頬 第3節 統合的人間観 に もとづ く個人の構築 第4節 持続可能な経営組織 における個人の役

第7章 おわ りに〜若干の提言 と今後の課題 補遺1 企業寿命の実態

補遺2 持続可能性評価の動向 参考文献

〔第1章〕の問題提起 に続 いて、〔第2章〕では、「持 続可能性分析の基礎」 として従来の経営学ではあ まり取 りあげ られてこなかった持続可能性分析の 変遷 と分析の意義 を探 り、その概念化 を図ってい

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42 神奈川大学大学院経営学研究科 F研究年報j10 2006年 3月

る。 もともと持続可能性の概念 は自然環境問題へ の国際的関心の高 まりに呼応 して提唱 された もの である。わが国では環境省発行の 『環境 白書』 な どに、 また世界では国連 に設置 された環境 と開発 に関す る世界委員会 による報告書や地球 サ ミッ ト での宣言 などに持続可能性への取組み を伺 うこと がで きる。本研究での着眼点は、自然環境の活動 領域 によって大 きく動 きは じめた持続可能性への 取組みの世界的潮流 を社会科学の立場か ら解釈 し てい くことにある。 これ まで主 に自然科学の領域 か らの議論 が多かった持続可能性分析に、社会科 学 としての経営学の議論が加わ ることで、新 しい 持続可能 な社会経済 システムへの移行がより力強

く推進 され る可能性 が示唆 され る。

従来、経営学では持続可能な発展 とい う考 え方 を用いるとき、経済価値 の観点か ら個別の企業 が 長期にわたって自己中心的に生 き残 るための能力、

ととらえることが多かったよ うに見受 け られ る。

しか し今 日的には企業 は自社のためだけに存続 し、

自らを変 えるだけではな く、経済、社会、自然環 境 といった多様 な価値基準 を同時に実現 してい く ことに も配慮 し、持続可能性 に対す る可能性 を伸 長 してい くことに も責任 があると考 えられ る。

ところが持続可能性 に関 して1つの誤解が生 じ ることが想定 され る。それは現状維持 と長期持続 はその意味内容が異 なるとい うことである。 ここ で は、Ackoff(1994)と山本 ・加 藤(1997)の 発展 論 に依拠 しなが ら現状維持 と持続可能性 との差異

を明 らかに している。

以上 を踏 ま えて本研究 で扱 う持続可能性 の イ メージを明 らかに した。すなわちそれは、ただ単 に長 く存在す るとい うのではな く、質的な変化 を 伴いなが ら発展す る経営主体、すなわち変態 を継 続 的に行 いなが ら持続可能性 に挑戦す る組織 が想 定 され る。 さらに合理的に測定可能 な経済価値 を 無限定的に追求す るのではな く、経済価値 では推

し測 ることがで きない不可視の価値 を重視す るこ とを想定 している。不可視の価値 とは、 どち らか とい うと非合理的で、複雑で、多様 な性質 をもつ 人間社会 や 自然環境 といった要素の ことである。

そこで本研究 においては、持続可能性 を、"経済 性 を包摂 しなが ら社会 か ら求 め られ る多様価値 を 漸次的に受容 してい く終 りなきプロセス" と定義 づ けた。

〔第3章

「経営組織 の概念整理」 では、持続可 能性 と並んで本研究の主要概念である経営組織 を 先行研究 を踏 まえて定義づけてい る。 まず、従来 型企業の持続不可能性 を4つの観点か ら論 じてい る。 それ らは、(D拡大 ・成長 による短命化、(か過 度の合理性追求 による短命化、(丑過去指向による 短命化、④効率的な経済性指向による短命化、の 4つである。 これに対 して、持続 的経営 を続 ける 企業の条件 を同 じく4点で整理 した。(∋身の丈 サ イズの持続的経営、(参安定 と変化の連動 による持 続的経営、③資金 に保守的な持続的経営、④地域 性重視の持続的経営、 としている。

組織 とい う言葉 が もつ含意 は広 い。 しか し組織 に共通 してい る特徴 は、 目的 を達成す るために、

協働 システムを持続す る、社会的存在、 とい うこ とにな りは しないだろうか。 さらにこのなかの 目 的を強調 し、経済価値 のみ を指向 した企業 をすな わち組織 として、特 に経営学では組織 といえばそ の代名詞 として企業 が用い られて きた。

た しかに企業が提示す る経済価値追求 とい う目 的が個人 に受容 され、価値 あるものであるかぎ り、

この 目的の追求は妨げ られ ることはない。すなわ ち企業 は持続 され る。 しか しひ とたび個人の多様 な価値基準 に直面 した とき、経済価値 だけでは個 人 を企業内に持続 的に引 き留めてお くだけの力 を もたな くなる。 しか も経済価値 を第一義 としない NPOを代表 とす る企業以外 の組織 が、社会 にお いてひ とつの勢力 となって くるにつれて、企業の 求心力 はます ます低下す るのは想像 に難 くない。

そこでは経済価値指向の企業 にかわる持続可能 な 組織 を形成 す る場合、"経営" とい う概念 が有効 に働 くと思われ る。

経営 とmanagementの語源の双方 か らひ もと く と共通点 として "や りくりす ること"の ような意 味が導 き出 され る。 この "や りくり"には合理的 に管理す ることのほかに、変化す る環境 にそのつ

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経営組織の持続可能性に関する一考察 43

ど目を向けて、組織 内に保有す るあらゆる資源 を 用いて環境 と相互作用 を行 うことも含 まれている。

以上 をもとに経営組織 を定義づ けると、"利用 可能な資源 を効率的、有効的に組み合 わせ、問題 解決や問題の創造 ・発見 を繰 り返 しなが ら、長期 にわたって存続す ることを可能にす る協働の しく み" とい う言 明が有効 とな るだ ろ う この よ う な理解 をすれば、経営の主体 は企業 を含むNPO、 ボランテ ィア組織、地域 コ ミュニテ ィ、なども含 まれ ることになる。 もはや この意味で経営 を経済 価値追求の企業 に固有の概念 とす る必要性 はな く なるうえに、不断の協働の営みである経営 が持続 可能性 に とって必要不可欠な概念 を提供す ると考 えられ る。

もちろん経営組織 が企業 に限定的な概念ではな い として も、社会的には企業の影響力の範囲は大 きい。ゆえに企業 をも包摂す る用法で経営組織 と い う言葉 を用いて、持続可能性の推進主体 として の重要 な役割 を経営組織 のなかに含めたい。 これ らの整理 をもとに、経営組織 を "利用可能 な資源 を効率的、有効的に組み合 わせ、問題解決や問題 の創造 ・発見 を繰 り返 しなが ら、長期 にわたって 存続す るための協働のい となみを可能にす るしく み" と定義づけ、企業 を包摂 しなが ら地域 コ ミュ ニテ ィや循環型社会 にまで持続可能性の推進主体 の射程 を広 げてい る。

〔第4章

「環境の複雑性 と経営組織 の持続可能 性」では、環境の複雑性 に着 目した。その理由は、

経営組織 と環境 との関係性 に着 目す る視点が経営 組織の持続可能性 にとって役立つ と考 えられ るか らである。環境の複雑性 とは、経営組織の運営 に 関す る外部要素の数や異質性 の ことを言 い、複雑 な環境においては多様 な外部の要素が相互作問 を おこし、経営組織 に影響 を与 える。単純 な環境で は、せ いぜ い3つ か4つの同質 的な外部要素 が経 営組織 に影響 を与 える程度 としている。環境の安 定および不安定性 は、環境要素の動 きが激 しいか 否かとい うことであ り、環境が月単位 あるいは年 単位でほとん ど変化 しないとき、環境 は安定 して いるとい う。反対 に不安定 な環境下では、環境要

素が不意 に働 くことをい う(ダフ ト、2002)0 単純で安定的な環境下では不確実性 は低 い。反 対 に複雑で不安定的な環境下では不確実性 は最大 となる。数 多 くの要素、た とえば自然環境、社会 環境、人間環境 といった多様 な環境要素が経営組 織 の環境 に踏み込んで きて、同時に変化 した とき には環境の不確実性 は増幅す ると考 えられ る。

今 日、多 くの経営組織 に とって環境要素 はます ます多様化 し、 この ことによって環境の複雑性 も 高 まって きていることが明 らかに されてい る。 こ れに対 して経営組織 は環境の複雑性 に対 して どの ように適応 して持続可能性 を高めてい くのが望 ま しいかを議論 しなければな らないだろう。本研究 で は、ル ーマ ン(1993)の社会 システ ムの考 え方 を援用 して1つの解答 を用意 した。 それ は経営組 織 に とって脅威 となる環境の複雑性 を縮減 メカニ ズムの具備 によって持続可能性へ と導 く契機 とと らえた ことにある。 システ ムは自己の複雑性 を 高度 化す ることに よって環 境 の複雑性 を縮減 す る。すなわち自己の複雑性 の高度化 こそが縮減能 力 の増大 とな る、 とい うの がル ーマ ンの システ ム論における最 も基本的な命題である(新 ・中野、

1984)。

経営組織 が環境の複雑性 を吸収す る際、環境の 側 にある複雑性 を経営組織 が吸収で きる範囲内に 限定 して適応す る対応 と、環境の複雑性 にあわせ て経営組織 が吸収で きる複雑性の範囲 を拡大 して い く対応では、 まった く性質 を異 にす る。経営環 境 が複雑 な動 きをす ることが自明 となった今 日、

なすべ きことは複雑性 を否定 して現実 を単純化す ることではない。む しろ経営組織 内の複雑性 を高 めてい くことで、環境の複雑性状態 をその ままに して相対的に経営組織の複雑性縮減能力 を高 めて い くことが求め られているのである。 この意味に おいてル ーマ ンの唱 えた縮減 メカニズ ムは、経営 組織の持続可能性 を促す可能性 をもっていると考 えられ る。反対 に複雑性 を否定す ることは環境 を 一様化 し、環境適応能力 を削減 して しまうことに なるだろう。

環境の不確実性 をもた らす複雑性の議論 は、 こ

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44 神奈川大学大学院経営学研究科 『研究年報』 第10 2006年3月

れ までその複雑性 ゆえに敬遠 されて きた。なぜ な ら未来 を手探 りで試行錯誤す るよ りも、先の見通 しをつ けあ らか じめ合理的に構造や機能 を設計 し てお くプロセスの方 が安定的な秩序 をもた らして きたか らである。 しか し環境撹乱下では、合理的 な組織 デザインや組織行動 を展開す ることは事実 上不可能 といわ ざるをえない。経営組織 は、環境 とシステムとがダイナ ミックな相互影響関係の中 で複雑性 の縮減 を行 いなが ら、進化 の道 を探 り、

環境の不確実性 を取 り込んで持続可能性 を高めて い くと考 えられ る。

複雑性の縮減 によって導かれ る経営組織の進化 は、偶然的に与 えられ る生物の進化 と異 な り、人 間が もつ固有 の性質 によって偶然 を必然化す るよ うな意識や主体性、知識、能力 を伴 う進化の道 を 模索す ることになる。人間が もつ固有の意味 を再 考す ることで、人間の協働 によって形成 されてい る経営組織 の持続可能性 を占 うことがで きると考 えられ る。つ ま り、複雑性縮減主体 を経営組織の 担い手である個人 に期待す ることと、経営組織 に とって環境の複雑性縮減 メカニズムを具備す るこ ととは相関関係 にあ り、 この関係性 が持続可能性 の契機 となると考 えられ る。

以上 をもとに複雑性の縮減 メカニズムによる経 営組織の持続可能性 を、多様性 を担 う個人の側面 か ら考察 を加 え、複雑性縮減主体 を経営組織の多 様性の担い手である個人 に期待 した。個人に期待 した理 由は、個人 と組織 は連鎖的に共進化 を指向 す ること、そ して個人 は他の経営資源 にはない独 自の経営資源 として環境適応や環境創造 を行 うこ とで、持続可能性 に貢献す るか らである。つ まり 複雑性の増大 と、その複雑性 を縮減す る新たな可 能性 とが有機 的にかかわっている背景 には、個人 存在への理解の必要性 が示唆 されてお り、第6章 の個人の分析 に橋渡 しす る部分 となっている。

〔第5章

「持続 可能性 を支 える価値 の 多様 化」

で は、価値 へ の着 目に よって持続可能性 を分析 す るための視 点 を提供 して い る。価値 は、複雑 化、異質化、多様化す る環境変化の中で、長期 に わたっていかに存続 してい くかを決定付 ける最 も

重要 な要素 た り得 る。本研究では、多様価値 が持 続可能性 と相関関係 にあることを見出 し、"経済 価値"、"社会価値"、"環境価値"の3つの価値基 準 を提案 し、 これ らが順番 に価値基準の影響範囲 の広 まりと、未来 に対す る時間のつなが りをとも なって進化、発展す るイメージを描 く。 そ して3 つの価値 基準の下 に2つずつ説明変数 を配 してい

る。つ まり経済価値 には合理性 と利便性 を、社会 価値 には地域性 と公共性 を、環境価値 には循環性

と多様性が整理 されている。

秦‑ 1 持続可能性分析における多様価値 とその 説明変数

価値 説明変数

経漬価値 合理性

利便性

社会価値 地域性

公共性

環境価値 循環性

(1) 経漬価値

第‑ に経済価値 を考 えてみたい.経済価値 とい う価値基準の下では、合理性 を基軸 に した組織行 動が重視 され るため、 目的達成 に積極 的に貢献す る変数のみ を取 りあげ、不確実 な要素 をで きるだ け除去す る。極大利益追求 とい う目的のために、

最適 な行動 を選択 し、適切 な資源配分が事前に計 画 され、その結果 は予測 しうるもの、 とい う一連 の合理的なモデル は、右肩上 が りで先の見通 しが 立 ちやすい経営環境の下では極 めて有効的であっ たと考 えられ る。

しか し今 日、利益追求行動 を目指 した結果、量 的な拡大追求 が もた らす物的に一様化 したグロー バル化社会の創 出に囚われ、質の変化や多様性 が もた らす豊か さの追求 に至 らなかった点で経済価 値 のマイナス面 が顕著である。影響範 囲の広 さと 深 さが修復不可能 なほど大 きくな り、 しか もその 悪影響の幅の大 きさを正当化で きる論理性や理論 が社会や 自然環境 を考慮 しない経済学 に代表 され

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経営組織の持続可能性に関する一考察 45

る学問では見つかっていないとい う事情 がある。

持続可能性 にとって、生命維持系の経済価値 は否 定 され るものではない。生産や消費、あるいは便 利 さの追求 を支 える経済価値 は少な くともわれわ れの活動の基層 を支 えていることは疑いようもな い ことであろう。む しろ経済価値 の存在 を認め、

これ とは異 なる社会価値 や環境価値 といった価値 基準 との共生 を認める包摂的な価値 の模索 によっ て、持続可能性 は強化 され ると考 えられ る。そこ で経済価値 が もつ存在意味 を整理す るために、経 済価値 の代表 的な説明変数 をあげてみたい。

① 合理性 :経済価値の説明変数

合理性 はテ イラーや フォ‑ ド以降、経済価値 を 支 えるもっとも中心的な行動原理であ り、多 くの 企業 に採用 されている。特定の 目的あるいは価値 の実現 を目指 して諸要素 を首尾一貫 して系統的に 組織化 しよ うとす る態度 を意味 してい る。所与の 目的に到達す るために最適の道具的諸手段 を選択 した り、最小の労力や費用で最大の利益 を獲得 し よ うとす るのが合理性の 1つの結果である。

合理性 を示す もっとも単純 な図式 は、費用 を安 く抑 え売上 を大 きくして利益 を増大す る、あるい は費用の増大以上 に売上 を大 きくして利益 を増大 す るとい うものになる。新製品を市場 に投入 した り、仕入原価 を安 くした り、製造原価 を低 く抑 え た り、人件費 を節約 した り、海外に生産拠点 を移

した り、新たに顧客 を確保 した り、設備投資 を行 っ た りなどが、具体的な合理的行動である。経済価 値の もと、合理性追求によってモ ノやカネの豊富 さが価値測定の基準にな り、数値 の高いほ うがよ り経済的に豊かであることを意味 している。

経済価値 が社会の活力の源泉 となることは前向 きに認 めたい。 しか し過度の合理性追求が勝ち負 けを明確 に分ける 「嫉妬の経済」 を生み出す場合 は、「賞賛の経済」 に転換 しなければな らない (輿 田、2003)。旧来の画一的で横並びな制度や慣習 の中で周 りと比較す るのではな く、以前の自分 と 比べて進歩す ること、 またそのチ ャンスが平等に 与 えられてい ることで個人の志 と個性 が最大限に

尊重 され る経済社会への指向は高 まっているとい えよう。

② 利便性 :経済価値の説明変数

よ り速 く、 より安 く、 よ り簡単 に、 より小 さく、

より多 く、 より快適 に、 コ トを運ぼ うとす る組織 行動 は、"欲 しい もの を、欲 しい ときに、欲 しい だけ、 どこか らで も"手 に入れたい とい う人間の 欲望 を満 たす ことと相関関係 にある。新 しい技術 を生み出 し、産業 を創 出 しなが ら人間にとって便 利 な社会 をつ くってい くとい う目標 が、人間一人 ひ とりの生活の時間的、空 間的制約 を取 り除 き、

また企業 にとっては経済価値 を支 える基盤 として 機能 していたとい える。

利便性 の追求 はある面 では社会 を活性化す る。

しか しその反面で消費拡大型の社会 を招 くことで、

人 々を 「商品帝国」 の落 とし穴 に導 く危険性 があ るO利便性追求のために物 的欲求 を満 たす ことは、

ある一定 の先進諸 国 にお け る人 々の欲求充足 に なっているものの、その裏側 で、地球規模の資源 の枯渇、貧困の差の拡大 などを引 き起 こってい る ことを見過 ごす ことがで きない。

しか し見方 を変 えると、利便性 は必ず しもすべ てを所有す る必要 を求めない。む しろその 「使用 価値」 に着 冒し、時には貸 し借 りす ら可能な社会 をつ くることへの可能性 が広 が る。短絡的に禁欲 を強 い るのではな く、思 う存分使 用す る方法で、

なおかつ望み を満 た してい く方法 を模索す ること、

つ ま り限界 を知 らない所有欲 に よってではな く、

「使用価値」 によって促進 され る貸 し借 り可能 な 社会の構築 に向けて組織 は貢献す ることが求 め ら れている。現世代のニーズ と未来世代のニーズの 両方 を満 た してい くことが持続可能性 を導 くきっ かけを与 えるとい う意味で、利便性 は積極 的な意 味 を見出す ことがで きることになるだろう。

( 2 )

社会価値

第二に社会価値 である。社会価値 は今、CSRに 代表 され るように、今大 きな注 目を集めているこ とは周知の通 りといえる。企業側 も社会 の変化に

(8)

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対 して能動的に企業の発展 に結びつけていこうと す る動 きが高 まってきてお り、企業 と社会の相乗 発展の メカニズムを築 くことによって、企業の持 続 的な価値創造 とより良い社会の実現 を目指す取 組みが拡大 している.その中心的キ‑ワー ドは持 続可能性であ り、経済、環境、社会の トリプルボ トムラインにおいて、企業 は結果 をだす よう求め られ る時代 になっている。

しか し、社会価値 の概念 は営利性や収益性、成 長性 などと異 な り、数値 的に表 しに くく多義的に 用い られ る傾向が強い。企業 とい う機軸 が徐 々に 絶対的な力 を失 う一方で、ある種 の理念 をもとに したボ ランタリーな人間関係 によって結ばれた組 織や行動が新たなスタンダ‑ ドにな りつつあるよ うに さえ見受 け られ る(阿部、2002)。 こ うして これ らの人間関係が ときには国境 を超 え、理念で 結ばれた組織 や行動が新 たなグローバル化 を構築 してい くことも想像 に難 くない。現 にこのような 協働型の新 しい組織の萌芽がみ られ るO

こうして一義的にとらえることので きない社会 価値 に対 して、その複雑 な意図を縮減す る主体は 個人 しかあ りえない。 しか し企業 とい う唯一の機 能的組織体 にのみ属す る個人は想定 されていない。

住 んでい る地域や理念 を共有す るコ ミュニテ ィや、

情報技術の発達によって実態はな くて も個人が結 合す るよ うな場であった りと、個人が地域的、 ま たは人間的に関係 を結ぶ場で社会価値 は育 まれ る と考 えられ る。そこで、社会価値 とい う価値の説 明変数 を地域性 と公共性 として説明 を加 えている。

(D 地域性 :社会価値の説明変数

地域の問題や課題の解決 を住民 とい う視点で活 動す ることで解決 し、地域 に貢献 していこうとす る動 きを指 している。興味深い ことには、 コ ミュ ニテ ィビジネスなどと呼ばれてい るように地域資 源 を再定義す ることで新 しい地域 が創 出 され る可 能性が提案 されは じめて もいる。

ここで問題 となるのは地域の概念である。地域 を ミクロ的に考察す ると、 自分たちの住 んでいる 限 られた土地 とい う意味 をもつだろう。 ところが

マクロ的に考察す ると、人間が識別 し、管理で き る範囲の空間が地域の単位 になっているので、グ ローバル化 を加味す ると典型的には ヨ‑ロッパ地 域、北米地域、アジア地域 などがあ り、 さらには 地球村 などの考 え方 によるな らば地球 も 1つの地 域 になって しまうか もしれない。 これ らの ことか ら地域 は物理的、絶対的 とい うよりは、認識主体 によって主観的、相対的に区別 され る性質 をもっ ているといえよう。

そもそ も地域 とは比較的普遍的で、明示 的な風 土 (和辻、1979)と、可変 的、暗黙 的 な文 化の交 織 によって規定 され る相対的空間の ことと考 えら れ る。 この空間の中で地域資源 を主体的に発見、

選択 しなが ら他者 と相互連結行動 を営む ことが地 域性の条件 とな り、地域共同体 に何 らかの貢献 を 果 たす と考 えられ る。 そ してその地域 を支 える主 体はあくまで も個性豊かな個人の存在 なのである。

② 公共性 :社会価値の説明変数

通常、異質性や不確実性 は社会 にとって望 まし くない もの とみな されている。ゆ えに異質性や不 確実性 はで きるだけ制御 して、同質性 と確実性 を 高 めることを最重要視 して きた。 しか しメル ッチ (1997)は 「多様性 を認 め、個 々人 の差異 に対 し て敬意 をもっ ことこそが連帯 と共生の新たな定義 へ と向か う第一歩である」 と指摘す る。連帯 と共 生 は公共性 に深 く関わっているので、 これ らを公 共性 に読み替 えて表現す ると、多様性 を認 め、個 々 人の差異 に対 して敬意 を払 うことが新 たな公共性 へ と向か う第一歩になると言 いかえられ るO

公共性 が可能 となるための条件 は、行為者の関 心事が所有ではな く、存在 に移行す ることである

いかに 目的合理的に自身の成果 を達成す るかを問 うのではな く、よ り良 く生 きることに密接 にかか わ る公共性 は

、NP O

や ボ ラ ンテ ィア組織 に よっ て 日常的な営み として社会 に浸透 しつつ ある。そ こでは共 によ り良 く生 きるために差異の権利 を認 め、相手 が異 なってい ることに寛容 になれ るかど うか、差異 に耐 えられ るか どうかが公共性の成否 の分かれ 目と考 えられ る。公共性 には私的行為 を

(9)

経営組織の持続可能性に関する一考察 47

包摂 しなが ら、 よ り良 く生 きるために対立 す る話 力 を "共 に"生 か してい く統合 的空間 を提供す る 可能性 を期待 で きると考 えられ る。

(3) 環境価値

第三 に環境価値 である。いわゆる地球環境の特 異 な性格 は、われわれが差 し迫 って直面 してい る 諸問題や課題 にだけではな く、経済や社会 システ ムの変革 に役立つ解決策 も環境の中に含 まれてい る点 にある。環境のメカニズ ムが人類 の生 き残 り に も当てはま り、われわれが長期持続 を望 むな ら ば、経済や社会 の制度 の あ らゆ る側面 に生態学的 な考 え方 を組み込 む必要 がある、 とい うことを認 めるところか らは じめなければな らないだ ろう。

地球環境 の もつ包容力の限界によって、われわ れの現在の ライフス タイルが来 るべ き次の世代 に 与 える影響 を真剣 に議論す る時期 が きてい る。現 在の経済や資源 に関す るあ らゆる活動 を、金銭 的 にではな く生物学的に検討す る時期 はすでに到来 しているよ うに さえ映 る。経済が得意 と して きた 資本 の概念 を分類 し、従来の人的資本、金融資本、

製造資本 に加 え、資源や生命 システム、生態系の サー ビスなどの 自然資本 を提案 した 「自然資本主 義」 も環境価値 への転換 にとって有効 な議論 と考 え られ る(ホ ーケ ン ・ロ ビ ンス、2001)。 その と きに "経済か、環境が 'とい う二者択一 的な議論 ではな く、最大 多数の人 々に豊 かな生活 を もた ら す よ うな経済や物質的世界 とのかかわ りを創造 し なければな らない。

た とえば現在の地球環境問題 は、高度経済成長 期の公害 問題 とは異 な り、その解決 に対 して明確 な解答がないのが特徴 となってい る。 この ように 明確 な答 えの ない問題の解決 は、 どの よ うな問題 を創造す るかにかかってい るとい えよ う。適切 な 問題設定が問題解決につ ながるのであるとす るな らば、 この問題設定 と解答の積み重ねが持続可能 な社会 を作 り出す といって もいいだろ う。 この よ うに持続可能 な社会 とは静態的な安定状態 ではな く、動態 的な安定状態 を指す。動態的な安定状態 を管理す るために生態系の一員 と して他 の生 きも

の と相互 に依存 しあってい るとい う 「生 きもの感 覚」(中村、2002)を もって行動 の判 断 を しなけれ ばな らない。環境価値 とは生命 を基本 に した価値 の あ り方 を示 す といって も過言 ではない。 そこで 生命か らみ えて くる生 きものの姿 か ら、持続可能 性 に貢献す る環境価値 を循環性 と多様性 の2つの 説明変数で整理 してみ た もので ある。

(D 循環性 :環境価値 の説明変数

『循環型 社会 自書』(2002)によれ ば、 「循環型社 会 に対応 した新 たな ライフス タイルの普及 によ り 環境 問題への対応 が うま くな され、21世紀型の ビ ジネスス タイルが創造 され ることによ り経済の低 迷 も克服す ることがで きれば、経済 と環境の新 た な関係 が創造 され るか もしれ な

」 とい う期待 が もたれて い る。 さらに、 「もはや <経済対環境 >

ではない。われわれ は異 なった関係 を創造 しよ う と してい る。資源の浪費 を通 じての成長 は終 わっ た。今後 の成長 は循環 に よって支 え られ る

」 と い う標語の下 に、循環型社会 におけるライフス タ イルや ビジネスス タイル を リデ ュース(Reduce)、

リユ ース(Reuse)、 リサ イクル (Recycle)の 3つの Re‑を推進 す るべ く 「リ ・ス タイル」 と して提 唱 している。特筆すべ きは、 これ まで長 い間、環境 保護 と経済成長 は両立 で きない とい う考 え方 が一 般 的だっただけに、 自書のなかで経済 と環境の両 立 を提示 した ことは一定の評価 に値 す ると考 えら れ る。

自己の ことにのみ責任 をもち、関係す ることに 責任 をもたない非生態系論理 で ある直線型 の論理 を採用す ると、大量生産、大量消 費、大量廃棄の 一直線のプロセスを経 ることにな る。 多 くの資源 をインプ ッ トして よ り多 くの アウ トプ ッ トを生み だす直線型の論理 はその単純 なプロセスゆ えに人 間の創造力 を必要 とせず機械 的に進行す る、安 易 かつ最 も地球環境 に負荷 をかける行動 とい えよ う。

一方 の循環型行動 では、循環 の ある時点では結 果で あって も、次の時点では事前の結果 が原因に なる。 自然界 では、資源 と排継物、生産 と消 費 な どが厳然 と区別 され ることな く相互 に交換 されて

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い るよ うに、循環型社会 において もプロセスの途 中で もインプ ッ トとアウ トプ ッ トの変換 をおこす ことは可能である。原因 と結果、あるいはインプ ッ トとアウ トプ ッ トが複雑 に絡み合 い、交換 され る 社会では、資源 は循環 させて利用 され るのが常 と なる。従来のよ うに所有欲 を限 りないものにす る 考 え方 にかわって、共有や共用す る考 え方、すな わち資源 を地球 か ら借 りて使 うとい う形 に移行す る方が、地球上 に棲み分ける‑生命体 としての人 間の謙虚 な生 き方 とい えよ う。つ まり循環型社会 では、資源 を多 く所有す るのではな く、共有 ・共 用す ることで、経済価値 と環境価値 の同時実現 を 図 ることが可能 となると考 えられ る。

② 多様性 :環境価値の説明変数

ヴッパ タール研究所 (ドイツ)のザ ックス(2003) は、近代 とい う時代の主要 なプロセスを均一化 と

してとらえ、近代科学 は多様 な文化や人間の共通 項 を探 し求め、標準化が可能 とみ られ る部分を探 し出 しては提示 し、それ をもとに世界中の多様 な 文化、社会、人間 を徹底的に平坦化 し、均一化 さ れた "ひ とつの世界" を築 くことに遇進 して きた プロセスを明 らかに した。一方で彼 は、 自然界の 特徴的な原理である多様性 に言及 し、 「人間生活 や経済活動 も、自然が健全 な機能の多様性 に依存 し、差異 を通 じて反映 し、結実す るのに似せて構 築 されなければな らな

」 として、多様性の原理 がこれ までの経済運営手法 を再構成す るための指 針になることに期待 を寄せてい る。

興味深い ことに、生態系に生来備わっている多 様性 は、それ らが生み出す差異 によって崩壊 す る のではな く、差異 こそが持続可能性 に貢献す ると い う性質 をもっている。なぜな ら生物 多様性 が持 続可能性 に必要 な動態的な安定状態 をつ くりだす か らである。生物進化の歴史 は、多様性の進展の 歴史であ り、 ヒ トが成立 して以来の人類史 も、文 化の多様性の進展 ととらえることがで きる。それ に対 して、産業革命 には じまる近代技術 は経済価 値主導で画一化 を推 し進めて きた。 自然生態系は 多様であるので、 それに近接 して発展す る農業生

態系 も本来多様 な ものであるにもかかわ らず、農 業 にまで科学技術の画一的な論理 を導入 したため に、農業の工業化、 あるいは農業の脱 自然化が起 こり弊害 を招いているの も事実である。

世界的には1990年代初 めに 「生物 多様性条約」

が作成 され、 日本 も1993年 に締結 してい る。 し か し一方で、生物 多様性条約の不備 を指摘す る声

もある。生物 多様性の研究者 ・活動家 として 世界 的 に注 目を浴 び るシヴ ァ (2003) が鋭 く指摘 し ているように、現代の支配的な傾 向は、 自然生態 系 については "生物 多様性の保全" を主張す るも のの、農業、林業、畜産 などの農業生態系におけ る画一化、モ ノカルチ ャー志向の弊害 には 目をつ ぶ るとい う自己矛盾 を含んでいるとい う。 自然生 態系 と農業生態系 とを包括 した視点か ら多様性の 復権 を求めるシヴァの議論 は貴重 な もの とい える。

多様性 は多様 なアウ トプ ッ トと産出物 とをもっ てお り、 これ らのアウ トプ ッ トの多 くは多様性 シ ステムに再投入、循環 されて次の生産の資源 とな りえる。 この ことは生態学的な安定性 をもた らす ことに加 えて、多様性 は さらに多様 な生活の糧 を 確保 し、相補 的な関係 を通 じて多様 なニーズ を満 たすのである。反対 に均質化 された生産 システム は、共同体の構造 を分解 し、生産 を外部か らの イ ンプ ッ トと外部市場 に依存 した ものにす る。 これ は政治的な脆弱性 をもた らす ことにつ ながる。な ぜ な ら生産基盤 が生態学的に不安定であ り、商品 市場 は経済的に不安定だか らである。つ まり多様 性では、関係 が異質でかつ開放的であればあるほ

ど持続可能性 にとって有効 となるのである。

従来の経営学では、経済学同様、価値 の源泉 は 経済価値 にあ り、モ ノやカネといった物 的豊か さ の基準が最優先 されて きた。企業 は特定の 目的を 達成 す るために効率的にデザインされ、 また合理 性 を基軸 に した組織行動が重視 されたため、経済 価値 に積極的に貢献す る変数のみ を取 りあげ、不 確実 な要素 をで きるだけ考察の対象か ら外 して き た。極大利益追求 とい う目的のために、最適 な行 動 を選択、適切 な資源配分が事前に計画 され、そ

(11)

経営組織の持続可能性に関する一考察 49

の結果 は予測 しうるもの、 とい う一連の合理的な モデルは、右肩上が りで先の見通 しが立 ちやすい 目的合矧 生指向の下では極 めて有効であったと考 えられ る。 しか もこのよ うな経済性偏重の価値追 求行動 はすでに経営学の誕生 とともにあったと考 えられ る。

ところが行 き過 ぎた経済価値追求 に警鐘 を鳴 ら し、企業組織の短期的な経済価値 に貢献す ること に存在意義 を認める以上の役割 を、社会科学の一 領域 として経営学は社会か ら要請 されは じめてお り、社会的役割 をもつ経営組織への速やかな転換 促進の方向付 けは、今や経営学 に与 えられ た使命 の 1つ となっている。経営学では客観性、普遍性 を追求 してい くと同時 に、あいまい性、主観性、

多様性 など、 これ まで科学の対象 にな り得 なかっ た要素 を注入す ることが、人間の学ゆえに可能 と なると考 えられ る。 これ を後押 しす るよ うに、す でに企業評価の基軸 に経済価値 だけではな く、社 会価値、環境価値 を加 え、企業 が社会 との共生 を 図 ろうとす る動 きは、経営学 において も提唱 され てい る(三上、1994)0

今 日ではもはや経済価値最大化の論理 は とらな い。 それにとってかわる論理 は多様価値創造の論 理であろう。多様価値 はいずれかを選択、排除す るのではな く、生命維持のために対極 にある価値 要素の存在 を認め、異 な りの共存 をむ しろ積極 的 に促進する、いわば相補性の原理 を採用 している ところに特徴 がみ られ る(海老揮、2004)。価値 の諸要素、すなわち経済価値、社会価値、環境価 値 はそれ らが もつ多様性、異質性、複雑性 を統合 し、それ らを包摂す る上位概念 をもつ ことで価値 統合 が起 こる。本研究では、経済価値、社会価値 、 環境価値 を包摂す るこの上位概念 に "荏営価値"

を提案 している。"荏営価値"とは 「長期にわたっ て持続す る協働の営み を意識 し方向づける共通の 認識基盤や基準」 と定義 され、経営組織の持続可 能性 を支 える有力な概念 となっている。

経済価値、社会価値、環境価値 を包摂す る経営 価値 は、経営組織の持続可能性 を支 える有力な概 念 になる。 とす ると組織の利益 に直接の影響 を及

ぽすばか りではな く、組織 その ものの持続期間に も影響 を与 える経営価値 を、 日々の状況のなかで 実践 してい く媒体がなければな らない。 ここで も 個人の能力に連動 して経営価値 の多様性の度合 い が決定 され ることが予見 され る。つ まり絶 えず複 雑 な環境 におかれている経営組織では、持続 的な 発展 に人び とを巻 き込 む必要 がある。経営組織 が もつ価値 は、個人の能力に連動 してその多様性 の 度合 いが決定 され る。すなわち組織 と個人の動的 均衡 が働 くと考 えられ るか らである。

〔第6章

経営価値 を指向す る個人 による持続 可能性 」 では、第4章 と第5章 の個 人の議論 を受 けて展開 され る。環境の複雑性 を縮減す るために は、経営組織内に多様性 を保持す ることが必要 と なる。ゆえに持続可能性 は組織 内のメ ンバ ーが保 持す る多様性の程度 に依存す ることにな り、 この 意味で経営組織の持続可能性 と個人 とは有機 的に 結びつ いて い ると考 え られ る。 そ こで持続 可能 性 の有 力 な推進主 体 で あ る個 人 の人間観 に言 及 し、individual、つ ま り不可分の全体 "in(‑not)

+

divide′′として合理人、公共人、 自然人 による統 合 的な人格の具備 によって、経済価値 、社会価値、

環境価値 を包摂す る経営価値 を実現す る遠 をひ ら いている。

経営組織 は当然の ことなが ら構成員によって成 立す る。 その構成員は個人 と組織である。いずれ も一定の価値 を共有 し、組織の 目的が個人の 目的 達成 に役立つ と信 じられている場合、生存願望 を もち両者の生存条件が整 えば、組織 と個人 との間 に誘引 と貢献の関係 が成立 し、持続可能性 が達成 され る。そこでは、個人のために役立つ ことが同 時に組織の利益 に もつ なが り、個人の潜在能力の 開発が組織の潜在能力 を創造す るとい う理解か ら 組織の利益 が うまれ ると考 えられ る。つ まり持続 可能性 は協働 を遂行す る個人に大 きく依存 してい る。 ゆ えにそ こでの問題 は、"個 人"の とらえ方 となって くる。経営組織の持続可能性 に向けて個 人 をどの ようにとらえるべ きか考察 を加 える必要 があることは想像 に難 くない。

複雑 な現象 を理解す るために、構成要素 として

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の単位存在 に還元 して とらえるとい う方法 は、人 間の思考 がた どる1つの自然 な経路で あ り、それ によって諸科学 が一定の成果 をあげて きたことは い うまで もない。 しか し、有効ではあるものの全 体 を理解す るには限界 をもっ この把握方法 しか知 らずに絶対化 され、無 自覚的に人間 と自然の見方 として、定着 して しまうのであれば、個人のあ り よ うを正 しく理解す ることは不可能 といわ ざるを えない。つ まりこの方法に過度 に依存す ると、結 局は計算の対象 となるものだけに視界が限定 され て しまうのである。

個人 をあ りの ままに正 しくとらえるためには、

世界がモ ノ、 イコール量的単位、 ととらえられ る ことが絶対視 されないような全体 として、質的価 値 の視点か らとらえ直 さなければな らないだろう。

その ときに個人の一つひ とつ は、全体および他の 個 との関係性 をそれ 自身の内に統合 して独 自の価 値観 を顕現 し、その価値 を再把握 しつつ 自己の同 一性 を保つ ように しなければな らない。 こうして 個人は、それぞれが他 によって代替不可能な、か けがえのない存在 として不可分な全体 を具現化 し うるのであるO しか も、一度形成 された ら変化 し ない硬直 的な個人ではなく、他者 との相互作用の 中で自分 を変 え、 また相手に も影響 を与 えるダイ ナ ミックな個性 を発揮す る個人が想定 され る。 こ うして培われ る環境の複雑性縮減能力 によって、

個 人 は組織 に とってかけが えのない統合 的全体、

す なわちindividualとな り、ひ いて は経営組織 の 持続可能性 を高 めることに貢献す ると考 えられ る。

Barnard(1968)も述べてい るよ うに、全体 に影 響 を与 える唯一の方法 は、部分に力 を加 えること である。 こうして不可分な全体である個人 を通 じ て組織 に影響 を与 えることで、個人 と組織 との動 的均衡 が実現 す ると考 え られ る。 そ こで個性 を もった個人か ら発意す る有効性 を意識 して、経営 価値 を支 える統合 的な全体 としての個人 を、経営 組織 における3つの価値 分類一 経済価値、社会価 値 、環境価値一 に則 して人間観の分類 を試みてい る。そこでは、持続可能性の有力な推進主体であ る個人がどのよ うに扱われて きたのかを古典経営

学、新古典経営学、近代経営学の順 で学説によっ て整理 し、経営における人間観の変化 を合理人人 間観、 自然人人間観、公共人人間観 として概観 し ている。個人 と持続可能性 との有機 的関係 をとら えてみ ると、持続可能性 に貢献す る人間観 は、機 械的、部分的なものか ら、包括的で、統合 を意識

した ものに変化 しつつ あるといえよ う。

様 々な人間観 が相互 に影響 しあって進化す る統 合 モデルのなかでは、合理的、非人間的、客観的 性格の "合理人"の部分 と、非合理 的、人間的、

主観的性格の "自然人"の部分、 さらに社会性 を 意識 した "公共人"の部分、 これ らが程度の差 こ そあれ、一人の人間の中で相互影響 を及ぼ しなが ら統合的全体 としての個人 を形づ くっていると考 えられ る。

図‑1 個人にまつわる人間観の分類

注 (カ ッコ) 内は組織 の価値基準 を示 し、人間 観 との連動 を意識 している。

分離不可能 な統合体 としての個人 を理解す るう えで、個性 (personality)は欠かす ことがで きな い要素 とな りうるだろう。人間(person)に由来す るpersonalityすなわち個性 は、不可分な全体 とし てのindividual、す なわち個 人 を特徴 づ け る重要 な要素 と考 え られ るか らで あ る。 滞潟(1972)に よれば、個性 とは、単一であるとともに唯一であ り、 しか も1つひ とつ異 なってお り、相互 に関係 を保 ちなが ら創造す るものの こととされてい る。

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経営組織の持続可能性に関する一考察 51

個性 は、選択の自由を与 えるかわ りに行動責任 を 伴い、 また全体の中で固有の役割 を認識す ると同 時に、全体か ら与 えられた役割 を担 うことを促進 す るものである。すべての個人は個性 をもつか ら こそ、その独 自の存在 と役割 を組織の中で活か し てい くことが可能 となるのである。

これ らの 個 人 の 概 念 は す で に 述 べ た よ う に、 分 離 不 可 能 な全 休 を合 意 して い る と と も に、individualつ ま り不可分 の全体、"in(‑not)

+

divide"として個人 を扱 うことの必然性 を導 くも のだろう。 さらにここで述べ る全体 とは、管理者 によって過剰管理 された単一 的な ものではな く、

異 なった複数の要素が常に絡み合 いなが ら、進化 す る多様 な全体であることはい うまで もない。多 様 な人間観 をもつ個人の個性 か ら発意す る有効性 を意識 して、単一的で断片的な人間観か ら、複合 的で統合的な人間観への途 を導 くことで、経営価 値 に も有利 に働 き、ひいては持続可能性の増大 を 期待で きると考 えられ る。

経営組織の観点か ら考 えると、持続可能性が組 織の行為における 1つの成果 として広 く認知 され てい くことが必要不可欠 となる。持続可能性 を支 える経営価値の構成要素すなわち経済価値 ・社会 価値 ・環境価値 は組織 内の構成員たる合理人 ・公 共人 ・自然人 を統合 的に具備 した個人 によって実 践 され る。

とはいえ、あ らゆる活動が個人の独力で成 し遂 げ られ るよ うにな るわ けではない。規模 が大 き な仕事 ほ ど組織 と して活動 す ることが必要 にな る。ただ し従前の組織 と異 なるのは、組織 として 活動す るためにはメンバ ー全員が一緒 になって同 じ場所、同 じ時間で働かなくてはな らない とい う 前提が崩れは じめたことといえる。かわ りに、個 人の自律性 を犠牲 にす ることな く、 これ までとは 異なるコ ミュニケーシ ョンや業務遂行方法 を採用 しつつ組織化 を図ってい くことが求め られ るだろ う。情報技術は、必要 に応 じて対面 的なコ ミュニ ケーシ ョンに近似 したバ ーチ ャル空間 さえ用意で きるところまで発展 している。個人が個性 を保 ち なが ら、状況 に応 じて協働 し、仕事 を成 し遂げる

時代の到来 は、かつての同質性 を前提 に した協働 か ら、異質性 を前提 に した協働へ と組織の変化 を 導 くだろう。 もちろん変化す るのは組織 だけでは ない。組織 が変われば、個人や社会 もその影響 を 受 けて変化するのは当然の帰結 といえよう。

この よ うに 「能 力 の まわ りに組織 をつ くる」 (ウール リ ッチ、1998)とい うよ うな考 え方 は、

すでに議論 の途上 にある。 ドラッカー(2002)も、

組織 とその構造、働 き手への報い方 について多様 なモデル が生 まれ ることを予見 してい る。企業、

政府機 関

、NP O

の いずれ もが、独 自にマ ネ ジメ ン トされつつ、密接 に連携す る多様 な人間組織 を 複数 もつ ことになることに加 え、企業のかたちそ の ものがその中で働 く個人の結びつ きによって変 わ ることを示唆 している。

個人の自律 によって、利 己的ないわゆる個人主 義 が横行す るのではな く、む しろ反対 にメ ンバ ー の関与 を促す ことに焦点 を当て、一体感や連帯意 識 を生み出 し、それによって信頼 と分かちあいの 精神が うまれ る。 こうして生 まれた組織 は、組織 構造が先にありきの従来型組織 とは異質の もの と いわ ざるをえない。たとえば ウェンガ‑ ら(2002) が提 唱 した 「実践 コ ミュニ テ ィ(Communitiesof Practice)」 は、 あ るテーマに関す る関心や問題、

熱意 などを共有 し、その分野の知識や技能 を、持 続的な相互交流 を通 じて深 めてい く人々の集団 と 定義 され る。

実践 コ ミュニテ ィは個 々の ビジネスユニ ッ トだ けではな く、異 なる組織 の人 々をも結びつ け、い つ しかシステム全体 を、求 め られ る中核的な知識 の まわ りに結び合 わせてい くもの と特徴づけ られ る。かつて組織構造にばか り目を奪われ、社会的 枠組みに関す る理解 を妨げていた ものが、実践 コ ミュニテ ィへの着 目によって、必要 な知識 を生み 出 して共有す る責任 を実践者 自身に担わせ ること で、メ ンバ ーに対話の場 を提供 し、組織 が知識 を 意図的、かつ系統 的に経営 に活かす ことが可能に なったとい う。 さらに実践 コ ミュニテ ィは、個人 間の信頼 関係 を築 き、帰属意識 を醸成 し、探究心 を引 き出 し、メ ンバ ーに自信や新 しい個性 を与 え

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52 神奈川大学大学院経営学研究科 『研究年報』 第10 20063月

るといった無形の成果 も指摘 されてい る。

個 を活かす組織のために もうひ とつ乗 り越 えら れなければな らない旧癖 は、 リーダーの存在であ る。従来型の整然 と管理の行 き届 いた組織のよ う に、意思決定 の担い手 を一人の管理者 に頼 ると、

瞬時に ドラステ ィックな変草 を断行で きるとい う 利点があるものの、ある一定の人への過度の依存 ゆえに漸次的で広範 な領域の環境変化 を組織 に組 み込むことは難 しい。反対に、環境の側 にある複 雑性 に対 して組織 内に も複雑性 を保持 してお くた めに、多 くの個人 をメンバ ーに加 えることで、持 続可能な組織 を形成す ることが可能 になる。つ ま り、個人が能力 を発揮す ることで結びついた組織 の方 が、複雑性縮減能力が高 く、持続可能性 とい う視点か らみたとき有効 となると考 えられ る。

第6章の主題である持続可能 な経営組織 のため の個人の役割 とは、一人の固定的、絶対的な リ‑

ダ ーに頼 るアプ ロ ーチで は な い. 「静 か な リー ダー」のように騒 ぎ立て ることな く自 らの個性 を 打 ち出 しなが ら、 リーダーの役割 をメ ンバ ー間で 共有 し、交替 させ ることで、「能力の まわ りに組 織 をつ くる」責任 を担 うことである。少な くとも 個人の能力は限 られた一部の人の独 占物ではない。

ゆ えに誰で もが程度の差 はあれ固有の能力 を備 え てお り、「能力の まわ りに組織 をつ くる」潜在 的 な可能性 は誰にで も平等に存在 し、能力 を発揮す る機会 とそれ を評価す る場が社会や環境 か ら公正 に与 えられ るな らば、個人は組織の持続可能性 に 最大限寄与す ることになるだろう。

4.

本研究 にお ける若干の提言 と今後 の 課題

最後に 〔第7章

「おわ りに〜若干の提言 と今後 の課題」では本研究の帰結が論 じられている。持 続可能性 を実現す るためには、不可分な全体すな わ ちin(not)+divideと しての全人格 的 な個人 の存 在 が必須条件 となる。 この議論では、個人 とい う のは、いったん役割が割 り当て られた ら半永久 的 にその役割にのみ従事す る機械的な存在 とい うの ではな く、常に進化す ることが想定 され る。つ ま

り個人がそのつ ど遭遇す る状況の中で、取 りあえ ず行動 してみて、その結果生 じた問題点 をフィー ドバ ック しなが ら新たな自己 を創出 し続 けること といえる。

もちろん変化す るのは個人だけではない。個人 が変われば、 その個人が関与す る集団や組織、社 会 も影響 を受 けて変化す る。持続可能性 に向けた 個 人の意識 は、企業、社会、国家、大陸、世界、

地球へ と、マクロ方向に向かって連鎖 して システ ム全体 を変化 させ る契機 ともな りえる。たとえば 経済価値 を考 えるときは企業 を、社会価値 を考 え るときは社会や国家 を、環境価値 を考 えるときは 自然や地球 を、 とさまざまな組織 レベルで個人は、

長期 にわたって持続す る協働の営み を意識 し方向 づける共通の認識基盤や基準、すなわち経営価値 を牽引す る役割 を担 ってい ると考 えることがで き よ う。

経営組織 の持続可能性 を導 くためには、個人の 結合 関係 によって組織の秩序 をつねに見直 し、 自 己超越す る一連の組織化のプロセスに導 くことが 必要 とされてい る。 この立場 は従来の環境決定論 か らは決 して理解 され えず、経営主体の認識枠組 みによって常 に作 り変 え可能 な、いわば環境創出 論の立場 にあるとい えるだろう。

環境創出論 は時間のつなが りと空間の広 が りに よってそれぞれ導 かれ る。時間軸 は過去、現在か ら未来指向に、空間軸 は狭域か ら広域空間に移行 す る。す なわ ち時間 と空間の2つの軸 は未来 を生 きるための潜在可能性 を増幅す るのに貢献す る。

このよ うな時間認識や空間認識の連続性 によって 経営組織 をとらえることが持続可能性 を強力に推 進す る条件 となるだろう。

過去に固執 して現在 を厳密に規定す ると未来が 短 くなる。 また多様性 が もた らす差異 を排除 しよ うとす ると却 って対立 が深 まることもある。持続 可能性 を指向す る経営組織では、たとえば社会価 値 が経済価値 を(環境価値 が経済価値 と社会価値 を、 とい うよ うに包摂 しなが ら連続的、継続的に 持続可能 な方 向へ導 く進化過程が示唆 され る。

同時に持続可能性 を力強 く推進す る個人の役割

参照

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