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学位授与機関 同志社大学

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Academic year: 2021

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(1)

外国にルーツを持つ子どもと社会をつなぐ場の創出 に関する実践的研究 : つながり支援を通じた多文 化共生社会に向けた試み

著者 森 雄二郎

学位名 博士(ソーシャル・イノベーション)

学位授与機関 同志社大学

学位授与年月日 2019‑03‑21

学位授与番号 34310甲第1002号

URL http://doi.org/10.14988/di.2019.0000000566

(2)

外国にルーツを持つ子どもと社会をつなぐ場の創出に関する実践的研究

-つながり支援を通じた多文化共生社会に向けた試み-

同志社大学大学院総合政策科学研究科 総合政策科学専攻 博士課程(後期課程)

2015年度 1005番 森 森 雄二郎

(3)

目次:

1.研究の枠組み ... 1

1.1.研究の背景 ... 1

1.2.研究の目的 ... 2

1.3.鍵概念の整理 1:多文化共生 ... 2

1.3.1.「多文化共生」概念の登場 ... 2

1.3.2.「共生」概念の系譜 ... 4

1.3.3.実践の論理としての「多文化共生」 ... 7

1.4.鍵概念の整理 2:外国にルーツを持つ子ども ... 8

1.5.鍵概念の整理 3:つながり ... 9

1.5.1.「つながり」概念の系譜 ... 9

1.5.2.教育分野における「つながり」概念 ... 10

1.5.3.外国にルーツを持つ子どもと「つながり」 ... 11

1.6.研究の対象 ... 12

1.7.研究の方法 ... 12

1.8.論文の構成 ... 13

2.多文化社会の進展とその社会的課題... 15

2.1.出入国管理政策の成立と旧植民地出身者の対応 ... 16

2.2.インドシナ難民や留学生の受入れ... 18

2.3.国や自治体の国際化施策のはじまり ... 20

2.4.日系人の流入と定住化への対応... 21

2.5.人口問題の中での外国人受入れ... 24

2.6.外国人材受入れの量的緩和 ... 26

2.7.多文化社会をめぐる社会的課題... 28

2.7.1.シティズンシップの問題 ... 28

2.7.2.政策なき外国人受入れ ... 30

2.7.3.ゼノフォビアやヘイトスピーチの問題 ... 32

2.7.4.小括 ... 34

3.欧米諸国における移民教育の動向 ... 35

3.1.アメリカ ... 35

3.2.オーストラリア ... 38

3.3.カナダ ... 42

3.4.イギリス ... 44

3.5.ドイツ ... 47

3.6.フランス ... 49

3.7.スウェーデン ... 51

3.8.各国の政策や取り組みが示唆するもの ... 53

4.日本における外国にルーツを持つ子どもをめぐって ... 55

4.1.外国にルーツを持つ子どもの現況... 55

4.2.外国にルーツを持つ子どもの教育問題 ... 56

4.2.1.日本語と学力の不足 ... 56

(4)

4.2.2.不就学や学校不適応 ... 57

4.2.3.狭められる教育達成の道 ... 58

4.3.周辺化される子どもたち ... 59

4.4.外国にルーツを持つ子どもに対する教育支援の取り組み ... 59

4.4.1.国民教育への編入 ... 59

4.4.2.日本語がわからない子どもへの対応 ... 60

4.4.3.外国人児童生徒教育の充実... 61

4.4.4.これまでの教育支援の問題点... 62

4.5.新たな教育支援に向けて ... 63

4.5.1.「多様な学力」へのまなざし ... 63

4.5.2.不足する「社会関係(つながり)」 ... 64

5.新たな教育支援のあり方の検討 ... 66

5.1.社会構成主義について ... 66

5.1.1.社会構成主義とは何か ... 66

5.1.2.社会構成主義の学習観 ... 67

5.1.3.社会構成主義の学習理論 ... 67

5.2.「つながり支援」の構想 ... 69

5.3.「つながり支援」の構成要件 ... 70

5.3.1.「能動的な市民性」の獲得 ... 70

5.3.2.アイデンティティの形成を媒介する「ロールモデル」 ... 71

5.3.3.「対話的空間」の創出 ... 73

5.3.4.多様な社会的リソースとの「協働」 ... 74

6.社会実験の概要 ... 76

6.1.事業の目的 ... 76

6.2.滋賀県という地域性 ... 77

6.3.運営体制 ... 77

6.4.事業の実施状況と変遷 ... 78

7.社会実験の検証1:つながり支援の教育効果 ... 80

7.1.分析の方法 ... 80

7.2.実践事例①:職場見学ツアー&将来を考えるワークショップ(2012) ... 81

7.2.1.実施にいたる経緯 ... 81

7.2.2.プログラムの構成 ... 82

7.2.3.学びの分析 ... 83

7.2.4.学びの考察 ... 86

7.3.実践事例②:職場見学研修&ビジネスマナー講座(2013) ... 87

7.3.1.実施にいたる経緯 ... 87

7.3.2.プログラムの構成 ... 88

7.3.3.学びの分析 ... 88

7.3.4.学びの考察 ... 91

7.4.実践事例③:職業人と語る会(2013〜2017) ... 92

7.4.1.実施にいたる経緯 ... 92

7.4.2.プログラムの構成 ... 93

(5)

7.4.3.職業人の選考方法 ... 94

7.4.4.新たなブースの設置 ... 95

7.4.5.学びの分析 ... 96

7.4.6.学びの考察 ... 102

7.5.実践事例④:ブジラル人学校におけるキャリアデザイン研修(2014〜2017) ... 104

7.5.1.実施にいたる経緯 ... 104

7.5.2.プログラムの構成 ... 104

7.5.3.学びの分析 ... 105

7.5.4.学びの考察 ... 108

7.6.実践事例⑤:多文化共生を考えるキャリアデザイン講座(2016〜2018) ... 110

7.6.1.実施にいたる経緯 ... 110

7.6.2.プログラムの構成 ... 111

7.6.3.学びの分析 ... 112

7.6.4.学びの考察 ... 116

7.7.検証結果の総括 ... 117

8.社会実験の検証2:つながり支援の波及効果 ... 119

8.1.関係者の学びの分析 ... 119

8.1.1.分析の方法 ... 120

8.1.2.学びの分析 ... 121

8.1.3.学びの考察 ... 125

8.2.連携やネットワークの分析 ... 126

8.2.1.関係者同士のつながり ... 127

8.2.2.新しい取り組みへと広がるつながり ... 129

8.3.検証結果の総括 ... 132

9.総合考察 ... 133

9.1.市民が育つ場 ... 133

9.2.ロールモデルの機能と再生産 ... 134

9.3.対話的空間の場づくり ... 135

9.4.教育コミュニティの形成プロセス... 137

9.4.1.個人の問題意識から ... 137

9.4.2.問題意識の共有化 ... 139

9.4.3.中間支援組織とコーディネーターの存在 ... 140

9.4.4.小括 ... 141

9.5.「多文化共生社会」に向けて ... 141

10.おわりに ... 143

10.1.本研究が示したもの ... 143

10.2.残された課題 ... 146

10.3.今後の展望(自らのキャリアデザインについて) ... 147

参考文献

(6)

1 1. 研 究 の 枠 組 み

1.1. 研 究 の 背 景

今 日 、 グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン の 名 の も と に 活 発 と な っ た 人 や モ ノ 、 情 報 の 越 境 的 な 往 来 は 、 そ の 恩 恵 と 課 題 を 内 包 し つ つ 、 世 界 の 経 済 的 、 政 治 的 、 文 化 的 な 結 び つ き を 強 め て い る 。 企 業 や 個 人 の 活 動 は 国 境 を 越 え 、 地 球 環 境 問 題 や 南 北 問 題 な ど の グ ロ ー バ ル イ シ ュ ー の 発 生 、 さ ら に は 地 域 社 会 に お け る 個 人 化 が す す み 、 社 会 的 連 帯 の 喪 失 、 貧 困 や 社 会 的 孤 立 と い っ た 具 体 的 な 生 活 に 関 わ る 問 題 な ど の 社 会 課 題 も 山 積 し て い る 。 そ の 中 で 、 移 民 、 難 民 、 国 際 労 働 や 留 学 、 国 際 結 婚 と い っ た 国 家 の 枠 組 み を 越 え た 人 々 の 移 動 が 増 大 し た こ と に よ っ て 、 人 種 や 民 族 間 の 文 化 摩 擦 や 葛 藤 を と も な い な が ら 、 世 界 各 地 で 国 民 を 中 心 と す る 国 民 国 家 や 血 縁 ・ 地 縁 的 な つ な が り を 基 盤 と す る 地 域 社 会 の あ り 方 が 大 き く 揺 ら い で い る 。

現 在 、 日 本 に 暮 ら す 外 国 人 ( 在 留 外 国 人1) の 数 は 2008 年 の リ ー マ ン シ ョ ッ ク 、 2011 年 の 東 日 本 大 震 災 の 影 響 も あ っ て 一 時 的 に 減 少 し た 時 期 が あ っ た と は 言 え 、2012 年 か ら は 再 び 増 加 に 転 じ 、2017 年 に は 250 万 人 を 越 え て 過 去 最 高 の 数 字 と な っ て い る 。少 子 高 齢 化 に よ っ て 労 働 者 人 口 が さ ら に 減 少 す る 中 で 、 さ ま ざ ま な 産 業 分 野 で の 外 国 人 材 の ニ ー ズ は 高 く 、 さ ら に 国 際 結 婚 や 国 籍 取 得 な ど を 含 め る と 、 ま す ま す 社 会 の 多 文 化 化 が 進 行 し て い く こ と は 確 実 で あ る 。 異 な る 国 籍 や 民 族 、 あ る い は 多 様 な 文 化 背 景 を 持 つ 人 々 と と も に 生 き る 、い わ ゆ る「 多 文 化 共 生2」は 日 本 社 会 に と っ て 、あ る い は そ の 社 会 の 成 員 一 人 ひ と り に と っ て 望 む か 望 ま な い か に 関 わ ら ず 直 面 せ ざ る を 得 な い 課 題 と い う こ と が で き る 。

し か し 一 方 で 、異 質 な 存 在 と し て の 外 国 人 や 異 な る 文 化 背 景 を 持 つ 人 々 に 対 す る「 差 別 」 や 「 排 除 」 と い っ た 問 題 も 表 面 化 し て い る 。 移 民 や 難 民 の 排 斥 運 動 、 在 留 外 国 人 に 対 す る ヘ イ ト ス ピ ー チ と い っ た 直 接 的 な 差 別 行 為 だ け で な く 、 住 民 と し て の 権 利 保 障 や 機 会 均 等 と い っ た シ テ ィ ズ ン シ ッ プ ( 市 民 権 ) の 問 題 か ら 地 域 の ご 近 所 付 き 合 い ま で 、 国 家 や 地 域 社 会 の あ り 方 か ら 個 人 の 意 識 レ ベ ル に お い て も「 共 生( と も に 生 き る )」を め ぐ る 問 題 は 多 岐 に わ た っ て 生 じ て い る 。

そ し て 、外 国 に ル ー ツ を 持 つ 子 ど も3の 教 育 問 題 も そ の 1 つ で あ る 。在 留 外 国 人 の 数 が 急 増 し た 1990 年 代 以 降 、異 な る 国 籍 や 文 化 背 景 を 持 つ 子 ど も た ち が 量 的 に も 質 的 に も 拡 大 し 、

1 「 出 入 国 管 理 及 び 難 民 認 定 法 上 の 在 留 資 格 を も っ て 我 が 国 に 中 長 期 間 在 留 す る 外 国 人 ( 中 長 期 在 留 者 ) 及 び 特 別 永 住 者 」 を 指 す 。

2 総 務 省 ( 2 0 0 6 ) に よ れ ば 「 国 籍 や 民 族 な ど の 異 な る 人 々 が 、 互 い に 文 化 的 ち が い を 認 め 合 い 、 対 等 な 関 係 を 築 こ う と し な が ら 、 地 域 社 会 の 構 成 員 と し て 共 に 生 き て い く こ と 」 と 定 義 さ れ る 。 詳 細 は 後 述 す る 。

3 一 般 的 に は 「 外 国 籍 あ る い は 両 親 の ど ち ら か 一 方 が 外 国 籍 で あ る 子 ど も 」 を 指 す 。 詳 細 は 後 述 す る 。

(7)

2

学 校 を は じ め と す る 教 育 機 関 に お い て も そ の 問 題 意 識 や 対 応 が 示 さ れ る よ う に な っ た 。 こ れ ま で に も 、 主 に 学 校 を 中 心 と す る 教 育 現 場 に お い て 日 本 語 教 育 や 適 応 指 導 な ど 、 さ ま ざ ま な 教 育 支 援 の 取 り 組 み が 行 わ れ て き た が 、 国 籍 や 文 化 背 景 の 差 異 に よ っ て 十 分 な 教 育 機 会 が 得 ら れ な か っ た り 、 限 ら れ た 進 路 選 択 ( 特 定 の 学 校 や 職 業 へ の 就 学 ・ 就 職 ) を 強 い ら れ る な ど 、彼 ら 彼 女 ら の 教 育 達 成4に は い ま だ 多 く の 格 差 が あ る 。そ こ に は 、単 に 日 本 語 や 学 力 が 不 足 し て い る と い う 個 人 の 問 題 の ほ か 、 親 の 教 育 観 や 経 済 力 、 あ る い は 周 辺 化 さ れ た 社 会 ( 特 定 の エ ス ニ ッ ク コ ミ ュ ニ テ ィ ) の 中 で 生 活 し て い る こ と に よ っ て 十 分 な 情 報 や 知 識 が 得 ら れ な い と い っ た 、 社 会 と の 結 び つ き や 関 係 性 が 希 薄 だ と い う 社 会 関 係 ( つ な が り ) の 問 題 も 横 た わ っ て い る 。

こ う し て 彼 ら 彼 女 ら を 社 会 的 ・ 文 化 的 に 周 辺 化 さ せ る こ と は 格 差 や 貧 困 の 再 生 産 ( 社 会 的 排 除 ) を 引 き 起 こ し 、 ひ い て は 社 会 の 分 断 や 不 安 定 化 を 招 く こ と に も な り か ね な い 。 ま た 、 声 高 に 社 会 の グ ロ ー バ ル 化 が 叫 ば れ る 中 に お い て 、 多 様 な 文 化 背 景 や 価 値 観 を 有 す る 彼 ら は 、 本 来 で あ れ ば こ れ か ら の 社 会 を 担 う 重 要 な ア ク タ ー で あ り 、 そ う し た 彼 ら 彼 女 ら に 自 己 実 現 の 道 を 拓 き 、 誰 も が 社 会 の 一 員 と し て 包 摂 さ れ る 社 会 を 目 指 す こ と は 日 本 社 会 あ る い は そ の 成 員 一 人 ひ と り に と っ て 大 き な 命 題 と 言 え る 。

1.2. 研 究 の 目 的

本 稿 の 目 的 は 、(1)日 本 社 会 の 多 文 化 化 の 実 態 を 明 ら か に し た 上 で 、そ の 課 題 の 1 つ と し て 外 国 に ル ー ツ を 持 つ 子 ど も の 教 育 支 援 に 関 す る 施 策 や 取 り 組 み を 取 り 上 げ 、 そ の 現 状 と 課 題 を 確 認 す る こ と 、 (2)(1)で 示 さ れ た 課 題 の 解 決 方 法 の 1 つ と し て 「 社 会 関 係 ( つ な が り )」に 着 目 し た 新 た な 教 育 支 援 の あ り 方 を 構 想 し 、そ の 具 体 的 な 実 践 の 成 果 や 課 題 を 社 会 実 験 的 ア プ ロ ー チ に よ っ て 検 証 す る こ と 、 (3)(1)、 (2)の 知 見 に 基 づ い て 、「 多 文 化 共 生 」 に 向 け た 新 た な 教 育 支 援 の あ り 方 や 枠 組 み を 提 示 す る こ と で あ る 。

1.3. 鍵 概 念 の 整 理 1: 多 文 化 共 生

本 節 で は 、 ま ず 本 研 究 の 鍵 概 念 で あ る 「 多 文 化 共 生 」 と は 何 か 、 従 来 の 「 多 文 化 共 生 」 概 念 に 関 す る 先 行 研 究 を 概 観 し た 上 で 、 本 稿 に お け る 定 義 や 位 置 づ け を 明 ら か に す る 。 1.3.1.「 多 文 化 共 生 」 概 念 の 登 場

現 在 使 用 さ れ る 「 多 文 化 共 生 」 と い う 文 言 は 「 外 国 人 ( あ る い は 異 な る 文 化 背 景 を 持 つ

4 「 進 路 先 や 学 歴 、 お よ び そ れ ら を 達 成 す る た め に 必 要 な 知 識 や 技 能 を 獲 得 す る 過 程 」 を 指 す 。

(8)

3

人 々 ) と の 共 生 」 と い う 文 脈 で 語 ら れ る こ と が 多 い 。 塩 崎 ( 2012) に よ れ ば 、 日 本 に お け る 「 多 文 化 共 生 」 概 念 は オ ー ス ト ラ リ ア な ど で 展 開 し て き た 「 多 文 化 主 義 」 概 念 と 重 な る 部 分 も あ る が 、完 全 に 同 じ も の で は な く 、日 本 独 自 に 発 展 し て き た 部 分 も 多 い と し て い る 。 日 本 で「 多 文 化 共 生 」と い う 文 言 が 登 場 し た 時 期 に つ い て は 諸 説 あ る が 、 1993 年 に 神 奈 川 県 で 開 催 さ れ た 「 開 発 教 育 国 際 フ ォ ー ラ ム 」 を 案 内 し た 新 聞 記 事 や 同 県 川 崎 市 の 「 お お ひ ん 地 区 ま ち づ く り 協 議 会 」 が 出 し た 提 言 に 「 多 文 化 共 生 の 街 づ く り 」 と い う 文 言 が 登 場 し た こ と ( 国 際 協 力 機 構 2007) や 1995 年 阪 神 淡 路 大 震 災 を 期 に 立 ち 上 げ ら れ た 「 多 文 化 共 生 セ ン タ ー 大 阪5」の 名 称 な ど が 先 駆 け で あ る と さ れ る 。ま た 、文 化 的 ・ 民 族 的 マ イ ノ リ テ ィ と の「 共 生 」と い う 意 味 で は 、1970 年 代 の 北 海 道 に お け る ア イ ヌ 民 族 の 権 利 回 復 運 動 な ど の 中 で 、差 別 に 反 対 す る も の と し て「 共 生 」と い う 言 葉 が 使 わ れ て い た と い う( 花 崎 20 01)。

そ の 後 、1990 年 代 に 入 っ て か ら 在 留 外 国 人 数 の 増 加 に と も な い 、外 国 人 を 対 象 と す る 施 策 の 必 要 性 が 高 ま る 中 で 、「 多 文 化 共 生 」あ る い は「 外 国 人 と の 共 生 」と い う 文 言 が 行 政 文 書 の 中 で も 登 場 す る よ う に な っ た6。 そ し て 、 2005 年 に 総 務 省 が 「 多 文 化 共 生 の 推 進 に 関 す る 研 究 会 」を 設 置 し 、「 多 文 化 共 生 」を「 国 籍 や 民 族 な ど の 異 な る 人 々 が 、互 い に 文 化 的 ち が い を 認 め 合 い 、 対 等 な 関 係 を 築 こ う と し な が ら 、 地 域 社 会 の 構 成 員 と し て 共 に 生 き て い く こ と 」( 総 務 省 2006) と 定 義 し た 以 降 は 主 に 外 国 人 支 援 に 関 す る 施 策 や 取 り 組 み に お い て 行 政 機 関 の み な ら ず 、 市 民 団 体 や メ デ ィ ア な ど で も 盛 ん に 使 用 さ れ る よ う に な っ て い る 。

し か し 、 一 方 で 政 策 ス ロ ー ガ ン と し て 使 用 さ れ る 「 多 文 化 共 生 」 概 念 に 対 し て は 、 様 々 な 批 判 も あ る 。 た と え ば 、 ハ タ ノ ( 2011) は 「 マ イ ノ リ テ ィ や 社 会 的 に 弱 い 立 場 に 置 か れ て い る 人 に と っ て 、 マ ジ ョ リ テ ィ と の 共 生 は 、 好 む と 好 ま ざ る と に か か わ ら ず 、 常 に 直 面 せ ざ る を 得 な い 「 前 提 」 で あ る 。 し か も 、 多 く の 場 合 、 マ ジ ョ リ テ ィ に よ っ て 権 利 が 侵 害 さ れ て い る 、 あ る い は 認 め ら れ て い な い 状 態 に あ る 。 そ の た め 、 マ イ ノ リ テ ィ が マ ジ ョ リ テ ィ 側 に 何 を 要 求 す る 場 合 、「 多 文 化 共 生 」 と い っ た 抽 象 的 で 丸 み を 帯 び た 言 葉 を 使 っ て 、

「 多 文 化 共 生 を 実 現 し て ほ し い 」 と 言 う こ と は な い 。 マ イ ノ リ テ ィ の 立 場 か ら す れ ば 、 む し ろ「 自 分 た ち の こ の 権 利 を 認 め て ほ し い 」「 侵 害 し な い で ほ し い 」と い っ た 形 で 切 実 な 要 求 を 掲 げ る の が 自 然 な の で あ る 」( ハ タ ノ 2011: 35-36) と し て 、「 多 文 化 共 生 」 と は 当 事

5 同 団 体 で は 、 活 動 の 目 的 を 「 国 籍 ・ 言 語 ・ 文 化 や 性 な ど の ち が い を 認 め 、 尊 重 し あ う 「 多 文 化 共 生 社 会 」 の 実 現 」 を 目 指 し て い る と し て い る 。

6 2000年 に 出 さ れ た 法 務 省 の 「 出 入 国 管 理 基 本 計 画 ( 第 2次 )」 で は 「 日 本 人 と 外 国 人 が 心 地 よ く 共 生 す る 社 会 の 実 現 を 目 指 し て い く も の で あ る 」と さ れ(U RL 1)、2001年 に 発 足 し た 外 国 人 集 住 都 市 会 議 の 設 立 趣 旨 文 で は「 外 国 人 住 民 と の 地 域 共 生 の 確 立 を め ざ し て い く 」 と 明 記 さ れ て い る 。

(9)

4

者 ( マ イ ノ リ テ ィ や 社 会 的 に 弱 い 立 場 に お か れ て い る 人 た ち ) の 側 か ら 発 生 し た 言 葉 で は な く 、 マ ジ ョ リ テ ィ に よ る マ ジ ョ リ テ ィ の た め の 言 葉 で あ る と し て い る 。

岩 渕 ( 2010) は 「 多 文 化 共 生 」 の 内 実 と し て 「 支 配 的 立 場 に 位 置 す る 「 国 民 」 を 他 者 性 を 寛 容 す る 不 可 視 の 中 心 と し て 位 置 づ け て 、 周 縁 化 さ れ た 人 々 に 「 エ ス ニ ッ ク 」「 外 国 人 」 の 看 板 を 背 負 わ せ る こ と で 、 都 合 の い い 消 費 の 対 象 と し て の エ キ ゾ チ ッ ク な 文 化 ( 食 ・ 音 楽 ・ フ ァ ッ シ ョ ン な ど ) だ け が 是 認 さ れ が ち 」 に な り 、 結 果 的 に 「 社 会 の 一 員 と し て 共 に 社 会 を 構 成 し て よ り 包 含 的 な 社 会 へ と 変 革 し て い く 共 生 の 発 想 と は 根 本 的 に 異 な る だ け で な く 、そ れ を 抑 圧 す る も の で さ え あ る 」( 岩 渕 2010:16)と し て い る 。さ ら に 、竹 沢( 2011)

は 、 現 状 の 「 多 文 化 共 生 」 概 念 が 有 す る 問 題 点 と し て 「 支 配 集 団 の 中 心 性 や 優 位 性 が 揺 る が な い こ と 」「 文 化 が 単 な る 消 費 の 対 象( た と え ば「 衣( fashion)」「 食( food)」「 祭( festival)」)

と し て 扱 わ れ て い る こ と 」「 本 質 主 義 的 な 文 化 概 念 が 文 化 の 重 層 性 や 可 変 性 を 不 透 明 に し て い る こ と 」 な ど を 挙 げ て い る 。

つ ま り 、「「 共 生 」 と い う 言 葉 が 醸 し 出 す 心 地 い い 調 和 的 な 響 き が 、 多 文 化 社 会 に お け る 不 平 等 や 差 別 と い っ た 負 の 側 面 を 覆 い 隠 し て 」( 岩 渕 2010:16)し ま い 、マ イ ノ リ テ ィ の 側 で あ る 外 国 人 や 文 化 背 景 の 異 な る 人 々 を 固 定 化 し て し ま う こ と で 、 結 果 と し て 本 来 の 「 共 生 」 と は ま っ た く 異 な る 社 会 を 形 作 っ て し ま う 恐 れ が あ る こ と を 意 味 し て い る 。 こ れ ら の 批 判 は 、「 共 生 」が あ る 種 理 想 的 な 社 会 の あ る べ き 姿 、社 会 状 態 を 示 す も の と し て 、無 自 覚 に 氾 濫 し て い る こ と に 対 す る 警 鐘 で あ る と 言 っ て よ い 。

し か し 、一 方 で グ ロ ー バ ル 化 が 進 み 、ま す ま す 社 会 が 複 雑 多 様 化 す る 現 代 社 会 に お い て 、 外 国 人 に 限 ら ず 「 異 な る 文 化 背 景 を も つ 他 者 と と も に 生 き る 」 と い う 実 質 的 な 課 題 は 日 本 社 会 あ る い は 我 々 一 人 ひ と り の 生 活 空 間 に お い て も 避 け が た い も の で あ り 、さ ら に「 差 別 」 や 「 排 除 」 と い っ た 社 会 的 病 理 を 乗 り 越 え る た め の オ ル タ ナ テ ィ ブ と し て も 、 も は や 「 共 生 」 と い う 言 葉 を 手 放 す こ と は で き な い で あ ろ う 。 そ こ で 、 今 一 度 「 多 文 化 共 生 」 概 念 を 捉 え 直 し 、 新 た な 社 会 の 指 標 と し て い く 必 要 が あ る と 言 え る 。

1.3.2.「 共 生 」 概 念 の 系 譜

現 在 、多 義 的 に 使 用 さ れ て い る「 共 生 」と い う 言 葉 は 、大 き く 分 け て「 自 然 科 学 的 共 生 」

「 社 会 科 学 的 共 生 」 の 2 つ の 視 点 か ら 捉 え る こ と が で き る 。 特 に 「 人 と 人 と の 共 生 ( 社 会 科 学 的 共 生 )」 に つ い て の 議 論 を 始 め た の は Park で あ る と さ れ て い る ( 小 内 1999)。 Park

(10)

5

( 1986) は コ ミ ュ ニ テ ィ の 本 質 的 特 徴 と し て 「( 1) 個 体 群 が 、 組 織 さ れ た テ リ ト リ ー を も ち 、( 2) 占 有 し て い る 土 壌 に ほ ぼ 完 全 に 根 づ い て お り 、( 3) 個 別 単 位 は 相 互 依 存 関 係 の な か で 生 活 し て い て 、 そ の 関 係 は 、 人 間 に 当 て は め た 場 合 、 社 会 的 と い う よ り 共 生 的 な も の で あ る 」 と し て い る 。 さ ら に 「 植 物 や 動 物 の 社 会 と は ち が っ て 人 間 社 会 は 、 生 物 レ ベ ル と 文 化 レ ベ ル と い う 2 つ の レ ベ ル で 組 織 さ れ て い る と み る の が 、 妥 当 で あ る 。 競 争 を 基 礎 に お く 共 生 的 社 会 と コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン と コ ン セ ン サ ス に 基 礎 を お く 文 化 的 社 会 と が 存 在 す る 」 と 述 べ て い る 。 こ こ で い う 共 生 社 会 と は 、 異 な る 種 類 の 人 々 が コ ミ ュ ニ テ ィ 内 で 競 合 し あ う 種 の 間 の バ ラ ン ス 維 持 の た め の 生 態 学 的 な メ カ ニ ズ ム ( 競 争 ) を 備 え て い る の で あ り 、 換 言 す れ ば 「 複 数 の 人 種 に よ る 独 自 の コ ミ ュ ニ テ ィ が 棲 み 分 け を す る こ と に よ っ て 共 存 し て い る 社 会 」 で あ る と み な す こ と が で き る ( 小 内 1999:125)。

Park が 「 生 態 学 的 な 共 生 ( symbiosis)」 を 人 間 社 会 に 導 入 し よ う と し た 一 方 、 Illich

( 1973=1989) は 、「 宴 」 や 「 宴 に 集 う 人 々 の 親 密 な 関 係 性 」 の 意 味 を 含 む 「 自 立 共 生

( convivialty)」と い う 用 語 を 採 用 し て 、「 共 生 」概 念 を 整 理 し て い る 。そ こ に は 産 業 主 義 的 な 社 会 シ ス テ ム に 対 す る ア ン チ テ ー ゼ と し て 、「 各 人 の 間 の 自 立 的 で 創 造 的 な 交 わ り と 、 各 人 の 環 境 と の 同 様 の 交 わ り を 意 味 さ せ 、( 中 略 )他 人 と 人 工 的 環 境 に よ っ て 強 い ら れ た 需 要 へ の 各 人 の 条 件 反 射 づ け ら れ た 反 応 と は 対 照 的 な 意 味 を も た せ よ う 」

( Illich1973=1989:39-40) と い う 意 図 が 込 め ら れ て い る 。 そ し て 、「 自 立 共 生 的 な 社 会 を 実 現 で き る と す れ ば 、 そ れ は も っ と も 十 分 に か つ も っ と も 自 由 に 地 域 社 会 の 諸 道 具 を 利 用 で き る 機 会 を 各 成 員 に 保 証 し 、 し か も こ の 自 由 を ほ か の 成 員 の 同 等 の 自 由 の た め に の み 制 限 す る よ う な 社 会 的 配 置 の 結 果 」で あ り 、「 一 人 の 人 間 に と っ て の 自 由 が 他 人 に と っ て の 同 等 の 自 由 を 生 み だ す 要 請 に よ っ て し か 制 限 さ れ る こ と の な い 社 会 で あ る だ ろ う 。 そ う い う 社 会 は 前 提 条 件 と し て 、 ま さ に そ の 特 性 に よ っ て 、 そ う い う 自 由 を 妨 げ る よ う な 道 具 を 排 除 す る と い う 同 意 が 必 要 で あ る 」と し て い る( Illich1973=1989 )。Illich は 個 人 の 自 立 と 自 由 を 支 え る 社 会 シ ス テ ム ( 共 生 的 制 度 ) の 上 に 、 個 人 間 あ る い は 個 人 - 環 境 間 の 創 造 的 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン が 営 ま れ る 社 会 を 共 生 社 会 と 位 置 づ け て い る 。

田 中 ・ 名 和 田 ・ 桂 木 ( 1992) は 生 態 学 的 な 均 衡 と し て の 「 共 棲 ( symbiosis)」 に は 、「 安 定 し た 閉 鎖 系 」 と し て の 「 調 和 」 や 「 協 調 」 の イ メ ー ジ が 重 ね ら れ て お り 、 い わ ば 「 閉 じ た 共 存 共 栄 シ ス テ ム 」の 存 在 が 前 提 と な っ て い る と し て い る 。「 閉 じ ら れ た 共 存 共 栄 シ ス テ ム 」 と は 、 一 応 異 な っ た 種 を 含 む も の の 、 そ れ ら の 間 に は 利 害 の 一 致 に 基 づ く 緊 密 な 協 力

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関 係 ( た と え ば ス カ ラ ベ ・ サ ク レ ( ふ ん こ ろ が し ) と 羊 の 関 係 ) が あ り 、 生 活 様 式 の 異 な る 別 の 種 が こ の 関 係 に 参 入 す る 可 能 性 は な い 。 そ れ に 対 し 、 人 間 社 会 に お け る 「 共 生

( conviviality)」 と は 「 異 質 な も の に 開 か れ た 社 会 的 結 合 様 式 」 で あ り 、「 利 害 と 価 値 観 を 異 に し 、多 様 な 生 の 諸 形 式 を 実 践 す る 人 々 が 、対 立 し 、論 争 し 、「 気 に な る 存 在 」と し て 誘 惑 し あ う こ と に よ っ て こ そ 、 人 々 の 知 性 と 完 成 は 拡 大 深 化 さ れ 、 人 間 関 係 は よ り 多 面 的 で 豊 か に な る 」と し て い る( 井 上・名 和 田・桂 木 1992:26)。さ ら に 、各 人 が 互 い に 相 手 を 、 自 分 と は 異 な る 独 自 の 観 点 を 持 っ た 自 律 的 人 格 と し て 尊 重 し 配 慮 し あ う こ と を 「 共 生 の 作 法 」 と 位 置 づ け て 、 個 人 間 の 対 話 か ら 「 共 生 」 が 導 き 出 さ れ る と し た 。

ア イ ヌ や 沖 縄 問 題 な ど の 差 別 ・ 人 権 問 題 を 取 り 上 げ て き た 花 崎 ( 1997) も 生 態 学 的 共 生 と 社 会 学 的 共 生 と の 違 い を 区 別 し た 上 で 、 後 者 は 「 自 己 保 存 の た め の 相 互 利 益 の 保 証 に と ど ま ら な い 、 人 間 の 内 面 の 意 識 変 革 を 含 む 」 と し て い る 。 そ し て 、 共 生 と は 「 多 数 者 が 少 数 者 の 文 化 や 生 活 習 慣 を 排 除 し た り 、 同 化 吸 収 す る の で は な く 、( 中 略 ) 文 化 の 相 互 浸 透 、 相 互 影 響 を 歓 迎 す る 倫 理 と 思 想 を 醸 成 す る こ と が 求 め ら れ て い る 」 と し て い る ( 花 崎 1997: 274)。 ま た 、 花 崎 ( 1993) は 主 に 個 人 間 の 会 話 を 通 じ た 相 互 理 解 や 承 認 と い っ た 視 点 を 重 視 し た 井 上 ら の 主 張 に 対 し て 、「 非 対 称 性 の 関 係 を 含 む 差 異 を た ん な る 差 異 、つ ま り 水 平 的 な 個 と 個 の 差 異 だ と み な し 差 異 を 楽 し む 作 法 を 語 る の は 、 私 に と っ て は 虹 の よ う に 美 し い が 手 の 届 か な い 彼 方 に あ る 」( 花 崎 1993:8) と 批 判 し 、 共 生 の モ ラ ル と は 具 体 的 な 実 践 の 中 で 「 苦 し い 自 己 変 革 を 伴 う 作 業 か ら 導 き 出 さ れ る も の で あ る 」 と し て い る 。

都 市 社 会 学 の 立 場 か ら 西 島 ( 1994) は 、 社 会 を 「 互 い に 異 質 な 他 者 と 他 者 の 間 に 不 断 に 作 り 上 げ ら れ よ う と す る 共 同 性 の 様 式 」と 位 置 づ け 、「 社 会 へ の 参 加 が 促 進 さ れ て い る 社 会 状 態 」 を 「 共 生 」 と 定 義 し て い る 。 さ ら に 社 会 参 加 を 「 意 思 決 定 過 程 か ら 締 め 出 さ れ た 社 会 層 の 『 社 会 的 に 意 義 を 認 め ら れ た 活 動 へ の 自 発 的 参 入 』 お よ び 参 入 を 促 進 す る 行 為 の こ と 」 と し て 、 社 会 か ら 疎 外 さ れ て い る 人 々 が 自 発 的 に 社 会 参 加 し て い る 状 態 を 「 共 生 」 と 呼 ん で い る ( 西 島 1994)。 ま た 、 栗 原 ( 1997) は 「 共 生 」 を 「 異 な る 者 同 士 が 、 自 由 で 対 等 な 相 互 活 性 化 的 関 係 を 作 っ て 日 常 生 活 を 営 む こ と 」 と 定 義 し た 上 で 、 そ こ に は 「 被 差 別 者 や 社 会 的 弱 者 が 権 力 的 な 傾 斜 し た 関 係 を 編 み 直 し て 、 人 間 と し て 対 等 な 関 係 に 立 つ こ と を 意 図 し て 、そ こ に は「 共 生 の 方 へ 」と い う 動 き 」が 含 ま れ て お り 、「 マ ジ ョ リ テ ィ( 多 数 者 ) が マ イ ノ リ テ ィ ( 少 数 者 ) に 強 い る 価 値 意 識 、 生 活 様 式 、 文 化 の 次 元 で の 「 同 化 」 型 の 差 別 を 克 服 し よ う と す る 企 て 」 と 述 べ て い る 。

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7 1.3.3. 実 践 の 論 理 と し て の 「 多 文 化 共 生 」

佐 藤 ( 2010) は 文 化 的 マ ジ ョ リ テ ィ と マ イ ノ リ テ ィ の 文 化 変 容 の 様 相 を 「 同 化 」「 統 合 」

「 共 生 」 に 分 類 し て 説 明 し て い る 。「「 同 化 」 と は 、 い う ま で も な く 異 文 化 を も つ 個 人 、 集 団 を ホ ス ト 側( 受 け 入 れ 側 )の 文 化 に 組 み 込 ん で い く こ と で あ り 、簡 潔 に 示 す な ら ば A(「 ホ ス ト 」 側 の 文 化 ) + B ( 異 文 化 ) → A ( 中 略 )「 統 合 」 と は 、「 文 化 相 対 主 義 」 に 立 つ 視 点 で あ り 、 異 文 化 を 尊 重 は す る も の の 「 ホ ス ト 側 」 の 変 化 は 固 定 し た ま ま の 、 い わ ば A + B

→ A + B( 中 略 )「 共 生 」と は 、文 化 的 差 異 を プ ラ ス に 転 化 し て い く こ と で あ り 、図 式 化 す れ ば A + B → C と い う こ と で あ る 。」 と 述 べ て い る ( 佐 藤 2010:117-118)。 そ れ は 、 相 互 作 用 に よ っ て お 互 い の 関 係 を 変 容 さ せ る と い う こ と で あ る 。

ま た 、 お 互 い の 関 係 性 の 変 容 が 含 意 さ れ て い る と い う こ と は 、 常 に 「 ど の よ う に 共 生 し て い く の か 」 と い う 具 体 的 な 実 践 や 取 り 組 み が 求 め ら れ て い る と い う こ と で も あ る 。 都 築

( 1998) は 「 共 生 」 と は 「 異 質 な 文 化 集 団 が 衝 突 し 、 摩 擦 や 葛 藤 を 繰 り 返 す こ と を 通 じ て 相 互 理 解 を 深 め 、社 会 が 変 貌 し て い く よ う な 動 的 な 関 係 性 」で あ り 、「 双 方 が お 互 い の 文 化 、 習 慣 を 理 解 し 、 自 律 的 生 活 を し つ つ 、 一 定 の 交 流 を も ち 生 活 す る こ と と 考 え る 。 よ っ て 、 双 方 の 集 団 間 に 対 等 な 関 係 が あ る こ と と コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン が あ る こ と が 必 要 と な る 」 と 述 べ て い る 。 ま た 、 塩 崎 ( 2012) は 「 多 文 化 共 生 」 と い う 言 葉 を 「 ス ロ ー ガ ン や 行 政 用 語 の 域 に と ど め る こ と な く 、 異 な る 人 々 と の 対 話 を 促 し 、 そ れ を も と に し て 社 会 構 造 を 変 革 す る 実 践 の 論 理 と し て 鍛 え な お し て い く 必 要 が あ る の で は な い だ ろ う か 」 と 指 摘 す る 。 こ れ ら の 指 摘 は 「 多 文 化 共 生 」 と は 「 理 想 の 到 達 点 で は な く 、 理 想 と し て の 価 値 を 有 し つ つ 、 そ れ に 到 達 す る た め の 視 点 」( 寺 田 2017:224) で あ り 、「 生 活 の 具 体 的 な 場 で 共 生 を 実 現 す る た め の 生 き 方 の 流 儀 を 諸 経 験 か ら み ち び き だ し 、そ れ を「 共 生 の モ ラ ル 」「 共 生 の 哲 学 」 へ と 練 り あ げ る 作 業 」( 花 崎 2001:212) が 必 要 で あ る こ と を 意 味 し て い る 。 つ ま り 、

「 多 文 化 共 生 」 を あ る 種 の 理 想 的 な 社 会 の 姿 を 示 す 言 葉 と し て 位 置 づ け る だ け で な く 、 草 の 根 的 な 実 践 を 積 み 上 げ な が ら 、 個 人 の 意 識 変 革 に 加 え て 社 会 規 範 や 制 度 ま で を 変 え て い こ う と す る 社 会 変 革 に 向 け た 動 的 な 概 念 と 捉 え る 必 要 が あ る と い う こ と で あ る 。波 戸( 2009)

は 、「 地 域 社 会 を 構 成 す る 人 々 が す で に 多 様 な 出 自 と 文 化 的 背 景 、ラ イ フ コ ー ス を も つ 人 々 か ら な っ て い る こ と を 相 互 に 理 解 し 、 承 認 し 合 う 過 程 が 丹 念 に 共 有 さ れ て い く こ と が 重 要 で あ り 、 そ う し た 「 場 」 と 「 し か け 」 を ど の よ う に 創 り 出 し て い く こ と が で き る か が 課 題 と な っ て い る と し て い る 。

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以 上 の 議 論 を 踏 ま え 、 本 稿 で は 「 多 文 化 共 生 」 を 「 社 会 の 中 で 異 な る 考 え や 価 値 観 を 持 っ た 人 同 士 が 対 話 や 交 流 を 通 じ て 、 お 互 い の 葛 藤 や 自 己 変 容 を と も な い な が ら 、 新 た な 社 会 や 関 係 性 を 創 造 し て い こ う と す る 試 み 」と 定 義 す る 。そ れ は 、「 差 別 」や「 排 除 」と い っ た 非 対 称 性 な 社 会 状 態 を 乗 り 越 え 、さ ら に ど ち ら か 一 方 が 変 容 す る( 同 化 )、ど ち ら も 変 容 し な い ( 棲 み 分 け ) と は 異 な り 、 お 互 い が 変 容 す る 「 変 わ り あ い 」( 塩 崎 2016: 148) の 関 係 を 築 く と い う こ と で も あ る 。 そ し て 、 そ う し た 対 話 的 な 実 践 や 交 流 に 誰 も が 参 加 す る こ と が 促 さ れ る こ と で 、 一 人 ひ と り が 承 認 さ れ 、 包 摂 さ れ て い く 社 会 を 「 多 文 化 共 生 社 会 」 と 呼 ぶ こ と に す る 。

1.4. 鍵 概 念 の 整 理 2: 外 国 に ル ー ツ を 持 つ 子 ど も

本 稿 で は 、「 多 文 化 共 生 」に 向 け た 具 体 的 な 実 践 と し て「 外 国 に ル ー ツ を 持 つ 子 ど も 」に 対 す る 教 育 支 援 の 場 を 取 り 上 げ る 。「 外 国 に ル ー ツ を 持 つ 子 ど も 」と は 、一 般 的 に は「 外 国 籍 」 あ る い は 「 両 親 の ど ち ら か 一 方 が 外 国 籍 で あ る 子 ど も 」 を 指 し て い る が 、 た と え ば 日 本 国 籍 を 含 む 重 国 籍 の 子 ど も 、 両 親 が と も に 日 本 人 で あ っ た と し て も 海 外 で 生 ま れ 育 っ た 子 ど も( 帰 国 子 女 )、生 活 言 語 が 日 本 語 で な い 子 ど も な ど 、国 籍 や 文 化 背 景 の 違 い だ け で 厳 密 に 分 類 す る こ と が 困 難 な 状 況 が 現 実 的 に は 生 じ て い る 。 本 稿 で は 対 象 を 限 定 す る こ と を 意 図 せ ず 、「 多 様 な 文 化 背 景 を 持 つ こ と に よ っ て 何 ら か の 課 題 や ハ ン デ ィ キ ャ ッ プ を 背 負 う 子 ど も 」 の 総 称 と し て 「 外 国 に ル ー ツ を 持 つ 子 ど も 」 を 使 用 す る 。 ま た 、 社 会 実 験 の 中 で 取 り 扱 う の は 、 主 に 1990 年 代 に 急 増 し た 日 系 人 の 子 ど も や 家 族 の 呼 び 寄 せ な ど で 来 日 し た 、 日 本 語 や 日 本 文 化 に 馴 染 み が な い ニ ュ ー カ マ ー7の 子 ど も ( 小 中 高 校 年 代 の 児 童 生 徒 ) が 中 心 で あ る 。

彼 ら は 内 在 的 な 多 様 性 を も つ こ と か ら 生 じ る 葛 藤 を 抱 え な が ら 、 常 に 自 己 変 革 を 迫 ら れ る 「 多 文 化 共 生 」 の 当 事 者 で あ り 、 さ ら に は こ れ か ら の 社 会 を 担 う 重 要 な ア ク タ ー で も あ る 。 彼 ら 彼 女 ら の 声 に 耳 を 傾 け 、 そ の 前 に 立 ち は だ か る 社 会 的 ・ 文 化 的 障 壁 を 取 り 除 き 、 自 己 実 現 で き る 社 会 づ く り を 目 指 す こ と は 、 彼 ら 彼 女 ら だ け の 問 題 と し て で は な く 、 誰 も が 承 認 さ れ 、 包 摂 さ れ る 社 会 ( 多 文 化 共 生 社 会 ) に 向 け た 重 要 な ア プ ロ ー チ で あ る と 考 え る 。 そ う し た 認 識 の も と で 、 彼 ら 彼 女 ら の 教 育 支 援 の 場 か ら 「 多 文 化 共 生 社 会 」 に 向 け た 実 践 の あ り 方 を 考 え て い き た い 。

7 主 に 1989年 の 入 管 法 改 正 以 降 に 来 日 し た 在 留 外 国 人 の こ と を 指 す 。

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9 1.5. 鍵 概 念 の 整 理 3: つ な が り

本 稿 で は 、外 国 に ル ー ツ を 持 つ 子 ど も の 教 育 支 援 の あ り 方 を 検 討 す る に あ た り 、「 つ な が り 」 に 着 目 す る 。「 つ な が り 」 と は 、「 ネ ッ ト ワ ー ク 」「 結 び つ き 」「 き ず な 」 な ど の 意 味 を 持 つ 言 葉 で あ る が 、 近 年 で は 「 社 会 関 係 資 本 」 と い う 言 葉 で 言 い 表 さ れ る こ と も 多 い 。 そ こ で 「 つ な が り 」 を 意 味 す る 「 社 会 関 係 資 本 」 の 概 念 を 整 理 し た 上 で 、 本 稿 に お け る 「 つ な が り 」 の 射 程 を 定 義 す る 。

1.5.1.「 つ な が り 」 概 念 の 系 譜

「 社 会 関 係 資 本 」 は 可 変 的 な 概 念 で あ り 、 政 治 学 、 経 済 学 、 社 会 学 、 教 育 学 な ど 、 さ ま ざ ま な 分 野 ・ 領 域 で 異 な る 文 脈 で 使 用 さ れ て い る 。 こ こ で は 、 先 駆 的 な 役 割 を 果 た し て き た 3 人 の 論 者 の 定 義 と そ の 特 徴 に つ い て 概 観 す る 。 Putnam( 1993) は 「 社 会 関 係 資 本 」 は

「 人 々 の 協 調 行 動 を 活 発 に す る こ と よ っ て 社 会 の 効 率 性 を 高 め る こ と が で き る「 信 頼 」「 規 範 」「 ネ ッ ト ワ ー ク 」と い っ た 社 会 組 織 の 特 徴 」と 定 義 し て い る 。著 書『 哲 学 す る 民 主 主 義 』 の 中 で 、 イ タ リ ア の 州 政 府 の 民 主 主 義 の 成 熟 度 の 違 い は そ れ ぞ れ の 地 域 に 蓄 積 さ れ た 「 社 会 関 係 資 本 」の 多 寡 に よ る も の で あ る と し た( Putnam1993)。ま た 、別 の 著 書『 孤 独 な ボ ウ リ ン グ 』 で は ア メ リ カ の 市 民 活 動 の 停 滞 を 地 域 コ ミ ュ ニ テ ィ に お け る 「 社 会 関 係 資 本 」 の 減 少 と 関 連 づ け て い る ( Putnam2000)。 Putnam は 「 社 会 関 係 資 本 」 と は 集 団 や コ ミ ュ ニ テ ィ の 中 に 帰 属 す る も の と す る 考 え に 立 脚 し て い る 。

一 方 、Bourdieu( 1986)は 人 間 が 持 つ 資 本 に は「 文 化 資 本 」「 経 済 資 本 」「 社 会 関 係 資 本 」 が あ り 、 こ の 場 合 の 「 社 会 関 係 資 本 」 は 「 社 会 的 ネ ッ ト ワ ー ク や コ ネ 」 と 定 義 し て い る 。

「 社 会 関 係 資 本 」 は 個 人 が 有 す る 資 本 の 1 つ で あ り 、 各 集 団 な り 各 個 人 は そ れ ら の 資 本 を 運 用 す る こ と に よ っ て 自 ら を 再 生 産 す る と し て 、 社 会 構 造 に 埋 め 込 ま れ た 不 平 等 の メ カ ニ ズ ム を 説 明 し て い る 。 Coleman は コ ミ ュ ニ テ ィ に お け る 社 会 関 係 資 本 を 家 庭 内 と 家 庭 外 に 区 別 し 、そ れ ら の 資 本 が 生 徒 の 中 途 退 学 率 の 抑 制 に つ な が る こ と を 示 し た 上 で 、「 家 族 関 係 や コ ミ ュ ニ テ ィ の 社 会 組 織 に 内 在 し 、 子 ど も や 若 者 の 認 知 的 も し く は 社 会 的 発 達 の た め に 有 用 な 一 連 の 資 源 で あ る 。 こ う し た 資 源 は 人 に よ り 異 な り 、 子 ど も や 青 年 の 人 的 資 源 発 達 に お い て 重 要 な メ リ ッ ト と な り う る 」( 志 水 2014:300)と し た 。そ し て 、Lin( 2001)は「 特 定 目 的 の 行 為 に お い て ア ク セ ス さ れ た り 、 活 用 さ れ る 社 会 構 造 の 中 に 埋 め 込 ま れ た 資 源 」 と 定 義 し て い る 。

ま た 、「 社 会 関 係 資 本 」 の 形 態 は 「 結 束 型 ( Bonding)」、「 橋 渡 し 型 ( Bridging)」 に 分 類

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で き る と い う 。「 結 合 型 」は 、組 織 の 内 部 に お け る 人 と 人 と の 同 質 的 な 結 び つ き( た と え ば 家 族 間 や 民 族 グ ル ー プ 内 の メ ン バ ー 間 の 関 係 な ど ) で 、 内 部 で 信 頼 や 協 力 、 結 束 を 生 む も の で あ る 。こ れ に 対 し て 、「 橋 渡 し 型 」は 異 な る 組 織 間 に お け る 異 質 な 人 や 組 織 を 結 び つ け る ネ ッ ト ワ ー ク ( た と え ば 知 り 合 い の 知 り 合 い や 民 族 グ ル ー プ を 越 え た 関 係 な ど ) と の つ な が り と さ れ る ( Putnam1993)。

以 上 の 議 論 を 踏 ま え た 上 で 、 本 稿 で は 「 つ な が り 」 を 個 々 人 が 有 す る 「 社 会 と の 結 び つ き や 接 点 を 媒 介 す る 具 体 的 な 人 間 関 係 や 社 会 的 ネ ッ ト ワ ー ク の 総 体 」 と 定 義 し 、 そ れ ら を 活 用 し た 教 育 支 援 の 在 り 方 を 検 討 す る こ と と す る 。

1.5.2. 教 育 分 野 に お け る 「 つ な が り 」 概 念

「 つ な が り 」 の 教 育 効 果 に 関 す る 研 究 は 教 育 分 野 に お い て も さ ま ざ ま な 検 討 が 進 ん で い る 。 教 育 分 野 に お け る 「 つ な が り 」 論 は 、 端 的 に 言 え ば 「 人 や 社 会 と の つ な が り が 各 主 体 の 成 長 に ど の よ う な 影 響 を 及 ぼ す の か 」と い う こ と に 集 約 さ れ る 。子 ど も の 教 育 で あ れ ば 、 そ れ ぞ れ が 持 つ 具 体 的 な 人 間 関 係 を 含 め た 社 会 と の 結 び つ き と 教 育 達 成 ( 学 力 向 上 、 進 学 率 、 問 題 行 動 や 中 途 退 学 の 抑 制 な ど ) と の 間 に ど の よ う な 関 係 が あ る の か と い う こ と で あ る 。

国 内 に お い て も 、 さ ま ざ ま な 指 標 や 手 法 を 用 い て 「 つ な が り 」 の 教 育 効 果 に 関 す る 研 究 が 進 め ら れ て い る 。た と え ば 、平 成 20 年 度 の 全 国 学 力・学 習 状 況 調 査 を も と に 本 人 と 親 が 有 す る 「 社 会 関 係 資 本 」 と 学 力 の 関 係 を 検 証 し た 志 水 ( 2014) の 報 告 が あ る 。 志 水 は 「 経 済 資 本 ( 世 帯 収 入 )」「 文 化 資 本 ( 保 護 者 の 学 歴 や 文 化 的 活 動 )」「 親 の 社 会 関 係 資 本 ( 子 育 て に 関 す る 会 話 や PTA 活 動 へ の 参 加 な ど )」「 子 ど も の 社 会 関 係 資 本 ( 家 族 と の 会 話 や 地 域 の 行 事 へ の 参 加 な ど )」 の 4 つ の 指 標 を 用 い て 、「 つ な が り 」 と 子 ど も の 学 力 形 成 と の 関 係 に つ い て 検 討 を 行 っ た( 志 水 2014)。志 水 は 、Bourdieu の 定 義 に な ら い「 経 済 資 本 」「 文 化 資 本 」「 つ な が り ( 社 会 関 係 資 本 )」 を 個 人 レ ベ ル で 測 定 し て い る 。 そ こ で は 「 社 会 関 係 資 本 は 文 化 資 本 や 経 済 資 本 と は 独 立 し た 学 力 へ の プ ラ ス の 効 果 が あ る こ と 」「 経 済 階 層 下 位 ほ ど 、 そ の 社 会 関 係 資 本 の 効 果 は 高 ま る こ と 」 な ど の 結 果 が 示 さ れ た 。 こ れ ら の 結 果 は 、 換 言 す れ ば 「 た と え 家 庭 が 経 済 的 に 豊 か で な く て も 、 保 護 者 の 学 歴 が 高 く な く て も 、 子 ど も を 取 り 巻 く 家 庭 ・ 学 校 ・ 地 域 で の 人 間 関 係 が 豊 か な も の に な っ て い れ ば 、 そ の 子 の 学 力 は か な り の 程 度 高 い も の と な る 可 能 性 が 強 い 」 と し て い る ( 志 水 2014: 131)。

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「 つ な が り 」 は 、 そ の 定 義 を 含 め た 測 定 方 法 ・ 指 標 の 曖 昧 さ ゆ え に 、 常 に 因 果 的 推 論 を め ぐ る 批 判 に さ ら さ れ る が 、 こ う し た 研 究 が 教 育 分 野 に 広 が る 風 潮 に は 「 つ な が り 」 に 対 す る 多 大 な る 期 待 が あ る か ら と 言 え よ う 。 そ れ は 学 校 を は じ め 教 育 支 援 の 現 場 に お い て 直 接 介 入 す る こ と が 難 し い「 家 庭 の 経 済 力( 経 済 資 本 )」や「 家 庭 内 の し つ け や 教 育 方 針( 文 化 資 本 )」な ど に 比 べ て 、「 人 や 社 会 と の つ な が り( 社 会 関 係 資 本 )」の 創 出 や 蓄 積 に は 寄 与 し う る 可 能 性 を 秘 め て い る か ら で あ る 。

1.5.3. 外 国 に ル ー ツ を 持 つ 子 ど も と 「 つ な が り 」

「 つ な が り 」 は 多 様 な 概 念 で あ り 、 外 国 に ル ー ツ を 持 つ 子 ど も を 取 り 巻 く 「 つ な が り 」 も 様 々 で あ る 。 た と え ば 具 体 的 な 人 間 関 係 で 言 う な ら ば 、 親 や 家 族 、 あ る い は 身 近 に い る 同 胞 ( 同 じ 文 化 背 景 を も つ 友 人 な ど ) と の か か わ り 、 学 校 に お け る 日 本 人 の 友 人 や 教 員 、 支 援 者 と の か か わ り な ど が 想 定 さ れ る 。 ま た 、 彼 ら を 取 り 巻 く 学 校 や 行 政 、 支 援 団 体 と い っ た 社 会 的 リ ソ ー ス 、 さ ら に は そ の 周 辺 に 存 在 す る 人 々 と の 交 流 な ど が 想 定 さ れ る が 、 前 述 の Bourdieu の 論 を 借 り れ ば 、彼 ら は そ れ ら の「 つ な が り 」を 駆 使 し て 、教 育 達 成 を 果 た し て い く と い う こ と で あ る 。 移 民 研 究 に お い て は 移 民 が 移 民 先 で 社 会 的 地 位 や 経 済 的 成 功 を 獲 得 す る に は 、 家 族 や 同 じ エ ス ニ ッ ク グ ル ー プ に 所 属 す る 同 胞 な ど と の つ な が り ( 結 束 型 )が 大 き な 影 響 を 及 ぼ し て い る こ と が 指 摘 さ れ て い る8。し か し 、そ れ は 一 方 で ホ ス ト 国 と の 関 係 が 分 断 的 で 、 限 ら れ た エ ス ニ ッ ク コ ミ ュ ニ テ ィ の 中 で 再 生 産 が 繰 り 返 さ れ て い る と い う こ と も で き て し ま う 。

本 稿 で は 、そ れ ぞ れ の「 つ な が り 」を 厳 密 に 分 類 す る こ と を 意 図 し て い な い が 、主 に「 橋 渡 し 型 」 の 機 能 に 着 目 し て い る 。 そ れ は 外 国 に ル ー ツ を 持 つ 子 ど も に と っ て 、 ホ ス ト 国 で あ る 日 本 社 会 と の 接 点 で あ り 、そ の 成 員 と の 交 流 や か か わ り と い う こ と で あ る 。塩 原( 2011)

は そ れ を「 越 境 的 社 会 関 係 資 本 」と 名 づ け 、「 日 本 社 会 で 生 き る 自 ら の 人 生 の 意 味 を 解 読 し 、 ラ イ フ チ ャ ン ス を 拡 大 し て い く に は 不 可 欠 」と し た 上 で 、「 マ イ ノ リ テ ィ だ け で な く マ ジ ョ リ テ ィ に と っ て も 社 会 的 包 摂 の 推 進 は 重 要 な 課 題 で あ り 、 そ の 達 成 の 手 段 と し て 日 本 人 ・ 外 国 人 の 区 別 を 越 え た 多 文 化 的 な『 つ な が り 』( 社 会 関 係 資 本 )が 社 会 全 体 に 蓄 積 さ れ る こ と が 有 効 な の だ 」 と し て い る ( 塩 原 2011: 292)。

8 前 述 の C o l e m a n も 家 族 と い っ た 結 束 型 の つ な が り を 肯 定 的 に 評 価 し て い る ほ か 、 た と え ば 鍛 冶 ( 2 0 0 7 ) は 大 阪 に 在 住 し て い る 中 国 系 移 民 の 子 ど も の 進 路 選 択 に 父 親 の 社 会 階 層 が 影 響 を 及 ぼ し て い た と い う 事 例 を 上 げ て い る 。

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12 1.6. 研 究 の 対 象

本 稿 が 対 象 と す る の は 、 主 に は 当 事 者 た る 「 外 国 に ル ー ツ を 持 つ 子 ど も 」 で あ る 。 ま た 一 方 で 、「 多 文 化 共 生 」を 社 会 を 構 成 す る 成 員 の 相 互 変 容 を と も な う 社 会 変 革 の 理 念 と 位 置 づ け る な ら ば 、 そ の 当 事 者 性 は 社 会 を 形 作 る す べ て の 人 々 に 存 在 す る と い う こ と で あ る 。 そ こ で 、 本 稿 に お い て は 外 国 に ル ー ツ を 持 つ 子 ど も に と ど ま ら ず 、 実 践 に 関 わ る 様 々 な 関 係 者 や 関 係 機 関 、 あ る い は そ の つ な が り や 関 係 性 の 動 態 も 研 究 対 象 と し て 捉 え て い く 。 そ れ は 、つ ま り 彼 ら 彼 女 ら の 課 題 解 決 に 向 け た 実 践 を 通 じ て 、「 い か に 彼 ら を 支 え て い く の か 」 と い う 教 育 支 援 の あ り 方 を 問 う と 同 時 に 、「 い か に 社 会 が 変 わ っ て い く の か 」と い う 社 会 の あ り 方 や 我 々 自 身 の あ り 方 を 問 お う と す る も の で あ る こ と を 意 味 し て い る 。

1.7. 研 究 の 方 法

本 稿 で は 、 具 体 的 な 研 究 の 方 法 と し て ア ク シ ョ ン リ サ ー チ の 手 法 を 採 用 す る 。 ア ク シ ョ ン リ サ ー チ と は 「 望 ま し い と 考 え る 社 会 的 状 態 の 実 現 を 目 指 し て 研 究 者 と 研 究 対 象 者 と が 展 開 す る 共 同 的 な 社 会 実 践 」( 矢 守 2010:1) で あ り 、 1) 目 標 と す る 社 会 的 状 態 の 実 現 へ 向 け た 変 化 を 志 向 し た 広 義 の 工 学 的 、価 値 懐 胎 的 な 研 究 、2)上 記 に 言 う 目 標 状 態 を 共 有 す る 研 究 対 象 者 と 研 究 者 ( 双 方 含 め て 当 事 者 ) に よ る 共 同 実 践 研 究 と い う 2 つ の 特 性 が あ る と さ れ る ( 矢 守 2010:13)。

ま た 、 佐 藤 ( 2012) は 「 こ れ か ら の 実 践 科 学 は 単 な る 実 証 科 学 の 応 用 で は な く 、 実 践 の 場 の 創 造 と 実 践 知 を も と に 現 実 の 変 革 に つ な げ る よ う な 独 自 の も の と し て 位 置 づ け る こ と を 要 請 し て い る 」( 佐 藤 2012:17) と し て 、 こ の よ う な 研 究 を 「 現 場 生 成 型 研 究 」 と 呼 ん で い る 。 そ し て 、 こ の よ う な 研 究 は 「 現 場 の 他 の 参 加 者 と と も に 『 新 た な 課 題 解 決 の 場 』 を つ く り あ げ て い く 研 究 方 法 で あ り 、「 対 人 関 係 に 培 わ れ た 調 査 」に 基 づ く 、課 題 の 共 有 と そ の 解 決 に お け る 研 究 と し て 、研 究 者 が 実 践 に 関 与 し 、参 加 者 と の 相 互 作 用 を 繰 り 返 す 中 で 、 相 互 に 影 響 し 合 い 、 場 を 作 り 上 げ て い く こ と を 目 指 し 、 さ ら に 、 つ く り あ げ た 場 に は ま た 新 し い 課 題 が 生 じ る が 、 そ の 課 題 を 解 決 す る た め の 実 践 を 共 に 展 開 す る と い う ダ イ ナ ミ ッ ク な 関 与 を 続 け る こ と 、 自 ら の 『 場 』 に 関 与 し 、 そ の 関 与 を 含 め た 実 践 活 動 と 『 場 』 の 変 容 を 観 察 し 、 記 述 す る こ と で あ る 」( 佐 藤 2012:34) と 述 べ て い る 。

本 稿 で は 、具 体 的 な 実 践 の 場 と し て 、2012 年 度 か ら 筆 者 自 身 が 運 営 委 員 と し て 関 わ る 外 国 に ル ー ツ を 持 つ 子 ど も を 対 象 と し た 教 育 支 援 事 業 を 取 り 上 げ 、 事 業 内 で 実 施 さ れ る プ ロ

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グ ラ ム の 教 育 効 果 や 事 業 の 波 及 効 果 を 分 析 す る こ と で 、 新 た な 教 育 支 援 の あ り 方 や 今 後 の 展 望 を 検 討 す る も の で あ る 。 具 体 的 な 分 析 方 法 と し て は 、 筆 者 が 事 業 に 関 わ る 中 で 作 成 し た フ ィ ー ル ド ノ ー ト の 記 述 、 運 営 会 議 に お け る 議 事 録 や 議 事 メ モ 、 プ ロ グ ラ ム 当 日 の 参 与 観 察 や 写 真 撮 影 、 プ ロ グ ラ ム 終 了 直 後 の ア ン ケ ー ト お よ び ヒ ア リ ン グ 調 査 、 ま た プ ロ グ ラ ム 終 了 後 の 別 日 に 実 施 し た ア ン ケ ー ト お よ び ヒ ア リ ン グ 調 査 に よ っ て 得 ら れ た デ ー タ を 質 的 に 分 析 す る ( 詳 細 は 第 6 章 、 第 7 章 で 述 べ る )。

な お 、 デ ー タ を 使 用 す る に あ た っ て の 倫 理 的 配 慮 に つ い て 、 調 査 対 象 者 に 研 究 の 趣 旨 、 デ ー タ の 活 用 範 囲 、 匿 名 性 の 確 保 、 デ ー タ の 厳 重 管 理 に つ い て 、 文 書 と 口 頭 に よ り 説 明 し た 上 で 、 同 意 が 得 ら れ た も の を 使 用 す る 。 ま た 、 写 真 資 料 に 関 し て は 本 人 が 特 定 さ れ な い よ う に 加 工 修 正 し た も の 、 あ る い は 本 人 よ り 掲 載 の 了 解 が 得 ら れ て い る も の の み を 使 用 し て い る 。

1.8. 論 文 の 構 成

第 1 章 で は 、 研 究 の 背 景 や 目 的 、 論 文 の 構 成 な ど 研 究 の 枠 組 み を 示 す 。

第 2 章 「 日 本 に お け る 多 文 化 化 の 進 展 と そ の 社 会 的 課 題 」 で は 、 日 本 の 外 国 人 政 策 の 変 遷 や 在 留 外 国 人 の 歴 史 的 背 景 な ど か ら 多 文 化 化 が 進 行 す る 日 本 社 会 の 現 状 を 確 認 し た 上 で 、 そ れ ら が も た ら す 様 々 な 社 会 的 課 題 に つ い て 言 及 す る 。

第 3 章 「 欧 米 諸 国 に お け る 移 民 教 育 の 動 向 」 で は 、 欧 米 諸 国 に お け る 移 民 政 策 の 中 で 、 特 に 移 民 や 難 民 、 エ ス ニ ッ ク マ イ ノ リ テ ィ の 子 ど も に 対 す る 教 育 施 策 に つ い て 、 多 文 化 主 義 に 基 づ く 多 文 化 教 育 や 異 文 化 間 教 育 、 国 民 国 家 を 超 え た 市 民 性 の 涵 養 を 目 指 す シ テ ィ ズ ン シ ッ プ 教 育 な ど 、 各 国 の 多 文 化 共 生 に 向 け た 教 育 支 援 に 関 す る 動 向 を 概 観 し 、 新 た な 教 育 支 援 の あ り 方 を 検 討 す る う え で の 示 唆 を 得 る 。

第 4 章 「 外 国 に ル ー ツ を 持 つ 子 ど も を め ぐ っ て 」 で は 、 多 文 化 化 が 進 行 す る 日 本 社 会 の 中 で 、 外 国 に ル ー ツ を 持 つ 子 ど も の 現 状 と 課 題 を 明 ら か に し た 上 で 、 従 来 の 日 本 に お け る 教 育 支 援 の 変 遷 や 動 向 を 整 理 し 、 そ の 課 題 や 問 題 点 を 指 摘 す る 。

第 5 章 「 新 た な 教 育 支 援 の あ り 方 に 関 す る 検 討 」 で は 、 従 来 の 教 育 支 援 の 課 題 解 決 の 方 法 論 と し て 、「 社 会 構 成 主 義 」の 枠 組 み を 援 用 し な が ら 、外 国 に ル ー ツ を 持 つ 子 ど も と 社 会 と の つ な が り ( 関 係 性 ) を 創 出 す る こ と を 意 図 し た 学 び あ い の 場 づ く り ( つ な が り 支 援 ) を 構 想 す る 。

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第 6 章 「 社 会 実 験 の 概 要 」 で は 、 前 章 で 示 し た 「 つ な が り 支 援 」 の 具 体 的 な 実 践 事 例 と し て 滋 賀 県 で 実 施 さ れ る 外 国 に ル ー ツ を 持 つ 子 ど も を 対 象 と し た 教 育 支 援 事 業 を 社 会 実 験 と 位 置 づ け 、 そ の 事 業 の 成 り 立 ち や 変 遷 を 整 理 す る 。

第 7 章 「 社 会 実 験 の 検 証 1 : つ な が り 支 援 の 教 育 効 果 」 で は 、 事 業 内 で 実 施 し た 各 プ ロ グ ラ ム の 参 加 者 の 学 び に 焦 点 を 当 て て 、「 参 加 者 が ど の よ う な 学 び や 気 づ き を 得 て い る か

( つ な が り 支 援 の 教 育 効 果 )」に つ い て 、社 会 実 験 で 得 ら れ た デ ー タ を も と に 参 加 者 の 学 び の 内 容 を 確 認 す る 。

第 8 章 「 社 会 実 験 の 検 証 2: つ な が り 支 援 の 波 及 効 果 」 で は 、 本 稿 の も う 一 つ の 検 討 課 題 で あ る 社 会 の 側 の 変 容 を 捉 え る た め に 「 事 業 関 係 者 や 関 係 機 関 な ど に ど の よ う な 影 響 を 及 ぼ し て い る か( つ な が り 支 援 の 波 及 効 果 )」に つ い て 、社 会 実 験 で 得 ら れ た デ ー タ を も と に 関 係 者 に と っ て の 学 び や 個 人 や 組 織 間 の ネ ッ ト ワ ー ク の 形 成 過 程 な ど を 確 認 す る 。

第 9 章 で は 、 こ れ ま で に 得 た 知 見 を 総 括 す る 形 で 、 つ な が り 支 援 の 構 成 要 件 を 整 理 し 、

「 多 文 化 共 生 社 会 」 に 向 け た 新 た な 教 育 支 援 の あ り 方 と し て の 「 つ な が り 支 援 」 の 機 能 と 構 造 を 明 ら か に す る 。

第 10 章 で は 、 本 研 究 の 成 果 や 残 さ れ た 課 題 を 確 認 し 、 今 後 の 展 望 な ど を 提 示 す る 。

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15 2. 多 文 化 社 会 の 進 展 と そ の 社 会 的 課 題

グ ロ ー バ ル 化 が 進 行 す る 現 代 に お い て 、 越 境 的 な 人 々 の 移 動 ( 移 民 ) は 増 大 し て い る 。

「 移 民 」と は 一 般 的 に は「 外 国 に 移 住 し た 人 々( 出 移 民 )」や「 外 国 か ら 移 住 し て き た 人 々

( 入 移 民 )」と い う こ と に な る が 、国 際 的 に も 明 確 な 定 義 は 存 在 し て い な い 。国 際 移 住 機 関

( International Organization for Migration ) に よ れ ば 「 当 人 の (1) 法 的 地 位 、 (2) 移 動 が 自 発 的 か 非 自 発 的 か 、 (3) 移 動 の 理 由 、 (4) 滞 在 期 間 に 関 わ ら ず 、 本 来 の 居 住 地 を 離 れ て 、 国 境 を 越 え る か 、 一 国 内 で 移 動 し て い る 、 ま た は 移 動 し た あ ら ゆ る 人 」 と 定 義 さ れ る ( URL2)。

世 界 全 体 の 移 民 の 推 移 に 関 し て 、 国 連 経 済 社 会 局 ( UNDESA) の 移 民 人 口 ( ス ト ッ ク ) の デ ー タ に よ れ ば 、 1990 年 に 約 1 億 5300 万 人 だ っ た 移 民 数 が 2000 年 に は 1 億 7300 万 人 、 2017 年 に な る と 約 1.7 倍 の 2 億 5800 万 人 ま で 増 加 し て い る( 児 玉 2018)。Castles and Miller

( 1993=1996)は 現 代 の 国 際 移 民 の 主 要 な 傾 向 と し て「 移 民 の 地 球 規 模 化( globalization of migration)」、「 移 民 の 加 速 化( acceleration of migration )」、「 移 民 の 女 性 化 (feminization of migration)」、「 移 民 の 多 様 化 ( differentiation of migration )」 を 挙 げ て い る 。 近 年 の 移 民 は 第 二 次 世 界 大 戦 以 降 の 欧 米 諸 国 と 旧 植 民 地 と の 間 を 行 き 交 う 労 働 移 民 に は じ ま り 、 1970 年 代 に は 家 族 と 一 緒 に 暮 ら す た め の 移 動 ( 家 族 移 民 )、 な ん ら か の 庇 護 を 求 め て の 移 動( 難 民 )、高 度 な 技 能 を 持 つ 人 々 の 移 動( 技 能 移 民 )の 増 加 な ど が 見 ら れ る 、ま た 、送 り 出 し 国 と 受 け 入 れ 国 が 変 化 す る 移 動 方 向 の 多 様 化 も 見 ら れ 、 た と え ば ラ テ ン ア メ リ カ か ら 北 ア メ リ カ へ 、 周 辺 国 等 か ら 中 東 産 油 国 諸 国 、 ア ジ ア 諸 国 か ら 日 本 へ の 移 動 な ど が 現 れ て い る ( Castles and Miller1993=1996 )。 そ れ は 、 単 に 移 民 の 増 加 を 表 す だ け で な く 、 そ の 内 実 が 多 様 化 し て い る こ と を 意 味 し て い る 。人 々 の 移 動 の グ ロ ー バ ル 化( globalization of migration)と は 、端 的 に は 多 数 の 国 々 の 人 々 が さ ま ざ ま な 国 へ 国 際 移 動 を 行 う よ う に な っ て き て い る こ と で あ る が 、 そ れ は 同 時 に 受 入 国 が 経 済 的 、 社 会 的 、 文 化 的 に 異 な る 背 景 を 持 つ 多 様 な 人 々 を 受 け 入 れ る こ と を 示 し て い る 。 こ う し た 移 民 の 増 加 、 多 様 化 は グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン の 恩 恵 と 課 題 を 内 包 し な が ら 、 各 国 に お い て 国 家 や 地 域 社 会 の あ り 方 を 問 い 直 す 「 社 会 の 多 文 化 化 」 を 進 行 さ せ て い る 。

今 日 の 日 本 は 本 格 的 な 人 口 減 少 時 代 を 迎 え 、外 国 人 材 受 け 入 れ の 議 論 も 活 発 化 し て い る 。 法 務 省 の 「 平 成 29 年 末 に お け る 在 留 外 国 人 数 に つ い て ( 確 定 値 )」 に よ れ ば 、 2017 年 末 現 在 の 在 留 外 国 人 数 は 2 56 万 1848 人 で あ り 、日 本 の 人 口 の 約 2%と な っ て い る( URL3)。近 年

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図 1 在 留 外 国 人 数 の 推 移

( 「 在 留 外 国 人 統 計 」 ( 法 務 省 ) を も と に 筆 者 が 作 成 )

の 動 向 を 見 る と 、1990 年 代 か ら 右 肩 上 が り に 上 昇 し 、2008 年 リ ー マ ン シ ョ ッ ク の 影 響 も あ っ て 一 時 減 少 し た も の の 、2013 年 に は 再 び 増 加 傾 向 に 転 じ 、2017 年 に は 過 去 最 高 の 数 字 を 更 新 し て い る 。 国 籍 ・ 地 域 別 に 見 る と 、 1 位 : 中 国 73 万 890 人 ( 28.5%)、 2 位 : 韓 国 45 万 663 人 ( 17.6%)、 3 位 : ベ ト ナ ム 26 万 405 人 ( 10.2%)、 4 位 : フ ィ リ ピ ン 26 万 553 人 10.2%)、 5 位 ブ ラ ジ ル 19 万 1362 人 ( 7.5%) と 続 い て い る 。 2000 年 代 に 入 っ て か ら は 、 国 籍 や 在 留 資 格 の 多 様 化 が 進 み 、 特 に ア ジ ア 諸 国 か ら の 来 日 が 増 加 し て い る 。

ま た 、 在 留 資 格 別 に 見 る と 、「 永 住 者 」 74 万 9191 人 、「 特 別 永 住 者 」 32 万 9822 人 、「 留 学 」 31 万 1505 人 、「 技 能 実 習 」 27 万 4233 人 、「 技 術 ・ 人 文 知 識 ・ 国 際 業 務 」 18 万 9273 人 と な っ て い る 。

本 章 で は 、 外 国 に ル ー ツ を 持 つ 子 ど も を 取 り 巻 く 社 会 環 境 と し て 、 日 本 社 会 の 多 文 化 化 が ど の よ う に 進 展 し て き た の か 、 第 二 次 世 界 大 戦 以 降 の 在 留 外 国 人 の 推 移 や 歴 史 的 背 景 、 ま た 日 本 の 外 国 人 施 策 の 動 向 な ど を 手 が か り に 整 理 し 、 多 文 化 社 会 が も た ら す 社 会 的 な 課 題 と は 何 か を 考 察 す る 。 な お 、 日 本 は 永 住 を 前 提 と し 、 法 的 に そ れ を 補 償 す る 形 で の 外 国 人 ( い わ ゆ る 移 民 ) の 入 国 を 認 め て い な い た め 、 移 民 政 策 と い う 言 葉 は 存 在 し な い こ と に な る 。本 稿 に お い て「 外 国 人 施 策 」と 言 っ た 場 合 に は 法 務 省 が 管 轄 す る「 出 入 国 管 理 政 策 」 を 中 心 と し て 厚 生 労 働 省 、 外 務 省 、 文 部 科 学 省 な ど 各 省 庁 が 進 め る 「 外 国 人 受 入 れ や 支 援 に 関 す る 施 策 」 を 網 羅 的 に 指 し て い る 。 そ の ほ か 、 地 方 自 治 体 の 「 国 際 化 施 策 」 や 「 外 国 人 住 民 に 対 す る 施 策 ( 一 部 で は 多 文 化 共 生 施 策 と も 呼 ば れ る )」 も 含 む も の と す る 。 2.1. 出 入 国 管 理 政 策 の 成 立 と 旧 植 民 地 出 身 者 の 対 応

日 本 の 外 国 人 施 策 の 中 心 は 「 出 入 国 管 理 及 び 難 民 認 定 法 」( 以 下 「 入 管 法 」) で あ る 。 入 管 法 は 、 そ の 第 1 条 に お い て 「 本 邦 に 入 国 し 、 又 は 本 邦 か ら 出 国 す る す べ て の 人 の 出 入 国

図 4   事 業 を 通 じ た 連 携 や ネ ッ ト ワ ー ク の 変 容 ( 筆 者 作 成 )

参照

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