序
いわゆる捕食者―被食者間の相互作用に関する数学的研究は,1920年代にまで遡る。イタリアの の一生物学者 U. d’Ancona が,アドリア海(Adrian Sea)での2種の魚種の捕獲量に年々バラツキが あることに気がついた。変化は,海洋環境との関連性は乏しいと判断された。両種の総量が同時に 上下することがなかったからである。このとき,大型魚は小型魚を餌にしており,大型種の個体数 は小型種のそれに4半期遅れで追随していることが分った。彼は,分析を V. Volterra に依頼した。 依頼を受けた数学者である V. Volterra は,簡単な定式化を提示した。(“Variazioni e Fluttuazioni del Numero d’Individui in Specie Animali Conviventi(=Variations and Fluctuations of the Number of Populations in Symbiotic Animal Species),” Memorie della R. Accademia Nazionale dei Lincei, anno CCCCXX", !1926.)同モデルは,ほぼ同時期に,アメリカ人生物物理学者 A. J. Lotka が独 立に提示した同趣のモデル(‘Elements of Mathematical Biology, Dover, 1956.所収)との連名化がなさ れ Volterra=Lotka モデル(Volterra=Lotka model)と呼称されるに至った。
しかるに,同モデルは非線型連立微分方程式体系を成すため解の導出を難かしくし,分析は定性 的,しかも2次元のそれに限定されざるを得ない。しかしながら,こうした制約性が却って議論へ の分野的に広範な接近を促し,ほぼ直観的にその類型を現実世界に見出し得る手軽さが,それに拍 車をかけることになった。
食者関係のあり方をみる。 最後に,若干の結論的言及がなされる筈である。 なお,本稿は最終稿ではない。
第1節
2種個体群と相互作用
1.相互作用の類型 本節では,2種の生物個体群が相互に影響し合う相互作用のあり方をみる。 本項では,相互作用の類型化を図る。 生物個体群のある時点における個体数はストック(stock)であり,その水準は流入(inflow)と流出 (outflow)の差に依存して変化する。流入の典型は誕生(birth)と移入(immigration)であり,流出の それは,死滅(death)と移出(emigration)である。また,例えば,人間による捕獲(harvesting)によっ て個体数が影響を受けることもある。これらすべての要因が考慮されるとき,個体群が構成する体 系は開体系(open systems)のそれであると考えられる。他方,例えば,世界人口を念頭に置くとき のそれは,誕生と死滅によって限定された閉体系(closed systems)となる。以下では,2種の個体 群から成る閉体系を想定するものとする。 Shone[21]は,2種の個体群が成す閉体系を想定し,そこでの両種間の相互作用のあり方を類 型化した1)。そこでは,無関係の場合を含めた4つの形態に区分される。すなわち, (1) 相互独立(independent) (2) 相互間競合(in competition)のときのとき捕食者,被食者の立場が逆転する。したがって,ν と ζ が逆の符号をとるとき,捕食者― 被食者関係(predatory−prey relationship)が妥当する場合となる。 x 種のパラメータ群(α,β,ν)と y 種のそれ(δ,ε,ζ)の符号の組合せについて,論理的には多数の可 能性を想定し得るが,生物学的,かつ経済学的に興味深いケースの数は自ずと限定されてくる。 次項では,両種が有限の共通食糧源を求め合う競合関係に立つ場合を,過密現象が伴なうケース と伴なわないケース,および両種が捕食者―被食者関係に立つ場合を,過密現象を伴なうケースと 伴なわないケースの4つの組合わせの場合について定常解のあり方とその安定性について予備的な 展望を図ることにする。 2.定常解と安定性――予備的考察 本項では,2種固体群が有限の共通食料源を求めて競合関係に立つ場合と捕食者―被食者関係に 立つ場合における定常解のあり方とその安定性に関する予備的考察を図る。3) 以下では,対比の便宜のために,過密現象の有無に応じて,2種固体群が競合関係に立つ場合, 捕食者―被食者関係に立つ場合の区分分けが適用される。 まず,過密現象がないところで2種固体群が有限の共通食料源を求める競合関係に立つ場合をみ る。前項の(3)(4), 式の記号法によれば,β=ε=0の下で ν<0,ζ<0がしたがう場合に相当する。 記号法を一新すれば,かかる情況下における両種の固体群の成長は,微分方程式体系 !
x=(a!by)x,x(0)=0 a>0,b>0 (5)
! y=(c!dx)y,y(0)=0 c>0,d >0 (6) で表わされる。(5)(6), 式における!by,!dx の項は,棲息地における有限食料源を求める両種の 競合関係を示す。 ! ! 上の体系の定常解は,x=0,y=0,すなわち ! x=(a!by(t))x(t)=0 x(0)=x0 (7) !
y=(c!dx(t))y(t)=0 y(0)=y0 (8)
* * * *
が満たされるとき実現される。直ちに,自明解( x1,x2)=(0,0)と非自明解( x2,y2)=(c/d ,a/b)がし たがう。
! !
!
#ay &b"$dy=!# c
x &d"$dx (10)
と変形し,両辺を積分すれば
!!#ay &b"$dy=!!#cx &d"$dx (11)
を得る。(11)式は,さらに
alog y&by=c logx&dx%k1 (12) alog y&c logx=by&dx%k1 (13)
or yax−c=keb y−d x, where k=ek1 (14)
がしたがう。ただし,k1は積分定数である。 したがって,k の所与の値に対し,それぞれの軌道が与えられることになる。(図−3参照。4)) 次に,過密現象を伴なわない捕食者―被食者関係が支配する場合をみる。 いま,y 種を捕食者,x 種を被食者とすれば,上の(5)(6), 式におけるβ=ε=0,かつ ν<0,ζ>0 の場合に相当する。 両種の成長は, !
x=(a&by)x=ax&bxy, a>0,b>0 (15)
!!#ay &b"$dy=!!#&cx %d"$dx (21)
から
alog y&by=&c logx&dx%k1 (22) alog y&c logx=by&dx%k1 (23)
or yax−c=keb y−d x, where k=ek1 (24)
y=!#cv"$&!#dv"$x (34)
を意味する。他方,(31)(3,2)式が与える等傾線の上下において,a&by&ux>(<)0に応じて,
! !
x>(<)0 がしたがい,y<(>)((a/b)&(u/b)x)の満たす領域は,x=0の下(上)に位置する。また,
! !
c&dx&vy>(<0)に応じて,y>(<)0がしたがい,y<(>)((c/v)&(d/v)x)の満たす領域は,y= 0の下(上)に位置する。以上から,4つの配置図と矢印の方向がしたがう。(図−6参照。7)) 図−6(a),(b)の配置の下では,2種の中の1種が死滅する。体系が原点から始まらない限り,体 系は,y 種が死滅する均衡点 E1に向かうか,x 種が死滅する均衡点 E2に向かう。図−6(c),(d)の配 置の下では,2種は共存し,両者の等傾線が交差する均衡点 E3がしたがう。E3は, E3=( x*,y*)=av&bc uv&bd (35) で与えられる。しかるに,図−6(c)における均衡点 E3は安定解とはならず,図−6(d)におけるそれ E3は安定解となることが容易に確かめられる。 最後に,過密現象下で,2種が捕食者―被食者関係にある場合をみる。前項の(3)(4), 式において, β<0,ε<0,かつ y 種を捕食者,x 種を被食者とすれば,ν<0,ζ>0がしたがう場合に相当する。 かかる体系は, ! x=(a&by&ux)x (36) ! y=(&c%dx&vy)y (37) で表わされる。&ux2,&vy2の項は,両種の個体群に過密現象が生じていることを示している。 ! ! 上の体系の定常解は,x=0,y=0を満たす,すなわち ! x=(a&by&ux)x=0 (38) ! y=(&c%dx&vy)y=0 (39) が満たされるところで実現される。自明解 E0=(0,0)と非自明解がしたがう。後者は, a&by&ux=0 (40) &c%dx&vy=0 (41) ! !
の概念の適用によってより立入った検討を加えることにする。
1) Shone[21](Chap.14)参照。
2) 以下にみるごとく,y 種の立場からも同様の関係図がしたがう。 3) Shone, op. cit.,(Sec.14.4)参照。
4) Shone, op. cit.,(Fig.14.7)参照
5) 過密現象を伴わない情況下で,捕食者―被食者モデルと Volterra=Lotka 原モデルとは互換的に用いられる。 6) Shone, op. cit.,(Fig.14.10)参照。
7) Shone, op. cit.,(Fig.14.13)参照。
第2節
捕食者―被食者関係
1.局所的安定性 本節では,その非線型性の故に解を導き得なかった捕食者―被食者モデルの安定性をベクトル場 の文脈において確かめる。 本項では,2種個体数の増加に伴って自らの個体数の成長を限定する要因として作用する過密現 象が伴なわない場合における均衡解ないし不動点の局所的安定性をみる。函数解析(functional analysis)の開祖としても知られるイタリア人数学者 V. Volterra(1860―1940) は,アドリア海(the Adrian Sea)における漁獲の魚種構成の周期的振動(periodic oscillation)を説明 すべく1つのモデルを提示した。1926年のことであった。さらに,同時期に,アメリカ人生物物理 学者 A. J. Lotka(1880―1949)も別個に同趣のモデルの提示を図った。
Volterra の主眼点は,捕食量( x)が捕食者個体数(a)と被食者個体数(b)の乗法的相互作用に依存 する,すなわち
x=Aab (45)
がしたがうとする点にある。ただし,A は,捕食者―被食者関係(predatory−prey relationship)の捕 食者からみた効率を表わす定数である。
やがて,かかる関係は,主として漁獲資源利用をめぐる漁業経済学(economics of fishery)の文 脈において援用されることになる。その嚆矢は,Gordon[8],Scott[20]であり,次いで,Christy= Scott[3],Smith[21],Plourde[18],Clark[4],Neher[16]等が続く。
因みに,Plourde, op. cit., においては,同関係は,2次繁殖力函数(quadratic reproduction function) とみなされ,捕食者が存在するとこでの成長関係
!
(maxi-他方で,上の Volterra,Lotka の議論は,Volterra=Lotka 方程式体系(ないし,Lotka=Volterra 方程式 体系)と連名される2本の連立微分方程式体系に統合されていく。
さて,前項において,捕食者―被食者モデルは,被食者個体数 x,捕食者個体数 y の成長方程式 体系
!
x=ax"bxy=(a"by)x, a>0,b>0 (47)
に位置しなければならない,すなわち, F(x(0))=F(Φ(x(0)t ) (56) ! がしたがう。したがって,第1積分が存在するとき,xは x(0)における超曲面(hypersurface)に接 することになり,交差することはない。 さて,Volterra=Lotka 原モデルとしての捕食者―被食者体系((47)(4,8)式)から時間要素を取除け ば, dy dx= dy dt dx dt =*(c*dx)y (a*by)x (57) がしたがうことは,既にみたごとくである。前節第2項における展開を利用すれば,(57)式は ! #ay *b"$dy)!# c x *d"$dx=0 (58) と変形され,さらに,積分を施せば
以上の帰結は,Hirsch=Smale[10](Chap.12, §2)における Theorem1,すなわち, [Hirsch−Smale 定理] Volterra=Lotka 方程式の不動点,両軸を除くすべての軌道は,閉軌道である。 の主張に対応する。これら閉軌道は,リミット・サイクル(limit cycle)ではあり得ない。リミット・ サイクルであるとすると,それに近づいていく軌道は閉軌道ではなくなってしまうからである。 かかる Volterra=Lotka 体系が位相図に描く反時計回りの閉軌道群は,前節の図−4,5に示される ごとくである。 ここで,不動点からの距離,すなわち乖離幅を測るパラメータを用いて,同体系が不動点の周り を囲む閉軌道群を描くことを確めよう。11) いま,(60)式を
y&ax−ce(b y%dx)=eB (66) と表現し直し,不動点(c/d ,a/b)を出発して北東方向に原点から遠去かる点( x,y)を考える。この 点の不動点からの距離を測るパラメータ s を用いて x=(c/d )s,y=(a/b)s で表わせば,s=1のとき ( x,y)は不動点を与える。x=(c/d )s,y=(a/b)s を(66)式に代入すれば
! #ab"$ &a! #dc"$ &c s&(a%c)ea%c=eB (67) を得る。(67)式の左辺を右辺に移項し,両辺の(a%c)乗根をとり,複雑化した右辺の定数項を D で一括略記すれば,(67)式は se&s=D (68) と表現し直される。ここで,(68式)の左辺を時間に関して微分すれば,導函数
e&s&se&s=(1&s)e&s (69) を得る。したがって,s>1に対し(69)式は負の符号をとり,動学体系が不動点の周りに閉軌道を 描くことが結論される。
ところで,第1積分を用いた大域的安定性の判定方法に対し,積分とは無関係で,非線型体系に も適用可能な安定性判定の方法が,Liapunov の第2方法(second method of Liapunov),もしくは Liapunov 直接法(direct method of Liapunov)と呼ばれるそれである12)。
直接法の基本的アイディアは,ある動学体系が時間とともに展開していくにつれ連続的に最小値 に向かって減少して行くタイプの函数を求めることにある。一般に,安定性の判定を可能にするか かるタイプの函数は,Liapunov 函数(Liapunov function)と呼ばれる。
ある動学体系の不動点を x*とするとき,Liapunov 函数 V は,次の要件を満たす函数である。 (a) V(0)=0
(b) 原点を含む閉領域 G の原点を除く至る所で正定値(positive definite)である。すなわち,
!
なる。 このとき,V(x)=V(x(t))は,t の函数であり,導函数は dV dt =!!!! " dx i dt !V !xi=!!!! " fi (x)!V !xi (70) で表わされる。かかる要件を満たす函数例が,図−9に示される。13)図−9(b)において,渦心点が不 動点であり,Liapunov 函数の最小値に対応する。また,閉曲線は,等高線(contours)であり,V が 一定値をとる各点の軌跡である。さらに,V は,軌道に沿った動きに対し増加することがないと する条件は,軌道が渦心点から外に遠去かることなく,渦心点の方向に向かって等高線を横切らな ければならないことを意味している。
このとき,かかる Liapunov 函数は,Liapunov 定理(Liapunov Theorem)を導く。
[Liapunov 定理]
Liapunov 函数 V(x)が存在するならば,不動点は安定的であり,さらに,導函数が不動点 を除くすべての点で厳密に負である,すなわち,!V(x)/!t<0であるならば,体系は漸近安 定的となる。
さて,上の Volterra=Lotka 体系に Liapunov 定理を適用してみよう。まず,x>0,y>0に対して, 函数 V( x,y)
V( x,y)="alog y!by"clog x!dx (71)
cal Liapunov function)と呼ぶに相応しい。
最後に,上の捕食者―被食者体系が保存体系(conservative systems)を成すことを確かめることで 同体系の安定性をめぐる議論を締め括ることにする。
ベクトル場において実現したその1つであった不動点がいくつかの別々の不動点に枝分かれする 分岐現象(bifurcation phenomena)は,体系の構造安定性(structural stability)の概念と結びついてい る。大まかに言えば,ある体系が構造安定であるということは,パラメータ値が変化したり,函数 型がわずかに変化しても,その体系の動学的特性が変わらないことを意味する。動学体系が一意で 漸近安定的な不動点を有するとすれば,構造安定性が意味するものは,異なるパラメータ値に対し て不動点は,やはり,一意で,漸近安定的であるということである15)。 ! ある体系 x=f(x)を考えるとき,その従属変数に対し運動方程式の定数でエネルギー(energy)の 役割をする函数 F が存在し,その第1積分が存在する,すなわち dF(x) dt =!!!! " dx i dt !G !xi=0 (72) が存在するとき,体系は,保存的(conservative)であると呼ばれる16)。このとき,保存体系は時間 の展開とともに体積(面積)要素の形のみを変化させ体積(面積)そのものを保持(preserve)すること になり,それが時間とともに収縮(contract)していく散逸体系(dissipative systems)17)と区別される。 (図−10参照18)。) ところで,Volterra=Lotka 方程式にしたがう捕食者―被食者体系の線型化からしたがう Jacobian 行列は,トレースをゼロとする対角要素ゼロ行列であり,大域的安定性に関する情報がもたらされ る余地はなく,したがって,情報取得のため第1積分の存在性を確かめる手続きが採用され,(65) 式を満たす第1積分の存在が確認された。このことは,捕食者―被食者体系が保存的なそれである ことを意味する。
8) 周辺安定性(marginal stability)の概念に関して,Luenberger[13](Sec.9.3)参照。 9) Luenberger, op. cit., Fig.9.3参照。
10) 第1積分の概念に関して,Lorenz[12](Sec.2.4),Demazure[5](Sec.6.3)参照。 11) かかる測度の適用について,Gintis[6](Sec.8.5)参照。
12) Liapunov の第2方法ないし直接法に関して,Luenberger, op. cit.,(Sec.9.6),Zhang[26](Sec.3.4)参照。 13) Luenberger, op. cit., Fig.9.5参照。
14) かかる函数設定は,Luenberger, op. cit.,(p.372)の示唆に負う。 15) Zhang, op. cit.,(Sec.3.5)参照。
16) 保存体系(conservative systems)について,Lorenz(Sec.2.4)参照。また,2次微分方程式による定義として, Jordan=Smith[11](Sec.1.3),Demazure, op. cit.,(Sec.6.3)参照。
17) Samuelson[19]は,収穫逓減性(decreasing return)を導入することによって保存体系が散逸化することを示 した。
前節の捕食者―被食者体系においては,他種が存在しないところで,各々の種は自らの個体数を 指数的に増減させていた。すなわち,捕食者が存在しないところで,被食者は指数的成長率で個体 数を増加させ,被食者が存在しないところで,捕食者は指数的減少率で個体数を減少させるものと 想定された。 しかるに,すでに示唆したごとく,個体数の増加それ自体が個体数の成長に対するブレーキとし て作用する可能性が生まれる。個体数が増加するにつれ,各固体は限定された食料源や有限の資源 を求めて相互に競争し,したがって,個体群は,自らの間で競争し合うことになるからである。 さて,所与の個体数 x に対して x( x*1)/2の相互作用が働くものとし,さらに,かかる相互作 用は死の増加をもたらすものとする19)。このとき,個体数の成長は相互作用に比例して減速化する と想定し得る。すなわち,個体数の変化は, ! x=kx*k1x( x2*1) =kx)k1x 2 * k1x2 2 =!#k)k1 2"$x* k1 2x 2 (73) で表わされる。ただし,k,k1は比例係数である。したがって,k)k1/2=a,k1=b と設定すれば !
x=ax*bx2=x(a*bx), a>0,b>0 (74) がしたがう。(74)式は,ロジスティック成長方程式(logistic growth equation)と呼ばれる。直ちに,
or 1 alog"$ x x0 # %'1a log"$ a'bx a'bx0 # %=t't0 (79) を得る。さらに,(79)式は, log"$x(ax 'bx0) 0(a'bx) # %=a( t't0) (80)
or x0(a'bx)ea(t't0)=x(a'bx
0) (81) と変形され,(81)式を x について解けば x0aea(t't0)=xbx 0ea(t't0)&x(a'bx 0) =x[bx0ea(t't0)&(a'bx 0)] (82) or x(t)= ax0 bx0&(a'bx0)e'a(t't0) (83)
を得る。(83)式は,ロジスティック函数(logistic function)を表わし,ロジスティック曲線(logistic
curve)を描く。しかるに,曲線はパラメータ a,b,x0に依存し,t→∞とすれば
lim
t→∞x(t)=
a
b (84)
2.過密現象下の捕食者―被食者体系 本項では,同一種個体群の間での競争による過密現象が支配するところでの捕食者―被食者体系 のあり方をみる。 再び,x 種が被食者,y 種が捕食者であるものとし,まず,過密現象は被食者 x 種にのみ発生す るものとする。このとき,過密現象下での x 種個体数の成長はロジスティック方程式にしたがうも のとする。したがって,体系は, !
x=ax"bxy"ex2=(a"by"ex)x (87)
! y="cy!dxy=("c!dx)y (88) で表わされる。ただし,a,b,c,d ,e>0と仮定される。 * * ! ! さて,自明解 x1=0,y1=0を別にすれば,非自明解は,x=0,y=0が同時に満たされる,すなわち a"by"ex=0 (89) "c!dx=0 (90) が交差する交点で与えられる。しかるに, c d> a e (91) ! !
がしたがうとき,x=0は x 軸を a/e,y 軸を a/b で切る直線となる一方で,y=0は x 軸を c/d で切 る垂直線となり,両者が交わることはない。 ! ! ! ! 図−13(a)22)において,x=0の右側の点において x<0,左側において x>0がしたがい,y=0の ! ! ! ! 右側の点において y>0,左側において y<0がしたがうから,象限Ⅰにおいて,x<0,y>0,象限 ! ! ! ! Ⅱにおいて x<0,y<0,さらに,象限Ⅲにおいて,x>0,y<0がしたがうから,x 軸上の点 a/e は 均衡点となり,そこに向かう安定軌道がしたがう。このことは,捕食者 y 種が死滅化に向かい,被 食者 x 種は捕食者が存在しないならば実現する自然成長率 a/b に接近していくことを意味している。 したがって,(89)(9,0)式の2直線が交点をもつためには c d< a e (92) が満たされなければならず,このとき,非自明解 z=( x*,y*)=(c/d ,(a"e(c/d ))/b)がしたがう。 ! ! ! ! 図−13(b)において,上と同様の議論から,象限Ⅰにおいて x<0,y>0,象限Ⅱにおいて x<0,y<0, ! ! ! ! 象限Ⅲにおいて x>0,y<0,そして,象限Ⅳにおいて x>0,y>0がしたがい,均衡点 z に向かう反 時計回りのらせん状の安定軌道がしたがう。 さて,被食者 x 種のみならず,捕食者 y 種にも過密現象が作用し,それぞれの個体数の増加が自 らの成長を損っていく場合を想定しよう。このとき,捕食者―被食者体系は, !
x=ax"bxy"ex2=(a"by"ex)x (93)
!
の交点で与えられる。しかるに,再び,c/d >a/e がしたがうところで,両直線は交点を持ち得ず, 図−13(a)におけると同様の議論が妥当し,x 軸上の点 a/e が均衡点となり,そこに向かう安定軌 道がしたがう。(図−13(b)参照。) いま,c/d <a/e が満たされ2直線の交点において,均衡点 z=(x*,y*)が与えられるものとする。 ここで,上の体系((93)(9,4)式)を均衡点の近傍において線型化すれば,(95)(9,6)式を満たす均衡 点で評価された Jacobian 行列 J J =
!
#
%
a(by(2ex dy (bx (c'dx(2fy"
$
&
z=( x*,y*) =!
#
%
(ex* dy* (bx* (fy*"
$
&
(97)が妥当するとき,α極限点(α−limit point)と呼ばれ,α(x)で表わされる。(図−16参照23)。)このとき, フローのすべてのω極限点の集合を ω極限集合(ω−limit set),すべての α極限点の集合を α極限集 合(α−limit set)と呼ぶ。
! いま,x=f(x)における任意の x∈W ⊂Rnに対して,すべての t∈(&∞,∞)について Φ(x)t ∈W ! がしたがうとき,W ⊂Rnは x=f(x)の不変集合(invariant set)と呼ばれる24)。ある閉の不変集合 A ⊂W を考えるとき,A の近傍 U が存在し,すべての x∈U に対して Φ(x)t ∈U
"
0となり,か つ t→∞のときΦ(x)t →A となるならば,閉不変集合 A ⊂W は,吸引集合(attracting set),ある いはアトラクター(attractor)と呼ばれる。したがって,吸引集合は,近傍内の初期点より出発した 軌道が最終的に収束する集合であることを意味する。A によって吸引される初期点の集合は,A の吸引域(basin of attraction)と呼ばれる。さらに,上の不変集合が t
"
0の場合に限定されるとき,W は正不変集合(positively invariant set)不動点 z を取囲まなければならない。 しかるに,Γ に類するいかなる矩型も,すべてのリミット・サイクルを含むことになり,リミット・ サイクルはΓ に入らなければならない,すなわち,Γ は正不変集合となる。 いま,(−x,−y )を固定すると,いかなる初期点( x(0),y(0))に対しても, x(t)<−x,y(t)<−y if t
!
t0 (99) となるような t0が存在する。すなわち,t0時点以後,(−x,−y )が上限を成す。結局は,ある軌道は z に接近するか,あるいは,らせん状にリミット・サイクルに接近していくことになる。実際には,z に向かう軌道は,ある時点以後 z と区別がつかなくなり,同様に,リミット・サイクルν に接近する 軌道は,十分接近した後にはν と同一視し得る。 以上から,(93)(9,4)式にしたがう過密現象下におけるいかなる捕食者―被食者体系も,いずれ一 定ないし周期的個体数に落ちつき,初期個体数がいかなる水準にあっても,結局は,いずれの個体 数も超過し得ない絶対的上限個体数が存在することが結論される。19) かかる設定は,Shone, op. cit.,(Sec.14.2)のそれに負う。 20) Shone, op. cit., Fig.14.2参照。
21) Shone, op. cit., Fig.14.3参照。
22) Wilson[24](Sec.2.3.3),Fig.2.18参照。
23) Wiggins[23](Sec.1.1H),Fig.1.1.22参照。 24) 以下,Lorenz, op. cit.,(Sec.2.1)に負う。
25) 以下,Brock=Malliaris[2](Chap.4,Sec.4)に負う。
26) Brock=Malliaris, op. cit.,(Chap.4,Sec.4)Lemma4.1参照。証明として,Hale[9](p.47)参照。 27) Wiggins, op. cit.,(Sec.1.1I)Proposition1.1.14参照。
28) Hirsch=Smale, op. cit.,(Chap.12)Fig. E 参照。
29) かかる設定は,Hirsch=Smale, op. cit.,(Chap.12,Sec.2)に負う。
結びにかえて
生物個体群の個体数に関する生態学研究において,食物連鎖の複雑化にともなう栄養網(trophic web)の複雑化が群棲(地)の一層の安定化を導くことが,その中心的主題の1つに数えられている。 因みに,G. E. Hutchinson は,北半球の動物相に見られる揺れ幅の大きさの幾分かは,それを打 消すに十分足るだけの複雑さを群棲(地)が欠いていることに因るとの見解を述べている。1959年の ことであった。連鎖の複雑化が安定化を生むとする仮説には,数学的定理並みの地位が授けられる ことも間々あった。 捕食者―被食者体系の安定性に関する上で導かれた帰結は,個体群の自己組織化とも映る過密現 象,すなわち,自らの個体数の増加が招く食料を求める仲間間の競争の激化が自らの個体数を減少 させていく現象の存否に依存した。過密現象が存在しないところで導かれる軌道は,いずれもリミッ ト・サイクルが発生し得ない閉軌道であり,振動を伴なうのに対し,過密現象が存在するところで は緩やかなリミット・サイクルの発生可能性が生まれるとするものであった。もし,過密現象の存 在が連鎖の複雑化を意味するならば,上の帰結は複雑化が安定化を導くとする生態学的仮説に対す る証しの一端を担うものであるかもしれない。 しかるに,冒頭で示唆したごとく,捕食者―被食者体系は,その応用の分野的広がりを見せる反 面,各分野内での展開は限定されたものでしかない。1つには,2種以上の個体群の存在の想定が 平面的な2次元位相図による分析の有効性と Poincaré=Bendixson 定理の適用可能性とを失わせる 数学的障壁が立ち阻かっている実態がうかがえる。もう1つは,同体系の方程式に1つの項が付け 加えられるだけで体系の性質が変化してしまう構造不安定性という固有の欠陥が指摘されよう。 n 種群棲ケースの想定化と体系の構造安定化は,我々の議論の興味深い発展化の一方向であろう。 References[1] M. J. Bazin and P. T. Saunders, “Determination of Critical Variable in a Microbial Predatory−Prey System by Catastrophe Theory,” Nature, London,275,1978.
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