二酸化炭素 と水蒸気濃度変動 に関する モニ ン ・オブコフ相似則
牛 川 希 望 (岡山大学大学院 自然科学研究科)
岩 田 徹 ・三 浦 健 忘
は じめ に
野外観測期 間中,気象要素のモニ ター記録 には興 味深 い特徴が示 されることがある。その典型的な例 として,2003年8月1日12:00‑12:05に水稲群落上 で観測 した鉛直風速変動W',二酸化炭素変動C',水 蒸気変動q'の時間変化 を図1に示す。C'とq'は逆相関 であるが非常 によく似 た変化 を示 し,uJ'とC',W'とq' の相 関 は,C'とq'の相 関ほ どはっ き りしてい ない。
気象要素 によって高い相関 と低 い相 関が生 じるのは
(CuJ
PL il) .U
(岡山大学環境理工学部)
なぜか とい う疑問を明 らかにす ることが我 々の研究 動機である。同 じような現象について,Hill(1989)
はモニ ン ・オブコフ相似則 に基づいてスカラ一畳間 の相 関係 数 につ い て の理論 を展 開 し,Liuetal.
(1998)は水蒸気変動 と気温変動 の相 関係数 を求め ている。本報では,二酸化炭素変動 と水蒸気変動の 相関に関す る特徴 を,観測 に基づいて,兄いだそ う
とした。得 られた結果 を報告す る。
I
l l IJ I l
lI
I
l
ll
】12:02 12:03 12:04 12:05
I I l J
I l l ̲̲̲̲J ̲̲I
I 一 l
l
l lI l I II
I 1 ‑l I I
12:02 12:03 12:04 12:05
l l l
l l l
l t1 l lI IlIl l
l l
I l 7
12:00 12:01 12:02 12:03 12:04 12:05
Time
図 1 水稲群落上で観測 した鉛直風速変動〝'.二酸化炭素濃度変動C1水蒸気濃度変動q'のモニター記銀 (測定日時 :2003年8月1日12:00‑12:05)
基本式
1)二つのス カラー量の相関係数
我 々はモニ ン・オブ コフ相似則が成立す ることを 仮 定す る。す なわち,気象要素の統 計量Fが
,F
と 同 じ次 元 を持つ スケー リングパ ラメー タF*で規格 化 され る とき,F/F*は大気 の安定度 に よって一義 的 に決 まる と仮定す る。今 ,風速成分 をuとW,磨 擦 速度 をu*‑
(‑w T
Ti')12,ス カラー量xの標準偏差 を20 岡山大農セ ンター報告 No26 2004
crx,スケー リングパ ラメー タを
x *( ‑‑W 7 / u. )
と す れ ば ,u x /l x *
lは 安 定 度 の パ ラ メ ー タ I(‑‑kz(g/T)W/ u
*3)の普遍 関数B
x4'(E)で表せ る。 ただ し, は平均値,'は平均値か らの偏差,Iは測定高度,kはカルマ ン定数,gは重力の加速度, Tは温度である。
り1
ここで,Bxは Eによらない定数であるO 式(1)の右辺 の関数形 は実測デー タで決 まるものであるが,最 も 単純 な系 として,スカラー量の
¢(
E)は同 じ形の安定度関数で近似 で きる と仮定す る。∬に二酸化炭素 密度Cや水蒸気密度qを代入す ると,
qJLc*I‑B。47(E)
となる。式(2)と式(3)か ら次式が得 られる。
また,Cとqの相関係数IRc。1は次式で定義 される。
(5)
式(4),(5)か ら,
ただ し,
B
。 。 ‑
Gc。J(BcBq) (7)である。 また,式(2),(3),(6)よ り,次の関係式が得 られる。
[4'(E)]2=[(qc/lc*l)/B。]2
‑(I行 L/lc*q*t)/B。。 (8)
わせが考え られる (例 えば,DeBruinetal.,1993)0
Bc。‑B
q
2,liTiIl‑qq21C*L/lq*P (10)式(9)あるいは式(10)を式(7)に代入すると,相関係数が
Bc>B。あるいはBc<B。により次の ような組み合わせ になる。
Rc。I‑Bc/B。
RcqI‑Bq/Bc '(::,'BB
?
,i
(ll,B。‑B。の ときは,式(ll)よ り
把 E
となる。 これは,モニ ン・オブコフ相似則が二つのス カラー量 に有効 で,そのスカラー量の安定度の無次 元関数が等 しい とき,二つのスカラー量の相関係数 が1になると論 じたHill(1989)の結果 と一致す る0
2)鉛直風速 とスカラー量の相関係数
モニ ン.オブコフ相似則 よ り,摩擦速度u*で規格 化 した鉛直風速uJの標準偏差olw/u*は,安定度のパ
ラメー タ 亡の関数Aw¢W(()と表せ る。
ow/u*‑Aw¢W(E) 潤
ただ し
,A
wは定数であ る。 また,鉛直風速Wとスカ ラー量∬の相関係数 は次式で定義 される。匿
wxl‑l読手l /(
qwcTx) (14) 式(1),(13),(14)か ら次の ように変形で きる。灰wxI
‑i
/[AwBx¢W(E)め(E)] (15)xに二酸化炭素密度Cや水蒸気密度qを代入す ると,
kw。
1 ‑1
/lAwB。4)W(E)め(E)] (16)kw。J
‑1
/[AwBq4'W(E)4'(E)] (17) となる。 これ らと式(ll)を組み合わせ ると,次の関係 式 を得 る。観測方法
観測 は2003年8月の晴天 目 (15日間) に, 岡山大 学 農学 部付 属 八浜 農場 の水稲 群 落上 で実 施 され た。
実験 農場 は約300×300m2の面積 を もち.周辺 は同様 の水稲 群 落が広 が ってい る。 吹 走距 離 は500m以 上 であ る。卓越風 は南東か ら南西 であ り,観測期 にお け る水稲 群 落の高 さは約1mであ った。水稲群 落上 1.65mの 高 さに,三次元超 音波風速温 度計 (m IJO, DA‑600),二酸 化炭 素一水 蒸気 セ ンサ ー (LI‑COR, L1‑7500)を取 り付 けた。両測 定器 の取 り付 け 間隔
は約20cmで あ るが ,主風 向 に直交 す る向 きに設 置 してい る。 これ らの渦相 関測 定器か らの 出力信号 を デ ジ タル化 し,10Hzでハ ー ドデ ィス クに保存す る。
デー タ解析 時 には,(1)風速計 の傾斜補正 と風 向方 向 へ の座標 変換 ,(2)横風補正 ,(3)直線 回帰 に よる トレ
ン ド除去 を行 った。乱流 フラ ックスや他 の乱流統計
不安定成層 2003.Åug I
I h Y
l
○
● l
I
: i
tl
10 1 0.1 0.01 0.001
‑I
値 は30分 デー タを使 って計算 した。 ただ し,弱風 時 の フ ラ ックス は乱 れが大 きい とい うMiyata (2001) の研 究 を参 考 に して,摩擦 速度〟*が0.05ms1未満 の デー タは排 除 した。
結 果 と考 察
1)無次元標準偏差
八浜農場 の水稲 群 落上 で得 られ た鉛直風 速Wの無 次元標準偏 差
qw
/u*を安定度のパ ラメー タ Eの関数 として図 2に示すO安定成層時 (E>0) には,qw/u*は1.2(1+2.OE)1/3で表せ る。 E≒0の 中立成層時 に は
J w
/〟*=1.2で あ る。 この値 は水 平方 向の一様性 が 保 障 された場 所 で観測 した値 に一致 してお り (e.g., Wyngaardetal"1971;PanofskyandDutton,1984;MaitaniandOhtaki,1987),八浜実験 農場 が野外 観 測 に適 した条 件 を備 えて い る こ とを示 唆 して い る。
不 安 定 度 (E<0)が 強 くなるにつ れ,
c T w
/u*も増 加 し, 自由対流領域 では,q w
/u*=1.2 (卜 2.OE)1/3で表せ る。 この ような結果 も多 くの研 究者 に よって 確認 されてい る (e.g.,Wyngaardetal.,1971;Maitani andOhtaki,1987;Stull,1988;DeBmi netal.,1993)。
安定成層 2003Aug
l L.,○
二 t
LT‑
0
.001 0.01 0.1 1 10E
図2 鉛直風速の無次元標準偏差qw/u*と安定度パラメータI Eとの関係
時 にはそ れぞ れB。‑3.0,B。‑2.9の値 を とる。 これ ら 中立成 層 時の値 と
,q c /l c *
‖二
crq/Lq一再ま不 安 定成層 が 強 くな り自由対流 領域 にな る とE 1/3に比 例 して 減 少 し,安 定成層 で は (1/3に比例 して増加す る と仮22 岡山大農セ ンター報告 No.26 2004
定 して (e.g.,Ohtaki,1985;OhtakiandOikawa, 1991),それぞれの係 数 を決 め るこ とに した。 ただ, プロ ッ トした値 が乱 れてい るので (安 定成層 時 に著
しい),値 が集 中 してい る所 を通 る よ うに係 数 を決 め た。 国 中 に実線 で示 した 関数 形 は次 の通 りで あ る。
不安定成層 2003.Åug
l t
●
10 1 0.1 0.01 0.001
‑I
I I
l l I‑ーOP'l
l ・○l: 一〇 ≡ ○
・‑l与
..・Ilエも
I I l
I I
0.001 0.01 0.1 1 10 f
".:Y .O
一 〇
○ .也 : I l l
・一斗こ.;
‑ I I I
10 1 0.1 0.01 0.001
0
.001 0.01 0.1 1 10‑I
I
不安走時 (‑10< E<0)
安定時(0< E<2) q
c /L c *
f‑3.0(1+7.06)L/3同 じような安定度依存性 を示す結果 となったが,Cと qの変動が,主 として水稲葉面 での光合成 ・蒸散活動 に律 されていることを反映 している もの と思われる。
ここで は示 してい ないが , 気温 変動 の標 準偏 差
( q T )
を摩擦温度T*=‑5 '/u*で規格化 したJ T
/鶴l
の特 徴 につ いて触 れ てお く。 中立 成層 とみ なせ る
L E
l<0.03の範 囲で は,顕 熱 フラ ックスし示戸)が小 さ くなるので摩擦温度T.は小 さ くな り,qT/LT.
1が10 より大 きな値 となる。 しか し,大気が不安定成層であ同 じよ うな安 定 度依 存 性 を示 し,
U T /
1T *巨 3.0 (117.06 )1/3で近似 で きるO この場 合,気層が十分な乱流状態 にあ るので,水稲群落上での温度,二酸 化炭素 ,水蒸気の変動が相似 的な振 る舞い を してい る と考 えるこ とがで きるO安定成層時 (0.03< E<10)
この安 定成 層 時 の現 象 を調べ る こ とが,熱 と物 質 (二酸化 炭素 ,水 蒸気 )の変動特性 の相似性 ・非相 似性 の条件 を理解す る ヒン トに繋が るのではないか と注 目してい る。 もう少 しデー タを蓄積 し,その結 果 をまとめて報告す る予定である。
2)相関係数
には,安定度が増 す につ れWとC,qの相 関が低 くな
増す につれて増 加す るが , E‑‑10程度で一定値 と なるoその値 は
L Rw 。 L
‑0.42, L Rw 。 l
‑0,44である。不安定成Jf 2003Aug
I
II l
lI I
I‑ ; =1 「r ̲ 」 ̲ ‑ ‑
○ 氏 I
l一 ヽ ■
‑ T ‑ b ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑‑ ‑ ■ p ‑‑ 9 J ‑‑
.‑ 守
I‑‑‑ ̲ ̲̲̲̲‑A̲1 0.1 0.01 0.001
‑II
l ー l
I
‑ l
‑ 一一 一「○
I l l
l l
l
0.01 0.001
0.01
2003Aug
J L t
t l l
ー l l
匂
b T"
‑̲‥
○I
r l
0.001 0.01 0.1 1
I
ー ll l
I l l
ー l II
0.001 0.01
0.001 0,001 0,01 0.1 1 10 E
図4 相関係数
I F t w c
l、J R w q l 、
一方
, l Rc q l
は多少乱れているが,安定成層時に は0.90‑0.98,不安定成層時には0.95‑0.99の値 を示 す。 この結果 は,B。‑3.0,B。‑2.9で与え られるとき の式(ll)で予想 された値0.97と一致 し,更 に式(18)と(19) の正当性 を支持 している。水稲群落上では,二酸化 炭素は,昼間下向き,夜間上向きに輸送 される。 日 出直後 と日没直前にその輸送の方向が変わる。 しかし,水蒸気は,港軟水や豊富な土壌水分のため,ほ
は,二酸化炭素の輸送方向が変化する時間帯のデー タによるものが多い。
温度変動 と二酸化炭素や水蒸気変動 との相関係数 の特徴 を略述 してお く。不安定成層時 (‑10<
(
<‑0.03)には,気温 と二酸化炭素,水蒸気 間の相関
となる。安定度領域 (0.5<E)では
,l Rt
el
とI R.
。l
は 24 岡山大農セ ンター報告 No26 2004lFTcqlと安定度パラメーター ことの関係
0.5‑0.9の範 囲内で乱れている。 この結果は,前節 で述べたように,安定成層時の観測デー タが熟 と物 質 (二酸化炭素,水蒸気)の輸送特性の相似性 ・非 相似性 を調べ るための有効な手がか りとなる可能性 を示唆 している。
まとめ
2003年8月に岡山大学農学部付属八浜農場で測定 された鉛直風速,二酸化炭素 と水蒸気変動の統計量 をモニ ン・オブコフ相似則の枠組で解析 した。二酸 化炭素 と水蒸気の変動が,水稲葉面での光合成 ・蒸
が同 じような安定度依存性 を示す と仮定 した。観測 デー タは, このqe/Jc*lと
q q /l q *
Iの単純化 した扱い が可能なことを示 した。 しか し,Hill(1989)が指 摘 しているように,研究対象 とする物理量の発生源 の位置の相違,熟か物質か という物性 的な相違により相関係数の値が異なることが予想される。我 々は, 安定成層時の観測データにHillの指摘 に関する理解
を深め るヒン トが内在 されている ように感 じてい る。 もう少 しデータを蓄積 し,その結果 をまとめて 別の機会に報告する予定である。
最後に,不安定成層時 と安定成層時に得 られた鉛 直風速,二酸化炭素変動,水蒸気変動の無次元標準 偏差の関数形 をまとめてお く。
不安走時
( ‑ 1 0 <E<0 ) q w /
Iu*l‑1.2(112.OE)1/3 gJJc*J‑3.0(1‑7.06)1/3lRw。1
‑1
/[3.6(卜 2.OE)L/3(1‑7.06)一1/3]I R
w。I‑1/[3.5(1‑2.OE)1/3(1‑7.OE)ー⊥/3]安定時
( 0 <
E<
2)u w /
lu*l‑1.2(1+2.OE)1/3 gJPc*1‑3.0(1+7.OE)1/3g 。 /
1q*L‑2.9(1+7.OE)i/3P R
weL‑1
/[3.6(1+2.OE)1/3(1+7.06)1/3]t R
w。l‑1/[3.5(1←2.OE)1/3(1+7.OE)i/3]謝 辞
本研究の一部は科学研究費補助金 (13308027)を 用いて行われた。また,野外観測 を快 く許可 して く ださった岡山大学農学部付属八浜農場多田正人主任 に感謝 します。
参考文献
DeBmin,H.A.RリKosher,W.andVanDenHurl,B.
∫
.
J.
M.1993:Averificationofsomemethodstodetem inethemlⅩeSOfmomentum,sensibleheat,
andwatervaporusingstandarddeviationand structureparameterofscalarmeteorological quantities.Boundary‑LayerMeteorol.63,231‑257. Hill,
R.
∫.
,1989:ImplicationsofMonin‑Obukhovsimilaritytheoryforscalarquantities.I.Atmos.Sci. 46,2236‑2244.
Liu,X.,Tsukamoto,0.,Oikawa,T.andOhtaki,E., 1998:Astudyofcorrelationsofscalar quantitiesin theatmosphericsurfacelayer.Boundary‑Layer Meteorol.87,499‑508.
Maitani,T.andOhtaki,E"1987:Turbulenttransport processesofmomentum andsensibleheatinthe surfacelayeroverapaddyfield.Boundary‑Layer Meteorol.40,283‑293.
Miyata,A.,2001:ObseⅣationalstudyonmethane exchangebetweenwetlandecosystemsandthe atmosphere,Bull.Nat.Iust.Agro‑Environ.Sci.19, 6卜183.
Ohtaki,E.1985:Onthesimilarityinatmospheric 且uctuationsofcarbondioxide,watervaporand temperatureovervegetatedflelds.BoundaPyrLayer Metewol.32,25137.
Ohtaki,E.andOikawa,T.1991:Fluxesofcarbon dioxideandwatervaporabovepaddyfields.Int. Biometewol.35,187‑194.
Panofsky,H.andDutton,∫.A.1984:Atmospheric turbulence,Wiley,NewYork,397pp.
Stull,R.B.,1988:Anintroductiontobounda7ylayer meteorology,KluwerAcademicPub.,Dordrecht, 666pp.
Wyngaard,J.C.,Cot6,0.R..andIzumi,Y.,1971: Localfreeconvection,similarity,andthebudgets ofshearstressandheatmlX.I.Atmos.Sci.28, 117ト1182.