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Academic year: 2022

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博士申請論文審査報告書

学生氏名:  PRATIVEDWANNAKIJ KARN  学籍番号:  4007S315-9 

題 名: タイ産業における「改善」方式の発展−日タイ比較研究の視点から−

       

英 訳:“Kaizen” Development in Thailand’s Industries – A comparative study between Japan and Thailand-      

1.  論文の概要と構成

  本論文は、タイにおいて、日本的「改善」方式がいかなる状況にあり、いかなる問題点と 実情にあるかを実証的かつ具体的に証明し、「改善」の取り組み方の日タイ比較を通じて、タ イの「改善」運動の在り方の今後の方向性を検討したものである。周知のように1997 年のア ジア通貨危機でタイ経済は大きな打撃を受けたが、その後短期間で急速に立ち直り V 字型回 復を遂げた。その原動力が、バーツ安に起因する輸出にあったことは周知の事実だが、いま 一つにタイ製品の品質向上があずかって大きかった。本論文は、こうした事実を踏まえなが ら、両国の「改善」運動の日タイ比較とタイでの特殊性検出という、先行研究の乏しい分野 に分け入った点に本論文のユニークさがある。 

まず、8章からなる各章の紹介を行うこととしよう。

第1章 序

第2章 「改善」の定義

第3章   日本での「改善」の歴史と品質管理の発展 第4章   タイでの「改善」の歴史と品質管理の発展 第5章   タイにおける「改善」の問題点

第6章   日タイ両国の労働者の文化分析

第7章 「改善」運動発展のための処方箋: PDCRA サークル 第8章   研究結果と今後の展望

  第1章は、本論文の導入項である。ここでは、この論文の意義や学会への寄与点、イン タビューを通じた解析の方法論が紹介され、論文全体の構成と内容が紹介されている。

  第2章は、「改善」を定義している。「改善」は、生産性に関する問題から TQM(Total

Quality Management )問題にいたるまで広範な範囲の課題を包含している。したがって、

本論文では、「改善」は、QC サークル(Quality Control Circles、QCCs)とPDCAサー クルおよび提案シートシステムに限定して使用するとしている。

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  第 3 章は、日本での「改善」と品質管理の発展の歴史が論じられる。「改善」という概 念そのものは戦後のGHQが持ち込んだ概念であり、アメリカの技術者サラソーンの提唱 と運動の結果日本のなかに広がったものである。その拡大の歴史は、戦後再建から高度成 長、石油危機とその克服時期さらには「失われた 10 年」の時期まで継続して展開された。

むろん復興期にはGHQの力が大きかったものの、高度成長期に入ると日本政府が強力に この運動を後押した。そして政府と協力して日本科学技術連盟、日本規格協会、海外技術 者研修協会などが、一体となって「改善」と品質改良概念に関する知識を普及することに 大きな役割を演じたからである。

  第 4 章はタイでの「改善」の歴史と品質管理の発展が論じられる。タイでの「改善」

の展開史は、国家発展計画の推移と照合している。1960 年から始まる国家経済社会発展 計画(NESDB)の第一段階(1960-71)、第二段階(72−81)、第三段階(82−91)、第四

段階(92-2002)で順を追って課題が設定され推進されていったからである。第一、第二

段階では、製造ラインと技能労働者の開発を、第三段階では生産性の向上を、そして「改 善」という概念がタイで広がり始めるのは第二段階から第三段階に至ってからであった、

という。日本よりは10年以上遅れていることになる。

  第 5 章では、タイにおける「改善」の問題点が指摘される。一言でその問題点を述べ れば、タイにおける「改善」の取り組みの立ち遅れである。日本と比較すれば明らかなよ うに、日本では敗戦直後からGHQの手で広がり始め、企業ではリバースエンジニアリン グ政策により、労働者により良い訓練プログラムが提供されたことも手伝って急速に拡大 した。ところが、タイの場合には、労働者と技術者の交流が少なく、労働者間の技術交流 も消極的なため、十分な拡大、普及を遂げることができなかった、という。

  第6章では、日タイ両国の労働者の文化分析が行われる。ホーフステッド(2001)の概念 を使えば、タイの労働者の文化を代表するものは、ボスへの高い忠誠度、冒険や積極性の 欠如、集団主義、短期的思考などであるが、日本の場合には、ボスへの忠誠度などタイと 類似する傾向は少なくないが、仕事第一で、長期的思考をとる点では、著しい相違が存在 する。こうした文化的相違が、「改善」の受容で両国に相違を生み出してきていると、結 論付けるのである。

  第7章は、「改善」運動発展のための処方箋としての PDCRA サークルへの模索である。

第 6 章での日タイ両国労働者の特性を考えれば、ボスへの忠誠と冒険や積極性の欠如を 逆手にとって「改善」を推し進めるとすれば、PDCRA サークルの実施が第一となるとす る。PDCRA サークルとは、(P-計画・D-実行・C-評価・R-レポート・A-改善  サークル)の 意味であり、従来のPDCAサークルに R-レポートが中途の段階で付加されることを意味 する。この付加によって、タイでの「改善」の弱点だったボスへの高い忠誠度、冒険や積 極性の欠如、集団主義、短期的思考は克服できるとしている。また筆者は、この事実の有 効性をインタビューを通じた企業調査で実証的作業を展開している。

  第8章は、これまでのタイでの「改善」の歴史的展開かを考慮して、PDCA サークル

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に代わるPDCRA サークルこそが今後の重要性を帯びることになると結論付けている。

2. 論文の特徴と評価  

  本論文は、タイ産業界が当面している最大の課題である品質向上運動の実態と問題点、

そしてその克服の方向性を提示したものである。現在タイは、アセアン内で最も工業化が 進んだ、そしてアセアン内での産業集積の進んだ国としてその名が知られている。自動車 産業では、その分厚い部品産業集積によって、アセアン内のリーダーとしてアセアン各国 の自動車メーカーへの部品供給基地となっているのである。しかし、これは、たぶんに外 資系企業の投資と品質管理運動の進行によるものなのであって、タイ自体のワーカーの質 という点で見れば、未だに大きな問題点を抱え込んでいる。それが、品質管理の問題点で ある。むろんアジア通貨危機前後と比較するとタイでの品質管理は大いに前進した。しか し、アジア通貨危機直後のタイでは、産業の輸出産業への転換にとって、最大の障害とな ったものが、その品質管理の不備であった。アジア通貨危機から10年以上たった今、な お問題点として残るのは、品質管理の脆弱性であった。それを克服するためには、たゆま ない「改善」の前身が必要となるのだが、それが必ずしも円滑には実施されていない。そ の最大の理由を本論文は、タイ固有の文化に根ざした「改善」が展開されていないが故だ と結論付ける。日本における「改善」がアメリカからの導入手法であったとしても、それ が有効性を持ったのは、日本固有の労働者文化そのものに体内化されたからに他ならない。

では、同じ問題をタイに当てはめた場合には、日本発の「改善」は、タイ的文化を包摂し てタイの労働者のなかに体内化されなければならない。その決め手を本論文は、日本的な PDCAサークルからタイ的な  PDCRA サークルに求めたのである。これだけであれば、

単なる思いつきとなるであろうが、本論文はホーフステッド(2001)の分析手法を活用して、

それを文化比較の領域に広げ、経営学的手法と文化論的手法の結合を志向したのである。

この点に本論文のユニークさと独創性がある。しかも、本論文は、これを実証するために、

タイでの企業にアプローチし、ヒヤリング調査を実施して、その裏付け作業を続けたこと である。こうした点に本論文の学術的価値が存しよう。

  むろん問題がないわけではない。 PDCAサークルから PDCRA サークルへの転換は、

たしかに「改善」の手法の変化かもしれないが、「改善」は、このほかにも様々な手法が 開発されている。その点は、本論文の冒頭で言及しているとおりであるが、そうしたトー タルな「改善」の手法のなかでPDCA サークルから PDCRA サークルへの転換は、いか なる位置づけを持つかという点である。換言すれば「改善」のなかから QC サークル

(Quality Control Circles、QCCs)と PDCA サークルおよび提案シートシステムを特に 取り出した理由がどこにあるのか、と言い変えてもよいであろう。むろん、これらがタイ と日本の「改善」を比較した時、重要な要因となったからであることは言うまでもないが、

より鮮明に証明してくれれば、一層日本とタイの比較は内容的に充実したものになったで

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あろうことは確かであろう。こうした問題点はあるが、これまで誰もがなしえなかった日 タイ「改善」問題の比較と展望という課題を展開した先駆性は高く評価されてしかるべき だと考える。

3. 結論

我々審査委員はPRATIVEDWANNAKIJ KARN  が提出した学位請求論文を慎重に査読

し、 2010 年 11 月15日に面接試験を実施した。この面接を踏まえ総合的に分析した結

果、その高い問題意識、研究能力、研究成果の諸点からみて、審査委員は、全員一致で、

本論文が早稲田大学博士(学術)に該当するものであると判断した。

 

博士学位論文審査委員会

  審査委員会主査    小林  英夫 (文学博士  東京都立大学)

早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 教授

②副査(審査委員1)  村嶋英治 

早稲田大学大学院アジア太平洋研究科   教授

③審査委員2   黒須誠治      (工学博士  早稲田大学)

早稲田大学大学院商学研究科      教授

④審査委員3     黒田一雄        (Ph.Dコーネル大学)

早稲田大学大学院アジア太平洋研究科  教授

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